巻の三十五「主よ、助けてくれとは申しません。私の邪魔をしないで下さい」「――失礼します。やはり、退屈そうにしておられますね」「ええ、ご期待に添える報告となりますよ」「変わった人間です。……ふふっ、そうですね。あの紅白や黒白に近いタイプかもしれません」「あら、それだけでは興味を惹かれませんか」「私の意見ですか? そうですね、試す価値はあると思いますよ。―――かの五つの難題に、応える器があるかどうかを」「ふふっ、では少しお話をしてみます?」「畏まりました。少々お待ち下さい――――姫様」「えー、それではお茶を持ってきますので大人しくしてなさい特にそこの人間」 不機嫌さと敵意を隠そうともしないで、安静にすべきはずのレイセンさんが立ち上がる。 永琳さんに押されるまま永遠亭に案内されてしまった僕達は、やはり流されるまま座敷の一つへと通された。 ところが、招待者である永琳さんは早々とどこかへ行ってしまったのだ。 残されたのは、接客する気が無いてゐと色々言付けされていた彼女だけで。 必然的にレイセンさんは、怪我した身体で客人である僕達をもてなす羽目になってしまったワケだ。 ああ、見え隠れする包帯が痛々しい。だけど、ブレザー、ウサ耳、包帯の組み合わせはあざと過ぎるんじゃないだろうか。「アンタにだけは言われたくないわよっ!!」「はわわっ!?」「れ、鈴仙? どしたの?」「晶さんが何かしましたか?」「分からないわ……だけど、今何故か「お前が言うな」的な不愉快さが急に」 ……彼女、クロコゲになった影響で精神不安定になってない? 目眩を抑えるように頭を押さえ、首を傾げつつその場を後にするレイセンさん。 残されたのは、僕と文姉と何故かお客様の位置にいるてゐだけだった。 って、てゐさん? 何故君はそこにいるんでしょうか?「気にしない気にしない」「……心を読むのは、幻想郷のデフォルト技能なの?」「気にしない気にしない」「…………」 いや別に、心読まれるのも横に居られるのも全然構わないんだけどさ。 どうも君が突飛な行動を取るたびに、何かあるんじゃないかと勘ぐってしまうわけなんですよ。 ここにいるのも半分くらいはてゐの仕業だしなぁ。残り半分は……何も言うまい。「文姉もゴメンね? なんか、取材どころじゃなくなったみたいで」「いいんですよ。それよりも私は、晶さんの体の方が心配です」「心配って……僕は無傷で弾幕ごっこを終えたんですが」 身体中擦り傷だらけな上に打ち身で全身ギシギシいってる事に加え畳みかけるようにたんこぶも出来てるけど、これ全部やったのは貴方ですよね? 回避も防御もできない耐久スペルはただの拷問なんだと、おかげでシミジミ理解しましたよ、ええっ。「ブン屋が心配してるのは、アンタが弾幕ごっこ中にやった『変化』による影響じゃないの?」「面変化の事? 何か心配するような所があったっけ、アレに」「ありまくりです! 狂気の魔眼による性格変化に上位の妖怪を真似るという無茶までやっておいて、「心配する所はない」なんて言わないでください!!」「そ、そうかなぁ……?」「普通に考えたら、心狂うか体壊すかして人生終わらせてるよねー」 てゐは気楽そうに言ってるけど、文姉の方は本気でその心配をしているようだった。 まぁ、言われてみると確かにそうだ。理屈の上で考えれば、僕がこうしてオシオキの痛みにだけ耐えている事は本来ありえない。 文姉を真似……げふんげふん、鴉天狗を真似た天狗面の方はまだ問題ない。 元々僕自身の基本戦法はヒットアンドアウェイだ。 同時にスペルカードを使えるようになりはしたけど、そこまで逸脱した力が備わったというワケでもない。 問題なのは、幽香さん……げほげほ、四季面の方だろう。 普段の僕は気の使い方を、「強度」――要するに頑丈さに主眼を置いて強化している。痛いのは嫌だからね。 ……や、一応「身体能力は強化してもあんまし使わない」という真っ当な理由もあるんですよ? けど、結局のところ強度の方を優先している一番の理由はソレだから、無駄にカッコつけてもしょうがなくてね。 戦法的に要らないだけであって、あればあったで他の使い道が出来るものだし、それは。 ……言い訳ごめんなさい。そもそも問題ってそこじゃないですよね。「確かに、あれだけ無茶苦茶な身体強化しておいて、全然平気なのは僕もおかしいと思うけど」「分かってるんじゃないですか……」 気で強化している事を考えても、あの身体能力の向上は異常過ぎる。 普通に考えれば、身体のセーフティ的なものが外れているとしか考えられない。 後遺症がないのかを文姉が気にしているのも、至極真っ当な事だと言えるだろう。 ……実を言うと、デメリットがない事に関しては、僕も僕なりに仮説を立ててはいたのだ。 ただ、あまりにも突飛……と言うか、その、何と言うか、かなりアレなので、口にはしなかったのだけど。「とりあえず、無事なんだからいいじゃん」「そういうのを問題の先送りと言うんですよ」「目先の問題を見なかった事にする天才だよね、晶って」 「あははははー」 二人のもっとも過ぎるツッコミに苦笑だけを返す。 こんな仮説、言えるはずがない。言ったら恥をかくに決まっている。 そう、‘面による変化で発揮されているモノこそが、僕の能力で出せる本来の力じゃないのか’なんて。 ……我ながら、自信過剰にも程がある妄想だと思います。 いや、根拠なら一応ある――というか、前から似たような事を考えてはいたんだけどね。 能力が劣化するのは、僕が人間だからなのだろうかって。 人が妖怪に敵う事はない。というのは、未だ変わらぬ僕の根底にある認識だ。 だけど、幻想郷にはその認識を崩す人間が存在していた。 十六夜咲夜さん。吸血鬼の最も信頼する侍従で、紅魔館でも屈指の実力者である。 彼女が人の身でありながら強者の地位を保っていられるのは、強力な能力があるからに他ならない。 少なくとも、力の無い者に己の傍を許すほどレミリアさんは甘くないのだ。 彼女を見ていると、「人だから」という理由が能力の劣化に繋がるとはどうしても思えない。「……だけど、僕自身が‘人は妖怪に勝てない’と思い込んでいたらどうだろう」 「相手の能力を写し取る程度の能力」という力の特性上、僕には必ずオリジナルという「比較対象」が存在してしまう。 それが、精神に依存している幻想の力にどう影響を与えるのかは、改めて言う必要もないはずだ。 劣化させているのが、僕自身の思い込みにあるというのなら。 それを取り払った面変化の能力が強化されるのは、当然の結果であると言える。 ……うん、やっぱりこの仮説は都合が良すぎるよね。 仮に真実だとしても、素の僕の能力劣化が治らない事に変わりはないんだし。 「それに、体力に関しては完全に人間基準なんだよね。僕って」 この際だから心の内で白状しておきますが、後一発休まずに四季面でマスタースパーク撃てばヘロヘロになります。 いや、普通に戦う分にはまだ問題ないんですけどね? やっぱりアレ系の技は消費激しいです。「色々考察しているのは分かるけど、もう少し台詞を漏らしてもいいんじゃない?」「へっ?」 気づけば、てゐが僕の口にウサ耳近づけメモを取っていた。 どこからともなく取り出した手帳には、ミミズののたくったような文字で何かが書かれている。 下手なのか暗号なのか分からない所がてゐらしい。 だけど少なくとも、そこに僕の弱みっぽいモノが書かれている事は間違いないはずだ。 本当に、この妖怪兎は他人の隙を見逃さないね。「な、何でも無いですって。ただの根拠皆無な仮説ですよ? 弱点とか欠点とかの話でもないよ?」「追及して欲しくなければ永遠の忠誠を誓え」「代償でかいなぁっ!?」「ジョークジョーク」 可愛らしく舌なんか出して誤魔化したけど、今のが本気だって事くらい分かってるからね? ここで冗談交じりに「じゃあソレで」とか答えたら、その瞬間に既成事実をでっちあげて本当に下僕にする気でしょ。 瞳の奥に、ひっそりと輝く策士の光を見逃すと思わないでほしいね。「………ちっ」 本当に怖いですこの兎詐欺、いちいち気が抜けないんですけど。「晶さんの推測は適当半分思いつき半分ですから、メモする価値はありませんよ」「……酷いと思うのに否定できない自分に泣きたくなりました」「自覚あるなら直せばいいのに」 無理っす。いろいろ理屈は考えるんだけど、最終的に「結果が合っていればいいか!」となるのが僕の悪い所です。 まぁ文姉の言う事ももっともだし、これ以上思考の翼を広げて明後日の方向に飛んで行くのは止めておこう。「ちなみに、身体だけでなく心の方も心配してるんですが、そっちはどうなんですか?」「ああ、そっちは全然大丈夫だよ。たぶん」「おやおや? こっちは自信がありげだね。最後に弱音ひっ付けたけどさ」「うん。面変化してる時って、性格は変わってるけど中身は変わんないんだよね。あの感覚は、FPSってジャンルのゲームをやってる感じに近いかも」「………はい?」「………あや?」 うっ、さすがに今の例えは伝わらないか。反省反省。 一応自分の意思が反映されているのに細かい所で差違が出る部分とか、面特有の‘お喋り’を止められない部分とかは特にゲームっぽいと思うんだけど。 違うのは、痛みが伴う所と確実な攻略法が無い所くらいか。 もちろん例えただけであって、本当にゲームと割り切る事はできません。割り切って痛い目に遭うのは僕だしね。「良く分からない例えですが……まぁ、一応大丈夫という事で納得しておきますよ」「そうしてください。詳しく説明を求められると答えられそうにありません」 自分で自分を説明できないというのは、思った以上に辛い。 けど、幻想を理屈で語りきっちゃうのも、それはそれで間違っている気がする。 結局感覚で理解するしかないんだよなぁ……今度、理論的に自分の力を語れそうなメンツに話を聞いてみようか。「随分と話が弾んでいるようね――あら?」 僕達がそんな、生産的なのか無駄なのか分からない話を重ねていると、座敷の奥から永琳さんが入ってきた。 彼女はぐるりと部屋の中を見渡し、怪訝そうな顔をてゐに向ける。「ああ、鈴仙ならお茶を入れに行ったっきり戻ってきませんよ」「そうなの。……そんなに時間がかかるはずないのにねぇ」 そういえばレイセンさん、全然戻ってこない。 すっかり忘れてたけど大丈夫だろうか。廊下の途中で倒れてたりしてないよね。 しかし、そんな僕の不安なんて考えてもいないのか、永遠亭の二人はあっさりそれでレイセンさんの話題を切り上げた。 ううっ……ヒエラルキーの最下層って悲惨だよね。「そうそう。ブン屋さん、貴方取材に来たのよね」「はぁ、そうですが」「今、‘許可’を取ってきたから、私達の‘道具’を幾つか見せてあげてもいいわよ?」「あややっ!? 本当ですかっ」 永琳さんの言葉に、文姉の顔色が変わる。 だけど色々おかしくないかな、今のセリフ。 僕の聞いた話では、永琳さんが永遠亭の元締めだったはずだよね? なら、いったい誰から許可を取ったって言うんだろう。 それに文姉の興奮具合もちょっとおかしい。僕の持ってきた道具を見せられた時のようにハイテンションだ。 ……良く考えたら僕、永遠亭に関して全然情報を持ってないんだなぁ。「ええ、てゐが迷惑をかけたお詫びも兼ねてるから、遠慮しなくていいわよ」「本当ですか! やりましたね晶さん、大スクープの予感ですよっ」「あ、うん。やったね文姉」 だから、どこらへんが大スクープなのかを淡々と説明台詞で分かりやすく漏らしてください。 ……ダメっぽいか。文姉ってば完全にゴシップモード入ってるもんね。 こうなると彼女からは、倫理観や平常心や姉心が完全に失われてしまうしなぁ。「ただ、申し訳ないんだけど晶さんは連れていけないの。そういう条件を出されてね」「晶さんは大人しくしててくださいよっ!!」「……はーい」「あー、やっぱブン屋はブン屋かー。ちょっと安心した」 確かに最近、別の側面が主張しまくってたからね。 だけど、ここまで来て置いてきぼりくらうのはちょっと寂しいかも。 どんな道具があるのか、僕も態度には出さなかったけど興味はあったのになぁ。 あ、永琳さんが申し訳そうにこっちを見てる。「ごめんなさいね。代わりと言ってはなんだけど―――てゐ」「はいはい」「貴女は晶さんの面倒を見てあげなさい。いい、永遠亭の‘隅々’まで案内するのよ? ……分かるわね」「……なるほど、了解しましたー」「えっと、端々に陰謀臭を感じさせる言動も含まれてますが、結論としては永遠亭を案内してくれると言う事でいいんですよね」「ダメですよ晶さん! 変に疑いを持つのは彼女らに失礼ですっ」「あーそうですねあやねぇのいうとおりです」 ダメだこの人。完全にスクープに目が眩んじゃってる。 普段あれだけ口を酸っぱくして言っている忠告すら記事のために投げ出すこの人は、困った事に僕の姉です。「じゃ、早速行こうか晶。てゐちゃんが無料で案内してあげるよ」「うわっ、ちょっと!?」 てゐが僕の腕を掴み、勢いよく引っ張っていく。 まるで、これ以上話していたら何かに気づかれると言わんばかりだ。 永琳さんも同じように、文姉を連れてどこかに行こうとしている。 ……嫌な予感がガンガンするなぁ。 果たして僕は、生きてここから帰ってこれるんだろうか。「まったく、てゐの影響かしら……兎の悪戯好きにも困ったものね」「おかげでお茶をいれるのも一苦労よ」「お待たせしました。お茶持ってきました――って、あれ?」「え? 何で誰もいないの? え? え?」「それにしても、なんだかちぐはぐな所だよね、永遠亭って」 しばらくてゐに促されるまま永遠亭案内を受けていた僕は、何とはなしに呟いた。 そんな僕の言葉に、てゐが不思議そうな顔して振り返る。「およ? なんだい急に」「いや、なんか紹介されてて思ったんだけど、ここってちょっとおかしくない?」「どこらへんが?」「……微妙にだけど、なんか「外国から見た誤った日本」的な感じがするんだよね」 基本的に、永遠亭は造りも中身も完全な和の屋敷である。 診療所でもあるため、幾つか現代テイストな部分も見受けられるけど、根本のところは公家屋敷だ。 周囲の竹林を風景の一部とした庭等、雅さを重視した工夫も随所に見えるあたり、主人のセンスはかなりのモノだと思われる。 ……あれ? おかしいな、どこにも誤った所が見つからないぞ?「―――なるほどね。推測は思いつき半分とは、鴉天狗も良く言ったもんだ」「ほへ?」「あながち間違ってないって事だよ。日本滞在歴はアンタより長い外国人だけどね」「えーっと、それってつまり……どういう事?」「……ここの住人はね、月に住んでたのさ」「へっ? 月?」 思わず、屋敷の外を見つめてみる。 とは言え今の時間では、月どころか夜の空すら見えないワケだけど。 そんな僕の態度に、てゐは愉快そうに笑いだす。「その様子だと、永夜異変関連の事は何も知らないみたいだね」「……永夜異変?」「困った主人の無茶ぶりを、もっと困った従者が叶えようとしておこしたイザコザの話だよ」 肩をすくめながら、皮肉げな笑みを浮かべるてゐ。 話の流れから考えると、永遠亭の人たちが関わっている事件なんだろう。 むしろてゐの表情からすると、その永遠亭の人たちが起こしたイザコザなのかもしれない。 ……だとすると、主人が永琳さんで従者がレイセンさん? てゐが自分の事を「もっと困った」と言うとは思えないから、妥当な組み合わせだと思うけど。 被害者ポジション以外の定位置を考えられない彼女が、無茶ぶりとは言えイザコザを起こせるのかなぁ?「ああ、言っておくけど鈴仙は関係ないよ」 こちらの考えをあっさりと見透かしたてゐが、意地悪な顔で僕の勘違いを指摘する。 なんだ、やっぱり違ってたか。 僕としてもこれはないと思っていたから、否定されても驚きはしなかった。 と言う事は、やっぱり……。「居るんだね? 永遠亭には永琳さんの他に、本当の主と言うべき人が」「居るよ。と言うより、私はししょーが一番偉いなんて言った覚えはないよ」「……確かに、元締めをやってるからと言って、その人が一番偉いとは限らないけどさ」「そういう事だよ。まートップってのは、元締め共が足並みを揃えるために祭り上げた奴を指す言葉だしね」「いや、腹黒キャラの広辞苑から引用した言葉を常識のように語られても」 そしてその理屈が事実だとすると、永遠亭の主も祭りの御神輿だって事になりませんか。 ……自分の師匠も「もっと困った従者」扱いしてるし、てゐって永遠亭の一員の割には自由だよなぁ。「あ、ちなみに私は月の住人じゃないから、永遠亭でもちょっと特殊な立ち位置にいるんだよね」「へ? そうなの?」「前に言ったじゃん、私は永遠亭の成立にも関わってるって。いくら時間があると言っても、月の奴らがいきなり地上に拠点は作れないよ」「てゐは地上に来てからの協力者って事? なら何で永琳さんの事を師匠って……」「それが取引の結果なんだけど―――これ以上先は、私よりトップに聞いた方が早いかもね」「……トップ?」 てゐがぴょんと跳んで後方に下がった。 真横にある柱の一つに触れ、何故か僕に向かって手をヒラヒラと振るう。 その仕草に嫌な予感を感じた僕は、慌てて自分の足元を確認した。 良くある板張りの廊下には、何かが仕掛けられているとは思えない。 なら上かな?「勘は鋭いし頭も切れるけど、相変わらず危機感はないねぇ。残念でした、下であってるよ」 てゐの触れている柱の一部が軽く凹む。 それに合わせ、僕の立っていた廊下にぽっかりと穴が開いた。 ……あの、この穴まるで地獄に繋がっていそうなほど深いんですけど、コレいつのまに用意したんですか?「と、飛んで……」「良いから落ちんかい」「ひでぶっ!?」 おもっ!? そして痛っ!? 背中に凄い衝撃と重量が加えられる。 何これ重たい!? 何を乗せられたのっ!? 上からの衝撃に踏ん張れなくなった僕は、そのまま重しと一緒に穴の中へと落ちていく。「うわぁぁぁぁぁあああんっ! 覚えてやがれこの兎詐欺ーっ!!」「やだーっ」「後でお詫状送るだけでもいいから、ちゃんと謝れーっ!!」「やだーっ」「うわぁぁぁぁあああんっ! 泣いてやるぅぅぅぅぅぅううっ!! 生きてても死んでてもてゐの枕元でシクシク泣きじゃくってやるぅぅう!!!」「………余裕あるなぁ」「ぎゃふんっ!?」「あ、落ち切った。……つーか今、かなりヤバい音したね」 落下の衝撃と上に乗ったモノの重量でサンドイッチプレスを受けた僕の意識は、一気に失われていった。 やっぱりこの兎詐欺は、安易に信用する事ができないと切に思いましたとも。 ――文姉、皆。僕は帰れないかもしれません。「まーいいや。頼まれた仕事はこなしたし、戻って鈴仙で遊んでよーっと」 遠ざかるてゐの足音だけが、遠のいた意識の中で何故かはっきりと聞こえるのだった。「ふふっ、良くきたわね。御客人」「私はこの永遠亭の主―――貴方には、なよ竹のかぐやと名乗った方が分かりやすいかしら」「……あのね。驚いたのなら驚いたなりに反応ってものがあるでしょう?」「なによ。この私を無視するなんていい度胸して―――ってきゃぁぁぁああっ!?」「なんで!? なんでこの子、石を過積載した金ダライに押しつぶされているわけっ!?」「ちょ、なんか出てる、なんか出てるーっ!?」「えーりん!? ちょっとえーりん!? 助けてよえーりぃぃぃぃぃぃん!!」