巻の八十一点五「さすらいと変化を愛するものは生ある者である」文「~♪~~♪」幽香「あら、随分とご機嫌ね。そんなにそのお酒は美味しいのかしら?」文「天に輝く銀月と最高の肴があれば、どんな酒でも格別な美酒に変わるのよ。――飲む?」幽香「珍しい事を言うじゃない。もう酔いが頭に回ったの?」文「まさか。この程度の酒なんて水と同じよ、同じ。今日は機嫌が良いから、少し幸せをお裾分けしてあげようと思っただけ」幽香「ふふっ、そういう事ならご相伴にあずかろうかしら。私も今日はおいしくお酒が飲めそうだわ」文「一応聞いておくけど、それはどういう意味よ?」幽香「あら、銀月と肴があればお酒が美味しいって言ったのは貴女でしょう?」文「私と貴女じゃ、肴の種類が違うみたいだけど?」幽香「それは仕方が無いわ。人其々、好みは違うものよ」文「貴女とは一生、分かり合える事は無いみたいね」幽香「何を今更。――それで、貴女の肴は何なのかしら?」文「……この新聞よ。貴女も見たでしょう?」幽香「ああ、何かと思ったら、人里で貴女の新聞より好評な晶の新聞じゃない」文「違うもん! それはたまたまだもん! 晶さんの新聞のフレッシュさと参加者の物珍しさが目を引いただけだもん!! それだけだもん!」幽香「落ち着きなさい。キャラがおかしいわよ」文「……ゴホン。とにかく、新聞の優劣というのは一時の評価だけで決まるものではないの。わかった?」幽香「ええ、今の言葉が思いっきり泣き所に当たった事は良くわかったわ、うふふ」文「くっ!(絶対ワザのくせに……)」幽香「ほらほら、眉間に皺が寄っているわよ? それじゃ美味しく飲めないでしょう?」文「誰のせいだと……ブツブツ……」幽香「―――で、どういうつもりなのかしら?」文「あやや? どういうつもりとは?」幽香「新聞作りと言う機会だけを与えておいて、貴女がただ傍観を貫くなんて有り得ないもの。何か小賢しい企みがあるんでしょう?」文「いちいち癇に障る言い方をするわね。企んでなんかいないわよ」幽香「あら、珍しい。いつもなら悪びれずに事実を認めるのに」文「いくら私でも、間違った事実を認める気は無いわ。今回のは純粋な善意よ、善意」幽香「で、本音は?」文「――酒の場だからってね、何言っても許されるワケじゃないのヨ?」幽香「……あら、本気だったの」文「なんだと思ってたのよ。失礼ね」幽香「言わないでおくわ。訴えられたら面倒だから」文「……もうほとんど語ってる様なものじゃない。それ」幽香「けどそれなら、ますます貴女が参加していない理由が分からないわね。気でも狂った?」文「ここで挑発に乗ると酒の席が台無しになるから、最後のセリフは聞き流してあげるわ」幽香「乗ってもよかったのに。……まぁ、今の貴女の顔だけで充分お酒がおいしいから、私も我慢してあげるわ」文「(耐えろ、耐えなさい射命丸文! 貴女は我慢できる子!!)」文「……この間外での知り合いと話して以来、晶さんに元気がなかったでしょ?」幽香「そういえばそうね。それで、気分転換に新聞作りを?」文「後は思い出作りも兼ねて、かしらね。いつか外に帰った時、この新聞は良い思い出の品になると思って」幽香「………………………………」文「何よ、その唖然とした表情は。文句があるなら聞くわよ」幽香「文句はないわ、ただ純粋に驚いただけよ。まさか貴女の口からそんな言葉が出てくるなんて思わなかったから」文「ふぅん、そうなの」幽香「……帰る事に反対はしないのね」文「晶さんの意思は優先するわよ。それに―――」幽香「それに?」文「前々から興味があったもの、外の世界」幽香「……はぁ?」文「どんな所なのかしらね。色々噂だけは聞いているけど、聞くと見るとでは大違いだと良く言うし」幽香「貴女、まさか晶についていく気なの?」文「ええ、私は晶さんの姉だもの。それに面白そうじゃない、私達の知らない世界がそこに広がっているのよ?」幽香「妖怪が住むには不便だと聞いているけどね」文「そこは何とかなるわよ。どうせ外に出るにはあの隙間と‘話し合う’必要があるんだし、その時にでも対策してもらうわ」幽香「……そこまで晶にお熱なのね」文「まぁ、それだけが理由じゃないけどね。少なくとも私は、晶さんの選んだ道にとことんまでついていく気よ。……貴女はどうなの?」幽香「私は、あの子が帰ろうと残ろうと興味はないわね。最後に戦えればそれで問題無いわ」文「やれやれ、相も変わらず戦闘狂な事で。ちょっとは私みたく、自分の気持ちに素直になったらどう?」幽香「お生憎様、これが私の素直な意見よ」文「ぶーっ、つまらないわねー」幽香「………だけど少しだけ、貴女の明け透けな想いが羨ましいわ」文「ん? 今、何か言った?」幽香「晶が帰る前には全力で戦うつもりだから、一人で幻想郷を出る事も想定しておきなさいって言ったのよ」文「あはははは、その前に貴女を仕留めるから安心しなさい」幽香「うふふふふ、それなら同じ所に行けるから大丈夫ね。あら、パパラッチ天狗は地獄行き確定だから無理かしら?」文「オッケー、飲み会ここまで。今からリアルファイトに突入ね」幽香「かかってきなさい。―――今日の私は、少し機嫌が悪いわよ」