ジオフロント内、NERV本部。
中央作戦室発令所へと続く通路を、黒服の一団が歩いていた。NERVが誇る保安諜報部の精鋭達だ。
しかし、歩いているのは彼等だけではなかった。その集団の中心には、黒服の男達に囲まれて発令所へと案内される、NERVの職員とは明らかに違う者達がいた。青年が三人、女性が一人、そして老人一人という構成である。
「まったく……物々しいのう」
老人が口を開く。
「仕方ありませんよ。 僕達は元々、ここに堂々と入れる立場じゃないですから」
太めの体格をした青年の一人が応える。
「せっカクのキョードウ作戦、もっとフレンドリーにイキタイですネ」
典型的な外国人の日本語を話す青年。まあ、彼は生粋のアメリカ人だが。
「まるで監視されてるみたいね………」
「気にするな。 俺達は任務を全うするだけさ」
そう言って女性を落ち着かせようとする青年。
彼等の名は、獅子王ライガ、牛山カズオ、スタリオン・ホワイト、卯都木ミコト、そして獅子王ガイと言った。地球防衛勇者隊ガッツィ・ギャラクシー・ガードのメンバーである。
両組織のTOP会談終了から二時間後、NERV発令所にはGGGのメンバーがいた。共同で行う作戦を円滑に進める為、作戦参加要員の顔合わせを行っていたのだ。
別組織の、それも半ば敵対している組織の人間が堂々とこの発令所にいるということは、おそらく、NERV発足以来初めてではなかろうか。国連軍のお歴々は別として………。
だが、それは仕方のないことだろう。
いま現在、ジオフロントへ侵攻中の使徒『雷を司る天使 ラミエル』は、NERVの戦力だけではどうやっても倒せない。また、GGGだけでは第3新東京市に壊滅的な被害が出てしまう。
今回の作戦に関しては、この二つの組織の共闘は絶対条件であり、人類を
――――― そして世界を救う為、全てのわだかまりを捨てなければならないのだ。
しかし、NERVの一部の者だけだが、それが判らぬ者がいる。
その代表者たる葛城ミサトは、凄まじくギラついた目で発令所に来たGGGメンバーを見ていた。
一方、そのGGGメンバーはというと、ある一人を除いて、いかにも申し訳なさそうな顔をしていた。
何があったかというと、原因は獅子王ライガにあった。あろう事か、このキテレツ老人は、発令所に『ジェットスケーター』で飛び込んできたのだ。これはライガ博士愛用の自作スケートボードで、ホバリング機能により空中走行が可能という、とんでもないものだ。因みに、ボードのデザインはアメリカGGGのマークをそのまま流用している。
突然のことに呆然となるNERV発令所のスタッフの面々。
ライガはそんなNERVスタッフを尻目に、「イ~~ヤッホウ!」と奇声を上げながら発令所内をグルグルと飛び回り、一通り満足すると、日向を始めとしたメインオペレーターの三人とミサト、そしてリツコとレイの目の前に スタッ と降り立った。「イエィッ!」とピースサインのオマケ付きで。
そのライガの行動を止めることができなかったGGGのメンバーは、何ともバツの悪そうな顔で発令所に入ることになったというわけだ。
こんな時くらい自重してくれ! という視線がライガを射抜く。
だが当の本人は、そんな事など気にも留めず、平然としていた。ピン! と張った口髭を弄りながら。
「では、作戦説明の前に自己紹介といこうかのう。 ボクちゃんは獅子王ライガ。 GGG研究開発部で主任をしとる」
何がボクちゃんよ………というミサトの表情。逆にリツコは、この老人が『GGG研究開発部主任』ということで、見る目が変わった。最初の印象があまりにアレだった為、ある意味馬鹿にしていたのだ。
「ワタシは、スタリオン・ホワイト。 同じく研究開発部所属デス。 スタリーと呼んでクダサイ」
「牛山カズオ。 GGG整備部オペレーターです」
「卯都木ミコトです。 GGG機動部隊オペレーターをやっています」
「俺は獅子王ガイ。 機動部隊隊長で、ガオガイガーを動かしている」
「ガオガイガー………ですか?」
初めて聞く言葉だが、もしやと思って聞き返すリツコ。
「使徒を二体倒した黒いロボット………と言えば判るじゃろう?」
「「「「!!」」」」
ライガがガイに代わって答えると発令所がざわめいた。
あのロボットのパイロットが目の前にいる!
ミサトの瞳に殺意の炎が灯る。自分の目的を邪魔する敵がそこにいるのだ。爪が食い込むほど拳を握り締め、ギリギリと歯を噛み締める。
ガイ達もミサトの視線の意味に気付いていた。だが、いくら憎まれようが退くわけにはいかないのだ。
少し遅れて、リツコもミサトの様子に気付く。話題を変えようと、慌てて自分達も自己紹介を始めた。作戦準備を前に、これ以上の関係悪化は不味い。
「で……では、こちらも。 私は赤木リツコ。 技術開発部に所属しております。 ………ほら!」
リツコに促され、渋々ながら口を開くミサト。
「………作戦指揮を担当しています。 戦術作戦部、葛城ミサト一尉です」
「………エヴァンゲリオン零号機 専属操縦者……綾波レイ……です」
レイとGGGのメンバーは既知の間柄だが、それはまだNERVに知られてはならない。あくまで、今日が初対面を装わなければならないのだ。
「それから、彼等がこの発令所のメインオペレーターです」
リツコがそう紹介すると、リツコ達の後ろに控えていた三人のオペレーターが椅子から立ち上がり、姿勢を正す。
「中央作戦室 及び 戦術作戦部所属、日向マコト二尉です」
「中央作戦室 及び 諜報部所属、青葉シゲル二尉です。 通信、情報分析を担当しています」
「伊吹マヤ二尉です。 赤木博士と同じく技術開発部に所属しています」
「私達がこの共同作戦の主な担当者です。 他にもサブのオペレーターや各種装備の整備担当者もおりますが、彼らに関してはそれぞれでやって頂くということで」
最後をリツコが締め括った。
「それはそうと、六分儀司令と冬月副司令の姿が見えんが?」
ライガは発令所の最上段を見た。世界の命運を決める作戦だというのに、NERV最高指揮官とその副官の姿はない。
「司令と副司令は、今回の作戦実行の為に各方面で骨を折って頂いております。 特に、戦略自衛隊には陽電子砲の件でいろいろと迷惑を掛けましたので」
「なるほど」
と、リツコの答えにライガは納得したが、実際には、働いているのは副司令の冬月だけだった。ゲンドウは憎々しいGGGなど見たくないのか、総司令室に籠っていた。情けない男だ。
〔敵シールド、第6装甲板を突破!〕
そうこうしている間にも、刻々と状況は変わっていく。
「では、さっそく作戦の最終確認といこうかの。 時間も迫っておるでな。 ………ミコト君」
「はい」
ライガに促され、ミコトは作戦概要が記載された書類を皆に渡していく。
「さ~て、そろそろオービットベースから通信が入るはずじゃが………」
「オービットベース?」
「GGGオービットベース。 それが我々の本拠地じゃよ」
ライガがリツコにそう答えていると、タイミングを計っていたかのように通信が入った。
「GGGから通信です」
「繋いで」
青葉の報告にリツコが指示を出す。
発令所の主モニターに、ボサボサ髪に着崩れた制服、それにサンダル履きといっただらしない恰好の男が映った。GGGチーフオペレーターの猿頭寺コウスケである。
〔ライガ博士、よろしいですか?〕
「OKじゃ。 では、作戦説明を猿頭寺君から」
博士と呼ばれたこのキテレツ老人に、レイを除いたNERVスタッフの視線が集中する。
皆が皆、「博士?」という顔をしている。
その視線の意味に気付いたガイ達は、「当然だよなぁ………」という表情で苦笑するしかなかった。
〔え~、初めまして。 GGG諜報部 及び メインオーダールーム・チーフオペレーターの猿頭寺コウスケです。 それでは説明させて頂きますが、まずは使徒の能力と現在の状況について確認します〕
猿頭寺がコンソールを操作してデータを呼び出す。GGGメインオーダールームとNERV発令所のモニターに、使徒のデータが映し出された。
〔今回の使徒の能力は、荷電粒子を加速させて撃ち出す加粒子砲です。 前回、前々回の使徒は近接戦闘を主としたタイプでしたが、今回の使徒は長距離戦闘に特化したタイプのようです。 その攻撃射程距離はおよそ20km。 その威力はガオガイガーの装甲を貫き、兵装ビルを一瞬で融解させます〕
モニターに映し出される使徒とガオガイガーの戦闘記録。
〔次に防御能力であるA.T.フィールドですが、これは加粒子砲と同程度の出力が観測されました。 このA.T.フィールドを貫いてダメージを与える為に必要なエネルギー算出量は、最低2億2500万kWの電力量だと計算結果が出ました〕
ピッ! と、使徒とボルフォッグの戦闘記録に画面が変わる。
〔次に現在の状況ですが、これはNERVが集めた情報と変わりません。 第3新東京市の中央部で移動を停止、そこから直径17.5mの巨大シールドにてNERV本部に侵攻中です〕
また画面が変わり、今度は使徒がドリル・シールドで地面を掘削している映像が出る。
「難攻不落の空中要塞ね。 ………で、あなた方が立てた作戦を聞きたいわ」
リツコが使徒のデータを映すモニターを見ながら、話を切り出した。
〔では、作戦説明に移ります〕
またも画面が変わる。今度は、何度も上空に現れた飛行艦と数体のロボット、そしてエヴァ零号機が映し出された。
〔参加戦力の確認です。 まずは、我々GGG。 ジェネシック=ガオガイガー、ゴルディーマーグ、ビッグボルフォッグ、それと超翼射出司令艦ツクヨミ、これらの三体と一艦が作戦に参加します〕
猿頭寺が名前を挙げるごとに、画面上に映った勇者ロボ達とツクヨミが点滅する。
リツコ達は、モニター画面と渡された書類を交互に見て確認していく。やっと手に入ったGGGの情報。漏れがあってはいけない。
〔NERV側からはエヴァンゲリオン零号機に参加してもらいます。 よろしいですね?〕
「………………」
「ミサト!」
作戦課長のミサトがいつまでも応えないので、隣のリツコが肘で突付く。
「………了解です」
自分の指揮で作戦を行えない悔しさからか、俯きながら低い口調で応えるミサト。
古い付き合いだ。リツコには、その気持ちが充分過ぎるほど判っていた。
――――― が、私情は禁物だ。こと、命の懸かった作戦では。
〔次に、この作戦に使用する各種装備の確認です。 GGG側からはガジェットツールの一つであるボルティングドライバー、特殊ツールであるガトリングドライバー、そしてエネルギー確保の為のGSライド。 NERV側からは戦略自衛隊より徴発した試作型陽電子砲とエヴァ専用ポジトロンライフルを組み合わせた改造ポジトロンライフルを使用します。 各種装備のスペック等は書類でご確認ください〕
「GSライドは既にNERV本部内に運び終えました。 現在、GGG整備班とNERV技術開発部で調整作業中です」
整備担当の牛山が報告する。
「ふむ、ポジトロンライフルの状況はどうですかな?」
これが一番の問題点でもある。ライフルが使えないのなら、作戦は一から練り直しなのだ。ライガも気が気ではない。
「電磁光波火器担当の技術開発部技術局第3課が総出で作業しております。 GGG整備班の方々にも手伝って頂いてますので、非常に助かってますわ。 あと三時間で組み上がります」
技術部を統括するリツコの報告。
「何とか間に合いそうだな」
モニターに映し出される各所の状況に、ガイが独り言のように呟いた。
〔では、作戦の最終確認に入ります〕
発令所のモニターが作戦概要説明に切り替わる。
〔今回の作戦は、先にNERVが考案した超長距離射撃による一点突破作戦をベースに立案しました〕
俯いていたミサトが、バッと顔を上げた。怒りの表情で。
「ちょっと、あんた達! なに人の作戦、パクってんのよ!!」
「パクったとは人聞きが悪いのう。 そっちの作戦をベースにした方が判り易いと思ったんじゃがなぁ」
口を挟んだライガを睨むミサト。
「止めなさい、葛城一尉。 今はそんなくだらないことで揉めてる時間は無いわ!」
「リツコ、あんた!!」
「共同作戦をやると決まった以上、どっちの作戦をどう使おうと関係ないの。 要は作戦が成功すればいいんだから。 ………すみません、続けてください」
ミサトはリツコを睨むが、平然と無視する。慣れたものだ。
〔では、続けます。 作戦の概要ですが、先程述べたように高エネルギー集束帯による超長距離射撃でのA.T.フィールド一点突破ですが、これにより使徒を殲滅するのではありません〕
「「「「「??」」」」」
NERVスタッフの頭に疑問符が浮かぶ。
〔超長距離射撃にて狙うのはココです〕
モニターに映る使徒の映像にマーカーが表示される。そこは、ピラミッドを上下に合わせたような姿を持つ使徒のちょうど真ん中、合わせ目部分にあるスリットのようなところだった。
〔ココが使徒の攻撃手段である加粒子砲を放つ為に必要な機関、粒子加速器だと思われます。 ココを破壊して使徒の攻撃手段を沈黙させた後、ガオガイガーによるコア回収、及び 殲滅が今回の作戦です〕
そこでリツコはようやく合点がいった。
「なるほど………長距離射撃で使徒を殲滅しないのは、コアの回収の為ですか。 そう言えば、第3使徒の時も、第4使徒の時もコアを回収していましたわね。 何故なんです?」
当然の疑問だ。
GGGの目的が使徒を倒して世界を救うことなら、使徒の弱点であるコアを破壊すれば済むことだ。GGGのロボットが持つ超絶的な破壊力なら、使徒の身体ごとコアを破壊することもできる。
だが、GGGは敢えてそれをせず、使徒の身体からコアを抜き取ってから殲滅している。
何か別の目的があるのは明らかだ。
〔申し訳ありません。 その点は機密事項なので、オペレーターの私には答える権限が無いのです〕
「そうですか………」
確かに、チーフオペレーターの猿頭寺では、例え知っていたとしても、それを勝手に第三者に話す権限は無いだろう。リツコは諦めるしかなかった。
「何が機密よ! あんた達、何か企んでるんじゃないでしょうね!?」
「葛城一尉が疑惑を感じるのは至極当然じゃが、組織運営上、どうしても他に漏らせない情報というのは何かしらあるもんじゃ。 NERVもそうじゃろう?」
ライガの言うことはミサトにもよく判る。しかし、理解と納得は別だ。
「ふむ……まあ、見せるくらいならいいじゃろう。 猿頭寺君、研究モジュールの映像を出してくれんか」
〔よろしいのですか?〕
「大河長官も、いつか話さねば……… と言っておったからのう。 いい機会じゃわい」
〔判りました〕
ピッ! と画面が変わると、そこにはピンク色をした立体パズルの一部のような物体があった。
「あれは?」
リツコもミサトも、そしてNERVの全員が初めて見る物だ。 画面から目が離れない。
「あれは『コアクリスタル』と呼ばれる物じゃ」
「コアクリスタル………ですか?」
そう、とリツコの問いに頷くライガ。
「我々GGGの目的は、サードインパクトを防ぐこと。 そして、もう一つあるんじゃ」
「それは?」
「使徒と呼ばれる存在の完全消滅」
「!?」
「どういうことよ!!」
使徒への復讐が生きる目的でもあるミサトには、ライガの言った『使徒の完全消滅』という言葉が気になった。
「お主等のやり方でも確かに使徒は倒せるんじゃが、それでは倒すだけなんじゃ。 時間が経つと、また復活するんだな、これが」
「「!!」」
「使徒を倒し、その存在を消滅させるには、使徒のコアを『浄解』することで現れる本来の姿『コアクリスタル』を全て集めた『マスタープログラム』を破壊することが唯一つの方法なんじゃ」
「「浄解? マスタープログラム?」」
リツコもミサトも、そして他のNERVスタッフ達も、ライガが何を言っているのか理解できていない。全てが、いま初めて聞いた言葉なのだ。
「これが我々GGGの使徒のコアを回収する理由じゃ。 因みに、あそこにあるのは第3使徒と第4使徒のコアを浄解したコアクリスタルじゃ」
「「………………」」
途端に静かになった発令所。
もしGGGの言うことが本当なら、NERVが使徒を倒した場合、時を経て、また使徒が復活するということである。戦いがいつまでも続くことを意味していた。
「そ…そんな情報………いったい何処から?(まさか、裏死海文書?)」
いち早く立ち直ったリツコが、搾り出したような声でライガに訊ねる。
「さすがにこれ以上は話せんわい。 どうしても知りたいのなら、一つだけ方法があるぞい」
「それは?」
ライガはリツコに向き直り、姿勢を正す。
「赤木博士………GGGに来る気はないかの?」
「!!」
「な……なに言ってんのよ、このジジイ!!」
続いて復活したミサトが、ライガの言いように激怒する。
だが、リツコはそれを咎めた。
「ミサト! そんな言い方は失礼よ! ………申し訳ありません、獅子王博士」
「いや、気にしておらんよ。 ………で、どうかの?」
「私にNERVを裏切れと?」
「そこまでは言っておらんよ。 じゃが、君のような優秀な科学者が、ここで朽ちていくだけというのは、どうも忍びなくてのう」
「朽ちる? 私が?」
リツコの目が スッ と細まり、ライガを見る視線がきつくなる。
しかし、ライガは臆することなく見詰め返す。
「これは正式な要請、つまりヘッドハンティングじゃな。 その気があるのなら、このアドレスに連絡をくれたまえ」
胸ポケットから出した名刺をリツコに渡すライガ。
「このアドレスから、あなた方の基地が判るかも知れませんわよ」
「別に構わんよ。 うちの諜報部は優秀じゃて。 のう、猿頭寺君?」
〔はい〕
ポリポリと照れたように頭を掻く猿頭寺。なお、その頭から パラパラ とフケが零れ落ちるのを見て、思わずマヤが「………不潔」と呟き、それに猿頭寺が落ち込んだのはお約束。
〔敵シールド、第7装甲板に接触!〕
「おっと、本当に時間が無いのう」
〔作戦説明を続けます。 次に手順とそれぞれの役割ですが、ガオガイガー、ゴルディーマーグ、ビッグボルフォッグ、エヴァンゲリオン零号機、これら四体の連係プレイで第5使徒を殲滅します〕
モニター画面が切り替わり、作戦概要、ロボットの配置図、使徒の状況など、様々なデータが映し出される。
〔まず、先陣はガオガイガーに切ってもらいます。 使徒の0時方向、真正面から使徒に近付き、囮の役をかってもらいます〕
「了解だ」
ガイが頷く。
〔何故、主戦力のガオガイガーが囮なのかと説明しますと、これは射撃を担当するエヴァ零号機の配置場所が加粒子砲の射程圏内、使徒の後方 約12kmの位置というのが関係してきます〕
「使徒の射程は20kmでしょ! 危険じゃない!!」
「ミサト! これは仕方のないことよ。 獅子王博士に持ってきて頂いたポジトロンライフルの改造案でも、射程は約15kmが精一杯。 この12kmという数字は、確実に狙いを付けられる位置でありながら一番遠い距離ということなの。 これ以上離れてしまったら、狙いを付けても外してしまう確率が高くなってしまうのよ」
「くっ………!」
〔赤木博士、補足ありがとうございます。 改造したポジトロンライフルは完全に規格外の物になってしまった為、外した場合、二発目が撃てるかどうかはかなり微妙になってしまいました。 一発で決めるしかないのです〕
モニターに新たなデータが呼び出される。
〔今回の使徒は、明らかにガオガイガーを最優先攻撃目標と定めています。 第4使徒殲滅後、間髪入れず襲来した第5使徒は真っ先にガオガイガーを狙い、撤退した後は他には目もくれず侵攻を開始しました。 射程内にエヴァ零号機、そして超翼射出司令艦ツクヨミがいたにも関わらずです〕
「ガオガイガーが囮になることで、使徒の意識を零号機から逸らすという訳か!」
ガイが納得したという顔をした。
〔そうです。 ボルフォッグが集めたデータで、使徒は攻撃と防御を同時には行えないということが判りました。 この性質を利用して、使徒の加粒子砲をガオガイガーの防御フィールドで防ぐと同時に、使徒の6時方向、つまり真裏からエヴァ零号機の超長距離射撃で粒子加速器を破壊します。 使徒が加粒子砲を照射している間はA.T.フィールドが消失しているはずですから、確実に破壊できるでしょう。 これで使徒の攻撃手段を封じた後、ゴルディオンハンマーにより使徒のコアを回収して殲滅。 これで作戦終了となります〕
「使徒のA.T.フィールドが消失してるのなら、別にGSライドなんて使う必要なかったんじゃない?」
ミサトの疑問。最初の計画であった電力徴発でエネルギーは賄えたと主張する。
〔GSライドを使って使徒のA.T.フィールドを貫くだけのエネルギー出力を確保したのは、万が一にも零号機の攻撃に対して使徒のA.T.フィールド展開が間に合ってしまった時、それごと貫く必要性があったからです〕
猿頭寺の説明に「確かに、その通りね」と頷くリツコ。
一方、反論されて悔しがるミサト。
――――― が、それに負けずに続ける。
「じゃあ、もし零号機の方に使徒の攻撃が来たらどうするのよ!」
〔零号機には、盾を装備したビッグボルフォッグがサポートに付きます。 この盾は、予め施された超電磁コーティングと連動してボルフォッグの特殊機能であるミラーコーティングを併用して発動させることができます。 これにより、加粒子砲の直撃に約25秒間耐えることが可能になりました〕
発令所のモニターに、GGGが開発した特殊盾が映し出された。
〔あと問題なのは、使徒が何処までガオガイガーの接近を許すか? ということです。 大気圏内での光学兵器の威力というのは、射手とその攻撃対象との距離に比例して低くなります。 最大射程と思われる20kmからの攻撃では、使徒はガオガイガーを倒すことができませんでした。 使徒はこれを学習し、射程よりも威力を重視した攻撃を仕掛けてくると我々は読んでいます〕
「なに言ってんの? 使徒にそんな知能ある訳ないじゃない。 ねえ、リツコ?」
ハン! と馬鹿にしたような表情で猿頭寺を見るミサト。
「いいえ、あながち間違いじゃないわ。 使徒に常識は通用しないわよ、ミサト!」
リツコの言葉に眉を顰めるミサト。味方に裏切られた気分だ。
「予測としては、どれくらいと見ていますか?」
今度はリツコから問う。
〔約10kmと見ています。 予測される加粒子砲の威力が、ガオガイガーの防御フィールドであるプロテクトシェードを貫くものになるのがこの距離でしょう〕
「ちょっと待ってよ! それじゃあ囮なんてできないじゃない!!」
ミサトの言うことも当然だ。囮を務めるからには攻撃に対する防御方法が確立していなければならないのだ。どうするというのか。
〔それについては、プロテクトシェードを超える防御フィールドを使用します。 ガジェットツールのボルティングドライバーには、それを造り出す機能が確認されております〕
モニター画面が切り替わり、ボルティングドライバーのデータが映し出される。
〔他に質問は?〕
「「「「……………」」」」
ここまで詳細に説明されては、GGG側はもちろんのこと、NERV側にも言うことはなかった。
〔これで作戦説明を終わります。 ライガ博士、後はお願いします〕
「うむ! ご苦労だったな、猿頭寺君」
「あ……あの、獅子王博士」
「何かな、赤木博士?」
「ガオガイガーのパイロットがそちらの獅子王機動隊長だということは判りましたが、その他のパイロットも紹介して頂きたいのですが」
「ああ、そうじゃった。 では、紹介しよう。 猿頭寺君」
〔はい〕
またもや画面が切り替わると、そこにはオレンジ色のごついロボットと紫の忍者ロボがいた。
〔よう。 俺様がゴルディーマーグだ。 よろしくな〕
オレンジ色のロボットが挨拶し
――――― 〔初めまして。 ボルフォッグと申します。 以後、お見知りおきを〕
続いて忍者ロボが挨拶した。
「「「「………………」」」」
再び発令所が静まり返った。
「どうしたんだ?」
ガイ達が周りを見回す。
「………ロボットが……喋った?」
マヤが信じられないといった表情で呟く。
〔んだぁ!? ロボットが喋っちゃあいけねぇのか!?〕
「ひっ!!」
まさか聞こえるとは思わず、ゴルディーマーグの怒声に首を竦めるマヤ。
「止めろ、ゴルディー!! 済みません、伊吹さん。 口は悪いけど、いい奴なんです。 許してやってください」
ガイは、そう言って伊吹に頭を下げる。
「え? あ、いや……ちょっと驚いただけです。 こっちこそ済みません、ごめんなさい」
マヤもガイとゴルディーマーグに頭を下げた。
「ロボットがちゃんと受け答えをするなんて凄い技術ですわね、獅子王博士」
気を取り直したリツコがライガに話し掛ける。
「彼等は超AIにより自律行動が可能なんじゃ。 つまり、自我を持っておるんじゃよ」
「こんな技術を一体どうやって………?」
「赤木博士。 まだ、あの話は有効ですぞ」
「知りたければこちらに来い、と?」
「それは、あなたの意思にお任せしますぞい」
〔敵シールド、第7装甲板を突破!〕
敵は、すぐそこまで迫ってきている。余裕に浸る暇は無くなった。
「時間が無い! この世界を守る為にも、俺達は絶対に負けられない! 行くぞ、みんな!!」
「「「「「おう!!」」」」」
ガイの一言が準備開始の合図となった。
――――― が、これに応えたのはGGGメンバーとモニター画面に映っていた二体のロボットだけだった。
当初、GGGの士気の高さにNERVはついていけなかった。
しかし、少しずつ影響され始めたのか、徐々に作戦進行のペースは上がり、作戦開始時刻には全ての準備が完璧に整うのだった。
作戦名は【オペレーション:Der FreischUtz(デア・フライショッツ)】に決まった。これは18世紀の音楽家、カール・マリア・フォン・ウェーバーが作曲した歌劇【魔弾の射手】の話(ストーリー)に因んだものである。
獲物を狩る為に魔王と契約し、必中の弾丸を手に入れた狩人。
ここでの獲物とは『使徒』 それを撃つのは狩人『エヴァンゲリオン』 そして、銃弾を与えし魔王とは
――――― 『破壊神ジェネシック』
なんと相応しい作戦名だろうか。
作戦開始時刻は午前0時00分00秒。使徒のドリル・シールドが全ての防御装甲板を突破する予定時刻の約7分前である。
第弐拾参話へ続く
※お断り
題名と、本文中にある作戦名の【Der FreischUtz】ですが、掲示板の文字表記の関係で、本来のスペルとは違っています。
予めご了承ください。