巻の七十「馬は死ぬ前に売ってしまうことだ。人生のコツは、損失を次の人に回すこと」「うおォン 僕はまるで人間機関車だ!」 「このワザとらしいモノマネ味!」 紅魔館にてフランちゃんの教育? をするようになってから大体一週間。 今では、彼女を肩車して紅魔館の庭を駆けまわれるくらい仲良くなれましたっ! ……初日から出来ただろ、と言うツッコミは受け付けません。 「わはははは、さらに意味無く分身してみたりっ」「分身してみたりー」「……あの、想像以上に鬱陶しいので止めてもらえませんか?」 うん、僕も同じ事を思った。視界内で複数の自分が動きまわるのって凄く邪魔くさい。 僕等は分身を消し、呆れ顔の美鈴の前で停止した。 「門番前~、門番前~、お降りの方は元気よく返事をしてくださーい」「はーいっ! 機関車って何ですか?」「そこ今更聞くのっ!? と言うか、その返事は質問するためのモノなの!?」「動く脚立の事じゃないですかね」「めーりん、見たまんまで言ったでしょ!?」「何やってんのよ、貴方達……」 肩車したままのボケツッコミと言うシュールな状況に、やたら冷静なツッコミが混ざった。 つっこんだのは、ウサギの耳にミニスカブレザーと言うやたらマニアックな格好をした僕の姉弟子、レイセンさんだ。 僕は、彼女が何故ここに居るのかと言う疑問を考える前に投げ捨て、出来る限り丁寧な挨拶を彼女に返す。 上下関係は大切にしないとネ。フランちゃんが乗っかってるのでお辞儀は出来ないけど。 「姉弟子こんにちはー」「こんにちは。……で、揃いも揃って何やってるのよ」 彼女は腰に両手を当てた姿勢で、馬鹿を見る目をこちらに向けてきている。 なんと失礼な。僕等のどこら辺がおかしいと――いや、言われてみるとわりと馬鹿っぽい光景かもしれない。 いけない、このままでは僕等が馬鹿だと思われてしまう。何とかフォローしなければ。 こうなんか知的な事を……いや、このタイミングでそれだと逆に馬鹿っぽいか。 そ、そうだ! ここはあえて真面目に対応してみよう!! えーっと、紅魔館のメイドとして相応しい対応は……。「――侵入者は排除する」「その子乗っけてナイフ構えても間抜けなだけよ?」「……子連れ狼みたいでカッコよく無い?」「全然。あと上に乗ってる貴方、頑張ってるのは評価するけど下の真似しない」「や、やっぱ、ナイフ無いとダメかな?」「論点はそこじゃないから」「あっ、そうでした! 勝手に入られては困りますっ!」「そこでも無いっ! あと、気付くのが遅いっ!!」 思いっきり外してしまいましたか。やっぱり、普通に応対すれば良かったかなぁ。 と言うかレイセンさん、あんなにレミリアさんを警戒していたのにフランちゃんはスルー? ……あー、ひょっとして。「ねぇ姉弟子」「なによ」「この子の事知ってる?」「知らないわ。紅魔館のメイド?」 なるほど、知らないならしょうがないね。 そういうワケで僕は、何事も無かったかのようにニッコリ微笑んでレイセンさんへ向き直った。 世の中には、知らなくても良い事が確かに存在していると思う。 問題の先送りとも言うけど。多分問題は無いだろう。「にしても貴方、てゐの言った通り呑気にやってるみたいね」「ほへっ? てゐから話を聞いてたの?」「ええ。久しぶりに貴方と会ったら、随分面白い事になってたと言ってたわよ」 そりゃそうだ。同じ永遠亭に住んでるなら、この前の話だって当然レイセンさんの耳に入っているよね。 けど、それならフランちゃんの事も聞いてそうな気がするんだけど……。 さてはてゐのヤツ、面白くなりそうだからってそこらへんの部分を喋らなかったな? 「ところで優曇華院さん、今日は何用で?」「そこの門番、せめて名前で――まぁ良いわ。私は単に後輩の様子を見に来ただけよ」「僕の?」「そうよ。次はいつ永遠亭に来るのかとか、事前に聞いておかないと困るでしょう。……ほら、授業の準備とか何とかで」「レイセンさん……」「ちょ、なに感極まった顔してるのよ!? 私はただ、貴方の悪戯に備える時間が欲しいだけでっ」「だけど、色々準備してくれるワケですよね」「……それは、そうだけど」 やっぱり良い人だなぁ、レイセンさんは。 てゐとか輝夜さんとかなら、「明日授業やるから永遠亭に来い」と問答無用で言ってる所だろうに。 わざわざ出向いてくれた上に、こっちの予定に合わせようとしてくれているとか。もう優し過ぎて哀愁を誘うと言うか何と言うか。 ……うーん、それにしてもお師匠様の授業か。 受けたい気持ちはあるんだけど、フランちゃん込みで授業を受けさせてくれるのかなぁ? と言うか、彼女に付きっきりの状態でそもそも勉強になるの?「どうしたのよ。難しい顔をして」「うーん、何と言うかその……」「あら、随分騒がしいと思ったら、変わった御客人が来てるじゃないの」「ひぃっ!? フラワーマスター!?」 僕がどうしたものかと頭を悩ませていると、騒ぎを聞きつけた幽香さんがやってきた。 と同時に、身体を震わせて思いっきり後ろに下がる姉弟子。 どうやら未だにトラウマは払拭出来ていないようだ。 まぁ、簡単に払拭出来ていればPTSDなんて単語は必要無いワケなんだけどね。「あらあら、別にそんなに怯えなくても良いのよ? ―――痛みは一瞬で消えるから」「なっ、何する気なのよっ!?」「さぁて、なにをするのかしらねぇ? うふふふふっ」 けどその姿は、幽香さんのサディスト魂を刺激するだけだと思われます。 何だかんだで紅魔館って、幽香さんを怖がる人が少ないから……。 いや、小悪魔ちゃんとか妖精メイドとか、幽香さんを視界内に収めるだけで震えが止まらない人は結構居るんですけどね? 幽香さんって、弱い相手にはあんまり興味を示さないんだよ。 そして興味を示すレベルの相手は、残念ながらあまり幽香さんを恐れない。 つまり、実力がある上に露骨にビビってくれる姉弟子は、彼女の絶好の遊び道具になってしまうワケで。 もうほんと何と言うか、ご愁傷様としか言えないなぁ……。「いいですか妹様、姉弟子と言うのは本当の姉の事では無くてですね」「幽香お姉様みたいなものなんでしょう? 分かってるよ?」「いや、それもまたちょっと違っててですね。まず上の方に師匠と言う方が居て」「親分さんみたいな人?」「いや、違いますって。そうではなくて……」 こっちはこっちで、フランちゃんに姉弟子と言う概念を教えようと躍起になっているらしい。 美鈴の努力は認めないでも無いけど、そこまで丁寧に教える事でも無い気がする。 等と呑気に考えながら、どっちの会話にも混ざらず空を見上げている僕。 そんな僕の腹部に、突然衝撃が――って、えっ?「アキラぁぁぁぁぁああっ!」「おぶぅうっ!?」 凄まじいタックルを受け、僕の身体は重力の誘惑に乗った。 何が起こったのか分からず混乱する中、それでも美鈴にフランちゃんをパス出来た所は評価して欲しい。 ……残念ながら、その行動のおかげで受け身は取れなかったけどね。「そどむっ!?」「うわぁ、晶さぁん!?」「え、なによ? 何があったのよ?」「あら、千客万来ねぇ」 そのまま、僕は地面へと思いっきり叩きつけられた。 ううっ、力任せにタックルされたせいでお腹と背骨がとっても苦しいっす。 しかも追撃するかのように、顔目掛けてスパナやレンチが降ってくるのだから溜まったもんじゃない。 えっ? 何で工具が降ってくるのさ? っていうか危ない、マイナスドライバー危ないっ!? 迫りくる工具を何とか避け、僕は状況を把握しようと首を上げる。 するとそこには、良く見た緑色の帽子と口の開いたリュックサックが。 なるほど、この工具達はリュックから零れたワケですか。「って、にとり!?」 とんでもない勢いで突貫してきたのは、超妖怪弾頭と名高い河城にとりさんだった。 ゴメン、今適当な事言った。名高いかどうかは知らない。 「あら珍しい。今日はどうしたのよ」「こんにちはにとりさん、先日は修繕のお手伝いありがとうございます」「あ、幽香に美鈴。久しぶりだね」「最近は太陽の畑にも顔を出してこなかったけど、そんなに忙しかったのかしら?」「あ、あはは、ちょっと怪我で療養しててさ」「ちょっと皆ぁ!? この状況で普通に話を進めないでよ!?」 ああっ、レイセンさんとフランちゃんの無垢な視線が痛いっ!? 違うんです。別に、女の子に抱きつかれて嬉しいからそのままで居るワケじゃないんです。 単純に、タックルのダメージが響いている上ににとりが意外と重たくて動けないだけなんですよ。 あ、訂正。にとりじゃなくてにとりが背負っているであろう何かが重いんです。何持ってきてるのさ、にとりさん。「おっとそうだ。呑気に話してる場合じゃなかった」「うん、まずは離れてだね」「アキラの力を借りたいんだ! 今すぐ妖怪の山に来てくれないかいっ!!」「離れてはくれないんですね……」 個人的にはアレコレ言いたいんだけど、にとりの性格上分かってはくれないだろう。 それに、今は何よりにとりの台詞が気になる。 まさかこんな急に、関係者以外立ち入り禁止の妖怪の山へ行く機会が来るなんて――では無くて。 「それで、力を借りたいってどういう事?」「何と言うか……異変で天狗が嫌がらせで文が疲労でSOS?」「ええっ!? この前の異変の責任を取らされる形で、文姉が天狗の人員不足をフォローさせられているって!?」「……今、何言ってるか分かりました? 優曇華院さん」「だから名前――いえ、さっぱり分からなかったわ」「わぁ、お兄ちゃん凄いねっ!」「ほんと、変な所で優秀なのよねぇ……」 異変解決までの経緯で、天狗の縄張りは甚大な被害を受けたらしい。 死亡者こそ出なかったものの、哨戒天狗の半分は長期間の療養が必要になってしまったそうだ。 ……ただし、にとりに言わせるとその中の三分の一は「ほとんど仮病」であるとの事。 天狗の中にも根性の無い輩がそれなりに居るらしい。 さて、当然哨戒天狗の半数が行動不能になれば、天狗の社会は回らなくなってしまう。 その責任を取らされてしまったのが――その異変で‘異変解決人’と戦う羽目になってしまった文姉である。 「まったく。弾幕勝負に負けたとはいえ、あそこで文が出てなきゃもっと大変な事になってたって言うのにさー」「そ、そんなにギリギリの状況だったの?」「ああ、そういえば宴会で鴉天狗がぼやいてたわね。あの巫女はサーチアンドデストロイしかしないのかって」 ……本当に大変だったんだなぁ。 唯一異変解決の宴会に参加したレイセンさんが、同情した様子で肩を竦める。 あえて文姉が突っかかって行ったのは、被害を広げないための苦肉の策だったと言うワケだ。 しかし、一部の天狗はその行為を快く思わなかったらしい。「酷い話だよ。文を嫌ってる天狗達は、ここぞとばかりに文へ面倒事を押しつけたんだ」「敵が多いモノね、あの鴉天狗は」「それで、文姉は色んな事を押しつけられてヘトヘトに……」「あ、いや。本人はわりと余裕あると言うか、全然平気なんだけどね」「確かに、その程度でへたばるヤツじゃないわよねぇ」 うん。僕も自分で言っといてアレだけど、その程度で参る文姉の姿が全然想像できない。 むしろ「この程度の嫌がらせしか出来ないなんて、性根同様脳味噌も小さいんですね」って相手を嘲笑ってる姿しか出てこないです。 しかしそうなると、にとりの最初の焦り様が分からなくなってくる。 あの突撃具合は、どう考えても緊急事態のソレだった気がするんだけどなぁ。 と言うか、今も掴んだまま離してくれないんだけど。どういう事なの?「ならにとりさん、力を借りたいってどういう事なんですか?」「その、何と言うか――聞きたいかい?」「いやまぁ……僕としてもそこを聞いておかないと、どう動いて良いモノか分からないワケだし」「こっちにも都合があるのだから、理由くらいは聞いておきたいわよねぇ」「私も、今晶さんに居なくなられるととても困るので、是非聞いておきたいです」「う、うーん。やっぱそうなるかー」 僕らが頷くと、にとりが困り顔で苦笑する。 ……どうしてそこでそういうリアクションになるんでしょうか、にとりさん? なんだかとっても、イヤな予感がしてきましたヨ? 「いやぁ実はさ、文のヤツ『禁断症状が出ましたっ! 晶さんをモフモフ出来ない禁断症状が出ましたっ!!』って騒いでて」「……聞くんじゃ無かった」 「そこの兎、医者だったわよね? 天狗の病気をなんとか出来ないの?」「その、さすがにそういう類の病気はちょっと」 確かに、ここ最近文姉の顔をちっとも見てなかったけどさぁ。 禁断症状って何さ。僕は麻薬か何かですか?「皆の気持ちも分かるけど、これが結構大変な事態なんだよ」「とてもそうは思えないけど……何で?」「文が、ストレスから敵対する天狗達を根絶やしにするかもしれないんだ」「そっちが大変なの!?」「と言うか、敵対相手を根絶やしにする理由がソレなんですか……」「その程度の相手って事でしょう? いっそ根絶やしにしてしまえば良いのじゃないかしら」「そ、それがマズイからアキラの力を借りたいんだよぉ」 文姉……どんだけ僕をモフモフしたいんですか。 そんな、皆の呆れかえった雰囲気を感じ取ったのだろう。 にとりは手をパタパタさせながら、言い繕う様に言葉を続けた。ただし僕からは離れていない。「い、いや、他にも人手不足が深刻な所まで来てるとかあるんだよ? アキラ一人参加するだけでも、大分違うくらいには」「うん。まぁそこは疑ってないけど……それって、僕が手を貸しても大丈夫なものなの?」「大丈夫。――と言うか、ここぞとばかりに文の奴がその許可を分捕った」 何でも文姉は、相手の「人手不足? なら噂の弟分を連れてきたらどうだい?」と言う嫌味を言質にして僕の入山許可を貰ったらしい。 ……むしろ、こうなると予期して嫌味を言わせた気がする。なんか文姉ならやりかねない。「私も手伝ってるけど、やっぱり手は足りなくてさ。アキラにはしばらく妖怪の山で手を貸して欲しいんだ」「うーん……」 にとりの手伝いもしてあげたいし、文姉の顔もみたいんだけど、そうも言ってられない事情があるからなぁ。 僕は横目で、借りてきた猫のように大人しくしているフランちゃんを見つめる。 未だに彼女は予断を許さない状況だ。出来れば、彼女も連れて行ってあげたい所なんだけど……。 侵入者のせいでボロボロになった天狗の縄張りに、全く関係の無い子を呼びこむワケにもいかないよねぇ。 うーん、どうしたものか。「ねぇ、お兄ちゃん」「ほへ?」「その人との御話は良く分からなかったんだけど……お兄ちゃんのお姉様が困ってるんだよね」「――うん、まぁ間違っては無いかな」「ならさ。私の事は大丈夫だから、行ってあげて」「フランちゃん……」「お兄ちゃんが居なくなるのは寂しいけど、私だってお姉様が困っていたら助けてあげたいもん。だから……」 ううっ。ほんまフランちゃんの優しさは、五臓六腑に沁み渡るでぇ。 だけど‘そこ’じゃないんだよなぁ、心配してるのは。 やはりと言うか何と言うか、それなりに社交性を学んだフランちゃんだけど、自身の狂気に関しては認識が甘いみたいだ。 と言うか多分、狂ってるという感覚そのものを認識してない。 まぁ、自覚されても困る事だから、それ自体には何の問題も無いんですけどね? ……ここでノーと言ったら、確実にその理由を尋ねられるんだろうなぁ。 それははっきり言ってマズい。しかし、他に狂気を抑えられる人が居るワケじゃ―――って。「――――あっ」「ん? な、何よ急にこっち見て」 そういえば居ました。今ここに、本家本元狂気の魔眼の持ち主が。 僕はにとりの下から雑技団もビックリな椅子くぐりで抜け出し、素早くレイセンさんの両手を掴んだ。 もちろん、相手を逃がさないためである。姉弟子が何やら驚いているような気がするが、今は気にしてはいけない。「ちょ、まっ、待ちなさいよ。私にそういう趣味は無いわよ!?」「姉弟子……お願いがあります」「それにこんな人目のある所で――いえ、人目が無かったとしてもダメだけど!」「お願いします、レイセンさんの狂気の魔眼の力を貸してくださいっ!」「……はい?」 フランちゃんに聞こえないよう、僕は声を抑えてレイセンさんへお願いする。 彼女の持つ事情と、妖怪の山へ行く間への面倒をお願いした所で――何故かそれまで黙って聞いていた姉弟子がブチ切れた。「紛らわしいのよ、アンタはっ!!」「はへ?」「そんな態度を取ってるから、てゐのヤツに変な疑惑を持たれるのよ!」 どうしよう、姉弟子の言ってる事が徹頭徹尾分からない。 と言うかてゐさん、アンタ永遠亭で何を言いふらしているんですか。 なに? まさか、何だかんだ言いながら女装を気に入ってる疑惑とか? ………………いや、そんな事は無いですじょ?「まぁそうね。今のは晶が悪いわね」「晶さん……さすがに無遠慮過ぎですよ」 なんか美鈴と幽香さんにも同意されたんですけど、僕はどうすれば良いんでしょう。 少しの間悩んだ僕は――目的優先のため、何も聞かなかった事にした。 現実逃避って言い方も出来るかもしれないけど、あくまでコレは戦略的撤退です。ええ、撤退ですとも。「えっと、それでフランちゃんの面倒を見る話は」「……まぁ良いわよ。後輩のフォローをしてやるのは先輩の役目だしね」「本当に!? ありがとう、姉弟子!!」「か、勘違いしないでよ!? 貴女も一応師匠の弟子だから、半端な治療をされると困るってだけなんだからね!?」「あはは、手伝って貰えるなら、どういう理由でも嬉しいですよ」「うっ……そ、それにしても、狂気に侵された紅魔館の妖怪ねぇ。どこかで聞いた事があるような気がするわ」 ―――あ、そういえば、肝心なソコの部分を説明するの忘れていた。 僕が慌てて付け足そうとするより先に、幽香さんがレイセンさんの肩を掴む。「なるほど。つまりしばらくの間、貴女が晶の代わりになるワケね」「えっ?」「あ、そういう事なんだ。それじゃあヨロシクね。……えーっと」「鈴仙・優曇華院・イナバよ、鈴仙で良いわ。それより、何でフラワーマスターが私の肩を……」「うん、よろしく鈴仙さん。私はフラン、フランドール・スカーレット! レミリアお姉様の妹よ」「え゛っ? ひょ、ひょっとして貴女、噂の『悪魔の妹』――」 うん、さすがにここまで条件が揃うと気付くよね。 フランちゃんのフルネームを聞き、顔を青くする姉弟子。 しかし、すでに二人はレイセンさんを挟み込むような形で動きを抑えている。 迂闊だった。後回しにしても大丈夫だと思ってたら、想像以上に大変な事になってしまった。「それじゃあフラン。私達の親交を深めるために、三人で一緒に遊びましょうか」「わーい! またお姉様と遊べるんだねっ!」「えっ、えっ? 何よ、その不穏な会話は。ちょっと晶、どういう事なのか説明を」「―――さぁ、にとり! 急いで妖怪の山に行こう!」「あーうん、そうだね。行こうか」 「あ、永遠亭への連絡は、私の方からしておきますので安心してください」「ちょっと待ちなさいよアンタらぁぁぁぁ!?」 ゴメンナサイ。生贄にささげる様でアレですけど、他に頼れる人が居ないので諦めて協力して下さい。 僕は背後で起こるであろう惨劇に目を背け、にとりの手を引き紅魔館から脱出した。 姉弟子なら生き残れると思うけど、後で僕が相当怒られる事は確実だろう。 いや、フランちゃんのためならそれくらいの代償はなんてことないんですけどネ? どうして僕が行動すると、レイセンさんがロクでもない目に遭っちゃうんだろうなぁ。「アキラ、あれって良いのかい? ほっといて」「大丈夫だよ。姉弟子なら、きっと」「………せめて、目線くらいはこっちに向けなよ」 背後から聞こえてくる爆発音に気付かないフリをしながら、僕はにとりと共に妖怪の山へと向かう。 無力な僕に出来たのは、ただただ姉弟子の無事を祈る事だけだった。 ――とりあえず、帰ってきたらレイセンさんにはたっぷりお詫びをしよう。