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No.11390の一覧
[0] 希望のかけらを見た場所(本編分岐)[guri](2009/09/14 01:21)
[1] 希望のかけらを見た場所2[guri](2009/08/31 23:19)
[2] 希望のかけらを見た場所3[guri](2009/09/01 00:56)
[3] 希望のかけらを見た場所4[guri](2009/08/31 23:25)
[4] 希望のかけらを見た場所5[guri](2009/09/09 04:10)
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[6] 希望のかけらを見た場所7[guri](2009/09/30 02:52)
[7] 希望のかけらを見た場所8[guri](2009/10/24 10:40)
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[11390] 希望のかけらを見た場所(本編分岐)
Name: guri◆f85fdf12 ID:84decb1e 次を表示する
Date: 2009/09/14 01:21
その使徒は、蛇のように体をうねらせて、レイの中に入ってきた。

弐号機は援護の為に出撃したが、地上に射出されたものの起動をはたせず、すでに基地内に戻された。
目の前に広がるのは赤い湖の幻。血の匂い。きっとあの赤い湖の水はLCLだ。
レイは、自分が使徒の精神汚染によって幻覚を見ているのだと自覚しながら、その湖面からニョッキリと生えたようにたたずむ自分自身と対峙していた。
——ワタシノココロヲ アナタニモワケテアゲル。コノキモチ ワケテアゲル。イタイデショ? ホラ、ココロガイタイデショウ?
「イタイ? いいえ、違うわ。…寂しい、そう、寂しいのね」
——サビシイ? ワカラナイワ


動きを止め、徐々に侵食されていく零号機を、シンジは、今だ凍結中の初号機のプラグ内モニターで見ていた。
「父さん! 僕を出してよ! なんで戦わせてくれないんだよ! ミサトさん! これじゃ前と同じじゃないか!」
前回の使徒による精神攻撃で痛手を負ったアスカの、膝を抱えすべてを拒絶した背中が、脳裡に甦る。
そして、逃げ出した先で見た、はね飛ばされた弐号機の首と、N2爆弾ひとつを抱えて使徒に走り寄る零号機と。
そんなのはもう嫌だから、ここに居るのだ。エヴァンゲリオンの中に。
加地さんに問われて、自分で選んだのだ、戦う事を。
なのに、
「戦いたくない時は無理にでも乗せて戦わせたくせに、戦うって決めたとたんに待機って…っ!」
いったい、どんな皮肉なのか。


「一人は嫌なんでしょう? 私たちは沢山いるのに、一人でいるのは嫌なんでしょう? それを、『サビシイ』というの」
——ソレハ アナタノ ココロヨ。 カナシミニ ミチミチテイル。アナタジシンノ ココロヨ
レイは、自分自身の目頭部分の異常によって正気に返った。
目頭の部分だけ、腫れているように熱い。プラグを満たすLCLとは違う液体の感触を瞳に感じる。
これはなんだろう?
目から出る液体。
悲しいと思う心から生まれた液体。
「…これは、涙。泣いてるのは私?」
パイロットの精神は、もう充分に自分の支配下においたと思ったのだろうか? 零号機に融合をはたした使徒が、今度はその素体部分を思うような形に変えていく。
零号機の「肉」が、グロテスクに使徒の思うままにメタモルフォーゼされていくのを、レイは、使徒に侵食される痛みと気持ち悪さに耐えながら、操縦席から為す術もなく見ていた。
(ダメかもしれない)
と、レイは覚悟を決める。
弐号機は動かない。初号機は凍結されている。この状況でまだ、脱出の命令も、確実な援護も望めないのなら、碇司令は自分の命の行方を決めたのだ。
(きっと三人目になるのね)
自分と世界とをつなげる絆は断ち切られたのだ。
(だから悲しいのね)
孤独を突きつけられて。寂しさに心が悲鳴をあげる。
その時だった。
『初号機の凍結を現時刻をもって解除。ただちに出撃させろ』
通信システムの向こうの会話なのに、戸惑う空気が伝わってくる。
レイは、痛みに耐えるため閉じていた瞳を、見開いた。
絆はまだ、断ち切られていなかった。
私はまだ世界とつながっている。
そして、碇君が来てくれる。
安堵したせいか、使徒の侵食がさらに進んでしまった。
あわてて集中力を取り戻す。
大きな金属音と共に、リフトが地上に射出され、初号機がその姿を現した。
その姿に首をむける。
零号機に絡みついていた使徒の鎌首も、同時に初号機の方へと、その先端を向けた。
(何?)
恐ろしい事が起こっているのだと、感覚が伝えてきた。


鞭のようにしなるその光の縄は、シンジがモニターで見ていた以上のスピードと小器用な動きで初号機の懐に飛び込み、ライフルを破壊した。
こんなの、どうやって倒したらいいんだ?
コアは、どこに?
——わからないけど、背を向けるわけにはいかない。
焦らされて焦らされて、やっと出撃の許可が下りた。
これで、綾波を助ける事が出来る。
逃げて、そして黙って皆が傷つくのを見ている事は、逃げないでいる事よりずっと苦しい事を、自分は知ったのだから。
エヴァに乗る事は「絆」だと言った少女がいた。存在理由だと考えている少女もいた。自分にとってもそうなのかもしれない。
自分はずっと「いらない子供」だと思っていた。同時に誰かに必要とされ優しくされたいと思ってきた。
エヴァに乗る事で自分は誰かに必要とされているし、優しくもしてもらえる。その事にずっと『必要なのはエヴァパイロットの自分で、碇シンジ自身ではないんだ』と、反発してきたけれど、それを受け入れようと決めたのだ。
それによって誰かを助ける事が出来るし、そのことが自分には嬉しいのだ。
初号機の胸部を狙ってくる使徒を、手で掴む。
その途端、名状しがたい感触が、操縦桿を握る手に這った。
まるで手の甲の血管がそのまま膨れ上がったように、網目状の何かが進入してくる。
(これは、使徒…?)
だが、操縦桿は離さない。それはパイロットにとって、まだ戦うという意思表示だ。
発令所からの作戦指示が聞こえた。
その通りにプラグナイフで応戦。
悲鳴。耳をつんざく悲鳴。
無機質に見えた光の縄から吹き出す、まるで生き物のような、血。
使徒といわれる物体からかけ離れた、まるで身近に知る「生物」に近いその反応に、シンジの闘志は削り取られた。
侵食された自分の手にも、植物が根を張り芽を出すように奇怪な物体が生え、双葉をのばし、そこから生まれるのは……綾波レイ。そこに気をとられて、自分がプラグナイフで傷つけた外部の敵を忘れたことに気付き、正面を見る。
そこにも、淡く燐光を放ち、黒い眼窩の……綾波レイ。
シンジは脅えた。
それでも、操縦桿は離さない。


「これは、私の心。碇君といっしょになりたい」
シンクロしているわけではない。
零号機を侵食し、レイ自身の心に進入した使徒は、その深くまで入り込み、より理解するために、レイの心をトレースし、真似ている。
シンジが助けに来てくれる事に高揚した心そのままに。彼に触れたい心、そのままに。それどころか、使徒はレイ自身が自覚していなかった深層心理の部分まで暴いてみせた。
(そう、私、碇君といっしょになりたかったのね)
今まで、そんなことは考えたこともなかったが、使徒による心理探査で心を暴れた今は、それはひどく自然で当たり前の事に思えた。
碇君に触れたい。いっしょにいたい。ひとつになりたい。
碇君が好き。
単純で、原始的で、けれど、とても大切な気持ち。
そしてだからこそ、レイは理解した。
その気持ちは動物的な本能に近い。本能をねじ曲げることはむずかしい。
好きだと思う気持ちを、理性で押しとどめる事は不可能なのだ。
だが、自分のその気持ちがある限り、使徒はそれをトレースして、シンジを自らに融合しようとするだろう。
ならば、自分が取るべきたったひとつの冴えたやりかたは——。


悲鳴と共に、初号機に纏わりついていた綾波の形をしたものが引きはがされる。
手へと侵食した使徒の存在も消えて、おもわずホッと息をついたシンジが、顔をあげ、モニターに見たものは、使徒を取り込み、醜く体を膨れ上がらせた零号機だった。
なぜ、零号機は、あんなにも完全に侵食され食いつぶされているのだ。
なぜ、ATフィールドで少しでも侵食を止めないのか。
その瞬間にシンジを支配したのは、使徒に侵食されかけた時よりも激しい脅えだ。
(だめだ、だめだ、だめだ、これじゃ、ダメなんだ。僕が出てきた意味がないんだ!)
綾波が何をしようとしているかはわからない。
でも、これから起ころうとしているのは、取り返しのつかない何かだ。それだけはわかる。
(もう、迷って何かを失うのは嫌なんだ!)
躊躇なく、初号機は地を蹴る。
零号機の元に駆け寄り、その体内に侵食するものを掴み、力付くで引きはがす。
使徒は触れられた部分から、再び初号機に侵食を開始した。
(かまうもんか!)
通信回線を通じて、綾波の悲鳴が聞こえる。きっと融合した使徒を引きはがされる痛みを、自分の肉が割かれるように感じているのだ。
「綾波! 我慢して! 絶対に助ける!」
そして、すぐに気付いて、発令所に通信を飛ばす。
「ミサトさん、綾波のシンクロ切って下さい!」


だが、この痛みは、レイ自身には幸いしていた。
なぜなら、彼女は体を割かれる痛みにのたうつあまり、自爆モードを起動するためのシリンダーに、手を届かすことができなかったのだ。
悲鳴を上げたために『碇君、危ないから、離れて』という言葉を発することも。
神経接続のカットにより、途方もない痛みから開放されたレイは、荒い息のままにモニターを見る。
『くそ、くそ、このっ、こいつ!』
シンジが、使徒を必死に引きはがそうと奮闘する声が聞こえる。
神経接続をカットされATフィールドを失った零号機は一気に使徒に侵食されると思っていたが、そんなことにはならなかった。使徒の侵行は停止している。
かわりにその標的を初号機に変えたようだ。
使徒は、神経接続をカットされ、零号機を通してもあいまいな感覚でしかわからなくなっただろう綾波レイの心への興味を失い、碇シンジへと、その興味を移したのだ。
それまで零号機から引きはがされる事を拒否してた使徒の侵食部が、ずるずると積極的に初号機に移動していく。
モニターを操作し、初号機のエントリープラグの中を表示させると、モニターの中のシンジの胸の下あたりまで、すでに使徒が侵食しているのが見えた。
『そうか、なら…』
そのシンジのつぶやきと共に、使徒の初号機への侵食が一気に早まる。
おそらくレイと同じ事を思いついたのだ。ATフィールドの反転を。
(では、その次は?)
レイは恐ろしい予感に胸を震わせた。
(その次の行動も、碇君が私と同じ事を思いついてしまったら?)
初号機の強力なATフィールドを反転させた力を持ってしても、いったん生体融合を果たした使徒を引きはがすのは難しいらしく、シンジの苦悶の声が聞こえる。
使徒に侵食されるのは痛いのだ。体も、心も。
それでもシンジは、使徒への反撃の手を緩めない。


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