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No.246の一覧
[0] 見上げる空はどこまでも朱く【エヴァ】[haniwa](2009/11/30 10:37)
[1] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:23)
[2] 見上げる空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:15)
[3] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/08/12 02:52)
[4] 見上げた空はどこまでも朱く 第四話[haniwa](2006/08/12 02:56)
[5] 見上げた空はどこまでも朱く 第五話[haniwa](2006/08/12 03:05)
[6] 間幕[haniwa](2006/07/23 18:03)
[7] 見上げる空はどこまでも朱く   第六話[haniwa](2006/07/23 18:24)
[8] 世間話[haniwa](2006/07/23 03:37)
[9] 見上げる空はどこまでも朱く  第七話[haniwa](2006/07/24 19:51)
[10] 見上げる空はどこまでも朱く  第八話[haniwa](2006/08/16 15:28)
[11] 見上げる空はどこまでも朱く  第九話[haniwa](2006/08/08 16:49)
[12] 見上げる空はどこまでも朱く  第十話[haniwa](2006/08/10 17:13)
[13] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 前編[haniwa](2006/09/12 00:34)
[14] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 後編[haniwa](2006/09/12 00:36)
[15] あとがき[haniwa](2006/08/14 20:35)
[16] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 前編[haniwa](2006/09/12 00:27)
[17] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 後編[haniwa](2006/09/12 00:30)
[18] 後書き[haniwa](2006/09/12 00:32)
[19] 見上げる空はどこまでも朱く 第十三話[haniwa](2006/09/24 21:57)
[20] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 前編[haniwa](2006/10/09 10:45)
[21] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 後編[haniwa](2006/10/02 15:13)
[22] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅰ 】[haniwa](2006/10/19 16:56)
[23] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅱ 】[haniwa](2006/11/14 22:26)
[24] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅲ 】[haniwa](2006/11/22 10:01)
[25] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 The End 】[haniwa](2007/01/09 21:32)
[26] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 For Begin 】[haniwa](2007/01/09 21:41)
[27] エピローグ《Ⅰ》[haniwa](2007/01/09 21:47)
[28] 第十六話[haniwa](2007/03/19 16:50)
[29] 第十七話[haniwa](2007/06/25 11:38)
[30] 第十八話 前編[haniwa](2008/06/01 16:46)
[31] ミソラージュ  その一[haniwa](2007/01/24 14:51)
[32] 没ネタ[haniwa](2007/07/10 13:49)
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[246] エピローグ《Ⅰ》
Name: haniwa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/01/09 21:47
 気がつくと、彼女は見知らぬ車内にいた。車内といっても、目隠しをされ、猿轡もされている。それと解ったのは、車独特のいやな匂いが鼻についたからだ。

 ぼんやりとここがどこか思いをめぐらせていると、突然静かだった車内から声が上がる。

「……あーあ!! 気分わりぃ!!」

 それはすぐ真上から聞こえてきた。どうやら自分は椅子に寝かされているらしい。

「だいたいよぉ!! コイツが【科学者】に手を出すからわりぃんだよ。合理的判断なんて糞くらえだ!! 【母親】か、せめて【女】しときゃぁいいものをよ!!」

 パンっと男の手が遠慮なく彼女の顔を殴った。思わず彼女がうめき声を漏らす。

「お! 目が覚めたかよ? ちょっと早くねぇ? 開発部に電圧上げるようにいっとかねえとな」

 男は、耳元でわざと自分を怯えさせるように話しかけ、タバコ臭い息を吐いた。思わずくぐもった悲鳴を上げそうになったが、次の瞬間無理やり体を起こされた。

「……残念だが、君に黙秘権は無い。我々の管理下にあるうちは、人権も剥奪される。洗いざらい、すべてを喋ってもらおう」

 そして、後ろから聞こえてきたその声の冷たさに、悲鳴すら出なくなった。

「戦自か、政府か、はたまたどっかのお偉いさんか。まー、海か、山か、実験材料かは選ばせてやるよ」

 ひひひっと、野卑な笑い声を最後に、彼女の意識は再び暗い闇へと落ちていった。








エピローグ






「大丈夫かい?」

 その小さな部屋に入ってきたときに、今だ額を押さえていたその子に聞く。僕に気がついた彼は慌てた様子で押さえていた手を離すと、大丈夫ですといった。




 その子を巡回中の新米が発見したとき、額から血を流していため、何も聞かずに慌てて病院へと連れて行き、処置が終わってから、そいつはどうしていいか解らなくなった。そこで事情を聞いておけばよかったものを、慌ててたそのアホは、何も聞かずに署にまでつれてきた。
 するとそこでその少年が、今朝の事件で事情を聞くために連れてこられた少年であったことが判り、上の人たちがてんやわんやになった。
 似顔絵を描くために人を呼べとか、落ち着かせるためにお茶か? 紅茶か? いやコーヒーはまだ早いだろうとか、いらんことで人を引っ掻き回してくれた挙句、改めて誰にやられたのか聞くと家出の途中で車がはじいた石にぶつかったと言う事らしい。すると、あっさり興味をなくされた上の方々は、この子を少年課押し付けて、今は事件現場の写真を見ながら、コーヒーでも啜っている事だろう。
 すると今度は、少年課の中で誰がこの子の対応をするかでもめる羽目になりかけて、最近著しく頭頂部の過疎化が激しく、いつも機嫌の悪いうちの上司はオマエがやれと僕に白羽の矢を立てた。
 またあの子の相手を僕がやるのかと、いささか気が乗らなかったが、僕の前に連れてこられたその子が僕のことをじっと見つめていることに気がついて、どうしようもなくなった。

 どうも、昼間のときと様子が違うと、思ってしまったから。




「痛かったら、ちゃんと言ってくれよ。怪我したところは頭なんだから、気をつけないと」

 ちょっと、言い方がきつかっただろうか。それでも彼は昼間と違って、ちゃんと僕の顔を見て、はいと返事をしてくれた。

「お父さんの名前は?」

 その子は、小さな声で答えてくれた。
 僕は、それを手元の用紙に記入していく。
 昼間も繰り返した作業だから、すぐに終わると思っていたら、彼は昼間とは違う人の名前を言った。けどそれは、彼の苗字と同じ名前だったからとりあえずそう書いておいた。

「・・・碇、ゲンドウっと どっかで聞いたことある名前だなぁ」

 僕が少し引っかかったものを感じていると、彼は少し前にお父さんはテレビに出ていたことを、自分から教えてくれた。

「へー、君のお父さんもしかして有名人?」

 小さく、はいと答えてくれた。昼間のときよりもその反応は普通の子供みたいに素直だったので、僕もとてもやりやすかった。けれど、彼が次に教えてくれた住所に目を見張ってしまった。

「連絡先は……、君、ずいぶんと遠いところから家出してきたんだね?」

 僕は、あまり大きく驚くとその子の不安を無駄に大きくしてしまうだろうと思って、半分冗談っぽく彼に確認してみる。もちろんそれは嘘の住所だと思った。今日彼を引き取りに来た彼の叔父の住所とはぜんぜん違う。
 けれども僕はそこで、ふと思いついた。この子が家出してしまった原因は、もしかしたらお父さんに会いたいからじゃないのかと。
 僕がそんなことを考えていると、さっきの僕の質問に、その子はそうですかと聞いてきた。

「あぁ、その歳でこの距離は記録的だよ。友達に自慢しな」

 もう一度、僕が冗談めかしてそういうと、その子は、昼間決して見る事は叶わないだろうと思っていた笑顔を見せてくれた。けれどそれはどこか寂しそうな影を残した、儚いものだった。

「すぐに、連絡してあげるから。きっとすぐに迎えに来てくれるよ」

 はいと、その子は小さく返事をした。そんな彼の様子を見て、僕は決めた。警察は民事不介入だ。起こったことにしか対応できない。けれども、それでも、こんな小さな少年の小さな嘘を真に受けることぐらい、してもいいんじゃないかと思う。

 そして僕は、その子にちょっと待っててねと告げると、彼から聞いた住所が書いてある書類を手に席を立った。

 あぁ、どうか、ばれても始末書だけは勘弁してくださいと、いつも不機嫌な上司の顔を思い浮かべながら。






 もっどって来た警官とシンジが、ささやかながら談笑しているその小さな部屋に入ってきた人物は、目の前に座っていた警官が対応しようとするのを振り切ってシンジの脇に立った。
 そして、一拍もおかずにシンジを音高く殴りつけた。大人の堅い手のひらと、子供の柔らかい頬が鋭く、そして重くぶつかる音がその部屋に大きく響く。小さなシンジはそれに耐えられずパイプ椅子からはじき落とされ、それでも勢いは止まらず、狭い室内の壁に頭をぶつけた。
 驚いた警官は、半ばその人物を羽交い絞めにして、なだめようとした。

「ちょ、ちょっとお父さんいきなりそれは・・・」

「私はこれの父親などではない!!」

「は?」

 返された大声に、警官は思わず竦みあがりそうになる。それにかまわず、シンジを迎えに訪れた叔父はシンジを憎々しげに睨みつけた。

「これは、預かっている子供だ!! 断じて私の子供などではない!!」

「い、いや、それでも、いきなり殴りつけるなんて……」

 叔父は、警官の拘束を乱暴に振り払うと、そのせいで少々乱れた衣服を正した。

「警察は、民事不介入だろう? それにこれは暴力ではありません、躾です。関係ないあなたには黙っていてもらおう」

 そう言われて、二の句が告げなくなってしまった警官に一瞥をくれてやると、叔父はシンジに向き直った。

「何をしている。立ちなさい!」

「……はい」

 ぶつけた頭を抑え、多少ふらつきながらシンジは言葉通りに立ち上がった。

「まったく、面倒ごとを起こしてくれるね、君は」

「すみません」

「それに、何故私のところに連絡をよこさなかった!」

「……」

「ふん! 帰るぞ。ついて来なさい」

「はい、先生」

 ふらつく視線で、しかし目の前の人物をしっかりとその視界に捕らえながら、シンジは、はっきりと答えを帰した。
 そして、いまだ出口で立ち尽くしていた警官にまるでぶつかるような勢いで出て行った叔父のあとを追った。
 しかし、ふらつく足取りで急いだためか、倒れていた椅子に躓き転びそうになる。
 
「ぁ……」

「危ない!」

 それを、警官が咄嗟に支えた。

「! ……すみまっ、せん」

「大丈夫かい?」

「はい」

 警官の腕を頼りに、シンジは倒れそうになった体を起こした。
 警官がその体に触れたとき、その体温は高く、息は荒かった。
 彼はその姿に、唇を噛んだ。

「もし……、もし何かあったらすぐに……」

「いいえ―――」

 自分を支えてくれていた腕から手を離しつつ、シンジは警官を見上げた。

「―――ありがとう」

「……ぁ…!」

 どこか困ったような笑み。そして、自分の体を支えていた警官の腕を、弱弱しい力でそっと押しのけた。

「何をしてるんだ! 早く着なさい!!」

「はい、先生」

 自分から離れようとするシンジの腕を警官が掴みかけたところへ、怒声に近い声。
 シンジは、その声に動けなくなった警官を、さっとよけて部屋から出て行った。警官の腕は何かを掴みかけた形のまま、




 掴みそこなった体温だけが残った。








 先生のお家に戻ると、僕はすぐに部屋に引っ張られました。

「入りなさい。当分、部屋から出る事は許さん!! いいね、これは罰だ!」

「はい、解っています」

「行きなさい」

 先生が僕の背中を押して、暗い部屋に押し込めようとしたとき、

「シンジ! 帰ったの?」

 階段を降りきらず、慌てた様子で手すりから顔を出すユカリさんがそこにいました。でも僕は、そのまま部屋に入ろうとしたところを、すごい勢いで階段を駆け下りてきたユカリさんに腕を掴まれてしまいました。

 あぁ、つかまっちゃった。

「ユカリ! 今日はもう寝ていなさいとあれほど……」

「パパは、黙ってて!!」

 僕もびっくりしてしまうほど、彼女の声は大きかったです。振り返ると、驚いた顔でユカリさんを見る先生と、そんな先生を睨みつけるユカリさんがいました。

「シンジ!」

「ユカリさん?」

 ユカリさんは僕に向き直ると、ちょっとだけ悲しそうな顔をしていました。

「……」

「……」

「……お帰り」

「……」

 そして彼女は、僕に笑って、そういってくれました。

 でも僕は、どうやって答えたらいいか、解らなくて。そして、そんな彼女の笑顔に少し見惚れてしまいました。

「何よ、私がちゃんとお帰りって言ってあげてんだから、あんたも言うことがあるでしょうが」

「……僕は、」

 僕は、ユカリさんに聞かなくてはならないことがありました。

「僕は……ここに、居てもいいですか?」

ゴンっ

 鈍い音が、廊下に響きます。
 あぁ、先生が、見たことないような驚いた顔をしています。

 彼女が、無言で僕の頭を殴ったみたいです。
 とっても痛かったです。
 あの人に蹴られたお腹も、先生に殴られた頬も、その痛みがわからなくなるほど、ジクジクと痛みました。

 でも少しだけ、すっきりしました。

「もっぺん言ったら、鼻血が出るまで殴ってやる」

 彼女は、目の前で拳を固めて僕を睨みつけていました。その手は、少しだけ赤くなっています。
 僕のせいで。
 それが僕は悲しい。
 きっと痛いだろうな。殴るなら、顔かお腹にすれば言いのに。
 ほら、そんなに痛そうな顔をして。
 もう一度聞いたら、貴方はもう一度、僕を叩くんでしょうか。
 困りました。
 あなたには痛い思いはして欲しくはないけれど、

 僕には、聞かなくてはならないことがあったから。

「僕は、ここに居てもいいですか?」

 ゆっくり振りかぶられたその動きは、たぶん頬を狙っているんだろうとわかりました。だから僕は目をつぶって、それを待ちました。

ぺち

 けれどそれは、覚悟していたほど痛くはありませんでした。そして、彼女は先程よりも痛そうな顔で、僕を見つめた後、

「私は、お帰りっていったわ。……アンタは、まだその答えを言ってないわよ」

 きっと、それが彼女の答えでした。
 だから僕は、僕が正しいと思える、
 僕が言いたかった言葉を口にしてみました。

「ただ……いま」

「声が小さい!」

「ただいま」

「よし!」

 にっこりと笑って
 そして彼女は、
 僕をぐっと引き寄せて、
 ぎゅっと、
 抱きしめてくれました。
 その腕は温かくて、柔らかくて、 

「心配したんだから……もう、シンジが帰ってこないんじゃないかって」

「……」

 その声は、優しくて、

「みんなには私が話しつけといたし、あのボケはボコボコにしといたわ」

 その声は、どこか悲しそうで、

「また、……シンジのチェロ、聞かせてね」

 その声は、どことなく嬉しそうで、

 だから、それを受け取った僕の心は、温かくて

「…はい」

 だから僕は……彼女を、ゆくっり引き離しました。

「シンジ?」

「ありがとう、ユカリさん」

 僕は、彼女がいつか、僕に言ってくれたとおりに、笑顔を浮かべようと努力しました。でも少し息が苦しくて、少し胸が痛くて、上手くできたか少し不安でした。

「あ、……うん」

 ジクジクと痛む胸を押さえて、これ以上息が苦しくなる前に、後もう一つ、言っておかなくちゃいけないことがあります。

「先生」

「な、なんだ」

 僕が振り返ると、先生は少し慌てた様子でした。

「お話があります」

 解っています、先生。

 僕はもう逃げません。逃げる無意味さを、空しさを、僕はよく理解しました。

 だから、僕はもう逃げません。


 僕は誓います。


 お母さんに


 お父さんに


 そして何より、ユカリさんに、


 そして、


 見上げた空の、




             あの朱に








      No one's getting out here

――――――――誰一人としてここから逃げられない


      No one's breaking loose from the beautiful world.

――――――――誰一人としてこの恐ろしい世界から逃げられる者はいない














次回予告

 彼のいた部屋

 彼のいた教室

 彼のいた音楽室

 けれど、シンジはもうここには居ない。






次回、見上げる空はどこまでも朱く

 第一部  二章

 第十六話

 「【 】い空の下」
























おまけ

外伝予告劇場!!

ミソラージュ   その一






 カンカンカン

 私はボロアパートの錆びた階段をリズム良く登ってゆく。行く先はもちろんあいつの部屋で、右手には私の手料理、左手にはお酒と柿ピー。

「ふん、ふん、ふーん……」

 階段を上りきり、すぐ手前に彼の部屋はある。この位置だと人の通りが激しくて、最近またギターを始めたあいつにとっては、あまりいい環境ではないだろう。
 引っ越さないのかと聞いた事がある。それに対して、彼の返事はこうだ。

「駅から近くて、コンビにも傍にある。それになりよりここは安いんだ」

 つまり、彼にとっては居心地がいいらしい。

 そんなことを考えていると、あっという間に彼の部屋の前。しかし、私の両手はふさがっていて、なおかつ目の前の扉は老朽化によってとても開けずらい。
 しかし心配要らない。
 私が扉の前に来ると同時にその扉は開く。

「……お帰り」

「うん、ただいま」

 私が散々ここを襲撃するせいか、彼も最近観念してきたようだ。
 どうやら、誰が来るか、足音で解るらしい。回覧板をまわしてきた近所のおばさんの足音まで聞き分けるのだから、ちょっとげんなりする。
 でも、呼んでも無いのにこうしてで迎えてくれるのが私はちょっと気に入ってたりもする。
 私は持っていた荷物を全部彼に渡すと遠慮なく、部屋の中に上がった。

「今日は遅かったな?」

「まーねー。別に残業ってわけじゃないんだけど、ちょっと、ね」

「どうせまた、駅前うろついてたんだろ?」

「うぐ…」

 図星だった。どうしても、暇があるとまたあの子が駅前で困ってやしないかと心配してしまう。

「お前なァ、止めろっていったろ?」

「だって、またあの子がいるかもしれないじゃない!」

「しかしなぁ、この間みたいに職務質問されるのはさすがに……」

「だー! うるさい!」

 ちぃ、イヤナコトを……

「まあ、お前がいいんならそれでもいいんだが、さすがに待ち合わせに来ない彼女を交番に迎えにいくってのはもうカンベンしてくれよ」

「……その節はお世話になりました」

「うん、素直でよろしい」

 そういって、部屋に私を残して、彼は私の持ってきた荷物を手に台所へと向かった。
 
 ちくしょう、今日はなんだか負けてる気が…

 そう思って、何か逆転のアイテムを探していた私の目に彼のギターが映った。どうやら練習中だったらしい。
 何気なく、それを手にとって爪弾いてみる。

ポロロン、ポロロロロン

 なんとなくハワイアン。
 その音色に、先程の敗北感も薄れてゆく。しかし、

ブツン!

ミョン、ミョン……

 弦が切れた。激しく切れた。どうしようもなく切れてしまった。成す術も無く、呆然と見やる私を、あざ笑うかのように切れてしまった弦が目の前でゆれている。

「どうしよう……」

 困った。私には弦の交換なんてできない。せいぜい、彼にこれを引かせて、カラオケ代わりにするくらいだ。そういえば、最後にこのギターの音色で歌ったのは、もう何年前だろう。

 そうして、私が現実逃避しているところへ、暖めた料理を持って、彼が戻ってきた。

「もってきた……よ?」

「あ……」

 絡まる視線、早まる呼吸。けれど、ぜんぜんどきどきしない。彼も呆然と、私の手の中で弦の切れたギターを見つめている。
 どうやら、今日は完全に私が負けこむ日らしい。

「……ごめんなさい」

 素直に謝った。けれどもなかなか返事が返ってこない。恐る恐る彼を見上げると、彼はなにやら先程よりも驚いていた。

「あ―――、いや大丈夫だから」

「でも、ギター……」

 ミョンミョン

「大丈夫だって」

「……でも!」

 ミョンミョン

「んーーー、よし!」

「?」

 揺れる弦と、私を交互に見つめた後、彼は何か思いついたように笑った。

「明日、暇か?」

「? うん、暇だけど?」

「よし、じゃあ明日は――――――






――――――――――――買い物にいこう!」






つまり、次はそんなお話です。












久々の後書き

「目録」という本を書いてる城山タイゾウなんて人はいません。私の捏造です。調べた人がいたらごめんなさい。

 十五話を終えてまず言いたいこと。……長いよ! 重いよ!! 訳が解らないよ!!!

 改めて、皆様にお礼を。何とか無事に一章を終えることができました。これもひとえに皆様の応援と、暖かい感想とご指導のおかげです。これにどれだけ励まされたことか。初めての書き物、誤字脱字だらけの文章、勉強不足による設定の不備。突っ込む所だらけの私の書き物をここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

 十五話は、本当に難しかったです。なめてましたねSSってやつを。文章が短くなってもいけないし、皆様に推理の幅を残さないといけない。……途中からバレバレでしたけど。それから、本文中ではあまり触れていませんが、【ウサギを殺した犯人は誰だと思いますか?】それから、【どうして黒服は赤い女性の現れる場所が第二東京だとわかったのでしょう?】。わかりますか? つまりはそういうことなんです。というわけで難しかったけど書いていとっても楽しかったです。

 実は、haniwaは、プロット段階では台詞しか書きません。そのため、今回たくさんの没ネタが生まれてしまったため、どこかで生かせないかと思い、没ネタコーナーを作ってしまいました。この作り方だと、これからも増えてゆくでしょう。皆さんお気づきでしょうが、実は【End】に入れた帰り道の回想シーン、本当は没ネタのつもりでした。理由はやっぱり、話が明るいから。しかもその前は、順番どおりに【Ⅰ】にぶち込むはずでした。あと、本当にどうでもいいんですが、【End】の冒頭部分の詩、タイトルは「罪悪感」だったりします。ホント、どうでもいいんですよ?

 シンジ君がユカリ嬢を恐れた理由。それは、父が辛いときに手を伸ばせなかった自分と、自分が辛いときに手を伸ばしてくれた彼女。彼女は手を伸ばすことが出来た。では、何故自分は、父に手を伸ばせることが出来なかったか。それは、自分が逃げたかったからに他ならない。それに気がつくのが怖かった、ということです。判りにくくてすみません。

 第一章でやりたかった事は、シンジ君に逃避することを諦めさせ、内罰的性格の形成の種をまくことです。上手くいったかな? さて、第二章についてですが、第一部は第三章まであります。すこし先走ると、第一章から三年後、原作からは三年前です。あとは秘密です。ちょっとは、原作に触れる部分が多くなるかな?

 外伝の名前が決まりました! 【見上げる空はどこまでも朱く、外伝】では長いので、見空朱と書いて、ミソラージュ。…………ごめんなさい。ちょっと疲れてて。…………でも、やったもん勝ちかな、なんて……。

 次は小学校五年生編です。では、皆様、よいお年を。


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