巻の四十「善良な性格は法律よりもさらに信頼ができる」 前回までのあらすじ。 (薬師に)ならないか。 ……大まか間違ってないから困る。 永琳さんの突然の提案に、僕は混乱しきっていた。 いや、話自体はレイセンさんとの弾幕ごっこの直後ぐらいから出ていたワケですが。 まさかこのタイミングでそれが出てくるとは思わなかった。というか永琳さん、その話は嘘だって気付いてなかったっけ。 ちなみに僕がこんな状況でそれなりに冷静でいられる理由は、僕以上にテンパっている人が他に居たからです。 以下、その人と永琳さんの聞いてるだけで事情が分かる質疑応答。「い、いきなり何を言ってるんですか! 師匠!!」「あら、だってそういう約束だったでしょう?」「てゐが勝手に決めた約束じゃないですか! 守る必要はありません!!」「弟子入りを考慮する理由としては十分よ」「こ、こいつが弟子に相応しいって言うんですか!?」「ええ、相応しいわ」「うぐっ」 うわぁ、論破はやっ。 永琳さんの言葉に、早々と二の句が告げられなくなるレイセンさん。 まぁ確かに、こっちが弟子入り望んでてあっちもそれを認めているなら、弟子入りには何の問題もないよね。 おまけにレイセンさんは、その弟子入り認定騒動の過程で僕に負けている。 ……この状況からの反論は難しいだろうなぁ。 もっとも、弟子入り云々の話はてゐの捏造なんだけどね。 さて、いつまでも傍観はしていられないワケですが、これから僕はどうすればいいんだろうか。「ねぇ文姉、どうしよう。話がどんどん僕の手を離れて遥か遠くへと旅立とうとしてるよ」「……晶さんの好きにしたらいいんじゃないですか」 おねえちゃんいくらなんでもそっけないです。 僕が話しかけても、そっぽを向いてまともに答えてくれない文姉。 すいません、この状況下で相談に乗ってもらえないのはかなり辛いんですけど。「あーらら、ブン屋はだいぶ機嫌が悪いみたいだね。晶がかなり無茶したから怒ってるんじゃないの?」「うーん、怒ってるのとはまた違うと思う。むしろ怒ってないからこそタチが悪いというか」「そうなの?」「そう。怒ってるというよりは……自己嫌悪中かな?」 恐らく、僕に無茶させてしまった自分が許せないんだろう。 僕としては、あの状況で文姉がフォローする事の方が難しかったと思ってるんだけどね。 何しろ四季面の特性には、僕自身でさえ気づいてなかったんだから。 でも、文姉は根っこの所が生真面目だもんなぁ。 頭で理解出来ていようと、自分の中で折り合いをつけなければ次に進む事が出来ないんだろう。「私には、怒っているようにしか見えないんだけど?」「いや、拗ねてるんだよ。今謝るとさらに機嫌が悪くなるから、ちょっと時間をおこう」 あれ? なんかこういうやり取り、かなり前にした気がする。 その時はてゐの位置に僕が居たような……気のせいかな。「じゃあ、晶は単体でししょーに挑まねばならんという事か」「………あ゛っ」「……見事に忘れていたみたいだね」 そういえば、元々助けを求めるために話しかけたんでした。 レイセンさんと永琳さんの話し合いは、永琳さん優勢のまま膠着状態に入っている。 このまま黙って見ていれば、消極的賛成で弟子入りが認められてしまうだろう。「ならてゐ、少しでいいから手伝ってくれない?」「晶が弟子になる事で、私に不利益が出るって言うならね」 永琳さんを説得するためにさらにてゐを説得しろってか、無茶言うな。 頼れるのが自分だけだと理解してしまった僕は、思わずため息を吐いた。 ……まぁ、弟子入り志願が誤解だという事を説明すれば、とりあえず何とかなるだろう。 援軍を諦めた僕は、自分で問題を解決すべく永琳さんに話しかけた。「あの永琳さん……」「だけど、薬師としての修業は後になるでしょうね。晶さんの場合、まずは応急手当を覚えた方が良さそうだもの」「応急手当、ですか?」「ええ、自分の怪我を治療できるようになれば、貴方も幾分か弾幕ごっこが楽になるでしょう?」「……た、確かに」 自分でもイヤになるくらいナマ傷の絶えない生活を送ってきたからなぁ。 そう考えると、医療技術の習得は僕の境遇的にかなり役に立ちそうな気がする。「いや、晶が説得されてどうすんのさ」「はっ!?」 しまった! 甘い言葉に釣られそうになった!? てゐの言葉に冷静になった僕は、思わず「はい」と言いそうになった口をふさぐ。 でも、そう考えると僕にとってもプラスな提案なんだよね、弟子入りって。 って落ち着け僕! レイセンさんの汚物でも見るような目を思い出すんだっ! ……うん、泣けてきたけど落ち着けました。「あの、すいません永琳さん。僕って幽香さんのペ――保護下に入ってる上に紅魔館の客人でもあるので、これ以上肩書きが増えるのはちょっと」「ちょい待ち、ストップ」「ほへ?」「あ、あなたっ、あの悪魔の館の面々や花の妖怪とも関係があるのっ!?」「さすがに私もビックリなんだけど、アンタ顔広すぎ」 てゐとレイセンさんが、やたら強張った顔で話を中断させた。 なんか紅魔館の人達や幽香さんの事を言うと、毎回似たようなリアクションが返ってくるよね。 畏敬と言うか腫物扱いと言うか、とにかく非好意的な反応しか見たこと無い気がする。 ……あの人たち、本当に普段は何をしてるんだろうか。 親しい方々の素行に疑問を抱きつつ、僕は二人へ気になった事を尋ねた。「二人とも、幽香さんやレミリアさんの事を知ってるの?」「あいつらは悪魔よ!」 まぁ、スカーレットデビルですもんね。って意味合いが違うか。 やたら身体を震わせ半泣きになるレイセンさん。 意味が分からないので、とりあえずてゐに救助の視線を送ってみる。 こらそこ、面倒な事をこっちに振るなよみたいな顔しないの。今僕の頼れる相手は君しかいないんだから。「あいつらを良い人だと思ってる晶には分かんないよ」 しかも、凄くどうでもいい感じにそんな事言うし。 幾ら僕でも、そこまで無条件に身内を信じるわけじゃないんですが。「納得してない顔だね」「いや、そもそも説明してないのに納得できるわけないじゃん」「そうだなー。あの二人、実は幻想郷を地獄に変える未曾有の大災害を引き起こしたんだよ――って言ったら信じる?」「うーん……ごめん、信じられない。レミリアさん当たりなら、自分の住みやすいように幻想郷を作りかえるとかはやりそうだけどね」「そう来たか。やっぱり晶って、変なとこはしっかり見てるよね」「そ、そうかな?」「変なとこだけだけどね。……まー、鈴仙にとっては大災害並みの出来事があったと思っておけばいいよ」 てゐはため息交じりにそう言った。 この様子だと、その大災害並みの出来事にはてゐも関わっていたんだろう。珍しく被害者側で。 そんなてゐの困り顔を見てしまうと、さすがにそれ以上話を追求する事は出来なかった。 ……一回つつくと五倍くらいになって返ってきそうだしなぁ。 しかしそうなると必然的に、残された選択肢は弟子入り関連の話に戻る事だけになってしまう。 僕が視線を横にズラすと、待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる永琳さん。 何故か土蜘蛛の話を思い出した。お客様の中に頼光はいらっしゃいませんか。「えーっと、その、永琳さん? さっきの話に戻るんですが……」「そうね。なら、時間がとれる範囲で永遠亭に来てくれればいいわ。週に一度も良いから顔を出しなさい」 勇気を出して話題を戻した矢先に、永琳さんから意外な言葉が出てきた。 てっきり「おはようからおやすみまで勉強漬けの楽しい弟子生活を送ろう」とか言われると思っていたので、少しビックリ。 でも、それはそれで楽しそうかも。 月の知識を一日中学べるのかぁ……はっ!? 危ない危ない、自分の想像にかどわかされる所だった。「あの、本当にそれでいいんですか?」「私もやる事が色々あるから、そちらの方が都合がいいのよ。貴方にとっても悪い話ではないでしょう?」「そうですね。それくらいなら許可も下りそうですし」 空いた時間でいいなら、他との折り合いもつけやすいもんね。 あれ? いつの間にか弟子になる前提で話が? 「では、これから私の事を『師匠』と呼ぶように。良いわね、『晶』」「え、でもその」「――――良いわね?」「……了解しました、お師匠様」 嗚呼、浄水器を買わされた人間の気持ちってこんな感じなのかな。 満面の笑みの裏側にあるカリスマという名のサカラッタラ○○ス的なオーラに押され、頷いてしまったチキンな僕。 さすがのてゐも、露骨に呆れた目でこっちを見ている。……ううっ、心が痛い。 あと文姉、拗ねてるだけだったくせに「やっぱりこうなったか」みたいな顔をしないでください。泣きたくなります。 レイセンさんは……あ、まだトラウマから立ち直って無いのか。震えてるや。「では、とりあえず今後の予定を軽く決めておきましょうか」 そんな微妙な空気の中でも、あくまで永琳さん――もといお師匠様はマイペースに話を進める。 いや違う。あれは間違いなくワザと無視しているんだ。 必要以上に笑顔の眩しいお師匠様の態度に、僕は確信を抱くのだった。「天才薬師の弟子、と言う新たな肩書が加わった事に関して一言どうぞ」「一生恨んでやる」「私がフォローしてたって、晶さんは弟子になってましたよ。あのノリじゃあ」「……うぐぅ」 まさしくその通りなので反論が出来ない。 自己嫌悪から復活した文姉は、テキパキと僕にツッコミを入れてきた。 さすが文姉は頼りになる。後は僕の心が再起不能になる前に止めてくれると、文句のつけどころが無くなります。「すいません。別に責めているわけじゃないんですよ」「えっ?」「晶さんはそれで良い。そう言いたかったんです」 ……それはつまり、流木のように場の状況に流されまくれという事でしょうか。 思わず泣きそうになった僕の顔を見て、文姉は慌てて言葉を付け加えた。「べ、別に馬鹿にしているわけでもないんですって!」「……そうなの?」「そうですよ。私が良いと言ったのは、流された事ではなく月の頭脳に弟子入りした事なんですから」「さっきは呆れてたのに?」「そりゃ呆れますって。終始相手にペースを握られていたじゃないですか」「うぐぅ」「ですが、弟子入りそのものには賛成しているんです。そうですね……晶さんは八方美人なくらい丁度いいんですよ、きっと」 いや、どっちにしろ酷い言われようじゃありませんか? 幾らなんでも八方美人は無いでしょう。 だけど文姉は、まるでそれが褒め言葉だと言わんばかりに笑って見せた。 笑みの中に何割か、意地悪な感情も込められてるみたいだけど。 文姉の笑顔には、出かかった文句を引っ込めるくらいの優しさが込められていた。「ま、お人好しの晶さんには「皆と仲良くできる凄さ」なんて分からないでしょうから、刺されないよう気をつけてもらう以上の事は望みませんよ」「ええっ、刺され!? どういうことっ!?」「自分の玩具に手を出されると、烈火の如く怒る方だらけなんですよ。幻想郷は」 まるで説明になってない事を言って、おしまいとばかりに手を叩く文姉。 良く分からないけど――つまり今まで通りで良いってことかな?「はぁ……相変わらず見事に分かっていないみたいですが、まぁいいでしょう。それより」「はい?」「お願いですから、帰りはしっかりついてきてくださいよ」「あ、あはははは」 そうそう。今僕らは紅魔館へと帰るべく、迷いの竹林を進んでいる。 お師匠様はもう少し永遠亭に居ても良いと言ってくれたけど、あまり長居はしていられないので遠慮させてもらった。 何しろ僕が倒れたせいで、日帰りだった永遠亭取材が丸一日伸びてしまったのだ。 昨日は紅魔館に連絡する暇もなかったから、きっと皆心配してるはずだろう。……はずだよね? とにかくそういうわけだから、僕が早急に帰ろうとする事は至極当然の話なのである。 だから間違ってもレイセンさんの殺意溢れる目が怖かった事は、この急な帰還には何の関係もない。断じてない。「迷いの竹林に関してはもう大丈夫だよ。道筋は全部‘見えて’いるから」 とりあえず、未だ心配そうな文姉にそう言って笑みを返す。 訪れた頃は前後左右すら分からなかった迷いの竹林だが、今はもう迷う気がしない。 僕のその言葉に、文姉は納得したように感嘆の声を漏らした。「なるほど、狂気の魔眼ですか」「そういう事。物の波長を捉えるこの目なら、竹林でも迷うことなく動く事ができるんだ」「……なんか晶さん、段々何でもありになってきましたね」「そ、そうですね」 成長しても結局なんか言われるんですか。 呆れ顔でそんな事を言われたから、ちょっとしょんぼりな僕。 まぁ、これで僕が迷わない事は分かってもらえただろう。「そういうワケだから、安心して進んでもら―――」「晶さん?」「くせものっ!」 氷でナイフを作り出し、竹林の奥へ五つほど無造作に投げ込む。 以前てゐも言っていたけれど、狂気の魔眼はその特性ゆえに強力な策敵能力を持っている。 だからこそ僕は、文姉ですら見逃していた相手に気付く事が出来たのだ。 不意に放たれたナイフに驚いたのか、竹林の奥に居る相手は動きを止めた。 僕はさらにナイフを構成し、その相手に向って警告をする。「さぁ、大人しく出てくる事をお勧めするよ。次は当てるっ!」「ちょっと、ストップストップ! 私だって私!!」「……あれ?」「まったく、いきなり攻撃してくるとは思わなかったよ」「おや、誰かと思えばてゐさんじゃないですか」 謎の影の正体はてゐだった。 なるほど、道理で見た事がある波長をしていると。 ……嘘ですスイマセン。本当は話しかけられるまで全然分かってなかったです。「どこぞの暴力魔女じゃないんだから、見敵必殺撃つと動くぜとか勘弁してよー」「ご、ごめん。僕たちを偵察するみたいにこっそりと近づいてくるものだから、てっきり敵意ある相手かと」「お互い不幸な行き違いがあった! 大切なのは許しあう事さっ!!」「なんだ、てゐさんの自業自得じゃないですか」 教育テレビの締めみたいな言葉で誤魔化そうとするてゐに、文姉の冷静なツッコミが入る。 いやほんと、頼りになる姉ですね。「……ところで、なんでてゐがこんな所に?」「そういえばそうですね。何か忘れ物でもあったでしょうか」 文姉の疑問の言葉に合わせて、僕も首を傾げる。 永遠亭を出るにあたってきちんと挨拶は済ませているし、今後通う予定も大まかだけど決めたはずだ。 僕も文姉も大した荷物は持ってきていないから、何かを忘れたって線も薄いだろうし。 思い当たる範囲では、てゐが僕達を追っかけてくる理由は見つからないのだけど。 そうやって困惑する僕達に、てゐはヒラヒラ手を振りながら苦笑して見せた。 「いやいや、別にそういうワケじゃないんだよ。ここに来たのは個人的な理由でね」「個人的な理由?」「うん。まぁぶっちゃけて言うと―――鈴仙に弟子入り関連の嘘がバレました☆」「……今更?」「そう、今更。だから逆に鈴仙の怒りに触れちゃったみたいでねぇ」 そりゃそうだ。 弟子入り希望の話が嘘だったとしても、僕が弟子になった事まで無効になるワケではない。 そもそもレイセンさん以外の全員が、その話は嘘であるという前提で弟子入り話を進めていたのだし。 ……ああ、だから余計に怒っているのか。 言ってしまえばレイセンさんは、自分の目の前で堂々と話からハブられてしまったのである。 しかもその理由が、「レイセンさんは反対しようとするから」だ。 僕なら、間違いなく涙で枕を濡らしていた事だろう。 「まったく、あんな嘘つくからそんな事になるんだよ」 だからこそ、僕には自業自得以外の言葉が出てこなかった。 いや、僕にも責任の一端はあるんだろうけどね。 ここまで事態が厄介に捻じ曲ったのは、間違いなく永遠亭の方々が好き勝手にやったせいだ。「へん、良く言うよ。晶だって鈴仙が怖いから永遠亭から逃げ出したんだろー?」「に、逃げだしたワケじゃないよっ! ただ、紅魔館で待ってる皆を心配させないようにと」「晶さん、さすがにその言い訳は無理ありすぎです」「……やっぱり?」 さすがに、二回続けて自分を騙す事は出来ませんでした。 思わず苦笑した僕を見つめ、これ見よがしにニヤニヤするてゐ。 ううっ、やっぱり一回つついたら五倍になって返ってくるし。 思わぬ反撃に閉口していると、てゐは肩を竦めながら皮肉げに笑い返してきた。「まー真面目な話、今のアンタと鈴仙に必要なのは‘時間’だと思うよ」「時間?」「やたらめったら顔を合わせたら、多分逆効果になるって事さ。今の鈴仙はだいぶ意固地になってるみたいだしね」「鈴仙さんがあそこまで拒否反応を示す、と言う事はなかなかありませんものね」「そういう事。とにかく、鈴仙との関係を改善したければ地道に時間をかけた方が良いと思うよ」「うーん、それでいいのかなぁ?」 出来ればレイセンさんとは、しっかり話し合って和解したいんだけどね。 そんなニュアンスを含めて呟くと、呆れた顔の二人からアホの子を見るような目で見られていた。「晶さん、それは幾らなんでも楽観が過ぎますよ」 「あのさー。感情ってもんが、話し合いや素敵イベントの一個や二個で簡単に改善されると本気で思ってんの?」「えーっと……その」 思ってたんですけど、まずかったですかね?「確かに、一気に仲良くなるやり方もあるっちゃあるよ? ただし、だいぶ‘演出’が入ると思うけどね」「―――ゆっくり和解していきます」 その‘演出’はきっと、僕かレイセンさんが死ぬような目に会う事なんだろう。 意地悪な笑みを通り越して悪役笑いになったてゐの言葉に、死の恐怖を感じた僕は素直に引き下がった。 確かに二人で一緒に極限状態へと陥れば、わだかまりなんてあっという間に解けるに違いない。 ただし、その後お互い無事でいられるかはまた別問題だ。「分かれば宜しい。まー私にも責任はあるから、仲直りくらいなら手伝ってあげるさ」「ありがと……って言うのはちょっと違うか。とにかく、頼りにさせてもらうよ」 僕の背中に飛び乗り、てゐがニヤニヤと笑いかけてくる。 ああ、何とも恐れ頼もしい姿だ。傍から見ると子供がジャレついているようにしか見えないけど。「それにしても……てゐさん、なんかヤケに協力的ですね。いったい何を企んでいるんですか?」 しかし、そんなてゐの態度が文姉には引っかかったらしい。 探るようなジト目で、僕の背中に乗ったてゐをじっと睨みつけている。 ……あと、微妙に羨ましそうな目で僕の事も見ている。 ごめんなさい。男の子的な理由から、文姉をおんぶするのは遠慮したいです。「ほら、さっき鈴仙がブチ切れたって言ったじゃん」「言ってましたね。ですが、それもいつもの事でしょう?」「いやー、今回のはちょっと根が深いんだよね。やった事がやった事だからさ」「そ、そんなに酷いの?」 「増毛したハリネズミより刺々しかったね」 例えは良く分からないけど、尋常でないくらい怒っている事は分かりました。 なんか、改めてレイセンさんと会うのが怖くなってきたなぁ。 一応弟子入りしたから門前払いは無いと思うけど、後輩イジメとか始まらないよね?「おかげで永遠亭に居辛くなっちゃってね。しょうがないからほとぼりが冷めるまで、晶に同行させてもらおうかと思ってさー」「なるほどねぇ―――ってえぇっ!?」「はぁ、何とも図々しい事を言い出しますね」 あ、だから僕達を追っかけてきたのか。 なるほど納得、ではなくて。「い、良いの!? てゐも永遠亭で色々仕事があるんでしょ!?」「ししょーの許可は取ってるから問題ないよ。おかげで色々言いつけられたけどね」「永琳さんが良く許可を出しましたね。永遠亭、今だいぶ忙しいんでしょう?」「兎共にはししょーの言う事聞くように言いつけておいたから人手の方は問題ないよ。それにさっきも言ったじゃん、仲直りには時間をかけた方が良いって」 「うっ、なんかゴメン。僕のせいで面倒な事になっているみたいだね」「そう思ってるなら同行させてくれない? 私、竹林がテリトリーだから余所とのコネがあんまり無いんだよ」 うーん……まぁ、一人くらいなら大丈夫かな? ちらりと文姉の方をうかがうと、僕に任せると言った感じで肩を竦められた。 ううっ、基本的に僕の立場はペットだから、こういう判断を振ってほしく無いんですが。 まぁ、てゐは策士だけど悪いヤツでは無いから、ちゃんとお願いすれば大丈夫だろう。……多分。「えっと、大人しくしてるって言うなら同行しても良いよ。うん」「ふっふっふ、そこらへんは任せてよ。まるで借りてきたミーアキャットのように大人しくしているから」「いや、キャットってついてるけどそれ猫じゃないから、マングースの一種だから」「ちなみにミーアキャットは、その荒い気性から「動物界のギャング」と呼ばれているんだよ☆」「余計ダメじゃん!?」「大丈夫ですよ。てゐさんが強い相手に喧嘩を売るわけないじゃないですか。悪戯にさえ注意を払っていれば、基本無害ですって」「そーそー、私ってばチキンだから。晶に迷惑はかけないよ?」「兎の味は鶏肉に似ているといいますしね」「その通り!」 いや、その通りって……まぁ、本人が問題ないなら良いけど。 文姉のブラックジョークをあっさり受け流し、てゐは僕の肩に自分の顎を乗せる。 「そういうわけだから、よろしく頼むよ。晶」 ちろりと舌を出し、こちらにウィンクを飛ばすてゐ。 まったく、頷けばいいだけなのに、無駄にこっちを不安にさせてくれるんだから。 あくまで自分のペースを崩さないてゐに、僕は苦笑を漏らす。 まぁ、あからさまに嘘くさく猫かぶられるよりは、ずっと良いと思うけどね。 「うん。こちらこそよろしくね、てゐ」 こうして僕は、新たに因幡てゐという同行者を得た。 出来るなら、これが新たなトラブルの基のならない事を願いたいんだけど。 ――――まぁ、無理だよねぇ。 ◆白黒はっきりつけますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【色々教えろっ! 山田さんっ!!】山田「一部の方々お待たせしました、白黒バッサリ「色々教えろっ! 山田さんっ!!」のコーナーです」死神A「出番はやいなぁ……つーかこれ、本編の後にやるんですか?」山田「まとめてやるよりこっちの方が効率が良いと作者も気付いたようです。思い付きでやる人間はこれだから」死神A「あのー山田様? 今回はツッコミ不在なんで、あんま無茶なボケは止めてくださいよ?」山田「仕方が有りませんね。無駄に容量を消費するのは善行とは言えませんし、早速質問に移りましょうか」 Q:意識を失っていた晶の回復が、なんで異常に早いの?死神A「確かにおかしいっすね。能力ってオートで使えましたっけ?」山田「いえ、違います。正確に言うとこれは、熟練度と隠れ機能の問題なのです」死神A「山田様、おまけコーナーなんで簡潔にお願いします」山田「熟練度、というのは「どれだけ能力に慣れているか」と言う事です。慣れていればいるほど能力は強力になります」死神A「覚えたての「魔眼」と常時使っている「気」では、力のレベルが違うって事ですかね」山田「そう思って違いありません。特に晶さんはナマ傷が絶えませんから、自己修復能力のレベルが半端でない程高くなっているのです」死神A「だから丸一日で完治したのかぁ。……で、隠れ機能ってのは?」山田「実は晶さん、相手の能力を覚える事で自身の力が底上げされるんです。以前にもそういう事があったでしょう?」死神A「ああ、氷精に氷漬けにされた時の話ですか。確か、冷気に耐性ができていたんですよね」山田「はい。能力が追加されるごとに、晶さん自身も少しずつ強化されていきます。もちろん、気を使う程度の能力も晶さんの力を底上げしているのです」死神A「マジで人間離れしていくワケですね。ちなみに、今はどんだけ強化されているんですか?」山田「では白黒はっきり付けた私が説明しましょう! 晶さんに追加された特性は以下の通りです。 ○冷気を操る程度の能力 →冷気耐性 ○風を操る程度の能力 →風耐性、風の流れが読める ○気を使う程度の能力 →身体能力やや強化、回復力増強 ○狂気を操る程度の能力 →幻覚耐性、視力強化 これらは意図した能力の使用とは別に、自動で晶さんを強化します。分かる人には、パッシブスキルだと説明しておきます」死神A「本当に分かる人にしか分からない説明ですね。……つーか、マジで人外じゃないですかソレ」山田「普通の人間より遥かに頑丈。という認識は間違ってませんが、幻想郷では大したレベルの話ではありません」死神A「そうなんですか?」山田「回復力などは瀕死から即座に立ち直れる程に強化されていますがね。あくまで他は、人よりすごい程度のものですよ」死神A「あー、単に致死率が下がっているだけ、っつーことですかね」山田「そういう事です」死神A「(……不憫だ)」山田「では、もうひとつ質問をいただいているので、それを最後に今回のコーナーを終りとしましょう」 Q:晶君の身長ってどれくらい?死神A「確か、年齢のわりに低めでしたよね」山田「はい。具体的な数字は不明ですが、私以上、射命丸文未満くらいの体躯となっております」死神A「ちっこいなぁ……だから女の子扱いされるんだよ」山田「身長のコンプレックスと言うのは、男女関係なく等しく降りかかるものです」死神A「ああ、そういや山田様もちっこ……」山田「(にっこり)」死神A「あ、次の質問行きましょう次の質問」山田「これで最後だと言ったはずですよ? さぁ、残りは貴方に対するお説教の時間になりそうですね」死神A「いやいや、その、今のはちょっとした失言で」山田「お黙りなさい! 貴方は胸も背も欲張りに増やし過ぎる!! 少しは反省なさいっ!!!」死神A「幾らなんでも言いがかり過ぎる!?」山田「いいですか、そもそも女性の胸と言うのは母性の象徴と言われる程神聖なもので」死神A「と、とにかく、「色々教えろっ! 山田さんっ!!」次回もヨロシクお願いしまーす」山田「終わらせませんよ!!」死神A「ひ、ひぇぇぇ」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど