「いったいどうなってるのよ! 状況を報告しなさい! レイとアスカとの通信はまだ回復しないの!?」
N2ミサイルの爆心地であるディバイディングフィールドの大穴から少し離れた場所。そこに待機しているNERV指揮車内に作戦指揮官である葛城ミサト一尉の怒号のような、そして喚き声のような大声が響いていた。
「説明して!」
「何とかしなさい!」
「これは命令よ!」
具体的な指示など何も出さず、ただ結果だけを求める自称『有能美人指揮官』の声に、車内のオペレーター達は呆れ返っていた。ミサトを見る彼らの視線は、15年前に消え去った極寒の地、南極すらも暖かいと思わせるほど冷たく、寒い。
いくら喚かれても、N2の爆発による電波撹乱や爆風その他の障害で、指揮車だけの設備では状況の把握は難しいのだ。本部発令所に応援を頼もうにも、未だ通信さえできない。
だいたい、今のこの状況を引き起こした原因の一つは、紛れも無くこの『葛城ミサト』なのである。N2ミサイルの発射要請にエヴァ零号機・弐号機のシンクロ強制カット。そして、予期せぬ四発目のミサイル。それは使徒ではなく、GGGのロボットとエヴァ二体を巻き込んで爆発した。
爆発そのものはGGGが何とかしてくれたようだが、その後、チルドレン二人との連絡が取れなくなった。同じく、要請外の四発目のミサイルを発射した国連軍の部隊にもだ。
状況を説明して欲しいのはこちらの方である。彼女は、それが判っているのだろうか?
いや、判っている人間ならばこんなにも喚いたりはしない。
これではまるで癇癪を起こした子供だ。自分の思い通りにならなかったことに対して腹を立てているだけだ。
オペレーター達の冷めた瞳は、ミサトをそう捉えていた。彼女の直属の部下あり、心からミサトを信頼していたはずの日向マコト二尉も同じように………。
このミサトの執った行き当たりばったりの作戦行動は、結果として、改めてGGGの高い実力と優秀さ、そしてNERVの底の浅さを露呈するものとなってしまった。
そんな中
――――― 「あ、これ………センサー回復! 反応あり!」
懸命に情報を集めていたオペレーター・伊吹マヤ二尉は、こちらに近付いてくる何者かの反応を捉えた。
「何? どうしたの!?」
ミサトが身を乗り出して、ようやく復旧し出したセンサー画面を見る。マヤがちょっと迷惑そうだが、ミサトはそんなこと気にしていない。というか、気付かない。目の前のことで手一杯なのだ。
センサーには、二つの光点がこちらに向かってくる様子が捉えられていた。それと同時に、ズン……ズン……と一定間隔で響いてくる地鳴りのような音が聞こえてきた。
「何よ……この音……」
「あ! この反応、GGGのゴルディーマーグ………それに………エヴァ零号機と弐号機が一緒です!」
「な…何ですってぇっ!?」
指揮車から飛び出したミサトの目にエヴァンゲリオン二体を両肩に抱えたゴルディーマーグが………そして、赤十字のマークを付けた救急車のような車がこちらに向かってくるのが見えた。
「ちぃっ!!」
迫り来る危機に何の対処が出来ないことを歯痒く思い、ガイは舌打ちする。
太陽の光を反射させ、黒光るイスラフェルの手刀。
その刃で、四体に分裂した使徒が四方八方から破壊神を斬り刻もうとした時
――――― 「
双頭龍!!」
「五連メーザー砲!!」
緑と黄に煌めく双龍、そして赤き五本の条閃がイスラフェル四体の身体を貫き、吹き飛ばした。
「こ…これは!?」
突然の出来事に驚くガイの前に、上空から巨大な白いロボットが降り立った。
「無事か? すまない、遅くなった」
「キングジェイダー! それに
――――― 」
「隊長ーぉっ!」
ガイを呼ぶ声と共に、キングジェイダーと同じく空より降り立つ鋼の巨人。中心から右が緑、左が黄と色分けされた、超竜神とよく似たシルエットを持つこのロボットの名は
――――― 「
撃龍神(っ!!」
そう、それが彼の名。氷竜・炎竜の超AIと基本設計を元に造られた可変ビークルロボ『風龍』と『雷龍』が
合体(することで誕生する勇者ロボである。
元々レスキュー用として開発された氷竜と炎竜とは違い、初めから戦闘用ロボットとして開発された風龍と雷龍の戦闘能力は、GGGの勇者の中でもトップレベル。その二体が合体し『撃龍神』となることで、その能力は遥かにパワーアップするのだ。
頼もしすぎる仲間の復活に、ガイは頬を綻ばせる。
「すまねぇ、隊長………寝坊しちまった」
「いや、よく目覚めてくれた」
心から復活を喜ぶガイ。
「ガイ、ここは我らに任せ、撤退しろ」
「しかし! ……………すまん。 後を頼む」
このままでは満足に戦えない。これ以上は彼らの足手纏いだと判断したガイは、悔しさに顔を歪ませながらも、Jの言葉に従って後退を始めた。
破壊された左腕により生まれた死角を庇いつつ後ろに退がるガオガイガーを、イスラフェルは「逃がすものか」と追う
――――― が、そこに二体の勇者が立ち塞がった。
「何処へ行くつもりだ? 貴様らの相手はここにいる!」
「遅刻した分、目いっぱい暴れさせてもらう! いくぜっ、イスラフェル!!」
撃龍神の咆哮と共に、キングジェイダーの左腕の砲塔が火を噴いた。
「反中間子砲っ!!」
「そのプログラムはコード045へ転送! ファイルチェック……パターンC.aじゃわい。 スワン君?」
「
了解(」
「スタリー君。 イスラフェルを『以前』通り食い止めるとして、必要なダメージはどれくらいになるかの?」
「計算では、構成物質の72.023674%以上が絶対条件となってマス」
「ふぅむ、出力制御が必要となるか………猿頭寺君」
「はい、組み込みます」
宇宙に浮かぶGGGの作戦司令室、オーッビトベース・セカンドオーダールームでは獅子王ライガ博士の指揮の下、スタッフ全員が慌しく動いていた。ガオガイガーによるイスラフェルのコア摘出作戦が失敗した後、すぐさま次の策が練られていたのだ。
とはいえ、ガオガイガーが撤退した今、分裂したイスラフェルのコア四つを同じタイミングで回収することは容易ではない。キングジェイダーの『ジェイクオース』も撃龍神の『双頭龍』にしても、複数のコア摘出には僅かながらのタイムラグが発生してしまい、イスラフェルの相互補完能力が瞬時にコアを再生させる。
では、どうすればよいのか?
単純な答えとなるが、それは『一瞬では再生できない程の
負荷(を一気に与え、イスラフェルをこの場に留める』ということだ。そして、再生が完了して再侵攻を始めるまでの間に新たな作戦を考える。
幸い『以前』のデータ通り、このイスラフェルも、分体の同じ箇所に受けたダメージについては相互補完が作用せず、第3使徒サキエルと同程度のスピードによる再生しか行えないことが判明していた。
だが、GGGには『N2』のような広域破壊兵器がない。敢えて挙げるとすれば『ソリタリーウェーブ』がそれに当たるが、これは対象が限定される上、扱い次第では使徒どころか地球さえ破壊する可能性がある。迂闊には使えないのだ。
ディビジョンⅧ 最撃多元燃導艦タケハヤに搭載された多次元コンピューターの計算では、四重A.Tフィールドを操るイスラフェルの防御を貫いてダメージを与える為のエネルギー量は凄まじく、勇者ロボが一体では
――――― それが仮に『ジェネシック』であっても、生み出すことはできないだろうとされた。
しかし、GGGの
頭脳(であるライガ博士には、一つの案があった。これならば確実だという案が。その根拠となったのは、かつての三重連太陽系での戦いの最中に起こった、ルネ・カーディフ・獅子王のGストーンとソルダート・JのJジュエルの共鳴現象である。
尽きかけていた彼らのエネルギーを復活させたばかりか、共鳴による相乗効果により限界を超えたパワーを引き出したあの現象。ライガはこの世界に来てから、それについて研究を続けていた。
まだ途中の不完全なデータではあるが、ライガ達は今、それを元にプログラムを組んでいるのだ。撃龍神とキングジェイダー………GとJのエネルギー共鳴融合をサポートするプログラムを。
撃龍神とキングジェイダーの熾烈な攻撃は、四体のコンビネーションを仕掛けるイスラフェルを圧倒するが、それでもコアクリスタル回収の為に一気に仕掛けられない二機は、無限とも言える再生を繰り返す使徒の前に、次第に劣勢になっていく。
「くっ……厄介な能力だ。 これではキリが無い」
Jは、全力が出せないもどかしさに歯噛みした。
このままでは埒が明かない。オービットベースへ通信を繋げる。
「獅子王ライガ! プログラムはまだか!」
〔そう急かすな! あと少しじゃわい!〕
セカンドオーダールームでは、その作業が終盤を迎えていた。
「猿頭寺、プログラム作成完了!」
「スタリオン、終わりまシタ!」
「スワン、OKデス!」
各員の報告を聞き、ライガは頷く。
「よし! リツコ君」!」
「大丈夫です。 いけます」
複雑なデータと少ない時間の為、数人で分けて作られていたプログラムがリツコのコンソールに転送される。最後の仕上げが彼女の仕事だ。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタキーボードで舞い踊るリツコの細指。それは正に神速のキータッチ。天才プログラマー・猿頭寺でさえ、その動きに見惚れるほどだ。
「プログラム統合……コンプリート!」
Enterキーが叩かれ、全プログラムの構築作業が終わった。
「うむ! Let’s Goじゃ!」
普段と変わらず、おどけたようにポーズを決めたライガだが、手袋は汗で滲んでいた。それは、一抹の不安の表れなのだろうか………。
「ぷろぐらむ・でーた受信……完了。 圧縮ヲ解凍……ぷろとこる確認」
スーパーコンピューターMAGIに匹敵する演算処理能力を駆使し、トモロ0117はオービットベースより送られてきたプログラムを走査する。失敗が許されない状況だ。万が一のことがあってはならない。
行動予測演算(開始……パターン01……パターン0704……パターン1,678……パターン48,975……パターン9,740,018……パターン302,448,116……僅か0.817秒で3億を超える予想結果を弾き出したトモロ。その中からこの状況に最も適し、尚且つ今後の作戦に支障が出ないパターンを選んだ。
「演算終了……撃龍神、でーたヲ送ル。 出力全開。 細カイ調整ハ、コチラニ任セロ」
トモロから送信されたデータを間違いなく受け取った確認の意を込めるように、撃龍神の双眸が輝く。
「Jモイイカ?」
「了解した。 いくぞ、五連メーザー砲!!」
キングジェイダーの右の五指から放たれた閃光が天使達に襲い掛かる。
しかし、間合いが離れていた為か、四体のイスラフェルは難なく避けた
――――― が、それは勇者達の誘いだった。
「逃がさねぇぜ! ジャオダンジィ!!」
ガオガイガーとの戦いの時と同じように散開し連係姿勢を取ろうとしたイスラフェル達に対して、撃龍神の右腕を構成するタンクミキサー部『ジャオダンジィ』から凄まじい風のエネルギー波が放たれる。それは巨大な竜巻を生み出し、一瞬にして天使達を巻き込んだ。
イスラフェル四体はA.T.フィールドを張って防御するが、竜巻の風は暴れ狂い、その身を一箇所に固めさせて動きの自由を封じてしまった。
しかし、これでは使徒にダメージを与えられない…………いや、この攻撃はダメージを与えることが目的ではなかった。
「今だ! やるぞ、撃龍神!!」
「おう! キングジェイダー!!」
チャンスは逃がさない。二体の巨人はスラスターを噴かせ、竜巻によって動きの取れないイスラフェルの頭上高くに舞い上がった。
これから繰り出される技は、発動までに時間が掛かる。意外に素早いイスラフェルには暫くの間、じっとしておいてもらわなければならないのだ。
「唸れ疾風!」
撃龍神の右腕、ジャオダンジィが高速回転を始め、風のエネルギーが渦巻いていき
――――― 「轟け雷光!」
同じく、左腕に装着されている電磁荷台『デンジャンホー』が超電磁を放ち、雷のエネルギーを高めていく。
二種の異なる力は融け合い、双頭の龍を喚び出した。
「Jジュエルよ、我に力を!」
キングジェイダーの右腕に装備された最強武器『ジェイクオース』に焔の翼が宿る。
「「ぬん!」」
互いに背を合わせ、イスラフェルに対し照準を付けるように撃龍神は左腕を、キングジェイダーは右腕を同時に突き出した。
「双龍よ! 焔の翼を羽ばたかせ
――――― 」
「
――――― かの敵を喰らい、焼き尽くせっ!!」
「「
双 頭 飛 龍(っ!!」」
撃龍神とキングジェイダー、各々の最大奥義の合体技。だが、それだけではない。
『無限情報サーキット・Gストーン』と『情報制御型エネルギー結晶体・Jジュエル』。この二つによって生み出されたエネルギーの融合と共鳴は、その紡がれし力を爆発的に増幅させた。
炎の翼で羽ばたく双頭龍。巨大な神獣の
顎(が、身動きを封じる竜巻ごとイスラフェルを呑み込もうとする。
そのあまりの威力を感じ取ったイスラフェル四体は、A.Tフィールドの出力を全開にした。全力の、しかも四重のA,Tフィールドだ。N2の爆発すら軽く防いでしまう硬度だろう。
だが、飛龍の牙は易々と光の壁を貫き、風と雷と炎の融合エネルギーが使徒を呑み込んだ。
ドガガアアアァァァァァァァァンッ!!!N2ミサイル数発を同時に爆発させたような爆音と衝撃。あらゆる物が吹き飛び、大気と大地が揺れた。その振動は、第3新東京市でも『震度3』と観測されたほどだった。
日本各地からでも観測された巨大なキノコ雲。そして、降り注ぐ瓦礫と舞い上がる粉塵を伴った爆煙。
箱根の山々から吹き降ろされる風がそれらを晴らした時、そこにあったのは、直径1000mはあるであろう巨大な
爆発跡 (。そしてその中心には、全身を黒く焼き焦がし、活動を止めた四体のイスラフェルがいた。
ツクヨミ艦橋で戦況を確認した火麻は、静かに次の指示を出した。
「機動部隊総員はオービットベースに帰投。 今後の対策を再検討する」
「了解」
第四拾壱話へ続く