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No.226の一覧
[0] 新世紀エヴァンゲリオンFINAL ~勇気と共に~(×勇者王ガオガイガー)[SIN](2008/03/10 18:47)
[1] 予告篇[SIN](2005/01/23 22:16)
[2] プロローグ[SIN](2005/04/02 12:59)
[3] タイトル[SIN](2005/03/14 02:14)
[4] 第壱話 【彼方より来るもの】[SIN](2005/04/02 13:02)
[5] 第弐話 【今、ここにいる理由】[SIN](2005/04/02 13:07)
[6] 第参話 【思いがけない再会】[SIN](2005/04/10 01:21)
[7] 第肆話 【勇者王 降臨】[SIN](2005/04/02 13:13)
[8] 第伍話 【破壊の神 VS 福音を告げる者】[SIN](2005/04/02 10:27)
[9] 第陸話 【初号機 消滅】[SIN](2005/04/02 12:56)
[10] 第漆話 【目覚め】[SIN](2005/04/02 19:01)
[11] 第捌話 【罪に塗れし過去の業】[SIN](2005/03/30 00:28)
[12] 第玖話 【邂逅】[SIN](2005/04/10 00:19)
[13] 第拾話 【紅玉(ルビー)の輝きが消えた時………】[SIN](2005/04/30 01:28)
[14] 第拾壱話 【訪れる者たち】[SIN](2005/05/01 09:29)
[15] 第拾弐話 【そして少女は、家族を手に入れた】[SIN](2005/05/02 13:20)
[16] 第拾参話 【騙す者、騙される者】[SIN](2005/05/02 22:05)
[17] 第拾肆話 【 影 】[SIN](2005/05/03 10:23)
[18] 第拾伍話 【大切な日々の温もりを】[SIN](2005/05/04 02:38)
[19] 第拾陸話 【疑念】[SIN](2005/05/04 13:16)
[20] 第拾漆話 【戦場の意味  前篇】[SIN](2005/05/04 18:16)
[21] 第拾捌話 【戦場の意味  後篇】[SIN](2005/05/04 23:57)
[22] 第拾玖話 【暗躍する少年少女】[SIN](2005/05/06 00:38)
[23] 第弐拾話 【天使の実力(チカラ)】[SIN](2005/05/23 23:13)
[24] 第弐拾壱話 【揺るぎない決意】[SIN](2005/05/23 22:59)
[25] 第弐拾弐話 【 Der FreischUtz 】[SIN](2005/05/23 23:36)
[26] 第弐拾参話 【 激戦! 第3新東京市 】[SIN](2005/05/27 02:40)
[27] 第弐拾肆話 【 この手に望む、不変なる日常 】[SIN](2005/05/29 20:45)
[28] 第弐拾伍話 【 招かれざる客(ゲスト) 前篇 】[SIN](2005/05/30 00:56)
[29] 第弐拾陸話 【 招かれざる客(ゲスト) 後篇 】[SIN](2005/05/31 00:20)
[30] 第弐拾漆話 【 標的は獅子 】[SIN](2005/06/01 00:06)
[31] 第弐拾捌話 【 恐怖を祓う竜神 】[SIN](2005/06/02 23:23)
[32] 第弐拾玖話 【 計画(プロジェクト) 】[SIN](2005/06/06 01:55)
[33] 第参拾話 【 紅の少女 】[SIN](2005/06/13 03:10)
[34] 第参拾壱話 【 白き方舟 】[SIN](2005/06/13 22:53)
[35] 第参拾弐話 【 巨神激闘 】[SIN](2005/06/14 12:14)
[36] 第参拾参話 【 旋律が呼ぶ不死鳥の翼 】[SIN](2005/06/15 01:13)
[37] 第参拾肆話 【 SEELEのダミープラグ研究施設 】[SIN](2005/06/27 01:40)
[38] 第参拾伍話 【 紡がれる絆 】[SIN](2005/07/17 22:06)
[39] 第参拾陸話 【 想い、心 重ねて 】[SIN](2005/07/18 22:43)
[40] 第参拾漆話 【 蒼(あお)と紅(あか) 】[SIN](2005/07/19 01:27)
[41] 第参拾捌話 【 閃光の果て 】[SIN](2005/07/21 00:15)
[42] 第参拾玖話 【 悪意の置き土産 】[SIN](2005/11/25 18:10)
[43] 第四拾話 【 双 頭 飛 龍 】[SIN](2005/11/25 17:22)
[44] 第四拾壱話 【 予想外の訪問者 】[SIN](2006/03/19 23:28)
[45] 第四拾弐話 【 Global movement (前篇) 】[SIN](2006/05/06 18:26)
[46] 第四拾参話 【 Global movement (中篇) 】[SIN](2006/05/06 18:37)
[47] 第四拾肆話 【 Global movement (後篇) 】[SIN](2006/11/26 14:09)
[48] 最終章 予告篇[SIN](2006/12/10 22:11)
[49] 第四拾伍話 【 心の隙間の埋め方は 】[SIN](2008/03/10 19:59)
[50] 第四拾陸話 【 反撃の狼煙 】[SIN](2009/03/30 03:25)
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[226] 第参拾肆話 【 SEELEのダミープラグ研究施設 】
Name: SIN 前を表示する / 次を表示する
Date: 2005/06/27 01:40






「惣流・アスカ・ラングレーです。 よろしく」




ここから、また日本での生活が始まるわ。

自然と笑みがこぼれちゃう。

教室を見渡すアタシの目に、懐かしい顔が次々と映る。

ヒカリ! また逢えた。 今度も友達になってくれるかな?

ジャージ馬鹿と眼鏡オタクは相変わらずか。

そして、ファースト。 碇――――― おっと、今は六分儀だっけ………その司令のお人形。 前の世界での嫌悪の象徴。

そんなアイツが、前と同じく人形のような目でアタシを――――― って、違う?

ファーストがアタシを見るその瞳は、アタシの知っている視線じゃなかった。

優しい瞳………何処かで見たことがある。

………そうだ、シンジだ。 アイツと同じ瞳なんだ。

どうして? やっぱり、家族がいるから? そこまで変われるものなの?

ファーストの変わり様にアタシが驚いていると、横から先生が声を掛けた。





「惣流さんの席は、あそこです」

「あ、はい」




根府川先生が指定した席に向かうアタシ。 また担任はこの先生なのね。

アタシの席はヒカリの横の席だった。





「よろしくね、惣流さん。 私はクラス委員長の洞木ヒカリ。 判らないことがあったら、何でも訊いてね」




あ……ヒカリの笑顔………。

あれ? 何だか泣けてきちゃった。





「ど……どうしたの、惣流さん?」

「ううん………何でもないわ。 ねえ? 『惣流さん』じゃなくて『アスカ』って呼んで。 アタシもあなたのこと『ヒカリ』って呼んでいい?」

「もちろんよ。 よろしくね、アスカ」

「よろしく、ヒカリ」




ふふ、嬉しい。

アタシはヒカリと握手して席に着いた。





「では、HRを終わります。 一時間目は数学です、準備しておくように。 洞木さん、号令お願いします」

「起立! 礼!」




挨拶が終って先生が出て行くと、アタシの周りに人垣ができた。




「ねえ、惣流さんってハーフなの?」

「いま好きな人いる?」

「後で学校の中、案内しようか?」

「好みのタイプ、教えてよ」

「誕生日はいつ?」




転入してきたばかりなのに話し掛けてきてくれる みんな。 とっても嬉しいけど、アタシには最初にやることがあるの。




「ちょっと、ゴメンね」




そう言ってアタシは人垣から抜け出して、ファーストの席へ向かった。

近付いてくるアタシを見る あの娘。 やっぱり違う。 あの瞳から受ける感じが。

でも、あの娘はアタシのことを『エヴァ弐号機のパイロット』ということしか知らないはず。

最初が肝心よね。 ビシッ!といかなきゃ。





「Hello、あなたが綾波レイね? 零号機パイロットの………。 アタシ、アスカ。 惣流・アスカ・ラングレー。 エヴァ弐号機のパイロットよ。 仲良くしましょ」




右手を差し出すアタシ。 ファーストは立ち上がって微笑み、アタシと握手を交わした。 な……なかなか、いい笑顔するじゃない。

チョット……ほんのチョットよ! 驚いたアタシだったけど、次の瞬間、ファーストからの挨拶には本当に驚かされたわ。





「久しぶりね、弐号機パイロット」

「!!――――― その言い方………」

「あなたのことはお兄ちゃんから聞いているわ。 私達と同じだって」

「同じって………じゃあ、アンタ!」

「そう。 私はあなたが知っている私。 そして、あなたを知っている私」




そう言ったファーストの言葉は、アタシにある事実を連想させたわ。




「私達って言ったわね………それじゃあ、もしかしてアンタの兄貴っていう『綾波シン』って―――――

「碇くんよ」

「………やっぱりね」




予想通り。 オーヴァー・ザ・レインボウで逢ったアイツはシンジ。 そして、今は綾波シンってわけなのね。




「驚かないのね」

「そうじゃないかって思ってたもの。 ま、ほとんど確信に近かったけど」

「そう………」




何か残念って顔してるわね、コイツ。




「………で、その……シンだっけ? 何処? 別のクラスなの?」

「お兄ちゃんは―――――

「レ~~~イちゃ~~~ん」

「きゃっ! ………なに?」




アタシ達の会話に割り込んで、後ろからファーストにしな垂れるように抱きつく奴。 前はあまり親しくなかった女の子。 確か佐藤イツキ。 それにしても今の悲鳴、ファーストが出したの?




「シン君、今日どうしたの~~? 病気~~?」

「綾波シン愛好会のメンバーとしては悲しいわ」

「うんうん」




また一人、この娘は雪島エリ。 その後ろで頷いてるのは夏目ショウコ。 ―――――って、何よ! その『綾波シン愛好会』ってのは。 アタシに内緒でそんなの作ってんじゃないわよ!!




「お兄ちゃんは、お仕事の関係でドイツに行っているわ」

「「「「ドイツ~~~!?」」」」

「………空飛ぶ白い艦(ふね)でね」




と、アタシにしか聞こえないようにファーストが囁いた。




ホントに変わったわね、コイツ。




















何故、シンが学校を休んでドイツへ赴いているのか? 

その理由を語るには、今から二日前――――― 正確には、太平洋上での使徒ガギエル戦、その一時間後まで時を遡らなければならない。




















使徒襲来による全滅を免れた国連海軍・太平洋艦隊が目的地である新横須賀に入港した頃、【秘密結社SEELE】 【特務機関NERV】 【日本政府内務省】の三つの組織でスパイを務める『三足草鞋』こと加持リョウジは、GGGオービットベースにいた。

きつく目隠しをされた上、シンの『スキル=レリエル』の能力で連れてこられた為、加持は「基地の場所が特定できず、外観も判らないか」と、内心悔しがっていたのだが、通路の窓から見えた深遠なる闇の世界と、眼下に広がる青く美しい地球の姿に、ここは宇宙空間なのだと即座に理解した。




「まさか、宇宙に君達の基地があるとは思わなかったな」

「プッ!」




率直な加持の感想。それを聞いたシンは、思わず吹き出してしまった。




「ん? 何かおかしなことを言ったかな?」

「いえ、すみません。 リツコさんと同じことを言われたので」

「へぇ、そうかい(こうして見ると普通の少年にしか見えないんだがなぁ………。 しかし、この歳でGGGのような組織にいるんだ。 普通って訳は無いか)」




戦闘機のヘルメットを脱いで素顔を晒したシンがアスカと同い年くらいの少年であったことに加持は驚いたが、その後、一瞬でこの基地に連れてこられたことの方が、彼には驚きだった。




「(どこまで話を訊き出せられるかな?)」




そう自問する加持が案内されたのは、GGGオービットベース自慢の食堂だった。




「別に腹は減ってないんだが………」

「そうですか………ご馳走を用意したんですけどね。 料理の名前は『情報』というんですが―――――
 
「そりゃあ美味そうだな。 ありがたく頂くよ」




いつの間にか席に着いている加持。その変わり身の早さに、シンは苦笑するしかなかった。




「まあ、こんな所で悪いなとは思ってますよ。 でも、あなたをここに連れてきたことは僕の独断なんです。 それなのに応接室なんて使えませんよ」

「いや、気にしないでくれ。 俺としても、こういう所の方が気兼ねをしなくていいさ」




おもむろに、加持は胸ポケットから煙草を一本取り出し、火を付ける。




「そういえば、まだ君の名前も知らなかったな。 君は俺のことを知っているようだが」

「あ……そうでしたね、失礼しました。 僕は綾波シンと言います」

「綾波? 確かファーストチルドレンも同じ苗字だが………」

「兄です」

「何だって!? じゃあ、彼女は―――――

「今はNERVですよ。 今は………ね」

「なるほど………」




煙草を吸い、紫煙を吐く。見た目には判らぬとも、加持は、柄にもなく興奮していた。

追い求めた世界の真実、その一端が垣間見えた気がしたのだ。

断片的だったパズルのピース。欠損だらけで決して繋がることのなかったものが今、形になるかもしれない。

昂るなと言う方がどうかしている。




――――― で、アダムを渡す見返りに、どんな情報をくれるんだい?」




そうですね………、とシンは加持の対面に座り、とりあえず当たり障りのない事から話し始めた。




















「あら、シン君?」




加持と話していたシンに声が掛けられる。見上げると、そこにはリツコがいた。食事が終わったところなのだろう。トレイの皿は綺麗に平らげられていた。




「いつ戻ってきたの? 太平洋艦隊に使徒が襲ってきたし、あなたからアダム回収の連絡が無かったから、みんな心配していたのよ」

「あ! 忘れてました。 すみません、いろいろ予想外のことがあったので」

「予想外?」




詳しく話を聞こうとリツコがシンに近付くと、彼の前に座っていた男が振り向いた。少年が言った『予想外』の原因である。




「よう、リッちゃん! 久しぶり」

「ええっ!?」




ここにいるということが有り得ない人物の姿に、リツコは持っていたトレイを落としそうになった。彼女はシンの目の前、加持の真後ろから声を掛けたので、少年と話していた男が彼だとは判らなかったのだ。




「ど……どうして加持君がここに!?」




その問いには、加持ではなくシンが答えた。




「リツコさんに逢いたかったそうですよ」

「はあ!?」




リツコは、ニヤニヤと笑みを浮かべる加持と苦笑いのシンを交互に見やる。




「あの、リツコさん……すみませんが、加持さんのお相手をお願いできますか? 僕は報告を兼ねて大河長官のところに行ってきますので」

「え……ええ、判ったわ」




お願いしますね、と言うとシンは立ち上がり、長官室へ向かう為に食堂を出ようとするが―――――




「ああ、そうだ」




何かを思い出したのか、加持の方を向いた。




「ん? どうかしたかい?」

「一つ忠告を…………調子に乗りすぎると、本当に大火傷しますよ」




シンはズボンのポケットから幾つかの小さな機械類を取り出し、机に置いた。




「もしかして………ここのセキュリティ、嘗めてます?」

「………………………」




無言の加持。

さすが、と賞賛すべきか? 仕掛けがバレたというのに、彼の表情は変わらず飄々としている。この程度で一々動揺していたらスパイは務まらないと言いたげだ。




「盗聴器に………これは発信器ね。 あら? この盗聴器、カメラ付なのね。 このサイズで、よくもまあ………市販品じゃ、こうはいかないわ。 もしかして、加持君のオリジナル?」




科学者というより、最近では技術者の感が強いリツコらしい感想だ。機械を仕掛けた加持を批難するよりも、その機械そのものに興味があるようだ。

そんな彼女に、シンは思わず苦笑する――――― が、すぐさま表情を厳しく戻し、鋭い視線を加持に叩き付けた。




「僕が見つけたから良かったものの、これが保安部隊員だったら そう簡単にはいきませんよ。 あなたを連れてきた僕の責任問題だけならまだしも、下手をすれば今後のGGGの行動や隊員の安全にも関わってきます。 『三重スパイ』というあなたの仕事柄、今回は魔が差したということで見逃しますけど、仮に、次も同じことをすれば―――――

「すれば?」

「僕の手で、あなたを殺します」

「ほう………」




少年とは思えぬ冷たい眼光で見下ろされる加持。だが、この程度の脅しなど、彼にとっては日常茶飯事。まさに馬の耳に念仏だ。

シンの代わりに加持の対面に座ったリツコは、盗聴器類を弄っていた手を止め、事の推移を見守っている。少年の能力、そして決意の大きさを知る彼女には、これが単なる脅しではないことが判った。




「生命なんて、とっくに捨てている――――― って顔してますね。 確かに『殺す』なんて言葉、あなたにとっては脅しにもならないでしょうけど、もし、その生命を懸けて追い求めたものを奪われた後なら?」

「んん?」

「全ての真実を教えた後、中途半端に記憶を消します。 全てを知ったはずなのに何も思い出すことができない、という悔恨の念を抱いたまま、死んでもらいます。 真実を知る為に裏切りを是としてきたあなたには、お似合いの最後でしょう?」

「記憶を消す? そんなことができるのかい?」

「信じる、信じないはあなたの勝手。 ただ一つ言えることは、『 僕ならできる 』ということ」




いつの間にか、少年の顔から表情が消えていた。能面のように何も感情を示さないシンの瞳は、裏の世界を知る加持に、絶対的な説得力を感じさせた。

『彼ならできる』と。




「………………………………………………悪かった。 俺の負け、降参だ」




嘆息し、参ったと両手を挙げる加持。

それを見て、シンの雰囲気はいつもの温和なものに戻った。




「じゃあ、リツコさん―――――




後はよろしく、とシンは今度こそ食堂を出て長官室に向かった。




















オービットベース・司令長官執務室。




「そうか………あの男を連れてきたのか」

「申し訳ありません。 勝手な判断をしてしまいました。 責任は僕が取ります」




頭を下げようとするシンだが、大河はそれを制した。




「いや、構わんよ。 我々は、君をサポートする為にこの世界に来たのだ。 君一人に全てを負わせるつもりない。 使徒の能力が使えると言っても、全知全能ではないのだろう? ならば、存分に甘えたらいい。 お互い助け合うことができるからこそ、我々は『人間』なのだ。 『第18使徒 リリン』だと言われようが、運命をそのまま受け入れる必要など、どこにもないのだから」

「そう……ですね。 長官の言う通りです。 ありがとうございます」




礼を言われるほどのことじゃないよ、と大河は微笑み、話題を変えた。




「それにしても、アスカ君まで戻ってきているとはな」

「半年前からガードに就いているはずのルネさんから何の報告も挙がっていませんでしたからね。 僕も吃驚しましたよ。 まあ、ルネさんが意図的に隠してたってことには、ちょっとムカつきましたけど」




半分拗ねたように顔を顰めるシンを、大河はハハハと笑った。




「だが、君にとっては嬉しいことなのだろう?」

「はい」




シンの笑顔は、心からの喜びに満ちていた。それを見た大河は満足げに頷く。




「では、さっそく作業に取り掛かろう。 ガギエル、そしてアダムの浄解だ」

「判りました」




数分後、オービットベース全棟の主要スタッフに、コア浄解作業の連絡が入った。




















オービットベース研究棟・第1研究モジュール。

そこにGGGメインスタッフとソルダートJ、そしてシンと加持が集まっていた。




「何を見せてくれるんだい?」

「あなたが追い求めている真実、その一端ってやつです」




加持の前には巨大な赤い球体があった。




「これは?」

「先ほど回収してきたガギエルの――――― 太平洋艦隊を襲った使徒のコアです。 これを浄解し、元の姿に戻します」

「浄解? 元の姿?」

「まあ、見てて下さい。 スキル=リリン」




シンが能力を発動させると、髪の色は白銀に、瞳の色は赤く変化した。




「!?」




加持からはシンの背中しか見えない為、髪色の変化しか判らなかったが、それでもスパイである彼を驚かせるには充分だった。

コアに施されたプロテクトを解除したシンは、そっと右手を添える。




「クーラティオー―――――




浄解の言霊(キーワード)を唱える少年の身体から、緑色の光が溢れ始めた。




――――― テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ!!」




ガギエルのコアが光り輝く。すると、コアの姿が歪み、変わっていく。やがて光が収まると、パズルブロックを模したような物体が姿を現した。




「これが元の姿ってやつかい?」

「はい、コアクリスタルと呼んでいます。 アダムを含めた17体の使徒………それらのコアクリスタルを全て回収することが、僕達の目的の一つです」

「ほう、17体ね………」




ダラけていた加持の双眸が真剣さを帯び、あらゆる情報を見逃さないように光る。それは正に、スパイの目だった。




「(こういうことに関しては有能なんだよな、この人)」




射るような加持の視線を感じながら、シンは話を先に進める。




「次はアダムの番ですね。 加持さん、トランクを開けてくれますか?」

「ああ」




加持は持ってきたトランクの電子錠とシリンダー錠を開錠し、中からオレンジ色の物体を取り出す。




「既にここまで復元されている。 硬化ベークライトで固めてはいるが、生きている。 間違いなくね」

「人類補完計画の要……か」




大河が呟き、それにシンが応える。




「そうです。 『第1使徒 アダム』………システムの根幹たる存在です」




そのシンの言葉に加持が反応する。聞き逃せない言葉だったからだ。




「システムの根幹? それは補完計画のかい?」

「それもありますけどね」




シンはそれ以上言わず、はぐらかした。まだ加持には教えられない。脅しを掛けたものの、彼がこれから先、どう転ぶかは判らないのだから。

トランクから手の平大の大きさに固められたアダムを取り出すシン。




「まずはベークライトからアダムを解放します。 スキル=リリン、A.T.フィールド・コントロール!」




シンはA.T.フィールドを圧縮・硬質・物質化して紅輝の剣を創り出すと、アダムを中空へ放り上げ、剣を上段に構えた。




「クルダ流交殺法………剣技『暴竜殺(ボルテクス)』!!」




シンの振るう剣が唸る。その刃から生み出された無数の真空波により、アダムを封じていた硬化ベークライトが斬り裂かれていく。

ベークライトの戒めが解かれたアダムは、「キキキキッ 」と奇妙な鳴き声を上げながら、床に落ちた。そして、その直後から肉体の再生が始まった。




「きゃあ!」

「シン君!」




徐々に身体を成していくアダムのおぞましさに、後ろで見ていたGGGスタッフがざわめいた。




「大丈夫です。 肉体ごとコアを浄解します!」




シンはA.T.フィールドの剣を解除し、右手を掲げた。




「クーラティオー・テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ!!」




緑の輝きがアダムを包む。だが、原初の存在たる『第1使徒』も黙ってはいない。シンの浄解に対して抵抗を始めた。




「ぐうぅぅっ! さす……がメインシステム。 一筋縄じゃ……いかない…か」

「シン!」




マイが心配そうに声を掛ける。




「大丈夫だよ、母さん。 完全に目覚めきる前に―――――




緑の輝きが強まっていく。




「浄解する!!」




今までにないくらいの強い光がアダムを包み、研究モジュール内は緑光に染まった。




「うわっ!!」

「きゃっ!!」

「Oh!!」




あまりの眩しさに、皆は目を瞑る。

徐々に輝きが収まっていくにつれ、アダムにも変化が見られた。形が歪み、クリスタルの形状を成していく。




「ふうっ………」




片膝をついたシンが、安堵の溜息と共に額の汗を拭う。シン、そしてGGGメインスタッフの前には、マスタープログラムの中心核を構成するであろう形をしたアダムのコアクリスタルがあった。




「やったな、シン君」

「はい」




ガイの労いに笑顔で応えるシン。

一方、加持は苦い表情だった。




「これで俺はNERVには戻れなくなっちまったな」




自嘲気味に呟く加持。自分からアダムを渡したとは言え、これでNERVから情報を引き出す手段を失ったのだ。

これからどうしようかと考えていると、シンから思いもよらない要望を聞く。




「いえ、あなたにはNERV本部へ行ってもらいます」

「おいおい、手ぶらで行ったら殺されるよ」




確かに、SEELEに内緒でアダムを持ち出したのに、それを「GGGに奪われた」とは言わなくても、ただ「失くした」と言うだけで、それは処分の対象だ。いや、『処理』か。おそらく、次の日の朝日を拝めることはないだろう。




「大丈夫ですよ」




そう言うとシンは、何処からかオレンジ色の液体の入った容器を持ってくる。その容器の中に手を入れ、能力を発動させる。




「これからアダムの偽物を創ります。 スキル=リリン、発動。 A.T.フィールド・コントロール……イメージング展開……L.C.L変換 及び 再構成………」




シンが容器から手を出すと、そこには、先ほど浄解したアダムと寸分の狂いも無いモノがあった。




「ヒュゥ♪ 凄いな………!」




加持は素直に驚く。




「ただ、このままじゃ偽物だとバレてしまうので、このサンプルに………スキル=リリス、発動」




アダムに似せて造られたサンプルが脈動し出す。仮初めの命が与えられたのだ。




「そして、これにアダムの波動を出させる為にプログラムをコピーします。 とは言っても、インパクトが起きてしまっては本末転倒なので、その一部ですけどね………スキル=アルミサエル発動」




これで一連の作業が終了した。




「これでどうです?」




シンは出来上がった『偽アダム』を加持に渡す。




「ああ、大丈夫だ。 細かい注文としては、もう一回ベークライトで固めてくれると嬉しいんだが」

「そうでしたね。 リツコさん、後でお願いできますか?」

「判ったわ」

「悪いな、リッちゃん」




拝むように片手を立てて謝りながら、加持は『偽アダム』をリツコに渡す。




「さて、アダムを渡して頂いた礼としての情報はここまでですね。 これ以上のことが知りたいのであれば、今度はこっちのお願いを聞いて頂きましょうか」

「充分過ぎる程の情報を貰ったような気がするが、まだあるのか………。 で、何だい?」




シンの申し出は加持の予想を超えていた。




「加持さん、四足目の草鞋を履きませんか?」

「!!………いいのか? 君、言ってただろう? 俺は真実の為なら裏切りを是とする男だぜ」




加持は、顎の無精髭に手をやりながらシンに問う――――― が、少年は不敵に笑った。




「構いませんよ。 あなたが流した情報でNERVやSEELEがどんな策略を練ろうとも、僕らはそれごと叩き潰しますから」

「ほう………」

「それに―――――

「ん?」

「向こうに付いても、今後、加持さんに得なんて無いんですよ。 体よく利用されて、使えなくなったらポイです。 それに比べて、僕達はSEELEすら知らない真実を知っていますよ」




このシンの言葉に、加持は堕ちた。




「OK………履こうじゃないか、四足目」

「よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」




差し出されたシンの右手を、加持は断ることなく握った。




















GGGスタッフとの簡単な自己紹介の後、加持はシンと共に再び食堂に来ていた。腹は減ってないとか何とか言っていたにも拘らず、いま加持は、ここの名物メニューの一つである『ギャラクシー牛丼』を頬張っている。ドイツからの船旅が長かった所為で、こういう食事に餓えているんだそうだ。因みに、このギャラクシー牛丼、味は絶品でスタミナ満点らしい。GGG機動部隊オペレーターの卯都木ミコトは、これをどんぶり十杯、軽く平らげると聞いている。

今度レシピを訊いて、家でも作ってみようかな? ああ、でもレイが肉類ダメなんだよな………などとシンが考えていると、トン! と、どんぶりをトレイに置く音が鳴った。どうやら、食べ終わったようだ。




「ごちそうさん」




お茶を飲み、満足げに一息ついた加持。ぽんぽん……と、膨れたお腹を叩きながら爪楊枝を咥えている。

落ち着いた頃を見計らって、シンは話を切り出した。




「お聞きしたいんですが………加持さん、『ダミープラグ』ってご存知ですか?」

「んん? ああ………確か、SEELEの計画を調べてる時に引っ掛かった情報の中にあったな。 プラグというから、おそらくエヴァンゲリオンに関連した物だと思ってね。 本部で情報を整理してから手を付けようと思っていたんだが」

「その情報を教えてもらえませんか? 加持さんの情報と、こちらが今まで調べてきた情報を照らし合わせると、それの研究所の所在がハッキリすると思うんです」




ふむ……と加持は少しの間、思案を巡らす。




シンがこう言うには理由がある。彼はサードインパクトの後、全人類が融け込んだL.C.Lの海から様々な情報を手に入れたが、この世界において、その全てが正しいものであるとは言えなかった。それは、この世界が純然たる過去ではなく、『平行世界』であることに起因している。

つまり、ここは似て非なる世界なのだ。あらゆる出来事に差異ある。

これも、その一つ。

少年の持つSEELEの研究所の情報。調査の結果、それが指し示す場所には、目的の物は何も無かった。

しかし、だからと言って「はい、そうですか」と諦めるわけにはいかないのだ。これに関しては。




「そのダミープラグというのは、GGGにとって重要な物なのかい?」

「あれだけは完成させるわけにいかないんです。 絶対に………」




少年の脳裏には、あの時の光景が甦っていた。パイロットの制止も利かず、参号機のエントリープラグを潰すダミーを起動した初号機。アスカの弐号機に襲い掛かるダミープラグ搭載量産機。そして、その量産機を使って発動したサードインパクト。SEELEの計画を挫く為にも、ダミープラグだけは絶対に破壊しなければならなかった。




「判った。 教えるよ」




加持は、シンの瞳の中に強烈な意思の力を感じた。そんな彼に、加持は断る言葉を持ち得なかった。




「そこに『彼』がいるはずなんだ」




加持には聞こえないよう、シンは呟いた。






















そして時は『現在』に戻る。






















というわけで、僕は今、ルネさん、そしてJさんと一緒に、ジェイアークでドイツに向かっている。




「何もルネさんまで付いてくることなかったのに………。 NERV本部の保安諜報部へ異動したんでしょ? アスカの護衛任務はいいんですか?」

「GGGと碇家のガードが就いてるよ。 護衛対象が固まっているからね。 この方が良いんだ」

「NERV保安諜報部所属のエージェント『ルネ・カーディフ』としては、任務放棄以外の何物でもないと思いますがね」

「………ああ、もう! はいはい、シンの言う通り任務放棄ですよ。………………でもね、そ・れ・よ・り・も! 私は、あんたがここにいることの方が信じられないけどね」




腕組みしながら、ルネさんが横目で僕を睨んでる。




「………何でです?」

「今日はアスカの転入日だろ? わざわざ、そんな日を選んで行動するなんて、私には、あんたがあの娘から逃げているようにしか見えないよ」

「それは………」




図星を突かれ、言い澱んでしまう。そんな僕に、ルネさんは嘆息する。




「ったく……先延ばしにしたって、良い事なんか何もないだろうに………」

「どこまでいっても、僕は『バカシンジ』ですから………」




自分自身、情けなさに苦笑してしまう。


そんな僕の表情を、ルネさんは悲しげに見ていた。




「見エタゾ」




トモロの報告を受け、僕達は地上に視線を落とす。やがて、山々に囲まれた美しく深い森の中にポツンとある、研究施設らしき白い建物が見えた。




















ドイツとポーランドの国境近くに建造された秘密結社SEELEの研究所。

ドタドタドタ………!! と荒々しく足音を鳴らし、研究員の一人がノックも無しに所長室に入ってくる。かなり慌てている様子だ。




「所長! 大変です!!」

「何だね? 騒がしい」




静かに研究資料に目を通していた所長は、仕事を邪魔した礼儀も弁えぬ若い研究員に不快感を露わにした。




「正体不明の白い戦艦がこちらに向かってきます!」




研究員の報告に所長は呆れた。




「戦艦だと? 何を馬鹿な………。 ここには海も川も無いぞ。 君は昨日、徹夜で仕事だったのかね? 寝惚けたままだと、つまらんミスをするぞ。 顔を洗うか、シャワーを浴びるかでもしてスッキリしたまえ」




そう言って、再び資料に目を通そうとすると―――――




「空を飛んで来ているんです!!」

「い―――――




いい加減にしろ!! と所長が怒鳴りかけると、窓の外から大音量の声が聞こえた。




〔我らはGGG、ガッツィ・ギャラクシー・ガードだ。 秘密結社SEELEの研究所に告げる! 今より、そこを破壊する! 生命の惜しい者は即刻退去せよ! 尚、この警告に従わない場合、生命の安全は保証しない!〕




ジェイアークからの通告が辺りに響き渡る。それは通信ではなく、外部音声によるものだった。




「GGGだと!?」




所長は、部屋の窓から上空に浮かぶジェイアークを見る。




「所長!」




焦り慌てる研究員が指示を求める。

それに比べて所長は余裕だった。彼には、秘策があったのだ。




「世界の支配者たる我らSEELEに刃向かうとは愚かな奴だ………。 おい! アレを出せ!」

「アレ? ………あ、はい! 判りました!」




指示を受け、所長室を飛び出していく研究員。




「ちょうど良い。 アレの性能テストだ(ここで奴らを倒せれば、私もあの方達の末席に加えられるかもしれない。 そうすれば……クックックックッ)」




己の野望と未来への展望に、所長はニヤリと顔を歪めた。




















研究所の脇にある巨大格納庫の扉が開き、中から出てくるモノがある。

それは白一色の巨人。トカゲを思わせる頭部が特徴的だった。




「まさか………エヴァシリーズ!?」




シンが驚きの声を上げる。この時期に造られているとは思っていなかったのだ。




「あれがエヴァの量産型か!」

「イヤらしい顔をしてるね」




Jとルネも出てきた量産機を見詰め、その醜悪さに顔を顰める。シンの記憶で見ていたとはいえ、実際に目にすると、それは際立っていた。

この世界では、皮肉にもGGGの存在がエヴァシリーズの開発を早めていた。しかし、それは各国の協力の下ではなく、SEELE独自で秘密裏に行われていたので、まだNERVすら知らないことであった。その為、GGGも情報を得ることができなかったのだ。無論、まだエヴァシリーズの開発時期ではないという油断もあったが。




















「我らがエヴァの力、思い知るがいい」




所長は、既に量産機の勝利を確信しているのだろう。しかし、彼は知らなかった。最強と呼ばれたNERV本部のエヴァ初号機すら、GGGの敵にならなかったことを。

無知は罪である。特に、この所長のように責任ある立場の者にとっては。




















ジェイアーク艦橋。




「シン! あれに人間は乗っているのか!?」




Jに問われ、シンはA.T.フィールドを使って量産機に搭載されているエントリープラグ内を走査(スキャン)する。




「いえ、あれに乗せられているのはダミーです。 それも、機動テスト用に開発された機械式のようですね。 A.T.フィールドの反応はありませんでした」

「ならば!」

「ええ! 遠慮はいりません!」




「うむ!」と力強く頷くと、Jは艦橋後壁へ飛び上がった。




「フューゥゥジョンッ!!」




ジェイアークへ溶け込むように融合していくソルダートJ。




「ジェイバード、プラグ・アウト!」




Jが融合すると共に、ジェイアーク艦橋部分のジェイバードが分離・飛翔し、機構を組み替え、変形していく。




「メガ・フュージョンッ!!」




超弩級戦艦が己のシステムを組み替え、変形したジェイバードと合体し、一体の巨大ロボットを成した。




「キングッ……ジェイダーァァッ!!」




白い巨人の前に白き巨神が立ちはだかった。




















「ふん! GGGが何だと言うのだ。 殺してしまえ、エヴァンゲリオン!!」




所長の声が聞こえたかどうかは判らないが、量産機は翼を広げて羽ばたかせると、大剣を構え、空中のキングジェイダーに襲い掛かった。

ブン! と、大剣が振り下ろされる。




「じぇねれーてぃんぐあーまー、全開!」




トモロが防御フィールドの出力を上げた。






 バキンッ!






打撃音と共に、砕けた破片が中空に飛び散る。

その様子にニヤリと片唇を吊り上げる研究員達。だが、次の光景に我が目を疑った。

砕けたのは大剣の方だったのだ。A.T.フィールドも満足に使えない量産試作型のエヴァに、キングジェイダーのジェネレーティングアーマーは破れなかった。




「邪魔だ!」




鬱陶しいハエを追い払うように、キングジェイダーの巨大な平手が量産機を襲う。勢いよく弾き飛ばされた。

それを見た研究員達は、圧倒的なキングジェイダーのパワーに驚愕する。

一方、吹っ飛ばされた量産機は、慌てて翼を使い、空中で体勢を立て直した。

反撃に転じる為、量産機がキングジェイダーに視線を戻すと、白き巨神が自分に向かって右腕を突き付けていた。




「反中間子砲!」




右腕に装備された砲塔が火を噴く。

四本の条閃が煌めくと、コア、そして試作型ダミープラグ諸共に、量産機の上半身は分子レベルまで粉々に砕かれた。

先程まで量産機であったものが地上に落ち、それは再生することなく朽ちていった。

それを見届けると、キングジェイダーは再び研究所に向き直り、指先のメーザー砲全てを突き付ける。




「3分待つ!」




















研究所から次々と人間が出てくる。絶対の自信があったエヴァ量産機が、あっという間に倒された所為もあるのだろう。みんな、我先にと逃げ出していく。その研究員の顔は恐怖に引き攣っていた。




















「行きますよ、ルネさん」

「ああ」

「スキル=レリエル……ディラックの海、展開」




シンとルネの足元に黒い穴が開き、ゆっくりと沈んでいく。二人は研究所内へ侵入した。




















研究所の地下奥深く、研究所員でもごく限られた者しか入れない場所に二人はいた。




「ここか……」




ルネの目の前には異様な光景があった。

オレンジ色をした液体、L.C.Lに満たされた巨大な水槽。そして、その中に漂う何体もの人の身体。少年と思しきその身体は、皆、同じ顔をしていた。




「これがSEELEのダミープラグ・プラントか………」




常人ならば吐き気を抑えきれないこの光景に、ルネは激しい怒りを覚える。命そのものを弄ぶSEELEのやり口に、彼女は自分にこんな身体をプレゼントした犯罪組織【バイオネット】をダブらせた。




「ルネさん!」




シンの呼び掛けにルネは振り向く。彼の前には、巨大水槽とは別にL.C.Lが満たされた円筒状の装置があった。そして、その中には一人の少年の姿が見えた。




「これだけはあっちとは別物のようだね。 厳重に管理されている………」

「多分、彼がオリジナルです。 魂の波動を感じます」




目を瞑り、筒に手を添えているシン。




「水槽の方は?」

「あっちの方は、ただ造ったという感じですね。 レイの素体とは違い、彼の細胞からのクローニングで造り出されたものですから、魂が生まれなかったようです」

「単なる肉の固まりか」




ルネは水槽を見詰めながら、悲しそうに呟いた。

哀れな犠牲者達。
 
彼女の脳裏には忌まわしき過去が甦っていた。

シンは装置を操作して、円筒内のL.C.Lを抜く。排出が完了すると同時に筒が開き、中の少年が力無く倒れ込む。




「カヲル君!」




床に落ちる寸前で、シンはカヲルと呼んだ少年を抱きかかえた。

この少年こそ、碇シンジの友人にして『第17使徒 タブリス』である。




「カヲル君、もう君は戦わなくていいんだ。 もうすぐ、その運命から解き放ってあげるからね………んん?」




シンには、意識の無いはずのカヲルが微笑んだように見えた。懐かしい彼の笑顔に微笑み返すと、何処からか毛布を取り出し、全裸の彼に被せる。




「ルネさん、戻りますよ」

「判った」




再び開かれたディラックの海に飛び込むシンとルネ。その際、土産として時限式のプラスチック爆弾を置いてくるのを忘れなかった。

黒い穴が閉じて五秒後、大爆発と共に狂気の実験室は消滅した。




















キングジェイダーの艦橋に黒い穴が生まれる。そこから出てきたのはルネと、毛布を巻かれたカヲルを抱きかかえるシン。




「Jさん、いいですよ」

「うむ!」




Jは頷き、改めて両腕の全砲門を研究所に向けた。




「十連メーザー砲、反中間子砲、同時斉射!!」




全部で十八本もの光の矢が研究所に降り注いだ。






 ドゴオオォォォォォォォォォォォォォォン!!






爆音が山々や森林に轟き、動物達や鳥達は逃げ惑う。それを尻目に、研究所は大爆発を起こして跡形も無く消滅した。




「よし! オービットベースに帰還する」




キングジェイダーは合体を解いてジェイアークに戻ると、青く澄んだ空に向かって飛び去り、後には、濛々と立ち昇る黒い煙だけが残った。




















去っていくジェイアークと消滅した研究所を見詰める二つの人影。

一人は、白のローブを纏った蒼銀の髪の毛が印象的な少女。そしてもう一人は、同じ格好をした銀髪の少年だった。

シン達には判らなかったが、もし研究員が残っていれば気付いただろう。水槽内の素体が一体足りなかったことに。




「ありがとう。 君が連れ出してくれなければ、僕は彼の力でクリスタルに浄解させられていたよ」

「時間が惜しいわ。 行くわよ」




少年の礼を無視して、少女は踵を返す。




「やれやれ、随分とせっかちなことで………」




少年も後を追い、やがて二人の姿は何処かへと消え去った。




















第3新東京市、綾波邸。現在の時刻は午後6時30分を少し回ったところである。




「ただいま~」




シンは、救出したカヲルをオービットベースの医療棟に預けたが、一向に意識の戻る様子が無い為、一旦帰宅することにしたのだ。カヲルが目覚めれば、例えそれが夜中でも、シンへ連絡が入ることになっている。




「あれ?」




いつもなら出迎えに玄関まで来るレイやペンペンが、今日は来ない。




「何だろ?」




いやに静かなので、変だなぁ………と思いつつも、リビングに入るシン。

すると、そこには腕組みをし、仁王立ちで彼を出迎える赤毛の少女がいた。




「やっと帰ってきたわね、バカシンジ」

「アスカ!?」




何でここに!? と驚くシンと、やっと逢えた! と笑顔を浮かべるアスカ。

そんな二人を微笑ましく見詰めるマイとレイ、そしてペンペン。




波乱含みの綾波家。




シンの一日は、まだ終わらない。




















第参拾伍話へ続く







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