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No.10220の一覧
[0] 新世紀エヴァンゲリオン血風録(新世紀エヴァンゲリオン×東京魔人學園)[ゼロ](2009/07/11 16:51)
[1] 第一話(陽)『襲来』[ゼロ](2009/07/11 16:54)
[2] 第二話(陽)『福音』[ゼロ](2009/07/11 18:02)
[3] 第三話(陽)『龍牙』[ゼロ](2009/07/18 17:51)
[4] 第四話(陽)『宿星』[ゼロ](2009/10/03 15:24)
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[10220] 第二話(陽)『福音』
Name: ゼロ◆7d1ed414 ID:20be66f6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/11 18:02
龍牙に後から声をかけた、染めている金髪と黒眉に白衣を着た女性が興味深そうに視線を向ける。

「あなたは誰? 碇 シンジ君じゃないようだけど。」

「オレは緋勇…緋勇 龍牙…意識不明の重体のシンジの代わりにここに来た者だ。」

「え?」

そう龍牙が言い切るとその女性は一瞬だけ固まるとすぐに再起動し、ミサトを睨み付けて、龍牙から離れた位置までミサトを連れて行く。

「ちょっと、ミサト! サードチルドレンはどうしたの!?」

「う・・それが…その…彼が言うにはシンジ君は三年前から意識不明の重体で今も意識が無いって言うのよ…。」


遠く離れた位置で龍牙はしっかりと二人の会話を聞いていた。

(サードチルドレン? 日本語に訳すと『三番目の子供達』? 日本語になってねぇ…『チルドレン』を何かをさす言葉として考えれば…『三番目の何か』か…。人間を番号で…マリィ姉が昔いたとか言う、兄さんとその仲間達に全滅、壊滅、建物に至っては爆破までさせられた学園の名を語ると研究所と同レベルかここは?)

などとネルフに対する不信感を雪ダルマ式に大きくしていた。余談だが確かに彼の義兄を中心とした『人類規格外の集団』が組織を壊滅させたと言う所までは正しいがその学園の爆破まではしていない。彼らが爆破したのでは無く建物に関しては組織自身が機密保持の為に自爆させただけだ。


その女性の迫力に圧されながらもミサトは慌てて次の言葉を告げる。

「それに…その事は司令にもちゃんと報告したわよ。そしたら、『問題ない』って言ってたし…。」


(もしかして、ゲンドウとか言う男、あのバカの報告聞いてなかったのか…?)

真実は定かでは無いが何故か龍牙はそう思えて仕方が無かった。


「はぁ、だいたい三年前から意識不明って…そんな事、報告には何も…。」


(…報告…? なんだ、シンジの事を監視していたのか…あの連中。確か、如月さんと壬生さんの二人が叩き潰したとか言っていたけど…敵に間違われただけか…。)

心から彼らのご冥福をお祈りする龍牙であった。もっとも死んではいないが。

(オレの事…と言うより、『緋勇』の事は知らないようだな…ならひとまずは安心だな。)


話を終えたのかひとまず切り止めたのかは謎だが、その女性とミサトは龍牙の待っている位置まで戻ってきた

「ここの技術部長を務めている赤木 リツコよ。よろしく、緋勇 龍牙君。」

(モルモットでも見る目だな、そんな事をした時には地獄に叩き落すが。)

リツコから向けられる視線の意味を感じ取りながら、不快感を隠そうともせず龍牙は口を開く。

「ああ、始めまして。オレが『緋勇 龍牙』です。こちらはよろしくお願いされたくないんですけどね、赤木さん。」

言葉に弱めの殺気を込めながら龍牙はそれとは正反対の笑顔を浮かべて挨拶を返す。目は笑っていないが。

「リツコでいいわ。それにそうなるかどうかはまだ分からないけどね。そんな事より、あなたに…と言うより、本来ならシンジ君に見せたかった物があるの。」

龍牙の言葉に柔らかく微笑みながらそう返す。

「ちょっと、リツコ。龍牙君は完璧に部外者で一般人よ? ケージに連れて行くのはまずいわ。」

リツコの言葉にミサトはすぐに反論するが、

「龍牙君、これから見聞きする事は決して口外しない事を約束してもらえる?」

「ええ、いいですよ。」

ミサトの言葉を無視しながら二人は会話を続けていた。

「でも、そんな重要な所になぜオレを?」

「今からシェルターに向かうよりは安全だからよ。」

表情を変えずに尋ねる龍牙を不信に思いながらもリツコは微笑を浮かべている。だが、その瞳には冷酷な輝きを秘めている事を龍牙は見抜いていた。そして、龍牙もその内に冷たい物を秘めている。…そう、それを解き放った瞬間、その場にいる人間を一瞬で殺せるほどの冷酷さを、

(ネルフの重要情報…御二人の情報に有った計画の鍵を見る事が出来れば、幸運かな? それにしても、面白くなりそうだな。)

龍牙は二人に見られないように気をつけながらその表情に歓喜の笑みを浮かべた。兄の知人達には彼の兄によく似ていると言われている『面白いこと』に出会った時に浮かべる笑みを…。






発令所

「司令、使徒前進! 強羅最終防衛線を突破!!! なおも進行中! 予想目的地、第三新東京市!」

オペレーターの一人が男に使徒の情報を告げる。

「総員第一種戦闘配置。冬月、あとを頼む。」

後に立つ老人にそう告げると男は部屋を出て行く。

「ああ。」

男の言葉にそう答え、部屋から出て行く男の背中を眺めながら、冬月と呼ばれた老人は思う。

(三年ぶりの息子との対面か。…碇、今の俺達を見たらユイ君はなんというのだろうかな…? 待てよ…そういえば葛城君から碇の息子が意識不明でその代理が来たとか言う報告が…。碇、分かっているんだろうな?)

そんなあまりにも今更な考えに冬月と呼ばれた老人は一人自嘲してしまった後、その事を思い出して心から不安に襲われるのであった。







龍牙、ミサト、リツコの三人を乗せたエレベーターがそこに着くと扉が開かれる。

「暗いな…停電でもしたのか?」

冗談半分にそう言いながら龍牙は暗闇の奥に存在している異質な《氣》を感じ取ろうと神経を集中させる。

(この《氣》は明らかに人の物とは違う、どちらかと言うと上にいる、あの巨人に近い物だ…。)

その異質な《氣》の存在している場所に視線を向けると龍牙はすぐに目を閉じる。龍牙が目を閉じた瞬間、今まで消えていた照明が点き、天井にあるライトの光に照らされて、異質な《氣》の正体を明らかにする。照明が灯った瞬間、龍牙は瞼を開き、視線の先に存在している【それ】を視界の中に収める。

「…紫の鬼…? でかい顔だな。」

彼の視界の中に現れた紅い水の中から顔だけを出している紫色の鬼、それに視線を向け、龍牙は意識の中で自分の考えを纏める。

(前に家の古文書で読んだ幕末の時代に凶星の者が幕府に造らせたとか言う、『鬼兵』か?でも、あれの技術はそこで途絶えた様に書かれていたよな?)

当然ながら、龍牙自身そんな幕末の世にその時代の宿星達に倒されたものを見る事も無いので自分の考えが正しいかどうかは確認する術は無い。それでも、彼の頭の中に真っ先に浮んできたのは、その一言だった。

龍牙の表情に浮んでいる疑問の表情を驚きと考えたのかリツコは嬉しそうに次の言葉を告げる。

「これは人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン…。これはその初号機よ。」

「究極の…ねぇ…。」

リツコとミサトに聞えない様に小さくそれだけ呟くと龍牙は冷ややかな視線を初号機に浴びせる。

(…これでか? 見た所、武器になりそうなのは持ち前の怪力だけって、オチになりそうだし。)

その時の龍牙の直感がある意味、正しい物だったと言う事に彼自身が気付くのはそう遠くない事だった。

「しかし…『人造人間』って、そんな物を造ってる時点で正義の組織って言うより、悪の秘密結社とかの方が似合いそうな事だな。ここの大幹部をやっている、シンジの親父さんって、そのまんまの悪人面だったりして。」

露骨なまでに二人に聞えるように龍牙は言い切った。何故かリツコは必死に笑いをこらえているのに対して、ミサトの方はと言うと大笑いしていた。

「そ・・それは…ノーコメントとさせて貰うわ。」

「…それで悪の大幹部がオレに…と言うより、シンジに何の用だ? 結局、オレは代理のまま、ここに連れてこられたけど…。『世界征服するから、手を貸せ』とか言う理由で呼び出して、『我が手足となって働くのだ、我が息子よ。我等がこの世界を支配しようではないか、我こそ、世界を支配するに相応しい存在なのだ、偉大な血を受け継ぐ後継者よ、目覚めの時だ』とか言ってくるんじゃ…。」




『その通りだ!』




そんな声が響いてしまった…最悪の(ある意味、最高の)タイミングで。

その場にいた、そう言ってしまった張本人を除いた全員が最も出ないで欲しかったタイミングでの最悪の答えに真っ白になった。

イヤーな、沈黙が流れている…認めちゃってるし、ここが『悪の秘密結社』で自分がその『大幹部』だという事を(^_^;)

その沈黙を真っ先に破ったのは龍牙だった。

「…あのー…赤木さん、ここって、本当に悪の秘密結社だったんですね。」

これ以上ないほど真剣な表情でリツコに露骨に後退りしながら、龍牙がそう質問すると沈黙から復活したリツコは必死に訂正をする。

「ち、違うわ、龍牙君!!! 変な誤解しないで!!!」

必死に龍牙を説得しようとしているが…龍牙はぜんぜん信用していない。

「ま、まさか…実は上にいるのはこの悪の秘密結社を潰そうと現れた正義の使者で…オレは騙されてここに…? ハッ!? まさか、赤木さん…技術部長と言う事は…オレを悪の怪人エヴァンゲリオン二号に改造しようと…。オレの事を変な目で見てのは、そのための品定め…。」

変な誤解を最悪な方向に向かって発展させていく龍牙、リツコ自身、彼に気付かれるとは思っていなかったがそう言う目で見てしまっているのでその点だけは否定出来ない。

「ちょ、ちょっと待って、龍牙君、私はそんなつもりは…。」

「止めろ、来るな、衝撃を与える者のイカ怪人の科学者!!!」

なぜ仮○ライ○ーの敵組織を知っている、龍牙?

「な・・なんでそんな、セカンドインパクト前の特撮を知ってるの? って、ここはシ○ッ○ーじゃない! って、誰がイ○デ○ルよ!!!」

答:それは大宇宙の名を持つ元練馬のヒーロー達の影響です(^_^;)

「そ・・そうよ、龍牙君。私達はむしろ逆、逆なのよ!!!」

やっと復活したミサトも説得に加わるが逆に龍牙は警戒を強めていく。

「…信じられない…。…もしかして、遅刻したのもあそこでわざと殺して改造手術の際の抵抗を…。」

「「お願いだから信じてー!!!」」

「来るなぁー!!!」

必死で逃げ回る龍牙とそれを追いかけながら否定するリツコとミサトの二人…演出が悪すぎる為に完全に信用されていない。…見ている方にはある意味コントだ。

ただ一人何が起こっているのか分かっていなかった悪の組織『特務機関NERV』の大幹部にされている(ある意味、その通りだが)ゲンドウは部下からの報告を聞いて慌てて訂正する。



『ま、まて! あれは間違いだ! って、お前は誰だ? シンジはどうした!? なに、意識不明の重体だと!? あの役立たずがぁ!!! って、そんな無関係な餓鬼を誰の許可を得てここに連れてきた!? 許可は有る? 誰の………って、オレのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?』



訂正しよう…一番錯乱していたのはこの男、碇 ゲンドウだった。…知らない内になぜか悪の大幹部にされ(ある意味、その通り)、呼んだはずの自分の息子はいないで…なぜか別人がいて、彼がそこにいるのは自分のシナリオ通りに進んでいる事に笑みを浮かべながら、『もうすぐ会えるぞ、ユイ~』等と考えていて、シンジの代わりに代理の者が来たと言う報告が有った時も聞いておらず、いつもの様に『問題ない』と言ってしまったために自分が許可を出してしまったからだと言う事に今、やっと気が付いたのだ。…錯乱しても無理は無いだろう。

今、この四人の頭の中から使徒の事は完璧に消え去っていた。哀れなり、第三使徒サキエル…。

…さてさて…彼らが本題に戻ったのは、逃げ回る龍牙を取り押さえようとしたミサトが龍牙に返り討ちにあう事、数十回…その内何回かは彼の撃ち出す不可視の衝撃によって吹き飛ばされていた。

時間にして一時間も過ぎ去っていて、リツコの説得を龍牙が聞き入れた事でやっと本筋に戻れたのである。

この時点…と言うよりもシンジが意識不明になった時点、イヤ、『碇 シンジ』と言う計画の鍵が『緋勇 龍牙』と言う存在と友人になった瞬間、完璧にゼーレとゲンドウの考えている二つの計画は完璧に崩壊しているのだが…ゲンドウはその点以外は計画通りに進んでいるので『フッ、問題ない』と考えていた、彼の計画ではシンジはレイの予備でしかなく、その予備が仕えなくなった。ただ、それだけだとしか認識していないのだから…。

だが、彼の存在はそんな物ではすまない。…ゲンドウの計画の予備の代わりにゲンドウとゼーレの老人達にとって最悪とも言うべき存在が訪れたのだ。

シンジと言うカードの代わりに現れたそのカード、それはジョーカーにしてエース、持つ者に勝利を与え、持たざる物に敗北を告げ、あらゆるカードに姿を変える道化師のカードであると同時に最強の切り札。

だが…そのカードを持っているのは愚者達ではない…。

そのカードを持つ者は龍牙の義兄である彼…世紀末の魔人達を従え、今もゼーレと戦い続ける者にして、ゼーレがこの世界で唯一恐怖する存在…《器》である彼なのだ。

ゲンドウはまだ自分の目の前にある存在の力と《力》を知らない、この時点では『所詮は子供』と言う認識でしかない。だが…もうすぐ彼と言う存在の持つ恐ろしさの片鱗をいやというほど知る事となる、他の誰でもなく、全ての黒幕たる老人達の口から…。

だが…その老人達も知らない、彼自身も知らない龍牙の持つ真の《力》を…それを知るのはこの世で大地の力を宿す器たる存在とそれに従う四神よりも高位の存在である四人だけなのだ。



さあ、物語の幕は開く、『緋勇 龍牙』…もはやこれは生贄となるべく育てられた少年『碇 シンジ』主演の愚者達の書く物語では無い! これは黄龍の器『緋勇 龍麻』のもう一人の…『緋勇』の名を与えられた義弟である、君が主演の《宿星》の描く物語なのだ! 君の義兄が《宿星》に導かれ、東京の新宿は真神学園に転校し、龍脈を廻る戦いに身を投じたように君の《宿星》がその場に導いたのだ! 恐れる事は無い、龍牙よ! 君の義兄がそうであった様に君にも頼りになる仲間達がいる。何よりも強い《宿星》の絆で結ばれた仲間達が!!!

君の義兄がそうであった様に始まってしまった物語の舞台からは降りる事はできない、だが、その物語は君が自由なる意思の元に愚かな計画を愚者の描くシナリオを破壊する物語なのだ。

さあ、もうすぐプロローグは終わる、物語はここから始まるのだ、《宿星》に導かれし《力》持つ者達よ、その手で愚者達の物語を打ち砕くのだ…。






「…………………。という訳で信じてもらえたかしら?」

肩で息をしながら疲れきった表情で言うリツコに対して龍牙は表情一つ変えずに平然とした顔で返事をする。

「はい、一応は理解しました、赤木さん。まあ、納得できない所と突っ込み所の方が多すぎる事には目を瞑らせて貰います。」

一度だけ、真上から見下ろしているゲンドウを睨み付けると龍牙は再びリツコに視線を戻す。余談だがミサトの方は龍牙の一撃によって頭から壁に突き刺さっています。

「ここが悪の秘密結社ではなく、とりあえず使徒撃退の組織ではあるとは理解しました。かなり、無理矢理にですが…。」

そう言った後、龍牙は呼吸を整えると龍牙はリツコに次の言葉を告げる。

「…それで…オレに何をしろと?」

「え・・えーと…。」

リツコは本来、初号機の専属パイロット、サードチルドレンとして『碇 シンジ』を呼ぶはずだったのに意識不明の彼の代わりに来た龍牙に対してなんと言っていいのか困っていた。



『ふっ…出撃。』



「何がだ? 碇ゲンドウ。」

強引に自分のシナリオ通りに進めようとしたゲンドウに龍牙の極めて冷静なツッコミが突き刺さる。




「『……………………………………………………………………………………………。』」




再び長い沈黙だった…。

この沈黙を誰も破ってくれないと思われていた時、ゲンドウは次のセリフに入る。



『………座っているだけでかまわん。』



「だから、何に座ればいい? お前、冗談抜きで小学校レベルから『国語』をやり直せ。」

再びゲンドウの言葉に対して、龍牙の冷静すぎるツッコミが突き刺さる。

「…あの…赤木さん、あの髭の言葉を要約すると…エヴァンゲリオンが出撃する事までは解読できたんですが…? オレは人間以外の言葉は解読できないので…『通訳』をお願いします。」

龍牙の中でゲンドウに対する評価は落ちる所まで堕ちていた。ゲンドウに対して龍牙の中には敬意と言う言葉の『け』の字も無い。

それと同時にもう一つ、龍牙は心の底から今は意識不明の重体で眠り続けているシンジに対して同情していた…『こんなの』が父親で有る事に。

「つ・・つまり、そう言う事でいいのよ。そ・・それでシンジ君に乗って欲しかったんだけど…?」

「じゃあ、シンジを初めから手元置いとけよ。」

冷ややかな視線でゲンドウを睨みながら、きっぱりと言い切った。バカと言わないだけ、まだゲンドウはミサトよりも評価はいいのだろうか…? まあ、すぐに落ちる所まで堕ちるだろうが…。



『乗るなら早くしろ! でなければ帰れ!』



「うるせー!!! 少し黙ってろ、このクソ髭!!! そこから引き摺り下ろして、顔面ごと、その似合わねぇサングラス叩き割るぞ!!! 大体、帰っていいなら、喜んで帰るぞ。」

《氣》を乗せた一言がゲンドウに突き刺さった…完全に切れた…龍牙君でした(^_^;)

龍牙に一喝された上に殺気の篭った視線をぶつけられたゲンドウは分厚い強化ガラスに阻まれた部屋の隅でガタガタと震えていた…息子と同じ年齢の少年にである。

まあ、龍牙自身、露骨に床の一部を引きちぎって握りつぶしているが…彼曰く、兄の仲間の援護系、術者系の人達以外なら、《氣》による身体能力の強化で普通に出来る事らしい…。

「り・・龍牙君…驚くかもしれないけど、よく聞いてね。」

その姿に興味と恐怖を覚えながら、とりあえず彼を怒らせたら助けを呼ぶ前に一度くらい簡単に死ねるだろうと確信したリツコは言葉を選びながら言う。












「…………つまり、このエヴァとか言うの使って使徒を殺らないとサードインパクト起こって、人類滅ぶんですね。」

エヴァ初号機を指差しながら、答えるとリツコの説明に驚いた様子一つ見せずに冷ややかな視線を再起動した時に床に叩き付けられて再び気絶させられたミサトに向ける。

「あのバカの妄想じゃなかったのか…。」

「…え・・ええ…。」

多少、先ほどゲンドウに向けていた殺気に近い物(冷静な分だけまだマシな方だが)が篭った声に少し怯え気味なリツコであった。

龍牙は殺気を消して何かを考える様に視線をエヴァ初号機と天井に向ける。

(…人類の危機ね…あれがどうやって、起すのか知らないけど…あれが人類を滅ぼす存在なら消すしかないよな…オレに与えられた『緋勇』の名に誓って…。)

会った事の無い義理の父、幕末の時代、最初に凶星の者と戦った緋勇の祖、そして…この世で最も尊敬(崇拝に近いかもしれない)する存在、義兄『緋勇龍麻』…彼等も世界を守る戦いをやって来た。

…ここで彼が逃げ、そんな彼等の名を汚す事を龍牙に出来ようか…? 否、そんな事が出来ようはずもない。龍牙の選択はすでに決まっていた…彼の決断…それは…唯一つ。

「分かりました、オレがシンジの代わりが勤まるかどうかは分かりませんができる限りの努力はします。」

龍牙は流暢な口調でそう言い切り、舞台俳優もかくやという見事な礼をする。その動作は彼のその外見と合わせて見事なまでに絵になっている。

そして、龍牙は今まで部屋の隅で頭を抱えてガタガタと震えていたゲンドウが再び同じポーズで自分を見下ろしているのに気が付くと再び睨みつける。

「碇ゲンドウ!!! 後でシンジの事で話がある、あの怪物が居なくなったら、時間を空けておけ!!!」

すでに龍牙にはゲンドウに対して敬意を払う気は完璧に無いらしい。怒りを込めて怒鳴りつけるとゲンドウは少しは慣れたのか…先程の物より軽かったのか…そのポーズを崩さずに立っていた。

『………分かった。赤木博士から説明を聞け。』

通行の邪魔だったので気絶しているミサトをエヴァ初号機の浸かっている赤い水の中に蹴り落とすと龍牙はリツコに視線を向ける。

「赤木さん、そう言うわけだから、あれの操縦方法や武装などの説明を…時間が無いみたいなので要所だけを抜き出して…手短にお願いします。」

「ええ、分かったわ。」

先ほどまでとは正反対の穏やかな口調で言う龍牙の言葉に答えるとリツコは白衣の中から取り出した物を渡しながら話し始める。

「龍牙君、これを着けてもらえるかしら。後の説明は向こうでするわ。」

「ええ…分かりました。」

「変ね…。」

リツコはそんな龍牙を見て、彼に聞えないように呟く。

表情も変えずにリツコの言葉に答え、歩き出す龍牙…そんな龍牙にリツコは疑問を持つ…。それは『なぜ、今から戦いに行くというのに怯えと言った感情を持たないのか…?』と言う物だ。

今の龍牙には恐怖心が無い、それはあまりにも冷静すぎる。最初は『彼には変な英雄願望や戦場への憧れでも持っているのか?』等という考えも浮んだがそれは真っ先に考えの中から消し去る。事実、彼には戦場への憧れと言った様な感情や英雄願望から生まれる高揚感も無く、龍牙の様子は例えるならば…『ちょっと近所のコンビニまで、買い物に出かけてくる』という物でしかなく、まるでそれが日常の一部でしかない。そんな龍牙に対してリツコは疑問を持たずにはいられなかった。


そんなリツコの疑問もよそに…龍牙が戦場に立つ刻は一歩一歩近づいてきていた…。











リツコからの説明も終わり、初号機のエントリープラグ内…

エントリープラグの中を見て、初めて驚いた様子を見せていた龍牙が目を閉じて座っているとどこからか赤い水が流れ込んできた事に驚いて、龍牙は叫びだす。

「うわ! 赤木さん! これはなんですか? …というより、これはなんだ、マッドサイエンティスト!!!」

『失礼ね、誰がマッドサイエンティストよ!』

…彼はまだ引きずっているようだ…。最初のゲンドウによる悪の秘密結社と言う言葉に対する肯定を…。

『オッホン! まあいいわ…。それはLCLと言うの。肺に取り込めば直接、血液に酸素を供給してくれるわ。』

一度、咳き込んで気を取り直しながら、『後で覚えてろ、このクソ餓鬼』と言う雰囲気を消すとリツコは説明をする。…ただ何人かは現在も…特にその中でも童顔の彼女の弟子が怯えている。

「ヘェー。肺に…というのは溺れればいいのか…どうりでさっき叩き落した『それ』がまだ生きているはずだ。どれどれ。」

発令所にいるミサトを指差した後、丁度、膝の辺りまで水位が上がってきている液体を少し取り、口にした瞬間、龍牙は思わず噴き出してしまった。

「な・・なんだこれ…!? 血の味か…こんな物を溺れるほど飲むか…最悪。当分、肉は食えないな…。」

嫌悪を浮かべながら履き捨てるように言う龍牙に雑音が聞える。

『我慢しなさい、男の子でしょう!』

「…血の味に慣れたら…人間として、終っていると思うぞ。まともで正常な人間ならな。」

侮蔑の意思を込め、モニターに映る発令所の面々を侮蔑の意味を込めて見渡すとミサトで視線を止める。

『うっ…。』

「この際だから言わせて貰うが…お前等…一応、合意の上とは言え、無関係な未成年を戦場…殺し合いの場に送り出すという自覚有るのか? だいたい…そこのバカ、何でお前がそこにいる。」

ミサトを指差し、侮蔑の視線で見下しながら龍牙はそう言う

『あたしは作戦部長よ!』

「………………………………………………………………はぁ? おいおい…今、なんて言った? こんな時に下らない冗談は止めてくれ…。」

『だから、あたしは作戦部長だって言ったでしょう! だから、こうして指揮を執るためにここにいるのよ!』

「…………………………………………………………………あの~…赤木さん…そこのバカの戯言は…マジですか…?」

『残念だけど事実よ。』

その一瞬で龍牙は沈黙した…発令所にいる、約二名以外は龍牙の沈黙の理由が理解できていた…それ以前に考えが一致していた。『初対面の相手にそこまで言われるなんて…いったい何をやったんだ、あんたは?』と。

理解していないのは当の本人と『こっちの都合も何も知らない餓鬼が何言っているんだ。』と相手の事も自分が大人と言う事も考えずに龍牙に対して憤りを感じている『日向 マコト』の二人だけである

どうでもいいが日向マコトよ…その心の内を龍牙に聞かれたら、ミサトの前に殺されるぞ…確実に…イヤ、間違いなく。

「ちょ………ちょっと待て、ふざけるな!!! すぐにここから出せ!!! そんなバカの指揮の下で戦えなんて、死ねと言っていると同じ事だろうが!!! 大体なんだ、この組織は…そんなバカがトップなんて、何考えていやがる!!! ふざけんな!!!」

『なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! このクソ餓鬼!!!』

『ミサト…ちょっと、黙っていてもらえる。龍牙君、あなたの言いたい事は分かるけど…今は我慢してもらえるかしら…。』

「ええ、バカとナントカは紙一重だといいますし…普段と戦闘中は違う事だけを神に祈ります。」

発令所の大騒ぎを完璧なまでに無視して、そう答えると心を落ち着けるように龍牙は目を閉じる。

龍牙がそうしている間にもそれなりに優秀なオペレーター達は作業を進めている。

『思考言語は日本語をフィックス…』
『神経接続…第一次接続開始…』
『主電源接続…』
『全回路動力伝達…』
『第二次コンタクト…』
『A10神経接続、異常なし…』
『初期コンタクト、オールグリーン…』
『双方向回線、開く…』

それは単純な流れ作業、何度かこの兵器の機動実験が有ったはずなのだろうから彼等には手馴れた物であるのだろう。…だが…異変と言う物はいつも突然起こる物である…。

『第二ステージ問題なし! 第三ステージもクリア。シンクロ開始しました!!! 現在38%!』

そう…順調に行っている…その瞬間だった…異変が起こったのは…

『え? せ・・先輩! シンクロ率の上昇が止まりません! 現在158.78%! なおも上昇中!』

『なんですって! 緊急停止! 接続をカットして!!! エントリープラグ緊急射出!』

『………ダメです! 初号機から、拒絶されました!!!』

『そんな…また、繰り返すというの…?』

龍牙の意識がどこかに引きずり込まれていく…彼の耳には発令所の騒ぎも入らない…。

(な・・なんだ…これ…は…。)

龍牙の彼の意識が現世から消えたのはその瞬間だった。

『…役立たずが…。』

何の感情も篭っていないあの男…友人である碇シンジの父親である、碇ゲンドウの言葉が最後に聞えた言葉だった…だが彼はこう考えた。…それももう、どうでもいい…と、

―ごめんな…弓…オレ…お前との約束、守れそうもない…―

…その瞬間…龍牙はLCLへと消えた…。

そして、彼が消えた瞬間にそれは現れる…。

「大変です、第三新東京市に未確認物体出現!」

『それ』は突然、その場に現れたとしか言いようがない…。

「何ですって!? こんな時に。」

ミサトが叫ぶ…。

「まさか、新たな使徒!?」

リツコが問う。

「いえ、ATフィールドは計測されておりません。」

「映像で確認、主モニターに回します。」

モニターに映し出されるは…第三使徒サキエルと対峙する存在…蝙蝠の様な翼と山羊の様な角、そして、刃のごとき爪を持った巨大、そして、邪悪にして醜悪なる異形…それは古代より、こう呼ばれ、人に嫌悪され、恐怖を持たれ続けて来た存在…そう…それを見た人々は『それ』をこう呼ぶ事だろう…『悪魔』と…。


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