巻の三十四点五「雨は一人だけに降り注ぐわけではない」幽香「…………あら」レミリア「……………ほぅ」パチュリー「…………(ぺらっ)」美鈴「(えっ!? これだけ何かありげに囁いたのにガン無視ですかパチュリー様)」咲夜「(何をやってるの、美鈴。こういう時のために貴女がいるんでしょう?)」美鈴「(いえ、私がこのお茶会に参加出来てるのは、お嬢様の気まぐれ以外の何ものでもないんですが)」咲夜「(……刺すわよ)」美鈴「お、お二人ともどうしたんですか!?」幽香「ええ、晶が私を侮辱したのよ。そんな気がしたわ」美鈴「そ、それはあまりにも言いがかり過ぎるのでは? 晶さんそんな事言わないでしょう」幽香「くすくすっ、晶も成長したものね。後でご褒美をあげないと」美鈴「(無視ですか。そしてそのご褒美は、世間の常識に照らしあわせてもご褒美と言えるんですか?)」美鈴「……えっと、お嬢様の方はどうしたんですかね」レミリア「なに、つくづく面白い運命を持つ男だと思ってな」美鈴「それは、晶さんの事……ですよね?」パチュリー「男の知り合いなんて、後は魔法の森の古道具屋しかいないでしょ?」美鈴「(そもそも男性であった事を忘れていたんですが……さすがに言わない方がいいでしょうか)」レミリア「くくっ、僅かでも運命が揺いだ時のために‘アタリ’をつけていたのだが……さすがは晶だ、いい意味で期待を裏切ってくれる」美鈴「……その、運命にアタリって言う表現がイマイチ良く分からないんですが」レミリア「運命というのは複雑に絡まった毛玉のようなものだよ。先の事になればなるほど絡まっていて、一目では読み辛くなるのさ」レミリア「しかもソイツの糸だけでなく、他人の運命の糸まで絡みついているのだから尚更な」幽香「では、運命に‘アタリ’をつけるというのは、目に見えているその人の糸を掴むようなものなのかしら?」レミリア「ほとんど相違ないよ。もちろん、手に持った糸を弄る事もできるぞ? それが私の持つ「運命を操る程度の能力」の本領だからな」幽香「怖いわねぇ。私も掴まれないよう気をつけなくちゃ、ふふっ」レミリア「安心しろ、貴様のような妖怪の運命はザイルのように図太い。弄るのも面倒だし見るのも面倒だから頼まれたって触れるものか」幽香「あらあら、言うわねぇ」美鈴「(ま、また空気が重くなってきた)そ、それで晶さんがどうしたんですか? また何かトラブルにでも?」レミリア「端的に言うと、死亡フラグを折って立てた」美鈴「……本当に端的ですね。しかも、折ったのに立てたんですか?」レミリア「ああ、むしろ折りながら立てた」美鈴「(晶さん……生きて帰って来てくださいよ)」パチュリー「――はぁ、なによ。結局いなくなってもアイツの話題しか出てこないんじゃないの」咲夜「それだけ皆様、久遠様の事を想っているという事ですよ」レミリア「ふっ、もちろんその中にはお前も入っているんだろう? たった二日で随分寂しそうだぞ」咲夜「……そうですね。最近は久遠様に対する教練も一日の予定に入っておりましたので、無くなった分調子も狂ってしまったのかもしれません」美鈴「あ、それは初耳です。晶さんメイド修行もしてたんですか?」咲夜「いいえ、そちらは実地で覚えてもらっているわ。教えているのはナイフの使い方よ」美鈴「………な、ないふ?」咲夜「貴女の能力を覚えてから、久遠様は氷で道具を形成する訓練を始めたのよ」レミリア「なるほど、以前の魔槍の応用か。確かにアレで自由に武器を構成出来れば、戦い方の幅は大きく広がるからな」幽香「そしてその足掛かりとして、晶は貴女にナイフ術を教わったわけね」咲夜「はい。久遠様はとても優秀な生徒でした。実は二つほどスペルカードも習得させております」レミリア「……それは初耳だな。まさか、奴にお前の能力を教えたのか?」咲夜「いいえ。本人が能力で「真似た」だけです。結果的に同じであったため、習得したと申し上げましたが」美鈴「メイド長です……第二のメイド長が生まれようとしています(ガクガクブルブル)」幽香「……あげないわよ?」レミリア「なに、今のところは客人で満足さ。なぁ咲夜?」咲夜「……………………………はい」パチュリー「(どれだけ手が足りてないのかしら、紅魔館)」レミリア「しかし、晶もここに来た頃と比べて随分と強くなったものだ」美鈴「そうですよねぇ。案外、またどっかで強くなってるんじゃないですか?」レミリア「だとしたら……近いかもしれんな」美鈴「はい? 何がです?」レミリア「…………ふん、何でも無いさ」咲夜「…………」パチュリー「……………」幽香「……………」美鈴「(ど、どうして私だけがハブられてる感じに!?)」パチュリー「ところで貴女も、いいの? 随分長い間太陽の畑を放置しているようだけど」幽香「ふふっ、心配しなくても、暇を見つけてちゃんと様子を見に行ってるわ」パチュリー「別に心配というわけじゃないけどね」美鈴「(わ、わざとらしい話題の変化に誰もツッコミを入れないんですか)」幽香「こう見えて、私も結構マメなのよ」レミリア「ほぉ、それこそ意外だな。己が領域を持たない孤高の妖怪が、自分の家を気にかけるとは」幽香「そうしないと可哀想な目に遭う河童がいるのだから、しょうがないわ」美鈴「…………かっぱ?」幽香「酷いわよね、天狗も晶も。せめて近況ぐらいは言いに行ってあげてもいいのに」美鈴「(答える気はないんですね。あくまで)」小悪魔「め、美鈴さぁぁぁああん!」美鈴「あれ、こぁちゃんどうしたんですか? 私の代わりに門番をしていたんじゃ……」小悪魔「ききき、来ましたっ! 白黒いのが来ましたっ!! 今、妖精メイド達を逐次投入して何とか凌いでいる所ですが、もう限界ですっ」美鈴「っ! 最近大人しいと思ったらっ―――お嬢様!」レミリア「構わん。無作法な侵入者を排除してこい」美鈴「はい! ってあれ、幽香さん?」幽香「ふふふっ、面白そうね。私も手伝ってあげるわ」美鈴「それは助かります。ついてきてくださいっ」幽香「――あの子には、迷いの竹林での借りを返さないといけないものね。ふふっ」小悪魔「あ、待って下さいお二人ともっ」パチュリー「…………」咲夜「…………」レミリア「…………」パチュリー「何故かしら、いやな予感しかしないわね」咲夜「そうですね。では念のため、私も屋敷の防衛に――」レミリア「……どうやら、その懸念も早々と手遅れになったようだぞ」パチュリー「むきゅ?」???「おおっ、何でお前がここにいるんだ!?」幽香「あら、どうでもいいことじゃない。些細な問題よ」???「確かにな。どんな壁も、この私の障害にはならないぜっ!!」幽香「ふふっ、言うわね。ならどちらが障害なのか、力比べで決めるとしましょうか」???「上等だ! 私の弾幕は、お前の暴力より乱暴だぜっ」美鈴「ちょっ、ダメですよそれは!?」小悪魔「こ、こぁぁぁぁぁああああっ!?」レミリア「……咲夜、被害を最小限に抑えなさい」咲夜「善処します」 レミリア「最低でも館の形が残っていれば文句は言わないわ」パチュリー「なによ。結局あの男がいてもいなくても、騒がしいのに変わりはないわけね」レミリア「くっくっくっ。なに、それもまた幻想郷らしくて良いじゃないか」パチュリー「……咲夜、図書館にも被害がいかないようにしてね」咲夜「善処します」パチュリー「―――あーあ、本当に、騒がしすぎて嫌になるわ」おまけ天狗面『鴉』と四季面『花』(らくがき)(http://www7a.biglobe.ne.jp/~jiku-kanidou/menakira.jpg)