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No.207の一覧
[0] 正義の味方の弟子 [たかべえ](2006/01/30 09:43)
[1] Re:正義の味方の弟子 第2話[たかべえ](2007/09/06 23:51)
[2] Re[2]:正義の味方の弟子 第3話[たかべえ](2006/01/06 17:45)
[3] Re[3]:正義の味方の弟子 第4話[たかべえ](2006/01/06 17:49)
[4] Re[4]:正義の味方の弟子 第5話[たかべえ](2006/01/06 17:51)
[5] Re[5]:正義の味方の弟子 第6話[たかべえ](2006/01/07 11:59)
[6] Re[6]:正義の味方の弟子 第7話[たかべえ](2006/01/07 12:01)
[7] Re[7]:正義の味方の弟子 第8話[たかべえ](2006/01/07 12:04)
[8] Re[8]:正義の味方の弟子 第9話[たかべえ](2006/01/07 12:12)
[9] Re[9]:正義の味方の弟子 第10話[たかべえ](2006/01/12 14:42)
[10] Re:正義の味方の弟子 資料[たかべえ](2006/06/12 10:47)
[11] Re[10]:正義の味方の弟子 第11話[たかべえ](2006/02/03 14:46)
[12] Re[11]:正義の味方の弟子 第12話[たかべえ](2006/01/30 09:31)
[13] Re:正義の味方の弟子 番外編その1[たかべえ](2006/02/06 08:53)
[14] Re[12]:正義の味方の弟子 第13話[たかべえ](2006/02/07 16:49)
[15] Re[13]:正義の味方の弟子 第14話[たかべえ](2006/02/11 16:15)
[16] Re[2]:正義の味方の弟子 番外編その2[たかべえ](2006/02/14 00:01)
[17] Re[14]:正義の味方の弟子 第15話[たかべえ](2006/02/16 09:16)
[18] Re[15]:正義の味方の弟子 第16話[たかべえ](2006/02/19 23:07)
[19] Re[3]:正義の味方の弟子 番外編その3[たかべえ](2006/02/21 13:53)
[20] Re[16]:正義の味方の弟子 第17話[たかべえ](2006/02/26 17:20)
[21] Re[17]:正義の味方の弟子 第18話[たかべえ](2006/02/26 17:29)
[22] Re[18]:正義の味方の弟子 第19話[たかべえ](2006/03/07 19:07)
[23] Re[4]:正義の味方の弟子 番外編その4[たかべえ](2006/03/14 00:04)
[24] Re:正義の味方の弟子 第20話[たかべえ](2006/03/21 23:20)
[25] Re[2]:正義の味方の弟子 第21話[たかべえ](2006/04/04 18:37)
[26] Re[3]:正義の味方の弟子 第22話[たかべえ](2006/04/12 11:55)
[27] Re[4]:正義の味方の弟子 第23話[たかべえ](2006/04/25 13:37)
[28] Re[5]:正義の味方の弟子 番外編その5[たかべえ](2006/04/28 12:29)
[29] Re[5]:正義の味方の弟子 第24話[たかべえ](2006/05/08 10:52)
[30] Re[2]:正義の味方の弟子 サーヴァント資料[たかべえ](2006/07/13 15:52)
[31] Re[6]:正義の味方の弟子 第25話[たかべえ](2006/05/15 10:48)
[32] Re[6]:正義の味方の弟子 番外編その6[たかべえ](2006/05/18 10:51)
[33] Re[7]:正義の味方の弟子 第26話[たかべえ](2006/05/24 08:41)
[34] Re[8]:正義の味方の弟子 第27話[たかべえ](2006/05/29 10:50)
[35] Re[9]:正義の味方の弟子 第28話[たかべえ](2006/05/31 14:50)
[36] Re[7]:正義の味方の弟子 番外編その7[たかべえ](2006/06/01 13:07)
[37] Re[10]:正義の味方の弟子 第29話[たかべえ](2006/06/05 11:39)
[38] Re[11]:正義の味方の弟子 第30話[たかべえ](2006/06/08 13:38)
[39] Re[12]:正義の味方の弟子 第31話[たかべえ](2006/06/15 10:48)
[40] Re[8]:正義の味方の弟子 番外編その8 前編[たかべえ](2006/06/15 16:08)
[41] Re[9]:正義の味方の弟子 番外編その8 後編[たかべえ](2006/06/20 08:48)
[42] Re[13]:正義の味方の弟子 第32話[たかべえ](2006/06/28 10:42)
[43] Re[14]:正義の味方の弟子 第33話[たかべえ](2006/07/03 11:35)
[44] Re[15]:正義の味方の弟子 第34話[たかべえ](2006/07/05 11:15)
[45] Re[10]:正義の味方の弟子 番外編その9[たかべえ](2006/07/07 14:04)
[46] Re[16]:正義の味方の弟子 第35話[たかべえ](2006/07/11 13:31)
[47] Re[17]:正義の味方の弟子 第36話[たかべえ](2006/07/15 07:35)
[48] Re[18]:正義の味方の弟子 第37話[たかべえ](2006/07/19 14:56)
[49] Re[11]:正義の味方の弟子 番外編その10[たかべえ](2006/07/24 09:57)
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[207] Re[9]:正義の味方の弟子 第10話
Name: たかべえ 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/01/12 14:42
正義の味方の弟子
第10話
彼の戦い方






街の内部にまで侵入したシャムシェルはその巨体をゆっくりと起こす。

立ち上がったその姿は雄大さを持っている。

巨大な使徒は身体を起こしてからはその場を動かない。

ただ己の敵を待っている。

だれもいない街でその一点がゆっくりと開き、レールが延びる。

そこに、己の敵が来た。

初号機は出撃の勢いに任せて地上へと打ち上げられる。

戦いの幕が開ける。








打ち上げられた初号機は最終ロックの解除と共に即座に行動に移す。

魔術回路の起動。

シンクロ時の魔術回路起動による激痛は問題ではない。

くると分かっているのなら、あらかじめ覚悟することができる。が、

(前回より痛みが少ない!?)

シンジにはそう感じられた。前回は神経全体を焼かれたような痛みがして1秒も保てなかったが、今回はそれが和らいでいるように思える



理由は分からないが、これは決して不利にはならない。

呼吸を整え、魔術を使用する。

「強化、開始」

パレットライフルに『強化』の魔術をかける。

『強化』は魔術の基礎でありながら、極めるのが難しいとされる魔術だ。

名の通り、能力を向上させるこの魔術は剣なら切れ味を、盾なら強度を向上させる。

物が大きいため、使用する魔力の量も大きいが、何とか成功した。

強化されたパレットライフルで敵を撃つ。

パレットライフルを指切りをして、一発、二発と誤差を修正、そしてコアに当てるための弾道を計算すると、即座に全弾叩き込んだ。

強化されたことで、弾丸の初速が向上したが、それでも使徒には一切通じず、辺りに粉塵が舞い上がった。

(ATフィールドって本当に厄介だな)

『馬鹿!! 敵が見えない』

ミサとの叱責が飛ぶが、シンジは我慢するしかない。

シンジのバトルスタイルは魔術による補助、そして後方からの一撃必殺だ。

だが、今のシンジにそれは望めない。

『復元』では元の形に戻すことしか出来ない。

元々長さ1メートルの武器だとしたら、『復元』しても1メートルのまま。

最初から数十メートルの武器だったら問題はないが、そんなものは用意していない。

魔術に関してもそうだ。

シンジはシングルアクションで魔術を起動できるが、その効果はかつて誰かが使ったのと同じ効果なのである。

例えば、シンジは風の加護と身体強化が組み合わさった魔術を使うことで、常人では考えられない跳躍力を得ることができる。

しかし、その高さと距離は固定されているのだ。かつて誰かが使った魔術のまま。これより上にも下にもいかない。

威力が固定されているのは強みであり、弱みである。

威力が固定されていれば、作戦が立てやすい。だが、それで通用しない相手がいるのならばそこで終わり。

となると、シンジに使える魔術は復元した魔術ではなく、シンジが復元以外に唯一使える強化しかない。

エヴァの強みは身体能力の高さ。シンジの能力は身体能力の向上を含めた補助。

シンジとエヴァは相性が悪いのだ。エヴァに乗っていれば『宝具』も魔術もかなり制限を受ける。

強化してもパレットライフルでは威力に欠ける。

となると、近距離でのナイフしかない。

方法は一つしかない。ユイのように捨て身でコアを抉る。それだけだ。

初号機の動きは今が最高。だから、一気に前に出て貫くしかない。

加護殺しの魔術を使いながら特攻する。

敵のコアの位置は覚えている。ユイの記憶によれば敵の鞭は二本。どこに刺さってもこちらがくたばる前に相手を殺せる予定だ。

ウエポンラックからプログレッシブナイフを抜き、そして限界速で近づく。

あと敵のコアまで54・24メートル。1秒もいらない。

そこまで駆け抜け、そして4本の触手に身体を貫かれた。

「――っ!?」

鋭い痛みが熱さとなって、身体に伝わる。

右肩、右わき腹、左肺、左足の腿。その4点が光る鞭に貫かれている。

通信機越しに誰かの悲鳴が聞こえる。

だが、その程度の痛みで止まらない。

さらに前進し、右腕を伸ばしナイフをコアの表面に突き刺したところで肘から先を5本目と6本目の鞭によって切断された。

「ぐああああっ!!!!!」

悲鳴を漏らし、エントリープラグの中、赤い布に包まれた右腕を左腕で押さえる。

エヴァは腕から血を盛大に流し、シンジの動きにあわせるように左腕で右腕を押さえる。

そこでシンジは自分の失策に思い当たった。

平行世界でのセカンドインパクトの被害の違い、これがそのまま使徒の能力の違いであったことを。

腕を押さえているエヴァは無防備のまま、足首を鞭に掴まれ、ぶん投げられる。

肉を巻き込みながら刺さっていた鞭が抜け、再び熱さが体を襲う。

空を飛んだ初号機は山の中腹へと落ちる。その距離は数百メートル。

落ちるときに打った背中と腕の痛みを抑え、シンジは現在の状況を把握する。

右腕切断。肘から先を失う。ナイフはコアに刺さったままだが振動が止まっているため、効果はない。

損傷多数、いずれも軽微。戦闘続行可能。ただ、腿の損傷により、移動能力が多少低下。

アンビリカルケーブル切断。残り稼働時間4分53秒。

ケーブルの接続ポイントまで最短で300メートル。ただし、敵の真後ろ。

現状での勝率、1割未満。

逃亡手段は山の裏手にある射出ポイントの使用。ただし、片腕を失っていることで立ち上がるまでに時間を要し、逃亡途中で使徒に攻撃さ

れる危険性は9割。

「なんだ、勝てる見込みほとんどないじゃんか」

自嘲気味に言葉を漏らす。

そういえば、自爆装置なんてものもあったっけ、などと考え、突如機械音が鳴り響いた。

機械音につられ、視界のうちの異常を調べる。

「なっ!?」

泣きっ面に蜂、これだけ不利な要素の上にさらに不利な要素が加わった。

左手の人差し指と中指の間、すこしでもエヴァの落下点がずれていたら押し潰されている位置にトウジとケンスケがいた。

(こんなとこは一緒でなくてもいいだろ)

身に降りかかった危険に怯え、立ち上がることもできない彼ら。

悪いのは彼らだ。ここで彼らが死んだとしてもシンジの責任ではない。だが、

(見捨てられるわけないだろ)

萎えかけた戦意が再び高ぶってくる。

すばやくシンクロを解除し、プラグを排出する。

「そこの二人早く乗れ!!」

シンジにとって、勝ちとは敵を倒すことではない。いかに、多くの人間を守り助けられるかにある。

だから、悠然と近づいてくる敵など関係なく、当然のように守るという選択肢を選んだ。








発令所は唖然としていた。

出撃から一分もたたずに戦況は動き続けた。

急激なシンクロ率の上昇、突撃したエヴァが使徒の鞭で腕を落とされ、山まで投げられたかと思うと今度はそこに民間人がいたのだ。

指示を出さなくては、と思うも気だけが空回りし、上手く言葉にならない。

彼らにとってこれが初めての実戦。正確な情報を伝えなければいけないオペレーター達もとまってしまっている。

『そこの二人早く乗れ!!』

エヴァの首筋からエントリープラグを露出させ民間人を乗り込ませようとした。

唖然としていた職員達がより強烈な驚きによって再起動した。

サードチルドレンの行動の変化。普段は馬鹿しか言わず、緊張感のない人物だがそれが大きく変化している。

すでにセイバーはここからいなくなった。エヴァの右腕が落とされたのを見て、自分が使徒を倒すために発令所から抜け出した。幸い、気

づいたのはユイとレイぐらいで、他のものはスクリーンに釘付けになっている。

ユイは画面を見ているしかできない。

ユイは自分の能力に気づいていない。ユイの持つ『対神性』ならば敵の能力を下げることが可能なのである。

だが、発動するためには敵意を抱く必要がある。敵意を抱かなければ、その強力な能力も発揮できない。

心配という気持ちだけで、敵対するものに敵意を向けてない彼女には何の力もない。

「やめなさい!! そんなことしている暇はないわ!!」

リツコは大声で叫ぶ。シンジのシンクロ率は一定しない。損傷までしているのに、さらにお荷物まで抱えようとしているのだ。エヴァをよ

く知る彼女には絶対に見過ごせることではない。

逆に本来指揮を執るはずのミサトは口ごもっている。

私人としての彼女なら救ってほしいと嘆願するが、公人としての彼女なら見捨てろと命令しなければならない。その矛盾に彼女は動きを止

めてしまっている。

『ふむ。英国に長くいたせいで日本語が急に不自由になった。なにを言っているのか理解できない』

「馬鹿なことを言わないの!! そんな不利な状態で戦えるわけないでしょ!!」

それは正論だ。わざわざ勝率を下げることなどない。

のこのこと戦場に足を踏み入れた馬鹿のために死ぬ必要などない。なのに、

『勝とう』

その少年はただそれだけを答えた。






シンジとリツコの問答の間、レイはただスクリーンを眺めているだけである。声も上げず、目も逸らさず、ただその戦いを一瞬たりとも見

逃さないようにしている。

腕を落とされながらも戦いをやめようとしないその人物をずっと見続けている。

彼女にとってすればシンジの行動は理解不能なことだらけだ。

仲良くなったことだけではない。今も、命令に関係なく戦い、命令を受けることなくそこにいる誰かを救おうとしている。

理解できない。合理的ではない。無駄が多すぎる。

だが、こうしてその彼女だったら切り捨てるはずの思考を理解しようとしているのだろう。

その行為が命令によるものではないということにはまだ気づかない。








トウジとケンスケは1分もかけずに上りあがってきた。

エヴァの体勢を極力下げたとはいえ、中々の好タイムだ、などとシンジは考える。

「水!? 俺のカメラがー」

「!? 転校生、お前なにしとるんや!?」

「マジかよ!? お前がロボットのパイロットだったのか」

「はいはい。無駄口は後。舌を噛むから口を閉じて」

驚く二人を無視して

エントリープラグを再び挿入し、シンクロをスタートさせる。

このときにシンジはミスをしていた。エヴァの右腕は切断されていたのである。

「いてえぇぇっ!!!!!」

「な、なんやこの痛みはっ!!!」

二人とも自分の右腕を押さえ込む。

腕が切断される痛みなど耐えられるほうがおかしい。彼らの行動は正しいものなのだ。

その様子にシンジは歯噛みする。

(母さん。お願いがある。痛みは僕だけに与えてくれ。このままじゃ戦えない)

エヴァンゲリオン、その中にいるはずである母に自分の願いを伝える。

自分が痛むのであればいい。だが、他人が痛むのが我慢できない。

果たしてのその願いは叶えられた。

シンジの後ろ、LCLのなかで苦しんでいた二人はその苦しみから解放された。

同時にシンジは再び魔術回路を起動させる。

(また痛みが軽くなっている)

通算三度目のシンクロ時での魔術回路の使用でそれはもう完全な違いになっていた。

(僕が痛みになれたんじゃなくて、エヴァが魔術回路にあわせてきたのか?)

右腕が落とされて痛むのだから、ありえなかった神経が体に挿入された痛みも伝わるのが道理だと考える。

前方には敵がいる。

エヴァを上回る巨体は遠くからでも威圧感がある。

シンジを攻撃した鞭は左右に三本ずつ、同じ場所から生えており近づいたことで鞭が唸りを上げて襲い掛かってくる。

予備のナイフがある。それを細工しながらも左手に持つ。

この際腰を大きくねじれさせ、ナイフ投げのスタイルをとる。

鞭の動きには規則性があるのが分かっている。

動きは早いが、それでもタイミングさせあえばコアへの道が開けるのだ。

相手がじりじりと距離を詰める。鞭がしなりながら前方をかすり空気を裂く。

敵の間合いに完全に入ったとき、そのナイフを全力で投げた。

ヒュンと鞭がしなる音と、ブンッとナイフが投げられる音。

その二つが重なり、鞭は無防備な右腹に、ナイフはコアへと向かいながらも鞭に阻まれた。

ああっ、と誰かが嘆く声が聞こえる。

それをかき消すように、

「ブロークン・ファンタズム」

一度砕かれ、そこから復元されていたナイフは鞭を破壊するほどの爆発を生んだ。

爆発自体に威力はない。少なくとも使徒は倒せない。

だからこそ、ないはずの三本目のナイフを抜き、一瞬で距離を詰める。

出血が多いが、無視する。そんなものあとで輸血すればいい。どうやってするかは知らないけど。

三本目のナイフが今度こそコアに刺さり、即座に爆発させる。

残ったのは刺さったままだった一本目のナイフ。

すでに半壊したコア。それでもピチピチと動き続ける鞭に嫌気を覚えながらとどめの一撃を叩き込む。

火花を散らしてコアを抉り続ける。そして、命を奪いきった。

「君は強かった」

丁度そこで時間切れ。エヴァは身動き一つできない彫像になる。

そばにあるのは一つの死体。勝ったほうより負けたほうが損傷が少なかったりする。












戦いの後、シンジと巻き込まれた二人は即座に病院に搬送された。

特にシンジの場合は高シンクロでの右腕切断、腹部損傷など14もの傷が確認され、入院が決定したのだ。

そんなシンジの病室では見舞い客によって賑わって、もとい怪我人が賑わせていた。

「痛いとこある?」

「ああーーーー全身痛い。かなり痛い。ユイに『いたいのいたいのとんでけー』という究極クラスの魔術を唱えてもらわない限り治りそう

にないくらいに痛い」

「どんな魔術でも存在自体がイタイ人物には通用しませんが」

「きっつ!! 姉さん、その発言きつい!! 痛さを忘れるほどにきついよ」

「もう夜だから静かにしなよ」

ジオフロント内にある病院にユイとセイバーは詰め掛けてきた。

セイバーは発令所から飛び出していったが、そのときにはすでに使徒は倒されており、全員を運んだだけだった。

だが、シンジが怪我を省みない戦いをしたせいでかなり機嫌が悪い。

シンジは入院ということになったのだが、見た目的には問題ない元気振りである。

シンクロが終わりしばらくすると痛みも引きだし、シンジが行ったのは注射と精密検査ぐらいだ。

この入院も念を入れてのことでしかない。リツコは右腕の布を外そうとしたが、シンジが断固拒否し、結局そのままになっていた。

「腕を落とされましたが支障はありませんか」

「うーん、ちょっと動かしにくいぐらいかな。寝れば治るでしょ」

「そうなんだ。……よし。林檎剥きおわったよ」

果物ナイフで林檎を剥いていたユイだが、さらに一口大の大きさに切り、その優しさを十分に示す。

「ありがとう、さっ」

それ以上何も言わず、口をあけて待つシンジ。それを見て、ユイはシンジがなにをしたいのか気づくのだが無視しようか、それともご褒美

としてしてあげようか悩みだす。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……は、はい、あーん」

「あーん」

結局、してあげることにしたユイは林檎をフォークで突き刺し、シンジに差し出す。

それをむしゃむしゃと美味しそうにほおばるシンジはかなり幸せ一杯である。

「もっと気丈な態度で行かないとシンジにいいようにつかわれますよ」

セイバーは嘆息するしかない。シンジ相手では怒りが長続きしない。

「まあこれぐらいは役得ということで。

そうそうユイ」

「なに? お、おかわり?」

「それもお願いするけど、……ユイってすごいね」

シンジの口からなにげなく出た言葉は褒め言葉だった。

「なにが?」

「使徒と戦ったこと。僕は魔術を使い、敵の能力を知っていたにも拘らずあんな結果だった。

なのに、ユイはなにもなしにあれに勝てた。それはとてもすごいことだよ」

一切の冗談でもなく本心からの言葉だ。

「え、ええっ、ど、どうしたの、頭強く打っちゃったの?」

「頭は狙われなかったかな。今のは本心からのものだよ。ユイはすごい」

「い、言わないでよそんなこと! 恥ずかしい!!」

「これは正当な賞賛だよ」

「やめてーー!!」

黙らせるために、林檎をシンジの口に大量投下。

「おわっ!!」

「や、やめなさい。一口大とはいえ、いっぺんに押し込んだら窒息します」

シンジはなんとか少しずつ噛み砕き嚥下して、窒息だけは避けられた。

「ふう、愛が大量だ「黙れー!!!」って今度は丸ごと一個!?」

そこにこんこん、とノックの音が響く。

「どうぞ」

セイバーの声に促されて入ってきたのはミサトだった。

その顔に表情はなく、目は強くシンジを睨んでいる。

見舞いに来たという雰囲気ではなく、怒気さえも立ち上らせている。

シンジはふざけるのをやめ、ミサトと向き合う。

「葛城さん。あの二人の容態どうですか?」

「LCLに雑菌が入って肺に雑菌がはいったため抗生物質をうったそうだけど、今日中には退院するわ。その後、保安部が詰問する予定よ



で、私の用件を言うわね。なぜ、勝手な行動を取ったの」

一呼吸おき、

「二人を助けたのは人道的には正しいわ。でも、私たちは戦っているのよ。

あの二人のせいで人類が滅んだかもしれない。それを分かっているの?

今まで何も言わなかったけど、貴方はふざけすぎている。やる気があるの?」

怒りを感じさせる言葉で詰め寄った。

ユイはおろおろしながら、セイバーは黙ってシンジの言葉を待つ。

「申し訳ありません」

素直に謝った。

「っ!? なにが悪いか分かってるの?」

「命令を聞かなかったことでしょう?」

「違うわ!! 貴方の態度よ。人を馬鹿にしているとしか思えないわ!!」

「待ちなさい。ミサトでしたね。確かにシンジの行動には問題がありますが、結果として私たちは勝利している。まずはその結果を受け止

めることが大事でしょう」

セイバーはミサトを諭すように語る。かつて、王だった彼女はこの手の問題などいくらでも判断を下し続けてきている。

「でも一人のせいで周りに影響が出るわ!!」

「周りに影響をもたらさないものなどいません。普段は馬鹿ですが今日は見事な活躍をした。それにどんなものでも休息は必要です。シン

ジの場合それが普段の行動であるだけです」

ミサトとセイバーの言い合いは激しさを増していく。

結果だけを考えればシンジは悪くないが、普段の行動となると悪いとなるだろう。

一度険悪になってしまった空気はそう簡単には戻らない。戻るにはきっかけが必要でそれが、

「葛城さんはあの時どんな命令をする気だったんですか?」

シンジだった。

これにはミサトが驚いた。

「二人が外にいて、僕が戦えば間違いなく死んだであろうあの状況でどんな命令を下す気だったんですか」

その言葉に責める意図はない。穏やかで優しい声だ。

なのに、ミサトは狼狽する。

「それは……、」

「指揮官としては無視を、私人としては助けろ、と命令するべきあの状況で何を命令するきだったんですか?」

一気に部屋の中がしんとする。

あの時、自分は止まってしまった。命令を出さなければいけなかった。明らかにしてはいけないことをした。

「……ごめんなさい。私に貴方を責める資格はないわ」

「助けろ、って言いたかったんですね。でも、貴方はそれを言ってはいけない立場にあった。

葛城さんは悪くないんですよ。ただ、邪魔なものがあっただけです」

この少年は間違った自分を肯定する。

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいですよ。悩むのはいいことなんですよ。考えずに行動するとすぐに失敗してしまいますから。決断をした後に悩んでしま

うのが問題なんですよ」

間違った自分を正しいという。

「……貴方はどうしてそんなに強いの?」

「間違えたからです。しかもとびっきりの間違いをしました。思い出すのもいやなくらいのとびっきりです。かといって忘れてはいけない

ことなんですよ」

この少年は痛みをもちながらも笑っている。

それがどうしようもなく強く思えた。

「いやな空気が漂ってきましたね。このままじゃ暗くなる一方ですので、仲直りしましょう。

はい、手を出してください」

左手を差し出される。自分も差し出す。

「僕は握手をするとき左手でするんですよ。はい、これで仲直り」

こちらが一方的に相手を嫌っただけなのに、相手は自分も悪いという。

でも、この間違いを正すために今はこの好意に甘えておこう。

「これで仲直りよ。でねー、できれば名前で呼んでほしいんだけどなー。葛城さんはいやなんだけどなー」

笑おう。笑っておこう。

「ふむ、じゃあミサト姉さんでいこう」

「姉さん?」

「そう、僕は年上ならだれかれかまわず兄や姉と呼びますからね。

ミサト姉さん、これからよろしくね」

そして、間違いを踏破しよう。

もしこの子が間違ったときに自分が正してあげられるように。








その日の夜、ユイは夢を見た。

自分とよく似た少年の夢。






あとがき

今回はシリアスばっかで書く気が少々失せていました。シリアス苦手です。何度も書き直しました。

しばらく忙しいので、更新が難しくなるかもです。

よろしければ感想お願いします。


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