幕間・弐「久遠の空に舞い踊る風花」 今回の異変は、本当に妙な事だらけだ。 あの紫が、何の策も巡らさず真正面から‘お願い’してきた事から始まり―― 友人にして好敵手の――まぁ、口には出さないが――魔理沙と、競争では無く共闘する羽目になったり。 戦う事を至上の喜びにしている花の妖怪が、他人に一番の楽しみを譲るなんて言い出したり。 面倒臭がりでいい加減なブン屋が、積極的に面倒事に顔を突っ込んできたり。おかし過ぎて頭がどうにかなってしまいそうだ。 ……そもそも、これは本当に‘異変’なのだろうか。その割には、いつもほど勘が働かないのだが。 そこまで考えた所で、私は迷走しかけた思考を打ち切った。 ――どうでも良い話だ。興味なんて欠片も湧かないし、それで私の何かが変わるワケでも無い。 八雲紫に、普段とは違う思惑があったとしても。 霧雨魔理沙に、何の因果か私の背中を預ける事になったとしても。 風見幽香に、妙な仏心が芽生えたとしても。 射命丸文に、面倒事を面倒と思わない何かがあったとしても。 私は私自身の思うがままに動くだけだ。そうしていれば、どんな物事も大抵は上手く行くのである。「戦闘中に、考え事とは感心しないわねっ!!」「ああ、大丈夫よ。どうせ当たらないから」 幽香の持つ傘の先端が、私を貫かんと‘せかせか’やってくる。 まったく、これだからコイツの相手はしたくないのよ。 幽香の殺意が道具の方にまで移っているから、全般的にトゲトゲしくてしょうがない。 あーあ、お茶でも飲んでゆっくりしていけば良いのに。妖怪の持つ傘なんだから、それくらい出来るでしょう? 「イラつくわね。避けて当たり前って顔してるわ」「攻撃は避けるモノでしょ? 受け止めるより楽だし」「……ふん。博麗の巫女は殺せない、か。貴女の場合、少々意味合いが違うのよね」「一緒よ、一緒。殺せないのも、殺されないのも」「なら、試させて貰うわよ。――串刺しにされても同じ事が言えるのか」 弾幕の如く無数に突き出される傘。もっとも実際の弾幕と違って、正しい解き方が無いから避ける楽しみは無い。 こういうのって‘どうやっても解ける’から、正解を見つけた甲斐があんまり無いのよねぇ。「チッ、ちょこまかちょこまかと鬱陶しい」「それはこっちの台詞よ。ブンブンと傘を纏わりつかせないで」 あーめんどくさ。当たる気はしないけど、倒せる気もしないわ。今すぐには。 幽香って精神の高揚がそのまま戦闘力に繋がるから、迂闊に傷を付けると余計に面倒な事になるのよね。 ほんと、戦闘狂って扱いに困る。 ……もういっその事、魔理沙の方に押し付けちゃおうかしら。 アイツのスペカは高火力だから、幽香がノル前に片を付けられるでしょう。多分。「――で、そっちはどうなのよ魔理沙」「今遊んでやってる所だぜ! だから話しかけるな!!」「あらあら、遊ばれてるのはどちらかしらねっ」「少なくとも、お前では無いな!」 あーらら、あっちもあっちで面倒な事になってるわ。 さすが幻想郷最速を自称する者同士の戦い。幽香の傘より見ていてずっと鬱陶しい。 円の軌道を描きながら、互いの背後の取り合いを繰り返す鴉天狗と魔法使い。 完全に千日手ね、コレは。どっちもムキになってるせいか、速さ以外で勝つ事を選ぼうとすらしていないわ。「まぁ、魔理沙らしいっちゃらしいけど。……息切れするわよ、そのうち」 魔理沙の戦い方は「弾幕はパワー」の決め台詞が示す通り、常に力押しでかつ全力だ。 突破力は凄いが、その分倒れるのも早い。 毎回、魔理沙が異変の途中で力尽きるのはそのゴリ押しが原因だろう。 ……負けず嫌いなのよねぇ、色んな意味で。 私はそんな魔理沙に呆れつつも、身体を右に傾けて背後から迫る顔面狙いの攻撃を避ける。 しょーがない、面倒だけど自分でチクチクやっていくしかないかしらね。「じゃあ、そろそろ真面目に迎撃しますか」「あら、避けるだけはもう終わり?」「そういう事よ。お望み通り、メッタメタに退治してあげるわ」「……そう、なら今度は‘私がふざける’番ね」「は?」 一瞬苦虫を噛み潰した顔をして、幽香がスペルカードを取り出した。 私の背後で戦っている魔理沙と文を巻きこむ様に‘狙い’をつけ、彼女は傘から閃光を放った。 ―――――――起源「マスタースパーク」「なっ、うわぁっ!?」「あ、あややややぁっ!?」 ……さすが本家本元、魔理沙と同じ感覚で避けてたら危なかったわね。 私が予想していたよりも、少しばかり威力の大きい光が何もない宙空を突き抜けていく。 外した、という感じでは無い。意図して‘当てなかった’と思った方が良さそうだ。 二人の戦いを中断させる必要があったって事かしら。……何を企んでいるのやら。「いきなり何してくれるのよ! 私でなかったら黒コゲになってたじゃない!?」「あら、助けてあげたのに酷い言い様ね」「一緒に仕留める気だったとしか思えないわ!!」「……どうでもいい事を気にしてないで聞きなさい、一緒に戦うわよ」「露骨に話を逸らさないで―――えっ!?」「なにぃっ!?」「……うそ」 幽香の放った‘ありえない’言葉に、怒りを露わにしていた文も、マスタースパークを返そうとしていた魔理沙も、その動きを止めた。 もちろん、私の思考も一瞬にして固まってしまう。 今、何と言った? あの幽香が、一緒に戦う?「えっと、それは今やってるみたいに個々で戦うって意味じゃ……」「協力して戦うって意味よ。私と、貴女とでね」「――何か、変なモノでも食べた?」「何とでも言いなさい。私とあの子じゃ致命的に相性が悪いのよ、同じ土俵で違う遊びをやってるみたいにね」 珍しい事は重なるモノだ、‘あの’風見幽香が苦笑した上に肩まで竦めるとは。 普段の皮肉げな態度とはまるで違う心の底からの自嘲に、さすがの魔理沙も軽口をかける事が出来ないようだ。 確かに幽香の言っている事は理解出来る、アイツは『弾幕ごっこ』と言う遊びそのモノと相性が悪い。 ――だが、間違ってもそれを理由に助けを求める妖怪では無かったはずだ。 むしろ、ハンデを良しとして笑顔で不利を受け止めるタチだと思っていたんだけど……。「どういう風の吹きまわしよ? それだけで協力を申し出るほど、貴女は殊勝な性格してないでしょうが」「ふん。ここであの二人を、完膚なきまでに叩き潰しておきたいだけよ」「ふふふっ、晶さんのために。かしら?」「……………………………………………………………そうよ」「―――へ?」「ただでさえ残念なあの子に、これ以上不安要素を与えるワケにはいかないわ。それに、あの子の‘結果’も気になるしね」「……………あやや」「死んでほしくない、残って欲しいと思う程度には、私も晶を気に入っているのよ。……何か言いなさいよ」「あややややぁ~っ!! デレましたよ! ついにデレましたよこのサディスティッククリーチャー!! このこのぉ!」 幽香の言葉に、いきなり上機嫌になった文が彼女の周りをくるくると回り出す。 傍から見ているこっちもウザイ。何よ、その無駄なハイテンションは。 しかし、まさか幽香がこんな事を言うなんてねぇ……今までは、人間なんて餌か玩具か塵芥。程度の扱いだったのに。あ、今もそうか。「なんですか? 『戦いたいだけ』とかカッコつけて、ツンデレ気取りですかもうっ!」「……とりあえず最初に聞いておくわ。いつの間に調べたのよ、ツンデレなんて」「情報が命の鴉天狗ですから!」「そういう下らない事に命をかけないの。……おかげで、何となくだけど意味を把握したわ」 私も、文の言ってる事は分からないけど意味の方は理解したわ。後ろで笑いを堪えている魔理沙も。 そしてさすがの幽香も、一度ぶっちゃけてしまうとそれを訂正するのは難しいようだ。 より一段とニヤニヤしながら周囲を回っている文を苦々しげに睨みつけてはいるが、結局は手の方も口の方も出せないでいる。 しかも良く見るとほんのりと顔が赤い。これはブン屋じゃなくても周囲を回りたくなるわね。「……さて、今までの意趣返しはこのくらいで良いかしら」「本当に、ここぞとばかりに小馬鹿にしてくれたわね」「それは当然よ。散々姉馬鹿呼ばわりされたんだから、このぐらいはね」「私は貴女ほど重症じゃないわ。そもそも、戦いたいのだって別に嘘ってワケじゃ」「はいはい、分かってるわよ」 文はゆっくりと速度を落とし、幽香の隣で静止する。 意地の悪い笑顔を引っ込め、どこか嬉しそうな顔で彼女は幽香に笑いかけた。「もちろん、元祖晶さんの姉には何の異論も無いわ。この場くらいは素直になった貴女に協力してあげようじゃない」「……元祖は八雲紫じゃないのかしら」「アレは『保護者』よ! 姉の元祖はこの射命丸文っ!! そんな事言うと、合わせてあげないわよ?」「好きに言ってなさい、心底どうでもいいわ。それと文、協力するとは言ったけど‘私に合わせる必要は無い’からね」「……ますますおかしいじゃない、どうしたのよ貴女。そんな殊勝な事を言い出すなんて」「あらあら、私も別に‘貴女に合わせる気は無い’わよ? ……同じ即興のコンビでも、もっと相性の良い相手が居たでしょう?」「――なるほど、ね。アレを認めると言うのは凄い嫌だけど、貴女と仲良くするよりは幾分かマシかしら」「そこはお互い様。じゃあ、行くわよ!」 互いにしか通じない会話を交わし、幽香がこちらに向かって駆けだす。 その動きは、いつもの幽香らしからぬ猪突猛進っぷりだ。 ジワジワ弄る戦いが好みだから、普段は動きも遅めなのよねぇ。性格も趣味も悪いわ。「っと、呑気に分析してる余裕は無さそうね」「ちぇっ、こっちにも作戦会議の時間をくれよ!」 突貫してきた幽香の攻撃を避けながら、魔理沙が悪態をつく。 だけど、お互い相手に合わせられる様なタチじゃ無いでしょうが。 例え打ち合わせ出来たとしても、思い通りに動けないのが目に見えているわ。合わせない方がマシね。 もっともそれは、相手も同じはずなんだけど……。 回避した私達に対して、文が風の弾幕を放つ。 牽制の意味を持つその攻撃は、的確に私達の動きを制限してきた。 その隙間を縫い、再びこちらに突撃してくる幽香。 二人のコンビネーションは完璧だ、思わず私が頬を抓って確かめてしまう程に。「ええい、くそっ! お前らいつの間にそんな仲が良くなったんだ!?」 文の風弾を何発か喰らいながらも何とか幽香の一撃を避けた魔理沙が、抗議とも悲鳴ともつかない声を上げる。 それを聞いた二人は、嫌味なくらいに愉快そうな顔で、示し合わせたかのように言葉を繋げて答えた。「―――いいえ、仲は悪いですよ?」「―――むしろ最悪ね」 何よその無駄に自慢げな顔、凄い腹立つんだけど。 しかし、内容とは裏腹に二人の連携が乱れる事は無い。 正直未だに信じられない、犬猿の仲のこの二人がここまで行動を合わせられるなんて。 ……好き勝手するタチなのは向こうも同じだと思っていたのに、一体何故。「それにしても、大した再現度ねぇ。直接自分の『面変化』を見たワケじゃないんでしょ?」「あら、あの子が私の事をどう思っているのか、なんてすぐに分かるわよ。貴女の方はもっと楽よね、そのまんまだから」「……ウザくないもん。あやや、あんなにウザくないもん」「…………数分前までの自分を思い返してみなさいよ」 と言うか現在進行形でウザいわ。人差し指同士を合わせて捏ね繰り回さないでよ、鬱陶しい。 良くは分からないけど、多分これもあの『久遠晶』に関係した事なんでしょう。 まったく、厄介な真似をしてくれたもんねあの女男。個人的にしばき倒す理由が一つ増えたわ。 ……とは言え、ちょっとばかり難しいか、現状を打開するのは。 博麗の巫女は幻想郷でも最強。なんて評価は良く聞くし、私もそれを否定するつもりは無いけど――最強と無敵は根本的に違うモノだ。 どんな相手にも楽に勝てるワケじゃないし、一番調子が良くなる異変中でも負ける事は何度もある。 ………そして私の勘は、この勝負に『勝てない』とはっきり告げていた。 「仕方ない。ここはギリギリまで相手のパターン探って、とっとと落ちるとしますか」 もう二、三分も裁いていれば、攻略法も見えてくるだろう。 それほど急を要する異変でも無さそうだし、素直に負けを認めて次に備えてしまおうか。 ぼんやりとそう考えながら相手の次の行動を窺っていると、いきなり魔理沙が私の頭を叩いてきた。「ぁいたっ。何すんのよ、いきなり」「うるさいっ、お前こそ早々に諦めんな!」「諦めたワケじゃないわ。ある程度やられた後に撤退するだけ、戦術的撤退よ」「諦めてるだろうが! ……もう良い。こっちも協力してやろうと思ったが、お前がそう言うなら私だけでやってやる!!」 だから、別に諦めてるワケじゃないって言うのに……何をそんなに怒ってるのよ。 私が及び腰になった事が気に入らないのか、頬をふくらました魔理沙が文と幽香に向かって突撃していく。 文のヤツがまた牽制として風の弾幕を放つが、魔理沙は掠る弾丸も無視して前進する。 あーあーもう、無茶しちゃって。一人でやるにしてももうちょっとやり方ってもんがあるでしょうが。 本当に、不器用と言うか、負けず嫌いと言うか。 「覚悟しな! 今度はこっちの番だぜ!!」「あら、そう上手く行くかしら」 ダメージを気にせず突撃してくる魔理沙に、幽香が真正面から勝負を挑んでくる。 純粋な腕力勝負では勝てないと悟ったか、彼女は激突の直前にスペルカードを発動させた。 ―――――――魔符「スターダストレヴァリエ」 箒と共に星の魔法を纏い、一筋の彗星と化す魔理沙。 迫りくる風の弾幕を全て薙ぎ払って、彼女は勢い良く幽香にぶつかっていった。 ――だが、数メートル程進んだ所で魔理沙の動きは止まってしまう。 風見幽香が、力押しで彼女の突撃を押し留めたのだ。 肉を切らせて骨を断つか、無茶な真似を。 けれど、結構なダメージを受けた上でも本気で喜悦の笑みを浮かべられる、その根性には恐れ入るわ。真似する気は無いけど。「く、なんつー馬鹿力だっ!」「そうじゃないわ、貴女が貧弱なのよ」「はん、お前から見りゃ誰だってヒンソーだろうぜ」「負け惜しみにしても捻りが無いわね。とりあえず吹き飛んでなさい」「―――っ!」 魔理沙の鼻先に、幽香の傘の先端が突き付けられた。 そして、同時に幽香の手に握られるスペルカード。 ……まったくもう、これだからあの無鉄砲は。 力押しで行くにしても、せめて多少なりとも勝ち目のある勝負を挑みなさいよ。「おっと、手出しはさせませんよ!」「ふん、甘いわ」「あややぁーっ!?」 割り込んできた文を踏み台にして、全速力で二人の所まで‘跳んで’いく。 傘先に集中する妖力の光。それが彼女へ放たれる前に、私は魔理沙を思いっきり蹴飛ばした。「邪魔っ!」「ぐぁっ!? 霊夢テメェ!?」 さすがに想定していなかったのか、不安定な片手で掴んでいたのが悪かったのか、幽香はあっさりと魔理沙を手放す。 幽香のマスタースパークの有効範囲は、先ほどの一撃で大体把握している。あれだけ吹っ飛べば魔理沙に被害が行く事は無いだろう。 後は、私がヤツの攻撃を防げば良いだけの事。 相手の宣誓とほぼ同時に、私も自身のスペルカードを発動させた。 ―――――――起源「マスタースパーク」 ―――――――神技「八方鬼縛陣」 幽香の放つ白い閃光は、八方の陣から生まれた金色の光壁に阻まれ霧散していく。 魔理沙同様、私程度の――いや、人間程度の力ならば到底耐えきれない‘力’の奔流がどんどん押し寄せてくる。 だが、それもあくまで真正面から受け止めた時の話だ。 如何に規模が大きかろうと、力の‘流れ’が決っているのなら――この程度、‘小石’一つでカタがつく。 押し寄せる光に軋む自らの結界を解除して、私はほんの少しの霊力を込めた御幣をマスタースパークの中に突っ込んだ。 光と御幣はほんの一瞬だけ拮抗したが、次の瞬間‘光は綺麗に御幣に斬り開かれる’。 相手の弾幕に、強烈過ぎる流れが有ったからこそ出来た芸当だ。……やり方は、たった今思いついたんだけどね。 そのうちの一つは文に向かったが――まぁ、これはどうでも良いだろう。どうせ文なら避けるだろうし。「やれやれ、これでこの御幣も使い物にならなくなったわね。後で霖之助さんに代わりを作って貰わないと」 スペルカードの終了と同時に、突き出した御幣が燃え尽きた。 幽香は苦々しげに舌打ちしながら距離を取り、文もそれに追随する……と言うか、飛び火した文句を言いに行ったようだ。 そして、私の隣にはもっと渋い顔をした魔理沙が。 ……結果的に、仕切り直しになっただけか。「――――なんだよ、とっとと負けるつもりじゃなかったのか?」「博麗の巫女としてはね、妖怪に苛められてる人間を見捨てるわけにはいかないの。お賽銭が減るでしょ」「はん、元々無いもんが減るワケ無いだろうが」「……その様子だと、やっぱり引くつもりは無いみたいね」「当たり前だぜ。天下無敵の魔法使いである魔理沙さんはな、絶対に負けないんだ――絶対に、負けられないんだよ」 それは、『普通』でしか無い魔法使いのたった一つの矜持であり、魔理沙が魔理沙であるための深い決意の表れなのだろう。 正直な所、私にはこれっぽっちも理解出来ないが。 意地っ張りなんて定義をとっくに通り越したコイツの意志の強さを、私は好敵手として羨ましく思っているのだろう。……多分。「なら、私も最後まで付き合おうかしら。『勝てそう』な気もしてきた事だし」「なんだ、ようやく自分の間違いに気付いたのか?」「……間違い?」「…………たまにだが、お前とは一生分かり合えないんじゃないかと思う事があるぜ」 まぁ、そう思うのなら出来ないんじゃないの? 私はどっちでも良いけど。 そうやってこちらが軽口の応酬を交わしている間に、あちらも文句の言い合いを終えたらしい。 憤りを全てぶつけてやらんと言わんばかりの八つ当たりな笑顔で、二人はそれぞれスペルカードを構える。 ――だが、彼女達がそのスペカを発動する事は無かった。 昼夜が入れ替わったのかと思う程の眩い光が、魔法の森から放たれたからだ。「お、おいおい、なんなんだよこれはっ!」「――ひょっとして、幽香さん」 「……ええ。ウチの‘うっかり屋’が、何かやらかした様ね」 手で光を遮りながら、魔法の森の様子を窺う。 ただ眩しいだけの輝きの奥には、異常とも言える量の弾幕が蠢いていた。 ――紫のヤツ、一体何をやったのかしら?