みなが幸せになるために
第一話『使徒再び』
「う、ん………こ、ここは?」
ぼんやりと意識を取り戻したシンジの視界には、初めて第三新東京市に来た時と全く同じ光景が映り、手に持った受話器からは電話不通のアナウンスが聞こえてくる。
これは…?何が起きたんだ?ここは、間違いなく僕が第三に来た時と同じだ。
不可解な状況に、シンジは頭を悩ませつつ考え込み、一つの事に思い当たる。
そうか…綾波、それと最後に聞こえたカヲル君………どうやったのかは分からないけど、僕はあの二人のお陰でやり直す機会を貰ったんだ。
………考える必要、ないじゃないか。僕はこの先起きる出来事も、黒幕の事も知ってる。
だから、僕はやり直せばいいんだ。みんなが戦いから解放されて幸せになれるように、また戦うんだ。使徒と、そして裏で動く………人類補完計画と。
……………
……………
……………
……でも、具体的にどうすればいいんだ?
ふと、その問題にシンジはぶつかる。
良く考えてみれば、僕が逆行して来たなんて言ったって信じてもらえないし………むしろ信じられると、僕は邪魔な存在、てことで、排除されかれない………
かといって、いくら先を知ってても協力無しでどうにか出来る程軽い問題でも無いし。
………取りあえずは、前と同じように進めるようにするしかないのかな?
前途多難だなぁ。
とりあえず、起こせるアクションは特に無いといった結果を導き出したシンジが振り返ると、奥の道路にレイの姿が蜃気楼となり現れる。
「………!綾波!!」
シンジが呼びかけるが、レイは何も答えることは無く、ただただそこに立っている。
そんなレイを見つつ、シンジは何を思ったのか一言叫ぶ。
「ありがとう!」と
それを聞いたレイの顔は、僅かに微笑んだかのように見え、その後ゆらりと消えていった。
確か前も綾波の姿が急に現れて、目を背けたら消えたんだよな。
シンジがそんな事をぼんやりと考えていると、突如地面が、周りが、大きく音を立てつつ揺れる。
反射的にシンジは頭を覆い、揺れが収まるのを待つ。
そして、揺れが収まると山の陰から国連軍の戦闘機が姿を現し、それに引き続いて第三使徒サキエルが現れた。
現れた戦闘機はサキエルに向かって何発ものミサイルを放ち、それは全弾命中したように見えた。
しかし、衝撃で傍の電車を吹き飛ばすほどの威力があるそれも、サキエルには一切のダメージを与える事は出来ずに、逆に反撃されて無残にも戦闘機は墜落してゆき、その中の一機がシンジの傍へと落ちてくる。
それから自分を庇うように頭を覆っシンジだが、戦闘機に続いて使徒がシンジの目の前に落ちた戦闘機を踏み潰すように降りてくる。
そして、踏み潰された機体が爆発し爆風が今にもシンジを襲う寸前、一台の車が、タイヤが道路と摩擦して起きた大きな音をたてながら、シンジを庇うようにしてシンジの目の前に止まり、即座に扉が開かれ中からミサトがシンジに声を掛けた。
「ごめーん、お待たせ」
ミサト、さん。お久しぶりです。
シンジは心の中でそう呟くと、ミサトの車に乗り込む。
そして、シンジが車に乗りこんだ刹那、車は後ろ向きに急発進して下りてきた使徒の足を間一髪で交わすと、戦闘の場から急速に遠ざかって行った。
戦闘地から大きく離れ、既に戦闘の余波を受けない所まで来たミサトとシンジは一度車を止めると、戦況を双眼鏡で確認する。
すると、今まで使徒に向けて攻撃をしていた戦闘機が全機一斉に撤退を始めた。
「ちょっと!まさか…N2地雷を使うワケ?!………伏せて!」
そう叫んだミサトはシンジをシートに押し倒し、自らはシンジの上に覆いかぶさってシンジを庇うような形でシートに伏せる。
瞬間、今まで戦闘が行われていた場所で今までの兵器とは比較にもならない程の爆発が巻き起こり、その爆風は戦闘地から相当な距離を置いていたにも関わらず、ミサトの車を横転させ
る。
一回、、、二回、、、三回と転がり続けた車は、爆風が収まってきた頃にようやく転がるのを止めたのであった。
「大丈夫だった?」
「ええ、口の中がなんかしゃりしゃりしますけど」
「そいつは結構。じゃあ、いくわよ?」
「はい」
「せーの!」
完全に爆風が止んだのを見計って車の中から出てきたシンジとミサトは、互いの無事を確認した後に横たわった車を渾身の力で持ち上げて、元の状態に戻した。
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、僕の方こそ…えと………」
礼と同時に名前を呼ぼうとしたシンジだが、そこでふと疑問が頭に浮かぶ。
なんて、呼ぼう。ミサトさん?いや、確かこの時は葛城さん………の方がいいかな?
どう呼べばいいのか分からずに迷ってるシンジに、助け舟が渡される。
「ミサト…で、いいわよ。改めて宜しくね、碇シンジ君」
「はい、よろしくお願いします。ミサトさん」
二人は先ほどの衝撃でボコボコに凹んでしまった車に、応急処置としてガムテープを貼り付けどうにか動けるようにすると、再び目的地へと向かっていく。
その道中、ミサトは運転しながら心の中でぶつぶつと愚痴を零す。
しっかしもう………最っ低!せっかくレストアしたばっかだったのに早くもベッコベコ。
はぁ、ローンが後三十三回プラス修理費かぁ。おまけに一張羅の服も台無しじゃない。せぇっかく気合入れて来たのに。とほほ………
そんな、激しく落ち込んでいるミサトにシンジは声を掛ける。
「あの、ミサトさん」
けれども、落ち込みすぎたミサトはその呼び掛けに気付く様子すらない。
仕方なく、シンジはミサトを先ほどよりも多きめの声で呼んだ。
「あの、ミサトさん!」
シンジの呼び掛けに気付いたミサトは、まだどこか思考の中に漂いながらシンジに返事を返す。
「ん、なに?」
「いいんですか?こんな事して」
そう言うシンジの視線の先には、近辺にあった車から勝手に拝借したバッテリーの数々。
そんなシンジに対して、ミサトはカラカラと笑いながら答える。
「あ~…いいのいいの。今は非常時だし、車動かなきゃどうにもならないでしょ。
それに、私こう見えても国際公務員だし万事オッケーよ」
何がどうオッケーなのか分からないシンジは、苦言を呈す。
「説得力に欠ける言い訳ですね」
しれっと言い放ったシンジに、ミサトは笑いを収めてボソッと呟く。
「………かわいい顔して、意外と冷静なのね」
そんなミサトに、シンジも嫌味まじりで言葉を返した。
「そうですか?ミサトさんの方こそ、年の割りに子供っぽいんですね」
年の事を言われたミサトは、カチン…と来たのか急に車を右に左に激しく揺らす。
シンジが、急に襲ってきたその揺れにまともに対応出来る道理も無く、なすすべ無く右に左に体を揺られ、まともに走り出した頃には顔面蒼白になっていた。
「シンジ君?…レディーに年の事言ったらこうなるのよ。分かった?」
「は、はい」
………ちょっち…やり過ぎたかな?…ま、シンジ君が悪いのよ、うん。
気持ち悪い………
そんなこんなで、二人の乗る車は、目的地…NERVへと到着した。
カートレインに車を乗せ、運転をする必要の無くなったミサトに、シンジが話し掛ける。
「あの、さっきのは何ですか?」
「さっきのは、使徒と呼称される正体不明の物体よ」
「そうですか」
が、話題はすぐに途切れて沈黙が流れる。
……………
……………
……………
しばし静かな空気が車内に漂うも、またシンジの方から話しかける。
「これから、父の所へ行くんですか…?」
「そうね、そうなるわね」
父さん…か。
出来れば、会いたくなかったな。
全てを知ったって言っても、それは起きた事実と原因だけで何を考えて起こしたかなんて分からなかったから、父さんが何を考えてあんな計画を推し進めたのか分かんないし。
父さんについて知ってるのは、父さんが母さんとリツコさんの二人を愛してたって事くらいで、これからもたぶん詳しくは分からないし。
正直…会い辛いな。会って、何を話せばいいのか僕には…分からない。
この後の事を考えて自分の中に入り込んで行きそうなシンジだったが、ミサトの声でふい現実へとに戻される。
「あ、そうだ、お父さんからID貰ってない?」
「あ、はい」
シンジは返事を一つ返すと、自分の持ってた鞄の中を探って、IDとゲンドウから届いた来い…とだけ書かれた手紙を取り出てミサトに差し出すと、ミサトはそれを確認して今度はミサト
がようこそNerv江、と書かれたNERVの資料のような冊子をシンジに手渡す。
受け取ったシンジは、その冊子をしばらく見つるとミサトに話しかけた。
「あの…父さんはなんで僕の事を呼んだんでしょうか?」
「気になるの?呼ばれた理由が」
「ええ。父さんが何を考えてるか全然分からなくて。だから、出来れば会いたく無かったんで」
「そう…シンジ君はお父さんが苦手なのね」
「…苦手です、ね」
「じゃあ、私と同じね」
「どうして………」
ミサトが何を考えて、同じ、と言ったのか聞こうとした所で車内が急に明るくなり、眼前には地底湖や森林が広がって、その景色はシンジが今しがた聞こうとしていた事さえも忘れさせ
るほどに幻想的、且、綺麗な光景を作り出していた。
「おっかしいわねぇ…たしかこの道のはずよね…?」
車から降りたミサトとシンジは、ミサトの案内で先に進むが肝心のミサトが先程から地図をみつつ頭を悩ませている。
そんなミサトに、シンジは言い辛そうに口を開く。
「あの、ミサトさん…?」
「ごめん、ちょっち静かにしててくれない?」
「でも…言い辛いんですけど、この道、さっき通りましたよ」
シンジの言葉にミサトは歩みを止めてシーン、と黙り込む。
……………
……………
……………
沈黙の時がしばし流れて出てきたミサトの第一声は…
「でも、大丈夫。システムは利用するためにあるのよ」
そして、リツコが呼び出された。
「何やってたの?葛城一尉。私たちには時間も無ければ、人手も無いのよ」
「えへへ、ごめん」
いつまでも道を覚えないミサトにリツコは怒りの言葉を混じらせるも、ミサトはその怒りを気にも留めず謝る。
そんなミサトに、リツコは溜め息を付きながらもシンジの方に話を移す。
「ふぅ……で、この子が例の男の子ね?」
「そ、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン」
「私は赤城リツコ。よろしくね、碇シンジ君」
「あ、はい。よろしくお願いします。えと…」
「リツコ…でいいわ」
「はい、よろしくお願いします。リツコさん」
「じゃあ、私に付いてきて」
リツコに付いていきながら、シンジは頭の中で考え始める。
これで、またエヴァに僕は乗るんだ。そして、ついに父さんと会う事になる。
たぶん、ここからが本当の意味での始まりになるんだろうな…
シンジは一人そんな事を考えつつ、リツコの後を付いて行った。
リツコに連れられ、シンジは扉を潜り大きな部屋へと入るとその部屋のは電気が付いておらず、傍にいる人が誰なのかも分からないほどに真暗だった。
「あの…真暗で何も見えませんけど?」
シンジがそう言ったすぐ後、パチリ…と電気のスイッチを入れた音から少し間を置いて部屋に明かりが灯ると、シンジの眼前一杯に、エヴァ初号機が広がる。
「う、うわ!」
初号機は既に見慣れていたシンジでも、やはり急にその厳つい顔を眼前にドアップで差し出されると少なからず驚く。
幾らなんでも、急にコレは心臓に悪いよ………で、今の僕がエヴァの事知ってたらおかしいんだから、知らないフリして話を合わせないといけないんだよな。
と、シンジは思いつつ、エヴァの事を知らないかのようにリツコに表れた物の事を尋ねる。
「これは……ロボット…ですか?」
「厳密に言うと違うわね」
「じゃあ…?」
「これは…人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオンよ」
「さっきの、使徒?と何か関係が…あるんですか?」
「ええ、少なからずね。エヴァは、我々人類最後の切り札。これは、その初号機よ」
「それで?これを僕が見て、どうするんですか?」
シンジが尋ねると、今度は今まで話していたリツコでは無く、上から声が聞こえて来た。
その声の方に目を向けると、そこにはシンジの父親…碇ゲンドウが威圧的に見下ろすように立っていた。
「父さん…!」
「久しぶりだな…シンジ」
「どうして、僕を急に呼んだの…?」
「それは、どうでも良い事だ」
「何だよ、それ…ワケ分かんないよ!父さんは、父さんは何を考えてるの?!」
分かっていた事であった。
しかし、それでもやはりゲンドウの無粋すぎる答えに、シンジは怒りを散らすが、ゲンドウは意に介せずに鼻であしらうと命令を与える。
「ふん…出撃」
「出撃?…僕がこれに乗るって事?」
「そうだ、他に何がある」
「…勝手すぎるよ!急に呼んで、いきなり乗れ?!ふざけるな!父さんは、父さんは一体何を考えて…」
シンジは息が続かずに、喋り切れない。
「考えてることか…?ふん、そんなのはどうでも良い事だ。問題は、貴様が説明を受けて乗るか、それとも乗らないかだ」
「…じゃあ、乗らないって言ったら?」
「乗らないならば帰れ!」
「そう…じゃあ、あの使徒は…どうなるのさ」
「変わりを乗せるまでだ」
「…でも、変わりがいても、初めての僕に乗せるって事は…なにか事情があるんでしょ?」
「それは、どうでも良い事だ。お前に教える必要は無い」
……………
……………
……………
二人の話に割り込むことも出来ずに、蚊帳の外にいたリツコとミサトは何の口出しも出来ず、気まずい静けさが漂う中、シンジが重い口を開く。
「分かった…乗るよ。僕が、乗る」
意外な答えに、ミサトはともか、感情を出す事の少ないリツコの表情にも驚きの色が浮かぶ。
「シンジ君…!本当に、乗ってくれるの?」
「はい、ミサトさん。僕が乗らなきゃ、誰かが傷ついちゃいますから、だから僕が乗って、戦います」
シンジの言葉にミサトは何を言えばいいのか分からず、結局謝る事しか出来ない。
「そう……ごめんなさい、ね急なのに、説明もろくに受けないで」
そんなミサトに、シンジは声を掛ける。
「…大丈夫ですよ」
シンジは、ミサトが謝るのに対して微笑を浮かべて返事を返すと、再びゲンドウの方に向き直る。
「それで…僕はこの後、どうすればいいの?」
「そこにいる赤城博士から操縦の説明を聞くんだな」
ゲンドウはそういい残すと、踵を返して去っていった。
「良く決心してくれたわね、シンジ君。さ、こっちに来て。簡単に操縦システムをレクチャーするから」
そうして二人が歩いていく中、ミサトは二人を見つめつつ、一人その場に立ち尽くして、心の中で自らと会話していた。
ようやく、私の戦いが始まる。
直接戦う事は出来ないけれど、やっと使徒と戦える…
………違うわ、始まるのは戦いじゃない。復讐、ね。
母さん…いるんだよね?初号機の中に。
これから、戦いが終わるまで…お願い。僕の助けになってね。
良いわよ…かわいい、シンジのためになら。
………っ!!母…さん?
……………
…そんなわけ、ないか。
「これは…?!」
「間違いは…無いのね?」
「ええ。間違いはないわ」
「訓練無しの初回搭乗で、このシンクロ率…シンジ君は一体…何者なの?」
「分からないけど、一つだけ分かる事があるわね」
「そうね…」
「いける……!」
「…発進!」
そして、エヴァ初号機は、戦いの場へ向けて射出された。
…この重力、慣れないと気分悪いや
さてと………君には悪いけど、今回は暴走無しでケリを付けさせてもらうよ。
シンジはそう呟くと、ミサトの指示を待たずにいきなりサキエルへと走り始める。
当然驚く、発令所の面々。そして、ミサトがシンジに怒鳴る。
「ちょっと、シンジ君!いきなり何してるの!?」
「ミサトさん…すいません」
「は?!ちょ、何する気な…」
ミサトが喋り切らない内に、シンジは回線を遮断して、一気にサキエルとの間合いを詰めろと、ナイフを取り出してコアに突き刺そうとするが、A・Tフィールドに阻まれる。
「A・Tフィールド?!やはり使徒も…!どうする気なの、シンジ君は…」
回線を遮断されては、もはや見守る以外の術が無いためにある者は指を噛み、またある者はただじっと戦況を見つめる。
僕が…そんなA・Tフィールドなんかに負けるわけないだろ!
「A・Tフィールド展開!」
「初号機よりA・Tフィールド確認!使徒のフィールドを中和して行きます!」
「うそ!なんで…なんでそんな事が出来るの?!訓練もしてないのに!」
「これで、終わりだあぁぁぁぁぁあああああ!!!」
叫び声と共に、シンジはナイフをコアに突き刺すと数秒後にコアは光を失った。
「目標…完全に沈黙しました」
「何者なの…彼は?」
「マルドゥック機関の報告書通りの子よ」
「そう…でも、何か裏があるんじゃないかしら…?」
「えぇ…でも、今は彼に頼るしかないのが現状ね」
こうして、初めての使徒戦は大した被害を出さずに終了した…人々に不安と疑問を残して。
シュン…と音を立てて扉が開くと、中の部屋からシンジが出てくる。
「取り合えず、検査の結果は良かったけど何か体調おかしくなったら報告して頂戴」
「分かりしました。失礼します」
そう言ってシンジがリツコに別れを告げ、少し歩くとミサトに出くわす。
「あ、ミサトさん」
「検査の結果どうだったの?」
「取り合えず大丈夫でしたよ」
「良かったじゃない」
「ありがとうございます」
簡単な会話の後はどちらも話す事が出来ず、ただ黙って歩いていたが、ミサトが話を切り出した。
「シンジ君、見事だったわね。今日の戦い」
「ありがとうございます」
また、黙り込んでしばらく歩くが、幾つ目かの曲がり角でシンジは自らの居住区へと向かうために曲がろうとすると同時に、別れの挨拶をした。
「じゃあ、失礼します」
そう言ったシンジが角を曲がって歩き出すしてすぐにミサトが呼び止める。
「シンジ君」
「何ですか?」
「シンジ君の部屋まで送ってってあげよっか
ほら、NERV始めてだし迷ったら困るでしょ?」
「あぁ…じゃあ、お願いします」
そして、再び二人は何も喋らずに歩いていたが、ミサトがふと口を開いた。
「でも、シンジ君は一人でいいの?」
「え?…」
「申請すればお父さんと住むことも出来るのよ?」
「いいんです。一人のほうが気が楽ですしね」
「でも、やっぱ家族は一緒の方が自然じゃない」
「別に、どうでもいいじゃないですか」
そう言ったシンジに、ミサトは僅かに頭に来たのか語気を強める
「どうでもってっ!それがシンジ君を気にかける私に返す言葉?
大体ねぇ、シンジ君ってば何処と無く暗いのよ!苛められそうって言うか何と言うか、ともかくそんな感じ!」
「そうですか?」
「ええ、暗い!だから私が叩き直したげるわ、その性格!」
「はい?」
ミサトの言葉に付いて行けないシンジだが、ミサトはお構いなしに電話を掛け、勝手にシンジとの同居を決めてしまう。
「さ、家はこっちよ、付いてきなさい」
「あの…ミサト、さん?」
「何か文句、ある?」
そう問うミサトは、身体の周りに絶対に断れないオーラを纏わせ、シンジはまたもうやむやのままに同居が決まった。
まぁ、ミサトさんと暮らすのは一人より楽しいし…別にいっか、これで。
シンジはそう考えて気を取り直すと、何とはなしに上機嫌になりながら帰って行った。
「ちょっち汚いけど、我慢してね」
「じゃあ、お邪魔します」
「あのねぇ、ここは今日からあなたの家でもあるのよ?」
「それもそうですね…じゃあ、ただいま」
「お帰りなさい、シンジ君」
その後、部屋の片付け等やあまりに多いレトルト食品のお陰で一騒動会ったのは余談。