<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.8260の一覧
[0] 【完結】真・恋姫†無双SS~馬超伝~[ムタ](2011/02/03 22:35)
[1] 2話[ムタ](2009/04/28 23:53)
[2] 3話[ムタ](2009/05/10 06:38)
[3] 4話[ムタ](2009/05/10 06:41)
[4] 5話[ムタ](2009/05/11 23:41)
[5] 6話[ムタ](2009/05/17 13:05)
[6] 7話[ムタ](2009/05/25 00:27)
[7] 8話[ムタ](2009/06/07 22:30)
[8] 9話[ムタ](2009/05/28 23:24)
[9] 10話[ムタ](2009/06/07 22:32)
[10] 11話[ムタ](2009/06/07 22:45)
[11] 12話[ムタ](2009/06/21 13:36)
[12] 13話[ムタ](2009/06/21 13:53)
[13] 14話[ムタ](2009/07/05 17:19)
[14] 15話[ムタ](2009/07/12 05:21)
[15] 16話[ムタ](2009/09/17 02:06)
[16] 17話[ムタ](2009/09/21 22:04)
[17] 18話[ムタ](2009/09/21 22:16)
[18] 19話[ムタ](2009/11/01 23:47)
[19] 20話~袁紹伝その1~[ムタ](2009/10/25 02:34)
[20] 21話~袁紹伝その2~[ムタ](2009/11/02 02:07)
[21] 22話~袁紹伝その3~[ムタ](2009/11/12 19:04)
[22] 22.5話~袁紹伝その3.5~[ムタ](2009/11/29 23:29)
[23] 23話~袁紹伝その4~[ムタ](2009/11/29 23:34)
[24] 24話[ムタ](2009/12/07 03:00)
[25] 25話前編[ムタ](2009/12/27 04:04)
[26] 25話後編[ムタ](2009/12/29 23:39)
[27] 26話前編[ムタ](2010/01/05 22:05)
[28] 27話前編[ムタ](2010/01/24 10:55)
[29] 26話後編[ムタ](2010/01/28 00:14)
[30] 27話後編と28話[ムタ](2010/02/21 02:28)
[31] 29話前編[ムタ](2010/02/23 23:50)
[32] 29話後編[ムタ](2010/02/28 02:15)
[33] 30話[ムタ](2010/03/16 02:55)
[34] 31話[ムタ](2010/04/15 18:19)
[35] 32話[ムタ](2010/04/18 23:32)
[36] 33話[ムタ](2010/04/19 00:03)
[37] 34話[ムタ](2010/04/27 23:16)
[38] 35話[ムタ](2010/05/06 00:53)
[39] 36話[ムタ](2010/05/13 23:17)
[40] 37話[ムタ](2010/06/01 17:55)
[41] 38話[ムタ](2010/09/21 23:43)
[42] 39話[ムタ](2010/09/22 00:19)
[43] 40話[ムタ](2010/10/16 14:21)
[44] 41話[ムタ](2010/10/24 18:15)
[45] 42話[ムタ](2010/10/30 16:08)
[46] 43話(最終話)[ムタ](2010/11/21 02:31)
[47] おまけ1[ムタ](2011/02/03 22:28)
[48] おまけ2[ムタ](2011/02/03 22:29)
[49] あとがき[ムタ](2011/02/03 22:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8260] 30話
Name: ムタ◆f13acd4e ID:b19915a3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/16 02:55




――― 益州 荊州との国境近くの城



ドドド……という馬蹄の音と共に砂塵が舞う。城主黄忠は城門の上でただ黙ってその音を聞いていた。

「報告します、劉備軍およそ5万。この城を落としに来たのはもはや疑いようがありません」

「ええ、そうね」

斥候よりの報告にさして感銘も受けずそう頷く。荊州との国境にある新城、諷陵が劉備に占拠された

にも関わらず太守劉璋からは『気にする必要は無い』等と言う信じられない命令があった後、この城

はおろか益州全体にとある噂が民の間で広がっていた。

『劉備玄徳が内乱に明け暮れ、国を試みない劉璋から民を救う為に益州に来た』

噂の広がり方が早急かつ異常過ぎた。どちらも恐らくは劉備軍の策であろう。この時点で劉備が益州

乗っ取りを計画しているのは明らかであり、新城諷陵の次、実質国境を守る拠点ともいえるこの城に

劉備が攻め込んでくるのは時間の問題であったと黄忠は思っていた。

眼前に広がる劉旗。それに連なる武将達。

「11……いいえ、10人といった所かしらね?」

大陸1、2を争う弓の名手である黄忠の目は尋常ではない。狙いをつければ百発百中が名人、達人

であるならば彼女の称号例えるならば弓神。戦場において誰を狙い撃てば効果的か? 服装、行動

だけではない、2000年近くの時が流れても語り継がれる英傑なのだ、纏う気というものがただの兵とは

違う、それすら読み込んで射抜くのが弓神。そんな彼女の目に映るのは10人の英傑。

写真すら無い時代、まして情勢に疎い益州の地では人物の風貌など解る筈も無いが、黄忠が見極めた

人物は間違いなく劉備軍の中核人物だった。

劉備、鳳統、関羽、張飛、薄っすらと公孫賛。

劉備陣営だけではない。

孫権、呂蒙、孫尚香の呉陣営。


そして……


「何故益州に!?」

見知った人物、こんな所にいていい筈の無い馬国の盟主馬超。同じ西涼の衣服に身を包んだ馬岱の姿を

を見、そう叫ぶ。

更にそう、先程11人を10人と訂正した黄忠は最初の計算が正しかった事を知る。

天の御使い北郷一刀。馬超、馬岱合わせて馬陣営。



いうならば劉備混成軍。望蜀への戦いは今始まったのである。






――― 数日前、荊州


「あっ、ご主人様!」 「ご、ご主人様~ッ!!」

翠、星と共に新野の民や劉備軍と合流した北郷一刀を見つけた蒲公英と朱里は、馬から下りた直後の

一刀に抱き付き、泣いた。

「も~勝手にいなくなるなんてズルイよ! これでご主人様死んでたら監督不行き届きでたんぽぽも

お姉様に殺されてる所だったよ」

「うわーん、私なんかの為に……酷いですよう! もう心配で心配で……ぐすッ」

涙のベクトルは真逆なような気がしたが可愛い女の子に抱きつかれてまんざらでもなかった。

そこに公孫賛が現れた。

「お、北郷無事だったか。朱里に聞いたぞ、敵を千切っては投げ、千切っては投げ、飛んでくる1億

の矢を叩き落としたが朱里を庇って一本だけ喰らってそれでも朱里だけを逃がしたんだってな」

「ないよッ!!」


……物凄く美化されていた。


いやいやいや、千切るって素手? それ人間技じゃないし、恋だってそんなこと……出来そうな気もするな。

まあニヤニヤ笑ってるから公孫賛も解ってて言ってるだろうけど。

「ああっ、ご主人様!」

新野城から逃げてきた民を慰撫していたらしい桃香がこちらに気付き、駆け寄ってかん口一番『ごめんなさい』

と頭を下げた。

「私達の戦いに巻き込んじゃったあげく怖い思いまでさせちゃうなんて……」

「別に桃香のせいじゃないよ。それに無事だったから気にしないでくれ」

「ご主人様……あ、そうだ聞いたよ! 朱里ちゃんを助ける為に敵を千切っては投げ千切っては投げ……」

「それはもういいから!」

なんだかキラキラした目で『ご主人様すご~い』とか尊敬の眼差しを向けられた。もしかして本気にしている?

「星ちゃんもご苦労様。ご主人様を助ける為に翠ちゃんと飛び出しちゃうなんて後から聞いてビックリしたよ」

「は? 主殿を? ……おお、そういえばそんな理由もありましたな」

ポンと手を打って頷く。

「あれ? 違ったの?」

「まあ今となっては米粒程度の理由だったと申しましょうか? それよりこれをご覧下さい桃香様」

そう言って大事に抱いていた鞄からメンマの入った壷を桃香に手渡した。

「これ星ちゃんのメンマの壷」

「さよう、趙家の秘宝です桃香様」

ふふん、と得意気に胸を張る星と、メンマの壷を抱き、ポカンとした表情の桃香。

これはまさかあれか? あの有名なシーンなのか?


一刀はゴクリと唾を飲みそのシーンを想像した。


『こんな物、えいっ!』

ガシャン!! と劉備がメンマの壷を叩き割った。

『何をなさる桃香様!? 私のメンマ、メンマが~~~~~~ッ!!』

跪き、泥まみれのメンマを拾い、咽び泣く趙雲。

『聞いて星ちゃん! メンマはまた作ればいいよ。でも星ちゃんは二人といないんだよ。だからメンマの

為に無茶なんてしないで』

『苦労して集めた至高のメンマが……我が命のメンマがあああああああッ』

『あ、あの星ちゃん?』

『そうだ3秒ルール(法則)! フフフ……このメンマはまだ食べられますぞ!』

『きゃああ、星ちゃんが壊れた~、誰か、誰か星ちゃんを止めて~!』


……なんだこれ? 酷すぎる。


現実は違った、劉備は壷を叩き割る事もなく『わ~壷も無事で良かったね星ちゃん』と朗らかに微笑んでいた。

そう、劉備は自らの意思で壷を放り投げる等と言うことはしなかった。劉備本人は!

壷からすれば長い、それは長い旅だった。爆炎地獄とかした新野城で高温に置かれ、風の強い寒い夜を

過ごし、密林を歩き、一刀と共に馬から落ちた。その後趙雲と共に一万の兵と戦ったのだ。

痛まない分けが無い。傷がつかないわけが無い。


パキリ……と、壷の取っ手が欠けて……『へ?』 『は?』 突然の事に桃香と星はなすすべも無く……


ガシャン!! という壷がコナゴナになる音を聞くしかなかったのである。


「何をなさる桃香様!? 私のメンマ、メンマが~~~~~~ッ!!」

「ち、違うよ星ちゃん! 私のせいじゃないよ~~~~~!!」

「苦労して集めた至高のメンマが……我が命のメンマがあああああああッ」

「あ、あの星ちゃん?」

「そうだ3秒ルール(法則)! フフフ……このメンマはまだ食べられますぞ!」

「きゃああ、星ちゃんが壊れた~、誰か、誰か星ちゃんを止めて~!」


……変わってないし!! というか想像より酷すぎる!


「止めろ星、そんなもん食べたらお腹壊すだろ」

公孫賛に羽交い絞めにされ、至極『そらそうだ』としか言いようの無い説得を受けた趙雲はメンマの墓を

立てた後『おのれ曹操! この恨み晴らさずに置くものか!!』と目に炎を浮かべ、そう誓った。

「そ、そうだよ! 曹操さん酷いよね! だから私悪くないよね?」


「……」

一部終始見た一刀は、閉めていた筈が少し隙間が開いていた心の扉をもう一度ガチャンと閉めた後、

鎖でグルグル撒きにして永久封印する事に決めた。埋めたメンマの山に突き刺した欠けた壷の破片に

”阿斗”(作者名?)と彫られていたのは偶然である。



蛇足ではあるがこの時の働きにより、劉備は趙雲を牙門将軍へ昇進させた。

後世の歴史家も、まさか『チョット後ろめたいかも?』等と言う理由であったなどという真相に辿り着ける

者はおらず、後に恐ろしい程に真実が捻じ曲がり、”阿斗を抱き、曹操軍を駆け抜けた趙雲の一騎駆け”

そして”わが子阿斗より趙雲の無事を心から喜ぶ劉備の人徳”という感動のエピソードが出来上がった

のである。歴史とは全く面白いものだと作者は思う。







「みんな~今帰ったのだ!」 「桃香さま、みんな、関雲長ただいま帰りました」

劉備軍が休憩していた地に張飛が、そして曹操軍に客将として捕まっていた関羽が合流した。

「愛紗ちゃん!!」 「愛紗さん」 「愛紗さん」 「愛紗!」   「……メンマ」

劉備陣営が全員張飛と、そして帰ってきた関羽の元へ駆け寄り無事を喜び合った。

「愛紗ちゃん、愛紗ちゃんだ~」

「桃香様……はい、帰ってまいりました。おお星、私の為に泣いてくれているのか」

「……星はほっといてやってくれ。それよりやっとか、愛紗がいないせいで苦労したぞ」

「白蓮殿苦労をおかけました」


劉備陣営が感動の抱擁をしている時、一人の少女が一刀に近づいてきた。

「ふ~ん? アナタが一刀ね?」

褐色の肌と蒼く美しい瞳、鮮やかなピンクの髪の少女はそう言って、まるで値踏みするように

一刀の周りをグルグル回りながら『ふむふむ?』と一人頷いたり小首を傾げたりしだした。

「そうだけど、誰?」

「シャオの事? シャオ! シャオって呼んでね一刀♪」

「へ? え? それ真名じゃないか?」

「だって未来の旦那様なんだから真名で呼び合うのは当たり前でしょう?」

この少女とんでもない事を言った!

「シャオ! いきなり一刀に何を言っているの!」

「え~? だって蓮華姉さまがグズグズしてるなら『代わりに一刀を籠絡してきなさい♪』って雪蓮姉様

に言われたよ?」

「ちょッ!? な、何を言っているのよシャオ! 一刀! 今のはなんでもないわ! いくわよシャオ」

「何処に? まだ一刀とお話が……ちょっと、蓮華姉さまってば!」

それだけ告げると孫権はシャオを掴み一刀の元から離れていった。

「なんだったんだいったい?」

「さあ? 何だったんでしょう?」

さっきまで誰もいなかった筈の真後ろから、独り言に相槌を打つような形で返事が帰ってきた事に驚いた

一刀はすぐさま振り返り……ぼよよ~ん♪ という擬音が聞こえそうな柔らかあったかいおっぱいに弾き

飛ばされてコテンと転んだ。

「あら~? 天の御使い様って大胆なんですね~」

ノンビリとした口調でニコニコと微笑むおっぱいがそこにはあった。

「え~? 私おっぱいじゃありませんよ。陸遜って呼んで下さいね♪ 小蓮さまの御付で蓮華様の無事を

確認に来ました~」

ペコリと頭を下げる。爆乳がプルンと揺れた。

「あ、ありがとう……じゃなくて陸遜!! いやいや、それでも無くて今心を読んだ!?」

「いえいえ、どういたしまして♪ はい、真名はもうちょっと仲良くなってからですかね~? そんなの顔を

見てれば解りますよ♪」

陸遜を名乗る少女は一刀の支離滅裂な言葉の羅列に律儀に順番を合わせて答えた。

「う~ん? それにしても天の御使いのおっぱい好きは本当だったようですね。これは蓮華さまや小蓮さま

に亜莎ちゃんでは荷が重いかもしれません。どうですか呉に来ませんか? 呉はおっぱい天国ですよ♪」

おっぱい天国……聞いたことも無いような魅惑的な天国だった。

「雪蓮様や冥琳様。祭さまとより取り見取りですよ~」

ゴクリと唾を飲み込んだ後、話の流れが明らかにおかしい事に気付き、急ぎ訂正が必要な事を悟った。

「いやいやいや、そもそも俺はおっぱい星人なんて設定はないよ!」

「あれ? そーだったんですか? 確か死を覚悟の上で初対面の劉備さんのおっぱいにむしゃぶりついた

という汜水関の伝説や、戦場で辛抱溜まらず敵将の張遼将軍の馬に飛び移るという離れ業をした挙句

裸に剥いて胸を揉みしだいた虎牢関の伝説が……」

「それ伝説なの!?」

「ええ、江東の子供が泣き止まない時も「北郷来北郷来(北郷が来るぞ)」と言えば腹を抱えて笑い出すので

必ず泣き止むそうですよ」

「逸話が塗り替えられている!? 『遼来遼来』じゃないの!?」

「あら? よく知ってますねそっちもありますよ。悪さしてると裸の痴女が襲ってくるぞ!って意味で使われます」

「霞ゴメン……」

遠く、今は魏の武将となった張遼に届かない謝罪する一刀、その側にいた陸遜に気付いた呂蒙が声をかけた。

「穏様こんな所にって一刀様!? ご無事でなによりです」

「呂蒙も。結局新野の民に付き合ってくれたんだな」

「そんな、何にもしてませんし、一刀様達がしっかり殿をしてくれたからだと思います」

襄陽への逃避行。孫権と呂蒙は新野の民の命までは預かれないと基本従軍を拒否。しかし二人は結局劉備軍

に同行し、疲れた民を鼓舞したり乱れた隊列の整理や警備の手伝いをしてくれていたと民達が語っていた。

「あらあら~? 亜莎ちゃんが男の人と普通に話してるなんてビックリ」

「へ、えッ? 違います! 普通、普通です!!」

「いや今陸遜さん普通って言ってたよ?」

「ええッ!? あ……う……し、失礼します!!」

そう言って何しに来たのか解らないまま呂蒙も何処かへ消えていった。さっきの孫権もそうだけど、いったい呉の

人達何処に行くんだろう?

「なんだか話がそれちゃいましたね~」

「そうだなって、おっぱいの話しかしてなかったような?」

「あははー、それじゃそんな調子でこれからも蓮華さまや小蓮さまに亜莎ちゃんを宜しくお願いしますね~」

「こちらこそ……あれ? 呉に帰るんじゃないの?」

一刀の問に答える前に、陸遜も何処かへ消えていった。

いやだから何処に消えてるの呉の皆は? 伏線?







「4万? お待ちください桃香様、曹操軍は現在15万以上、更に増援の夏侯淵隊20万が荊州に向

かっています。いくらなんでも4万では話になりません」



現状の確認。そして今後の方針を定める為に本陣用の天幕に劉備陣営に呉、馬の将が集まっていた。

今に至った状況の確認の後、現有戦力について鳳統が報告した。新野より共に撤退した劉備軍1万、

荊州より預かった兵3万の計4万の数を聞き、曹操軍の巨大さを最も理解している関羽が立ち上がり、そう

意見を述べた。

「うんそうだね。それに荊州から借りた兵隊さんは曹操さんとは戦えないんだ」

「おいおい桃香? そりゃいったいなんでだ?」

「……あの兵はあくまでも新野の民を救出する為にお借りしたんです」

「どういうことなのだ?」

「……桃香様、荊州は、曹操さんに降伏する事に決めたんですね?」

鈴々の質問に一足飛びし、真相に行き着いた朱里が変わりに答えた。

「うん。劉表さんの後継者さんは、曹操さんに降伏する事に決めたんだよ」



劉備はそう答えると、荊州で行われた軍議について説明した。


「荊州の皆さんは襄陽、樊城の二大堅城で篭城し、襄陽へ兵を向けられたら樊城の兵が出て

挟み撃ちに、樊城へ兵を向けられたら襄陽城から出陣し、同じく挟撃します。兵を分けてきたら

私達劉備軍が遊撃軍として曹操さんをかく乱します。その間に呉、馬、益州と同盟してそれぞれ

寿春、長安から、手薄になった曹操領へ攻め込んでもらいます。益州からは援軍を出してもらえ

ば勝てましゅ!! ……あぅ噛んじゃった」

劉表の後継者を王座の間に向かえ、荊州の首脳陣の前で軍師鳳統こと雛里は対曹操における

必勝の策を進言して見せた。

最大の勢力を打倒し、最悪の危機を打開し、しかも大陸の王になれるかもしれない魅力的なこの策を、

荊州の武将達は由としなかった。


曰く、兵数が違いすぎる。

曰く、平和に慣れた荊州兵では曹操軍に勝てない。

曰く、呉とは敵対しており、あのしたたかな孫策が同盟などする筈が無い。

曰く、益州の張松はこの荊州で死んでいる。どう釈明すれば良いのか?


話にもならない。だからこその篭城であり、大宴に孫権を寄越した時点で孫策はいかに曹操に対抗

すべきなのか理解している筈で、張松については劉備達にしてみればそこまで責任が持てるものか!

となる。

恐らく劉備達の首を曹操に献上しようと考えていた一派が紛れ込んでいるのであろう。そして新野城の

炎上が皮肉にも事情を知らぬ襄陽にいる全ての将兵が弱気になる原因となっていた『黄巾の乱や

反董卓連合で活躍した劉備軍が城を易々と燃やされているではないか! 兵の数だけでなく、質で

すら劣っている荊州が戦って勝てるのか?』と。


今まで沈黙を守っていた劉表の後継者は『荊州は曹操軍に降伏する』と宣言した。

その考えは早計であり、必ず勝てるのだから再考するべし。という劉備達の主張は、その後に続けて

発した劉表の後継者の一言によって、霧散する事になる。



桃香の話を聞き終え静まり返る一同。一刀が口火を開いた。

「なんだよそれ? 曹操に占領されたら荊州がどうなるかその後継者はわかってるのか?」

未来……いや正史を知る一刀は憤る。この為に新野の民は襄陽に入れずに次々と殺され、劉備軍

も多大な被害を出し、劉表の後継者も暗殺され、荊州を曹操に売った連中も後に敵の策に騙された

振りをした曹操に処刑されてしまうのだ。長坂橋の位置が違う為なんともいえないが、史実に沿うの

なら道のりはまだまだ遠すぎた。

「うんそうなんだよ。ねえご主人様、曹操さんに占領されたら荊州はどうなるのかな?」

「え?」

「……劉表さんの後継者の方に言われたんです『曹操に占領されて何か民に不都合があるのか?』と」

「ああっ! そうか!!」

この世界の曹操は、匿ってくれた人々を間違って殺害していないし、父親の仇だからと徐州の民を皆殺し

にするような非道は行っていない。それどころか見事な統治で旧袁紹領でも人気が高い程であった。


なんだ? じゃあもう戦う必要はないのか? いや、この後執拗に劉備軍を追いかけて大変な事になるんだ!

一刀が見つけた一本の道も、次の鈴々の言葉で消え去る事になる。

「髭のお兄ちゃんは鈴々達をもう追いかけないって言ってたのだ」

「髭のお兄ちゃん?」

「司馬懿殿の事でしょう。司馬懿殿は嘘を言う人物ではありません」

唐突な鈴々の一言を愛紗が通訳する。

「またかよ……」

ましても司馬懿仲達! 博望坡といいまるで未来を見越しているかのような行動指針に溜息が出る。

「おい桃香! まさか私達も曹操に降伏する気じゃないだろうな?」

思いがけない公孫賛の一言。いや違う、ここで降伏するのが普通なんだ! この場で唯一普通な彼女だか

らこその発言であった。

全員の視線が桃香に集中する。

「白蓮ちゃん、降伏は……しないよ」

そう答えると桃香はスクっと立ち上がり隣に座っていた朱里に『朱里ちゃんちょっとこの巻物の端っこ持ってて』

と頼むと、机の上に絵巻物を広げた。それは地図。

「……こ、これは益州の地図!」

「しかも凄い詳細です! いったいこれは!?」

鳳統と諸葛亮が絶賛する。

「”西蜀四十一州図” 私達は益州に行きます!!」

桃香は高らかにそう宣言した。






「益州? なんでまた?」

「朱里ちゃん雛里ちゃん説明お願い」

白蓮の問を桃香は軍師に丸投げした。

「え? は、はい、現在の益州は継承問題がこじれ、内乱勃発の兆候がみられるようになりました」

「内乱が起これば血で血を洗う凄惨な戦いになるでしょう。その隙をついて本城を制圧すれば、

結果的に流れる血は少なくて済みます。今益州に入るのは妙手かもしれません」

「それに太守の劉璋さんの評判、あまり良いものではありませんから」

「例えば?」

「税高く、官匪が蔓延しているのにも気付かず、貴族は豪奢な暮らしにうつつを抜かしているとか」

「それなら攻め入るのに遠慮はいらないな」

問いただした白蓮が軍師2人の説明に納得の頷きを返す。

「そんなわけで、身勝手かもしれないけど……劉璋さんのところにおしかけちゃおう」

「しかし荊州の兵は返さねばなりませんから実質1万で益州にかてるでしょうか?」

関羽の当然の疑問。

「あ、荊州の兵は返す必要はありません」

「どういうことなのだ?」

「事情を説明した所、新野の皆さんは私達について来たいそうです。その新野の民を助ける為に

お借りした兵隊さんですから、当然益州までお供してもらいます」

鳳統、恐ろしい子!! 恐らく此処まで計算した上で兵を借り受けたのだろう。

「うんうん、雛里ちゃん凄かったんだよ。荊州の将軍達の前で『降伏して自分達だけ助かるのが武人

ですか! 劉表様でしたら決して新野の民を見捨てたりしなかった筈でしゅ!!……あぅぅ噛んじゃった』

って目に涙を浮かべながら訴えたんだよね」

「……あれは本当に舌を噛んじゃって痛かったんです」

台無しだった。

益州第一目標は新城、諷陵。そして黄忠が守る城!

黄忠。懐かしい名前だった。紫苑さんに璃々。元気だろうか?

「黄忠さんは知り合いなんだ。俺と翠に任せてもらえないか? いいよな翠、……翠?」

「……」


今まで黙っていた翠がこの後放った一言は軍議を静まり返すが、それは後述とする。






―――時は戻り、益州 黄忠の城


「おーい紫苑さん久しぶり。勝手なのは解ってるけど話を聞いてくれないか!」

隊より進み出て城門まで声の通る地点まで近づいた一刀は左右に馬超、馬岱を引き連れてそう声をあげた。

唖然としていた黄忠は口元に小さく笑みを浮かべ、近くにいた兵に声をかけた。

「紙と筆を用意して下さい」



「ご主人様、やっぱ無理だったんじゃないか?」

「あ! 出てきたよ!」

声をかけてから数分、待ちつかれた翠が愚痴を言い始めたと同時、一旦城門より姿を隠した黄忠が再び

一刀達が見える位置に戻ってきた。手には弓と矢を携えて。

「ちょっと!?」


ザクッ……と、一刀達の跨る馬の前の地面に突き刺さる黄忠の放った矢。

「宣戦布告って事か?」

「あ、違うよ矢文だ!」

ヒョイっと馬から降り、突き刺さった矢を引き抜く蒲公英。

「ご主人様宛だね、はいご主人様」

「ありがとう。しかし俺宛って?」

一刀宛の矢文。軽い気持ちで文面を読もうとして、はたと気付く。『劉備の人柄を知りたいから間に

立ってほしい』等と言う事なら喜んで従えるがこれがもし『玉砕覚悟で戦うつもりですがどうか

璃々の命だけは……』なんて事が書いてあったとしたなら!?

だからといって読まないわけにはいかない。ゴクリと唾を飲み込み一刀はたたまれた文を広げた。


「!!??…………やばッ!!」


やはり読まなければ良かった。思わず声が漏れる。


「おいご主人様、何て書いてあったんだよ?」

「いや別に……天気の話とか?」

「そんなわけあるか! おいたんぽぽ!」

「りょーかいっ、と♪」

パシッといつの間にか一刀の後ろに回っていた蒲公英が一刀の手から文を奪い取った。

「どれどれ? 何これ?」


文面はただ一言



『……老将軍? 誰の事だったかしら?  紫苑より』 



交渉は、始まる前から決裂していた。

書き直そう。


劉備の望蜀の戦いは過去の因縁によりとっくに始まっていたのである。 桃香と全く関係ない所で……





(あとがき)


こんなことでキレるか? とお思いの方は厳ついハゲのおっさんに『立派なハゲ頭ですね♪』と実験してみよう♪

や、真意は不明ですが。

5話の伏線覚えててくれてる人いるのかしら?(汗:10ヶ月前)

修正間に合わなかったのでそのうちコソッとやってると思います。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035977125167847