巻の四十二「良い判断は無分別な親切に勝る」「……出来たわ」 重くなった瞼を擦りながら、椅子に寄りかかる形で背を伸ばす。 どうやら、ようやく一息つけるようね。 幾ら睡眠が習慣だとはいえ、一週間以上徹夜を続けるのは辛かったわ。「けどそれも、今日でおしまいよ!」 長かった「カーボン」との戦いにも、ようやく目処を立てる事が出来た。 難関だった加工法は、糸口を見つけた直後から今までの停滞が嘘のように進んでいったのだ。「ふ、ふふ、分かってしまえば外の世界の素材も大したものじゃ無かったわね」「ソンナフウニオモッテイタジキガ、ワタシニモアリマシタ」 「……顔洗いたいから水とタオル持ってきなさい」「アラアラウフフ」 まったく、どこでああいう軽口を覚えてくるのかしら。今度その経緯を洗い出さないとね。 命令には忠実な上海が工房から出ていく姿に溜息を吐きつつも、しかし私はあふれ出る喜びを抑える事ができなかった。 ふふっ、これでもう恐れるものは無くなったわ。 私の人形の装備に、カーボンが使われる日も近い事だろう。 そんな素晴らしい未来予想図に想いを馳せながら、私はカーボンで作った装飾品を撫でる。 この調子なら、本来の研究の方も上手く進むかもしれないわね。 このまま寝てしまうのも惜しいし、前に魔理沙から聞いた「人形の妖怪」を探してみましょうか。「オノコシハユルシマヘンデー」「食べないわよ。――あ、水冷たい」 何故か私は、そんな当たり前の事に驚いていた。 どうやら連日の徹夜が、地味ながら精神に影響を与えていたようだ。 正常なつもりでも、どこかネジが緩んでいたのかもしれない。 ……そもそも外の素材を一つ加工出来たくらいで、恐れるものが無くなるわけないじゃないの。「参ったわね。まぁ、加工出来た事には変わりないからいいけ……どぉ?」 顔を拭いて振り返った私は、机の上に有るモノを見て硬直した。 いや、確かに覚えている。最初の加工と言う事で、簡単な装飾品にしようと決めたのは間違いなく私だ。 だけどこれは、幾らなんでも酷過ぎる。 幾分か冷静になった私は、自らが生み出した作品に驚愕していた。 恐るべしは眠気か。今の今までこの装飾品の奇抜さに疑問すら抱かなかったなんて。「センスが無いにも程があるでしょう、これは。デザインする時の私は何を考えていたの?」「ノーミッソボーン♪」 こんなもの付けて外出した日には、異変扱い間違い無しだ。 無駄に細部が凝っている当たり、我ながら酷い嫌がらせだとしか思えない。「とりあえず、封印しよう……」 これはもう気の迷いと忘れてしまうのが吉だ。 ノウハウはちゃんと自分のモノになったのだから、それでも問題は無いだろう。 こんなもの誰かに見られたら、私の品格が疑われてしまうものね。 ううっ、近くで見るとさらにドギツイ。しかも浮かれて作ったせいか結構な数があるわ。 「まぁ、私の所に来る変わり者なんてそんなに……」「オキャクサンヨー、オキャクサンヨー」「――イヤになるわ。これが言霊ってヤツね」 来客を知らせる人形の声に、思わずため息を漏らす。 とりあえずコレは机の引き出しにでもしまっておきましょうか、しまう場所もまだ無い事だし。「オキャクサンヨー、オキャクサンヨー」「分かってるわよ。まったく、こんな時に誰が来たのかしら」 文句を口にしつつ、私は玄関の扉を開いた。するとそこには――― 「や、やっほーアリス」「やっほー☆」「ヤッホー」 つい先日顔を合わせたばかりの腋メイド、久遠晶が居た。 しかもその背中には、新しく妖怪兎のオプションまでついている。 ……どこかへ行くたびに変化を起こさないと死んじゃうのかしらね、コイツは。 あと上海、オウムじゃないんだから真似しないの。「はいはいやっほーやっほー。それで貴方達、何しに来たの?」 「率直に言うと泊めてください」「泊めてください☆」「テモテーテモテー」 本当に率直だ。少しくらい事情を説明しようという気は無いのだろうか。 しかもタイミングが悪すぎる。狙い澄ましたかのようにこの状況で現れられると、何かしらの悪意を感じてしまう。 そういえば以前も、晶は一番来て欲しくないタイミングで現れたわね。「ひょっとして、私に嫌がらせしてるのかしら」「嫌がらせと判断された!? なんで!?」「やっぱり『可愛く言って誤魔化せ、アリス家宿泊大作戦』は無理があったんだって」「いや、当初の予定通り菓子折りを持ってきていれば……」「晶の中で菓子折りって、どんだけ万能なアイテムとして認識されてるのさ」「ほら、女の子って糖分を定期補給しないとダメじゃん」「知らないよ、そんな血糖値高くなりそうな事実」「あれ、違うの? 知り合いの子はいつもそう言ってケーキを大量に摂取してたんだけど……」「思い出話は良いから、とりあえず上がって事情を説明してくれないかしら」 これ以上、玄関先で妙な漫才を見せられても反応に困る。 自らの甘さに呆れながら、私は二人を家に招き寄せるのだった。 「なるほど……紅魔館がね」「おかげで寝泊まりする場所が無くてさぁ」「いやー、困った困った」 妖怪兎を背負ったまま机の上で頬杖をつく晶が、私と別れてからの経緯を説明する。 永遠亭での二連戦、狂気の魔眼の習得、弟子になりました、紅魔館半壊。 一時間ほど語られた濃密な数日の流れを聞き終えた私は、紅茶を一口飲み一言晶に告げる。「馬鹿でしょ」「断定!?」 頭が痛い。騒動の真ん中に居ながら、何故コイツはキョトンとできるのだろうか。 自身の迂闊な行動を一から十まで説明してやろうかとも考えたが、無駄そうなのですぐに止めた。 「確かに、悪いか良いかで考えたら間違いなく悪い方だよね、晶の頭って」「まさかの裏切!?」「そうね。知識とか知恵とか関係なしで、何かもう根っこの方がダメダメよね」「マサニダメナオリシュ、リャクシテマダオー」「つ、追撃……」「冗談よ。初めの頃はともかく、今はそうでもないわ」 もっとも地雷を踏みに行く性質は相変わらずみたいだから、てゐの言う通りやっぱり頭は悪いんでしょうね。 しかし、太陽の畑、紅魔館、永遠亭と足を運んだくせに、少しも幻想郷への恐怖が湧いてこないと言うのはある意味凄い。 風見幽香も、レミリア・スカーレットも、蓬莱山輝夜も恐れさせる事が出来なかった人間。 事実だけ書き出してみると、トンデモナイ傑物に見えるから不思議だ。「まぁ、トラブルに首突っ込むのもほどほどにしときなさいよ? アンタのうっかりは魂レベルにまで刻まれてるんだから」「トラブルの方がほっとかない場合はどうしたらいいんでしょうか」「諦めれ」「アキラメレー」 てゐと上海の辛辣な物言いに、がっくりと頭を項垂れさせる晶。 私も彼女らと同じような意見なので、特にフォローはしない。「さて、恒例の釘刺しも終わった事だし、貴方達が最初に言ってた宿泊の話へ戻りましょうか」「恒例にされても……」「そう思うなら少しは改善しなさいよ。聞くだけで肝が冷える武勇伝を聞かされる身にもなりなさい」 自覚はあるようで、晶は私の言葉に口を噤ませる。 毎度言われて分かっている事でしょうに、どうしてそれを次に生かせないのかしら。 まぁ、私としてもこれ以上晶を責め立てる気は無い。多分無駄になるから。「それで? 泊めてあげるのはいいけど、対価も無しに泊まろうなんて事は思ってないわよね」「いやいやまさか、私も晶もそれくらいの良識は弁えてるって。ねぇ?」「うん、対価になりそうなものはそれなりに持ってきたよ」「以前とラインナップが変わってないじゃない」「うぐぅ……ゴメン、僕の持ち物ってこれしか無いから」 晶は、先ほどから手に持っていたリュックを机の上に置いた。 以前と変わらず、その中身は興味をそそられるモノで溢れかえっている。 この中の一つを対価に、と言う提案は魅力的なものだ。 しかし、私はこれを受け取るワケにはいかない。「責めてるワケじゃないのよ。対価が‘高すぎる’って言ってるの」「ほへ?」「晶にとっては「当たり前のモノ」でも、私達にとってはとんでもない貴重品なのよ、そこにあるモノは」「完全な形で残っている外の世界の道具だもんねー。私だって、どこで手に入れたのか教えてほしいくらいだし」「そういう事よ。それに、貴方が大切にしているモノもあるんでしょう? はいありがとうと貰うわけにはいかないわ」「でも、これ以外に僕が払える対価は無いんだけど?」「モノで払わなくて良いって言ってるのよ。身体で払いなさい、身体で」 実を言うと、何をしてもらうのかはもう決めているんだけどね。 私がそう言うと―――晶は何故か身を護るように自分の身体を抱きしめ、おもむろに後ずさった。「……何やってるのよ?」「こ、今度は僕に何をする気なのさ」 何を言ってるのだろうか、コイツは。 私がそこまで警戒される事を何かしたと―――あっ。 そういえば前に、晶の服が気になって……。 「ち、違うわよっ! そういう変な意味じゃないの!!」「だって身体でって……」「労働で返せって意味よっ! 晶の持ってる『狂気の魔眼』の力が必要なのっ!!」 いい加減、あの時の事は忘れなさいよ! 本気で怯えた目をしている晶に、思わず怒りが溢れてくる。 確かに、私も悪かったとは思っている。思っているけど、これはいい加減引きずり過ぎではないだろうか。 その後ちゃんと、謝罪もしたというのに。……それほどトラウマになってしまったのかしら。 あとそこの妖怪兎、期待に満ち溢れた顔で聞き耳を立てないの。「なんだ労働しろって事かぁ。いやー、ビックリした」 ……こっちはこっちで、あっさり復活するし。 アンタは一々リアクションが派手なのよ。紛らわしい。 私は怒声を出すのを我慢しながら、表面上は冷静に話を進める事にした。 真面目に相手をしても、返ってくるのはきっと疲労だけだと判断したからだ。「確かあの目は索敵なんかにも使えたはずよね。実はそれで、探して欲しい妖怪がいるの」「よ、妖怪? なんだか穏やかじゃないね」「研究の一環でね。ちょっとその妖怪に会ってみたくて」「会ってみたいって……どんな妖怪なの?」「メディスン・メランコリー、無名の丘を住処にしている妖怪化した人形よ」「ああ、あの毒人形かぁ」 どうやらてゐはその妖怪の事を知っているらしい。 そういえば、この兎は花の異変に便乗して色々しでかしていたのよね。 あの時は色んな妖怪や人間が行動していたから特に気にしていなかったけど、面識があると言うのなら彼女も少しは当てに出来そうだ。「てゐは知ってるんだ。その、メディスン? さんの事」「知ってるっつーか、襲いかかられたっつーか……そうだね、ここが幻想郷である事を差っ引いても、大分喧嘩っ早い奴だね」「そ、そんなに喧嘩っ早いの?」「話しかけた後すぐに攻撃が帰ってきたもん。あ、言っとくけど挑発はしてないからね? 商売は持ちかけたけど」 ……珍しい事に、嘘をついているわけではないようだ。 その時の会話を想い出しているようで、てゐは苦々しげに言葉を吐き出し続ける。「毒使うし思考回路も良く分かんない奴だから、出来れば会いたくないんだけどねー」「ダメよ。貴女が付いてくれば、晶がその妖怪を見つける確率は上がるんだから」「やっぱりそうなるよねー。ちぇー、人を幸せにする能力がうらめしーよ」 無名の丘はそれほど広くないとはいえ、妖怪人形が常に居るとは限らない。 タイミングを外せば無駄足になってしまうが、晶とてゐがセットになって動けば話は別だ。 人間限定で幸運を与えるてゐと、強力な策敵能力を持つ人間の晶。 捜索にはうってつけのメンバーである。これで見つからないという事態は、まず有り得ないだろう。 懸念する事があるとするなら、それは一つだけだ。 もっともその懸念事項は見つかった後に関係してくる事なので、今はあまり関係ない。「さて、どうするの晶? イヤなら別の条件でも良いわよ」「うーん、それってアリスの研究に関わってくるものなんだよね、だから――えーっとその」 問いかけの途中で、晶は唐突に口ごもる。 どうやら以前、私に怒られた事をしっかりと覚えていたらしい。 そういう礼儀はきちんと守るのよね。律義と言うか馬鹿正直というか……。 まぁ、あの時とは大分状況が変わったし、何よりこれから協力してもらうワケだから、別に話してもいいでしょう。「私はね。自立する人形の研究をしてるのよ」「自立する人形って、こんな風な?」「ユビサスナヤー」「あ、ごめん」「それはただ、覚えた言葉を適当に喋ってるだけの人形よ。自立しているワケじゃないわ」 自立とは、独自の世界に価値観を起き、自ずからの意思で行動出来る事を言う。 上海は人形の中でも出来がいい部類に入る子だけど、私の命令を受けなければ動けない時点で自立しているとは言えない。「自分の意思を持った人形って事? なら、あの毒人形は確かに理想の自立人形だね」「そういう事よ。もっとも妖怪化は私の考える自立と少し違うから、あくまで参考程度のモノになるでしょうけどね」 それでも、会うだけの価値はある。 私がそう答えると、晶は納得したように頷いた。 しかも目が生き生きとし始めた。魔法使いの研究に関われるのがそんなに嬉しいのだろうか。 そういえば工房に入れてあげた時も、同じくらい無邪気に喜んでいたわね。 嫌々やられるよりはこちらとしても気楽だけど……晶が命の危険に晒されてしまう理由が、その反応で何となく分かってしまう。 まったく、本当に困った性分してるわねアンタって。「分かった! そういう事なら僕の力、存分に活用してよっ!! ねぇ、てゐ!」「良いんじゃないの? 私は見てるだけで済みそうだしー」「交渉成立ね。なら早速だけど、今から無名の丘に出かけるわ。いけるかしら?」「オッケーですともっ! ガンガン行くからね!!」「晶がやたら張り切っているのが不安だけど、こっちは問題無いよー」 ……なんだか、私も不安になってきたわ。 晶は呑気な様子で「魔法使いのお手伝い~、お手伝い~」等と歌っている。 恐らくその頭からは、てゐの言ってた『毒人形』という単語は奇麗に除外されてしまっているのだろう。 相手への注意と危険に対する認識確認を兼ねて、少し晶に聞いてみようか。「ねぇ、晶。少し聞いて良い?」「何!? それより早く出かけようよっ!!」「落ち着きなさい。今からとは言ったけど、別に急を要しているワケではないの」「りょーかい! じゃあ出かけようかっ!!」「上海、グーで」「ザッソウナドトイウクサハナイッ!!」「カクゴのすすめ!?」 人形の一撃に吹っ飛ばされる晶、妖怪並にタフなはずなのに変な所で弱い奴だ。 しかも晶は、即座に置きあがり不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。 そのくせ復活は早い。どこかの中華妖怪を彷彿とさせるわね。 ちなみにてゐは、上海が振りかぶった時点で即座に晶の背中から離脱していた。 こっちはこっちでちゃっかりしている。そもそも何でてゐがコイツの背中に居たのかは分からないけど。「ううっ、酷いよアリス。いきなり何するだー」「何で訛るのよ。と言うか晶、例の妖怪人形がどんな奴かちゃんと分かってるの?」「妖怪の人形で………えーっと、毒?」 馬鹿だ。少なくとも現時点において、コイツは間違いなく浮かれた馬鹿でしかない。 強くなって気が抜けたのか、元から危機感が薄いのかで怒り方がだいぶ変わってくるが、とりあえず最初に出る言葉は決まっている。「―――上海、水」「ほへ?」「アキラー、シッカクー」 晶の真上から、上海が器に溜まった水を落とす。 ただの水でも意外と冷静になれるのは、先ほど私も経験した事実だ。 むやみやたらにテンションを上げていた晶も、文字通り火が消えたように大人しくなってしまった。「……アリス」「なによ」「体温下がると、テンションの方も低くなるね」「冷静になったんなら、脱衣所で身体を拭いてきなさい。その間に私とてゐで妖怪人形の話を纏めておくから」「……うん、そうするよ」「上海、晶を脱衣所に案内してあげて」「ヨンジュウビョウデシタクシナ」「時間制限付き!?」「だから覚えた言葉を話しているだけなのよ、良いから行きなさい」「は、はーい」 上海に連れられ、びしょ濡れの晶が部屋を後にする。 濡れてしまった床の始末を他の人形に任せ、私は残ったてゐと相対した。「そう言うワケだから妖怪人形の情報、教えてもらうわよ」「ま、そういう約束だからねー。私自身に被害が及ばないためなら、幾らでも力を貸すよ」「いっそ清々しくなるくらいの利己主義ね」 もっとも信用できないというワケでもないから、その思考自体には何の問題も無い。 魔理沙はいつも話を大袈裟にするので、情報源としてはあんまり当てにならないのよね。 確実な情報を確保出来て、内心私はホッとしていた。 少し冷静になったとはいえ、アイツが無茶する気質なのに変わりはない。 そのフォローをするためには、やはりそれなりに相手の事を知っておかないといけないだろう。 ……はぁ、寺子屋の先生ってこんな感じなのかしら。「それにしても、アリスって本当に人が良いよねー」「はぁ? 何よ突然」 不要なトラブルの素をしょい込んだか。と頭を抱えていると、てゐが急にそんな事を言った。 やれやれと肩を竦める仕草が、何だかとても腹立たしい。「だってさ、晶の事を気遣って対価を受け取らなかったでしょ?」 そう言って、彼女は卓上のリュックに目をやった。 ……う、バレてたか。 晶の持ってきた品は確かに貴重だが、対価としてそこまで高いというワケでもない。 一日二日ならともかく、長期の宿泊なら十分釣り合いが取れた事だろう。 しかし対価を受け取らなかった理由が、晶を気遣ったからだと言われると口を噤んでしまう。 私がリュックの中身を貰わなかったのは、もっと必要なものが他にあったからなのだし。「確かに意図して対価を受け取らなかったけれど……別に晶を気遣ったワケじゃないわよ」「『目』が必要だから、そっちを求めただけの話って事?」「そうよ。貴女同様利己主義な考えで動いたのだから、お人よし呼ばわりを受けるのは心外ね」「けど、トラブル体質な晶を少しでも危険から遠ざけるために、こうして情報の整理までやってるワケだよね」「と、当然じゃない。仲間である以上、晶も私の戦力になるのよ。出来る限り無駄な消費を避けるのは魔法使いの常で……」「なるほど、似たもの同士か」「あのうっかり屋と一括りにしないでよっ!!」 少なくとも私は、あそこまで身内に甘く無いわ。 ……な、何よ。その、知らぬは本人ばかりなりって呆れ顔は。「はいはい、気をつけますよーっと」「くぅっ、全然分かってない」 まったくもう、この妖怪兎は。 先行き不安なメンバーに、私は思わずため息を漏らすのだった。 ……それにしても、さっきから何か大切な事を忘れている気がするわね。 何かをし忘れたような……まぁ、思い出せないってことは大したことじゃないんでしょう。 ふと気になったその事実を、私はそう切り捨ててしまった。 そしてその決断を、私は後に激しく後悔する事になるのだけど―――それはまた別の話。 ◆白黒はっきりつけますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【色々教えろっ! 山田さんっ!!】山田「指名が入ってテンション急上昇! 教えろ山田さんのコーナーですっ!!」死神A「いやー、テンション高いっすねー山田様」山田「今の私はかなり上機嫌です。思わず罪人を極楽行にするくらい機嫌が良いです」死神A「本職に影響与えるようなハイテンションは勘弁してください。じゃあ、質問行ってみましょう」 Q:スペルカードには能力、術式、技術、道具に由来したものがありますが、晶君はどこまで覚えれるのでしょうか?山田「よろしいです。白黒はっきりつけましょう。答えは『全部覚えられるが、個々で習得の条件が変わる』です」死神A「いつものごとく、簡潔に説明お願いしまーす」山田「お願いされました。晶君には、スペルコピーとスキルコピーの二種類の模倣方法がある事はご存知ですね」死神A「えっと、スペルコピーがスペカを覚えるもので、スキルコピーが能力を覚えるものですよね」山田「その通りです。まず最初の『能力、術式』に由来したものですが、これはスキルコピーで覚える事が出来ます。もちろんスペルコピーでも可能ですがね」死神A「二つの由来の例として、紅魔館の侍従長の能力やら魔法やらが出てましたが、これも可能なんですか?」山田「可能です。もちろん前提条件として『概念を理解する』必要がありますが、逆を言えば概念さえ分かれば再現可能であると言えるのです」死神A「えげつないなぁ……でも山田様? たとえば侍従長の「プライベートスクエア」とかスペルコピーした場合どうなるんですか?」山田「時は操れませんが、スペルカード使用時には時を止められる。と言う仕様になります」死神A「また半端な。じゃあ、技術はどうなんです?」山田「能力を覚える事でその妖怪と同条件に至れますから、練習することで技術によるスペカの習得は可能です」死神A「……練習っすか。途端に普通になりましたね」山田「技術とは得てしてそういうものです。積み重ねが全てですから、ある意味では彼が最も習得しがたいスペカなのかもしれませんね」死神A「とは言え今までのスペカには前例がありますからねー。能力は言わずもがな、魔法はアグニシャイン、技術は破山砲で習得してましたし」山田「その通りです。問題となるのは最後の一つ、『道具』です。これは少しややこしい事になっています」死神A「えーっと、どういう事なんですかね」山田「本来なら『道具は再現できないが、効果は再現可能』という半端なコピーで終わるはずでしたが、晶君は獲得した能力で新しい技能を作り出してしまいました」死神A「ああ、冷気プラス気による、道具構成能力ですね」山田「そうです。あれにより、ミニ八卦炉のような特殊なアイテムで無ければ、晶君は問題なく再現できるようになりました」死神A「河童の道具とかは問題無しかぁ……ちなみに、蓬莱山輝夜の『蓬莱の玉の枝』みたいな特殊系はやっぱり?」山田「はい、スペルコピー頼みの『道具は再現できないが、効果は再現可能』状態です。今の所は」死神A「……今の所は?」山田「先ほど述べた通り、新たに覚えた能力により再現可能となる場合があるのです。例えば、ワーハクタクの『歴史を創る程度の能力』を覚えれば……」死神A「氷で作った器具に、『歴史』を持たせる事ができる、と?」山田「一時的なものですがね。そういった応用は十分可能なんですよ。まぁ、あくまで例えに過ぎませんが」死神A「ようやくチートっぽくなってきたなぁ……ちなみに、別の人の質問ですが、こういうのもありましたよ」 Q:晶がアリスの能力を覚えたらどうなるの?死神A「人形遣いの魔法は術式プラス道具の複合型ですけど、こういう場合はどうなるんですかね?」山田「まず術式の方ですが、こちらはスキルコピーで覚える事が可能です。ただし、人形は付属しません。持ってませんからね」死神A「人形はどっかから調達しないと無理って事ですか。あ、でも道具構成能力があればいけるんじゃないですか?」山田「いけるでしょうね。永続的なものは無理でも、一時的なものなら人形遣いの能力をほぼ完全に再現する事が可能です」死神A「氷人形っすか、無駄に凝ってそうですね」山田「本人の趣味を考えると、機動兵器やら呪いの人形やらになりそうですがね」死神A「……確実にセンスは悪いだろうなぁ」山田「とにかく、個々の再現が可能なので組み合わせるスペルカードも再現出来ます。再現は」死神A「オチっすね! オチのターンですねっ!!」山田「……いえ、単に『再現できても基本は劣化』というお決まりの定型句で締めようとしただけなんですが」死神A「(しょぼーん)」山田「そこまで落ち込まなくても……」死神A「あーもうダメっす、オチが付かないとかマジでダメです。やる気無くなっちゃったー」山田「そんな事言わないでください。私もやる気が無くなってしまいます。むしろ今無くなりました」死神A「……あれ? ここは私の頭に悔悟の棒を叩きつけるシーンじゃないんですか?」山田「私は山田なので知ったこっちゃありません。あーやる気ないやる気ない。やる気が無いのでちょっと仕事サボってきます」死神A「ダメですよ山田様ぁ!? 仕事しましょうよ、仕事ぉー!?」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど