落雷の影響で、飛行機のエンジンがトラブルを起こし、非常に不安定な状態になっている。アメリカの大学に戻る途中、俺は飛行機の雷の直撃に遭った。キャビン・アテンダントさんの指示の元、緊急装備の準備はしたが、ここまで制御不能で、下が海ではなく地面とあってはほぼ助からないだろう。こうなったら、アレを試す必要があるかもしれない。物体や生物を一時的に光に変え、インターネットの世界を通して、瞬間移動させる俺が開発した最新技術ヒューマンネットプログラムだ。だが、まだ生物では、ラットでしか実験した事がないし、成功確率も10パーセントを切る。失敗したラットは半分が行方不明、半分が体のバラバラになって死骸として発見されている。危険すぎて開発の凍結も検討していた秘密の技術、それを自分の身で試す事になるかもしれない。正直怖くて仕方がない。
「ビリビリ、ビリビリ、ボキッ」
何かに亀裂がはしり壊れたような音がした。げっ、飛行機の右側の羽が取れやがった。そして、飛行機は完全にコントロールを失い、落下を始めた。くそっ、このままじゃ絶対に死ぬ。もう迷っている場合じゃない。俺は、ひざの上に乗せていた、ノートパソコンのEnterボタンを押し、ヒューマンネットプログラムを作動させた。それから、あとの記憶はない。
意識が戻ったとき、俺は日本にいた。だが、そこは俺の知る日本ではなかった。大震災の後の被災地、又は、まるで難民キャンプのような場所だった。また新聞を見ると、俺の知っている日付と違っていたし、セカンドインパクト、南極の氷の全崩壊、日本の常夏化と言う特集記事が載っている。おいおい、これじゃ昔はやった日本のアニメみたいじゃないか。
「一体どうなっていやがるんだ。そんな馬鹿な事があるわけないのに」
だが、その後、自分で色々調べれば調べるほど、ここがエヴァの世界であるとわかってしまった。
さらに、しばらくしてから衣食住の問題が俺に重くのしかかって来た。元々別の世界の人間だから、手元にはほとんどお金がない。野宿もそろそろ体力的に限界にきている。そこで熟慮したところ、思い切ってネルフのスーパーコンピューターMagiをハッキングすることにした。目的は俺の名前を売って、ネルフに就職するためだ。下手すれば逮捕させる可能性もある危険な好意なのは百も承知だが、このままではサードインパクトが起こってしまう。それを防ぐためには、何らかの形でネルフに接触する必要があった。ハッキングなんて、もちろん悪い事をしているんだけど、スーパーコンピューターMagiと戦っていると、コンピューター馬鹿の俺は嬉しくて気持ちが生き生きしてしまった。
この作戦は成功した。Magiをハッキングした後、俺は自分から、自分が犯人と言う事をバラし、ネルフに就職したいと申し出たのだ。もちろん不法行為のため厳しい取調べを受け、数ヶ月間牢屋にぶち込まれてしまった。
「プログラミングだけの天才っているものね。他の知能能力は完全に平凡以下なのに」
呆れながら、この時初対面のリツコさんに言われてしまう。
「記憶喪失で何も覚えてないですけど、これだけは何故かできるんですよ」
俺にはこの世界の戸籍がない。怪しいのは百も承知で、記憶喪失しか思いつかなかった。
「その記憶喪失ってのも怪しいけどね。まぁあなたの能力は捨てがたいし、追求するのは止めておきましょう」
ほっ、なんとか狙い通りにうまくいったな。こうして俺はネルフに入ることに成功した。
さて、幸運な事に俺は、新世紀エヴァンゲリオンのアニメのダウンロード版を購入しており、ノートパソコンの中にはそのデータが入っていた。これを違法だが、DVDに数枚コピーしておいた。俺は何度も何度もこのアニメを見返して、サードインパクトを防ぐ方法を考えたが、いい案は出てこない。たかが、ネルフの平職員の俺では介入できる余地がほとんどないのだ。
「日向どうしよう。やっぱり加持さんには話さない方がいいと思う?」
既に、時はアスカ来日、加持の日本帰還直前の時期になってしまっていた。歴史通り展開は進んでしまい、日々焦る俺。このまま、一人ではどうしようもないので、同期に就職して、仲がよい日向に、昨日ついに秘密を話してしまった。
「いや、あの人に話すと色々無理して、死期を早めそうな気がするから、やめたほうがいいんじゃ」
確かに無理しそうだなあの人。しかしこのまま何も手を打たないわけにはいかない。ここで、日向が思わぬ案を出してきた。
「白石、どうだ。アスカを引き取って仲間にしてみたら」
「えっ、アスカを」
「ああ、このままじゃ彼女も精神崩壊の運命だろ。アニメの中で十分だよ、あんなことは。それを変えるためには、思い切って彼女にできるだけ関わってみる必要があると思う。だから、この際、シンジ君とミサトさんみたいに、家族でもやってみたらどうだ。最初は家族ごっこかもしれないけどね」
ううむ、それは思いつかなかった。よし、他にいい案も出てこないし、やってみるか。俺はしばらくホテル住まいの予定だったアスカをかなり強引に上層部に説得して、引き取る事に成功した。
さて、アスカは文句たらたらだったが、上の許可も取ったからと説得して、無理やり承諾をもらった。
「ああっ、加持さんだったら大歓迎だったのに。なんでこんな超冴えない男と一緒に暮らさなきゃいけないのよ」
「まぁ、そう言わずに仲良くしようぜ」
「ふん、あんたに仲良くできる価値がある男ならね」
やっぱり言う事がきついなこの子。まぁ、こんな生意気な口がずっと言えるぐらい元気ならいいんだけどな。予断だが、後日ミサトさんと、この時の事を話す機会があった。
「実は、私もアスカを引き取ろうと思ってたんだけどな。昔からの知り合いだし」
「シンジに続いて、アスカまで家族を戦場に送り込むと、つらくなると思いましてね」
「それも、そうかもね」
この後、試練、また試練。それは長い試練の時間。不幸な事が彼女に次々と襲い掛かってくる。歴史を遥かに超える試練が次々に降りかかることになる。俺はただそれを見守っているしかなかった。