巻の十五点五「呉越同舟」文「それでは久遠さんも行ったところで、取材を再会させていただきます」幽香「あら、取材する気あったのね」文「(無視)それで、なにを企んでいるんですか。フラワーマスター」幽香「企むなんて失礼な物言いね。ちょっと考えているだけよ」文「考えている? 何をですか」幽香「―――晶と全力で殺し合ったら、きっと楽しいんでしょうねって」文「……っ。へ、へぇ~、つい昨日その久遠さんを完膚なきまでに叩き潰したというのに、良くそんなセリフが言えますね」幽香「大したプロ意識ねぇ。でも、頬が引きつってるわよ? 昨日みたいにヒステリックに怒鳴りなさいよ」文「取材内容は全て記録されます。ご注意を」幽香「うふふ、私が他人の目を気にするとでも?」文「……質問の返答をお願いします」幽香「答えは『今の晶の事じゃない』よ」文「返答は、明確かつ簡素に出来ませんか」幽香「あらあら、貴方には少し難しかったかしら?」文「~~っく」幽香「ふふっ、良い顔してるわね」文「……さすがはフラワーマスター、いい性格してますよ」幽香「失礼な言い草ねぇ。貴方がくだらない事を聞くから悪いんじゃない」文「くだらない事、ですか」幽香「ええ、そうよ。分かり切った事をあえて聞き返されるのは、とても不愉快でしょう?」文「…………」幽香「今の晶は、生まれたばかりの儚い新芽よ。何かを期待する方が間違っているわ」文「……そんな可愛いものですかね、あの久遠さんが」幽香「可愛いじゃないの。私が抱きつくと真っ赤になって慌て出すところなんて、特に」文「(イラッ)」幽香「あら、ヤキモチかしら?」文「関係ない話をされてイラついているだけです。続きをどうぞ」幽香「せっかちね。……だけど、無関係ってワケでもないわ。そういう所も気に入ったからこそ、手元に置こうと思ったのよ」文「貴方が久遠さんを気に入っている事ぐらい、私も分かっています。聞きたいのは……」幽香「晶と’遊びたい’理由――でしょう? ……貴方、もう一度罵って欲しいのかしら?」文「私の考えと、貴方の考えが合っているとも限りませんから」幽香「……強情ね。なら言ってあげるわ。晶が、強くなると思ったからよ。それも私と互角に戦えるぐらいにね」文「……………」幽香「どんな風に育つか分からない、初めて見る芽があったのなら、どんな花が咲くのか見たくなるのは当たり前の事でしょう?」文「だから、久遠さんを?」幽香「『手を打っておく』って言ったじゃない。どうせなら、’育つ’過程から楽しみたいものね」文「そうやって、自分の思い通りに久遠さんを育てる気ですか」幽香「いいえ。私は、あまり晶に干渉する気はないわね」文「……なら、どういうつもりです。言ってる事が矛盾していますよ?」幽香「してないわよ? もちろん、多少の口出しはするわ。けど、彼が望まない手助けはしないつもりよ。……そのために『様子見』したのだからね」文「様子見……弾幕ごっこの前にも言っていましたね」幽香「ええ、知っておきたかったのよ。晶に強くなる意思があるのかをね。そして、彼は私の望んだ答えを示したわ」文「それは、貴方と戦うと言う答えではなかったはずですが」幽香「今は強くなりたいと思っただけで良いのよ。力を得た人間は、多かれ少なかれ力に引きずられて好戦的になるもの。’遊ぶ’のは、それからでも遅くないわ」文「やけに、のんびりとした話ですね」幽香「それでもたった数十年の話よ。人の命は短いけど、その分成長もはやいわ。きっと、いい暇つぶしになるでしょうね」文「……随分とあっさり言ってくれますね。私がそれを止めるとは思わないんですか」幽香「自分で水をやって、自分で栄養を与えたら、知らない花だってどう咲くのか分かってしまうわ。不確定の要素があるからこそ、育つ過程に楽しみが出るのよ」文「私も、久遠さんを育てる要素の一つにしかならない、と?」幽香「晶自身が強くあろうと思う限り、貴方の意思を挟むのは難しいでしょう? もちろん、それは私にも言える事だけどね」文「それでも、やがて自分の望んだ結果が出ると言いたそうですね」幽香「’出す’のよ。それ以外の結果にはならないわ」文「……絶対させないわ」幽香「なら、好きなだけ干渉すればいいじゃない。私は止めないわよ」文「上等よ。なら、私も貴方のする事に干渉しないわ。せいぜい今の内から、負け惜しみの台詞を考えておきなさいな」幽香「あら、言うじゃない。’遊ぶ’時には呼んであげるから、せいぜい素敵な記事にしなさいよ?」文「ふ、ふふふ、ふふふふふふふ」幽香「ふふふふふ……」晶「ただいまーーーーーって、何この筆舌しがたい空気!?」