巻の五十四点五「自負は常に他人の感嘆によって強化される」咲夜「お嬢様、敷地内の清掃完了致しました」レミリア「御苦労。さて……次は何をやってもらうかな」咲夜「お言葉ですが御嬢様、もう仕事がありません」レミリア「―――まだ、掃除しかやらせてないはずだが」咲夜「はい、掃除しかやる事が無いんです」レミリア「洗濯は?」咲夜「あそこに干している分で全てです」レミリア「……私には、巫女の服が二着あるようにしか見えないぞ」咲夜「昨日、私とお嬢様が着ていた分だけですから」レミリア「恐ろしい程に衣服の消費が少ないのだな……では、食事の準備は?」咲夜「そもそも食べるモノが煎餅しかありません」レミリア「ちょっと前に、補充しなかったか?」咲夜「先ほど巫女がやってきて、弁当代わりに全て持って行きました」レミリア「……確か、霊夢は異変解決に乗り出している最中だったと記憶しているのだが」咲夜「途中休憩だそうです。あ、それから巫女から伝言も受けております」レミリア「ほほぉ、この私に言伝か。いったい何用だ?」咲夜「『戸棚の煎餅に手を出したら退治する』との事です」レミリア「……咲夜が補充した食料を全て奪っておきながら、自らの煎餅を分け与える気は無いのか」咲夜「『神社の敷地内にあるモノは全て神社のモノ。そして神社のモノは私のモノ』と言っておりました」レミリア「神社を間に挟む程度には良識がある、と判断すべきなのだろうか」咲夜「あの巫女の性格を考えると、そういう結論になるのかもしれません」レミリア「まぁいい。元々あの菓子は私の口に合わん。やる事が無いなら食料の調達を行うと良い」咲夜「畏まりました」レミリア「ふふふ、あの霊夢から神社の留守を託されたのだ。精々恩を売ってやろうではないか」咲夜「(あれは託されたと言うより、放置されたと言う方が正しいような)」レミリア「ところで咲夜。異変の件に関してはどうなっている?」咲夜「さて、あの巫女は多くを語りませんでしたが……どうやら山頂の方で、ゴタゴタが始まっているようです」レミリア「ふふんっ、面白いではないか。どうせなら私達もその異変に一枚噛んでみるか?」咲夜「お戯れを。最初から行くつもりはないのでしょう?」レミリア「当然ではないか。わざわざ異変の端役を貰いに出向くなど、誇り高き吸血鬼のする事ではないさ」咲夜「(嗚呼、誰もいない時ほどカリスマに溢れるお嬢様。とても素晴らしいです)」レミリア「では咲夜。早速食料の補充に向かうが良い」咲夜「は、畏まりました」レミリア「……行ったか、相変わらず手早いな。くくっ、やはり優れた主には優れた従者が付くモノだ」レミリア「(あら、今の笑みは中々凄みが効いていたわね)」レミリア「くっくっくっ――――違うな」レミリア「(今のは小悪党過ぎるわ。もっと低めを意識して笑うべきかしら)」レミリア「くきゅ――い、今のはノーカンね」咲夜「終わりました」レミリア「うーっ!?」咲夜「今夜のメニューはボタン鍋です。他にも、とりあえず三日分の食料を補充しておきました」レミリア「ご、御苦労。所で……いつ帰ってきたのだ?」咲夜「たった今です、それが何か?」レミリア「いや、何でもないさ」咲夜「(時を操る能力万歳ね。仕事をしながらお嬢様の可愛らしい仕草が見放題だわ)」レミリア「……本当に、今帰ってきたのか?」咲夜「はい」レミリア「う、うむ。それなら良いんだ。それなら」咲夜「(カリスマな笑い方の練習をするお嬢様、ごちそうさまです)」レミリア「ところで咲夜」咲夜「はい、何でしょうか」レミリア「屋敷の方はどうなっている?」咲夜「概ね順調のようです。恐らく、近いうちには修繕が完了する事でしょう」レミリア「ふむ、そうか……」咲夜「紅魔館新築記念パーティの準備を始めさせますか?」レミリア「――いや、今回の事は内々で片づける」咲夜「畏まりました」レミリア「(面倒な事態だと思ったが。この状況、色々と利用できそうだな)」レミリア「(今、紅魔館に居るのは美鈴とパチェと幽香。少々幽香の存在が厄介だが、この件では味方と捉えて構わんだろう)」レミリア「(晶も着実に強くなっている。ならば……運命を早めるか?)」咲夜「お嬢様?」レミリア「くくっ、そうだ咲夜よ。良い事を考えたぞ」レミリア「(あ、今凄くカリスマっぽく笑えた)」咲夜「はぁ、やはりパーティの準備をなさるので?」レミリア「ああ、そうだな。パーティはするさ。ただし……場所は博麗神社で、内容は異変解決祝いだが」咲夜「――畏まりました。全てはお嬢様の御心のままに」レミリア「盛大な宴にするのだぞ? 鬼すら呼び込み、三日三晩続く盛大な宴にな」レミリア「そう。幻想郷の妖怪達の目が、全てこちらに向く程盛大に、だ」レミリア「くっくっくっ……ふっふっふっ……あーっはっはっはげふごほげふん」咲夜「どうぞ、お水ですお嬢様」レミリア「げほげほ……もーっ! 何でいつも締まらないのよーっ!!」咲夜「(お嬢様は今日も絶好調ですね! 素敵です!)」レミリア「と、とりあえず、宴の準備をなさい。――もとい、宴の準備をせよっ!」咲夜「了解しました。ところでお嬢様」レミリア「……何だ?」咲夜「それほどの宴を準備するためには、今後我々の食事を倹約せねばならないと思われます」レミリア「ふんっ、何かと思えばそんな事か。なに、食事の質さえ維持していれば、私には何の問題も無いさ」咲夜「そうですか。では今日は美味しい野草サラダで決定ですね」レミリア「……えっ?」咲夜「ご安心を。十六夜咲夜の名にかけて、極上のサラダを献上致します」レミリア「いやその、私、サラダはちょっと……」咲夜「質は最高のモノをご用意出来ますが?」レミリア「………………………………………………………………………………………………………………なら、それで」咲夜「畏まりました。では、失礼します」レミリア「………咲夜、もう行った?」レミリア「はぁ……確かに私、質が維持できれば良いって言ったけどね」レミリア「う、うーっ、お野菜にがてなのにぃ~」咲夜「(お嬢様……最高です)」