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No.14358の一覧
[0] ラクリモーサ(EVA オリ主物、シリアス) 第23話A(ゼルエル戦Ⅳ)更新しました[HY](2010/03/12 22:30)
[1] ■■■第Ⅰ部 第壱話 L'ETRANGER P: JSB, Goldberg Variations -TO.1[HY](2010/02/22 06:43)
[2] 第壱話 A: M, 陽のあたる場所 -HYS.1[HY](2010/02/22 06:32)
[3] 第壱話 B: K, Best Friend【サキエル戦1】-HYS.2 [HY](2009/12/20 13:42)
[4] 第弐話 虚栄の街 A: AT, 虹【サキエル戦2】-HYS.3 [HY](2009/12/20 13:44)
[5] 第弐話 B: AH, 今、風の中で –HYS.4[HY](2010/02/22 06:33)
[6] 第参話 震えるヒーロー A: Z, 負けないで【シャムシェル戦1】- HYS.5 [HY](2009/12/28 17:21)
[7] 第参話 B: MK, Best of Hero【シャムシェル戦2】- HYS.6 [HY](2009/12/28 17:22)
[8] 第四話 紅い瞳のベアトリーチェ A: BG, je t'aime, je t'aime -HYS.7[HY](2009/12/20 13:48)
[9] 第四話 B: CK, 恋におちたら -HYS.8[HY](2009/12/20 10:44)
[10] 第伍話 一都物語 A: HU, First Love【ラミエル戦1】-HYS.9 [HY](2010/01/24 21:44)
[11] 第伍話 B: BG, 愛のある場所【ラミエル戦2】-HYS.10[HY](2009/12/23 15:46)
[12] 第六話 赤と青 A: MK, Love, Day after Tomorrow 【JA】-HYS.11 [HY](2010/02/22 06:34)
[13] ■■■ラクリモーサ 第Ⅱ部 序 & ハイライト■■■[HY](2009/12/28 18:23)
[14] 第七話 豊饒の海 A: SS, マリンスノウ【ガギエル戦1】-HYS.13 [HY](2009/12/20 14:07)
[15] 第七話 B: KH, Miracles【ガギエル戦2】- HYS.14[HY](2010/01/31 15:31)
[16] 第八話 As You Like It ! A: Gs, ミモザ【ガギエル戦3】-HYS.15 [HY](2010/02/22 06:35)
[17] 第九話 葛城家で朝食を A: BG, Magic in your eyes【第一次イスラフェル戦】-HYS.17 [HY](2009/12/20 14:12)
[18] 第九話 B: B, Summer Love –HYS.18 [HY](2009/12/20 13:55)
[19] 第拾話 真夏の夜の夢 A: MN, 朧月夜-祈り-HYS.19[HY](2009/12/20 14:00)
[20] 第拾話 B: J, やさしさで溢れるように【第二次イスラフェル戦】-HYS.20[HY](2009/12/20 14:14)
[21] 第拾壱話 第四の男 A: AT, 小さな掌 –HYS.21[HY](2009/12/20 13:56)
[22] 第拾壱話 B: YI, Pureyes -HYS.22 [HY](2009/12/20 13:57)
[23] 第拾弐話 若き不敗の魔術師 A: P, Dream Fighter【マトリエル戦】-HYS.23[HY](2009/12/20 14:15)
[24] 第拾弐話 B: Y, いちごいちえ –HYS.24[HY](2009/12/21 21:44)
[25] 第拾参話 燃え尽きた地図 A: Y, CHE.R.RY【第四次南極遠征1】-HYS.25 [HY](2009/12/27 04:38)
[26] 第拾参話 B: CK, こんなに近くで【第四次南極遠征2】-HYS.26[HY](2009/12/19 08:13)
[27] 第拾四話 悲しき南回帰線 A: FMBs, 桜【第五次南極遠征1】-HYS.27[HY](2010/01/12 20:19)
[28] 第拾四話 B: FMBs, ALWAYS【第五次南極遠征2】-HYS.28[HY](2009/12/23 07:04)
[29] ■■■ラクリモーサ 第Ⅲ部 序■■■[HY](2010/01/12 20:18)
[30] 第拾伍話 果てしなき物語 A: J, 奇跡を望むなら【サハクイエル戦】-HYS.29[HY](2010/01/04 20:29)
[31] 第拾伍話 B: B, Sweet Impact –HYS.30[HY](2009/12/26 10:17)
[32] 第拾六話 レンゲ畑でつかまえて A: KH, DEAR Again Ver.2.05 –HYS.31[HY](2009/12/28 20:23)
[33] 第拾六話 B: Ws, 明日があるさ -HYS.32[HY](2009/12/28 05:20)
[34] 第拾六話 D: AK, 見えない翼 –HYS.34[HY](2009/12/28 17:34)
[35] 第拾七話 雨夜譚 A: K, 冬のうた -HYS.35[HY](2010/01/31 07:30)
[36] 第拾七話 B: TF, 大丈夫【バルディエル戦1】-HYS.36[HY](2010/01/10 16:58)
[37] 第拾八話 ひまわりがいっぱい A: KH, 一人じゃない【バルディエル戦2】-HYS.37[HY](2010/01/11 20:52)
[38] 第拾八話 B: KA, タイヨウのうた –HYS.38[HY](2010/01/30 22:33)
[39] 第拾九話 嵐が丘 A: KK, Snowdome –HYS.39[HY](2010/01/12 19:07)
[40] 第拾九話 B: MA, いつの日も【アラエル戦1】 -HYS.40[HY](2010/01/13 22:27)
[41] 第拾九話 C: I, 流星ミラクル【アラエル戦2】 -HYS.41[HY](2010/01/19 21:44)
[42] 第弐拾話 沈黙の春 A: PP, O –HYS.42[HY](2010/01/22 19:13)
[43] 第弐拾話 B: Z, あの微笑みを忘れないで【ラシエル戦】-HYS.43[HY](2010/01/26 17:15)
[44] 第弐拾壱話 零度のエクリチュール A: KH, 美しい人【レリエル戦1】-HYS.44[HY](2010/01/30 13:21)
[45] 第弐拾壱話 B: M, 眠れぬ夜は君のせい【レリエル戦2】-HYS.45[HY](2010/02/04 05:54)
[95] ■■■ラクリモーサ 第四部 序(Plan A)■■■ YI, miss you -RA. & ASL. 4[HY](2010/02/11 22:41)
[96] 第弐拾弐話 戦士の本懐 A: NM, 祈りの歌が聞こえてくる【ゼルエル戦1】-HYS.46[HY](2010/02/16 11:59)
[97] 第弐拾弐話 B: KH, even if【ゼルエル戦Ⅱ】 -SI.2[HY](2010/02/20 07:47)
[98] 第弐拾弐話 C: B, 光【ゼルエル戦Ⅲ】-HYS.47[HY](2010/02/21 12:41)
[99] 第弐拾参話 誰がために鐘は鳴る A: MI, 愛、おぼえていますか【ゼルエル戦Ⅳ】-HYS.48[HY](2010/03/12 22:28)
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[14358] 第拾九話 B: MA, いつの日も【アラエル戦1】 -HYS.40
Name: HY◆696c774e ID:33a2258e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/13 22:27

「トシ君、おはよう。」

 朝起きたレイは、いつものように微笑みながら、トシに朝の挨拶をした。
 今日は学校だから、ふたりとも制服姿だ。

「おはよう、レイ。」

 トシは微笑み返そうとした。だが、その微笑みは、どこか不自然でひきつったような感じだった。ふたりの付き合いは濃密で、それなりに長い。だから、お互いの変化にはすぐに気付く位になっていた。すぐに、いつもと違う同居人の様子に気が付いたレイは、小首を傾げてトシに尋ねた。

「どうしたの、トシ君?」

(昨日、トシ君は夜明け前に帰ってきた・・・。
 なにを・・・していたのかしら・・・。
 ゼーレの・・・仕事・・・?)

 少年は大好きな少女に嘘をついた。

「え? いや・・・シンジ君のこと考えると、あまり寝られなくてね・・・。
 君のせっかくの食事会の後に、使徒が来たらよかったのにね・・・。
 デートの邪魔をしたり、まったく気が利かない連中だよ。」

(トシ君が・・・私にうそをついた・・・。
 ゼーレの仕事・・・私の秘密を調べる仕事かも知れない・・・。
 でも、トシ君が、話したくないなら、聞かなくていい・・・。
 トシ君も私のことを尋ねたりしないから・・・)

「・・・そうね。でも、トシ君には私がいるわ。あなたのそばには私がいる。」
「・・・そうだね。ありがとう、レイ。じゃ、じゃあ、朝ごはん作りに行く?」
「うん。」



 レイは料理が上手になった。もともと飲み込みが早く、素直な性格でもあったから、トシの指導のもと、もはや補助とは言えないレベルに達していた。
 レイは、黄緑のエプロンをして、トシのそばに立ち、まな板でネギやお揚げを切っていた。トシは、冷蔵庫から味噌と椎茸とキャベツを取り出しながら、自分の恋する少女が料理する姿を見ていた。

(僕はさっき、レイに、いつもみたいに微笑んで挨拶ができなかった・・・。
 レイは、いつものように、僕の大好きな笑顔を見せてくれたのに・・・。
 この女(ひと)は、ヒトじゃない・・・。
 キール議長からも、レイは特別の存在だって言われていたんだ・・・。
 リツコさんも、レイは諦めろって言っていた・・・。
 ヒッサリクの丘で零号機は空中に浮かんだ・・・。
 ヒトには決してできないことをレイはした・・。
 でも、僕は知ろうとしなかった。それは、知る方法もなかったから・・・。
 いや違う・・・知ることが、怖かったからだ・・・。
 レイが人でないから、クローンだから、使徒だから、僕のレイに対する気持ちが変わるというのか・・・。
 あんなに・・・あんなに憧れていた、この女(ひと)への僕の気持ちはその程度だったのか・・・。)

 トシの脳裏には、昨晩見た、薄暗い水槽の中の綾波レイの群れが浮かんだ。

(レイが・・・普通のヒトだったら・・・。
 そしたら何も苦しまなくいいのに・・・。
 ものすごく・・・ものすごく・・・幸せなのに・・・。
 これが加持さんが言ってた、難しい恋っていう意味なのか・・・。
 難しいというのは、ゼーレやネルフのことじゃなくて、僕自身の気持ち・・・っていうことだったのかも知れない・・・。)



 トシは、思いを振り切るように、レイの隣に立って、まな板を出し、キャベツを激しく刻み始めた。しかしやはり考えてしまう。

(僕は、自分の気持ちばかり考えているけど・・・僕の大好きなレイは・・・?
 レイは僕のことを大切に想ってくれている・・・。
 そして、自分が使徒であることを僕に知られるのを恐れているだろう・・・。
 知られたくない、と思っているだろう・・・。
 僕が知れば、レイから離れていくと思っているだろう・・・。
 L計画でリリスは消える。人類補完計画でもリリスが使われる。
 可哀そうに、レイは、自分の宿命を一人で抱え込んで苦しんでいるのだろう・・・。
 これまでも苦しみ続けてきたのだろう・・・。
 可哀そうな・・・可哀そうな・・・レイ・・・。
 僕以外に、誰がレイを助けてあげられるっていうんだ・・・。
 僕はレイのためなら・・・死ねる・・・死んでもいい・・・。
 どちらにしろ、僕はもう、レイなしでは生きていけない・・・。
 もう、この人がそばにいなければ、僕はとても生きていけない・・・。
 ・・・そのことははっきり分かっている・・・。
 ・・・でも・・・レイは・・・レイは・・・レイは・・・・・・ヒトじゃ・・・ない・・)


「イタッ!」


「トシ君!」

 考え事ばかりしていたトシは、うっかりと左手の人差指を包丁で切ってしまった。血が滲み出た。

「ちょっと待ってて、絆創膏を取ってくるから。」

 レイは慌ててキッチンを出て行った。


(だから、それがどうしたっていうんだ!
 そんなことは最初からだいたい分かっていた・・・。
 でも好きになったんじゃないか! 何をいまさら・・・。
 それに僕はレイを失うわけにはいかない。
 彼女なしで生きていけないくせに・・・。
 分かり切ったことじゃないか!
 何を・・・何を悩むんだ! )

 レイが戻っても、トシは切れた指をそのままに、何かを考えているようだった。レイは、血が滲んでいるトシの指を、自分の口の中に入れて舌で舐めてから、消毒液を掛けて、絆創膏を貼ってあげた。

「あ、ありがとう、レイ。」

「そんなに深く切れてなくて、よかった・・・。」

 レイはにっこりとトシに微笑みかけると、廊下の棚に救急箱を戻しに行った。
 トシはその後ろ姿をただ見つめていた。


*TS*

(優しい人だ・・・。心も、姿も、何て美しい女(ひと)だろう・・・。
 悩んでも、レイがヒトになれるわけじゃない。
 それに、レイは今のままのレイで何も変わらない。
 ずっと、僕が好きなままのレイなんだ。
 レイを一人で悩ませるわけには行かない・・・。

 今晩、レイに話そう。
 たとえレイがいかなる存在であったとしても、僕の気持ちに変わりがないことを・・・。
 そうしたら、レイも僕も救われるはずだ。レイの微笑みにまた、応えられるはずだ。
 そうだ。僕は綾波レイが好きだ。心から愛している。
 僕は、世界中の誰よりも、綾波レイを愛している。
 だから、レイが使徒であっても、何も変わりはしない。
 
 きっとレイは、自分が使徒だから、僕のことを好きだと決して言わなかったんだ。
 だから今晩、一緒に並んで月を見ながら、僕から言おう。
 ずっと、先延ばしにしてきたけど、今晩こそ、必ずレイに打ち明けよう。
 僕が綾波レイを好きだということ、レイを心から愛しているということを。
 レイがたとえ使徒であっても、僕が変わらずにレイを好きだということ、心から愛しているということを。
 これまでもそうだったし、これからもずっとそうだってことを・・・。)


 少年は、絆創膏を救急箱に戻して、キッチンに戻ってきた、愛しくて堪らない少女を、思わず抱き締めた。
 いきなり抱き締められたレイは、驚いた顔をして尋ねた。

「どうしたの・・・トシ君・・・?」

「ごめんね、レイ・・・。ありがとう・・・。」

「トシ君・・・」

 美しき使徒は、恋するヒトの胸に、その美しい顔を埋めた。

(もしかしたら・・・もう・・・
 この人は、知っているのかも知れない・・・
 私が使徒だって、いうことを・・・
 私がヒトじゃないって、いうことを・・・
 トシ君が知らなくても・・・私が使徒であることに変わりはない・・・
 そんなことは、どうでもいい・・・
 かなわないことだけれど・・・私はずっと・・・あなたのそばにいたい・・・
 私にとって・・・あなたはただ一人の愛しい人・・・
 いつか、私は消えてしまうけど・・・あなたを愛したこと・・・それは変わらない・・・)

 美しき使徒に恋をしたヒトの少年は、手が届かず、消えてしまいそうな恋を取り戻すかのように、少女を優しく、でも夢中で抱き締めた。

(これが・・・しあわせ・・・
 私・・・しあわせ・・・なのね・・・
 ずっと・・・ずっと・・・私を抱き締めていて・・・
 きっと私は・・・計画のためなんかじゃなくて・・・
 私は、あなたに出会うために・・・そして、あなたに愛されるために・・・作られたの・・・
 たとえ、今度は、あなたと結ばれなくても・・・
 次にはヒトに生まれ変わって・・・また、あなたを捜すから・・・
 あなた以外の誰も捜したりはしないから・・・
 だから、あなたも、もう一度・・・私を、見つけて・・・)

 美しき使徒は、少し顔を上げて、使徒である自分に恋をして、自分を強く抱き締めているヒトの、優しげな、でも少し今日はどこかしら物憂げな顔を見つめた。


(私は・・・いずれ・・・消える・・・
 でもトシ君・・・今はずっと・・・私だけをその手に抱き締めて・・・
 今はもう・・・なにも見ないで・・・私だけを見つめて・・・
 そして・・・ふたりが歩んできた日々を、その胸に刻んで・・・
 いつか・・・私が消えた後も・・・私を・・・いつの日も思い出して・・・)

 少年は、ずっと恋焦がれていた、使徒である少女の、いつもと変わらない透き通ったような美しい顔を見た。
 その顔はいつものように微笑んではいなかった。しかしそれはおそらく、彼の顔がいつものような微笑みを浮かべていなかったためだろう。
 でも少年は、少女の秘密を知った今でも、そして、たとえこの少女が使徒であるとしても、これまでと何も変わらず、なお、この少女を心から愛しているということを、今すぐに、確認したかった。そして、それを少女に行動として伝えたかった。

 少年は、目の前にある、美しき使徒の可愛らしい顎を、右手の人差指と親指で、少し持ち上げるようにして触れた。そして、ゆっくりと自分の顔を近づけると、その赤い唇に、自分の唇をそっと重ね合わせた。麗しき使徒は、それを受け入れ、その紅い瞳を閉じた。

*S*


 葛城本家のキッチンには、切りかけのお揚げとキャベツがそのままで、所在無げな鍋が湯気を盛んに上げていた。
 リビングに入ろうとしたアスカは、抱き合って接吻しているふたりの姿を見、驚いて足を止め、自分の部屋へ静かに戻って行った。



 ネルフ発令所。

「冬月、ダミーシステムが破壊された・・・」
「! ・・・フォースか?」
「ああ。証拠は残していないが、他に考えられまい。」
「ゼーレの指示か?」

 冬月の問いに、ゲンドウはいつもの姿勢を変えずに答えた。

「さあな・・・。ただの恋かも知れん・・・。二人目の綾波レイを守りたいという。」
「レイの保護にゼーレの者が入ったのも、フォースの差し金だろうな。」
「ああ。」
「レイにもう、代わりはいないか・・・。」
「フォースに先手を打たれた。もう、二人目のレイでL計画を実現するしかない。」

「・・・確かにフォースの才能は、あの年にして抜群だ。
 だが、どうやってレイの秘密に辿りついた? あの若さで、無理だろう?」

「・・・手引きしたのは、あの男だろうな・・・。夕霧と同じで、喰えぬ男だ・・・。」
「あの男が、最終的に我々に付くかどうか、分からんな・・・。」
「ああ。」

 ゲンドウはブラックのエンディミオンを取り出した。

「私だ・・・。そうだ。・・・ああ、指示は取り消しだ。
 元通り、ファースト・チルドレンの保護・監視に変更だ。
 今まで以上に警護を強化しろ。」



 第壱中学校。
 漢文の先生が病気で長期療養となったため、3学期のその週から、現国の小池先生が急遽、代打で担当することになった。

 レイは、隣の席で舟を漕ぎ始めた少年を、少し驚いた様子で見た。

(トシ君が居眠りするなんて、珍しいわ・・・
 昨日の夜、遅かったから・・・
 トシ君はゼーレの人。私には言えない任務があるのかも知れない・・・
 朝、少し様子が変だったけど・・・
 碇君のことで、悩んでいるの・・・
 それとも・・・私の・・・)

「桜花。」
「・・・」

「トシ君、当たってる・・」

 レイはトシの左腕を揺すりながら、小さな声でトシに言った。

「トシ!」

 アスカは左足でトシの右足を蹴った。
 レイとアスカに起こされたトシは、驚いたように顔を上げた。

「は? は、はい。」

 昨日ほとんど寝ておらず、精神的にも悩んでいたトシは、多少、素っ頓狂な声を上げた。

「桜花。なぜ、コウウは再起を期さなかったと思う?」

 小池先生は授業での学生の受け答えがよくなくなると、授業の流れを作るために、よくトシを指名していた。これはよく教員がやることである。出来の悪い生徒ばかり当てていては授業が進まない。これぞという所で、正答率の高い模範生徒を指名する。この授業でも最後の締めの重要な問いをトシに答えさせて授業を終結させる、それが小池先生の授業戦略だった。

 しかし小池先生は、慣れない代打の漢文の授業に夢中で、いつも優秀な少年が、今日はずっと居眠りしていたことに気付かなかった。これに対し、2Aクラスの生徒たちは、トシが珍しく居眠りしているのを意外そうに見ていた。いかに優秀な彼でも、睡眠中で彼が何も聞いていない授業を前提とする、この問いには答えられまい。トシの人気に嫉妬し、好意を持っていなかった若干名の男子学生は、面白そうにトシの回答を待った。

 しかし生憎、トシは日本と中国の古典や戦記物が好きであり、しかも項羽のファンだった。

「項羽・・・ですか・・・? え? 垓下の戦いの後ですか?」
「そうだ。」

「はい。えー・・・きっと項羽は、自分が天下を取るのに相応しくないと思ったんじゃないでしょうか。秦の時代、圧政に民は苦しんだ。その後の戦乱でも民は苦しんだ。自分が烏江(うこう)を渡り、再起を図ることは可能です。そうしていればまだ内戦は続いたでしょう。でも、自分には武力はあっても人望がない。名将韓信も去り、軍師范増も去って行った。自らに従った者も離反し、あるいは悉く討ち死にしていく。もう愛する虞美人も手にかけた。彼は疲れたのでしょう。項羽は、劉邦に天下を譲ることで、民を安んずることを選んだのだと思います。そもそも楚漢戦争では・・」

 トシが覚醒し、いよいよ調子に乗り始めた時、学内の緊急放送が流れた。

「ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました。学生諸君は、速やかに指定のシェルターへの避難準備を開始してください。繰り返します、ただいま・・」

 3人はすでに、自分の鞄の中に入っていた携帯端末の振動を感じた。


 非常招集。


 アスカが挙手して、立ち上がり、小池先生に言った。

「先生、すみません。私と綾波さん、桜花君はこれで早退します。
 みなさんもアナウンスに従って、避難してください。」

 3人の学生は、すぐに教室を走り出た。



 ネルフ発令所。

「総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意!」
「使徒を映像で確認、最大望遠です!」
「衛星軌道から動きませんねぇ。」
「ここからは、一定距離を保っています。」
「てことは、降下接近の機会をうかがっているのか、その必要もなくここを破壊できるのか。」

 ミサトの言葉にマコトが言った。

「こりゃ迂闊に動けませんね。」
「どのみち目標がこちらの射程距離内にまで近づいてくれないと、どうにもならないわ。エヴァには衛星軌道の敵は、迎撃できないもの。」



 トシは、レイ、アスカとともに、学校に到着したネルフ作戦本部の黒い送迎車でネルフに向かっていた。トシを真ん中に右にレイ、左にアスカ。

「あんた、今日、どうしたのよ。黙りこくって・・・。」
「えっ? あ、そうかな・・・。」
「冗談ひとつ言わないじゃない・・・。」
「だって、使徒戦の前だよ。緊張するじゃない・・・。シンジ君もいないし・・・。」

「ふうん。なんかファーストと行き違いでもあったんじゃないの?
 なんか、二人、よそよそしいわね・・・。」

「そ、そんなことないよ。ねえ、レイ?」
「えっ? ・・・う、うん。」

「ふん。まあ、いいわ。それにしてもトシ、漢文の授業、寝てたのに、よく答えられたわね。」

「ん? ああ、項羽は好きだからね・・・。
 応援しながら読むんだけど、いつも劉邦に負けるんだよね。当たり前だけど。」



 プラグスーツ姿の三人のチルドレンが発令所に集った。

「きれいな使徒だね・・・。あだ名は、例えば・・・雪の華、かな。」

 トシがレイとアスカに言った。しかし彼は、この使徒が自分の意識を奪い去ってしまう恐るべき使徒であることをまだ知らない。

「美しい敵か・・・。」

 アスカが呟くように言った。



「待ちましょう。降りてくるまで。」

 例によって、意見を求められてもいないのに、トシが作戦に口を挟んだ。

「ミサト、超長距離射撃で倒しましょ。」

 アスカも同様だ。

「使徒には反則がある。危険だよ。これまで何度もどんでん返しにあってきた。警戒し過ぎてし過ぎることはない。降りてきてからでも遅くはない。攻撃してこないなら痛くも痒くもないし。ずっと降りてこないなら、10年でも100年でも放っておけばいいんだ。」

 若い戦術家は、意見を求められてもいないのに、いつものように、頭をかきながら、勝手に作戦に口を出した。



 アスカのこの少年に対する気持ちは複雑だ。

 天才少女を自負する自分を超える知略と勇気を持つ少年。ミサトや他のネルフ関係者も一目を置く存在。
 かつてアスカは、トシに敵愾心を燃やし、彼をライバル視してエヴァに乗ってきた。それは、アスカが自分の才能と存在を世に示すためにエヴァに乗っていたからだった。自分をかすめさせてしまような、自分より優れた才能と存在を世に示す者がいること、つまり自分より優れたパイロットがいることは、彼女には許し難いことだった。付け加えれば、アスカにとっては、トシが本当は軍人になどなりたくなくて、家で寝転がって好きな本を読んでいるほうがいいという言い草もかなり、気に喰わなかった。

 しかし、いつしかアスカは、自分が、自分のライバルである少年に恋していることに気付く。彼女は、最初それを否定したが、彼が死に直面した時、自分の恋心をどうしても認めざるを得なくなった。

 なのに、自分が恋している少年は、別の少女に恋をしている。アスカは、この少年の目の前で、自分の力を見せつけてやりたかった。そうすることで、彼の恋している、シンクロ率も自分より低い無口な少女ではなく、自分こそがこの少年に相応しい少女であることを、彼にも皆にも示したかった。

 自分がリーダーであるとか、一番であるとか、そんなことはもういい。目の前の少年こそが、最も優れたエヴァ・パイロットであることは、自分にも、そして誰の目にも明らかだったから。大学を早く卒業したって、大卒の社会人がみな立派なわけではない。この少年は、自分ならいとも簡単に解ける高校三年の数学や物理の問題さえ解けなければ、英語も話せない。でも、人の価値はそのようなことでは決まらない。

 この少年をライバルとして敵対視したままだったなら、あるいはこの少年が傷ついたときに助けてやることで、見返してやるというやり方もあったかも知れない。しかし、アスカは、この少年に恋してしまった。そして、自分が恋する少年が傷つく姿も見たくはなかった。だから彼女は、彼の手を借りず、むしろ彼が危険視するミッションを見事にこなすことで、彼の称賛を得たいと考えた。それが彼女なりの恋の作戦だったと言えるかも知れない。

 だから彼女は、恋する少年が反対すればするほど、後に極めて危険であることが判明する運命の出撃に固執した。



「あんた、バカァ? あんた、アタシが手柄立てんのが、嫌なわけ? 邪魔すんじゃないわよ! この前の使徒もアタシが倒したでしょ。アタシの力を信じなさい。」

「僕は、君の心配をして言ってるんだ。敵が攻撃してきてからでも、全然、遅くはない。
 明日できることは今日やるな、僕の尊敬するベンジャミン・フランクリンの格言さ。
 待とうよ。」

「フランクリンはそんなこと言ってないわよ! あんたは、アタシじゃなくて、ファーストの心配、してればいいのよ!」

 この二人が作戦に公然と口を出すことは、もはや常態と化していた。

「3時間以上も膠着状態だから、とりあえず出撃して相手の出方を見るというのも一つね。」

 リツコは腕を組んだまま、ミサトに言った。

「トシ。ライフルは1丁しかないからアタシが出るけど、なんかあったら、アタシを助けなさい。」

「分かったわ。超長距離射撃、用意して。アスカは弐号機で待機。」

 ミサトもリツコの言葉を受けて、作戦に同意した。

「・・・じゃあ・・・僕も、一応、待機しておきます。」

 執行部が出撃を決定した。トシも具体的な危険の内容を知らないから、これ以上、抽象的な不安だけで、出撃に反対することはできない。しかしこのアスカの出撃が悲劇を招くことになる。

「いいわ。」



「アスカ。弐号機発進。」
「了解!」

 地上に射出された弐号機は、遥か彼方の軌道上に浮かぶ使徒に向けてポジトロン・スナイパー・ライフルを構えた。

「目標、未だ射程距離外です。」
「もぉ、さっさとこっちに来なさいよ! じれったいわねぇ!」
「加速器、同調スタート。」
「電圧上昇中、加圧域へ。」
「強制収束機、作動。」
「地球自転および重力誤差、修正0.03。」
「薬室内、圧力最大。」
「最終安全装置、解除! 全て、発射位置!」
「行けぇ!」

 アスカは、ライフルを撃った。
 しかし、軌道上まで届かない。

「だめです! この遠距離で、ATフィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!」
「しかし、出力は最大です! もう、これ以上は・・・」

 その時。



 第拾参使徒アラエルは美しく輝き、弐号機は白い光に照射され始めた。

「敵の指向性兵器なの?」
「いえ、熱エネルギー反応無し。」
「心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!」
「使徒が心理攻撃・・・まさか、使徒に人の心が理解できるの?」
「こん・ちく・しょーっ!」

 アスカはライフルを撃ちまくるが、当たらない。

「陽電子消滅。」
「だめです、射程距離外です。弐号機、ライフル残弾ゼロ。」
「光線の分析は?」

 ミサトが尋ねた。

「可視波長のエネルギー波です。ATフィールドに近いものですが、詳細は不明です。」
「アスカは?」
「危険です! 精神汚染、Xに突入しました!」



 アラエルの光が輝く。

「イヤぁあああああ! 私の、私の中に入ってこないで!」

 アスカは頭を抱えて悲鳴を上げた。

「痛い! ひっ! 痛い! イヤぁ!」
「アスカ!」
「私の心まで覗かないで! お願いだから、これ以上、心を侵さないで!」
「アスカ!」

 ミサトはアスカに必死で呼び掛けた。

「心理グラフ限界!」


‡‡
「一緒に死んでちょうだい・・・アスカちゃん・・・」

「ママ! ママ! お願いだから私を殺さないで!
 嫌ぁ! 私はママの人形じゃない!
 自分で考え、自分で生きるの!」

「お願い・・・アスカちゃん・・・一緒に死んでちょうだい・・・」

‡‡

「パパもママも要らない、一人で生きるの! 
 嫌っ! こんなの思い出させないで! 
 せっかく忘れてるのに掘り起こさないで! 
 そんな嫌なこと、もういらないの! 
 もうやめて! やめてよぉ・・・」

 栗色の髪の美しい少女に、背負うには余りに悲しい過去があることは、この物語でも変わらない。アスカは両耳を押さえながら悲鳴を上げ続けた。アラエルの精神攻撃はアスカの心を蝕んでいった。

 伍号機で待機していた少年は焦った。

(だめだ! このままではアスカの心が壊れてしまう!
 あの明るくて、きれいで、繊細な心が・・・。
 あれを倒すには、ロンギヌスの槍を使うしかない。)

 封印されているあの最強の槍なら、あの使徒を倒すことも可能だろう。



 待機中の伍号機から突然、声がした。

「碇司令、この距離からATフィールドを中和して攻撃することはできません。
 あの使徒を倒すには、ATフィールドを突破できるロンギヌスの槍を使うしかありません。
 使用の許可を下さい!」

「・・・」

 沈黙するゲンドウの代わりに、冬月が答えた。

「委員会から派遣された君なら、それが無理なことはよく分かっているはずだが・・」

「シナリオは、常にその通りに行くとは限りません。
 使徒を殲滅しなければ、人類補完計画もへったくれもありません!」

「使った槍を取り戻せるのか・・」

「槍が本当に必要なんですか? 儀礼に過ぎないものなら、不可欠ではないはずです。
 それに本当に必要なものなら取り戻せるかもしれません。・・・もともと人智を超えたものですから・・」

「そのようなことで委員会を納得させることはできんよ。」
「ネルフにとっては、槍などがないほうがいいのではありませんか?」
「挑発かね? 君は、我々に、ゼーレに敵対しろというのか。」



 リツコは黙ったまま腕を組んでいた。
 ミサトは少し驚いた顔で、ロンギヌスの槍を巡って、ゼーレ派遣のパイロットとネルフ最高幹部の間で交わされる、意味の分からない会話を聞いていた。ネルフには自分の知らない秘密がまだある。そして、トシはやはり、自分の知らない何かを知っている・・・。

 トシは焦った。このままではアスカの心が失われてしまう。使徒を倒すのはともかくとして、とにかく今、アスカを助けなければ手遅れになる。

 トシは議論を打ち切って、ミサトに訴えた。

「ミサトさん! このままではアスカが危険です! 伍号機を出してください! 
 弐号機に近い17番から出ます。僕が出てもゲートを開けておいてください。
 僕が地上に出たら17番に弐号機を押し込みますから、すぐに回収してください。
 僕もすぐに飛び込んで戻ります。それから先の手は、後で考えましょう。」

 白いプラグスーツ姿のレイは、食い入るように、サブモニターに映るグレーのプラグスーツの少年をただ見つめていた。

「司令!」

 ミサトは、振り向いて確認を求めたが、ゲンドウは黙したままだ。
 早くアスカを救出しなければ、手遅れになる。
 ミサトは、ゲンドウの沈黙を、黙認と理解し、独断で指示した。

「伍号機出撃。トシ君、アスカを頼むわ。気をつけて!」

 ゲンドウは何も言わず、いつもの姿勢のままだ。

「はい。」



 アラエルが光線を発する地上に排出された伍号機は、直ちに赤い機体の元へ向かうが、その動きはいつもより数段鈍い。

「シンクロ率41.7%。起動限界ぎりぎりです。」

「さすがね。シンクロ率をぎりぎりまで下げてダメージを少なくしているわけね。 トシ君も精神攻撃を受けたら共倒れだから。」

 リツコが腕組みをしながら言った。

 伍号機は弐号機のもとに辿りつくと、トシは涙を浮かべながら、優しくアスカに語り掛けた。

「可哀そうに、アスカ・・・。もういいよね・・・。
 疲れただろう? さあ、僕と帰ろう。」

 伍号機は、弐号機を抱き締めるようにして移動させ、17番ゲートへ向かおうとした。しかし、弐号機は身をよじってこれに抵抗した。

「いやいやいや! やめて!」

 アスカは絶叫した。精神攻撃を受けているアスカの弐号機は、痙攣したように断続的な抵抗を続けた。シンクロ率の低い伍号機は、なかなか17番ゲートまでたどり着けない。



「中学生とは思えない精神力ね。もう2分も経過しているのに、全く精神汚染が見られない。低いシンクロ率で、移動しながらでも強固なATフィールドを展開している。さすがだわ。」

 ミサトは心もち小さな声でリツコに言った。

「でも、いつまでも保つとは限らない。
 無事に弐号機を回収したとしても打つ手は・・・。
 いえ、でも確かに、ロンギヌスの槍なら倒せるわね。」

「そうでしょうね。でも、使うかどうかは司令次第ね・・・」



 伍号機は、抵抗する弐号機を後ろから抱き締めて、自分のATフィールドで包み込みながら移動させ、何とか17番ゲートに押し込むことに成功した。

「ミサトさん、早く!」

 弐号機が地上から姿を消し、続いて伍号機が17番ゲートに飛び込もうとしたその時、使徒の放つ光は、俄かに細い一本の光線に収斂し、伍号機のコアを貫いた。


「うあああっ!」


 伍号機はゲートを目の前にその場に倒れ込んだ。

「トシ君!!」

 レイは、恐怖の面持ちで立ち尽くし、モニターを凝視していた。

「どうしたの?!」

 ミサトが叫んだ。

「心理グラフが乱れています! 精神汚染が始まります! も、物凄い勢いです!」

 伍号機は這ってゲートに向かおうとするが叶わず、遂にその体を震わせ始めた。

「伍号機、心理グラフシグナル微弱!」

 リツコが問うた。

「LCLの精神防壁は?」

「だめです、触媒の効果もありません!」

「精神回路がズタズタにされている・・・これ以上の過負荷は危険過ぎるわ。
 生命維持を最優先、エヴァからの逆流を防いで!」

 リツコが指示した。

「出来ません! 精神汚染、いきなりYに突入しました!」

「何ですって?!」

「ぐああああ!」

「トシ君!」

 ミサトには、なす術もなく、伍号機のエントリー・プラグの中で悲鳴を上げる少年の姿をただ、見つめるしかなかった。


Jan. 13, 2010.


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