巻の七十三「今が最悪の状態と言える間は、まだ最悪の状態ではない」 どうも、哨戒天狗見習いの久遠晶です。 気付けば妖怪の山に来てから、五日もの時間が経っていました。 最初は慣れない事が多く戸惑ってばかりの僕でしたが、今ではすっかり妖怪の山にも馴染みました。「ぐ、がはっ……た、たすけっ」「母さん……母さん……死にたくないよぉ」「くすくす。あれだけ威勢良く挑んできておきながら、無様ですわねぇ」 ……おっと失礼、今ちょっと立てこんでまして。 僕は鴉天狗Aの首を絞めつけている手を離し、鴉天狗Bを踏んでる足を浮かす。 今まで散々命ごいしていた二人は、弾けるように横たわった姿勢のまま慌てて逃げ出した。 ああ、ゴメンナサイ。そこまで痛めつけるつもりは無かったんです。 どうも四季面をつけていると、変な意味で加減が出来るようになっちゃうんだよね。「お疲れ……と言って良いのか分からないけど、お疲れ様ー」「あら、お気遣いどうも。別に疲れてはおりませんけど」 呆れた様な困った様な笑顔のにとりに、僕は内心で苦笑を返す。 哨戒任務を始めてから今日まで、これと似たような光景が延々と続いていたからだ。 どうも、初日に鴉天狗二名をボコボコにした事が原因らしい。 それからと言うモノ、僕を倒すために自称「以前のヤツより強い鴉天狗」達が引っ切り無しに勝負を挑んできたのである。 正直、凄く鬱陶しいです。仕事させてください。「すまない、久遠殿には迷惑をかける」「御気になさらず。時間はかかりますが、大した手間でもありませんから」「そ、そうか……」「いやアキラ、気持ちは分かるけどもうちょっと言い方を」 確かに、片手間で出来るって言い方はちょっと無神経だったかな。 仲の良くない相手だとしても、同じ天狗の仲間なんだし。 ……でも、本当に時間しか使わないだよねぇ。 襲いかかってくるのは血気盛んな若手天狗だけで、実力もだいたい似たり寄ったりの相手しかいない。 おまけに天狗間で情報を共有していないらしく、戦法も基本ワンパターン。 唯一、襲いかかってくる人数だけがその時々で変わるんだけど……何か意図があるのか、毎回対処可能な数でしか来ないと言う有様。 各個撃破されに来るぐらいなら、その人員を全部纏めてかかってきた方が勝算上がると思うんだけどなぁ。 まぁ、それをやられると僕はエライ目に遭うワケですがねっ! 「……だが、久遠殿の言葉は事実だ。現状彼らの行動は、嫌がらせにしかなっていない」「そうでしょう? まったく、毎度毎度芸が無くて困りますわ」「だから言い方を――でもそうだねぇ。こんだけ派手に暴れてたら、格上の天狗が出張ってきそうなものだけど」「いや、それは有り得ないな」「あらあら?」 ヤケに確信めいた口調で、椛がにとりの疑問を否定した。 とりあえず邪魔になりそうな仮面を外し、僕は彼女の次の言葉を待つ。「何故なら久遠殿には、そこまでする旨みが無い」「……うまみ?」「ああ。確かに久遠殿は強い、妖怪の山でも上位に入る程の力量だ。しかし、あくまで久遠殿はただの人間に過ぎないのだよ」「ただのって……アキラがかい?」「スマン、言葉が足りなかったな。要するに、多くの天狗は久遠殿を「ただの人間」と認識していると言いたかったんだ」「なるほどねー。つまり、仮にどこぞの天狗がアキラに勝ったとしても」「称賛も名誉も与えられはしないだろうな。しかも、負けた場合には「人間風情に負けた天狗」と言う汚名を被る事になる」 それは確かに旨みが無いなぁ……。 勝っても得無く負ければ大損、格上の天狗が喧嘩を売ってこないのも納得だ。 まぁ、勝算が高いなら示威行為の一種として戦うのもありだと思うけどね。 椛やにとり曰く、僕の実力は格上の天狗とほぼ互角なんだそうで。 つまり、これだけ面倒臭い相手なのに勝ち目自体も薄いと。 ……うーむ。ここまで喧嘩売るメリットの無い状況も珍しい。椛が断言する気持ちも良く分かると言うモノだ。「まぁ、状勢の読めない輩はそれでも攻めてくるだろうが、今より厳しい状況にはならないはずだ」「それは何と言うか……ありがたいような、そうでないような」 出来れば割と上位の天狗に出てきてもらって、その人相手にズバッと決着をつける方が好みなんだけどね。 ――はっ、面をつけてないのに、別の人の影響が出てきちゃってる。 いけないいけない。そういう豪快な真似が出来るのは、幽香さんとか文姉クラスの実力者だけだと言うのに。 最近、微妙に持て囃されている気がしたから、ちょっと調子に乗っちゃってたかも。「ま、どっちにしろ今日はもう新しい挑戦者は出てこないだろうさ。だから、とっとと哨戒に――」「こんにちは~。くろーさんと愉快な皆さま方~」「……行けそうにないねぇ、これは」「あ、雛さん」 森の奥から現れた、シックなゴスロリ衣装の女の子――鍵山雛さん。 天狗の縄張り近くに居る以上、当然彼女も普通の人間ではない。 妖怪の山に住まう厄神様、つまり神の一種だ。 厄神と言っても厄を振りまく神では無く、むしろ人間に纏わりつく厄をため込んでくれる実にありがたい神様である。 ちなみに、ため込んだ厄が近づく相手を不幸にするため、雛さんは一定以上の距離を絶対に縮めようとしない。 そのため先ほどの会話は、キャッチボール出来そうな距離を置いて交わされると言うかなりシュールなものになっている。「また来たのかい? 普段人と接したがらないアンタにしては珍しいね」「だって……くろーさんが居ますから~」 夢見心地な乙女の瞳で、うっとりと語る厄神様。 彼女とにとりは顔見知りらしく、哨戒任務二日目当たりでにとりが雛さんの事を紹介してくれた。 それから今日まで四日間、ほぼ毎日雛さんは僕等の所に顔を出している。 理由は簡単、僕こと「くろーさん」が居るためだ。 ……あー、先に言っておくけど、色気のある理由じゃありませんヨ?「今日もくろーさんは凄いですね~。たった一日でこれほどの厄を溜められるなんて~」「あはは、どーも」「私も長い間色んな人を見てきましたが、こんなに厄を溜め易い体質の人は初めてですよ~」「わはははは、さようですか」 ……まぁ、つまりそういう事です。 厄の専門家である雛さん曰く、僕はいっそ芸術的なくらい強烈に厄を引き寄せるんだそうで。 何しろ初対面の第一声が「貴方、良く今まで生きてこられましたね~」だ。 そう言われる心当たりがあり過ぎて苦笑いしか返せなかった僕の心境、推して知るべし。 「雛殿。久遠殿に会うためだけに、天狗の縄張りへ近づかれても困るのですが」「大丈夫ですよ~、皆さんの迷惑にはなりませんから~」「いえ、そういう問題では無くてですね」 ちなみに、彼女が口にする「くろーさん」と言う名前は、九郎判官義経に倣った僕の渾名である。 名付け親は雛さんでは無く、初日の騒動を聞いた天狗の長――天魔さんだ。 何でも牛若丸と呼ばれた頃の義経が、かつて鞍馬天狗に育てられた話に起因しているらしい。 ……別に、僕は文姉に育てられているワケじゃないんだけどなぁ。 僕等に好意的な天狗はほとんどが僕の事をこう呼ぶので、いつの間にかこの渾名は妖怪の山全体に浸透していたようだ。 それにしても、最初に聞いた時には誰の事かと思いましたよ。 分かり難い渾名付けるなぁ、天狗の長さんも。 ちなみに、そんな天魔さん曰く今回の騒動は「面白いから好きにやれ」だとか。無責任にも程がある。「とりあえず雛。私達今から見回りに行かなきゃいけないから、アキラで遊ぶのは後にしてくれないかい?」「遊ばれてるんですか、僕」「そんな事ありませんよ~? 私はくろーさんの今後を本気で心配して、こうして厄を取りに来ているんですから~」「……あの、そんなに酷いんですか? 僕に集まる厄って」「量、質ともに申し分ない厄が集まってますね~。私と同じ能力持ってたりします?」「あはははは……ちょっと泣いてきますね」「お、落ち着きなってアキラ! 大丈夫だよ、大丈夫!!」 にとりは優しいなぁ。でも視線が泳いでますヨ? あと椛さん、別にそっちへ話を振るつもりは無いから顔を背けないでください。 「まぁ、くろーさんがお忙しいなら後にします~。お仕事頑張って~」「あ、はい。ありがとうございます」 にこやかな笑みでそう言うと、こちらに手を振ってくれる雛さん。 ちょっと言動がぶっ飛んでいると言うか、ずれてる所が気になるけど、基本的には良識な神様なんだよなぁ。 ちなみにここ妖怪の山は、その名称に反して多くの神々が住んでいる場所でもある。 雛さんの他にも、ここ数日で僕は二人の神様と知り合いになっていた。 こっちは偶然出会ったんだけど、どうも行動範囲が微妙に噛み合っているらしく良く出会うので、今度会った時にでも紹介させて貰おう。 ……それより今は、心の底から同情するような笑みを浮かべている雛さんの方が気になるし。「本当に頑張って、生きて帰ってきてくださいね~」「あの雛さん? 何ですかその不吉な物言いは」「今までの人生で起きた最悪の出来事が、もう一度やってくると思えば乗り越えられますよ~」「何をっ!? と言うか、僕の背後にどんな厄を見たんですか雛さんっ!?」「あ~、くろーさんなら二番目か三番目かに悪い出来事でも大丈夫かもしれませんね~」「それはひょっとしてフォローのつもりだったりするのかなっ!? かなっ!?」 そこまで酷いなら、せめてちょっとくらいの厄を持ってっても良いじゃないですか。 今はダメって言われたからって、そんな律義な真似しなくても。「それでは、おサヨウナラ~」 クルクル回って去っていく、何故かテンション上がってる厄神様。 良識があってもやっぱり幻想郷の住人、マイペースな所は変わらないようだ。 引き留めようにも、雛さんの周りには厄があるからそもそも近づけない。 ああ、待って欲しいのに見送るしかないこのジレンマ。あっという間に雛さんは山の奥へと消えて行った。「かむばっく、雛さぁぁぁぁん!」「お、落ち着きなってアキラ。雛はあれで茶目っ気のあるヤツだから、ただの冗談で言った可能性も―――」 「こんなタチの悪い冗談があるのっ!?」「……いや、ゴメン。気休め言った」 なんか色々とへし折れそう。オウチニカエリタイ。 これから僕の身に、何が起きようとしているんだろうか。「雛殿の位置は把握しているぞ。追いかけるか?」「……大丈夫。うん、平気だから哨戒任務に移ろう」「え、良いのかい?」 椛の気遣いを丁重に断り、僕はそう答えた。 にとりは心配そうな顔をしているけど、そもそも追いかけて厄を取って貰ってもあまり意味は無いのだ。 何しろ―――「どうせ今日の厄を取って貰っても、明日か明後日当たりに同じ厄が来ると思うしねっ!」「アキラぁ……」 泣かないでくださいにとりさん、僕も泣きたくなりますから。 凄く切なそうな顔をする二人から視線を逸らし、僕はわざとらしく明るい声を出した。「さぁ、楽しく哨戒任務と行きましょうかっ!!」「そうだね。出来るだけ明るく行こうか」「ああ、これが最後になるかもしれんしな……」 だから、そういう今を慈しむような台詞は勘弁してください。 こう見えて心はガラスの様に繊細なんですよ? 散々否定されてきてますけど。 とりあえず、遺憾の意を込めて先に進む事にしよう。 泣いてないよ? まだギリギリで泣いてないからねっ!?「おっとっと、待ちなよアキラ。なるべく一緒に居た方が良いだろう?」「ああ、用心は必要だな」「もうそのフリは良いからっ!」「そう言いつつも、私達に近づくアキラだったとさ」 いや、これはアレですよ? 僕が先頭じゃ迷子になるかもしれないからですよ? まだまだ勤務日数ちょっとのひよっ子なワケですし、だからそのあのね……ビビりでスイマセン。 ――しかし、そんな不吉な予言のようなものを受けつつも、哨戒任務は問題無く進んでいった。 にとりの予想した通り、新しい挑戦者も現れないし、今のところ僕がボロボロになる事態も発生していない。 世はなべて事も無し。……このまま哨戒任務が終わってくれれば言う事無しなんだけどなぁ。「そういや、今日はこないね。あの姉妹」「ああ、秋姉妹? 確かにいつもならもう会ってる時間だよね」 秋姉妹と言うのは、さっき言っていた「ここ数日で知り合った二人の神様」の事だ。 それぞれが紅葉と豊穣を司る神々で、秋と言う季節を象徴した姉妹だと言える。 何しろ豊穣を司る妹さん――秋穣子さんなんかは、人里の収穫祭に毎年呼ばれたりしているんだそうだ。 ふむ、こういう説明をすると、あの二人がメジャーな神様に聞こえてくるから不思議である。 いやまぁ、有能な神様ではあるらしいんだけどね? どうもパッとしないと言うか地味というか……。「もう少し歩いていたら、そのうち会うんじゃないかな? この辺だよね、二人が居るのって」「そうだな。……まぁ、別段会いたい理由も無いし、会えないのなら会えないで問題は無いだろう」「そろそろ秋も終わりだしねぇ。冬が来ると途端にテンションの下がる神様だから、いっそ会えなくても良いかもね」「酷い言い草だなぁ。そりゃ、特別会いたいワケでも無いけどさ」「久遠殿も、中々酷いと思うぞ?」 そう言われても、ご近所付き合い以外の会う理由は無いからなぁ。 雛さんみたいに相手が会いたがってるワケでも無いし、そこまで必死になって会う必要が無いんだよね。 アレ? じゃあ別に、秋姉妹の話をする必要は無かったような。 「……とりあえず、先に進もうか」「そうだな――むっ!?」 何だか実りの無い時間を過ごした気がして、僕は疲れた様に話題を変える。 すると、同意していた椛の表情がある方向で固まった。 僕らがそちらに視線を向けても、鬱蒼と茂った森の姿しか見えない。 魔眼の方にも反応は無し。……と言う事は、もっと遠くで何かがあったと言う事かな? 僕らが椛に注視すると、彼女は緊迫した声色で見えたモノを口にした。「―――フラワーマスターだ。奴が、この近くで戦っている」「え、幽香が?」「幽香さんがっ!?」「なんだ、二人とも知り合いなのか?」 ああ、そういえば椛は知らなかったっけ。僕等と幽香さんの関係。 しかし、あまり外との接点が無いはずの妖怪の山でも有名とは、やっぱ幽香さんは凄いんだなぁ。 って問題はそこじゃない、幽香さんが戦ってるだって!?「大変だ! 椛、幽香さんはどこにっ!?」「大体山の反対あたりだが……って久遠殿、どこに!?」「幽香さんを止めてくるっ! 天狗の縄張りの近くで暴れられたら大変な事になるし!!」「そうかな? 確かに幽香に暴れられるのは困るけど、そこまで大変じゃ……」「今、天狗の縄張りには文姉が居るんだよ!? 下手したら、二人の喧嘩で天狗の縄張りがヤバいっ!!」 「――――椛、急ぐよ!」「あ、ああ、分かった。……何がヤバいのかは、いまいち分からんのだが」 僕の説明で、今がどれだけ危険な状況か理解して貰えたようだ。にとりの顔に緊張の色が浮かぶ。 何だかんだでストレスが溜まっている今の文姉と、幽香さんがカチあったりした日には……。 最悪、天狗の縄張りが二度目の大惨事を経験する羽目になるかもしれないっ! 自身の想像に冷や汗を流しながら、僕は急いで山の裏側に向かって駆けだした。「あ、いたいた。おーい九郎くーん」「まだまだ元気な秋姉妹ですよー……ってはやっ!? あっという間に見えなくなった!?」 途中、誰かに声をかけられた気がするけどとりあえずスルー。今はそれどころじゃないのだ。 そのまま、僕は全速力で森の中を駆け抜ける。 直感だけを頼りに数分ほど真っ直ぐ走っていると、やがて進行方向から派手な破砕音等が聞こえてきた。 そういや、現在進行形で戦ってるって言ってたっけ。 誰と戦っているのか聞き損ねたけど、この様子だとただの妖怪って線は薄そうだ。 「ねぇ椛、幽香さんが戦ってる相手って誰なの――ってアレ?」 そうして後ろを振り返っても、二人の姿は見当たらない。 どうやらいつの間にか、辛うじて魔眼に引っかかる程度の距離まで二人を引き離してしまったようだ。 ……ううっ、しょうがない。ここは僕一人の力で何とかするしかないか。 すでに僕の魔眼にも、強烈な力を持った二人の姿とたくさんの弾幕がぼんやり映っている。 こりゃ、文姉と会うまでもなく大変な事になってるかも。 僕は覚悟を決めて、戦っているであろう二人の間に飛びだした。「幽香さん待った! あんまり派手に暴れないで!!」「――あら、晶じゃない」「!?」 ひらけた広場のような場所に、幽香さんともう一人は居た。 悠然とした姿勢の幽香さんに息を切らせて対峙しているのは、独特の衣装をした巫女さんである。 青と白で構成され、何故か腋の空いた巫女服。 緑がかった長い髪に、カエルと蛇を模した髪飾り。―――あれ? おかしいな。いきなり僕の目がおかしくなったみたいだぞ? 僕は自分の頭を叩きながら、改めて目の前に居る巫女さんの姿を確かめてみる。 宙に浮き、こちらを攻撃的に睨む正体不明であって欲しい巫女さん。 うん、こっちの記憶を検索して姿を真似る妖怪とかでは無い様ですネ。 「また新しい妖怪ですか! 良いでしょう、相手が何人居ようと、守矢の巫女に負けはありません!!」「さっき、私一人に負けそうになっていたじゃないの」「あ、あれは様子見ですっ! これから私の本気が始まるんですよっ!!」「どっちでも良いけど、晶は妖怪じゃないわよ? そんな事も分からないのかしら、山の上の神社の巫女は」「ぐぅっ――って、人間!?」 幽香さんの告げる事実に、ビックリして目を見開く巫女さん。 ちなみに、とっくにビックリしている僕はノーリアクションだ。 何しろ目の前に居るのは――‘外の世界に居るはずの’馴染みのある人物なのだから。「……そういう事ですか。ふっふっふ、語るに落ちましたね、花の妖怪さん」「あまり興味は湧かないけど、一応聞いて上げるわ。なにかしら」「妖怪の山に人間が居るはずありません! つまり、貴方の発言は私を惑わすための虚言なのでしょう!?」「それ、優位な立場の私が使う必要のある嘘なのかしら」 あ、やっぱり幽香さんの方が優勢なんですか。 いや、乱入した時の状況からそんな気はしてましたけどね。 名探偵の如く誇らしげに推理を語り、幽香さんへと指を突き付けた巫女さんは、あっさり論破されしょぼんと肩を落とす。 それでもまだ自分の理屈に未練があるのか、彼女はおずおずと縋る様に上目づかいで幽香さんを見つめた。「それじゃあ、あの人は誰なんですかぁー」 心底不思議そうに、今度は僕を指差す巫女さん。 ここで幽香さんに語らせると面倒な事になりそうなので、僕は自分から答えを語る事にした。 ただし――自分の立場を言うワケでは無い。 「その、何と言うか……久しぶりだね、‘早苗’ちゃん」「……えっ?」「あら?」 時間としてはそう長くない前、外の世界に居た頃の友人――東風谷早苗ちゃん。 どういう経緯があったのかは知らないけれど、何の因果か僕等はこの幻想郷で再会したのだった。 そしてそんな友人の言葉に、早苗ちゃんは唖然とした表情のままで一言返す。「―――その、どちら様ですか?」 ……そりゃ半年くらい会って無かったけどさ、一緒に下校して噂されるのを断らない程度には仲良かった友達にそれは無いでしょう。 ちなみに、僕がそう返された原因――腋メイド姿――に思い至るまで、数回の問答を繰り返した事を一応述べておく。 その間一度もフォローしてくれなかったけど、幽香さんは絶対気付いてて黙っていたと思う。泣きたい。