巻の六十一「行動するためには、いかに多くの事に無知でなければならぬ事か」 目の前に現れた謎の少女。 彼女は果たして、敵なのか味方なのか。「だからそれ、私が言う台詞じゃないの?」「じゃあ譲ろうか、はいどうぞ」「ありがと。こほん―――貴方はだぁれ?」「はい! 久遠晶十七歳、通りすがりの迷子ですっ!!」 改めて口にすると、己のマヌケさ具合が良く分かるなぁ。 こんな地下深くに偶然迷い込むって、どれくらい有り得ない事なんだろう。 ひょっとしたら僕、変な神様の加護でも受けているのかもしれない。 トラブルとかコメディとか、何かそこらへんを司ってる感じの。「へー、貴方迷子なんだ。私迷子って初めて見た!」「ふっふっふ、そう褒め称えられると照れちゃうね。なんだったら握手しようか?」「うんっ!」 ……ボケたら更なるボケを返された。恥を隠そうとしただけに、凄く反応に困る。 シャンデリアっぽい何かを背負った少女は、心の底から溢れ出ているかのような笑みを浮かべ手を差し出してきた。 そのまま、期待するような目でじっとこちらを見上げてくる金髪の少女。 え? ボケじゃなくてマジなの? その視線の威圧に負け、僕は何故か迷子代表として握手する羽目になってしまった。「ところで、これ何の意味があるの?」 しかもそれを、握ってから聞いてきますか。 単に勢いで言っただけなんだけど、そう言われると何か理由を捏造したくなる。 僕は数瞬考え込み、限りなく嘘っぽい理由を敢えて口にした。「――君も迷子になれる、とか」「本当にっ!?」「いやその、ひょっとしたら、多分」「……なーんだ、つまんないの」 お嬢さん、どれだけ迷子に憧れを抱いているのですか。 本気で残念そうにそんな事を呟く、色んな意味で底の知れない謎の少女。 容赦なく畳みかけてくる彼女の言動は、最早ボケの不法投棄と言っても過言ではない。 垂れ流しはほんと勘弁して下さい、マジで。 握った手を上下させながら、僕はこっそりと溜息を吐く。 そんな僕の様子にこれっぽっちも気付かない少女は、ご機嫌な笑顔を浮かべたままポツリと呟いた。 「じゃあ、もう用は無いから殺しちゃうね?」 それは本当に何気なく、新しい話題でも提供するかのようにあっさりと少女の口から漏れ出た言葉だった。 今まで握手に使われていた手はゆっくりと僕の顔に向けられ、そのまま閉じられようと――。「――アレ、いない?」「あ、危なかった………」 手が握られる僅かな合間で、僕は天井のシャンデリアにぶら下がっていた。 言い方が他人事になってるのは、身体の方が勝手に動いてくれたからだ。 僕の頭がこのままじゃヤバいと判断を下す前に、身体は反射で動いてくれたらしい。 ありがたい事だ。あのまま彼女の前に立っていたら――僕は間違いなく死んでいただろう。「わぁ、すごぉーいっ! こんなに早く動ける人間、初めてかもっ!!」「は、ははは、意外と何とかなるものデスね」「ねぇねぇ、そんな所で遊んでないで降りてきてよ! もっと色々お話ししよう?」 いや、命のかかった遊びをするほど娯楽に飢えてませんから。 と言うかここに退避したのは、あからさまにヤバい事を始めた貴女のせいなんですよ? そんなこちらの無言の抗議も気にせず、テンションを上げてはしゃぎまくる少女。 え、ボケどころか殺意も垂れ流すだけ垂れ流して無視ですか? さすがに唖然とする他ない。せめて、今の行動に対して何かしらの説明が欲しい所なんですが。 この際「ムシャクシャしてやった、反省も後悔もしてない」的なモノで良いからさ。「ほら、早く早くっ!」 少女はベッドの上に座り、ポンポンと楽しそうに布団部分を叩く。 ああ、説明するつもりは皆無なワケですね。分かりました。 何かを諦めた僕は、彼女の誘導に従いベッドの上へと着陸する。 そんな僕に無邪気な拍手を送る謎の少女。本当に敵なのか味方なのか分からない。「どんなお話しようかな。うーんと、えーっと」「お話も良いけど、その前に一つ聞かせて貰って良い?」「なにっ!?」 うっ、なんと言う穢れの無い瞳。 こんな純粋な態度で構えられると、さっきの行動の理由を尋ねにくくなってしまう。 僕は被害者のはずなのになぁ。世の中って理不尽。「その……貴女のお名前なんてーの?」 結局逃げに走ってしまった僕。チキンと罵られても文句は言えない。 でもしょうがないんです。良く分からないけど、今なんか尋ねる事で変なフラグが立つ気がしたんですよ。 「私? 私はフラン、フランドール・スカーレット!」「へぇー、フランドール・スカーレット。何とも素敵なお名前で―――スカーレット?」 はて、その吸血鬼っぽい名字はどこかで聞いた事あるなぁ。 そういえば彼女の格好。被ってる帽子といい、服のデザインといい、どこぞの吸血鬼に通じるモノがあるような気がする。 と言うか背中のシャンデリアっぽいアレ、実は羽根なんじゃないの? 「あのースイマセン。ちょっとお尋ね致しますが、フランドールさんってレミリアさんと如何なるご関係で?」「私の事はフランで良いよ! 貴方は、お姉様の知り合いなの?」「知り合いと言うか……紅魔館の客人兼メイド見習いって所ですかね」 うん、だと思ったよ。 謎の少女――フランドール・スカーレットは、さらっと重大な事実をぶっちゃけてくれた。 ……あの人、妹が居たんだ。そんな話聞かなかったから全然知らなかった。 しかし何でまた、その妹さんがこんな地下深くに居るんだろうか。「そうなんだ! じゃあ、ええと――あきら? はここに住んでるの?」「まぁ、色々あってお世話になってます」 しかもこの様子だと地上、つまり紅魔館の状況は全然知らないと。 さっきの態度といい、何か複雑な事情がありそうだなぁ。どうしたもんだろう。 彼女――フランちゃんは僕の言葉に、何度も興味深げに頷いている。 何がそんなに興味深いのかは良く分からない。この子の思考ルーチンはちょっと難解過ぎて想像出来ないのだ。 ただ、気のせいか微妙にイヤな予感がする。根拠は全くないけど。「お姉様、あきらの事すっごく気に入ってるんだね。へぇー」「うーん……気に入られてるのかな? 玩具扱いされてる気もするけど」「ねぇ、あきら」「ん、なに?」「――綺麗な眼だね。私に頂戴?」 迷わず壁際に移動しました。マジだ、眼がマジ過ぎる。 冷や汗を流す僕に、フランちゃんは笑みを浮かべて近づいてくる。 ただし眼は笑っていない。ヤバい、これはマジで抉られる。 「フ、フランちゃん! ちょっと僕の目を見てっ!」「ふふっ、見てるよ。――ところであきら、壁に寄り添って何してるの?」「あはははは、強いて言うなら……命がけの説得工作かな」 ほ、本格的に危なかった。ありがとう狂気の魔眼、こんな使い方ばっかりでゴメンナサイ狂気の魔眼。 僕の魔眼で波長を弄られた彼女は、無事殺意を引っ込めてくれたようだ。 ……それにしても妙だなぁ。フランちゃんの波長、派手に乱れていた割に凄い弄りやすかった気がする。 前に弄ったのがメンタル強そうなアリスだったからかもしれないけど、まるで普段から‘乱れ慣れている’様な……。「ねぇねぇ、破裂した人間の身体ってザクロに似てるって本当?」「フランちゃん僕とオメメ見てお話しましょうかっ!!」 とりあえず、考え事している場合ではないと思いましたっ! 深い意味が無いとしても、今の台詞は超怖い。 深い意味があったとしたら尚更怖い。どっちにしろ彼女には、もう少し落ち着いてもらわないと。 「お話……でも私、そんなにお話する事無いよ?」「何をおっしゃいますやら。話の内容なんてものは、その場の空気に合っていれば何でも良いんですともさ」「どういう事?」「んー、つまりだねー」 僕はあくまでフランちゃんの目を見つめながら、そっと彼女の髪を梳いてみせる。 蜂蜜を糸にしたような透明で艶めいたフランちゃんの髪は、想像以上に抵抗せず指の合間を滑って行った。「フランちゃんの髪がとっても綺麗だとか、そんな簡単な内容を話すだけでもお話になるってこと」「……私の髪、綺麗なの?」「うん、ずっと梳いていたいくらい」「なら私の髪、好きなだけ触っても良いよ!」「うん、ありがとう」 満足そうな顔で微笑み、フランちゃんは僕の手櫛に身体を委ねる。 何とも心温まるやり取りだけど……これ、お話してるワケじゃないよね。 いや、当初の目的を考えると成功なのかもしれないけど。 まぁ良いか、気にしない気にしない。「あきらの手……気持ち良いね」「ん、そうかな?」「良いなぁ。欲しいなぁ、この手」「……おてては、単体だと動きませんじょ?」「そっかぁ、残念だね」「あはははは、残念残念」 き、気にしない。気にしないようにしないとね。 僕の目に映る彼女の波長が、かなり頻繁なペースで乱れてるとか気にしたら負けだよ。 なんだろう、この謎の温度差は。 彼女の周りの空気はとても和やかなのに、僕の周りの空気はツンドラのように凍えている気がする。 ……深い意味は無いしやった事もないんだけど、地雷撤去作業って凄く怖いんだね。いや、別にこれからやる予定も無いんですが。「あきらの髪も、すべすべして綺麗そう。触って良い?」「うん、じゃあ交代を――キャンセルしてナデナデ続行! もうちょっと触らせて? ねっ?」「良いけど、ちゃんと代わってね?」「ははっ、もちろんそのつもりデスよー」 貴女が殺意を収めてくれたら、の話になりますがね。 今、さりげなく僕をヤる気だったでしょ。 君の行動パターンは……まだ分からないけど、波長の乱れるタイミングは分かってきたよ?「こんなに撫でられたの、初めてかも」「そうなの? レミリアさんは結構されてたみたいだけど」 や、一応髪の手入れと言う名目はあったみたいだけどね? あの咲夜さんの姿を見て、愛でていると言う感想以外の言葉が出てくるヤツはいないだろう。 本人がその事に気付いてないのは、幸運なのか不幸なのか。 ――話がずれた。 そんな僕の疑問に、フランちゃんの顔色が分かりやすく曇った。 あちゃー、これひょっとして地雷だったのかな。 さっきとは違う意味で寒くなる空気、どう考えても「私は……アレだから」フラグです。アレってなんやねん。「私――」「よーしそれじゃあ、僕本気でナデナデしちゃうぞコノヤロー!!」「あっ……」 よって僕はフランちゃんの切なげな語りをあえて無視し、彼女を思いっきり可愛がる事にした。 参考資料は文姉と咲夜さん。やり過ぎるとセクハラで訴えられるどころか痴漢扱いされる諸刃の剣である。 ちなみに僕は訴える事が出来ない。世の中ってほんと理不尽。「よーしよしよしっ、フランちゃんは良い子だなぁっ!」「わっ、くすぐったいよー」 余計なトラウマが含まれたため、天晴れなほどヤケクソな可愛がりになってしまった。 口まで使い始めたら某動物王国の主レベルの愛でっぷりになる事だろう。ただしその場合、僕は社会的に死ぬ。 フランちゃんは恥ずかしそうにしながらも、本気で抵抗する気は無いらしく為すがままである。 この言い方、有らぬ誤解を招きそうなので始めに言っておくけど、エロスは無いよ? 微笑ましさはあるけどね。 しかしこうして愛でられている姿だけを見てると、さっきまでの波長の乱れが嘘のように思えてくる。 悪い子では無いと思うんだけどなぁ……接続の甘くなった爆破スイッチをオンオフし続けるような危うさはどうにかならないのだろうか。 まぁ、こうして狂気の魔眼を使っている間は大丈夫だと思うけどね。 ……アレ? 今なにかフラグ立った?「ねぇねぇ、あきら」「ん? どうかしたの?」「私達って「トモダチ」なのかなっ」「ほへ?」「前にお姉様が言ってたの、トモダチって自分の楽しい事をいっぱいしてくれる人だって」 とても幸せそうに、ニコニコ笑顔でそういうフランちゃん。 やや過剰なこの可愛がりを喜んでもらえたようで、僕としては何よりです。 でもフランさん、その友達の定義は主にイジメっ子が引用するモノだと思いますヨ? 「まぁその、僕でよければ友達と呼んでもらって結構ですが」「本当っ!?」「う、うん」「じゃあさ、じゃあさ、一緒に遊ぼう!!」 アレ、おかしいなぁ? なんで今の会話で寒気が来るんだろう。 念のため、彼女の波長を確認してみる。うん、乱れてない乱れてない。 僕の中にある危機感知センサーは――絶好調で鳴りまくってるけどきっと故障だ、無視しよう 結論、問題なんて一切ないから大丈夫だと言う事にしたいなぁ。 あはははは、でも話を真面目に聞くために身体は離しておこうかな。話を真面目に聞くためにねっ!!「いいけど、遊ぶって何して?」「弾幕ごっこ!」 ……落ち着け僕、まだ逃げ出すのは早い。 弾幕ごっこなんてこの世界じゃ挨拶と一緒なんだから、遊びで始めたっておかしくはありませんよ。 波長は乱れてない。つまり彼女は現在、平静な状態であると言う事だ。 ならきっと大丈夫! 弾幕ごっこのルールに則って、死なない程度のコミュニケーションが取れるはずですとも!!「私もあきらに楽しい事してあげるねっ!」「へ、へぇ、具体的にはどんな?」「手足をバラバラにして、身体や頭から色んなものを出すの! とっても綺麗で楽しいよっ!!」 ―――扉を蹴破り、全速力で逃げ出した僕を誰にも責めさせはしない。 と言うか無理だからっ! そんなスプラッタな遊戯、吸血鬼と蓬莱人と幽香さんしか楽しめないからっ!! 「待て待てーっ!」「きゃぁぁぁぁぁああっ! 壁が粉微塵ーっ!?」「えへへ、鬼ごっこだぁーっ!!」「意外とポジティブなんですねお嬢さんっ!?」 無邪気に逃げ出す僕を追っかけてくる、台詞だけなら可愛らしいフランちゃん。 だけどその姿は、荒れ狂う暴風の体現と言っても過言ではない。 部屋を区切っていた分厚い壁は、一瞬で破片となってバラバラになってしまった。 何アレ。壁が壊れる一瞬前ですら、何の変異も掴めなかったんですけど。 ひょっとしてそれがフランちゃんの能力? だとしたら―――僕実は超ヤバく無い? いやでも、まだ説明すれば何とか……………あ、波長乱れた。「アハハハハハ! 鬼ごっこオニごっこタノしいナ! アハハハハハハハ!!」「いやぁぁぁぁあああっ! 目に殺意が込められ始めたーっ!?」 しかも速っ! こっちも全力で走ってるのに全然引き離せない!? 恐ろしい。悪い事と言うのは連続して続くモノだ。 一本道だと思ってたこの地下も、気付かなかっただけで実は意外と入り組んでいたみたいだし。 ……わぁーい、出口はどこだろー。 「さ、最悪だぁぁぁぁあああっ!」「いいな、いイな、アナたのニゲるスガタはトてモ魅力てキ。アナタのスベテヲワタシニチョウダイィィィィィイィ!!」「フランちゃん僕のおめめ見てーっ!!」「――待て待てーっ! きゅっとしてドカーンとしちゃうぞーっ!!」「何一つ改善されてなーいっ!?」 ダメだ。波長を収めても全然態度が変わってない。 むしろ無邪気になった分、一割五分増しで厄介になった気がする。 ああ、これが所謂進むも地獄引くも地獄? 何か違う。「わぁぁぁぁぁああん、誰でも良いから助けてぇぇぇぇぇええええっ!!」「た~べぇ~ちゃ~う~ぞぉぉぉぉぉぉおおっ」「冗談に聞こえない所がいやぁぁぁぁぁぁあああああっ!」「晶さぁーん! 大丈夫ですかーっ!!」 おおっ、まさかのタイミングで救いの女神がっ! ニコニコ笑ってこちらに手を振ってくる、頼りになる「中華小娘」紅美鈴。 今この瞬間だけ、百万の味方を得た気分ですともさっ! 同じく手を振りながら、僕は目の前の美鈴に向かって駆けよ――。「って妹様!? うわぁっ!?」 に、逃げやがったあのアマーっ!? 僕の背後に迫る赤い高速飛行物体を視認した途端、踵を返して逃げ出す元・頼りになる味方。 その姿にカッとなった僕は、己の奥底に眠る謎の底力を覚醒した気になって急加速した。 あっという間に美鈴と横並びになった僕。思い込むだけでも、世の中案外何とかなるもんである。 そして、そんな僕の姿にギョッとする美鈴。ざまーみろ、これで君も同じ被害者だー。「ちょ、晶さん!? 何ですかその有り得ない馬力はっ」「ははははは、命の危機に瀕して眠れる力が目覚めたようデスよ!?」「それを何で心中に使うんですかっ! 逃げるのに使ってくださいよっ!!」「……蝋燭は、燃え尽きる前に最も輝くのでございます」「すでに死期を悟ってらっしゃる!?」「わーい、めーりんも参加するんだーっ! よーし、私もホンキデヤッチャウゾー!!」「あ……私も何だか走馬灯みたいなものが見えてきました」 うん、結局追われる兎が二匹になっただけですね。 すでに火事場の馬鹿力は失われたらしく、僕の速度は美鈴とそう変わらない。 残念ながら、自力でこの鬼ごっこから離脱する事は難しいだろう。 そう考えると、偶然の流れとは言え美鈴と一緒になれたのは僥倖だったのかもしれない。 この地下迷宮は僕等にだけ不利に働く。現状では、フランちゃんを宥めるのも煙に巻くのも困難だ。 まずは広い場所に出なければ。――出たところで何とかなるとは限らないけどね。 とにかく美鈴。紅魔館の門番として、是非とも僕を外に導いてくださいっ!「ところで晶さん、私達が今どこに居るのか分かりますかね?」「うわぁぁぁ、想像以上にこの門番役に立たねぇーっ!?」「しょ、しょうがないじゃないですかっ! 晶さん見つからないし、お屋敷なんて滅多に入らないし、地下の構造把握してないしっ!!」「地下の構造を把握して無いなら、僕を探す前に地図でも用意すれば良いじゃんっ!?」「……晶さん、頭良いですねー」 終わったー! もーダメだ! さすがにこれはどーしようも無いっ!! 本気で感心している美鈴の姿に、思わず僕は走りながら頭を抱えてしまう。 最早僕に残された未来は、諦めて殺されるか抵抗して殺されるかの二択しかない。 うん、どっちにしろ死ぬんですね。分かりたくありません。「アハハハハハ! 斬ッテ砕イテ磨リ潰ス! 斬ッテ砕イテ磨リ潰ス!」「フランちゃーん! そろそろ止めよう? 鬼ごっこ終わり! ね?」 最後の希望を込めて、僕はフランちゃんを説得しようと試みる。 ほとんど泣いてる状態の僕に、彼女はにっこりと微笑んで返事をしてくれた。「あなたたちが、コンティニュー出来ないのさっ!」 うん、説得失敗☆「いやー! かえるーっ! おうちかえるのーっ! おうちにかえりたいのーっ!!!」「諦めましょう晶さん。今朝からナイフが全く飛んでこなかった時点で、私達の運命は決まっていたんですよ」「……こんな時にあれだけど、そーいう切ない占いは即刻やめた方がいいと思いますよ?」 つーか、咲夜さんが帰ってきてない時点でその占い方法完全に破綻してるじゃん。 変な諦観の仕方をしてる美鈴と並走しながら、僕は終りの見えない鬼ごっこに興じるのだった。 ―――文姉、幽香さん。今までお世話になりました。晶はお星様になっちゃいそうです。