巻の九十七「半端な智慧は時として、無知よりも罪深き業となります」 ようやくお説教から解放された僕の脚は、すっかり痺れていました。 うう、効いたなぁお説教。心の方にもバッチリ効いた。明日からどうやって生きていこうか。「いつも通りで構いませんよ」 僕の生き方すら全否定した閻魔様が、しれっとそんな事を言ってきた。 悔い改めろって言ったの貴方じゃないですか。本当にどうすりゃいいんですか僕は。 あと、当たり前の様に心を読むのは止めてください。 別に閻魔様に限った話じゃ無いので、特に気にはしませんが。「貴方の場合、意識して動くと尚事態が悪化します。いつも通りが貴方に出来る唯一の善行です」「……なら、さっきまでのお説教は何だったんでしょうか」「自らの罪状を自覚させたまでです。貴方はまず、心に余裕を持つ事から始めなさい」「はーい……」 出来れば、心に余裕を持つ方法も教えて欲しいんですが。 あ、そこは自分で悟らないとダメですか。分かりましたスイマセン。「いやぁ、災難だったねぇ。お疲れ様」 説教が終わる前に復活していた小町姐さんが、全然そう思っていない顔で僕を慰める。 貴方が閻魔様の後ろでニヤニヤしながら高みの見物していた事を、僕は絶対に忘れません。 誰でも良いので、この人に天罰を与えてください。どこかの神様お願いします。「ああ小町。貴女にも後でお話がありますので、しばらく残っていてください」「りょ、了解です」 どうやら、わざわざ願わなくても天罰は下ったようです。良かった良かった。 ……そういえば、閻魔様って神様に含まれるのかな。 日本では地蔵菩薩と同一の扱いらしいけど、神仏習合は本物の閻魔にも適用されるのだろうか。 そんな風にどうでも良い所に気を取られていると、閻魔様が冷たい瞳で僕の事を睨んできた。 スイマセン、脱線しない様に心の底から気をつけます。マジスイマセン。「分かれば良いのです。ああ、それと私の事は映姫と呼んでもらって結構です」「えっ、そんな気安い感じで良いんですか?」「‘閻魔’とは個人の名では無く役職を指すモノ。私としても、名前で呼ばれる方が分かり易いのですよ」「なるほど。確かに役職で呼んでたら、彼岸の中は大混乱ですもんね」 軽く頭の中で想像しただけでも大分ややこしい。まぁ、閻魔役を皆同じ姿にしたのが一番の原因だと思うけど。 とりあえず、役職で呼ばないにしても敬意は必要だから、姐さんみたいに映姫様と呼ぶ事にしよう。「ところで、久の字は映姫様に何の用があったんだい?」「あ、そうだ。映姫様は、僕の用件が分かっているんですよね?」「ええ、貴方の中に眠る『真の能力』が何なのか、知りに来たのですね」 全てを見通す様な映姫様の視線に、僕は無言で肯定を返す。 思えば、この結論を知りたいだけなのに色んな意味で寄り道しまくった気がする。 盥廻しと言う程あっちこっちへ行ったワケでは無いけど、色んな意味で辛い道程だった。 例えば、鬱になる音楽とか鬱になる音楽とか鬱になる音楽とか。 「結論から言いましょう――貴方の能力を、私は先ほどの検分で知りました」「え? 分かるとか、知る事が出来るとかじゃなくて、もう知ってるですか?」 ……僕の今までの苦労って、何だったんだろう。 映姫様は、僕が誰なのか調べた時点で本当の能力を知ってしまったらしい。 望んでいたはずなのに、こうもあっさり分かると何故か切ないデス。「ですが、今の貴方に教える事は出来ません」「……はい?」「貴方の中に眠る真の能力は、常人の手に余る力です。受け入れられる器の無い者に力の委細を教える訳にはいきません」「僕では、力を使いこなせないと?」「少なくとも、貴方がそう思っている内は永遠に」 彼女は真っ直ぐこちらを見つめながら、そう断言した。 それは、僕の心中にあった甘い考えを見透かす様な言葉だった。 このまま、「知らなきゃいけないから知る」と言う消極的な考えのまま、否定してきた力を手に入れる事等出来ない。 ――決めなければいけないんだ。自分の意志で、本当の力を受け入れる覚悟を。「選択なさい。貴方が真実を望むなら、私はそのための試練を与えましょう。沈黙はこの先、何の意味も持ちません」「……あの、事情はさっぱり分かんないんですけど、映姫様マジで久の字を試すつもりですか? 久の字、下手すると死にますよ?」「否定はしません。公平を期すため先に言っておきますが、試練中の私は貴方の安全を配慮しない」「ちょ、それは閻魔的にマズいんじゃないですか!? 場合によっちゃ閻魔の資格を剥奪されますよ!?」「彼が器を示せば何の問題も無い事です。真に嘆くべきは、進む道を完全に失う事でしょう。職違いではありますが、私を頼ってきた相手を無碍にも出来ません」「そりゃまぁそうですが……」「―――ですが貴方は、そう言った私側の事情を考慮する必要はまったくありませんよ。ましてや、試練に挑む理由等には間違ってもしないように」 慇懃な態度で、映姫様が僕を睨みつける。 だいぶ分かり難いけど、これは映姫様なりの気遣いなんだろうなぁ。 幾ら僕と言う人間の全てを覗いたとしても、映姫様にとってあくまで僕は他人なのだ。 そんな彼女に、ここまでしてくれる理由は当然無い。だから――っと、いけない。忠告されたのに映姫様の気遣いを理由にする所だったよ。 僕は改めて自分に問いかける。常人の手に余ると言う力を、本当に受け入れて良いのかと。 ――その時脳裏に思い浮かんだのは、そんな‘非常識な能力’を持った幻想郷の妖怪達の姿だった。 うん、やってみよう。あの人達みたいになると思ったら、かなり気が楽になった。「……試練、やらせてください」 僕の答えに、映姫様は満足そうに頷いた。 小町姐さんはヤレヤレと肩を竦めているけど、止めるつもりは無いらしい。 ただ、仕方が無いとばかりに苦笑いするだけだ。 ……映姫様、結構こういう無茶頻繁にやってたりするのかな。「分かりました。では久遠晶、これより貴方の‘心’を試します。覚悟は良いですか?」「止めるなら今のうちだよ? この御方は、やると決めたらとことんやる御人だからねぇ~」「ここまで来た以上、こっちもトコトンやるしかありませんからね。お願いします!」 両手を叩いて、残っていたネガティブ感情を追い出していく。 映姫様は――棒を胸元に掲げた姿勢のまま、微動だにしていない。それが逆に何とも言えない迫力を出していた。「試練の内容は、それほど難しいモノではありません。私の弾幕を耐え続ける――それだけです」「……簡単そうな分、命の危険は高いと見ましたが」「その通りです。所謂『耐久スペカ』ですから、貴方が能動的に弾幕を終わらせる事は出来ません」「つまり、終わるまで必死に耐えきれって事ですか」「ええ。―――怖じ気づきましたか?」 意地悪く微笑みながら、すでに分かっている答えを確認する様に映姫様が尋ねてきた。 実際、答えなんてとっくに出ている。 僕は魔法の鎧を装着して、手甲同士を叩き合わせた。「ばっちこいです!」 「良い覚悟です。半端な智慧は時として、無知よりも罪深き業となります。貴方の積むべき善行のため、ここで白黒ハッキリつけましょう!」 それが、スタートの合図だった。 映姫様がそう言うと同時に、彼女のスペルカードが発動する。 ―――――――審判「ギルティ・オワ・ノットギルティ」 無数の弾丸とレーザーが、雨となってこちらに降り注いだ。 どういった類の弾幕かは分からないけれど、とりあえず初見で判断出来た事が一つある。 ――これは確実に、絶対に、避け切れないし、耐えきれない。 となると残った手段は迎撃するしかないんだけど……アブソリュートゼロでも止められないよねコレは?「ええいっ、ならこれしかないかっ!!」 ―――――――神剣「天之尾羽張」 神剣を顕現させ、迫りくる弾幕をとりあえず必要最低限でも薙ぎ払う。 閻魔様の攻撃とは言え、そこはスペルカード。光の剣はほとんど手ごたえも無く弾幕を削っていく。 この調子なら、何とか対処出来るかな? 何度か斬った事で出来あがった弾幕の隙間に逃げ込みながら、僕は全体の様子を窺った。 ――アレ? 映姫様の姿が無い? 弾幕に集中している間に、映姫様の姿はすっかり見えなくなってしまっていた。 彼女の姿を探して視線を巡らせると、いつの間にか真後ろに居た彼女とばっちり目が合う。 あれれ~、えーきさまってば棒を振りかぶって何する気ですか~?「喝っ!!」「へぼっ、ふばっ、おごっ、あぶろぱっ!?」 頬を張り倒されて、何度もバウンドしながら河原を吹き飛んでいく僕。 そのまま顔面で地面を擦りながら、海老反りの姿勢で静止する。砂利がとっても痛い。「―――それが、貴方の抱える『心の弱さ』です。久遠晶」「ふ、ふぇ?」「自らの能力を受け入れたいのなら、何故貴方は‘本当の能力が生み出した力’を否定し続けるのですか?」「……そ、それは」「貴方が力を生み出した経緯は確かに罪です。ですが、真に悪しきは過去の罪と向き合うのを拒否する事。貴方は今こそ自らの行いを振り返るべきだ」 僕は立ち上がると、懐から一枚のスペルカードを取り出す。 無意識に能力を使い生み出した、僕にとってトラウマに等しい技。 だけど映姫様の言う通り、能力を受け入れるならこのスペルカードも受け入れなければいけない。 これを生み出した経緯も含めて、全てを。「想起なさい。怒りと憎悪に塗れた感情の更なる奥底に、貴方の望む真実が眠っているはずです」 ―――――――審判「浄頗梨審判 -久遠晶-」 再度の宣誓に合わせ、映姫様がどこからともなく手鏡を持ちだしてきた。 その鏡に僕の姿が映ったと思った次の瞬間、映姫様の目の前にもう一人の僕が現れる。 改めてみると、本当に凄い格好しているなぁ……等とボケている場合では無い。 恐らくスペルカードの効果で出てきたのであろうもう一人の僕は、ゆっくりと両手を胸の前に掲げる。 同時に、もう一人の僕の周囲に複数の光の帯が現れ、掌で重なり光を蓄えていく。 見た事の無い仕草。だからこそ、ソレがどんな技なのか容易に想像出来た。 なるほど。受け入れる事が出来なければ、自分のスペルカードで消滅する事になると。 ………上等、そういうノリは嫌いじゃないよ。 ―――――――「幻想世界の静止する日」 鏡映しの様に同じ体勢となった僕の掌に、眩い光が集束していく。 そしてほとんど同じタイミングで、二人の僕から全てを奪う閃光が放たれた。 視界全てが真っ白い輝きで埋め尽くされる。だと言うのに、僕には光の先で起こっている事が何となく理解出来た。 光同士がぶつかりあい、お互いを奪い合っていく。 一歩間違えたら死んでしまう様な状況の中で、僕はこの力を生み出した時の事を思い出していた。「……ああ、そうか。そうだった」 ―――‘無い’事なら、‘有る’事にしてしまえ。 怒りで真っ白になっていた頭で、僕が考えていた事。 多分それが、本当の能力の使い方なのだろう。 「どうやら気付いたようですね。まったく、自らの中に最も答えに近い記憶があったと言うのに」「す、すいません。お手数をおかけしました」 光が完全に消え去ると、そこには呆れ顔の映姫様だけが立っていた。 僕の全てを覗いていた映姫様は、どうもとっくにこの事に気が付いていたようだ。 何か申し訳ない。もっと早くこのスペカを受け入れていたら、こんな事には―――いや、さすがにそれは無いか。 取っ掛かりにはなったかもしれないけれど、これだけじゃ確信にまでは至らなかったに違いない。 ……だって、正直今もまだちょっと有耶無耶な感じだし。 や、何となくこんな能力かなーって見当はついてるんですヨ? 本当だよ? だけど具体的な名称が分からないと言うか、本当にこれで有っているのか確信が持てないと言うか。 ああでも、今更「でもやっぱ良く分からないんで白黒はっきりつけてくれませんか」とか言ったら凄い怒られそう。どうしよう。「あのー。出来れば何も分かって無いあたいにも、分かり易く結果を教えて欲しいんですがー」 小町姐さんナイスアシスト! 僕の聞きたかった事を尋ねてくれた姐さんに、内心でエールを送る。 まぁでも、映姫様にはしっかりバレているみたいですがね。 ……ゴメンナサイ、その冷たい目をこちらへ向けないでください。「本来なら説明する必要性は無いのですが――まぁ良いでしょう。久遠晶の目的は知っていますね」「久の字が、映姫様に『本当の能力』を聞きたがっているんですよね? さっきそんな事を言ってた気が……」 「そう。そして先ほどの試練が、その能力を知るための‘ある意味で答え’だったのです」 どうやら、それも無駄に終わった様ですがね。 そんな台詞が最後に付きそうな冷めた目で、映姫様が僕の事を睨みつける。 いえそんな、完全に無駄だったワケじゃないんですよ? 四ケタの暗証番号で例えるなら、三ケタ目までは思い出せたと思います。多分。 後は総当たりで最後の一文字を思い出せば何とかなる感じです。何文字あるのか一切検討はつきませんが「なるほど……で、答えは分かったんですか?」「ええ。久遠晶の能力、それは――「『無』を『有』にする程度の能力」です」 映姫様の明確な答えと共に、三途の川に沈黙が広がる。 え、なにそれこわい。冗談抜きで本当に怖い。 確かに思ったけど、そういう事思ったけど。まさかのド直球能力ってどうよ。「……それ、人間が持ってて良い能力なんですかね?」 小町姐さんもさすがにドン引きしているようだ。無理もない、本人だって未だに信じられないワケだし。 しかし、これで諏訪子さんの言っていた事の意味も理解出来た。 僕は「『無』を『有』にする程度の能力」で「相手の力を写し取る程度の能力」を作り、戦っていたのである。 確かにこれは効率が悪い。大元の方で同じ事が出来そうだから尚更そう思えてしまう。 ……紫ねーさまは、そこらへんを見越して嘘の能力を教えたのだろうか。 いや、結果的に嘘では無くなったワケだけど、もちろん本当でも無いワケで……ああややこしい。 とにかく、僕が恐らく最初に能力を行使したと思われるあの時、紫ねーさまは――。 ん、ちょっと待てよ? あの時僕は「宙を浮く程度の能力」を作りだしたワケだよね。空を飛ぶ程度の能力じゃなくて。 良く分からない妥協の末、小さい頃の僕はそんな結論を出していた気がする。と言う事は……。「すいません映姫様、僕の能力で作ったモノって変更かけられますかね?」「不可能です。貴方の能力は「すでに有るモノ」に干渉する事は出来ません」「……似た様な能力を新しく作ったりとかは」「可能ですが、有無の基準点は貴方自身の認識を元にしています。貴方が「類似するモノが有る」と思っている以上、構築は難しいでしょうね」 えーっと、つまり、宙を浮く能力を作った上に、氷翼で飛べる様になった僕は、飛ぶだけの能力が作れないと? もうすでに当然の如く僕の脳内を察している映姫様が、ご愁傷様といった具合に頷いた。 ――その瞬間、色んな疑問とか能力に関するアレコレとかが全部吹っ飛んだ。 嗚呼、まさかこんな形で僕の夢の一つが途絶えてしまうとは。 ――――ちくしょう、どうしてあの時強気に攻めなかったんだ小さい頃の僕っ!! 「映姫様? 久の字、なんでマジ泣きしてるんですか?」「放っておいてあげなさい。彼は今、数年越しのうっかりを反省している所です」「……はぁ?」 ◆隙間を覗きこんでみますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【スキマ妖怪が教えてア・ゲ・ル♪】スキマ「本当の月からこんばんわ。永遠の美少女スキマさんよ」腋巫女「……良くもまぁ、いけしゃあしゃあと顔を出せたわねアンタ」スキマ「こっちのボロボロな子はアシスタントの腋巫女。今回もこの二人で、皆の疑問をスパッと解決して行くわよ~」腋巫女「また無視か。こっちはアンタの入れ知恵のせいで散々な目にあったって言うのに……」スキマ「まずは最初の質問ね」 Q:正月特別編でお年玉を短期バイトで稼いだ晶君ですが、大食い大会の賞金はその頃には無くなってしまったのか、腋巫女「だから特別編って何よ」スキマ「正月の話は、忠告にもあったけどあくまでパラレルなノリなの。本編での金銭状態は考慮しないでちょうだい」腋巫女「答えなさいって。あと、私はお年玉よりお賽銭が欲しいわ」スキマ「努力なさい。それに本人としても、宵越しの金は持たない的なノリを続けたくなかったんでしょうね」腋巫女「……そういえば、帰ってからのご飯どうしようかしら。宵越し所か今日の分のお金も無いのよね」スキマ「…………後で何か食べさせてあげるわ」 Q:けーねさんは何で肉じゃが食べても平気だったんですか? あと妖夢は無事なんですか?腋巫女「肉じゃが……最近食べて無いわねぇ。っていうか肉自体食べてないわ」スキマ「理由は簡単、食べた量の違いよ。あの半獣は肉一切れしか食べてないけど、悪魔の妹は一口食べたのよね」腋巫女「その程度の違いでそんなにダメージが変わるの? その肉じゃが」スキマ「(にっこり)」腋巫女「……アンタが脂汗をかく姿を、私は初めて見たわ」スキマ「ちなみに妖夢も大分弱っていたけど、何時も通り仕事はしたらしいわ。年中無休って大変ね」腋巫女「どこでもアイツはそういう扱いなのね……」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど