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No.10220の一覧
[0] 新世紀エヴァンゲリオン血風録(新世紀エヴァンゲリオン×東京魔人學園)[ゼロ](2009/07/11 16:51)
[1] 第一話(陽)『襲来』[ゼロ](2009/07/11 16:54)
[2] 第二話(陽)『福音』[ゼロ](2009/07/11 18:02)
[3] 第三話(陽)『龍牙』[ゼロ](2009/07/18 17:51)
[4] 第四話(陽)『宿星』[ゼロ](2009/10/03 15:24)
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[10220] 第三話(陽)『龍牙』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/18 17:51
『え? せ・・先輩! シンクロ率の上昇が止まりません! 現在158.78%! なおも上昇中!』

『なんですって! 緊急停止! 接続をカットして!!! エントリープラグ緊急射出!』

『………ダメです! 初号機から、拒絶されました!!!』

『そんな…また、繰り返すというの…?』

龍牙の意識がどこかに引きずり込まれていく…彼の耳には発令所の騒ぎも入らない。

(な・・なんだ…これ…は…。)

龍牙の彼の意識が現世から消えたのはその瞬間だった。

『…役立たずが…。』

何の感情も篭っていないあの男…友人である、碇シンジの父親である、碇ゲンドウの言葉が最後に聞えた言葉だった。…だが彼はこう考えていた…それももう、どうでもいい…と。

―ごめんな…弓…オレ…お前との約束、守れそうもない…―

…その瞬間…龍牙はLCLへと消えた…。



???

「…………………。ここは…?」

龍牙は意識を取り戻すと周囲を見回す。彼のいる場所、そこは一言で言えば真っ暗で何もない…そう…『何も無さ過ぎる』のだ。

「…光源もないが自分自身だけははっきりと見える…変な所だな…ここは…。」

そう呟き、右手を胸の辺りまで上げて《氣》を練り上げると龍牙の全身を青い陽の《氣》が包む。

「…《力》は十分に使えるか…。オレは確かにあのエヴァとか言う鬼兵のコックピット…エントリープラグとか言う奴の中にいたはずだけど…ここは…?」

周囲を見回して、疑問を呟いても龍牙の疑問に答える者は居なかった。

「仕方ない…歩くしかないか…。」

その場に立ち止まっていても何も始まらないと考え、龍牙は歩き出す。

それから、何十分…何時間が過ぎただろうか…? 時間的な感覚が麻痺してしまう様な静寂と暗闇に包まれた場所を歩き続けながら、龍牙は極めて冷静だった。

「…普段から非常識に慣れているから、ある程度には耐えられるけど…これは、そろそろ限界が近いな…。」

龍牙自身、『限界が近い』と口ではそう言っているがそんな様子はまったくと言っていいほど見せてはいない。

実際、見た目には、まだまだ余裕は十分と言った感じでしかないが精神的にはどうなのだろうか? 正確に言うと精神的にも余裕は十分である。

まあ、今まで非常識が日常と言う人生を送っていた龍牙にはこの程度と口で言えるほどでしかないのだろう。

どれほど非常識かと聞かれると…説明するのも大変なことなのだが一例を挙げるとすれば…修行として、怪物相手に戦う事は常日頃。初めの頃は最低、日に一度は修行の中で死にかけていた身の上なのだ…緋勇龍牙君…(^_^;)

そして、彼の師でもある義兄の友人の一人からの教えの中のひとつにはこんな言葉がある『何が有っても必ず生き残る事、死んで何かが出来ると思うな、死んだらその時点で全て終わりだ。』と言う言葉…借り物、贈り物の言葉だが…それは龍牙にとって、二番目に大事な言葉となっている。

彼にとって、一番大事な言葉は彼の義兄からの言葉…記憶にも残らないほどの昔に、彼の義兄が今は無き父親から送られた言葉を彼の口から今度は龍牙へと送られた。

その二つの言葉を元にする事によって、龍牙はこの訳の分からない場所でも戻る方法を考える事を忘れずに行動する事が出来ている。もっとも、この場合は、どちらかと言えば前者だが。

「ん?」






その頃、発令所では…モニターに映し出されている第三使徒サキエルの前に現れた悪魔が咆哮し、サキエルとの戦闘…イヤ、虐殺を開始する。

使徒と言う人類の敵と言う存在と新たに現れた恐怖を体現した様な怪物…二体の異形の怪物に対する恐怖に支配される中、異形の怪物同士の戦い。イヤ、悪魔による一方的な虐殺をモニターしようとオペレーター達は必死に作業を続けていた。現時点において、ネルフで一番働いているのは彼らだろう。



そして、一番働いていないTOPの二人はと言うと…

「碇、これはシナリオには無いぞ。」

「問題ない。…エヴァ以外では使徒は倒せん…。」

隣に立つ冬月と呼ばれた老人の言葉にゲンドウは無表情のまま、いつも通りの答えを返す。



悪魔は咆哮と共に右腕を振り上げ、刃の様な爪をサキエルに向かい振り下ろすがそれはサキエルの一歩手前で発生した紅い八角形の壁によって止められる。

「「ATフィールド!!」」

絶対領域『Absolute Terror Field(アブソルト・テラー・フィールド)』、使徒が持つ無敵の防御フィールドである。サキエルはこれを展開し、悪魔の振り下ろした爪から身を守っていたのだ。

それを見てゲンドウがニヤリと笑う。ミサトも何故かニヤリと笑った。リツコも同様だった。そして、誰も気が付いていなかったが何故か爪を受け止められている悪魔も顔を歪めて、笑みを浮かべている。

「ダメだわ、ATフィールドが有る限り、使徒には接触できない!!!」

そして、彼等の研究でATフィールドは同じ、ATフィールドによって中和する事が出来る…使徒かエヴァであるならそれが可能だが…悪魔はそれが出来ていない。…それこそが悪魔が使徒とは違う存在であると言う事を物語っていた。

「ハッ、あの怪物も大した事ないわね。」

ミサトは悪魔を鼻で笑う。その瞬間、モニターの中に映るはずの悪魔がその場にいるようにモニターの向こう側からミサトを睨みつけ、その顔をより邪悪に歪めた

「待ってください!」

オペレーターの一人の叫び声が響いたと同時に悪魔に異変が起こる。

今までATフィールドに止められていたはずの悪魔の右腕が消え、ATフィールドを挟んで向こう側に存在しているサキエルの片腕を捕獲していた。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

悪魔は咆哮と共に自身の右腕が捕獲しているサキエルの右肩から右腕を引き千切り、サキエルの血液が引き千切った右腕と本体から、飛び散る。そして、引き千切ったと同時に悪魔の右腕は再び元の場所に戻っていた。

「うそ…。」

発令所でそれを目撃しているリツコはそう呟いた。ATフィールドを展開しているにも関わらず、悪魔は使徒の腕を引き千切ったのだ。

確かにサキエルのATフィールドは破られてはいない。そう、『破られていないだけ』であって、悪魔はその絶対的な障壁の存在を嘲笑う様に引き違った右腕を握ったまま、醜悪な笑みを浮かべる。

そして、悪魔は自身の右腕に握っているサキエルの右腕を…喰らう…。

『GA…。』

食べ残した腕を投げ捨てると、その返り血で口元を…牙を染めて、まだ食べ足りないのか、悪魔は一歩一歩、サキエルに近づいていく。それに脅威を感じたのか、サキエルは一旦、間合いを取ろうと考え、双眸を輝かせ光線を放つ。

だが…サキエルの放った光線は悪魔の体を透過し、その背後に有った武装ビルの一つを吹き飛ばす。




…それからの戦いの例え方は幾つもあるが一番適切なのはこれしかないだろう…『一方的な虐殺』




ジオフロント、ネルフ本部…作戦指揮所であるはずの中央作戦室発令所は静まり返っていた、スーパーコンピューター・MAGIの微かな稼動音、データをモニタリングする電子音、そして地上の様子を映すメインモニターから聞こえる戦闘音以外の音は無く、その場にいる誰一人として声を上げることができなかった。

それは戦闘音では無い、それは戦いで聞える音ではない。その映像から目をそらす事が出来ない。耳を逸らす事が出来ない。肉を引き裂く音と映像、それを喰らい食い尽くす悪魔の捕食の音から…。

その原因となる、異形の怪物『悪魔』をある者は凝視し、ある者は口元を押さえ必死に嘔吐感を押さえ込む。発令所を共通の感情が支配していた。それは使徒が相手に向けている物と同じ感情…『恐怖』

だが…ただ一人だけ、その支配から逃れられている者がいた。…『葛城 ミサト』である…自分の復讐の対象である使徒をその腕と爪で引き裂き、その口と牙で喰らう悪魔に対して、ただ一人だけ…『憎悪』の感情を向けていた。誰もがそれを羨ましく思うだろう。その女だけが心臓を握られた様な恐怖から逃れられているのだから。

それ以外の人間は…リツコでさえも恐怖が好奇心を圧倒的に上回っていた。目の前で自分の常識を悪魔が引き裂き、喰らい尽くしている…彼女の中の常識が音を立てて崩れていることだろう…。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


咆哮と共に悪魔はすでに原形を留めていないサキエルの唯一無傷だった部分であるコアを噛み砕く。


…第三使徒殲滅…ネルフの初陣となるはずだった戦いは…突然現れた怪物による一方的な虐殺によって幕を閉じたのだった。


ただの肉片には興味ないのか悪魔の全身が霧散し、何事も無かったかのようにその存在を消え去っていた。

残されたのは街中に飛び散ったサキエルだった血液と肉片…そして、サキエルの墓標のように立つ…悪魔の食べ残した右腕だけ…。

『……………………。』

誰も何もいえない、言葉を告げる事が出来ない…そんな中で一つの報告が彼等を再起動させる。

「…あっ、シンクロ率、低下…99.89%で安定、龍牙君がエントリープラグ内に…。」

「…戦闘エリア内に逃げ遅れたと思われる人物が…モニターに映します。」

突然の二つの報告を聞いた発令所が再び再起動する…そして、今まで使徒の虐殺画面が映っていたメインモニターに一人の少年の姿が映し出される。

赤い学生服を着て、真紅の髪を持ち、日本刀を腰に差した全身を赤く染めた少年がメインモニターに映し出されていた。そして、その少年が監視カメラに視線を向けると映像が斜めに別れ、すぐに映像は途切れた。

それからの指示は早く、すぐに周辺にいる保安員達をモニターに映るその少年の元に向かわせた。…そして…


『…ここは…戻って…これたのか…?』


龍牙はエントリープラグ内でそう呟くと同時に再び意識を失った。今度のそれは単なる睡眠だが…




???…

時は少しだけ遡る…第三新東京市の街で悪魔によるサキエルの虐殺が続く中、龍牙は暗闇の中で自分以外の存在を見つけた。

「…シンジ…? 違う…年上だし…女だよな…? それに…。」

龍牙の目の前にいるのは外見上では二人の人間…一人は自分よりも年上…白衣を着た女性は彼の友人である『碇 シンジ』に似た印象を与えていた。

ただ…彼の目に付いたのはもう一人の女の子…紫色の髪のキリストの如く十字架に磔にされた少女の方だった。

(…な・・なんだ…? シンジに似た女にあの子は…? 助けようとした様子も無いし、あの女の方が悪物だよな…? うん、どう見ても。)

心の中でそう結論付けて頷いていると彼に気が付かないのか、その女性は恍惚とした表情で捉えられている少女の顔を撫でる。

『…放して…。』

『フフフフフ…逃がしはしない。貴方は私の願いをかなえるためだけに存在しているのだから…。』

それを見て、龍牙の感情の中に嫌な物が浮かんでくると同時に少女の助けを請う声と女の酷く歪んだ欲望の声が聞こえる。

龍牙は無意識の中で血が出るほどに拳を握る。

「………………ろ…。」

それと同時に無意識の中で注意しなければ聞き取れないほどの小さく、それでいて怒りが込められた言葉がこぼれた。

『おね…い…た…けて…。』

『誰も助けに来ない。誰にも知られていないから。…だから、このまま私の願いの為に消えなさい。』

首に廻された手は少しずつ少女の首に沈んでいくにつれて少女の声が段々とか細く、途切れ途切れになっていく。そして、それと比例する様に大きくなっていく女の声には悪意が込められている、普段の龍牙になら簡単にそれに気が付いていた事だろう…その女の放つ…欲望に染まった赤い《陰》の氣が…。

「………るな……めろ…。」

龍牙の心に浮ぶその感情はかつての戦いの中で彼の義兄が何度も敵に対して感じた感情である事は知らない…知る術もないだろう…。その感情の名は『純粋なる怒り』

『……た…けて……が…い…は…な……して…。』

『ククッ…私にエイエンヲ…愚かな人間にホロビヲ…。』

少女の首に沈む女の指が…少女の声が…《氣》が弱く小さい物になった瞬間、龍牙の感情が抑えきれない物へと昇華される。

『ふざけるな!!! 止めろって、言ってんだよ!!!』

心から怒りを込めて、龍牙は叫んだ。

感情のままに叫ぶ龍牙の存在に気付いたのか顔を龍牙へと向ける。サディズムに酔い、どこか恍惚とした顔に龍牙は見覚えがあった。その女とは出会った事は無いがその女に似た者なら知っていた。…彼の友人である『碇 シンジ』だ…。

だが彼は知らない、その女こそが全ての元凶にして、人類補完計画の立案者、彼の友人の『碇 シンジ』の母親である…『碇 ユイ』だと言う事を…。

『貴方は誰? どうしてここに…なんで私の邪魔をするの…?』

女は少女の首から手を離すと龍牙に視線を向け一歩一歩近づいてくる。龍牙はその瞳に怒りを浮かべて、大地を踏み砕かんばかりの震脚(体重を乗せるための強烈な踏込み)で女との距離を詰め。

「はぁ!」

ユイの腹に掌打を叩き込み、相手の顔を狙った上段蹴りを見舞う。その一撃はあまりにも美しい、破壊の為の美しさとでも言おうか…全ての運動エネルギーが相手の顔を砕くために使われた一撃。

徒手空拳《陽》の技の一つ『龍星脚』…龍が天に昇る姿を形容させた美しい上段蹴りだ。その美しさは正に破壊の為の美しさ…その一撃を受けたユイは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる姿から、その威力は理解しやすい事だろう…。

龍牙の全身から湧き上がる蒼い《陽》の氣が彼の力へと変わり、敵として相対する者に圧倒的な恐怖を与える。

「止めろ…私の…私の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

『碇 ユイ』…イヤ…それはもはや、こう言うしかないだろう…『碇 ユイだったモノ』…かつては美しかったであろう顔を醜く変え、両腕の爪を手の平ごと巨大な狂気へと変えたそれは…もはや、人とは呼ぶ事の出来ない存在…。

「…陰に堕ちたか…。」

《それ》を龍牙達はこう呼ぶ。…人の心を失い陰に堕ちたモノの成れの果てを…『鬼』…と。

冷静なままに呟く龍牙は自分に向かって来る『鬼』に掌打を叩きつけるが今度は単発ではなく、蹴りを混ぜた連打…それは義兄がかつての戦いの中で使っていた打撃系の最強の技にして、最速の技である瞬間連撃『八雲』。

「鬼に堕ちた以上、加減はしない!!!」

『加減はしない』とはいっているが元々加減はしていない。…鬼へと変わった以上、加減する理由が完全に無くなった…ただそれだけの事だ。

その打撃の一発一発の重みが最初の物とは桁違いで急所を打ち抜く高速の連撃、それが碇ユイであった『鬼』に無情にも叩きつけられる。

全身に力が流水のごとく流れ、その最後の一撃が今までの中で最上級とも言える破壊力を持った一撃となり、己の敵に叩き込まれる。

叩きつけられた最後の一撃は『鬼』の全身の骨という骨を砕き、内蔵に至っては致命的なダメージを与えられた事だろう。そして、『鬼』となっても元は科学者であり、女…その衝撃に耐え切れず吹き飛ばされる。

「…許さない…私の計画…ワタシノノゾミヲ邪魔するヤツハァァァァァァァア!!!」

『鬼』は狂気に満ちた叫びを上げ再び龍牙に向かって来る。

『死ィネェェェェェェェェェェェェェェエ!!!』

龍牙は自身に振り下ろされる凶器と化した腕…自身に振り下ろされる死神の鎌の如き、必殺の凶器を冷静に眺め、自身に振り下ろされる前にその腕を龍星脚で砕き、顔に拳を叩き込む。そして、相手の体を龍牙の軽く掌打が叩きつけられる。

「考えてみれば……冷静になって見れば、たいした事無い相手だったな……。」

はっきり言って目の前の鬼は相手の行動に対しての反応が遅すぎる。実戦ではそれが命取りだという事を身を持って知っている龍牙は怒りのあまり、自分の戦い方も忘れた上に一度でもそんな弱い相手に対して、本気になった自分を恥じた。

龍牙は相手に向けていた手を降ろすと無造作に鬼の隣を通り過ぎる。

鬼も今までの中で最もダメージが少ないと言うのに何もせずに通り過ぎる龍牙に一瞬、呆気に取られていると再び腕を龍牙に向ける。

『死ィ…。』

「ああ、そうそう…。」

龍牙は相手に叩きつけた右腕を胸の辺りまで上げると相手にも聞えるように呟く。

「言い忘れたけど…オレは《陽》の技の中で五行の『水』に位置するこの技が一番得意なんだ…。」

その技は彼の持つ技の中で最も使い慣れていると同時に初期の技でありながら純粋な殺傷力だけならば『八雲』も凌駕している。

『ナ・・ニ…。』

鬼の全身が凍り付いていく

「この技だけは兄さんを超えているという自信もあるオレの得意技…。徒手空拳技《陽》…《雪蓮掌》。」

徒手空拳技《陽》の初級技『雪蓮掌』…それは彼の流派の中で龍牙が最も得意とする技であると同時に彼が霊鳥の王の名を冠する奥義以外に唯一会得している…四神の名を冠する四の奥義が一へと発展する技…。

龍牙がその技の名を呟き、手の閉じた瞬間凍りついた碇ユイであった鬼は砕け散る。碇ゲンドウ…妻を求めたこの男がこの事実を知ったら怒り狂い、どんな手を使っても龍牙を殺そうとしただろう…だが…二つだけ、それを否定する材料があった。

龍牙は静かな視線で砕け散った碇ユイだった鬼に対する怒りを消した龍牙は磔にされている少女に視線を向け、手の平を向けると不可視の衝撃波が少女を捕らえている十字架を砕く。

「…ふぇぅ…ック…ィャぁ……ィャぁ。」

十字架から開放された少女を受け止め抱きとめると龍牙は抱き締め、髪を撫でる。…今まで敵に向けていた感情は無い。…有るのはただ…彼女に対する優しさだけ。

(…小さな女の子を泣き止ませる方法って…これがいいって…あの二人から聞いたけど…大丈夫だよな…?)

聞いた相手が相手なだけに心から不安になるが…それ以前にこんな少女を見捨てたという事が知られたら、確実に命が無くなる事だろう。

ただひたすら泣き止むまで…彼女が落ち着くまで龍牙は少女を抱きしめ、髪を撫でる…。










「………あ………。」

永遠に感じられるほど長い時間の後、少女が小さく声を出す。

「…落ち着いた?」

龍牙は手を止めると優しくそうささやく。

「あり…が…とう…。」

龍牙は優しく微笑む。…ネルフで見せたものとは違い心からの微笑みを浮べ、ゆっくりと体を離す。

「…落ち着いたみたいだね。」

その言葉に少女は首を振り肯くともう一度、口を開く。

「貴方は誰?」

「…龍牙…『緋勇 龍牙』…『緋色の『緋』に勇気の『勇』…それから、『龍の牙』と書いてそう読むんだ。」

「龍牙?」

「ああ、君の名前は?」

「私? 私の名前? 私は…貴方達がエヴァと呼ぶ存在。なら、私の名前は初号機?」

疑問形で聞かれて、龍牙は一瞬、返答に困ると的確なツッコミを入れる。

「いや、違うから。」

龍牙の力の無い裏拳が空気を叩く、そして、気を取り直して、龍牙は改めて言葉を続ける。

「それは単なる記号で名前じゃない…。」

当然と理解しながらも心のどこかではそれに対して怒りを感じていた。…兵器…戦うための道具であってもそれに命を預ける戦士にとっては相棒であり、何より、自我を持っている以上、名は与えられるべき物であるはず。

名前は自身を示す重要な物…彼が義兄から『名』を貰った時のように彼女の存在を表すそれを。

「貴方がつけて…。私だけの名前…私の名前を…。」

「…初音…。『氷川 初音』…。それが…君の名前…君だけの名前だ。」

彼が与えたのは初号機とエヴァを顕す名に…彼の知る《宿星》の絆で結ばれた大切な少女の姓…今更ながら、龍牙は多少後悔していた。その程度の物しか考えられない自分の感覚を…。

もっとも…他に彼女に与える姓として浮んだ『桜井』や『織部』などと言った兄の知り合い達の物は勝手に使うと後が怖そうなので、それら全ては全面的に却下したのはここだけの話だ。

自分の『緋勇』の名に関しては、自身はそれを義兄から与えられた物で自分に与えてくれた義兄になんの断りも無く仕えないので、即却下…。

そして、後で仲間の少女を説得しようとも考えていた…。初音に彼女の姓を与えた事に対して…。

それを伝えた時、彼女の右眼からゆっくりと涙が一つ零れ落ちた。

「ありが…とう…。」

龍牙の心の内に考えた事を知った場合も同じ事を言いそうに思えるほど嬉しそうに彼女…初音は言う。

「…ところで…ここからどうやれば出られるんだ?」

龍牙は初音に聞くが初音は首を傾けるだけで何も言わない…。

「…出た事がないから分からないか…。」

『予想していたが改めて言われるとな』等と考えながら龍牙は初音の持つであろう答えを告げる。

龍牙の予想を裏付けるように初音は縦に首を振る。

「はぁ…ところで…もう一つ、氣を感じるけど…オレ達以外に誰が…?」

「それは…あの女の善意…何度も自分の存在を外側から削られて、その結果、あの女の存在が希薄になって、自身を保てなくなったの…それで最終的に自身を保つために善意と悪意の二つに分離したけど…。」

初音は白く光る球体を取り出して龍牙に見せると彼の問いに対する初音の答えを確認する様に龍牙は言う。

「善意は残らず悪意の部分だけ大きくなり、自我を形成して形となった。…善意と悪意…《陽》の部分と《陰》の部分に分かれたなら、変生する訳だよな。元々《陰》の部分に支配された人間がそうなる訳だし…。」

砕け散った氷の破片は黒い霧と成り、黒い球を象ると白く光る球体の中に解け込み一回り大きい、赤の球体へと変わった。

「でも、龍牙がそれを倒したお蔭で元に戻った…でも…。」

「…存在自身は希薄になったままだけどな…。」

「うん。でも、元の形に戻れば元に戻る…多分だけど…。」

「…多分ね…。(でも、あの女、シンジに似ていたけど…まさか、あいつの母親…ってオチは無いよな…?)」

龍牙君大当たり。

そう呟いた瞬間、龍牙は何かに引きずられる様な感覚を覚えた。逆らえないほどに力強く、それと同時に心から安心できるそんな《力》に。

「ん? …帰り道は向こうか…。」

なぜかそんな感覚を覚え、龍牙は顔だけを自分を引き寄せる方向に向ける。それは自分が進んだ方向とは正反対の方向だった。

「…帰ったちゃうの…?」

「…まあ、あの鬼は消えてくれたから大丈夫…だよね?」

「…うん…。」

「オレは戦わなきゃならないみたいだ…人を滅ぼす『らしい』存在と…。」

まだ『使徒』と呼ばれた存在、本当にそれが人を滅ぼす存在なのか疑問に思っているが一応、引き受けた以上はやるしかない。本当に人を滅ぼす存在だった事を考えて、それが『緋勇』の名を持つ自分の使命と考えている以上は…。

「まあ、それには初音の力を借りなきゃいけないから…まだ連れて行ってあげられないけど…全てが終ったら、外に連れて行ってあげるよ。」

「ホント、約束だよ。」

「ああ。その時はオレの友達も…仲間達も紹介する…じゃあ。」

「うん、またね。」

龍牙は光に包まれ、気が付くと初号機のコックピットとなる場所、エントリープラグの中にいた…。

『…ここは…戻って…これたのか…?』

龍牙はエントリープラグ内でそう呟くと同時に再び意識を失った。今度のそれは単なる疲労から来る睡眠だが…。


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