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No.14358の一覧
[0] ラクリモーサ(EVA オリ主物、シリアス) 第23話A(ゼルエル戦Ⅳ)更新しました[HY](2010/03/12 22:30)
[1] ■■■第Ⅰ部 第壱話 L'ETRANGER P: JSB, Goldberg Variations -TO.1[HY](2010/02/22 06:43)
[2] 第壱話 A: M, 陽のあたる場所 -HYS.1[HY](2010/02/22 06:32)
[3] 第壱話 B: K, Best Friend【サキエル戦1】-HYS.2 [HY](2009/12/20 13:42)
[4] 第弐話 虚栄の街 A: AT, 虹【サキエル戦2】-HYS.3 [HY](2009/12/20 13:44)
[5] 第弐話 B: AH, 今、風の中で –HYS.4[HY](2010/02/22 06:33)
[6] 第参話 震えるヒーロー A: Z, 負けないで【シャムシェル戦1】- HYS.5 [HY](2009/12/28 17:21)
[7] 第参話 B: MK, Best of Hero【シャムシェル戦2】- HYS.6 [HY](2009/12/28 17:22)
[8] 第四話 紅い瞳のベアトリーチェ A: BG, je t'aime, je t'aime -HYS.7[HY](2009/12/20 13:48)
[9] 第四話 B: CK, 恋におちたら -HYS.8[HY](2009/12/20 10:44)
[10] 第伍話 一都物語 A: HU, First Love【ラミエル戦1】-HYS.9 [HY](2010/01/24 21:44)
[11] 第伍話 B: BG, 愛のある場所【ラミエル戦2】-HYS.10[HY](2009/12/23 15:46)
[12] 第六話 赤と青 A: MK, Love, Day after Tomorrow 【JA】-HYS.11 [HY](2010/02/22 06:34)
[13] ■■■ラクリモーサ 第Ⅱ部 序 & ハイライト■■■[HY](2009/12/28 18:23)
[14] 第七話 豊饒の海 A: SS, マリンスノウ【ガギエル戦1】-HYS.13 [HY](2009/12/20 14:07)
[15] 第七話 B: KH, Miracles【ガギエル戦2】- HYS.14[HY](2010/01/31 15:31)
[16] 第八話 As You Like It ! A: Gs, ミモザ【ガギエル戦3】-HYS.15 [HY](2010/02/22 06:35)
[17] 第九話 葛城家で朝食を A: BG, Magic in your eyes【第一次イスラフェル戦】-HYS.17 [HY](2009/12/20 14:12)
[18] 第九話 B: B, Summer Love –HYS.18 [HY](2009/12/20 13:55)
[19] 第拾話 真夏の夜の夢 A: MN, 朧月夜-祈り-HYS.19[HY](2009/12/20 14:00)
[20] 第拾話 B: J, やさしさで溢れるように【第二次イスラフェル戦】-HYS.20[HY](2009/12/20 14:14)
[21] 第拾壱話 第四の男 A: AT, 小さな掌 –HYS.21[HY](2009/12/20 13:56)
[22] 第拾壱話 B: YI, Pureyes -HYS.22 [HY](2009/12/20 13:57)
[23] 第拾弐話 若き不敗の魔術師 A: P, Dream Fighter【マトリエル戦】-HYS.23[HY](2009/12/20 14:15)
[24] 第拾弐話 B: Y, いちごいちえ –HYS.24[HY](2009/12/21 21:44)
[25] 第拾参話 燃え尽きた地図 A: Y, CHE.R.RY【第四次南極遠征1】-HYS.25 [HY](2009/12/27 04:38)
[26] 第拾参話 B: CK, こんなに近くで【第四次南極遠征2】-HYS.26[HY](2009/12/19 08:13)
[27] 第拾四話 悲しき南回帰線 A: FMBs, 桜【第五次南極遠征1】-HYS.27[HY](2010/01/12 20:19)
[28] 第拾四話 B: FMBs, ALWAYS【第五次南極遠征2】-HYS.28[HY](2009/12/23 07:04)
[29] ■■■ラクリモーサ 第Ⅲ部 序■■■[HY](2010/01/12 20:18)
[30] 第拾伍話 果てしなき物語 A: J, 奇跡を望むなら【サハクイエル戦】-HYS.29[HY](2010/01/04 20:29)
[31] 第拾伍話 B: B, Sweet Impact –HYS.30[HY](2009/12/26 10:17)
[32] 第拾六話 レンゲ畑でつかまえて A: KH, DEAR Again Ver.2.05 –HYS.31[HY](2009/12/28 20:23)
[33] 第拾六話 B: Ws, 明日があるさ -HYS.32[HY](2009/12/28 05:20)
[34] 第拾六話 D: AK, 見えない翼 –HYS.34[HY](2009/12/28 17:34)
[35] 第拾七話 雨夜譚 A: K, 冬のうた -HYS.35[HY](2010/01/31 07:30)
[36] 第拾七話 B: TF, 大丈夫【バルディエル戦1】-HYS.36[HY](2010/01/10 16:58)
[37] 第拾八話 ひまわりがいっぱい A: KH, 一人じゃない【バルディエル戦2】-HYS.37[HY](2010/01/11 20:52)
[38] 第拾八話 B: KA, タイヨウのうた –HYS.38[HY](2010/01/30 22:33)
[39] 第拾九話 嵐が丘 A: KK, Snowdome –HYS.39[HY](2010/01/12 19:07)
[40] 第拾九話 B: MA, いつの日も【アラエル戦1】 -HYS.40[HY](2010/01/13 22:27)
[41] 第拾九話 C: I, 流星ミラクル【アラエル戦2】 -HYS.41[HY](2010/01/19 21:44)
[42] 第弐拾話 沈黙の春 A: PP, O –HYS.42[HY](2010/01/22 19:13)
[43] 第弐拾話 B: Z, あの微笑みを忘れないで【ラシエル戦】-HYS.43[HY](2010/01/26 17:15)
[44] 第弐拾壱話 零度のエクリチュール A: KH, 美しい人【レリエル戦1】-HYS.44[HY](2010/01/30 13:21)
[45] 第弐拾壱話 B: M, 眠れぬ夜は君のせい【レリエル戦2】-HYS.45[HY](2010/02/04 05:54)
[95] ■■■ラクリモーサ 第四部 序(Plan A)■■■ YI, miss you -RA. & ASL. 4[HY](2010/02/11 22:41)
[96] 第弐拾弐話 戦士の本懐 A: NM, 祈りの歌が聞こえてくる【ゼルエル戦1】-HYS.46[HY](2010/02/16 11:59)
[97] 第弐拾弐話 B: KH, even if【ゼルエル戦Ⅱ】 -SI.2[HY](2010/02/20 07:47)
[98] 第弐拾弐話 C: B, 光【ゼルエル戦Ⅲ】-HYS.47[HY](2010/02/21 12:41)
[99] 第弐拾参話 誰がために鐘は鳴る A: MI, 愛、おぼえていますか【ゼルエル戦Ⅳ】-HYS.48[HY](2010/03/12 22:28)
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[14358] 第拾七話 雨夜譚 A: K, 冬のうた -HYS.35
Name: HY◆d71cf34f ID:33a2258e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/31 07:30

「この頃、雨が多いわね。」
「そうね・・・」

 アスカの言葉に、隣を歩くレイが相槌を打った。

 トシ、レイ、アスカ、シンジが雨の中を登校していた。傘の色は順に、ベージュ、空色、赤、透明だった。アスカが来る前は、もちろんトシとシンジが二人並んで登校していた。トシが右、シンジが左だ。その後アスカが来ると、そこに彼女が加わった。トシとシンジの間にアスカが入り、三人で並んで歩いた。だが、学校に近づくと、アスカはヒカリやその他の友達と合流し、残されたトシとシンジが共に歩く形だった。

 そして、レイが同居するようになると、彼女に恋焦がれる少年はレイの右側を歩いた。四人が並ぶほど道幅はとれないし、レイとアスカは仲が悪かったから、自然とその前か後ろをアスカとシンジが歩くことになる。このフォーメーションは、南極遠征で一部のチルドレンが不在の時を除いては、だいたい維持されてきた。だが、サハクイエル戦後のトシの入院などを経て、レイとアスカが並んで歩くという光景が見られるようになった。

 今日は、前を歩くアスカとレイを、トシとシンジが追う形だった。

「シンジ君、雨だったら、体育、何、やるんだろ?」
「さあ、卓球かな・・・。」
「じゃあ、女子と合同かな?」
「その可能性もあるね。トシ君、楽しみなの?」
「いや、嫌なんだ。疲れるから。カッコ悪いところ見せられないしね。」
「カッコつけなきゃ、いいんじゃないのかな・・・。」
「そうなんだけど、今さら治らないよ、僕のカッコつけはね・・・。」



 レイは、学校を休んでネルフに行くことがある。また、他のチルドレンが帰った後もネルフに残ることがある。ゼーレ直属のチルドレンとして、綾波レイの保護を任務としているトシは、レイが「特別の存在」だということだけを知らされていた。それ以上は知らない。彼も、レイの「単独」行動がレイの秘密に関わるものであろうことにもちろん気付いていた。だが、レイがネルフで何のために何をしているのかまでは知らない。レイが話さない以上、彼女が言いたくないことなのだろう。だから、聞くべきではない。レイがトシに心を開くにつれ、レイもそのことを気にしている様子がある。しかし彼女は何も語らない。

 でも、いつか少年は知らねばならないだろう。綾波レイの何が特別なのか、彼の恋している綾波レイとは何者なのかを。そうしなければ、恋する少女を守りたくても守れないから。
 トシは自室のベッドに横になったまま、ハイペリオンを開き、コキアの中に映る自分と恋する少女の姿を見た。

(レイ・・・早く、帰ってこないかな・・・。
 レイ・・・今、何・・・してるのかな・・・。



 その頃、ネルフではレイによる初号機の搭乗実験が行われていた。
 立ち会っているのはリツコ、マヤ、冬月、そしてゲンドウ。

「エントリースタート。」
「LCL電化。」
「A10神経、接続開始。」
「初号機、起動しました。」

 リツコはエントリー・プラグ内のレイに問いかけた。

「どう、レイ? 久しぶりに乗る初号機は?」
「・・・碇君の匂いがする・・・」

 冬月はサブモニターに映る俯き加減のレイの顔を見ながら言った。

「シンクロ率は、零号機のときより約40%も低い。起動ぎりぎりか・・・。」

「確実に下がりましたね。零号機と初号機、パーソナルパターンは酷似してシンクロは可能なんですけど。」

「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常ね。」
「はい、先輩。ハーモニクス、すべて正常位置です。」

 マヤはキーボードを叩きながら、リツコのコメントに応じた。

「数値は下がるけど、過去のデータを中心に使うしかないわね。それであの計画、遂行するしかない。」
「ダミーシステムですか? 先輩の前ですけど、私はあまり・・・」
「マヤ、感心しないのは分かるわ。しかし備えは常に必要なのよ。人が生きていくためにはね。」
「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも、納得はできません。」



 その時、俄かに初号機とレイの神経接続が次々と外れて行った。

「どうしたの?!」

 レイはエントリープラグの中で、思わず右手で口を押さえた。

(うっ・・・だめなのね、もう・・・)

「パルス逆流!」
「初号機、神経接続を拒絶しています!」
「まさか、そんな・・・」
「第1ステージに、異常発生!」
「中枢神経素子にも、拒絶が始まっています!」
「実験中止!」
「コンタクト停止、10番までの回路を開いて!」

 リツコがマヤに急いで指示し、初号機は強制的に起動停止させられた。

「レイ、だいじょうぶ?」
「・・・はい。」

 リツコの問いに、レイは俯いたままで答えた。



「碇。やはり、もう無理か。」
「ああ。レイは、感情を持ちすぎた。」

 ゲンドウは、ずれた眼鏡を右手で押し上げながら言った。

「全く同じ遺伝子を持つ魂の器を彼女が拒絶したということだな。もうレイは器ではない。器には心が入ってしまった。彼女は自分が乗っ取られると感じたのかも知れんな。」

「ああ・・・。」
「魂のないダミープラグでの起動なら、彼女も受け付けるだろう。」
「それでも、過去のデータだけで誤差修正は困難だ。」
「どうする? ダミーシステムには大きな痛手だな。」

「考えている。」

 ゲンドウはいつもの姿勢を変えないままで言った。



 この日、レイは夕食を済ませて帰ってきた。
 20時30分ころ、分家のチャイムが鳴ると、トシが急いで玄関に行き、笑顔でレイを迎えた。

「ただいま。」
「おかえり、レイ。」

 ふたりは微笑み合った。

「コーヒーでも飲む? 先にシャワー浴びる?」
「先、シャワーにするわ。」
「そう・・・。じゃあ、コーヒー、淹れておくよ。」
「ありがとう。」



 シャワーを浴びて出てきたレイは、白いTシャツに薄いピンクのスウェット姿でリビングに現れた。
 トシはレイにコーヒーを差し出した。

「はい、コーヒー。」
「ありがとう、トシ君・・・」
「どういたしまして。」
「トシ君?」
「ん?」
「碇司令のこと・・・どう、思ってる?」
「・・・どうって・・・いい味・・・出してる人だね・・・。」

 トシは、いくらレイがゲンドウに好意を持っているとはいえ、冷徹なネルフの最高司令官を誉めちぎる気はしなかった。南極遠征でもそうだったが、彼にとって自分が邪魔者であることに薄々感づいてもいた。、むしろ自分を死地に追い込んだ人物に、レイがなぜ、なお好意を持っているのか不思議でもあり、さらに言えば悔しい気さえした。

「好き?」
「・・・ごめん・・・正直言うと、好きとはいえないね・・・。」
「そう・・・」
「どうして、そんなこと、聞くの?」
「碇君は、お父さんと仲が良くないみたい・・・」
「まあ・・・そうだね・・・。」
「一度、碇司令といっしょに、みんなで食事会をしたら、どうかしら・・・」
「司令が乗ってくるかな・・・。」
「今日、司令と食事をしたの・・・。誘ってみたら、行くって・・・」
「・・・そうなんだ・・・。」

(碇司令がレイと食事を・・・?
 他のチルドレンとは食事なんてしていないのに・・・。
 そう言えば、前にも食事していたな・・・。
 やはりレイの秘密と関係があるんだろうな・・・。
 僕は、あまり一緒に食べたくないけど・・・。
 こっちで一生懸命に話題作らないと、ずっと黙ってそうだし・・・。)

「ここにみんなを呼びたいの・・・」

 レイはトシを優しい瞳で見つめていた。
 恋い焦がれる女性の提案に反対する動機も度量も思慮も、この少年は持ち合わせていなかった。

「うん、そうしよう。」
「そうしたら、司令と碇君・・・わかりあえるかも知れない・・・」

「レイ・・・。君は、本当に心のきれいな優しい人だね・・・。
 僕はシンジ君のことを親友として大切に思っていたつもりだけど、司令と仲良くしてもらおうなんて、考えたことなかった・・・。
 確かに何か行き違いなどあるかも知れないし、もともと親子なんだから、うまく行くかも知れないね。」

「じゃあ、私がみんなに案内状を出すわ。碇君には司令が来ることは黙っていてね。」

「分かった。」

 レイは、ゲンドウ、冬月、ミサト、リツコ、シンジ、アスカ、加持、トシの8名に招待状を書いた。レイの指定した日はネルフ作戦本部が休みとされていた2038年2月11日祝日のお昼である。



***


††
 2月初旬、ネルフ発令所。

「とにかく、第一支部の状況は、無事なんだな?」
「いいんだよ! 計算式やデータ誤差はマギに判断させる!」
「消滅? 確かに、第二支部が消滅したんだな?」
「はい、すべて確認しました。消滅です。」

「まいったわねー。」

 ミサトは途方に暮れたように言った。

「上の管理部や調査部は大騒ぎ、総務部はパニクってましたよ!」
「で、原因は?」

 リツコは、ミサトの問いに、腕を組んだまま答えた。

「未だ分からず。手がかりはこの静止衛星からの映像だけで、あとは何も残ってないのよ。」

 主モニターに映像が映し出された。

「テンマイナス、エイト、セブン、シックス、ファイブ、フォア、スリー、ツー、ワン、コンタクト。」


 そこには第二支部が一瞬にして消滅する映像が映っていた。


「ひどいわね。」

「エヴァンゲリオン四号機ならびに半径89キロ以内の関連研究施設はすべて消滅しました。」
「数千の人間を道連れにね。」
「タイム・スケジュールから推測して、ドイツで修復したS2機関の搭載実験中の事故と思われます。」
「予想される原因は、材質の強度不足から設計初期段階のミスまで、32768通りです。」

「MSHP復活の噂もあるわ。」

 ミサトの言葉を受けてリツコが言う。

「ってことは、妨害工作の線もあるわね。」

「でも爆発でなく消滅なんでしょう? つまり、消えた、と。
 ・・・じゃあせっかく開発中のS2機関も?」

「とりあえずパーよ。これで、エデン再建計画、遅れるわね。」

「訳の分からないものを無理して使うからよ。」

 リツコは腕組みをしたまま、言葉を呑みこんだ。

(・・・それはエヴァも同じだわ・・・)



 リツコの執務室。
 ミサトは、いつものように、リツコの机に腰掛けながら尋ねた。

「で、残った参号機はどうするの?」

「ここで引き取ることになったわ。
 米国政府も第1支部までは失いたくないみたいね。」

「参号機と四号機はあっちが建造権を主張して強引に作っていたんじゃない!
 いまさら危ないところだけうちに押し付けるなんて、虫のいい話ね。」

「あの惨劇の後じゃ、誰だって弱気になるわよ。」
「で、起動試験はどうするの? 例のダミーを使うのかしら?」
「・・・これから決めるわ。」



 ネルフ、病院。
 二人の看護師が立ち話をしていた。

「12号室のクランケ?」
「例のE事件の救急でしょ? ここに入院してからずいぶん経つわね。」
「この前から急に具合が悪くなって、もう、無理みたいよ、あの子。長くはないって・・・」
「まだ小学生なのに・・・。」
「今日も来てるんでしょ、あの子。」
「そうそう。週2回は必ず顔出してるのよ、妹思いのいいお兄さんよねぇ。」
「ほんと、今時珍しいわね、あんな男の子。」



 ネルフ、司令室。
 ゲンドウの前に立つリツコ。

「機体の運搬は、新国連に一任してある。
 来週半ばには届くだろう。あとは君のほうでやってくれ。」

「はい。調整ならびに起動試験は、松代で行います。」
「テストパイロットは?」
「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から・・」
「5人目を選ぶか。」
「はい。一人、近くコアの準備が可能な子供がいます。」
「使徒戦後を考えれば、ゼーレ派遣でないチルドレンが欲しいところだ。任せる。」
「はい。」


††
 ネルフ。ミサトの執務室。
 ミサトはリツコから書類を受け取りながら言った。

「何よ、改まって。」
「松代での参号機の起動実験、テストパイロットは5人目を使うわよ。」
「5人目? フィフス・チルドレンが見つかったの?」
「昨日ね。」
「マルドゥックからの報告は受けてないわよ。」
「正式な書類は明日届くわ。」

 ミサトは腕組みをして、ジオフロントを見ながらリツコに尋ねた。

「赤木博士。また私に隠し事してない?」
「別に。」
「まあいいわ、で、その選ばれた子って、誰?」
「えっ、よりにもよって、この子なの?」

 ミサトはリツコから追加で渡された書類を見ながら言った。

「仕方ないわよ、候補者を集めて保護してあるんだから。
 私たちにはそういう子供たちが必要なのよ、みんなで生き残るためにはね。」

「奇麗事はやめろって、言うの?」


††
「2番線の電車は、16時20分発、厚木行きの政府専用特別列車です。一般の方は柵の内側には入れません。」

「許可の無い方のご乗車はかたく禁じられております。くれぐれも、ご注意ください。」

 車中の冬月は、リニアが動き出すと、斜めに向かい合って座っているゲンドウに話し掛けた。
 車窓には遠くに見える夕暮れの第三新東京市が近づきつつある。

「街。人の作り出したパラダイスだな。」

「かつて楽園を追い出され、死と隣り合わせの地上と言う世界に逃げるしかなかった人類。
 そのもっとも弱い生物が、弱さゆえ手に入れた知恵で作り出した自分達の楽園だよ。」

「自分を死の恐怖から守るため、自分の快楽を満足させるために自分達で作ったパラダイスか。
 この街がまさにそうだな。自分達を守る、武装された街だ。」

「自分達と言っても、我々は一応人類を守っている。守れるかどうかは分からないがな。」

「たとえ守れなくても、贅沢は言えまい。もともとリリスの守護神によってアダムが封印されなければ、リリンは存在することすら許されなかったのだからな。」

「知勇兼備の半神の使徒が勝てなかったアダム。それさえ利用する力が我々にはある。行けるさ。」

「そう、思いたいな・・・。第三新東京市、ネルフの偽装迎撃要塞都市、遅れに遅れていた第7次建設も終わる。
 いよいよ、完成か。・・・ところで碇、四号機の事故、委員会にどう報告するつもりだ?」

「事実の通り、原因不明さ。」
「しかし、ここにきて大きな損失だな。」

「四号機と第2支部はいい。S2機関もサンプルは失ってもドイツにデータが残っている。だが、これでA計画は大幅に遅れる。」

「委員会は血相を変えていたぞ、碇。」

 冬月は車窓からゲンドウに視線を映しながら言った。

「予定外の事故だからな。」
「ゼーレも、慌てて行動表を修正しているだろう。」

「裏死海文書にすべての事象が記載されているわけではない。
 予言に反しなければ、記載されていない事件も起こる。老人にはいい薬だよ。
 いずれにせよ、新シリーズが揃わなければエデンは攻められない。
 だが、A計画が遅れれば、同時にルシフェルの完成も遅れる。」

「悪いことばかりではない、か・・・。最終使徒戦に負ければそれで終わりだがな。」

「人類補完計画に使うあの祭器なら、最強の使徒に勝てるかも知れない。」

 ゲンドウは、見慣れた第三新東京市の街が間近に近付くのを眺めながら、言った。

「裏死海文書が成就した後、神はどのシナリオを選ぶのか・・・。
 本典なのか、外典なのか、それとも秘匿されている分典なのか・・・。
 初号機を残して最終使徒戦に勝ち、ルシフェル完成前にL計画を発動する。
 レイやフォースのこともある。全く、冒険だな。」

「今に始まったことではないさ。人類の未来を残すためだ。我々には外典を信ずるしか道はない。」

「碇、ルシフェルの睥睨だが、この騒ぎが落ち着いたら、あの男を使うか?」

「分かっている。だが、ルシフェルはゼーレの最高機密だ。あの男でも一度、失敗している。
 ルシフェルに手を出せば生きて戻れまい。あの男はまだ使える。死なせるには早い。」

「夕霧君の後継者だからな。」

「だが無論、ただ手をこまねいているわけには行くまい。時が来れば、やってもらうさ。
 ルシフェルの睥睨を少しでも遅らせれば望みは繋げる。人類を救うためなら、あの男も悔いはあるまい。」


††
 翌日、リツコ自室。
 ミサトはリツコの机に腰掛けて、資料を見ている。

「これ見て、ミサト・・・。昨日もよ。ほら、この訓練結果。」
「ああ、これねぇ・・・」

「それにしても・・・トシ君、一体全体、どうしたの?
 ここのところ、恐ろしく調子悪いわね。」

 ミサトが見ていた訓練結果は次のとおりであった。

■シンクロ率
ファースト87.7%、セカンド94.3%、サード92.1%、フォース65.7%。

■ATフィールド強度
ファースト3.91、セカンド2.18、サード2.07、フォース1.67。

■ライフル命中率
ファースト89.7%、セカンド93.1%、サード93.4%、フォース60.1%。

「ホント、どうしたのかしらね・・・」

「あのトシ君が、4人のチルドレンの中でダントツの最下位とはね。
 もともと四人とも能力が高いし、真面目に訓練しているから、数値は高い。
 トシ君もすべて理論平均値程度だし、それほど悪い数値じゃない。
 でも・・・あの彼にしては、信じられないほど低いわ。
 ミサト、何が・・・あったの?」

「思い当たることが何もないのよ・・・。
 レイとも幸せそうに暮らしているし・・・。
 トシ君も人間ってことね。スランプなのよ。」

「使徒戦における彼のこれまでの活躍には目覚ましいものがある。彼がこの調子だと、不安だわ・・・。」

「分かったわ。・・・一度、話してみる。」


††
 その日も雨が降っていた。
 サハクイエル戦後、トシが退院してから約2カ月後。

「シンクロ率、零号機90.1%、初号機96.7%、弐号機95.1%・・・」
「どうしたの?」
「ご、伍号機、起動しません・・・。」
「シンクロ率、38.7%・・・。」
「深刻なスランプね・・・。」

 レイとの幸せを最高に満喫しているはずのトシの訓練成績は、少しずつ下降を続けてきた。
 この日、遂にトシのシンクロ率は起動限界を割った。



 ネルフ・パイロット待機室。
 四人はプラグスーツからすでに着替え終えて、帰る前だ。

「トシ、あんた、ホントにどうしたのよ、最近?
 起動も出来ないなんてさ。ファーストと夫婦喧嘩でもしてんの?」

「な、何を言ってるんだよ!」
「でもトシ君、心配だよ。」

「四人中最下位で、どんどん成績、落ちて行くじゃない?
 今度、使徒がきたら、アンタ、どうするつもりよ?
 エヴァなしでハイペリオンで白兵戦でもするつもり?」

「まあ、実戦では何とかするよ。」

「うちは発令所が頼りないから、アンタが頼りなのよ。
 アンタがしっかりしないで、どうすんのよ!」

「トシ君・・・なにか、私たちが力になれること、ある・・・?」

 レイが小首を傾げて、優しく尋ねた。

「う、うん、そうだね、今度また、君の特製の牛乳プリンが食べたいな・・・。
 とっても優しい味がするんだ、君みたいに・・・。」

 レイは微笑みながら答えた。

「わかった。作っておくわ。」

「ふん、なによ。アタシもプリンくらい作ってあげるわよ。
 たまごたっぷり入れてね。食べる?」

「もちろん、頂くよ。楽しみにしてる。」

「トシ君、仕方ない。君の好きな牛肉の重ね焼き、また、作るよ。」

「おっ、楽しみにしてるよ。誕生日パーティーの時はみんなが殺到して2枚しか食べられなかったしね。
 レイには悪いけど、その日は肉食系に戻るよ。シンジ君、楽しみにしてる。」

「よし。じゃ、みんな、帰りましょ。」

「ごめん、僕はちょっとリツコさんとミサトさんに呼ばれてるんだ・・・。
 今日は、ミサトさんと僕、夕食いらないから・・・。」

「これだけ、成績が落ちてりゃね・・・。アンタ、ファーストとアタシの二人に同時に恋してしまったとか、解決できない悩みがあるんなら、相談に乗ってあげるから、早めに言いなさいよ。」

「う、うん・・・ありがとう。」



 その夜。
 トシは、ミサトとリツコと一緒に隠れ里で食事をした。
 レイとのことをからかわれたり、他愛もない話だった。
 その後、ミサトの執務室。

 1年近く前、ネルフに来て間もない頃も、隠れ里で食事をした後に、二人でここからジオフロントを眺めたことがある。今回は暗くしていないが、明るいと言える照度ではない。二人は並んでソファに座って、ジオフロントの夜景を見ていた。今日は、地上も雨が降っているので、地中のジオフロントにも降雨を有効活用して、雨が降らせてあった。

「・・・ミサトさん。・・・最近、僕の調子が悪い件、ですよね・・・」

「うん・・・。」

 しばしの沈黙。ミサトがトシに優しく話しかけた。

「トシ君・・・なにか悩み事・・・あるの?」

「いえ・・・はっきりしたものは・・・」

「・・・これまであなたは立派に戦ってきたわ。
 あなたの能力、努力、意思、そのどれをとっても、とても中学生とは思えない。
 私は、あなたを尊敬しているわ。人類の運命を背負って、どんなに絶望的な状況でも、諦めることなく、戦い続けるあなたをね・・・。でも、あなただって、人間なのよ。
 だから、悩みもある、調子が出ないときもある、スランプもある・・・。
 本当は15歳でそんなことを簡単に克服できないと思うわ。人生の中で何度もそのようなものを経験して、自分で乗り越え方を覚えて行くものよ。

 でも、悪いけど、あなたの人生はもう、あなただけのものじゃない。
 あなたのスランプは、ネルフの戦力低下、人類の滅亡に繋がりかねない。
 だから、ネルフの作戦本部長として、あなたのスランプが心配だってこともある。
 でもその前に、私はあなたの家族として、あなたを心配しているの。
 使徒と戦うという異常な境遇ではあるけれど、私たち家族5人で、楽しく、それなりに幸せに暮らしてきたと思ってるわ。
 最近は、レイとアスカも少しは仲良くなってきたようだし・・・。
 レイと・・・何かあったの?」

「いいえ・・・。」



 ミサトは少年が続けるのを静かに待った。
 トシは俯き加減で言った。

「・・・原因は分かってるんです・・・。僕、怖いんです・・・。
 怖くて、怖くてたまらないんです・・・」

*TS*

 ミサトは優しく尋ねた。

「なにが・・・こわいの?」


「今の幸せを失うのが、怖いんです。
 僕は大好きだった父を亡くして、ずっと苦しんでました・・・。ゼーレでは、訓練することでそれを忘れようとしていました。僕はどこに行っても異邦人でした。僕を知ってる人は誰もいない。ネルフに来た時もそうでした。僕はゼーレ直属だし、周りは知らない人ばかりでした。

 でも、この使徒迎撃のためだけに造り直された人工の街で、僕は、あの女(ひと)に出会いました・・・。僕はあの女(ひと)に救われたんです。今の僕にとって、いえ、ずっとこれからも一生、綾波レイは世界で一番大切な人です。今、その人が、いつもそばにいて、僕に微笑んでくれる・・・。夢のような毎日です。特に南極遠征を一緒に生き抜いて、そして、この前の使徒戦で僕が入院した頃から、レイとの距離はずっと縮まって、これまでよりも、心がすごく近くなって、お互いがよく分かりあえるようになって・・・レイは、僕に優しく温かく接してくれるんです。それから今までいつもいつも幸せで・・・。

 僕には、レイがそばにいてくれない人生はもう、考えられない。アスカだってそうです。シンジ君だって、ミサトさんだって、僕にとってかけがえのない人たちなんです・・・。
 だから僕は、これまでの一生の中で、今、一番、幸せなんです。

 僕が幸せだってことが、この前の使徒戦で死にそうになって、みんなが僕の病室で、僕をずっと心配して見守ってくれて、意識を取り戻した時に、よく分かったんです・・・。それに、こんなに穏やかで幸せな年末年始や誕生日なんて、最近、過ごしたことがなかったんです・・・。そして、僕はますます・・・もっともっと幸せになっていく。幸せでたまらない自分を知ってしまったんです・・・。」


 トシは涙を浮かべながら言った。


「そしたら、急に怖くなってきたんです・・・。何もかもが・・・。

 僕が作戦に失敗したら、僕が使徒を倒せなかったら、僕がレイを、アスカを、シンジ君を守れなかったら・・・それで、僕の幸せが一瞬で消えてしまう。僕の大切な家族が一瞬で奪われてしまう。人類も滅んでしまう。何もかも、振り出しに戻ってしまう。いえ、振り出しにさえ戻れなくなってしまう。僕の大切な人がいつ欠けてしまうか分からない。そうしないためには、一人の犠牲も出さずに、使徒戦に完全に勝ち続けなければいけない・・・。

 でも、いつも・・・いつもぎりぎりで使徒を倒してきた・・・。一度も簡単に倒せたことなんてない・・・。ここしばらく、使徒が来てませんよね? 前は一体、どうやって倒したんだろうって、よく出来たなって、思うんです・・・。僕なんかに勝ち続けられるのか、自信がないんです。」


 トシの頬を涙が流れた。


「僕は、怖いんです。次の使徒が来るのが・・・。エヴァに乗るのが・・・。
 僕の幸せを奪ってしまうかも知れない使徒との戦いが、怖くて、恐ろしくて、たまらないんです。・・・でも、逃げだすことはできない・・・。レイを、みんなを守りたいから・・・。

 前も怖かったんです、もちろん。CSRにもなりましたしね・・・。CSRを克服した後も、カッコつけてましたけど、実は、怖さと緊張で、エヴァの中でも、手は震えてましたし、使徒戦後の夜、うなされて寝られないこともありました。でも、こんなに自分が幸せだとか、幸せになるなんて思ってなかったし・・・自分なんか死んでも、あんまり悲しんでくれる人もいないし・・・、どうせ中学生が最後まで勝ち続けるなんてこと難しいだろうし・・・まあ場合によっては死んでも仕方ないかっていう、捨て鉢な気持ちがどこかにあったんです。それで、臆病な僕の心の中のバランスがうまく取れていたんだと思います。」


 トシは涙を右手で拭った。


「でも、幸せになって、幸せであることに気づいて、僕には欲が出てきました・・・。僕はできれば・・・死にたくない。・・・生き延びたい、生き続けたい。レイやみんなとの幸せな生活を守りたい。守るものができて、僕は守りに入って、弱くなったんです。

 僕は時々、ベランダで、レイと並んで静かに月を見ます。とても幸せで、時が止まって欲しいと思う、夢のようなひと時です。レイもいつかそう言ってくれました。でも、もちろん時は止まらない・・・。次の使徒戦が、いつか分からないけど、確実に、近づいてくる。だから、僕は夜、怖くて眠れないんです・・・。隣の部屋で、すぐそばであの女(ひと)が寝ているのに、そんな夢のようなことが現実になっているのに・・・この生活が明日にもなくなってしまうかと思うと、怖くて、怖くてたまらないんです。人生なんて、いつ死ぬか分からない。誰だって、そうかも知れない。でも僕の場合には、その死の恐怖は具体的なものなんです。いつ、ハイペリオンに非常召集のメールが来るか分からない・・・。

 でも、いつもは、怖いってことは誰にも言わずに、やせ我慢して、カッコつけて、つまらない冗談・・・言ったり・・・僕は・・・僕は・・・」

「トシ君・・・」

 ミサトは、思わずトシを抱き締めた。
 少年は情に深い保護者の胸の中で思い切り泣いた。



 心優しい悲母観音は、涙を流しながら、少年の髪を優しく撫で続けた。
 やがて少年の体の震えが少しずつおさまって行く。


「ありがとう・・・。そして、ごめんなさい、トシ君・・・。

 あなたは全てを自分ひとりで背負い込もうとしている・・・。
 そして私たちも、余りに重いものをあなたに背負わせてきたわ・・・。

 使徒戦では、全部未知の敵だから、分からないことばかり・・・。使徒に関する情報が作戦本部にほとんどない。使徒の突然の変化には臨機応変に対応するしかない。その中で、あなたの状況判断と作戦立案は的確で、最終的に正しいことが多い。実際にも、あなた独自の判断で使徒を殲滅できたことのほうが多いわ。だからつい、私もみんなも、あなたに頼ってしまっていた・・・。

 グレーのエヴァさえ戦場にあれば、あなたなら、絶望的な状況でも、何とかしてくれるって、思ってしまう。

 でも、あなた、一つだけ間違っているわ。あなたらしくない間違いよ。
 トシ君、あなた・・・レイを、愛しているのね?」


 少年は素直に答えた。


「・・・はい・・・世界中の・・・誰よりも・・・。
 僕は、あの女(ひと)が・・・好きで、好きで・・・たまらないんです・・・。
 僕は・・・綾波レイのためなら、何十回でも・・・死ねます・・・。」


 ミサトは恋に夢中な少年の子供っぽい表現に、優しく微笑みながら言った。


「大げさな子ね・・・。羨ましいわ、レイが・・・。
 でも、レイには告白していないの?」

「はい・・・」
「どうして? 南極遠征の時、キスしてたじゃない?」


 トシは顔を真っ赤にした。


「あの時は、その・・・そういう雰囲気だったんで・・・。」
「そうお?」


「レイも、僕のこと、好きだと思うんです・・・。
 でも、レイには・・・何か思いつめたようなところがあるんです。

 なんていうか、自分で、これ以上は僕の心に近付かない、近付いちゃだめだっていうような、そういう強い意思を感じることがあるんです・・・。好きだってことは言ってはいけなくて、好きだってことがお互い分かっていればよくて、それを確認する必要はなくて、なんかそれを今のままで、壊したくないっていうか・・・。レイと心を通わせ合っているから、分かることなんだと思います・・・。」


「そう・・・。まだふたりとも若いし、初めての恋でしょうからね・・・。
 でも言わなければ、分からないこともあるわ・・・。
 それに、言える時に言っておかないと、言えなくなることもあるしね・・・。
 でも、レイは、もうだいぶ前から、本気であなたのことを愛しているわ。
 言葉に出さなくてもそれは分かる。」


「はい・・・。」


「トシ君、あなたはさっき、守るべきものができて、弱くなった、と言った・・・。
 でも、そうじゃないわ、人は守るべきものを持つから、強くなれるのよ。
 あなたは、この前の使徒戦で、信じられないくらいの力を出すことができた。
 それは、あなたがレイや、私たちや、人類を守りたいと思ったから、出せた力のはず。
 あなたが自分だけを守りたいと思っていたのなら、そんな力は出せなかったはずよ。
 覚えてる? あのときの気持ち・・・」


「そうですね・・・なんか、必死でしたけど・・・。」
「あの時、レイは必死であなたを助けようとしたわ・・・。」
「はい。」
「アスカもシンジ君も必死であなたのもとに駆けつけた・・・。」
「はい。」

「あなたは一人じゃない。あなたが仲間を思っているのと同じくらい、あなたのことを大切に思ってくれる仲間がいるのよ。私たちもあなたたちのことを大切に思っているわ。だから、一人ですべてを背負わないで・・・。みんなで戦っているのよ。みんなで分かち合いましょ。」

「はい・・・。」


 トシは美しい女性に抱き締められ、間近にミサトの美しい顔があるのに気付いて、顔を真っ赤にしていた。

 ミサトは優しく微笑みながら言った。


「トシ君、無理、しないでね。私、あなたが大好き。
 私もあと10歳若かったら、あなたに本気で恋していたと思うわ・・・。
 優しくて、賢くて、頼りがいがあって、面白くて・・・。
 私はあなたと出会えて、あなたと一緒に戦えることが嬉しい。
 前に、あなたがCSRに苦しんでいた時にも言ったでしょ。
 そんなあなたがベストを尽くして、人類が滅ぶのなら・・・それはそういう宿命だったのよ。
 重たいことだけど、あまり重たく考えすぎないで。
 もともと、私にも、あなたにも背負い切れるような重荷じゃないんだから・・・。
 人類なんて、別に滅んでもいいの。滅ぶなら、みんなで一緒に滅びましょ。

 あなたが戦って負けたのなら、誰も非難はしない。私がさせない。」


 トシはミサトの極端な言い方に微笑んだ。

「・・・ミサトさん、ありがとうございます。・・・ミサトさんに聞いてもらって、分かってもらって・・・久し振りにいっぱい泣いて、それだけで随分、楽になった気がします・・・。ミサトさんしか、こんなこと話せる人、分かってくれる人、いませんから・・・。」


「トシ君・・・。いい? 一人で背負わないで。
 それと、この前の南極遠征でも危なかったけど、とても大事なこと。

 ・・・あなただけ、先に行ったりしないで。・・・ね?

 死ぬ時はみんな一緒よ・・・。約束できる?」


「はい。約束します。」


 ミサトは涙を浮かべながら優しく微笑み、右手の小指をトシの目の前に差し出した。
 トシは自分の右手の小指をミサトの小指の前に差し出した。

「指切りげんまんよ。」

「はい。」


 血の繋がらない二人の家族は、その小指を絡めて、子供のように、上下に振った。
 儀式が終わり、小指が戻されると、ミサトは言った。


「じゃ、帰りましょ、一緒に・・・。私たちの家に。みんな、待ってるわ。」

「はい。」

 涙の痕の残る美しい女性と少年は、微笑み合った。

*S*


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