巻の九十五「きっと貴方自身ですら知らない秘密を教えてくれるわよ」 弾け飛ぶ様に駆け出して、妖夢ちゃんが一気に距離を詰めてくる。 互いの間合いに入ったと僕が感じた瞬間、彼女はノーモーションで斬撃を放ってきた。 二筋の閃光が、左右からほぼ同時に襲いかかってくる。 しかし僕はそんな彼女の攻撃を無視して、ただ無心に氷刀を振り下ろす。「―――！？」 金属同士が激突して生まれる異音が、‘二度’庭園内に響き渡る。 と同時に、僕から距離を取り警戒を露わにする妖夢ちゃん。 まぁ当然の反応だろう。何しろ、僕は一太刀で彼女の攻撃を全て弾き返したのだ。 二刀流における一番の利点は、言うまでも無く「手数の多さ」にある。 左右其々の手で攻撃できる妖夢ちゃんは、普通に考えれば一刀流の僕を圧倒出来るはずなのだ。 だが、僕はその利点をひっくり返した。 僕は自らの優位性を示す様に、八双の構えを維持して妖夢ちゃんの次の行動を待ち続ける。「くっ……はぁぁぁあっ！！」 妖夢ちゃんは一瞬躊躇ったものの、それでも果敢に僕へと攻撃を仕掛けてきた。 今度は、目で追う事も難しい程の斬撃が僕に迫る。 それでも僕は一歩も動かず、ただ一太刀を全力で振り下ろした。「チェストォォォオオ！」「――なっ！？」 金属の管を纏めて地面に叩きつけた様な反響音が響き、全ての剣撃を弾かれた妖夢ちゃんが唖然としながら再度距離を取る。 本人にしてみれば、とんでもない悪夢を見せられている気分なのだろう。 鍔迫り合いに持ちこむ事すら出来ず、全ての攻撃をたった一度の反撃で跳ね返されているのだから。 ‘タネ’を知っているこちらとしては、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。 下手をすれば、彼女の自信を全て粉砕する光景だ。変な心の傷に為らなければ良いんだけど……。「ま、まだまだぁっ！」 どうやらこの程度の事でへこたれるほど、妖夢ちゃんは柔な性格じゃ無いらしい。 気合いを入れ直した彼女は、さらに攻撃を重ねるべく前進してくる。 ますます早く、ますます多く、繰り返す事に斬撃の雨は強く激しくなっていく。 しかし――それでも全ての攻撃は、一刀の下に斬り伏せられてしまう。「くぅっ……こ、こんな――」「わぁー、お兄ちゃんすごーい」 さすがにここまで攻撃を裁かれると、妖夢ちゃんも攻めあぐねてしまうようだ。 こちらの様子を窺いながら、彼女はジリジリと後退を始めている。 「確かに凄いわね。だけど……」「だけど？」「これじゃ、まるでチャンバラごっこね」「―――――っ」 幽々子さんがそう言って意地悪く笑い、妖夢ちゃんが悔しそうに歯を食いしばる。 恐らくは、全力の攻撃を僕に「ごっこ遊び」のごとく裁かれた、己の無力さが口惜しいのだろう。 嗚呼、ほんっとうにゴメンね妖夢ちゃん。実は君の腕前が悪いとか、そういう問題じゃないんですよ。 ――と言うワケで、ここからスーパー種明かしタイムです。 当然の話ですが、僕に本物の剣術に抗えるほどの腕前なんて一切ありません。 そもそも彼女が怒涛の連続攻撃を仕掛けてきた時点で、魔眼ありきでも動きを見切れなくなってたワケだしね。 もちろん、見切れないモノを迎撃出来るはずが無い。 なら、何故僕は本来返せない攻撃を一太刀で返す事が出来たのか。その答えは――狂気の魔眼にある。 あ、予想してましたか？ すいませんワンパターンで、でもこの魔眼それくらい便利なんですよ。 何しろ『波長』の応用範囲が劇的なほど広いのだ。精神を弄る事はもちろん、そこから派生して‘肉体に’干渉する事すら可能なのである。 例えば――相手の攻撃の軌道を無意識にズラさせたり、とかね。 そう、僕は別に相手の攻撃を一太刀で斬り伏せていたワケでは無い。 ――ただ、僕の振るった剣の軌道に、妖夢ちゃんの斬撃が‘割り込んできた’だけなのである。 大太刀を選んだのも、剣の面積を出来るだけ延ばしてより‘当たり易く’するためだ。 物干竿云々の「見立て」は、ぶっちゃけて言えばそれを誤魔化すためのカモフラージュでしか無い。 ちなみに、毎回刀を振り下ろす形なのも、両手持ち剣を選んだのも、妖夢ちゃんの攻撃にパワー負けしないための拙い努力である。 何しろうっかり途中で相討ちしようモノなら、弾かれた氷の剣に妖夢ちゃんが追撃をすると言う摩訶不思議な光景が展開されてしまうのだ。負けるわけにはいかない。 ……まぁ、勝つ事も出来ないんですがね！ こっちから攻撃を仕掛けるとボロが出るから。「さて、どうする妖夢ちゃん。まだチャンバラごっこを続ける？」 出来るだけ軽く聞こえる様に、僕は妖夢ちゃんへ声をかける。 今までの斬り合いで確信したが、このまま‘剣戟’を続ける限り妖夢ちゃんに勝ちは無い。 もちろん僕にも無いけど。少なくとも消耗戦に持ち込めれば、体力にだけは自信のあるこちらが有利だ。 恐らくは彼女も、うっすらとその事に気が付いているはずである。だとすると、妖夢ちゃんの次の行動は――「ならば、これでどうですっ！！」「―――っ！」 ―――――――魂符「幽明の苦輪」 やっぱり、スペルカード！ 彼女が宣誓した瞬間、戦っている最中もふわふわ周囲を浮いていた霊魂が妖夢ちゃんの姿に変化する。 さらに霊魂が変化した妖夢ちゃんは本人と同じ構えをとり、挟撃の形でこちらに迫ってきた。 え、何それ。そーいうモンなの？ 予想していなかった攻撃方法に一瞬唖然としつつも、予想通りの行動に対応するため僕は氷の剣を砕く。 うん、さすがに今更「能力を別目的で同時使用出来ない」制限をうっかり忘れたりはしないよ？ そのまま僕は氷の翼を展開し、最高速度で『彼女等』の間合いから離れた。「なっ、速いっ！？」「悪いけど、スピードにもそこそこ自信があるんだよね！」「な、なんの！ まだ終わったワケではありません！！」「――なら、分身には分身で対抗かな！」 強気な言葉とは裏腹に、攻撃を避けられた妖夢ちゃんは隙だらけの姿を晒している。 今がチャンスだ。全力のスペルカードで、一気に畳みかけよう！ ―――――――紅夢「スカーレットバタリオン」 スペルカードの宣誓を合図に、僕の身体は‘四つ’に増える。 無論これは、フランちゃんのコピースペル「フォーオブアカインド」の効果だ。 本体である僕が後方に飛ぶのと同時に、分身三体は妖夢ちゃんに向かって突撃した。 分身たちを警戒し剣を構える二人の妖夢ちゃんに、分身のうち一人が攻撃を仕掛ける。 巻き起こる炎が彼女らの視界を覆った。これは「アグニシャイン」――パチュリーのスペルカードだ。 「くっ！？」 妖夢ちゃんは慌てて距離をとろうとするが、少し遅い。 巻き起こった炎の壁の向こう側から、気で強化された無数の氷製ナイフが飛び出て彼女を釘付けにする。 それは一瞬だが、充分過ぎるほどの‘隙’だ。 炎の壁を突っ切った分身の一体は、動きを止めた‘本体’の妖夢ちゃんに肉薄する。 そして打ち出される、模倣した美鈴の「破山砲」。気を一極した分身の拳は、容易く妖夢ちゃんを宙へと舞い上がらせた。 攻撃自体はガードされてしまったようだけど、これで「仕込み」は万端だ。 本体の方の‘充電’は、とっくの昔に終わっている。 「い、いけない。体勢を整えないと……」「――おっと、その前にこの一発を受けて貰うよ！」 妖夢ちゃんに対して半身の姿勢をとった僕の右手には、三つの棘が蛇腹状に交わった形状の‘槍’が用意されている。 これが、このスペルカード最大の‘目玉’だ。 僕は彼女目掛け、奇しくもレミリアさんのスペルカードと同種であった「スピア・ザ・ゲイボルク」を投げつけた。 迫りくる魔槍を避けるため、何とか身体を動かそうとする妖夢ちゃん。 しかしそこに、最後の分身による詰めの一撃が襲いかかる。「なっ、これは先ほどのナイフ！？」 牽制に放ったナイフは、あくまで咲夜さんから倣った「殺人ドール」の初期動作だ。 一旦制止し、再び妖夢ちゃん目掛けて動き出したナイフは、彼女から「回避」と言う選択肢を奪った。 そして、七色の気で彩られた魔槍は妖夢ちゃんに直撃する。 「しまっ―――」 炸裂する魔槍。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる妖夢ちゃん。 かなりのダメージを受けたはずだけど、それでも尚彼女の戦う意思は折れていないようだ。 彼女は剣を杖代わりにして、ゆっくりと起き上がろうとする。 ――もっとも、そこらへんは僕も想定していたんだけどね。「はい、そこまで」「あっ……」 中腰の姿勢になった妖夢ちゃんの首筋に、僕は再度構築した氷の刃をつきつけた。 彼女を吹っ飛ばした直後に、きっちり追撃を仕掛けていたのである。僕にしては珍しく。 ……と言うより、仕掛けざるを得なかったと言うべきか。 先ほどのスペルカード、紅夢「スカーレットバタリオン」は「スカーレットカンパニー」に二つのスペカを足した技だ。 一応、無理矢理ながらも紅魔館の人達の技で固めたこのスペルカードの目的は、ぶっちゃけて言えば「分身で足止めした後、魔槍をぶつける」事にある。 と言うのもこの「スピア・ザ・ゲイボルク」、威力は高いけど物凄く使い勝手が悪いのだ。防御手段は皆無で、溜め時間も長く、オマケに当たり難い。 出来あがった経緯が経緯だったとはいえ、この使い辛さは正直想定外だった。 恐らく「フォーオブアカインド」を覚えていなかったら、魔槍が活躍する機会は一生無かったに違いない。 「ま、参りました」 がっくりと項垂れる妖夢ちゃんの姿に、僕は心の中で万感の思いを乗せたガッツポーズをとった。 一度しか行動出来ないものの、スペルカードと言う縛りがあれば「同じ能力を同時に別目的で使える」分身はとても便利なんだけど、もちろん欠点もある。 ……要するに、手数が四倍なら消耗するのも四倍なんです。 余裕ぶって勝ち誇っていますが、ぶっちゃけもうギリギリだったりします。ああ、今すぐにでも横になりたい。 そういうワケで、僕は表向きの圧勝にホッとしながら必死に笑顔を浮かべているワケです。 良かった。まだ負けてないとか言われたら本当にどうしようかと思った。「頑張ったわね、妖夢。お疲れ様」「凄かったよ、お兄ちゃん！ お疲れ様！！」 僕が剣を引いて妖夢ちゃんを立たせていると、キラキラした瞳のフランちゃんと満足そうな笑みの幽々子さんがやってきた。 どちらも称賛の言葉を口にしているが、意味合いは大分違う気がする。 確実に見破られているくさいなぁ。……対戦相手が幽々子さんで無くて良かったよ。本当に。 「まぁでもこれで、話を聞かせて貰えるね」 こっそり溜息をつきながら、僕は小さく呟いた。 するとその呟きが聞こえていたのであろう幽々子さんが、意地悪そうに微笑んで言う。「あら、私は別に「勝たないと教えない」とは言って無いわよ？」「……ほへ？」「もっと言うと、「剣で戦う」なんて条件も出していないわね。……まぁ、自信があったみたいだから特に止めはしなかったけれど」 そう言えば、出された条件は妖夢ちゃんと戦う事で、勝てともハンデ負えとも言われてませんでしたね。 どうもいつの間にか、僕は脳内で「絶対に勝つ」事と「剣で戦う」事を付け加えていたらしい。 ただでさえ勝ち目が無いのに、何で僕は自分で自分の首を絞めたんだろう。 笑顔で僕を称賛してくれる幽香さんの幻影を脳内から追い出しつつ、僕は自らのうっかりを呪うのであった。「やはり晶さまはお凄いです。――私も精進せねば」 そして、妖夢ちゃんの評価はもっと心苦しい感じになりましたとさ。ちっともめでたくない。 ……ああ、素直に正々堂々戦っておけば良かった。 そんな風に僕が内心で後悔していると、全てを察していそうな幽々子さんが両手を合わせてにこやかに宣言した。「さて、それじゃあ約束通り『心当たり』を教えてあげようかしら。妖夢も、良い経験が出来たみたいだしね」「ほへ？」「紫から聞いていた通りね～。久遠晶と戦うと、従者は良い影響を受けるって」 ……僕は、栄養剤か何かなの？ どうやらフランちゃんが提案する前からすでに、幽々子さんの中で僕と妖夢ちゃんと戦う事は決定していたらしい。 別段自分は、彼女に何かしらの影響を与えられる様な人間では無いと思うんだけどね。 まぁ、そこは幽々子さんが納得しているのなら別に問題無いだろう。 強いて言うなら――紫ねーさま、幽々子さんにナニ吹きこんでるんですか？「……大丈夫かしら、話を続けても」「あ、はい。聞いてはいるので気にせず続けてください」 こめかみを抑えながら、幽々子さんに続きを話すよう促す。 とりあえず、今回聞いた紫ねーさまによる僕のお話は、親馬鹿の自慢話みたいなもんだと思っておこう。 あの人が僕の事を友人に自慢する姿が全く想像出来ないけれど、他に理由を思いつかなかったのだから仕方が無い。 何か企んで吹きこんだと考えるのは、精神衛生上大変よろしく無いし。「じゃあ続けるわね。貴方と出会った中有の道、あそこを真っ直ぐ進むと三途の河に辿り着く事は知っているかしら？」「あ、はい。一泊した時、その宿の主人に聞きました。……つまり三途の河の周辺に、『心当たり』の人が住んでいるんですか？」「住んでいるワケでは無いわ。ただ、一番彼女に会える可能性が高い場所が‘そこ’なのよ」 あくまで軽い調子のまま、幽々子さんはそんな事を言ってきた。 三途の河周辺で良く会える人とか、もうその時点で嫌な予感がヒシヒシ伝わってくるんですけど。 どうしよう。これで死神とか紹介された日には、ダッシュで逃げだすかもしれない。「えっと、その「彼女」と言うのはどなたの事で？」 本当に恐る恐ると言った感じで、僕は彼女に『心当たり』の名を尋ねる。 幽々子さんはコホンと一旦咳をして話を中断すると、その女性の名を僕に告げた。「「彼女」の名は四季映姫ヤマザナドゥ。――恐らくは、紫以外で貴方の真実を知ることが出来る唯一の人物ね」「やまざなどぅー？ ぷふ、変な名前ーっ」 『心当たり』の名前がツボに入ったらしいフランちゃんが、クスクスとその人の名前を笑う。 まぁ確かに、日本語として考えたら妙な名前だろう。日本語として考えたのならね。 ……僕の記憶が確かなら、ザナドゥとはサンスクリット語で『桃源郷』を意味する言葉だったはずだ。 そして同じサンスクリット語には、ヤマと言う言葉も存在している。「あのー、幽々子さん？ その人ってもしかして……」「うふふふふ、貴方が察した通り――彼女は閻魔よ」「で、でしたかー」 幽々子さんは軽い調子を維持したまま、さらりとトンデモない事を言う。 そう、サンスクリット語でヤマとは『閻魔』の事を指す。 つまりヤマザナドゥとは、意訳すると「幻想郷の閻魔」になるワケである。 ……要するに、名前じゃ無くて役職名なんだよね。 死神どころの騒ぎじゃ無かった相手の名前に、さすがの僕も唖然とする他無い。 あ、フランちゃん。閻魔については後で説明するから、袖を引っ張るのは止めて貰えませんかね。「ふふっ、適任でしょう？ きっと貴方自身ですら知らない秘密を教えてくれるわよ」「……なんか、そのまま裁判に持ち込まれそうな気がします」「大丈夫よ、生者を裁く事はしないから。――もっとも、耳に痛い‘お説教’はされるかもしれないけれど」「心当たりが有り過ぎて、裁かれるより気分が重くなりました」 分からなかった所を聞くため、職員室へ行く羽目になった生徒の気分だ。 しかも行かないと答えが全く分からないから、逃げる事も出来ないと来たもんである。 「――だけど、行くつもりなんでしょう？」「はい。そのつもりです」 お見通しだと言わんばかりの意地悪な幽々子さんの笑みに、僕も同種の笑みを返す。 今更、お説教が怖くて足踏みなんてしていられない。 僕の返答に満足したのか、幽々子さんは今度は邪気の無い笑顔で僕の頭を優しく撫でてくる。 あ、なんかこういう所も紫ねーさまに似てるかも。「なら、私が紹介状を書くわね。あの閻魔様が考慮してくれるとは思えないけれど、手ブラよりはマシでしょう」「すいません、ありがとうございます」「趣味でやっている事よ、お礼は要らないわ。それより、今日は白玉桜に泊まっていきなさい。豪華な夕食も出すわよ？」「良いんですか？ いやぁ助かるなぁ、正直今日の宿をどうしようかと思っていたんですヨ」「豪華な夕食かぁ……どんなのが出るか楽しみだね！」「ふふふ、期待して貰って構わないわ。ねぇ妖夢」「あ、はっ、はいっ！」 幽玄な笑みで問いかける幽々子さんに、妖夢ちゃんが慇懃な返事を返す。 ……が、その直前までボーっとしていた所を見ると、まだ先ほどの魔槍のダメージは残っているらしい。 生真面目な子だなぁ。責任感が強いと言うか何と言うか。 このままだと命を削ってでも料理を作りかねない妖夢ちゃんの姿に、さすがの僕も不安になってくる。 彼女がこうなったのは、言ってしまえば僕のせいだしなぁ。せめて何かしらの手助けが出来れば良いんだけど……。 そこまで考えた僕の頭の中に、ふと天啓の様な思い付きが浮かんだ。 おお、そうだ。妖夢ちゃんが無理なら、僕が代わりに料理を作ればいいんだ！「妖夢ちゃん待ったぁ！ 晩御飯なら僕が作るよ！！」「ええっ！？ そんな、お客様にそんな事させられません！」「そう言わずにさ、任せてくれないかな？ 僕も幽々子さんにお返しをしたいんだよ」「しかし……」 困った顔の妖夢ちゃんが、幽々子さんに助けを求める。 すると幽々子さんは、優しい笑顔を浮かべてゆっくりと肯定の頷きを返した。 どうやら、彼女の事を心配していたのは僕だけでは無かったらしい。 さすがに主に許可を出されては否定できないようで、妖夢ちゃんは申し訳なさそうに僕の顔を見た。「ではお願いします。その、材料は台所にありますので……」「任せて！ 最高の肉じゃがを作ってみせるよ！！」 そんな妖夢ちゃんを安心させるように、僕は自分の胸を勢いよく叩く。 まぁ、レパートリーは相変わらず肉じゃがしかないけど、一食くらいなら何とかなるはずだ。 フランちゃんや幽々子さんの期待に満ちた視線も受けつつ、僕は台所に向かって駆け出すのだった。 ちなみに、お疲れの妖夢ちゃんは本当に限界が近かったらしく、肉じゃがを一口食べた当たりで気を失ってしまった。 フランちゃんもはしゃいでいた影響か同じく一口食べた所で眠ってしまい、残った僕と幽々子さんで肉じゃがを食べ切る羽目になった事をここに語っておく。 ―――ところで幽々子さんに‘私の能力みたいな味ね’って評価を貰ったんだけど、これって褒められてると思って良いのかな？