翌朝。 雲一つ無い、澄み切った青空が広がっている。
うん、今日もいい天気だね。 まさに発表会日和
――――― って、何で僕達が行かなきゃいけないのさ?
お祖父さんには前もって言ってあったのに…………JAの起動テストは失敗するし、何の役にも立たないって。 だからGGGとしても無視することにしたし、日重に対するNERVの謀略も静観したんだ。
まあ、仮にも日重は財界の名士だから、『碇』としては招待されたら無視する訳にいかないって言うお祖父さんの言い分は判るけど、普通は招待された本人が行くものでしょ? こういうものは。
多分、本音は「失敗するものをわざわざ見に行くほど、儂は暇ではない」ってことだろうな。 まったく………。
「シン、準備できた?」
母さんが呼ぶ。 もう時間?
僕は慣れないネクタイに四苦八苦しながら、母さんが用意したスーツに着替える。
鏡で確認するけど、何となく違和感がある。 まあ、一度も着たことなかったスーツと、この髪型の所為だろうな。 母さんがセットしたんだけど、やっぱり変な感じがする。
母さんが急かすので、僕はネクタイのずれを直して玄関に向かった。
玄関には母さんと、珍しく早起きしたレイがいた。 今日、レイは洞木さん達と買い物に行くらしい。
最近、レイが明るくなってきた。 いい傾向だ。 やはり、あれから変わったようだ。
ラミエル戦から数日後、僕はレイの素体達から預かった魂の欠片をレイに渡した。 いや、『返した』という表現がピッタリかな。 その証拠に、光の粒となった魂の欠片が身体の中に入ると、レイは大切な宝物が戻ってきたかのような表情を浮かべ、それを守るように胸元で両手を重ねたんだ。
「おかえりなさい」
そう呟いたのが聞こえた。
みんなにもそれが聞こえたみたいで、自分のことのように喜び、微笑んでいた。 ミコトさんやスワンさんなんか涙ぐんでいたっけ。
意外だったのは火麻参謀。 号泣してたんだよ。 「こういうのに弱いんだぁ~」って。 クスクス………似合わないよね。
でも、これでレイは三人目になることはない。それは即ち、レイはこの世でただ一人の人間だという証明。
もう代わりはいない。
ようやく、レイは本当の『綾波レイ』になれたんだ。
だけど、そろそろ髭もドグマの素体が消滅しているのに気付くはず。 あの時、僕達が言ったハッタリを真に受けてはいないだろう。 補完計画を進める為に、レイをこのままにしておくわけはない。
必ず、何か仕掛けてくるだろう。 油断はできない。
あと問題なのは、リリスの魂の行方。 魂が本体に宿ったのであれば、ロンギヌスの槍に封印されてない本体は活動を再開するはずだ。
でも、それが無いということは、魂は素体に宿ったってこと? いやいや、素体達にはリリスの魂は無かった。
いったい何処に行ったんだろうか?
はぁ~~………頭痛いよなぁ。
「シン、なに惚けているの? まだ眠い?」
母さんの声で現実世界に引き戻された。 結構長いこと耽っていたらしい。 母さんとレイが怪訝な顔で僕を見ていた。
「あ……何でもないよ」
「なら、いいけど………」
そう言いながら、母さんはジロジロと僕を見る。 上から下まで、全身を。
「な……なに?」
「うん。 そういう恰好も、なかなか似合うわね♪」
自分のコーディネートが上手くいって満足げな母さん。
「………
//////(
ポッ)」
そして、僕を見詰めて顔を赤らめるレイ。 あのねぇ………僕達、一応兄妹だよ。
そんな僕の内心の焦りに気付いたのか、ニヤついた顔の母さんがレイに声を掛けた。
「レイ………あの本、もう読んだの?」
「うん」
「がんばってね」
「はい、お母さん」
「??」
何だ? 二人だけで納得しないでよ。
「二人とも、どうしたの?」
「フフ………何でもないわ」
「何でもないの、お兄ちゃん」
?? 気になるなぁ………。 まあ、いいや。 帰ってから訊こう。
ププーッ! と車のクラクションが聞こえた。 玄関を出て外を覗くと、マンションの共同玄関の前に一台の車が停まっている。 碇家が用意したお迎えの車だ。
「じゃあ、レイ。 いってくるわね」
「いってくるね」
「いってらっしゃい、お母さん、お兄ちゃん」
旧東京都心。
誰も住むことなく廃墟となった街並みと、水没し放置された高層ビル群が鳥や動物達の住処として新たな自然を創り出していた。
セカンドインパクトによる南極大陸の消滅と地軸移動は、各地に様々な被害を齎した。ここも、その一つ。氷の蒸発は急激な水位の上昇を引き起こし、さらにそれは津波や高波、そして洪水となって海沿いの都市や街を襲い、世界地図の海岸線を書き換えることになった。
世界一の大都市とも言われた日本の首都『東京』も例外ではなく、セカンドインパクトの何十年も前から海抜がマイナスである事を指摘されていたこの都市は、突然の災害に抗うこともできず、何千万人という死者の墓標に成り果てた。
その後、新型爆弾の爆発により徹底的に破壊しつくされたことを受け、再建を諦めた日本政府は、ここを第28放置區域と指定し、首都を比較的被害の少なかった長野県に移した。それが現在の『第2新東京市』である。
その旧東京の上空を飛ぶ一機の飛行機。特務機関NERV専用のVTOLだ。その機内には、NERV戦術作戦部の葛城ミサトと技術開発部の赤木リツコがいた。彼女らの目的は、ある式典に出席することだ。
何もすることがなく、さりとて飲酒する訳にもいかないミサトは、暇そうな視線を窓の外に向けた。その瞳に海から突き出たビル群が映る。
「ここがかつて『花の都』と呼ばれていた大都会とはねぇ」
皮肉めいた独り言を呟くミサト。だが、その表情は少々暗い。15年前の悲劇を思い出しているのか。
隣に座っていたリツコは、その呟きに応えることなく、手元の書類から目を離して目的地への到着をミサトに告げる。
「着いたわよ」
ミサトは正面に視線を向けた。コックピットのフロントウインドウから見えたのは巨大なドーム状の建物。セカンドインパクト以降に造られた埋立地『旧東京再開発臨海部』に建造された『国立第3試験場』である。
やあ~っと着いたか~……… と溜息をつくミサト。既にお疲れのご様子だ。
「何もこんな所でやらなくてもいいのに。
――――― で、その計画………戦自は絡んでるの?」
「戦略自衛隊? いいえ、介入は認められずよ」
ミサトの問いに、リツコは再び書類に目をやりながら、淡々と答える。因みに、リツコが読んでいる書類は、これから行われる式典の資料だ。無駄かもしれないが、念の為、頭に入れておく。
「道理で好きにやって………もしかして、GGG!?」
「いえ、それもよ。 日重がGGGと接触したという報告は無いわ」
「どうだか」
渋い顔のミサト。
断言したリツコも、本当のところは完全に信じる気など無かった。GGGの情報を何も掴めなかった情けない諜報部のことだ。目の行き届かない所で、人知れず接触している可能性は拭いきれない。
疑惑を胸に秘めながら、二人が乗ったVTOLは臨時に設けられたヘリポートに着陸した。
「さて、どんなものが出てくるか………拝ませてもらいましょうか」
意気揚々と、しかも偉そうにミサトが降り立った。
【 祝 J A 完 成 披 露 記 念 会 】会場は賑わっていた。大勢の招待客に豪華な料理が振舞われ、大きな丸テーブルには椅子が用意されているものの、そこに座っている者は少なく、さながら立食パーティーの様相を呈していた。
NERVの席は、その会場の中心に配置されていた。しかし、テーブルには『NERV御一行様』の立て札と瓶ビールが数本しかだけ無く、ミサトとリツコ以外、そのテーブルに着く者もおらず、近付く者もいない。
嫌がらせ。それは彼女達も判っている。これが形だけの招待だということは。
周囲からの好奇と嘲りの視線を完全に無視して、彼女達はそこにいた。
まともに相手するほど、自分達は子供ではない。
「ねえ、リツコ。 何であの人達がいるの?」
ミサトの視線の先には人だかりがあった。その中心にいるのは、綾波マイとシンであった。
「あなたがお化粧直しに行っている間に、挨拶に行ってきたわ。 碇老の名代として来られたんですって」
「碇老?」
聞いたことの無い名称に、ミサトの頭に疑問符が浮かぶ。
「碇財閥総帥 碇ソウイチロウ。 サードチルドレン・碇シンジ君のお祖父さんよ」
「ふ~~ん………」
ミサトは、あの親子がシンジの親戚だということを思い出した。
――――― というより、今の今までシンジのことを忘れていた。既に彼女にとって『碇シンジ』という存在は、何の役にも立たなかった無能なパイロットでしかなかった。
そのマイとシンだが、次から次へと挨拶にやってくる他の招待客に辟易していた。
当初は、この若い親子が何故こんなところにいるのかと怪しまれたが、マイとシンが碇老の代理としてここに来たことが判ると、皆の態度がガラリと変わった。
明らかに、この機会を利用して『碇』にコネを作ろうとする態度丸出しで接触してくるのだ。
『商売』という観点からみれば当然のことかもしれないが、浅まし過ぎて気持ち悪い。
レイを連れてこなくて良かったと思う反面、自分達にこんな仕事を押し付けたソウイチロウにどうやって仕返ししてやろうかと、愛想笑いの裏で企む二人であった。
それから暫くして、式典が始まった。
壇上に一人の男性が上がる。今回発表される人型ロボット『ジェットアローン』、略称『JA』の開発主任者、時田マサヨシである。
「本日はご多忙のところ、我が日本重化学工業共同体の実演会にお越しいただき、誠にありがとうございます。 皆様には後ほど、管制室の方にて公試運転をご覧いただきますが、ご質問がある方は、この場にてどうぞ」
「はい!」
時田の目の前
――――― 会場の中心から手が挙がる。人が極度に少ないNERVのテーブルは特に目立った。
「これは! ご高名な赤木リツコ博士。 お越しいただき、光栄の至りです」
「質問をよろしいでしょうか?」
「ええ、ご遠慮なくどうぞ」
小馬鹿にしたような時田の顔に、少し ムッ! とするリツコ。
「先程のご説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが?」
「ええ! 本機の大きな特徴です。 連続150日間の作戦行動が保障されております」
「しかし、格闘戦を前提とした兵器に
――――― あっ………!」
質問を続けようとしてリツコは気付いた。今、自分が訊ねようといたことがあまりにも滑稽なことに。
「?………どうされました?」
怪訝そうに時田が訊ねる。
「フ、フフ………アハハハハハハハハ!」
笑いを抑えきれないリツコ。隣のミサトは呆然とし、時田は唖然とする。その他の客も同様であった。
しかし、シンとマイだけは、なぜ彼女が笑い出したのかを理解して「まあ、しょうがないよね」と苦笑していた。
「な……何がそんなにおかしいのですか!?」
時田は憤慨する。自分自身を笑われたような気がしたのだ。
「いえ、失礼しました。 自分の質問があまりにも馬鹿馬鹿しくて」
「ちょっと……どうしたの、リツコ?」
リツコが時田をやり込めるだろうと期待していたミサトは、突然の展開に困惑気味だ。
「私達、GGGのロボットを間近で見ているのよ。 ほんと、今更よね」
「「「「「GGG!?」」」」」会場がざわめく。
「あら、ご存知ですの?」
リツコは会場全体を見回す。
この反応ならば、彼等がGGGと接触していたということは無いだろう。少なくとも、JAにGSライドは使われていなかったのだから。
そう確信した。
「我々も少しばかり、GGGの情報は得ております」
「なっ……! それ、どういうことよ!?」
時田のこの発言にはミサトも黙っていられない。NERVにとっては最上級とも言える機密だからだ。
「人の噂に戸は立てられぬ、と言うことですよ」
持って回った言い方だが、まさしくその通りだった。あれだけ派手に暴れ回れば、何処かしら情報は漏れるものである。
「極秘情報がダダ漏れね」
「諜報部は何をやってるのかしら」
機密を守るべき諜報部の不甲斐無さにリツコは呆れ、ミサトは怒りを覚える。
だが、これは仕方のないこと。
現在の諜報部の仕事はGGGの調査である。端的に言えば、忙しすぎて他に手が回らないのだ。
「ですが、あまり詳しい情報は入ってこなかったのですよ。 どうです? 教えて頂けませんか?」
時田の言葉に会場が シーン……… と静まる。
NERVに代わり、『使徒』と呼ばれる化け物を殲滅している謎の組織GGG。その情報は何としても欲しい。特に戦自関係者は、耳がダンボになっていた。
「なに寝言を言ってんだか」
「申し訳ありません。 機密に触れますので」
当たり前だが、時田を軽くあしらうミサトとリツコ。
「そうですか………残念ですね。 私どものJAとGGGのロボット、どちらが優れているか比べてみたかったのですが」
時田の言い様に、リツコは嘆息する。
「身の程知らずね」
「それは同感」
ミサトと同じ気持ちなのか、シンとマイも頷いていた。
いよいよ起動テストが始まる。
ドームの外に立てられた巨大な格納庫が左右に分かれ、その中から、これまた巨大な人型ロボットが姿を現した。
「これより、JAの起動テストを始めます。 何ら危険は伴いません。 そちらの窓から安心してご覧ください」
一斉に双眼鏡を構える出席者達。
だが、シンは眠そうに欠伸し、マイも既に興味無し。晩御飯は何をしようかしら、と考え込んでいる。
少し離れた場所では、ミサトとリツコが壁に寄りかかりってJAを見詰めていた。
〔起動準備よろし!〕
「テスト開始!」
時田が号令を発する。
〔全動力開放!〕
〔圧力正常!〕
〔冷却液の循環、異常なし!〕
〔制御棒、全開へ!〕
JAの背部から六本の棒状の物が突き出る。これは制御棒で、JAの原子炉はセカンドインパクト以前の時代の原子炉と同じく、制御棒を開放して炉心内で核反応を起こし、その熱エネルギーを動力に変換するのだ。
〔動力、臨界点を突破!〕
〔出力、問題なし!〕
「歩行開始!」
ドーム内のコントロールルームに時田の指示が飛ぶ。
「歩行、前進微速! 右足、前へ!」
「了解! 右足、前へ!」
スタッフがコンソールを操作する。それに従い、JAの右足が一歩を踏み出す。
ガシャァァァン!「「「「「「おお~~~~っ!」」」」」」JAの足音に負けない程の歓声がドーム内に響いた。人型の巨大ロボットが歩いているのだ。招待客のおじさん達の瞳は、幼き日の、汚れない少年の瞳に戻っていた。
〔バランス正常!〕
〔動力、異常なし!〕
次々とコントロールルームに報告が寄せられる。全て順調だ。
「了解! 引き続き、左足、前へ! よーそろー!」
「へぇ~………ちゃあんと歩いてる。 自慢するだけのことはあるようね」
ミサトは素直に感心していた
――――― が、リツコはJAを見ずに、時間ばかりを気にしていた。
「そろそろね」
その呟きは誰にも聞こえなかった。
ピーーーーーーーーーーーーッ!!突然、コントロールルームに警告音が響く。
「どうした?」
「変です! リアクターの内圧が上昇していきます!」
「冷却水の温度も上昇中!」
「バルブ開放! 減速剤を注入しろ!」
的確に指示を出す時田。このような事態にちゃんと対処が為されてこそ、商品価値も上がるのだ。
しかし
――――― 「駄目です! ポンプの出力が上がりません!」
「いかん! 動力閉鎖! 緊急停止!」
「停止信号、発信を確認………受信されず!」
「無線回路も不通です!」
「制御不能!!」
「そんなバカな………」
信じられない出来事に呆然とする時田。目の前までJAが迫ってくる。
「「「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」「「「逃げろ~っ!」」」今になって異常事態に気付いた招待客達が先を争って逃げ出していく。
JAは、そんなことなどお構いなしに直進し、ドームを踏み抜いて、そのまま速度を緩めず遠ざかっていった。
「ゴホッゴホッ! 造った奴に似て、礼儀知らずなロボットね」
踏み抜かれたドームの瓦礫は何とか避けたが、砂埃にまみれたミサト。一方、リツコはちゃっかり端っこに寄っており、難を逃れた。
因みにシンとマイは、暴走前にドームの外に出ていた。
「ん? 内圧が下がっていく!」
「減速剤、注入されました!」
「動力、通常に戻ります!」
「そうか……良かった………」
ほっ…… と一安心というように、胸を撫で下ろす時田。JAはドームから200m程のところで停止した。
だが、リツコは腑に落ちない。
「(変ね………プログラム通りだと、原子炉は爆発寸前までいくのに………)」
マイと共に外に避難していたシンも、すぐに止まったJAを不審に思っていた。
「どうしたの、シン?」
マイが不安そうに訊ねた。
「うん。 前の世界じゃ、JAはずうっと遠くまで歩いていったし、原子炉も爆発寸前までいったんだ。 それが、あんなところで止まるなんて………」
「そういえば、そうだったわね。 どうしたのかしら?」
マイもシンと同じようにJAを見詰める
――――― と、シンは奇妙な感覚を捉えた。
「何だ? JAの中から妙な波動を感じる。 ………これは!?」
ピーーーーーーーーーーーーーーッ!!再び、コントロールルームに警告音が響く。
「今度は何だ!?」
これ以上のトラブルは勘弁してくれ、と言いたげな時田の表情。
「JAの制御コンピューターがハッキングを受けています!」
「侵入者不明!」
「こんな時に………くそ! モードCで対応!」
「防壁プログラムを解凍します! 擬似エントリー展開!」
次々と変わる状況に慌てるスタッフ。
新たなトラブルに、ドームから逃げ損ねた招待客は、それを遠巻きに見詰め、ミサトとリツコは近くまで寄るが、黙って状況を観察する。
「擬似エントリーを回避されました!」
「逆探まで18秒!」
「防壁を展開!」
「擬似エントリーをさらに展開!」
「防壁突破されました!」
「ダミープログラムを走らせます!」
「逆探に成功! これは!?」
「どうした!?」
有り得ないといったスタッフの表情に、時田は訊ねずにはいられなかった。
「JA内部………動力制御室です!」
ドームの外。
シンが見詰めるJAに変化が表れた。機体が小刻みに震え、所々に赤い斑点のような光が浮き出てきた。
「やっぱり……そうなのか………」
「シン?」
彼には、既にその正体が判っていた。
「馬鹿な! 誰か乗っているのか!?」
「そんなはずはありません! 映像、出します!」
時田の問いに答えるべく、モニターに誰もいないJA内部の制御室が映し出された。
「どういうことなのだ、いったい………?」
時田は混乱の極地にいた。もう訳が判らない。
だが哀しいかな、状況は進む。
「メインコンピューターにアクセスしています! パスワードを走査中!」
「10桁……12桁……14桁…………Bワードクリア!」
「メインコンピューターに侵入されました!」
「ぬうっ!」
焦りが時田を
――――― スタッフ全員を襲う。
「中身を読んでいます! 解除できません!」
「あれにはJAの全データが!!」
「くっ!」
時田はキレた。 最後の手段を選んだのだ。
「電源を落とすんだ!!」
「しかし、データが!」
「外に漏れるよりマシだ!!」
「は……はい!」
時田の怒号に身を竦めるスタッフ。すぐに所定の方法で電源の強制カットを行う。
しかし
――――― 「!!………電源が切れません!!」
「さらに侵入してきます!」
「押されているぞ! 何とかしろ!」
「くっ! 速い!」
「何て計算速度だ!」
「駄目だ! 乗っ取られる!」
為す術が無い日重スタッフ。
「退けぇっ!!」
時田が手斧を振りかざす。緊急用に設置されていた物だ。
「時田主任!?」
「これ以上の失態は許されんのだ!!」
さらなるJAの暴走を防ぐ為、制御盤を破壊しようとする時田。
斧が振り下ろされる。
だが
――――― カキィィィィィン!!「うわっ!?」
甲高い音と共に斧が弾かれ、反動で時田が後ろに倒れた。
「な……何だ!? 今のは!?」
制御盤を八角形の赤い光が守っていた。
「「まさか、A.T.フィールド!?」」
ミサトとリツコが同時に声を上げる。
すると、制御盤のモニターに文字が浮かび上がった。
[ Artificial intelligence. Device. Algorithm. Module organization-SYSTEM:起動確認 Program number-11:展開承認 Absolute terror field:アクセスモード・タイプB Control limit:解除 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . All system’s:始動 ]「こ……これは!? こんなシステムは知らんぞ!!」
既に状況は、時田たち日重スタッフの理解を超えていた。
JAの形状が徐々に変わってきている。機体表面には電子回路のような幾何学模様が浮かび上がり、装甲の形が禍々しく変化していく。
「もう、順番すら関係ないのか………」
シンは、もう何事にも油断できないことを悟った。
『恐怖』襲来。
第弐拾漆話へ続く