「ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ガギエルの放つソリタリーウェーブにより、全身に亀裂が入るキングジェイダー。何とか逃れようとするものの、機体を拘束するガギエルの長い首は、一向に緩む気配を見せない。
「トモロ! ジュエルジェネレーターの出力を上げろ! この巻き付いている奴の首を引き千切る!!」
「ダメダ! ソレデハじぇねれーてぃんぐあーまーガ消失シテシマウ!」
トモロの計算では、ガギエルの首による拘束から逃れる為に必要なパワーを搾り出すには、一時的にジェネレーティングアーマーを解除し、その分のエネルギーを回す必要があった。しかし、そうした場合、ガギエルのソリタリーウェーブで一気に機体全てが破壊される恐れがある。それは、キングジェイダー最強の武器『ジェイクオース』を使う場合も同じことが言えた。
「クッ……どうすればいい………」
Jは、この危機を脱する為に思考を巡らす。トモロも同様だ。
ふと、空を見上げるJ。
意味があったわけではない。考えが纏まらない時、視線を上へ向ける癖を持つ人間がいる。三重連太陽系・赤の星で造られた戦闘サイボーグの彼も、どうやら同じタイプのようだ。
しかし、これが彼に希望を齎した。
「ぬっ………!?」
夜でもないのに、天空に一つの光点が輝いた。それは瞬く間に大きくなって
――――― いや、違う。こちらに向かってきている!
この光の正体は
――――― 「He~y、キングジェイダー! 助太刀に来たもんネ~!!」
戦闘海域に、えらくこぢんまりとした二頭身ロボットが飛来した。
「マイク・サウンダース!? 目覚めたのか!!」
思わぬ救援に驚くJに、オービットベースから通信が入る。
〔聞こえるかの、J?〕
「獅子王ライガ?」
〔地球の格言にな、こういうものがあるんじゃ。 目には目を、歯には歯を〕
そのライガの言葉にマイクが続いた。
「ソリタリーウェーブにはソリタリーウェーブだもんネ~~」
Jは、ライガとマイクが言わんとすることを即座に理解した。
「そうか! 頼むぞ!!」
「OK~! システム・チェーェェンジッ!!」
マイクは、己の真に姿を現す為、変形を開始する。彼の操る武器は、扱い次第で地球を滅ぼしてしまう恐れのある危険なもの。その為、通常時は力を封印しているのだ。
それが今、解放される。
「バリバリーン、Turn over! スタジオ7(セブン)!」
マイクが乗ってきたコスモビークル・バリバリーンが裏返ると、それはマイク・サウンダース専用の舞台(サウンドステージ)に早変わった。
「マイクッ……サウンダースッ……13世!!」
完全に変形を終え、七頭身の人型ロボットに姿を変えたマイク。新たなる勇者ロボの登場だ。
「最高っだゼッ!!」
親指を突き出して、いつもの決めゼリフを吐いた。
「Come on、ロックンロールッ! ディスクX・ジャミングスコア! Set on!!」
マイクは、スタジオ7のスリットから射出されたディスクXを、胸部のディスクドライブ・ユニットに嵌め込んだ。
「ギラギラーンVV(ダブルヴォイス)!!」
同じく、スタジオ7から射出されたキーボード付ダブルネックギターを構え、マイクは演奏を開始する。
マイクのソリタリーウェーブは、音楽に乗せて発振される。これが、マイクが音を武器とする『ブームロボ』に分類される所以であった。
♪♯♪~~♪♫~♪♪~♪♩~~~♪♪~♭♪♪~~♪♬~~~♪♪♫~♪♬♪♫~♪~~!!マイクから発振されたソリタリーウェーブとガギエルのソリタリーウェーブの波動がぶつかり合う。
分子結合の破壊という恐るべき性質を誇るソリタリーウェーブも無敵という訳ではない。エネルギーの波
――――― すなわち振動であるがゆえに防御手段が存在する。それは、振動による相殺である。ソリタリーウェーブは、極めて狭い範囲に発生する波動だ。それゆえに防御側から同様にエネルギー振動を発生させれば、水面の生じた波がぶつかり合って打ち消されるようにソリタリーウェーブは無効化され、また無効化されないまでも、振動を乱され、効果を著しく失ってしまうのだ。
その性質を利用し、マイクはガギエルのソリタリーウェーブを打ち消すことに成功した。
ソリタリーウェーブの脅威が無くなった今、キングジェイダーには何も遠慮する理由はなかった。
「トモロ!」
「了解!」
Jに言われるまでもなく、トモロはジュエルジェネレーターの出力を一気に限界まで引き上げる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
キングジェイダーはこの拘束を解く為に、両腕へとパワーを集中させた。
しかし、ガギエルは危機を察知したのか、巻き付けた首を自分から解くと、体勢を変え、長く伸びた尻尾をキングジェイダーに叩き付けようとする。
「くっ!」
両腕にパワーを集中させている為、ジェネレーティングアーマーの効果が薄い。ヒビ割れた装甲のことを考えると、ここで攻撃を喰らってしまったら大ダメージは必至だ。
ガギエルの尾が目の前まで迫る。
「危ない!!」
ドガァァァァァァァァァン!!激突の瞬間、ガギエルの尾は赤い光の壁に阻まれた。
「まさか……A.T.フィールド!?」
「Hey、キングジェイダー!」
マイクの呼び掛けにJが後ろを振り向くと、撤退したはずの太平洋艦隊が勢揃いしていた。
「エヴァ弐号機!? どういうことだ!?」
「アンタ一人にいいカッコはさせないわよ!」
オーヴァー・ザ・レインボウ甲板上の弐号機が、仁王立ちで ビシッ! とキングジェイダーを指差した。アスカお得意のポーズだ。
「君達のような勇敢な戦士を見捨てて逃げる者など、我が太平洋艦隊には一人もおらん!!」
ニィッと笑う艦隊司令。
当初、艦隊司令は乗員全てを降ろし、一人でオーヴァー・ザ・レインボウと共にキングジェイダーの援護に向かうつもりだった。しかし、誰も退艦せず、僚艦も皆「旗艦に続け」とばかりに進路を引き返してきたのだ。
組織間のわだかまりを超え、人類の天敵を倒す為にみんなの心が一つになる。
その熱き想いに応えるかのように、マイクは新曲を投入した。
「Year! ディスクP・Jジュエルversion! Set on!」
『POWER』とアメリカナイズにデザインされたディスクを、マイクは胸部にセットする。
「ドカドカーンV(ブイ)!!」
スタジオ7のスリットから、今度は歌謡マイクが射出された。
「Yarァァッ!!」
♪~♪♫~♪♪♯♬♬♪~~♪♫~♪♪~~~♪♩~ ♪♯♫~♪♬♪♪~♭♪♪~~♪♬~~♪♪♫~♪♬♪♫~♪~!!激しいロックミュージックに乗せてマイクの歌声が戦場に響く。
「コレハ!? じゅえるじぇねれーたーの出力ガ上昇シテイク!」
ディスクPは本来、エネルギーウェーブの発振により勇者ロボ達のGSライド出力を急速に活性化させる物である。しかし今回のディスクPは、Jジュエルのデータを元に、ライガ博士が『こんなこともあろうかと!』と前もって製作していた物だった。尚、その台詞をライガが口にした際、マイとリツコが何故か悔しそうにしていたのはお約束。
「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ジュエルジェネレーターから生み出されたエネルギーが機体全身に行き渡る。
「反中間子砲!!」
左腕の砲塔が火を噴いた。
四条の赤き閃光がガギエルの尻尾を貫き、切断する。
「でぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
追い討ちを掛けるように、ガギエルにA.T.フィールドをぶつけるアスカ。倒せないまでも、動きを抑制させることはできる。
アスカの思惑通り、弐号機の攻撃に怯んだガギエル。動きが鈍った。
「今だ!!」
見た限り、頭部・口腔内にコアは無かった。ならば、体内か!
キングジェイダーが右腕を振るう。
「貴様のコア、貰い受ける! ジェイッ……クオーォォスッ!!」
ジュエルジェネレーターから供給されたJエネルギーが、右腕に装着されているジェイクオースに充填される。赤き輝きを纏うジェイクオースから溢れ出た余剰エネルギーは、紅蓮の炎を紡ぎ出し、火の鳥を形作った。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして、不死鳥(フェニックス)が羽ばたいた。
「Oh! ジーザス!」
その神秘的な光景に、太平洋艦隊の軍人達は目を奪われる。
ガギエルはA.T.フィールドを展開するが、ディスクPによりパワーを増した不死鳥の翼に、そんなものは関係なかった。
不死鳥はガギエルの巨体を貫くと、再びキングジェイダーの右腕に戻ってきた。その嘴にガギエルのコアを咥えて。
コアを失ったガギエルの巨体が力無く倒れ、海中へと没していった。いずれ、海洋生物のエサとなっていくだろう。
「A.T.ふぃーるど反応無シ。 殲滅ヲ確認」
トモロの確認報告と共に、ガギエル戦は終了した。
ワアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!太平洋艦隊から歓声が巻き起こった。生き残った兵士達は抱き合って喜び合う。握手を交わす者達や、マイクやキングジェイダーに向かって口笛を吹いたり手を振ったりして、その勇姿を讃える者達もいる。
そんな中、キングジェイダーはガギエルのコアを手に、ゆっくりと弐号機に近付いた。
「惣流・アスカ・ラングレー………助かった。 礼を言う」
「アタシのこと……知ってるの?」
「ああ」
「なら、一つだけ訊かせて。 GGG所属って言ったわね。 碇シンジ………本当に殺したの?」
アスカは知りたかった。本当にシンジは死んだのかを。シンジを殺したというGGGの人間なら何か知っているのではないか?
彼女は真実が知りたかった。
「お前の言う碇シンジとは、サードチルドレン・碇シンジのことか?」
「そうよ」
「碇シンジのことが知りたければ、綾波シンに訊くがいい」
「綾波………シン? レイじゃないの?」
「綾波レイの兄だ」
「兄!? あの女に家族が………」
Jの言葉に驚くアスカ。
「また会おう、惣流・アスカ・ラングレー。 フュージョンアウト! ジェイアーァァクッ!」
キングジェイダーは合体を解除し、機構を組み替えて白き戦艦に戻る。
マイクも同様、ブームロボ形態から二頭身のコスモロボ形態に戻った。
「さらばだ!」
「ByeByeだもんネ~~!」
「総員! 勇敢なるGGGの戦士達に………敬礼!!」
艦隊司令を始めとして、動ける者は全員、去っていくジェイアークとマイクに向かって敬礼する。
アスカもエントリープラグから出て、彼らを見送った。
ただ一人、葛城ミサトだけは、その光景を、唇を噛み締めながら苦々しく見詰めていた。
それから数刻後
――――― ジオフロント内、NERV本部。
総司令官公務室では、既に日付が変わろうとしているのに髭面の男が誰かを待っていた。
「何故……来ない?」
二日後。
NERVでの様々な事務手続きを終えたアスカは、第3新東京市立第壱中学校にいた。前と同じように。
担任の老教師である根府川先生に促され、2-Aの教室に入るアスカ。
転入生だと紹介された美少女に騒然とする教室内。「売れるぞ~」とカメラを構える眼鏡のオタク少年は相変わらず。
前と変わらぬ光景にアスカは微笑を浮かべると、教壇に上がって黒板に自分の名前を書いた。テキパキと筆記体のスペルで。日本語を書くのは、まだ苦手らしい。
「惣流・アスカ・ラングレーです。 よろしく」
彼女の笑顔に男子生徒達は一瞬で魅了され、女子生徒達は羨望の眼差しを送るのだった。
第参拾肆話へ続く