物語が動けば、様々なモノが変わっていきます。 それは、舞台の仕掛けを露わにする歯車のようなもの。 今はまだ、平穏な日常を描きながら。 物語は、新たな転機に向かい動き続けていくのです。東方天晶花 ~とうほうてんしょうか~巻の承「それから それから」 これからの「それから」を語る為、まずはかつての「それから」を語りましょう。 ――――物語の主役が幻想郷の存在を初めて知ってから、八年の歳月が経過しました。 それは少年を青年へと近づけるには、充分過ぎるほどの時間を有しています。 少年は、幻想郷への憧れを失わないまま、それでもその想いを摩耗させつつ大人になろうとしていました。 子供が大人になる時、お伽話への憧れは消えてしまうものです。 久遠晶の抱いた「憧れ」も、いつかは時の流れに掻き消されてしまうはずでした。 ――――その時間が、すでに年老いた人間に死をもたらすほどの力を有していなければ。 人には必ず、いずれかの形で「死」が訪れます。そしてそれは、少年の祖父にも平等に振りかかりました。 心優しい祖父の死は、少年の心に新たな失意を与えようとしていました。 ――そんな彼を救ったのは、祖父が残した一通の手紙です。 そこに記されていた祖父の独白が少年を失意から立ち直らせ、その憧れを夢へと変化させたのでした。 「幻想郷は実在する」 それは、祖父に秘められた過去を綴ったものでした。 かつて「神隠し」に会った祖父は、幻想郷と呼ばれる異郷を旅し、そこで様々なモノを見てきたというのです。 しかし、帰還した祖父の言葉を信じる者はおりませんでした。 嘘つきと笑われ、罵られた少年の祖父は、やがて幻想郷に関する事を話さないようになってしまいました。 そう、心に大きな傷を負った少年が、彼の元に現れるまでは。 「幻想郷への道を求めるのなら、彼女はきっとお前の力になってくれるはずだ」 そんな言葉で締められた祖父の手紙の最後には、後見人の名前と住所が書かれていました。 身寄りを失った少年は、その後見人の下で新たな生活を始める事となるのです。 こうして少年は、ひとつの夢を描く様になりました。 「幻想郷」 祖父が旅し、自らが憧れたその世界へ行くという夢。 それを成す為に、少年はより具体的な探索を始めるようになるのですが……。 その結果を、ここまでこられた皆様に改めて語る必要はないでしょう。 年に数度しか現れない「自称妖怪」という後見人の、応援とも妨害ともつかない助言を受けながら。 少年は自分の中に眠る「能力」を知り、幻想郷へと旅立って行くのです。 それらはすべて、かつての少年が辿った「それから」の物語。 そして、これからの少年が辿る「それから」の物語へと繋がる破片の一つ。 新たな破片と交わり、この破片がいかなる変化を起こすかは……「それから」の物語の中でお確かめください。 物語は、まだまだ始まったばかりなのですから。 少年は新たな世界を知りました。「おやおや、どうしました? 自慢の狂気の瞳も、相手を見れなきゃ意味がないようですねぇ」「う、ウザい。なんてウザいのよコイツ!」「ふふ、ふふふ、ふふふふふ、晶さんはユーモアのセンスに溢れていますね。お姉ちゃんはビックリです」「……本人の目の前で、勇気あるなぁアイツ」 少年は新たな自分を知りました。「アリス、僕達も行こう!!」「い、嫌よ! 人里の厄介事に私達が関わる理由がないわ!!」「そんな不義理な事言わないでさー。顔出ししたくないって言うなら、そこらへんは僕も考慮するよ?」「やっぱりその手にある‘モノ’は、そういう用途のために持ってきたのね!? だから嫌だって言ってるのよ!」 それでも彼はスタート地点に立ったばかり。「あなたたちが、コンティニュー出来ないのさっ!」「いやー! かえるーっ! おうちかえるのーっ! おうちにかえりたいのーっ!!!」「諦めましょう晶さん。今朝からナイフが全く飛んでこなかった時点で、私達の運命は決まっていたんですよ」「……こんな時にあれだけど、そーいう切ない占いは即刻やめた方がいいと思いますよ?」 幻想郷は未だ知られざる部分を、少年に示します。「……「あの人は今!」で、激太りした元アイドルを見た世間のお父さんは、皆こんな気分になるのかなぁ」「や、やっぱり、幻想郷でも変ですかね。今のセリフは」「むしろ、どこでだとセーフになると思ったのさ」「その……それを聞きたくて、幻想郷の先輩である晶君のところに来たんですけど」 今はまだ、広がっていく世界を楽しむだけで良いのです。 ―――東方天晶花、第二幕。これより開幕致します。 皆様、新たな物語の進展を、演者の目よりお確かめください。