繰り返される地獄の日々。
そしてある大事件の模様を教えよう。
第十五話
修行初日。
「まずは現段階でどれくらいできるか見せてもらうとしようか。」
そんな言葉から始まり軽く手合わせをする事になった。
俺が師匠に向かって攻撃をする、それを師匠は避ける。
ただそれだけの事だが……
(全然当たらねえ……。)
解りきっていた事だが突き付けられてみると結構堪えるものだ。
俺は今までに出来るだけの準備、ことさら戦闘に関しては特に力を入れてきたはずだった。
重りも取り全力の剃で師匠の前後左右、あらゆる角度に回り込み刀を振るう。
刀に関しては誰に習った事もない、ただ全力で振りまわしているだけだ。
しかし師匠はヒョイヒョイと事もなげに避け続ける。
今の俺の実力じゃあ一撃も入れることは出来ないだろう、そう思ってはいたが……その場から一歩も動かす事が出来ない。
フェイントを入れても工夫をしても一撃どころかその場から動かす事も出来ない。
疲れた様子もない、むしろ攻撃してる俺の方が圧倒的に疲れている。
そばで、見ているハンコック達もこの光景に唖然としている。
ハンコック達は師匠がどう言う存在かしらないから無理もないと言えばそうなんだが。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「どうした?もうそろそろ限界かな?」
膝をつき息も荒く刀を構える俺と最初の位置と変わりない場所に佇む師匠、圧倒的にも程がある実力、ヒナやハンコック達でも能力抜きなら俺は全力を出させる事くらいは出来る。
今までに予想外の事ばかりしていたせいで忘れかけていた、この男は年老いても海軍大将と渡り合う実力を持っている事に。
この恐ろしくも嬉しい事実は俺のやる気を著しく揺さぶってくれた。
俺は力を振りしぼり師匠に特攻した……
「それでは、今回はこの辺で終わりにしようか。」
最後に力を振り絞った猛攻も五分と持たずに終わりおよそ一時間半に渡るこの訓練は終わった。
一時間半、師匠はこの短時間に冥王と呼ばれる存在感を俺達に刻みこんでくれた……もっともこれでもほんの一部だろうが。
「どうでしたか?あれが現段階での俺の限界です。」
昼食を取りながら午前の結果を聞いてみる。
「ふむ、悪くはない。」
「本当ですか!!」
一歩も動かせずに呆れられたかと思ったが意外な一言に一瞬浮かれかけたが
「あくまでその歳では、だがね。」
そんな喜びも一蹴されてしまった。
そりゃそんな簡単に強く成れるわけないよな。
「今は八歳だったかな?その歳ならばそれだけ出来れば上出来だよ、あくまで普通と比べるとな。」
何やら含みを持たせて言ってきた。
「君が普通でいいと言うならばこのまま無難に育てるが、どうかな?」
「もちろん全力で鍛えて下さい、いずれ師匠も越えますから。」
試すような口調に少しカチンとなり思わず要らない事まで付け加えてしまった。
「ほう、私を超える…か、それは楽しみだ全力で鍛えねばならんな。」
「ふふふ、大きく出たわね、これから大変よ。」
実に楽しそうなお二人に若干失敗したかと思ったが、俺の夢のために此処は大き出よう。
「ええ、越えて見せますので全力で鍛えて下さいね、師匠。」
「わははは、わかった全力でな。」
愉快そうに笑った後昼食を終え午後の修行に入る事にした。
「聞いたところ六式を使いたいらしいな、ならまずは身体能力を上げねばならない。」
「はい、今現在は剃だけ使えます。」
「ふむ、しかしそれだけではダメだな、特に攻撃に関してが全く出来ていない。後は剃もまだ完全ではない、やはり暫くは午前に体力系、午後に筋力系、そして最後に組み手で行こう。
剣に関しては振っていれば自分なりの使い方が出来て行くだろう。」
「はい、それでお願いします。」
「それではさっきの重りを付けなさい、その方が効果的だろう。」
「はい。」
師匠に言われて重りをつけて普通の筋トレを開始した……回数はチョット異常だったけど。
なんでもこれ位は笑ってやらないとこれからの訓練はやっていけないらしい。
内容は1セット
・腕立て・・・・・・・・・300回
・腹筋・・・・・・・・・・300回
・背筋・・・・・・・・・・500回
・スクワット・・・・・・・500回
・ダンベル(20キロ)・・500回
これを休憩を間にはさみ5セットこれをやると午後が丸々潰れた。
最後に師匠との組み手。
今度は向こうも攻撃してくる、最も一割にも届かない力でだが……それでも全く相手にならなかった、ちくしょう。
約30分ほどで組み手が終わり俺はボロボロで動けなくなった。
「今日はこの辺でやめておくとしよう。」
「…ありが…とう…ございました。」
力尽きた俺は途切れ途切れに礼を述べ今日の修行は終わった。
「大丈夫か?シュバルツ。」
帰り道にハンコック達が心配そうに聞いてきた。
「正直、大丈夫じゃないね。」
俺は素直な感想を述べたが自分でも顔が笑っているのがわかった。
強くなる……その思いがこの厳しい状況を嬉しさに換えているようだ。
「どうした!!やはり可笑しくなってしまったか?」
「笑ってるわ、頭でも打ったのかしら?」
「不味いわね……。」
しかしハンコック達には違うように伝わったらしくえらく心配されてしまった。
家に帰り死んだように眠った俺は次の日も修行に行き、またボロボロで帰宅、そしてまた修行に行くの繰り返しの日々を送った。
修行に体が慣れて少し余裕が出てくるとすかさず師匠は課題を上げてきた、それに慣れるとまた上げる。
組み手の相手は時々ハンコック達に変わったりもしたし、師匠は時々居なくなって、大金を持って帰ってくる事もあれば、大負けして帰ってくる事もあった。
居なくなる事があっても二、三週間で帰ってくるし、今はまだ毎日絶対師匠が必要というわけでもなかったので問題はなかった。
要するにまだまだ基礎的な事ばかりだが着実に身体能力は上がり剃も完成した。
そんな修行を初めて半年程経ったある日の事……
「ハァ…ハァ…ハァ…」
やや息を切らしながらも崖を登る男が居た。
しかしそれは只の崖ではない、それはまさに世界一の崖その名も” 赤い土の大陸(レッドライン)”その高さは数千メートルもありとても人が登れる高さではない。
その男の名はフィッシャー・タイガー、魚人にして冒険家でもある。
彼の目的は聖地・マリージョアに住み権力を振りかざす天竜人に奴隷として支配される魚人達を解放するためである。
途方もない距離それを登り切るまでもう数メートル、そしてついにその頂きに手をかけたその時、
「!!!しまった!!」
フィッシャー・タイガーが手をかけた部分が崩れてバランスを崩してしまう。
(落ちる!!)
そう思った時、崖の上から差し出された手がフィッシャー・タイガーの手を掴んだ、それはまだ小さい子供の手だった。
驚くべき事に子供はまだ成長しきっていない細い腕で大人の魚人を支えている。
(子供が?何故?)
疑問を浮かべたが少年の瞳に宿る強い光を見て彼は自然と少年と言葉を合わせていた。
「ファイトーーーー!!!」
と少年が叫び
「いっぱーーーーつ!!!」
その叫びを合図に二人は力を合わせフィッシャー・タイガーを崖の上に引っ張り上げた。
そして……
ドッカーーン!!!!
「へっ?」
何やら熱い友情の夢を見ていた気がするが突然の爆音に目が覚めた。
「姉様!!屋敷の外の方で大きな爆発が起こったみたい!!」
気がつけば他のみんなも既に起きていたようでサンダーソニアが窓から外の様子を見ていた。
俺はいきなりの事に上手く頭が回らなかった。
慌てて窓に走り外の様子を見てみると、そこには焼ける屋敷やそれに乗じて逃げる奴隷達の姿が映った。
その光景を見て混乱していた頭が覚醒しある出来事を思い出した。
(フィッシャー・タイガー、ついに来たか!!)
素早く状況を理解した俺は前からの考えをついに行動に移す事にした。
「みんな聞いてくれ、どうやら何者かがマリージョアに襲撃をかけて来たみたいだ。」
「馬鹿な!!此処に奇襲をかけるなど正気の沙汰ではないぞ!!」
驚愕を露わにするハンコック達だがそれを落ち着かせるように俺は言い聞かせた。
「普通はそうだろうけどこの襲撃の犯人はそんな事を気にするような奴じゃないみたいだ。」
「なら早く避難しないと!!」
「慌てないでマリー、これはチャンスだ、俺は前から計画していた家出をこれに乗じて実行する。」
「なにもこんな時にしなくても!」
「だけどソニア、普通に考えて親父達が許可を出すわけないし家出になる事は必須だ。それにこの機会を逃すと暫くは無理だよ、絶対に警備が強化されるだろうしね。」
「わかった、シュバルツお前が言うなら、私は何処へでも行こう。」
ハンコックが賛同したことでサンダーソニアとマリーゴールドも覚悟を決めたようだ。
やや戸惑いながらも了承してくれた。
「よし、じゃあハンコック達は此処から必要最低限の荷物を運んでくれ、俺は宝物庫にある物を取って来るから、ラジャは先に船へ、行けるな?」
「「「わかった(わ)」」」
「シュバルツ様大変です、何者かがマリージョアに侵入し、屋敷を襲撃して奴隷の首輪を外しています!!」
丁度いいところでメイドが駆け込んで来たので他の二人を連れて船に行くように言っておいた。
そして俺は宝物庫に急ぎそこから用意していた悪魔の実が入った袋と大金の入った箱を持ち船に駆けた。
途中ですれ違う者達の顔は、屋敷の者達から首輪の外れた奴隷達まで入り混じりまさに大混乱と言えるものだった。
上手く逃げ切れて船に飛び乗ると既にラジャ、そしてメイドの三人は既に乗っているようだ。
しかしハンコック達三人はまだ来ていないようだった。
「シュバルツ!」
そこで大きな呼び声が聞こえた。
ハンコック達がこっちに向かって走ってきている。
しかし安心したのもつかの間、船から飛び降りてハンコック達に向かって駆けだした俺の視界の端にある光景が見えた。
それは燃える建物が次々と凍っていくというものだった。
(これは!……まさか青雉!?)
今はまだ中将だが未来の海軍大将が側い居る、追いつかれたら脱出できるとは思えない。
「急げ3人ともこのままじゃ不味い事になる!!」
赤々と燃える建物がつぎの瞬間には凍りついていく、その異様な光景に恐怖を感じた俺はハンコック達を急がせた。
あと少しで合流できる、そう思った時に俺達の間が氷の壁がせり上がってきた。
「これは!?シュバルツ無事か!!?」
「ああ、大丈夫だ!それよりもこうなったら合流は無理だ!此処からは別々に逃げよう!シャッキーのバーまで逃げれそうか!?」
「しかし、お前一人で逃げれるのか!?」
「俺は万が一掴まってもどうにもならないさ、それよりハンコック達が捕まると逃げ出した奴隷として酷い目にあうかもしれない、だから早く逃げて!!」
「わかったて…お前達も無事に逃げきれよ!!」
「気をつけてね!!」
「絶対に逃げ切りなさいよ!!」
そう言ってハンコック達は違う方に逃げて行った。
その後すぐに背の高い男がこっちに歩いてきた。
「あららら、まーだこんな所に天竜人が残っていた…しかもまだ子供じゃないか、親はなにやってんだろうねぇ。逃げ出した奴隷に襲われそうになってたじゃないか。」
どうやらさっきの氷の壁は俺を守る為にだしたようだ。
まさに有難迷惑だ。
ハンコック達が逃げ切るまで少しでも時間稼ぎをするか…別に攻撃はしてこないだろうし。
「ああ、どうもこりゃ、あー俺ァ海軍中将のクザンってもんです、まあ…こんな時までヒザつきをやれとか言わないでしょう?」
「別にそれは構わないが。」
「それじゃあ保護しますんでこっちについてきてもらえますか?」
「いや、その必要はない、家の者達と船で逃げるからそちらは事態の収拾に向かってくれて結構ですよ。」
青雉は俺の後ろの方に泊まっている船を一瞥した後、
「そうですか、じゃあお言葉に甘えるとしましょうかね…。」
そう言ってまた燃える建物の方に歩きだした。
俺の方も時間稼ぎはもう十分だと思い俺も船に乗り込みシャボンディ諸島に向かって出港した。
燃える街、それから逃げるように走り回る人々、凍る家々、それらが段々小さくなっていくのを見ながら俺はハンコック達の無事を祈る事しかできなかった。
あとがき
さて本格的な修行風景はまた今度ということで今回はフィッシャー・タイガーの事件と半々で書かせてもらいました。
さてハンコック達と無事再開できるのか、それともこのままさよならなのか答えは次回ということで。
あ、それとシュバルツの剣術どうしよう?
ただ振るだけにするかそれとも何か技を覚えさせようか……作者的には覚えさせたいが技が思いつかない、何かいい技を思いついた人は感想掲示板まで!!
それともいっそのこと飛天御剣流でも使っちまおうかな。