巻の五十二「恋愛は人を強くすると同時に弱くする。友情は人を強くするばかりである」 トイレから帰還すると、そこには一匹の兎さんがおりました。 もちろんてゐの事では無い。彼女ならその兎さんの隣でニヤニヤしている。 赤い兎さん――バニーガール姿のアリスは、僕の視線に気付くと自分の身体を抱きしめながら一歩下がった。 では以下、少し長めの描写で。 僕の立ち位置でまず最初に注視してしまうのは、大胆に開かれた背中の部分だ。 腰まで届いていそうな露出のおかげで、彼女のシミ一つない白磁のような肌は大胆に晒されている。 また、ぴっちりとしたそのスーツは普段の服装と違い、はっきりと彼女の身体のラインを露わにしていた。 その均整のとれた体つきは、少女の儚い可憐さと女性の艶めいた美しさの両者を感じさせる。 少々下卑た話になるが、両腕が抑えつける事で強調される胸も中々に刺激的だ。 元々着やせするタイプだったのか、幽香さんにも劣らない張りのある双丘は適度な力を得て蠱惑的に―――「上海、目潰し」「コノコメントハショウリャクサレマシタ、ツツギヲミルニハ『シャンハイカワイイ』トカキコンデクダサイ!」「ふぎゃん!?」 アリスの姿に釘付けだった僕は、モロに上海の拳を喰らってしまう。 サイズ差のせいで、ただの正拳突きが見事な目潰しなるとは。上海恐るべし。 あと、さすがに台詞が長いと思う。上海読みにくい。 「ところでアリス、この行動の意図は分かるけどさすがにやり過ぎだと思う。最悪目が潰れるよ?」「……そのわりには余裕あるね。晶」「一応それなりに防ぎましたから。さすがに直撃は洒落にならないし」「当たれば良かったのに」 いやその、マジマジと観察してしまった事は謝りますんで、その断罪するような視線は引っ込めてもらえないでしょうか。 出来るだけアリスを視界から外しながら、僕は大人しく元の位置に着席する。 それでも微妙に顔がそちらを向いてしまいそうになるのは、男の子の悲しいサガだろう。 あっ、見てませんよ? すっごく見たいけど見ていませんよ?「それで、私はいつまでこの卑猥な服を着てなきゃいけないのかしら」「いつまでって……そりゃ守護者達が来るまででしょ」「え゛っ? ちょっと、どういう事よ!?」「わぁ、もっと可愛いアリスが見られるんだね! やったぁ!!」「そういう問題じゃないわよ!?」「良いじゃないですか。すぐに脱いだら罰ゲームになりませんよ。……ところで、どう使うんでしたっけコレ」「カメラは仕舞いなさいよ!?」「あ、じゃあカード配るね」「スルー!?」 だって、ここで僕も同意したら怒るでしょ? ――フォロー? しませんよ、ええ。 とりあえず、賢者のように悟りを開いた顔で淡々とカードを配る僕。 他の三人もそれ以上話を続ける気は無いらしく、カードを回収して一喜一憂し始める。 そうなるとさすがにアリスも諦めるしかないようで、何やらブツブツ言いながら配られたカードを手に取るのだった。「こうなったら……この恨みをどこかの誰かにぶつけるしかないわね」 ―――で、その誰かってのは誰の事なんですかね、こっちを見ているアリスさん。 そんな風にちょっとした寒気を感じさせながら、二回戦は始まった。 なお、展開は会話によるダイジェストでお送りします。「早速だけど覚悟しなさい! リバースよ!!」「じゃあ、ドローツー出すね」「では私も」「てゐちゃんも」「私は出せるの無いからドローフォー! 赤色で!」「メディスンなら捻りはなさそうね。はい、ドローツー」「そろそろ洒落にならなくなってきたなぁ……ドローツー」「流せませんね。十四枚ですか」 にこにこ笑顔の稗田さんが、手札を一気に増やした所で決着はついた。 僕の隣ではアリスが、心底悔しそうに僕を睨みつけている。 ……いや、このゲームで狙って相手を負かすのは相当難しいから。 二連敗しなかっただけで良しとして欲しいんですが、この人はどれだけ僕に負けて欲しいんだろうか。「わーい! 罰ゲーム、罰ゲーム!」「さて、何を引くんでしょうね……おや?」 稗田さんは、楽しそうな顔で罰ゲームの紙を引く。 彼女にとってはこれもゲームの楽しさの一つなんだろう。その暢気さが正直羨ましい。「なになに? 今度は何が出たのさ」「今度も、また私の書いた罰ゲームみたいですね。ほら」「二連続か……って、チャイナドレス!?」 彼女が見せてくれた紙には、バニーの時と同様に簡潔な文字でそう書かれていた。 まさかのコスプレ二連続である。……この人、自分の罰ゲーム全部コスプレにしてるのかな。 得心した様子で頷いた稗田さんは、全員に罰ゲームの紙を見せると例の衣装部屋へと入っていった。 そして、僅か数分で戻ってくる物分かりの良過ぎる阿礼乙女。もはや罰ゲームなのかただ着替えただけなのか判別は出来ない。 「じゃーん、どうですか?」「わー、可愛いねっ!」 稗田さんが着てきたのは、黄色いチャイナドレスだった。 美鈴の様なセクシーなデザインではなく、上と下がそれぞれ独立した中華風の衣装となっている。 下はミニスカートで上もノースリーブと露出自体は高めだが、色気よりも活発さが強調されるのはデザインのシンプルさ故か。 髪飾りは簪から中華風の花飾りに変わっており、おかっぱ頭が丁度良く衣装にマッチしている。 うん、普通に似合ってて良いけど……何かアリスの時と凄い格差があるような気が。「どうでもいいけど、私の時と違って随分デザインが大人しいわね」「あ、同感。私はてっきり、腰まで切れ目が入ってる激烈セクシーなチャイナドレスを着てくると思ってたんだけど」「――私の身体の凹凸がもっとはっきりしていれば、そういう選択もあったんですがね」「………ご、ごめんなさい」 さすがのてゐも、自分の胸を虚ろな目で見つめる稗田さんの姿に謝らざるを得なかったようだ。 アリスも、思わぬ自虐にツッコミにくそうにしている。 メディスンは……全然分かって無さそうだ。不思議そうに首を傾げている。 え、僕? 僕は黙々とカードの束をシャッフルしてるだけですよ? どうフォローしても地獄を見そうな状況で、下手に口を滑らす気は無いからね。「それじゃあ、またカード配りますよー」「わーい! 三回戦突入ーっ」 何も聞かなかった顔で、いけしゃあしゃあと僕は告げる。 もちろん、何か呪詛の念を漏らしている稗田さんは視界から外して。 聞こえないよ? 巨乳死ねとかそんな不穏当な発言僕には全く聞こえないデスよ?「……早く来ないかしら、あの二人」 当分は来ないと思うから、大人しく諦めてください巨乳代表。 はい。と言うわけで三回戦目もダイジェストでサクサク行きますね。「ふふふ……とりあえず、久遠さんをスキップしますね」「ええっ!? ――山札から一枚引くわ」「アリス無かったんだー。あ、私は普通に出すよ」「ほいほい。なら色変えしましょうねーっと、青色ね」「残念。山札から一枚引きます」「僕も無いや。ドローフォー出すね」「それ、チャレンジするわ」「アリスさんに六枚追加入りましたー」「……やられた」 三回戦目は、ちょっと警戒し過ぎたアリスが見事にチャレンジを失敗した事で勝敗が決りました。 その後も上手い具合に手札を消費出来た僕は、三度目の一抜けで罰ゲームを回避する。 うん、良い感じに勝負運がこちらへ向いているみたいだね。 悔しげに罰ゲームの紙を引くアリスを横目に、僕はこっそり安堵の息を吐きだした。 ……いつものパターンだと、ここらへんで痛い目に遭うのが定番だからなぁ。「な、なによコレ!?」「ほへっ?」 等と考えていたら、アリスが罰ゲームの紙を見て叫んでいた。 はて、どうしたのだろうか。今度はスケスケネグリジェ着ろとでも書いてあったのかな。「なになに……『膝枕』ね。簡潔過ぎて意味分からない罰ゲームだなー」「あ、それ私のだ」「メディスンさんの罰ゲーム……なんですか?」「うん! 罰ゲームって良く分からなかったから、やって欲しい事書いたの!!」 良く分からなかった聞こうよ。まぁ、変な事書かれるよりずっと良いけどさ。 しかし、この罰ゲームはどう解釈すれば良いんだろうか。 膝枕をする側は負けたアリスだとしても、される側が明確に決まっていないよ? 提案者であるメディスンにさせる? でもそれじゃあ、今後メディスンが自分の罰ゲームを引いた時に対処出来ないよなぁ。「普通に考えたら、される側は一抜けの人だよね」「同感です。特権は勝者にこそ与えられるべきです」「ほへ? と言う事は……」「いいなー。晶が膝枕されるんだー」「え、ええぇぇぇえぇえっ!?」 その叫びはどちらの声だったのか。少なくとも、両者とも叫びたい気持ちだった事は間違いない。 え? っていうか僕が膝枕されるの? バニー姿のアリスに? 今まで視界から外していたアリスに顔を向ける。 さっきは描写するのに夢中で特にコメントしなかったが、うっかり間違いを犯してしまいそうなセクシーさだ。 そんなアリスに膝枕? ああなるほど、つまり死ねって言ってるワケですね。「いやいやいやいや、無理無理無理無理無理ですって」「……何でそんなに否定するのよ」「否定するよ! 僕を殺す気なの!?」「な、死ぬってなによ! 失礼しちゃうわねっ!!」 いかん。彼女にはこちらの意図が欠片も伝わっていない。 今のはオトコノコの切ない事情から来る切実な否定なんですが、アリスはそれを侮辱と捉えてしまったらしい。 憤慨した様子の彼女は、おもむろに僕の手を取って正座を始める。 うわぁ、しかもムキになってるし!? ダメだ、これは急いで離脱しないと……。 「こ、こら、大人しくしなさいっ!」「ふにゃっ!?」 倒れ込んだ僕の頬に柔らかい感触。それが何なのかは察するまでもない。 ヤバい、本格的にヤバい! 顔の向き的にアリスの身体は視界に入らないから良いけど、他がヤバい! 具体的に言うと太ももの感触と鼻孔をくすぐる良い匂いがヤバい! アリスも、僕が硬直している姿を見て自分のやった事の意味を再認識したのだろう。 下手に動かないように僕の頭を手で押さえつけ、そのまま身体を硬くしている。「微笑ましいですねー」「……なんか、やたら空気がピンク色な気もするけどね」「いいなー、私もやってほしいなー」 っていうかマジでどう収拾付けるんですか、この罰ゲーム。 正直僕、動けないですよ? いや、動かないと言った方が正しいですが。 本音を言うと、明日からこれを枕にして寝させて下さいと土下座してお願いしたいくらいです。 「おっ、終わり! もう終わりよっ」「あいたっ」「えー、もうちょっと良いじゃん。ニヤニヤさせてよー」「絶対イヤ!」 アリスが膝を引き抜いたため、僕は頭をしたたかにぶつける。 それでも、正直まだ夢見心地な感じだ。 何と言うハニートラップ、アリスの膝は世界を狙える。 ううっ、しかも今ので集中が切れてしまった。せっかく良い感じに勝ち抜けてきたのに。「仕方無いなー。それじゃあ四回戦目、いっくよーっ?」「えっ!? ちょっ、ちょっと待って! 今それどころじゃ……」 全然気持ちが切り替えられない僕をヨソに、そんな事を言うてゐさん。 それに対し思わず抗議の声を上げた僕は―――その行為が失態以外の何物でもない事に遅れて気付いてしまった。「よし、とっとと始めましょう! 今の晶ならヤれるわっ!」「いえーいっ! 人の弱みには全力で付け込めー!!」「やっぱりそうなるよねーっ!?」 何だかんだで負けず嫌いな彼女らが、そんな僕の致命的な隙を見逃すワケが無いのだ。 全力で僕を潰す気のアリスとてゐ。特に肯定も否定もしないけど、反対はしない稗田さんとメディスン。 幻想郷の住人に、武士の情けという単語はあまり無い。 ――僕がその後の四回戦目で、ダブルスコア以上の差をつけられ惨敗したのは言うまでも無い事だ。「さぁ、皆の待ってた罰ゲームの時間よ」「待ってたのはアリスさんですよね、絶対にっ!?」「何を引くのかなー、わくわく」「罰ゲーム、罰ゲームっ!!」「どうぞ久遠さん、いっそ纏めて引いても良いですよ?」 稗田さん、さりげなく酷いです。 全員の期待の視線を一身に受けながら、僕は恒例となった罰ゲームの選択を始める。 ううっ、出来れば心に傷を負わない程度のネタで済んで欲しいなぁ。「で、何が出たの?」「……『貴方が見た、他人の失敗談を話せ』だって」「あー、それ私のだ」「そうだろうと思ったよ」 むしろこんな露骨な罰ゲーム、てゐ以外の誰が書くと言うのだろうか。 しかし何だろう。本来ならあーだのうーだの唸りを上げそうな罰ゲームなのに、ちょっとホッとしてしまったのは。 多分、今までの罰ゲームを見てきたからだろうね。アリスなんて露骨に悔しそうにしているし。 けれど……これはこれで面倒な罰だ。 何しろその他人のミスを、てゐが利用する事は明らかなのである。 変にレミリアさんや幽香さんのうっかりを話した日にはどうなる事やら。とりあえず、身体の一部とサヨナラする覚悟は必要だろう。 ……特に某吸血鬼さんは、やたらその手の話に事欠かないからなぁ。 仕方無い、幻想郷での平穏な生活のためだ。封印していたあの話を使う事にしよう。「それじゃあ、一発お話させて貰います」「わーい、ぱちぱちー」「ほどほどで良いわよ? 貴方の場合、交友関係が洒落にならないからね」「同感、てゐちゃんも命は惜しいからあんまヤバいのは止めてね」「僕もそのつもりだから安心して」 ある意味では、一番ヤバい気もするけどね。 まぁあの人ならきっと、笑って許してくれるだろう。……多分。 「ではでは。―――これは、僕が実際に体験した話です」「そういう罰ゲームですよね?」 うーむ。幻想郷ではこの手の怪談語りは通じないのか、残念。 別に通じなくても問題は無いんだけど、話を始める前に多少空気を暖めておきたかったのも事実だ。 ……まぁ、大した話じゃないし、それならそれでさっさと終わらせようか。 あれはそう、丁度去年の今頃の話だったかな? その時期、たまたまドリフ――じゃ分からないかな、喜劇の一種なんだけど……あ、コントで通じるんだ。 まぁ外の世界では国民的なコントに、ちょっと憧れてね。 その定番ギャグの一つを、自分の身体で体験してみたくなったんだよ。 あ、ちゃんと真似するに当たってきちんと安全面は確保したよ? ……それ以前に、真似しようと考える事自体がおかしいですかそうですか。 オホン。そういうわけで、僕は部屋にバナナの皮と金ダライを用意したワケなんですよ。 や、僕の失敗談では無いですよ? ここから話が繋がるんだってば。 僕には、お世話になっている後見人が居てね。 普段はいつの間にかそこに居るって言う、かなり神出鬼没な人なんだけど。 その日は何故か、普通に入口から入ってきてね。 ――ちょ、メディスン先にオチを言っちゃダメだよ!? あーはいそーですよ。そこに丁度良く現れたその人が、バナナの皮で滑って転んでタライの直撃を受けたんです。 あれは何度思い出しても芸術的な転び方だった……。 その人のキャラ的に考えると、ワザとって可能性もあったんだけどね。うん、そういう人なんだよ。 頭にドでかいタンコブ作りながらも、何一つその事に触れないその人の姿を見て僕ははっきり確信したんだ。 嗚呼、この人でもこんなドジやらかすんだなぁ――って。 ほへっ? 謝りはしなかったのかって? そりゃ当然謝ろうとはしたよ? だけどその人、その話に繋がりそうな話題を振るだけで話を逸らすんだもん。謝れやしないよ。 「なるほど、それは確かに失敗談ですね」「でしょう?」「てゐの求めていた内容とは大分意図が違うみたいだけど。……まぁ、落とし所としては最適じゃないの?」「うう~、てゐちゃんツマンナイ」 いや、ちゃんと罰ゲームの内容は遵守致しましたよ? まぁこれは、皆が知らない人の失敗談は言っちゃダメってルールを設けなかったてゐのミスだね。 ……ねーさまの知名度を考えると、皆知っていそうな気もするけど。 後見人の名前は言ってないからセーフだろう。さすがのてゐも、外の世界の人物の事まで追求する気はないみたいだし。 「まーいいさ。今のは私の書いた罰ゲームの中でも一番の小物、まだまだ後ろにはもっと凶悪な罰ゲームが控えているのだ」「何その悪の四天王みたいな捨て台詞」 相変わらず、腹黒い笑みがあつらえた様に似合ってるんですけどこの兎詐欺。 やはりこやつも油断ならない。いつもの事だからスルーしていたけど、罰ゲーム内容に躊躇が無い。 改めて、今回の稗田邸ウノ大会がほのぼのとは違う空気を纏っている事を実感する。「それじゃあ五回戦目、行ってみましょうか」「いえーいっ! ―――コンドコソヒカセテヤル」「はぁ、そろそろこないかしらあの二人。―――ソノマエニアキラガイタイメニアエバイイノニ」「……ほんと、どんどん空気が重くなっていく気がするよ」「皆の想いが集まってるからだね!」 微妙に上手い事言いますねメディスンさん。 だけどその想いは、ちょっと淀んでると思いませんか? 空気同様に。 「それじゃあ、今度は私が配るよー」 大した問題では無いですかそうですか。 メディスンはマイペースにカードを配り始める。 ここらへんが被害者と傍観者の認識の違いか、同じゲームを受けているのにこの余裕の差は何なんだろう。 僕は溜息を吐きだしつつ、配られたカードを受け取った。 さて、あと何回、罰ゲームは執行される事になるんだろうかね……。 その後も、稗田邸ウノ大会は一部に災厄をばら撒きながら続行された。 無事一抜け出来たと思ったら、メディスンの欲望だだ流しな罰ゲームを引いた稗田さんが腰に抱きついてきたり。 ――幾ら僕が細身で有る事に驚いたからって、服の中に手を差し込むのはやり過ぎだと思いますよ稗田さん。 アリスの設定した罰ゲームが無難過ぎて、まさかのノーカウントになったり。 ――まぁ、さすがに普通の早口言葉三回は罰ゲームとしてどうかと思う。 稗田さんの罰ゲームを僕が引いてしまい、何故か腋が空いている紅白の巫女服を着る羽目になったり。 ――ちなみに、着た感想は「……平時の方がコスプレっぽい」だった。しかも全員同意見。泣いて良いですか。 とにかく、罰ゲームはこれでもかと言うくらい容赦なく執行され続けた。 ……コスプレしている三人、限定の話ですがね。 アリスが僕を集中的に狙っているせいで、僕と左右に居る二人の手札暴発率が尋常じゃない事が原因だろう。 もちろん、アリスさんの自爆も多かったって意味も含めてね。 その結果罰ゲームは僕達三人に集中し、僕とアリスの精神はかなりギリギリまで追いつめられてしまったのである。 稗田さん? 何が出てもノリノリでやってますよ。 彼女が一番このゲームを満喫していると言っても過言ではないだろう。 そして第……何回戦目かは忘れたけど、ついさっきの事。 ボロ負けしたアリスが、僕の「アンパン買ってくる」という罰ゲームを引いた所で、ゲームはストップしている。「くそーっ、人形遣いめ時間稼ぎしおってからにぃ」「仕方ありませんよ。あんパンは珍しい食べ物ですから」 僕は簡単そうな食べ物をチョイスしたつもりだったんだけど、幻想郷ではそうでもなかったらしい。 まぁ確かに、そもそもパンの流通量自体が少なそうな幻想郷では普通に珍しい品だよね。アンパンって。 それでも無いワケでは無いので、アリスも素直にアンパンを買いに出かけたワケなんだけど。 確かに、ちょっと時間がかかり過ぎな気がする。 ……さてはアリスめ、先生達が来るまで時間を潰す気だな。良いぞもっとやれ。 あ、ちなみに彼女はもうバニー姿じゃない。 本人は意地になってその姿で出かける気だったけど、さすがに笑い事にならないので皆で押し留めました。 「久遠さん」「ほへ?」「……ありがとうございます」 メディスンとてゐがウノで遊んでいるのを横目に寛いでいたら、何故か隣に座っていた稗田さんからお礼を言われた。 はて、僕は何か彼女に感謝されるような事をしただろうか。 「こんなにも楽しい時間を過ごしたのは、初めてかもしれません」「た、楽しかったですか? 罰ゲームばっかりやってた記憶があるんですが」「はい。御阿礼の子である私には、皆遠慮してしまいますから」「……何と言うかその、遠慮してなくてすいません」 緊張がほぐれたと思ったらコレだよ。本当に僕は遠慮と礼儀って言葉を知らないんだから。 僕が自分の態度を軽く反省していると、稗田さんは何故か嬉しそうにはにかんだ。 むぅ、この笑みは、そういう無礼な態度の方がありがたいって意味なのかな。 そうやって優しい言葉を掛けられると、僕は調子に乗ってしまうんですが。「あ、あの、これから凄く恥ずかしい事を言いますから、笑わないでくださいね?」「はぁ、何を言うのか知りませんが、一応善処はさせてもらいます」「ありがとうございます。それでですね……えっと」 そこで言葉を一旦止めると、稗田さんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。 それでも僕の方をチラチラと見ながら、彼女は絞り出すように言葉を続けた。「さっき久遠さんは、遠慮していない事を謝りましたが。別に謝る必要は無いんですよ」「そうですか?」「そうです。だってその……と、友達の間に遠慮とか、要らないじゃないですか」「……………ともだち」「――あぅ」 本当に恥ずかしそうに、顔を手で覆ってしまう稗田さん。 一方の僕はと言うと―――そんな稗田さんの言葉が嬉しくて、知らずニヤニヤしてしまっていた。 友達、かぁ。なるほど、そう考えると彼女がずっと機嫌が良かった理由も頷ける。 だから僕はその言葉に何度も頷きつつ、あえてメディスンに話を振った。「ねぇ、メディスン」「んー? なぁにー?」「友達同士でワイワイ遊ぶのは、楽しいね」「うん! アリスも早く帰ってくればいいのにねっ!!」 さすが無邪気っ子。そういう素直な台詞が欲しかったんですよ。 彼女の言葉に、俯いていた稗田さんは照れくさそうに顔を上げる。 僕は、そんな稗田さんに心の底からの笑顔を向けた。「……その、久遠さん。『晶さん』って呼んでも良いですかね?」「僕も『阿求さん』って呼んでいいなら、良いですよ」「―――はい! 晶さん!」 稗田――阿求さんが、僕の言葉に満面の笑みを返してくれる。 そうだよね。阿礼乙女だって人間なんだ、生きてるうちから偉人扱いされて嬉しいはずがない。 そんな彼女の苦労が、僕達とのくだらないやり取りで除かれると言うなら、このウノ大会をやる価値もあった……あったのかなぁ? さすがにそれは差し引いてマイナスになると思うけど。まぁ、阿求さんが喜んだ事だけはプラスなると思っておこう。 二人のウノに笑顔で混ざりに行く阿求さんを見て、僕はそう結論づける事にしたのだった。 ちなみにアンパンを買いに行ったアリスは、結局上白沢先生や妹紅さんと一緒に戻ってきた。 その際、二人が僕や阿求さんの姿を見て目を点にした事は一応語っておこう。