ビーーーーーーッ! ビーーーーーーッ! ビーーーーーーッ!第3新東京市の地下深くにあるNERV発令所と同じく、地球の衛星軌道上に存在するGGGオービットベースにも警報が響き渡った。オーダールーム中央部のリフトが稼動し、作戦指令室はメインからセカンドに移行を開始する。
「日本、紀伊半島沖より第3新東京市に向かって移動するA.T.フィールド反応を確認! パターン解析………使徒イスラフェルです!」
移行が完了すると、セカンドオーダールームに常駐する女性オペレーターから報告が入る。それを聞き、司令長官である大河コウタロウが指示を飛ばした。
「総員、第1級戦闘配備!! GGG機動部隊は直ちにツクヨミにて出撃! マイク、及びジェイアークは、使徒の同時襲来に備え、オービットベースで待機してくれ」
〔了解だ〕
〔判ったもんネ~~〕
GGGは既に、死海文書の記述にある襲来スケジュールを当てにしていない。シャムシエル戦から間髪入れず襲ってきたラミエルや、襲来の順番を無視したイロウルなど、この世界は不確定要素が多い。
先のことなど判らない。本来はそれが当然で、備えは常に必要だった。
使徒一体に対して全戦力を投入する訳にはいかない。Jもマイクも、それを承知しているからこそ、彼らは異論無く大河の指示に従ったのだ。
「火麻君、頼むぞ!」
〔おうよ!〕
ツクヨミに乗り込んだ作戦参謀 火麻ゲキが、モニターの向こうで大河に応える。それに頷くと、彼は次に、本来の使徒殲滅機関である組織の状況報告を求めた。
「NERVの動きは?」
「二機ノ大型輸送機、及びサポート車両の出撃ヲ確認しまシタ。 当初の予測通リ、使徒の上陸を直前で阻ム作戦のヨウデス」
スワンの報告。そこに猿頭寺が「第3新東京市でチルドレン護衛任務に就いていたボルフォッグも、戦闘予想区域に急行」と報告を付け加える。
大河は「うむ」と頷き、イスラフェルのデータが映るモニターに視線を戻した。
「ふむ……ガギエルの次はイスラフェルか。 今のところ、イレギュラーはイロウルだけじゃのう」
モニター内の別ウインドウに映る使徒の反応を見ながら、ライガが呟く。
「Dr.ライガ、何か気になることでも?」
大河は、ライガの表情からそれを読み取る。いつも陽気な彼にしては、珍しく渋い顔をしていた。
「以前、シン君が話していた『使徒同士の情報伝達』の仮説………覚えておるかの?」
「ええ。 それが?」
「ラミエルやイロウルの行動から推測できるように、使徒は我々GGGを目の敵にしておる。 本来の目的であるはずの『アダムとの接触』を無視してまでもじゃ」
「では、博士はこのイスラフェル襲来の裏に何かがあると?」
「それは判らん。 じゃが、使徒の行動や能力はシン君の記憶にあるものとは明らかに違ってきておる。 それが顕著だったのはイロウルとガギエルじゃった」
「JA乗っ取りにソリタリーウェーブか」
確かに、シンの記憶にある使徒襲来スケジュールを参考に作戦を立てていたGGGにとって、イロウルの襲来、そしてJAの乗っ取りは、予想外以外の何物でもなかった。ガギエルにしても、ソリタリーウェーブを使ってくるなど考えもしなかった。
「このまま、すんなりいくとは思えん。 気が抜けんわい」
〔超翼射出司令艦ツクヨミ、分離! 発進します!〕
大河、そしてライガの心配を余所に、ツクヨミはオービットベースから発進し、大気圏突入の体勢に入った。
気持ちがいいほど澄んだ青空。所々に点々とする白い雲が、空の青さを一層際立たせていた。
そんな中を二機の大型飛行機、エヴァ専用長距離輸送機が飛んでいる。その懐に抱かれているのは赤いボディが印象的なエヴァンゲリオン弐号機。そして、もう一機の輸送機には、先日改装作業を終えたばかりのエヴァンゲリオン零号機 改。弐号機とは対称的な青い機体色である。
空中の輸送機と同じように、地上でも大型車の集団が疾走していた。NERVの移動作戦指揮車を先頭としたエヴァのサポート車両の一団である。
今回の戦闘地域は設備の整っている第3新東京市ではない為、武器・弾薬等を積んだトレーラーを伴っての出撃であった。
前線で戦う任を背負うエヴァのパイロットであるアスカとレイは、エントリープラグ内で目を瞑り、自らの集中力を高めていた。戦闘前のコンセントレーションである。
いくら前の世界で使徒戦を経験しているといっても、ここが全く同じ世界でない以上、その経験が丸ごと生かされるわけではない。それに、使徒の強さは以前を凌駕している。
決して油断はできない。
シンやマイ、そしてGGGのみんなは「任せろ」と言ってくれているが、だからと言って、それに甘えることはしたくなかった。
みんなの力になりたい。
そして、何よりも
―――――シンの力に。
その強き想いが今の二人を動かしていた。
そこに、地上を走る指揮車のミサトから通信が入った。
〔聞こえる? 先の第4使徒、及び第5使徒戦で第3新東京市の迎撃システムは大きなダメージ受け、現在までの復旧率は26%。 実戦での稼働率は0と言ってもいいわ〕
珍しく戦闘前に作戦指示を出すミサト。だが、それを茶化すほどアスカとレイは無神経ではないし、そんな場合ではないことも判っている。二人は黙って聞いていた。
〔したがって今回は、上陸直前の敵を水際で一気に叩く。 零号機、並びに弐号機は、交互に目標に対して波状攻撃。 近接戦闘でいくわよ〕
「「了解」」
前回と同じ作戦だが、客観的に考えてみても非は無い。二人は素直に従った。
予定戦闘区域である駿河湾の海岸線に到着すると、輸送機はロックを解除して零号機と弐号機を投下した。
地上に降り立った二機のエヴァは、専用の電源装備トレーラーからアンビリカルケーブルを取り出し、背部のコネクターに装着する。今回は、電源設備の無い第3新東京市外での戦いである。これが無くては話にならない。
次に、零号機はパレットライフルを、弐号機は長刀のような武器『ソニックグレイブ』を装備輸送トレーラーから取り出して構えた。
間を置かず、目の前の海に水柱が上がる。その中から諸手を挙げた恰好の人型生物が現れた。
「来たわね」
「ええ」
アスカにもレイにも、見覚えがあった。分裂能力を持つ使徒、イスラフェルである。
気合を入れるように、レイとアスカは改めてインダクションレバーを握り締めた。
「攻撃開始!!」
ミサトの指示と同時に、零号機はパレットライフルを連射する。一拍遅れて弐号機も動いた。
射撃の邪魔にならないように、ソニックグレイブを構えてイスラフェルに突撃する弐号機。アスカは、イスラフェルの身体に着弾する援護のライフル攻撃を見て、使徒のA.T.フィールドが中和されていることを確認した。
「イケる!」
インダクションレバーを握るアスカの両腕に力が込められ、気合が入る。ガギエル戦ではA.T.フィールドが中和できなかった為、満足に戦えなかった。その借りを今、ここで返す。
「たあぁぁぁぁぁぁっ!!」
イスラフェルの手前でジャンプする弐号機。そして、振りかざしたソニックグレイブを思いっきり振り下ろす。
ザシュッ!!一刀両断!!
弐号機の速さについてこられなかったのか………イスラフェルは避けもせず、防御することもなく、唐竹割りの如く真っ二つに斬り裂かれた。
「ナイスよ、アスカ!!」
一撃で使徒を両断したアスカを、ミサトは手放しで褒めた。それと同じように勝利に沸き返る指揮車、そしてNERV本部。今までは、全てGGGが使徒を倒してきたのだ。NERV単独で使徒を倒せたのは、これが初めて。しかも、それがエースと噂される天才少女の操る弐号機なのだから、嬉しさは一入である。
「さすがね、アスカ。 あなたがいればGGGなんてメじゃないわ。 これからも頼むわね♪」
グッ! と親指を立て勝利を喜ぶミサト。その後、戦闘終了と撤収を宣言しようとした彼女は、まだ使徒に対して警戒を解かない二機を変に思い、問い掛けた。
「二人とも、どうしたの? 撤収するわよ」
その問いに返ってきた答えは、アスカの叱咤。
〔アンタ、バカァっ!? まだ倒してないわよ!!〕
「へっ?」
呆けるミサト。そんな彼女とは対照的に、指揮車内のオペレーター達は使徒のデータを再確認する。
「これは!? パターン青、健在!!」
日向の報告に指揮車内、そしてNERV本部は再び緊張に包まれる。
その時、左右に両断され、肉塊となったはずの使徒が動き出した。傷口がズブズブと蠢くと、それは瞬時に再生され、二体のイスラフェルが現れた。
「分裂!? なぁんてインチキっ!!」
思わず通信マイクを握り潰すミサト。
彼女の叫びは、レイとアスカ以外のNERV全員の声に等しかった。
「さあ、こっからが本番よ!」
華麗なバックステップで後方に下がる弐号機と、パレットライフルを捨て、ナイフを手に前進して弐号機に合流する零号機。
〔ちょっと……何してんの、あんた達!?〕
ミサトから通信が入るが無視する。気を取られて使徒の動きを見逃したくはない。ただでさえ、この使徒は『強い』のだ。
「レイ、アンタの動きに合わせるわ。 ぶっつけ本番だけど、アレ……やるわよ!」
「うん」
〔人の話を聞
――――― !!〕
怒号のようなミサトの通信を合図にしたかのように、二体に分裂したイスラフェル『甲』『乙』がエヴァに襲い掛かる。
弐号機と零号機はプログナイフを手に、全く同じ構えを取った。
自分の予想を超えて動く状況に、ミサトは何の対応もできなかった。ただ息を飲み、モニターを見詰めるだけで………。
「速い!?」
使徒のスピードは、アスカが以前経験したイスラフェルのものよりも増していた。それがアスカを驚愕させ、レイとのユニゾンのタイミングをずらしてしまう要因となった。
「アスカ!!」
「ヤバっ!!」
一瞬の隙をつかれ、間合いに侵入される弐号機。レイはカバーに回ろうとするが、自分の前にもイスラフェルがいる。攻撃を防ぎ、躱すだけで精一杯だった。
だが、そこに
―――――「ウルテク・メルティングガン!!」
上空から火線が降り注いだ。赤い光線は、弐号機の前のイスラフェル乙を怯ませる。
「え!?」
使徒の攻撃に身構えていたアスカは、突然の出来事に呆気にとられる。それは、さらに続いた。
「ウルテク・フリージングガン!!」
同じく上空から青い火線が降り注ぎ、零号機の前にいたイスラフェル甲を怯ませ、後退させた。
「………上から?」
レイとアスカは光線が降ってきた空を見上げる。と
―――――「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
今度は、大層な叫び声を上げながら、弐号機と零号機の頭上から巨大な影が降ってくる。それは赤い人型のロボットだった。
ドゴオオォォォォォォォォォォォォォォン!!どうやら、頭から地面に突っ込んだようだ。瓦礫と粉塵が辺りを舞い、ロボットと使徒の姿を覆い隠すが、ロボットはちゃっかり、そのままの勢いでイスラフェル甲と乙の二体に体当たりを仕掛け、後方に吹っ飛ばしていた。
それに続き、青い人型ロボットが上空から振ってくる。こちらは上手く着地した。
「炎竜、いい加減にしろ! 何年経てば直るんだ? その癖は」
「ハハ、すまねぇ………」
砂煙の中、よっこらせっと立ち上がった赤いロボット・炎竜は、ポリポリと頭を掻きながら笑っていた。
「まったく………」
その弟の様子に嘆息する兄の氷竜。えらく人間臭いロボット達だ。
いきなり空から降ってきた援軍に、呆気にとられるアスカとレイ。
こちらを見詰め、ぼうっとして固まっているエヴァ二体を怪訝に思いながら、氷竜と炎竜は話し掛ける。
「大丈夫か?」
「後は僕達に任せな」
その言葉に ブルッ! と頭を震わせて再起動したアスカは、怒り心頭とばかりに怒鳴り上げた。
「何であんな登場すんのよ! 危ないでしょう!!」
そんなアスカと対照的に、レイは着地に失敗した炎竜を心配する。
「大丈夫?」
そんな彼女達に気をとられていた兄弟竜の背後から、イスラフェル甲と乙が「隙あり」と襲い掛かった。
「「危ない!!」」
弐号機と零号機は、迫り来るイスラフェルに気付き、氷竜と炎竜を庇う為に前へ出ようとする。しかし、その襲い掛かる使徒の前を、銀色に輝く二つの三日月が通過し、攻撃を躊躇わせた。
一瞬止まる使徒の動き。
それを見逃さず、二体の竜は甲、乙に対して同時に回し蹴りを見舞う。
「たああああああっ!!」
「おおおおおおおっ!!」
エヴァによってA.T.フィールドを中和されているイスラフェルは、その蹴りをまともに喰らい、数百mもの距離を吹き飛ばされた。そしてさらに、追い討ちのように後方から撃ち込まれた砲弾が、二体のイスラフェルに直撃、爆発した。
イスラフェルの隙を作った銀の月が空中で螺旋を描き、それを放った者の手に帰還する。海面に突き刺さるように出ている高層ビルの瓦礫の上に人型の陽炎が揺らめくと、そこに紫の忍者が現れた。
「ボルフォッグ推参!」
両手にブーメランを手にしたボルフォッグが、氷竜と炎竜達に合流する。
「油断は禁物です!」
「悪りぃな」
「助かったよ」
ボルフォッグの言葉に反省する氷竜達。と同時に、その後ろから大きな砲塔を装備したオレンジ色のタンク車が姿を現した。ビークル形態・ゴルディータンクに変形したゴルディーマーグだ。よく見ると、砲塔の先が微かに煙を噴いている。先程の砲弾は、どうやらここから放たれたものらしい。
「ふうっ………やっと追いついたぜ」
「ギリギリセーフだったな」
アスカとレイは炎竜の台詞が理解できなかった
――――― が、それはすぐに判った。GGGの作戦は、既に始まっていたのだ。
「作戦スケジュール通りですね………来ます!」
ボルフォッグの言葉を受け、勇者ロボ達は、未だ倒れたままの使徒から距離を取りだした。
「何? どうしたのよ?」
「一旦、後退します。 あれを見てください。 巻き込まれますよ」
ボルフォッグの指差す上空に視線を移すアスカとレイ。そこには、一直線にここ目掛けて降下してくる一つの光点があった。
戦闘区域後方のNERV指揮車でも、その様子は捉えられていた。
「上空より高熱源体が急速降下してきます!」
「いったい何なの!?」
「ただいま確認中!」
指揮車からMAGIを介し、高性能カメラで捉えられたそれは、もの凄い勢いで降下してくる黒き破壊神の姿。誰もがよく知る、あのロボットの名は
―――――「ガオガイガーです!!」
「また……私の邪魔をして………」
ガオガイガーが映る指揮車のモニターを、ミサトは使徒を見る目と同じく憎悪を込めた眼差しで見詰める。思わず握り締めたミサトの手は、この日2個目の通信マイクを破壊した。
「ディバイディングッ……ドライバーァァァッ!!」
イスラフェルのほんの数十m先に穿たれたドライバーの穴は、ディバイディングコアの解放により、直径数kmにもなる巨大な戦闘フィールドを創り上げる。それは、海中に街が沈んだ足場の悪いこの戦闘区域を、何の障害物の無い平らな土地へと変えた。
「凄い!」
その光景を初めて見るアスカとレイは、その凄まじさに驚く。
「足場が不安定だと、それが隙に繋がるからな」
偉そうに講釈を垂れる炎竜。
「後は私達に任せてください」
「大丈夫なの? あの使徒は………」
「判っています」
「だからこそ、僕達の出番なのさ」
アスカの問いに氷竜は頷き、炎竜は胸を張る。
アスカもGGGメンバーとの対面の時、氷竜と炎竜のことは聞いていた。彼等のAIが完全同型のものであると。
となると、ぶっつけ本番のレイとのユニゾンよりも可能性は高い。イスラフェルとの戦いにおいて、これほど適任な者はいない。
『任せられる』
アスカは、そう判断した。
「判ったわ。 アタシ達は援護に回る。 使徒のA.T.フィールドを中和して、防御力の心配を無くしてあげる」
「ありがてぇ」
「しかし、大丈夫ですか? ディバイディングフィールドの外からでは、かなりの距離がある」
「今のアタシ達のシンクロ率ならA.T.フィールドの中和だけに集中すれば多分、大丈夫。………試したことは無いけどね」
ぺろっと舌を出すアスカ。
そんな彼女を、レイがフォローする。
「私たちに任せて。 やってみせるわ」
「判りました。 では、行きましょう! ガンマシン集結!!」
ボルフォッグは、サポートメカであるガンマシンを呼び寄せる。合体してビッグボルフォッグになると、先陣を切って戦闘フィールドに飛び込んだ。
氷竜と炎竜、そしてゴルディーマーグがそれに続く。サポートしてくれる言ったアスカとレイを信じて。
使徒との戦闘に向かうGGGを見送るアスカとレイ。そこに、指揮車のミサトから怒声にも似た通信が入った。
ディバイディングドライバーを左腕から切り離し、イスラフェルの前に降り立ったガオガイガー。そして、その傍らに集う最強勇者ロボ軍団。
「GGG機動部隊、参上!!」
「イスラフェル! 貴様のコア、回収させてもらうぞ!!」
獅子の鬣を思わせるオレンジの髪を靡かせ、ガオガイガーは ビッ! と指を突き付ける
――――― が、イスラフェルは、それを不敵に笑うようにコアを煌めかせていた。
第参拾捌話へ続く