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No.246の一覧
[0] 見上げる空はどこまでも朱く【エヴァ】[haniwa](2009/11/30 10:37)
[1] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:23)
[2] 見上げる空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:15)
[3] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/08/12 02:52)
[4] 見上げた空はどこまでも朱く 第四話[haniwa](2006/08/12 02:56)
[5] 見上げた空はどこまでも朱く 第五話[haniwa](2006/08/12 03:05)
[6] 間幕[haniwa](2006/07/23 18:03)
[7] 見上げる空はどこまでも朱く   第六話[haniwa](2006/07/23 18:24)
[8] 世間話[haniwa](2006/07/23 03:37)
[9] 見上げる空はどこまでも朱く  第七話[haniwa](2006/07/24 19:51)
[10] 見上げる空はどこまでも朱く  第八話[haniwa](2006/08/16 15:28)
[11] 見上げる空はどこまでも朱く  第九話[haniwa](2006/08/08 16:49)
[12] 見上げる空はどこまでも朱く  第十話[haniwa](2006/08/10 17:13)
[13] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 前編[haniwa](2006/09/12 00:34)
[14] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 後編[haniwa](2006/09/12 00:36)
[15] あとがき[haniwa](2006/08/14 20:35)
[16] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 前編[haniwa](2006/09/12 00:27)
[17] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 後編[haniwa](2006/09/12 00:30)
[18] 後書き[haniwa](2006/09/12 00:32)
[19] 見上げる空はどこまでも朱く 第十三話[haniwa](2006/09/24 21:57)
[20] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 前編[haniwa](2006/10/09 10:45)
[21] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 後編[haniwa](2006/10/02 15:13)
[22] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅰ 】[haniwa](2006/10/19 16:56)
[23] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅱ 】[haniwa](2006/11/14 22:26)
[24] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅲ 】[haniwa](2006/11/22 10:01)
[25] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 The End 】[haniwa](2007/01/09 21:32)
[26] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 For Begin 】[haniwa](2007/01/09 21:41)
[27] エピローグ《Ⅰ》[haniwa](2007/01/09 21:47)
[28] 第十六話[haniwa](2007/03/19 16:50)
[29] 第十七話[haniwa](2007/06/25 11:38)
[30] 第十八話 前編[haniwa](2008/06/01 16:46)
[31] ミソラージュ  その一[haniwa](2007/01/24 14:51)
[32] 没ネタ[haniwa](2007/07/10 13:49)
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[246] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 後編
Name: haniwa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/09/12 00:30
見上げる空はどこまでも朱く




第十二話






ヒビワレ    真実


後編






 シンジとけんかしてから二日後。

 けんかと呼ぶにはいささか一方的だったかもしれないが、結局あの後私とシンジは何も話すことなく、それどころか目を合わせることもほとんどなく二日が経ち、今私はパパの運転する車に揺られて海へと向かっていた。

 天気は晴れ。文句のつけようのないくらい晴れ渡っている。出かけるとき少々雲が多いんじゃないかと思ったが、絶好の旅行日和となったようだ。

 すでに車に乗って二時間ほどが経過していた。クーラーの効いた車内で、当たり障りのない会話を続けることにもいささか飽きた私は外の風景に視線を移していた。

 窓枠に肘を置き、顔に手を付き、流れる風景を視界に捉えながらも、私の目に映っていたのは今日、出かける際に見たシンジの顔だった。






「じゃあねシンジ君。留守番、頼んだよ。」

「はい。」

 玄関先でシンジがパパと話をしているのが聞こえてきた。私は一瞬だけ廊下で立ち止まると勢いをつけて玄関を出た。

 シンジの視線を感じ取りながらも、私がをそちらを向けるはずもなく、やや駆け足で私は、曇り空の下に出た。

 境界線を潜り抜けたように、外と家の中との温度差を感じながらもそれに感じ入るすきまもなく私はシンジを横にかわして、彼を意識しないようにゆっくりとした動きで車に乗り込もうとしたとことへ、荷物を運び込んでいたパパが私に話しかけてきた。

「あぁ!ゆかり、ちょっと待ちなさい。」

「・・・なに?」

「いや、たいしたことじゃないんだが、シンジ君と何かあったのかい?」

「!!」

 私は、その一言に目を軽く見開いた。

 冷静になって考えてみれば、それは当然の質問だったろう。私とシンジは家の中でも結構話をするようになっていた。(主に私が一方的に話してシンジがそれを聞くという形ではあったものの)

 それがここ二日で目に見えて会話がなくなったのだ。何かあったと思うの普通だろう。

 それでも私が驚いたのは、私が無意識にシンジのことを聴かれたくないと思っていたせいだろうか。

 「何でも、・・・・ない。」

 私は帽子でパパの視線をさえぎり、さらに顔を少しそらすころで会話を打ち切った。

 そのとき、辺りが少し明るくなった。きっと太陽が雲を抜けたのだろう。辺りの気温が急に上がった気がした。その熱気は車の陰にいた私でさえも感じることが出来るほどだった。

 そこで、ふと玄関に視線を向けてみた。

 私は、そのときのことをたぶんずっと忘れないだろう。


 そこには、まるで遠くを見るような視線で私のことを見ているシンジがいた。



 シンジは、地面が揺らめくほどの熱量にさらされながらも、身じろぎひとつせずに私のことをじっと見ていた。その肌は太陽の光にさらされ、今にも消えてしまいしそうなほど白く輝いているようだった。

 いつから・・・・・・

 いったいいつから、私のことを、そんな今にも泣きそうな顔で見ていたの?

 シンジ・・・・・

 シンジのほうも私に声を掛けるでもなく、そのまま私とシンジは少しの間見つめあった。

 そのとき私の口は、私の意思に反して開きかけていた。

 一緒に行こう。そう声を掛けたかった。たった三メートル強しか離れていない私たちの距離。声を今出せば、きっと彼にも届くだろう。

 けれど、出かけた声は、私の喉をひゅうと、鳴らすだけにとどまった。

 私にはそんな勇気も、それどころか資格すらないのだといまさらながらに気が付いてしまったから。

 シンジはただ、悲しげに私を見ているだけ。

 私は、シンジにひどいことを言ったのだ。自分で言っておきながら、耳をふさいでしまいたくなるほどの、否定の言葉を。

 私は、でかかった言葉も無理やりに飲み込むと、その気ぐるしさと悔しさに顔をゆがめた

 すると、シンジがゆっくりとこちらに手を伸ばそうとしているのが目に入ってきた。私はあわてて帽子をつかみ、それを引き下げた。なにをしているのだろうと、自分でも思いながら。

 せっかく、彼が歩み寄ろうとしてくれたのに、私はまた彼を拒絶するのかと。

「・・・・・・・・ゆかりさん?」

「・・・・・!」

 シンジが私の名前を呼んだ。そこまでが限界だった。私はとうとう体ごとシンジから顔をそらすとそのまま車に乗り込み、出発しても、再びシンジと顔を合わせることはなかった。






 そして、私はくそムカつくほどの天気の下で、車の中で自己嫌悪の真っ只中にいるというわけだった。

 もう何もかもが、世界そのものが灰色に見えてしまいそうほど、私のテンションはローギアいっぱいだった。

 とてもじゃないが、家族旅行で海なんて楽しめる気分ではありえなかった。

 風景も見飽きて、車内に視線を戻す。特に見ることがないことに気が付いて、視線をひざに落とす。目に入ってきたのは、めったに着ないワンピースの裾。しかも、アイボリーホワイトなんて汚れたら目だって仕方がなくなるような、いつもなら絶対に着ないような服を着ていた。

 そこでもう一度私は、深く、深くため息を付いた。

 何で私はこんなものを着てるんだろう。

 私は、自分にそう問いかけて、そして理由を思い出して今度は顔が熱くなるのを自覚しながらまたへこんだ。今度は深く頭を抱えて。もう体育館の隅に捨ててあるピンポン球も軒並み裸足で逃げ出すぐらいのへこみっぷりで。


 あっ、ピンポンだまには足なんかないよねぇ。


 違う違う!!、そうじゃなくて、この服を選んだのは、いつもと違う服でなら気分も変わってシンジと話できるんじゃないかなって思って、けど、そうはならなくって、

 結局、シンジとは、話は出来なくって。




 だから!!そうじゃなくって!!!




「あーーもう!!何だってのよーーー!!!」

「ゆかり!?」

「ゆ、ゆかり?どうしたんだ?」

 私はとうとう耐え切れなくなり、暴発した。突然大きな声を出した私に驚いてパパとママが振り返る。

「パパ!!ハンドル!!」

「ん?、うわっ!!」

 慌ててハンドルを握りなおす。少し車が揺れたが、ドライブは先ほどまでの穏やかさを取り戻す。

 私も大きな声を出して、いろいろ吹っ切れてきた。

 私は心配そうに私を見る両親をよそに、クーラーの効いた車の窓を開ける。

 機械で調節した風じゃない、自然の空気が勢い良く私の顔に当たる。車の進むコースは道沿いに。香る風は潮風で、海が近いことが解る。

 そこに見える空は、あいも変わらず、くそムカつくほど晴れている。






 そして今、

 私は浜辺に立っていた。

 私の真上には照りつける太陽。

 空を漂う雲はない。

 吹く風は、潮風で湿っている。

 打ち寄せる波は、引くも返すも穏やかだ。

 踏みしめた砂の感触が足の裏で一粒一粒が自己主張しているかのようにちくちくする。

 すでに私は水着に着替え、こうして母なる海と対面を果たしていた。

 着ている水着は学校で着るようなものじゃなく、色は紺ではなく青、フリルのような飾り気のようなものはなく、全体的なシルエットは学校指定のそれとほとんど同じなのだが、、背中が大きく開いているのが特長だった。

 クラスの女子には、上下に分かれたビキニに近いものを着たがる子が多いようだが、私はあまりああいったものは好きになれなかった。

 どう頑張っても、授業で日焼けしてしまうのだ。それなのにくっきり色の分かれた肌を、人前にさらすような気分にはなれなかった。

 この水着を選んだ理由は、それだけではないけれど、不愉快なことを思い出しのそうなので記憶の隅に追いやることとした。

 私は改めて、目の前に広がる海を見渡した。

 ここに立つと、いつも思うことがあった。


 なぜここに砂浜があるのかと。


 セカンドインパクト後、南極の氷がすべて解けてしまい、世界中の海抜ゼロメートルの場所は海に沈んだ。島国である日本は、被害のあった各国の中でも大きな被害を受けた国のひとつ、ということはすでに学校の授業でも習った。

 ではなぜ、砂浜は軒並み海の底となってしまったはずなのに、今こうしてここにあるのか。

 それはここが人口の砂浜だからだ。比較的穏やかな平地を整理して砂を敷き詰めた。ただそれだけのことだった。

 私は、自分の足元に敷き詰められた砂に目をやると無造作に蹴り上げた。

 パパの年代の人たちは、皆口をそろえてこう言う。

 ”あれは酷い時代だった”

 そして、もひとつ

 ”それでも地球の自然環境は目に見えて回復した”

 空を今一度見上げる。

 もう、お昼過ぎなのに、まだ西の空にうっすらと、白い月が見ることが出来た。

 空気が澄んでいるのだと、パパはよく言う。


 セカンドインパクト。


 それには様々な憶測が流れていた。隕石、某国の核実験、地殻変動による噴火、迫り来ていた温暖化の末路、中には真面目に恐怖の大王が舞い降りて人々に恐怖ももたらしたのだと。もっともこの後、怪しいカルト団体の勧誘文句が続くのだけれど。

 私はそのどれでも、良かった。世界の人々は約五分の二の命を奪われ、残った人口は洪水、噴火の異常気象と、その後に起きた内戦などのためにさらに元の半分にまでその数を減らした。それだけは変わらない事実だった。

 けれどいくら人が死んでも、気候が変わっても、きっと世界は今と同じくらい綺麗だったんだろうなと思う。

 人々はいろんなものを失った。そこで初めて今の私のように空を見上げることを思い出しただけなんじゃないかって。

 私は、太陽に手を伸ばし、指の隙間から零れ落ちる光に目を細めた。

 少々、気も晴れて落ち着いてきたようだ。
 
「パパー、私泳いでくるからねー。」

「あ~~気をつけるんだよ~~」

 パパは海岸についてすぐ、パラソル、シート等々を設置した後すでに力尽きていた。普段からデスクワークが多いといいわけしているが、ただ単に運動不足なのだろう。

 忙しい仕事の合間を縫ってくれているのは解っているけど、ここまできたなら、もうひとがんばりしてほしいと思ってしまうのはいけないことだろうか。

 ママは広げたシートの上で本を読みながら昼食の支度をしていた。ママは最近、また仕事に戻ることを考えているらしい。私が大きくなって手がかからなくなってきたとパパと話しているのを聴いたことがあった。 

 私は一度その様子を確認すると、海へと駆けだしていった。




 特に泳ぐわけでもなく、波が打ち寄せて私の足跡を消してしまうような波打ち際を、取り留めのないことを考えながら海岸沿いに歩いていた。

 宿題のこと、

 今日の昼食のこと

 泊まるところ

 久々にきた海のこと

 明日のこと

 つらつらと、思考を移しながらそれらの議題は浮かんでは消えていく。

 宿題は、楽しむべき時間を楽しむためにすでに済ませている。

 今日の昼食は海の家の焼きそばなどを交え、ママの作ったお弁当が軒を連ねることになるだろう。

 毎年同じ旅館、同じ部屋に泊まる。こんなことを考えても面白みが薄い。    

 あいも変わらず、ため息が出るくらい代わり映えがしないが、どうやら人工浜の化けの皮が最近はがれてきたのか、砂がどんどん沖へと流されることが最近ここいらに住む人の悩みらしいことを先ほど耳に挟んだ。

 明日の昼にはもうすでに家に帰っているだろう。そして・・・・


 シンジと、また顔を合わせることになるだろう。


 ・・・・・・

 私はそこで足を止めた。

 こんな事になるなら、海に行くのを断って学校の合宿にいくほうがずいぶんとましだった。けれど今は部長の顔をまともに見れる自信もなかった。

 振り返ると、パパたちのいるところがとても遠くに見えた。ずいぶんと遠くまで歩いてきたようだ。

 どうしても、ほかの事を考えてそのことを忘れようとしても、寧ろそのせいで彼に関することが浮き出てくるように私の中に残っていて、けして、消えてはくれない。

 私は、海方へ体を向け、膝まで海に入った。

 どうして、こんな事になったのか。あんな風にシンジを傷つけて、シンジを遠ざけて、シンジを拒絶して。

 腰まで水につかる。一掬い水を掬うと、ぱっと広がるように腕を振って自分の目の前にまいた。

 (本当は、シンジとこんなことがしたかったなぁ。)

 今一度、浜辺に振り返る。浜辺ではほかにもいろんな人がいる。パパのように寝転んで肌を焼く人、ママのようにお昼の用意をする人、そして、はしゃぎながら浜辺を走っていく私と同じくらいの女の子と、男の子。

 それらを目に入れると、私はもう一度海岸沿いに腰まで海に沈めたまま、波に翻弄されるようにゆっくり歩き出した。

 (そもそもなんで、こんな事になったんだろう。)

 私は、横目に光を反射して深い青に輝く海を眺めながら考えた。

 事の発端は、彼が海へはいかないとパパに言ったことにあるはずだ。

 何で、そのことを私にも言ってはくれなかったのかと。それは私の勝手な憤りだったかもしれないが、決して譲れないものでもあった。

 それは私の勝手な想いで、シンジには責任はないかもしれない。けれど、私に何も言わないということは、シンジの中で私の占める割合はそんなに狭いものだったのだろうか。シンジの思考の深いところでは、私という存在はそれほどまでに少ないのか。

 結局、私はそれがずっと悲しかったんだと思う。

 (それで、私はシンジにあんなことを・・・・・・・)

 私は膝を折って、一気に頭まで海にもぐった。再び浮かび上がるもやもやした気持ちを、洗い流してしまいたくて。

 きらきらと輝き、波でうねる水面の様子は、水中眼鏡もしていない私には、その様子はぼやけたようにしか映らなかった。

 それを見た私は、潜ったまま、スィっと足で水を押し出し、ゆっくりと泳ぎ始めた。

 潜水したまま、くるりと体を横に回し、ゆらゆらと波にもまれながら、そうして見える水面は、ぼんやりとしか見えないのに本当に綺麗で、私の中に浮かんでくる言い知れない不安さえ、一緒に包んでしまいそうなくらい優しい輝きをはなっていた。

 一つ、二つと口から気泡を出して、その変化を楽しんだ。

 そうしていると、息が続かなくなってきた。そんな環境から出て行くのを私は少し残念に思いながらも、水面に顔を出した。

 「ぷはっ!」

 思っていたより苦しかった。

 少しの間、私は肩で息をし、しばらくそのまま立ち尽くした。

 (おぼれるってゆうのは、やっぱりもっと苦しいんだよね。)

 そんなことを考えながら、私は髪にまとわり付いた水気を切りながら、パパたちの待つところへ、歩き出していた。

 (シンジに、謝ろう。)

 私は、自然とそう思っていた。

 私に、全面的に非があるなんてもちろん思っていない。シンジにも攻められるところはあるし、私にもある。それだけだ。けれどこのまま、シンジとこんな関係が続くほうがいやだ。

 (それに・・・・ね)

 思い出したのよ。

 私は、シンジにあんな悲しい顔をさせたくて、シンジに泳ぎを教えるなんて言い出したわけなんかじゃないって。

 私は、シンジとここにきたいって思う前に、シンジと一緒に泳ぎたいって思う前に、


 シンジに、もっと笑ってほしかったんだって。


 うん、そうよ。あんな悲しい顔をさせたかったんじゃない。あいつの暗い顔を、時々見せてくれる気持ちのいいくらいの笑顔にさせたら、ずっと笑っていられるように出来たら、きっと楽しいだろうなって、きっと綺麗だろうなって。


 そんなあいつを私のものに出来たらなって。


 「よし!!」

 私は一息そうやって勢いを込めると、パパたちの待つほうへと泳ぎだした。

 まだ私は、すべてに納得したわけじゃないけど、シンジが海が怖いくらいで私についてこなかったことを、私が笑い飛ばして、シンジを引っ張っていってやるくらいじゃないと、きっとあいつは変わってはくれない。

 (さぁ。家に帰って、仲直りしたら、これからどんな風にあいつをいじめてやろう!!。)

 私は、なんだか楽しくなってきた気持ちをそのまま表情に表して、私はパパたちの元へと急いだ。






 「ずいぶんと、んしょ!!・・・・遠くまで来てたのね・・・」

 私は歩いていったところから、ずっと泳いでパパたちのところまで戻ろうとしていた。泳いでいこうとすると格好な距離で、三分の二のとこまで着ただろうか、私は力尽きそうだった。

 思えば、ここまで海で遠泳に近いことをしたのは初めてだったかもしれない。最初は気にならないほどだった波が次第に体力を奪い、気を抜くと、引く波に体をとられそうになる。

 少し休んで、残りの距離を確認する。浜辺は途中で緩やかなカーブを途中でとぎらせ、途中、もう一つのカーブへつながる時に少しだけ海にせり出しているところがあった。

 (ちょうどいい、そこまで泳いで、後は岸に上がって歩いていこう。)

 目先の目標を決め、私は再び泳ぎ始めた。

 泳ぐのは私は好きだった。昔の小学校では、日本にまだ四季があったせいで夏しか体育にプールの授業がなかったが、いまでは体育の授業では水泳は多くとりいれられるようになったそうだ。

 (だからシンジも、泳げるようになったほうが楽しいと思うよね~)

 同時に、シンジの特訓のプランも考えながら、もうすぐ目標の位置までたどり着こうとしていた。

 そこに、すこし大きめの波が私に向かっていた。

 それくらいの波なら、足元を取られることもないだろうと気にせずにおいた私は、そのまま泳ぎ続けた。

 そうして私が、せり出した浜辺のところまで来たとき、




 何かに、海へ引きずりこまれた。




(な!!・・)

 なにが起こったか、私には解らなかった。

 突然激しい流れが私の体を沖へと引きずり込み、その激しい流れに私は抵抗するまもなく、あっという間に足が付かないところまで流されていった。

 必死に足をつこうとして、ただ水をむなしくかくことしかしないその感触に私はぞっとした。

(いや・・・・)

 岸に向かおうと思っても、水の勢いは私のそれよりも大きく、それは徒労に終わってしまう。

 それもつかの間、すでにつかれきっていた私は、すぐに抵抗できなくなってしまった。

 とうとう、水の中に沈んでしまった。一瞬だけ、先ほどもみたきらめくみなもが見えたけれど、次の瞬間飛び込んできた光景は私の想像を超えるものだった。

 私が見たのは、私が流される先。

 そこには、日の光さえ飲み込まれているんじゃないこと思うほどの暗い蒼。

 それは、どこまでもどこまでも、天から射す光を飲み込み

 今まさに、

 私のことを飲み込もうとしていた。

(イ・・・・ヤ・・・・・・)

 しかし、私は抵抗できない。

 流れる波は今もなお、私をつかんで離さない。

 岸へ、岸へ、

 進もうとする私を、

 沖へ沖へ

 黒い流れは連れて行こうとする。

 そのとき私は怖さを感じる間もなく、その流れに弄ばれた。

 確実に私にも解るくらいの、濃い死の影がそこにあった。

 (助けて)

 パパの顔が浮かび、暗い闇に消えた。

 (タスケテ)

 ママの顔が浮かび、激しい流れの中に消えた。

 (たすけて) 

 そして・・・・



シンジの顔が、光る水面に浮かんだ。



 「ぷは!!!」

 いつの間にか、少し沖に流されたものの、私は水面に浮かんでいた。

 呆気ないくらい、先ほどまでの流れは消え、波は先ほどまでの穏やかさを取り戻していた。

「ゲホっ!!ゴホ!!」
(いったい、なにが・・・・・)

 息を整えることが精一杯で、思考にまで酸素が追いつかなかった。

「ゆかり!!」

 だから、パパに体を支えられた私は次の瞬間意識を手放した。






 途切れ途切れに、その会話は聞こえてきた。

「いったいなにがあったの?」

 ママの声。なんだか少し怒ってるみたい。

「波にさらわれたそうだ。」

 そんなままに少しこわばらせたパパの声が聞こえた。

「どうして!!、今日の波はそんなに荒れていなかったでしょう?」

「離岸流というものらしい。」

「??」

「波は押し寄せるだけでなく、押す波と同時に、ところどころで岸から離れる波がある。それが離岸流だ。あまり知られていないが、毎年これでおぼれる人が結構いるんだそうだ。」

 そこで、一つ、パパは話に区切りをつけた

「ゆかりが近くにいたせり出した浜辺があったろう?あれは離岸流が砂を沖へ運んだ跡なんだそうだ。そういったところでは・・・・」

「解ったわ、もういい。」

「ん?そうか・・・・」

「ゆかりは大丈夫なの?」

「ああ、先生が言うにはそんなに水も飲んでないし、あまり波に抵抗せず、寧ろ波に任せて流されたのが良かったらしい。普通は岸に取り付こうとして力尽きてしまう場合が多いんだそうだがゆかりはまだ小さいし、それまでに泳いで疲れていたんだろうね、波に身を任せて流されたようだったからね。」

「そう・・・・」

 そういってママの手が私の額に触れたのが解った。

 そのとき、私はそのときのことを思い出した。

 怖かった。

 ほんとに怖かった。怖いということが解らなくなるくらいに、怖かった。心がああして止まってしまうことが、あんなにも恐ろしいことだなんて、思いもしなかったから。

 もう、こうしてママに触れてもらえないと思った。

 だから、

 またこうしてママに触れてもらうことがうれしかった。

 「ママ?・・・」

 「あら、ゆかり気がついた?あなた、おぼれたのよ?覚えて・・・・いいえそれより今はもう少し寝ていなさい。」

 「・・・・うん。ごめんなさい」

 そういうと、ママはもう一度私の額をなでてくれた。

 私はその気持ちよさにもう一度私は目を閉じた。

 (ごめんね、・・・・シンジ・・・・・)






 陽がだいぶ沈み始めたころ、私は旅館のロビーにいた。

 すでにお風呂に入り、浴衣に着替えた私は、パパとママの目を盗んでここに来ていた。

 あんな事があった後だから、パパもママも私を一人にしてくれなくて困った。私は一刻も早く、シンジの声が聴きたかったから。

 けれど、すでに公衆電話のあるロビーにまで進むことが出来たのに、私はいまだその受話器をとることが出来ないでいた。

 (シンジにまずなんと声を掛ければいいだろう。)

 私は困り果てていた。

 あんな事があった後で、脳みそにいまだ酸素が足りないのか、血中の酸素濃度が極端に下がって言うrんじゃないかと自分で思うほど、頭の中がそのことでぐるぐるしていた。

  (私よ!!碇!!)

    だめだ、言い方がきつすぎるこんな風に声を掛けたらシンジは萎縮してしまうだろう。

  (はぁーい!!碇元気?ー。わ・た・し・よ?)

   誰だ、こいつは。そもそも、今碇が元気なわけがないだろう。

  (もしもし、碇君?山川ゆかりです。)

   面接?だめだ、なんか硬すぎる。

  (二番!!山川ゆかりです!!)

   オーディション?

 あー!!たった二日であいつとどんな風に話をしてたかわすれるなんてー!!

 グシグシと、私は人目もはばからず頭を抱えた。

 頭を抱えたまま、そっと目の前にたたずむ古めかしい公衆電話をにらみつけた。注意書きを見ると、どうやらこの旅館にセカンドインパクト前からある年代物らしい。

 問題はもう一つあった。今、私は財布を持っていなかった。手元にあるのはもう残りの度数が少ないテレホンカードだけ。

 いっぱいいっぱい話したいことがあるのに、その時間が限られてるなんて酷い話。掛け難い上に、掛ける時間は限られている。ぐっと、今一度公衆電話をにらみつけた。

 いや、違う。私が恐れているのはそんなことじゃない。いざ、シンジと離したとき、シンジが許してくれるかが怖い。

 ううん、きっとあいつは許してくれるだろう。でもそれは、シンジの本心じゃない気がして怖いんだ。

 シンジの心がこのまま私から、離れてしまうのが怖い。

 けれどそこへ、先輩の言葉を思い出した。

 『素直になるといいよ。』

 素直に・・・・・・・

 そう思うと、私の手は自然と受話器へと伸びた。

 カードを射し込み、市外局番から自分のうちの電話番号をプッシュする。

 もうそれだけで、私の心臓が止めると思うほど、脈打っていた。

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 呼び出し音が、私の耳を打つ。

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 その音はまるで宣告前の、早鐘の様に、

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・
 
 私の鼓動をさらに早くする
 
     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 さらに早く

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 さらに・・・・

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 はや・・・・・・・・・・

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・ぷるる・・・・ぷるる・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

     ぷるる・・・・ぷるる・・・・・ぷるる・・・・ぷるる・・・・・




 「はやくでなさいってのよーー!!!」




 がーっと沈黙を続ける受話器に向かって私は吼えた。そのとき、

 がちゃ

「!!!」

 静かにその音は聞こえてきた。それに続く声はない。

 私は、受話器の向こうへ届かないように深呼吸をした後、シンジに声を掛けた。

「あ、もしもし碇?」

『!!。ゆかりさん・・・・・ですか?』

 息を呑むような音が聞こえてきた後、受話器にとどいた声は、私の想像よりも暗く沈んでいた。わけを知らない人が聞いたなら、何事だろうと思うほど。

 私は、自分がしてしまったことの重要性を再確認しつつ、なるべく普段どうりを装ってシンジに話し続けた。

「そうよ。私以外誰がいるっていうのよ。」

 六十点。こんな高飛車な物言いしか出来ない自分が悲しくなってくる。

『今・・・・どこにいるんですか?』

 頓珍漢なことを聞いてくるシンジに私は続けて、

「はぁ?あんた、なにいってんのよ。」

『?』

 三十点。困惑しているであろうシンジの様子がありありと想像できる。

 でも、私は少し安心していた。シンジの戸惑いは感じるものの、またこうしてシンジと言葉が交わせてよかったと素直に思えた。

 たとえ、受話器越しであろうとも、今シンジの意識は確かに私のほうを向いてくれている。

 しかし、そんな気分に浸りつふけていくわけには行かない。

「それよりも、さ。」

 このままではシンジをいじめてるいつもと変わらない。

 流れを変えるべく、そして本来の目的を達成するべく、私は、少し黙り込んでいしまったシンジに話しかけた。

 けれどそこからどうしていいのか、真っ白になってしまった。事前に考えた言葉なんて何の役にも立たない。

 次の言葉が、出てこない。

『・・・・・・・・・ゆかりさん?』

 シンジの声にはっとした。そっと、先を促してくれたシンジの声に、私はその言葉を言うことが出来た。

「ごめん。」

 零点・・・・・

『・・・・・・なんのことですか?』

 ほら、シンジには何も伝わっていないじゃないか。さぁ、向き合うべきはシンジだけじゃない。私自身とも向き合わなければ。

「・・・・・あんたに、ひどいこと言っちゃったこと・・・・・」

『!!』

「わたし、碇にあんなこと言うつもりじゃなかったの。」

『・・・・・ゆかりさん・・・・』

「碇が、水が恐いって気持ちが、私よくわからなかったから・・・・」

『・・・・・・・・・・・』

「動いてる水の中で、動けなくなることがあんなに恐いものだとは思わなかった。だから、碇の気持ちも、考えることが出来なかった。」

 私は、シンジが付いてこれていないだろうなと、感じてはいたけれどとめられなかった。素直に、私の心をシンジにぶつけるしか今の私には出来るころはないと、そう信じて。

 そうして、私たちの久しぶりの会話は始まった。

「実は、私もね、さっきおぼれかけたの。」

『だっ大丈夫だったんですか?』

 シンジの声がはねるように大きくなる。その様子が受話器越しでもありありと目に浮かんで、私のことを心配してくれてるんだなぁと感じられる自分がいる

「うん、すぐ助けてもらったから。」

『良かった・・・・・』

 ホッと、息をつくような、本当にそう思ってくれていることがこちらにまで伝わるシンジの言い方は、本当に私を安心させてくれた。

「それでね、碇もきっと同じ気持ちだったんだなって思ってさ・・・・」

『本当に・・・・・良かった。』

「碇?」

『もういいんです、ゆかりさん。僕、もう気にしていませんから。』

 シンジのその声には、本当の自分を閉じ込めているような、そんな後ろ暗いものはなかった。だけど、私は聞かずにはいられない。

「・・・・・・許してくれるの?」

『もちろんです!』

 シンジは普段よりも大きく、はっきりした声でそういってくれた。

 私は不覚にも、うれしくて涙をこぼしてしまいそうになた。

 シンジは、自分でも驚いたのだろう。慌てて取り繕うとした。

『あっいえ、違うんです。きっと悪いのは僕の方だったんです。ゆかりさんは気にしないでさい・・・・すみませ・・・』

「碇が謝る必要はないの!謝らないで。」

 咄嗟に私はそういってシンジの言葉をとめた。

『へ?』

 止めた私も、どうしていいのかわからない。こういうときに謝っちゃうのはシンジの口癖みたいなものなのに。

 私は今、シンジにこのことについて、謝ってほしくなかった。

 だって・・・・・・・

「碇がそこで謝ったら、私の気持ちがうそになっちゃう気がする!」

『あっ・・・』

 一瞬、シンジの声に我に帰るがここまで言ってしまったらもう引き返せない。後はその場のノリと根性だ!!

「だから、碇は素直に謝られてなさい!」

『・・・・はい・・・・』

「よし!!」

 今までのように、私が振り回し、その一つ一つに大げさに驚くシンジ。

 そんな関係がまた戻ってきたんだなと思うと、

 馬鹿みたいにうれしくて、

 馬鹿みたいに心地よかった。


『・・・・・あははは』

「あははははは・・・・」

 そうして私たちはしばらく笑いあった。






『ところで、ゆかりさん。今どこに・・・・・』

「ゆかり、誰に電話してるんだい?」

 シンジが何かまた言いかけたところで、私はとうとう見つかってしまった

「あ、パパ。」

 受話器から、シンジの声が聞こえなくなったことを私は不振に思いながらも、少し受話器から顔を離してパパのほうを振り返った。

「あんなことがあったんだから、今は休んでいなさいと・・・・・」

「ちょっとシンジが一人で心配だったから。」

 すこし、負い目に感じながらもこういった言い訳が浮かぶのは演劇のおかげだろうか。

「・・・・・ゆかり、シンジ君に電話をかけているのかい?」

 そうしてパパは私の持っている受話器に目を向けると、少し眉根を寄せて聞いてきた。

「うん、そうだけど。パパも碇に用事?」

「ん?あ、あぁそうなんだ。ちょっと変わってくれるかい?」

「うん、ちょっと待って、シンジ?」

私は受話器を持ち直し、再び電話口のシンジに意識を向けた。

「・・・・・・・・・・」

 しかしシンジは呆けていたのか、すぐには答えない。

「シンジ聞こえてる?ちょっとシンジ?」

『は・・い・・・。聞こえて・・・・ます。』

「ちょっとパパが話があるっていうから変わるね。はいパパ。終わったら変わってよ。あと、残りの度数内からすぐに終わらせてね。」

「解った解った。」

そうして私は受話器をパパに渡した。そのとき残りの度数を確認したら、後15しかなかった。

「シンジ君。いや、悪いね。君一人で留守番をさせて。海が恐いのも解るけど、君もくれば良かったのに・・・・・・ちゃんとご飯食べてるかい?・・・・・そうか、いや、安心したよ」

 パパのゆったりした話し方に、私は思わず苛立つのを止められなかった。

 ここまでで後残りあと12

「戸締りはちゃんとしなさい。」

 あと11

「あんまり夜更かししちゃだめだよ?」

 あと10

「それから・・・・・」

 ああ!!もう!!

「ちょっとパパ!もうそれくらいでいいでしょう!」

「ああ、わかったわかった。じゃあ、シンジ君?・・・・・ゆかりに変わるけど”気をつけて”、ね?・・・・・じゃあ。」

 そうして私はパパからひったくるように受話器を取り戻した。

 残りは9

「碇?」

『ゆかりさん・・・・今海にいるんですね。』

 シンジは先ほどよりも、心なしか明るい声でそういった

「そうよ。あんたが海が恐いからって、パパに行かないって言ったんでしょう?。」

『ははは・・・・そうでしたね・・・・・。』

 軽く笑ってシンジはそういった。

 残りは7

「なによ、それくらいでって思ってたから、碇が約束破っちゃったんだって・・・・・・・」

『約束?』

「ほら、約束したでしょう?海で泳ぎ方教えてあげるって。」

『あ・・・・』

 むっ!!やっぱりわすれてなのかなぁ。

「それなのにあんたってば、あのとき何も言わずに、私に何でなんて聞くんだから。私との約束なんてどうでも良かったんだって。そう思ったら、碇の気持ちを考えられなくなっちゃって。碇からしてみれば、まだ泳げないのにそこで練習なんて、考えたくもないよね。それなのに私は、あんなこと・・・・・・・・」

 話し出すともに、私はまた暗い気分になりそうになってしまった。

『もうその事はいいですよ、ゆかりさん・・・・・・』

 けれどシンジは、今一度そういってくれた。

 残りは4

「ねぇ碇?」

私はこれが最後のなると思って、切り出した。

『何ですか?ゆかりさん?』

「こんどさ、プールにでも行こうね?そこでなら、碇も大丈夫でしょう?」

『うん、お願いします。』

 やっと、シンジに電話をかけてから、初めて一息ついた、そんな気がした。たぶん、私の気持ちをすべて伝ええることが出来たんだと思う。

 残りの度数は1

『あっすみません、こっち、雨が降って来ちゃったみたいです。洗濯物取り込まないと。』

「あっ、そ、そう?じゃあまた電話するね?」

『はい・・・・』

「おみやげ、期待してなさいよ!じゃあね。」

ぷつっ

つーーーつーーー

 そこできりよく電話は切れた。受話器を置いて、吐き出されて残りの度数がゼロになったカードを取り出す。

 そして私は、お土産コーナーに目を向けると、軽くなった体でそちらに駆け出した。


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