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No.246の一覧
[0] 見上げる空はどこまでも朱く【エヴァ】[haniwa](2009/11/30 10:37)
[1] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:23)
[2] 見上げる空はどこまでも朱く[haniwa](2006/07/23 17:15)
[3] 見上げた空はどこまでも朱く[haniwa](2006/08/12 02:52)
[4] 見上げた空はどこまでも朱く 第四話[haniwa](2006/08/12 02:56)
[5] 見上げた空はどこまでも朱く 第五話[haniwa](2006/08/12 03:05)
[6] 間幕[haniwa](2006/07/23 18:03)
[7] 見上げる空はどこまでも朱く   第六話[haniwa](2006/07/23 18:24)
[8] 世間話[haniwa](2006/07/23 03:37)
[9] 見上げる空はどこまでも朱く  第七話[haniwa](2006/07/24 19:51)
[10] 見上げる空はどこまでも朱く  第八話[haniwa](2006/08/16 15:28)
[11] 見上げる空はどこまでも朱く  第九話[haniwa](2006/08/08 16:49)
[12] 見上げる空はどこまでも朱く  第十話[haniwa](2006/08/10 17:13)
[13] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 前編[haniwa](2006/09/12 00:34)
[14] 見上げる空はどこまでも朱く  第十一話 後編[haniwa](2006/09/12 00:36)
[15] あとがき[haniwa](2006/08/14 20:35)
[16] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 前編[haniwa](2006/09/12 00:27)
[17] 見上げれる空はどこまでも朱く 第十二話 後編[haniwa](2006/09/12 00:30)
[18] 後書き[haniwa](2006/09/12 00:32)
[19] 見上げる空はどこまでも朱く 第十三話[haniwa](2006/09/24 21:57)
[20] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 前編[haniwa](2006/10/09 10:45)
[21] 見上げる空はどこまでも朱く 第十四話 後編[haniwa](2006/10/02 15:13)
[22] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅰ 】[haniwa](2006/10/19 16:56)
[23] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅱ 】[haniwa](2006/11/14 22:26)
[24] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 Ⅲ 】[haniwa](2006/11/22 10:01)
[25] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 The End 】[haniwa](2007/01/09 21:32)
[26] 見上げる空はどこまでも朱く 第十五話  【 For Begin 】[haniwa](2007/01/09 21:41)
[27] エピローグ《Ⅰ》[haniwa](2007/01/09 21:47)
[28] 第十六話[haniwa](2007/03/19 16:50)
[29] 第十七話[haniwa](2007/06/25 11:38)
[30] 第十八話 前編[haniwa](2008/06/01 16:46)
[31] ミソラージュ  その一[haniwa](2007/01/24 14:51)
[32] 没ネタ[haniwa](2007/07/10 13:49)
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[246] 見上げる空はどこまでも朱く  第九話
Name: haniwa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/08/08 16:49
『いい!この格好で学校に来るのよ!!』

『え!!いっいやだよこんな・・・・』

『何よ、私の言うこと何でも聞くんでしょう?』

『そっそれは・・・・・』

『あと、自己紹介の時、ちゃんと笑いなさいよ。じゃあ私先に行くから。』

『あっ、待ってくださいよ・・・・ゆかりさーん!!』

これが、本日の朝の山川家、シンジの部屋での出来事だった。










初めての夕焼け      日ノ入編









はぁーーーー



 その深い深いため息は放課後の音楽室で出されたものだった。ため息を吐いた人物はその胸にいったいどんな思いを抱き、そしてはき出しているのだろうか。そう思わずにはいられないほど、シンジの吐いたため息は深く、重たいものだった。

「今日はなんだか・・・・・・・・・・つかれたなぁ・・・・・・」

 シンジはもう一度記憶さえもはき出すように息を吐いた。






はぁーーーーーーーーーーーーーー







 結局、あのあとも騒ぎは収まらず、シンジが女か男か、当のシンジ本人をほっぽり出したクラスで話し合いになった。もちろんシンジも必死に弁明した。頭につけていたヘアピンをとり、これでどうだと言わんばかりに皆を仰ぎ見た。然し返ってくる反応は一様にして同じで、シンジを女子だと思っている陣営からは

「やっぱり、女の子じゃない!!」

と返事が返りもう一方、半ばシンジのことを男と改めようとしていた陣営からは

「あれ?・・・・・・、ちょっと自信なくなってきた・・・・」

と、場を振り出しに戻しかけて終わった。

 チャイムが鳴って1時間目が終わりを告げてもその議題は解決することなく、皆授業をほっぽり出して議論が交わされ、放課後のホームルームにまで持ち越された。そしてシンジはとうとう最後の手段に出た。

 男子だけを引き連れ、教室の外に向かったのだ。

 そこで行われたことにはその後一切男子は口にしなかった。ただ



「碇は男だ。」



という認識のみが広がりそこで事態は力業で終焉を迎えた。顔を赤くしてシンジが出てきた時、ゆかりは中で何があったのかとシンジに問いただした。この騒動の陰の首謀者としてか、それともシンジの様子を印パいに思ってか。教室の隅に連れて行きそっと耳打ちして聞き出そうとした。

「ちょっと、どうしたの?」

「・・・・・すみません、聞かないで・・・・・・もらえませんか。」

 ぽつぽつとシンジはゆかりに顔を背けたまま答えた。よそよそしいその態度が気に入らなかったのか、ゆかりがさらに強く問いただすとシンジはようやく何があったかを口にした。

「さっき・・・・・トイレで、その、・・・・ぼそぼそ」

「・・・・あっあんたなんてこと耳元で言うのよ!!!」

「ゆかりさんが聞いたんじゃありませんか!!!」

「だからってねぇあんた・・・・・!!!」





ぎゃあぎゃあ、





 事態はとても終息を迎えたと言い難くも、その日は終わりを迎えた。








 そうして一人シンジは音楽室に至る。

 何をするわけでもない。ぼーと昨日と同じ場所に座り、傍らには同じようにチェロもある。特に弾きはじめるわけでもなく、ただ目の前の窓から差し込む日の光を浴びながら外の風景を眺め、シンジは今日の出来事を振り返っていた。

 とても騒がしい一日だった。とてもじゃないがもう一度あの雰囲気の中には立ちたくはない。

 シンジは一人きりになった今、改めてそれらの出来事を思い出していた。


 もう一度同じ体験はしたくない。


 然しなぜだろう。もう少しあの場にいたかったな、と思う自分のこの心は。


 シンジはとても疲れていた。いつもならチェロのこともガマンして、あの家に帰ってしまっていたことだろう。例え辛い現実に直面してしまうことが在るとしても。それほどシンジはこれまでにない疲労感に包まれていた。


 これまでにないくらい不安だった、緊張したし、恥ずかしかった。


 でも、今も帰らず学校に留まっているのは、何でだろう?


 あまり人とは接したくなくなっていた。人と対面するのが恐くなっていた。でも今は、出来るならまたクラスのみんなとあんな風にさわいでみたいとも思っていた。

 だから僕はまだ学校にいた。過ぎ去ってしまったあの喧噪の余韻に浸っていたかったから。

「ふふっ」

 シンジは其処まで思い至ると少しそんな自分を笑った。きっとこれはいいことなんだろうなと感じながら。

 少しだけチェロを弾こう。この気持ちを少しでも確かなものにするために。

 そうして、今日もシンジは弓を握った。










「あら、碇何やってんのよ、こんな誰もいないところで。」

「・・・・・ゆかりさん?」

 音楽室の入り口に山川ゆかりが立っていた。走っていたのだろうか、少し息が荒く感じられた。

「あぁチェロ引いてたのね。あんたホントに弾けたんだ?。」

「ゆかりさん、まだ残ってらしたんですか?」

「私はね、演劇部のことで少し残ってたのよ。」

「演劇部なんですか?」

「なによ似合わない?」

「いいえ、そう言う意味じゃ無いんですけど・・・・」

「そう言う碇はどっかはいらないの?。吹奏楽なら確かあったと思うけど。」

「いえ、僕はそういうの苦手ですから・・・」

「なによまた暗いわねー。」

「・・・・・・・・・・・」

 自然と途切れることなく会話が続いた。ゆかりはシンジと会話しながら、一番風が入ってくる窓の近くの背の低い窓際の棚に移動しその上に腰掛けた。そこで改めてゆかりは静かに、シンジに話しかけた。

「ねぇ、碇。」

「何ですか?」

「チェロ、聞かせてくれない?」

「ええ!!」

 ゆかりの突然の提案は、シンジを十二分に驚かせ、同じくらいの混乱を引き寄せた。

「なによ!!いやだっての?」

「いえそういう訳じゃないんですけど、そんなにうまい訳じゃありませんから・・・」

 そういいよどむシンジをゆかりは軽くにらみつけるようにそ動向をうかがい、さらに畳み掛けた。

「そんなの期待してないわよ。いいから弾きなさいって。」

「でも・・・恥ずかしいですから・・・へたくそですから人に聞かせられませんし・・・・」

「あのねぇ、下手だったら人に聞かせちゃいけないの?うわー、きっとあんたへたくそな人を影で笑うタイプだわ。」

「そっそんなこと言って無いじゃないですか・・・・・・」

「そういってんのよあんたは。いいから弾いてみなさいって。」

「・・・・・・・・しりませんからね。」

 結局シンジはそこで折れて弓を握り直し、シンジはチェロを弾きはじめた。

 弾きはじめた曲は、最近よく耳にする曲だった。JーPOPのはずなのにシンジの弾き方では初めて聞くクラシックのようだ。

「・・・・へぇ、チェロって結構高い音が出るのね。もっと重たい音かと思ってたけど。」

「うん、・・・・・僕も・・・・そうおもった。」


 シンジはゆかりの漏らした感想に、自分の思いをそっと乗せて答えた。ゆかりはそういったきり何もしゃべらなくなった。

 シンジもいつしか聞かれたいるという認識が薄れ、己の世界に埋没するかのように演奏に集中した。

 そうしてしばらく、音楽室にはチェロの音色だけが響いた。

 人にこうして自分の演奏を聴いてもらうのは本当に久しぶりだった。

 昔は母に聞いてもらい、父に聞いてもらった。母は上手になったねといってくれた。父はあんな人だから何も言ってくれなかったけれど、きちんと最後まで自分の演奏を聴いてくれた。



 今目の前にいるこの人は、いったいどうな反応をしてくれるだろう?



 シンジは沈んでいた己の意識から浮かび上がった欲求に答え、そっと視線を動かし、チェロだけに向けていた意識をゆかりにも向けた。





 思わず、シンジは弓を落としそうになった。





 ゆかりは窓際の棚に腰掛けているのでシンジより高い位置からシンジのことを見下ろしていた。

 今ゆかりは昼間結んでいた髪をほどいている。さらさらと、開け放たれた窓から教室に入ってくる風でその髪が揺れていた。

 その全身が、傾いた太陽に照らされて、彼女の髪が揺れるたび、まるできらきらと輝きを放っているように見える。その瞳は閉じられていて、そっとシンジの演奏に耳を傾けている。







 (・・・・・きれい、・・・・・だな・・・・・・・・) 







 シンジは演奏は続けている。止められるはずもない。彼女のこの姿をずっと、見ていたかった。

 いばらく、シンジはそんな彼女の姿を見たまま演奏を続けた。そうしていると不意に彼女が口を開いた。

「~~~~~~♪」

 シンジの演奏に合わせ、ハミングで歌い始めた。

 彼女の声はとてもきれいな声で、自分の演奏が何か別のものに変わってしまったかのような錯覚さえ覚えるほどに。

 そっと彼女の目が開かれシンジに向かって微笑んだ。自然と自分もそんな彼女に微笑み返していた。

 其処から様々なメロディをシンジのチェロは奏でていく。彼女もそれに合わせ、自分の響きを変化させていく。

 シンジのチェロと、ゆかりという楽器が奏でるその音楽はまるでジャズのセッションのようにその姿を様々な形に変化させていく。

 ゆかりがシンジの演奏に合わせるように歌い、ゆかりから帰ってくる反応を楽しむようにシンジは弓を動かした。逆にゆかりが先行し、シンジを導くように歌う。

 どちらがどちらを支配するでもない。どちらがどちらにあわせるわけでもない。其処に生まれる不思議な一体感はシンジとゆかりを包み込んでいた。

 シンジは最後に母のあの曲を弾いてみた。まだ完成には至っていないが、どうしても彼女がどう返すのか知りたかった。

 突然変わった曲調に少しだけ歌うのをやめたゆかりがシンジをしっかりと見た。二人の目が合い、シンジが少しいたずらっぽく笑った。その様子にゆかりは戸惑っていたが、すぐにシンジの真意をくみ取り、演奏を聴き、少し考えたあと再び歌い出した。それは先ほどまでのハミングではなく、ちゃんとした歌だった。









空から照りつける太陽


あなたは何を見てるの?


毎日さんさんと輝いて、時々うっとおしく思うけれど


みんなあなたのことが大好き


みんなに元気を与えてくれる





空を漂う雲


あなたは何を見ているの?


毎日ふわふわ漂って、時々邪魔に思うけれど


みんなあなたのことが大好き


みんなに自由を感じさせてくれる





空に灯る星


あなたは何を見ているの?


毎日きらきら輝いて、時々見えずらいけれど


みんなあなたのことが大好き


みんなに希望を与えてくれる






そして、空で眠りゆく月


あなたは私をみてくれている?


一日だけどこかに行って、不安にさせるけれど


私は、あなたのことが大好き。


私に安らぎを与えてくれる。






ひとを空から見続ける


空を過ぎゆくあなた達


私達はあなた達のことが大好きだけど


あなた達は何を想うだろう。


その想いが聞けたなら、


私たちはもう少し


優しくなれるのに









 そうしてゆかりの歌は終わり、シンジもその手を止めた。


 ぱちぱちぱち・・・・・


 どちらが先というわけでもない。二人はいつの間にかその手をたたいていた。

「すごいじゃない碇!!とっても上手!!。」

「・・・・・ゆかりさんも、とってもきれいな声だったよ」

 シンジは未だ夢心地のまま、素直な感想を漏らした。

「歌詞は、・・・・・いつ考えたの?」

「ああ、あれ?今練習してる劇の主役の人の台詞ちょっとアレンジして、最後の曲にとってもあってる気がしたから。」

「・・・・・・うん、とってもきれいな歌詞だった。」

「ねぇ最後のなんて曲なの?」

「あれは、お母さんが好きだった曲なんだ。・・・・・・よくこのチェロで聞かせてくれた。」

 シンジは、少しゆかりから視線をそらし、窓の外を見つめながらそういった。ゆかりはシンジのその様子を見て自分が少し不用意なことを言ってしまったことに気が付いた。

「そう、なんだ・・・・・。ごめんね、そんな大切な曲に勝手に歌詞つけちゃって。」

 申し訳なさそうにゆかりはシンジに詫びた。

「ううん、いいよ。とってもきれいな歌詞だったから。・・・・・・・母さんに聞かせてあげたら喜んでくれたと思うよ。」

 シンジは気にしてはいなかった。歌詞をつけてもらったことも、母の曲がより明確な形を持ったような気がしていた。ゆっくりとゆかりの歌詞を思い出していた。

「ふふっ」

そこでシンジは思わず笑ってしまった。

「なに?」

 笑うことはシンジにとってはいいことだと思いながら、ゆかりはシンジが笑い出した意味がわからない。

「だって、太陽や雲がうっとおしいとか邪魔だとか、ふふふっ」

シンジの自分の歌詞に対する評価だと気がついたゆかりは、歌って上気した頬をさらに少し赤くした。

「うっ、うるさい!別にいいでしょう。」

「うん、いい歌詞だったよ?」

 そうしてシンジはまた微笑んだ。からかわれたことにゆかりは、ぷいっとそっぽを向き、シンジはそれを見てさらに笑った。ゆかりはそんなシンジ様子を目の端で捕らえながら、少し笑っていた

「聞いていい?」

「何?」

 しばらく笑いあったあと、ゆかりはシンジに視線を戻さないまま、急に態度を静かなものに変えた。シンジはその雰囲気に驚きながらもゆかりの次の言葉を待った。

「碇のお母さんってどんな人だったの?」

「・・・・・・どんな人、だったかな。とってもきれいで優しい人だった・・・・・。ごめんあんまり覚えてないんだ。」

「そうなの?」

「うん、顔もお父さんが写真全部捨てちゃって。そのあともお母さんのこと全然話さなくなちゃってさ。」

「何で、・・・・・・・死んじゃったの?」

「それは・・・・・・」

 シンジは戸惑うような気配を見せた。

「あっ・・・・・ごめん。思い出したくないよね、ホント・・・・ごめん。」

「ううん、もしよかったら、聞いてくれる?」

 ゆかりはすぐに思い直し、自分の言葉を撤回しようとした。けれどシンジは意外にも、己のトラウマに向き合うことになることを承諾した。

 なぜかシンジには、ゆかりにこのことを知ってほしいと思っていた。一人で多く、自分の周りに母のことを知ってほしかったからかもしれない。それが例え母の最後の姿であったとしても。

 だからシンジは逆にゆかりに母のことを聞いてくれるように頼んだ。

「・・・・・うん」

 ゆかりはシンジのその意図にはもちろん気が付かない。然し振り返ったシンジがさびそうに笑いながらのお願いを断ることが出来なかった。

 そうしてシンジは母の最後を語り出した。



「・・・・お母さんは、神奈川にある研究所で働いてたんだ。お父さんも一緒に。」

「夫婦で研究所にって、めちゃくちゃ頭良かったのね。」

「うん、そうみたい。そういえばお父さんとお母さんが話してるのを聞いたとき何のことかよく分かんないことが多かったよ。」

「ふーん」

「それでね、よく僕も研究所に連れて行ってもらってたんだ。」

 そこで再びシンジはどこに焦点を合わせるでもなく虚空を見つめた。どこか遠くを見つめるその横顔にゆかりは薄ら寒いものを覚えた。

 シンジはそんなゆかりに気づくこともなく話を続けた。

「あの日も、そんな日の一つだと思ってたんだ。」

 シンジの瞳はゆかりも、夕焼けの音楽室は映っていない。その脳裏には『あの日』の出来事が鮮明に蘇っている。


 
 ゆかりは、そんなシンジをじっと見守っている。今すぐにでも目をそらしたかった。でもいまシンジは今、目を離してしまえば、消えてしまいそうで・・・・・・・・・



それでもシンジは、語り続けた。



「お母さんは、なんだかプールみたいな場所にいて、」




そこで何かが始まったんだ。




何が起こったのか僕には解らなかった。




突然辺りが真っ赤になって、




辺りの人が、なんだか解らないことを言ってた。




お父さんは何も言ってくれないし。




なんだかとっても恐かった




でも母さんは僕を見て笑ってた。




いつもならその笑顔だけで僕は安心できたのに




不安な気持ちが止まらなかったんだ。




それで、





お母さんは






水に溶けて






消えちゃった。






どこにも居なくなっちゃった。






どんなにお母さんのことを呼んでも









おかあさんは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









「碇!」

 そこで咄嗟に、ゆかりはシンジを抱きしめシンジに呼びかけた。

「もういい、もういいから!!もうやめて!!!」

 その声は必死だった。必死にシンジをこちら側に引き止めるため、ゆかりはさらにシンジに呼びかけ、腕の力を強める。
 
 シンジの視界はまるで、靄がかかったかのように目の前にいるはずのゆかりを捕らえられないでいた。

 しかし、ゆかりの声は、のどを詰まらせたように濁っている。あんなに綺麗な声なのにと、場違いなことにしか思考が回らなくなっていた。

「ゆかり・・・・さん?どうしたの?泣いてるの?」

「泣いてない、泣いてんのはあんたでしょう。」

「ぼく?」




 いつの間にか。はらはらと流れる涙にシンジはその頬をぬらしていた。


 シンジは自分の顔に手を当ててその手がぬれていることでやっと自分が涙を流していることに気がついた。




「ほんとだ、ぼくないてる。なんで?あはは、かっこわるいなぁ。」

「碇、かっこわるくなんか無いから、泣いちゃいな。」

 そういいながら、シンジは目に手を当てて、泣くのをこらえようとしが、ゆかりの言葉がシンジの手を止めさせた。

「?・・・・なん・・・・・で?」

「そのままため込んでてもいいことなんて一つもないからさ。」

「?」

「ね?ここなら、誰も見てない。私しか・・・・・いないから。ね?」

「・・・・・・・あ、あれ?・・・・・ははっ?・・・・・・・・・・・・・・・・うぇっ、・・・・・・・・・・ひぅ、うわっ、うああああああああああああ・・・・・」




そうしてシンジは、初めて声を上げて泣いた。







 ひときしりないた後、シンジはそっとその体をゆかりから離した。その目はまだ赤くはれていた。

「ごめんなさい。」

 心配そうに、シンジのことを見ていたゆかりは、突然の謝罪に驚いた。

「いいのよきにしないで。私こそあんな辛いこと・・・・」

「いいえ、ゆかりさんは悪くありません。それに僕うれしかったですから。」

「え?」

「あんな風にお母さんのことはなせたの、本当に久しぶりでしたから。」

 シンジそっと顔を上げ、ゆかりと目を合わせると、そういってぎこちなく笑った。その笑顔は痛々しさを感じさせるものだったが、ゆかりはそんなシンジにこれ以上言い募ることはできなかった

「そう、なんだ。」

「はい。・・・・でも・・・・」

「ん?」

「なんだか・・・・・・恥ずかしいなぁ。」

「ふふっ、いやー碇ちゃんはかわいいわねー。」

「ううーー・・・・。ふふっ」

「あははっ」

最後はそういってお互いの恥ずかしさをごまかして笑いあった。







 夕日が沈みかけた道を、シンジとゆかりは隣り合って歩きながら帰り道についていた。音楽室での出来事の気恥ずかしさからか、お互い顔を合わせようとせず無言のまま歩いていた。







「ゆかりさん。」

 シンジがゆかりに話しかけたのは、そんな道でのことだった。急に立ち止まりそれに気づかないゆかりに後ろから呼びかけた。

「なーにー」

「何でですか?」

「?」

 ゆかりはとなりで歩いていたシンジの声が、後ろから聞こえてきたことで神事が立ち止まっていることに気づいた。そこで気のない返事で答えたゆかりはシンジの質問の意味がわからず、沈黙で答えた。シンジはそんなゆかりの様子にかまわず言葉を言葉を続けた。

「なんで、ゆかりさんは僕にこんな風に接しててくれるんですか?」

「・・・・・・・・・」
 
「僕のこと、お父さんがなんていわれてたか、聞いているんでしょう?・・・・・」

「碇・・・・・」

「何でですか?」

 シンジにとってそれは切実な問題だった。ゆかりは自分に対して、あのことを知らない人たちと同じように接してくれている。このままこの状況を甘んじて受け入れてもよかった。

 目の前の彼女を信じてもよかった。

 しかしシンジはもう、そのまま他人の善意を受け入れることができなくなっていたから。このことをゆかり本人に聞かずにはいられなかった。







「・・・・・それは、そんなに重要なことなの?」

「!!」







 ゆかりの言葉は、意外なものだった。

「碇のお母さんは、事故で死んじゃったんでしょう?あなたはそのことを受け入れているじゃない。」

「・・・・・・・」

 ゆかりは、自分の考えを目の前で固まって動かないシンジに淡々と言い聞かせた。まるでこんな質問をしたシンジが許せず、しかしその苛立ちを抑えるように、。

「そうね。たとえば、本当にあなたのお父さんがお母さんを殺していたとする・・・・・・・・・」

「!!!・・・・・・・」

 シンジの体がその言葉に少しだけ反応した。次にゆかりが放つ言葉に耐えるためにと、体をこわばらせた。






「それでもそれは、あなたには関係ないじゃない。・・・・少なくとも、私はそう思うし、そう思ってるわ。」

「・・・・・・・・」






 それでもゆかりの言葉はシンジを拒絶するものではなく、こわばる体を解きほぐしてゆく言葉だった。そこでシンジはゆかりの目を見る。そこには、その後ろで輝きを放つ太陽に負けないくらい、強い光を放っているゆかりの瞳が在った。

「いい?次ぎこんな質問したら今度こそ本当にみんなに話してやるからね!!」

「・・・・・うん」

 それで話は終わりだといわんばかりにゆかりはシンジを置いて再び前を向き歩き出した。シンジはその背中を眩しそうに見つめていた。

「ふん!!分かればいいのよ。ほら、遅くなっちゃったんだから早く帰るわよ。」

「うん!」

先を行くゆかりに追いつくためにシンジは駆け出した。









しばらくして、ゆかりの後ろを恥ずかしそうに歩いていたシンジは前を行く背中に声をかけた。

「ゆかりさん?・・・・・・」

「今度は何よ!!」

 先ほどのことを思いかえして、顔を赤くしていたゆかりは今度はシンジを振り返らずに返事を返した。シンジはその背中にそっと微笑みながら、







「ありがとう・・・」





といった。





「!!・・・・どういたしまして!!。」





そして、一瞬驚いたゆかりも、シンジには見えなかったが、今日一番の笑顔で答えた。














そうして、今日の陽は沈む。

















謝罪、お詫び、申し開き、贖罪、弁明、いいわけ、その他様々な意味を込める後書き。

 すみません・・・・・。エヴァンゲリオンのえの字も入っていない。その他の方にこの作品移動した方がいいかな?なんて考えはじめている、どうもお久しぶり、ぼくhaniwa。

 ただでさえ、オリジナル色濃厚だったこのお話、不快に思う人もさぞかし多かったことと思います。申し訳ありません。プロローグあとの後書きにその旨を伝える文章を追加しました。

 今回はかなり、自分の作品からも、イメージが離れてしまうような話にしてしまいました。これまでこの作品を気に入っていただいていた方にも本当に申し訳なく思っている次第です。ですがどうか、「だったらこんな話書いてんじゃねーよ」等のお言葉は、ご容赦してください。もしそのような言葉をいただいても真摯に受け止める次第ではありますが、これもこの作品の一つの大事な流れであると受け取っていただけるとありがたいです。

追伸?;あー!!自分で考えた詩自分できれいとか言っちゃったーー。はっ恥ずかしい。(悶絶)すみません!!


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