1
反董卓連合軍の洛陽攻城戦開始から5日、見方を変えれば一刀全裸事件から7日。
洛陽で篭城する董卓軍の重臣達は謎のジェスチャー(身振り手振り)軍議を行っていた。
7日前、全裸捕虜から捕虜兼董卓の客人と華麗なジョブチェンジを果たした北郷一刀は『何故ジェスチャー軍議?』
と当然の疑問を持ちつつも基本捕虜という立場からその謎の軍議を黙って見守っていた。
賈駆が怒鳴りあげるフリをして陳宮が負けじと言い返す……フリをして張遼が溜息をつくフリをした。
みんな上手いなあ。
一段高い椅子に腰掛けた董卓が必死に睡魔と闘いながら軍議を心配そうに見つめている。
月は演技が細かいな。
そして最後に呂布は……立ったまま寝ていた。
本当に演技かそれ!?
軍議の議題は恐らく昨夜から始まった昼夜問わずの24時間攻撃だろう。恐らくというのはジェスチャーで判断するしかないから。
こんな攻撃続けられたら兵の士気にかかわるから真面目にやったほうがいいと思うんだけど……正直軍議に顔出してるだけで
ありえない身分だから余計な事は言うまい。もしかしたら都ではジェスチャーが流行しているのかもしれないしな。
退屈なので少し離れた場所からみんなの顔を見ていると董卓と目が合った。
月がニコッと微笑みかけてくれた……凄い癒されるなあ。
ジェスチャーのマナーを守りこちらも無言で大きく手を振りつつ、さわやかな笑顔を返した。
最初クスクス笑っていた月がビックリした顔をして急にバタバタと手を振りなにか叫ぶフリをした。
ん? なんだろ? 口パクを当ててみるか? えっと『……く、に、げ、て、!』かな?……は? 逃げろ? 何故?
ボキリ……と聞こえてはいけない音が体内から発生する。無音の陳宮きっくが炸裂し、一刀は軍議のど真ん中に
回転しながら突っ込んでいた。
おおおおお……月が教えてくれなきゃ受身も取れなくて下手をしたら死んでいたぞ!?
無音の陳宮きっくって……いつの間にそんな恐ろしい必殺技を!? 物理法則を超越してるぞ!!
「ってそんなわけあるかー!!」
一刀は付けていたのをすっかり忘れていた耳栓をとった。
「…………の軍議の最中に月殿に色目使うとは何事ですかー! このち●こがッ……って今何を外したのです?」
倒れた背中に馬乗りになっていた陳宮が一刀が耳から外した物を見て首をかしげた。
「昨日から始まった夜の攻撃うるさくてさ、なかなか寝付けなかったから耳栓してたんだ。取るの忘れてた……」
「「……」」
……議題は解決したらしい。
2
―――数日後、反董卓連合軍曹操陣地
「状況はどう?」
「……あまり芳しくありませんね。昨夜も孫策、公孫賛が攻城戦を繰り返しましたが、董卓軍の士気いまだ衰えていません」
「そう、一刀に聞いた”こんびに”とやらを元に作戦にしてみたけど、敵も何かしら策を用いたようね」
曹操が用いた策は一日を六等分とし、各軍それぞれ4時間ずつ担当とし間断なく洛陽を攻め続けるという大兵力である連合軍だからこそ
出来る策であった。
「董卓の軍師は賈駆と陳宮だったわね。いかにして兵の士気を保ったのか、たいしたものだわ」
よもや捕虜の筈の北郷一刀がなにげなく使っていた耳栓が全兵に支給されたから、が真実であったなどいかな天才曹操でも
見抜くことは出来なかった。
「桂花、次の策に移るわ。文面を用意なさい」
「はっ」
3
―――同日、洛陽
一刀は市場へ向かう途中、呂布の屋敷の前を通りかかり、あの日の事をふと思い出していた。
張遼に生身を9分割される直前、尻をセキトに齧られたまま玄関を這い出てきた真犯人張譲を見つけ、それを
ひきずってきた呂布のおかげで誤解が解けたのだった。
その時陳宮が『チッ早く来過ぎたのです』と舌打ちしたのはスルーしてやった。
他に『う、ウチ、ホンマは一刀の事信じとったんやで』と微妙な愛想笑いでお茶を濁そうとしていた張遼こと霞。
『ふん、偶然だろうけど月を守ってくれた事は評価してやってもいいわ』と途方もなく上から目線で言い切った賈駆こと詠。
そして月の正体があの董卓であったことが判明し、董卓軍幹部が呂布の屋敷に全員集合した。
というか董卓意外過ぎだろ!!
そしてお詫びを兼ねてなのか霞と『月が許したなら……』と詠の真名で呼ぶ許しを得、恩人として董卓の客人という立場
になり、洛陽の外へ出なければ基本自由にしてよいという破格の許しを貰い現在に至っていた。
「だからって月を連れ出そうとするってどういうつもりなのよ!」
どうしても必要な物があった為、月を誘って洛陽の市場へ行こうとした所詠に見つかってチクチクと説教されていた。
「詠ちゃん、ご主人様は気分転換にって誘ってくれたんだよ?」
「ご、ご主人様って月! 駄目よ、男は狼でケダモノでコイツはち●こだって教えたでしょ!」
「ち●こネタはもうやめたほうが……」
「うっさい! あんたは黙ってなさい!!」
ささやかで控えめな抗議は即効で却下された。この国の客人っていったい?
「でも恋さんもご主人様って……」
「恋は騙されてるのよ。あんなやつバカち●こでいいのよ」
よくない。
「いやまて! 月にそれを言わせる気なのか!? ちょっと聞いてみたいぞ?」
「ほらバカち●こじゃない」
「謀られた!? 流石軍師賈駆!!」
「あんたがバカなのよ」
「詠ちゃん、ご主人様とすっかり仲良くなって……」
微笑を浮かべる月。……仲良くって、この子も結構凄い性格なのかも?
「欲しい物って服なんですよね? そういえば私今の服か裸しか見た事ないような?」
霞に9分割された聖フランチェスカの制服は結局元に戻らなかった。
ちなみに今着てる服は宦官の服だったりする。
「それでいいじゃない。似合ってるわよ」
「それはどーいう意味なんだ?」
さんざんち●こ言ってたくせに宦官服が似合うとはこれいかに? ……嫌味以外ないですね、解ります。
「ほら、着いたわよ」
賈駆が露店の前に立ち止まった。
「ん? あの詠……さん? ここ古着屋なんですが?」
「なによ文句あんの? あんたの服新品で買うなんてありえないでしょ」
いやありえないでしょって(汗)
まあ宦官服以外ならなんでもいいか……と、かぎりなく妥協的なポジティブ思考で適当に服を物色する。
「!? えええええええッ!!!」
そこで一刀はありえない、あってはならない物を見つけてしまった。
4
一刀があるわけがない物を見て絶句している時、市場が、いや洛陽全体がざわめき始めていた。
騒ぎの中心は白い紙を持った市民、幾人かの所に数十人が集まり、小さいグループをあちこちに作っていた。
「紙? 詠ちゃん何かおふれでもだしたの?」
「出してないわ。ちょっとあんた!」
「あ……おお詠か、何?」
「あいつらが持ってる紙貰ってきて」
「紙? なんだ!? 知らないうちに凄い騒ぎに!?」
騒ぎの輪は更に増え、それに比例して市民の数も増えていった。
「……こりゃあ家に閉じこもってた連中も出てきてるな。解った見てくる」
とりあえずあるわけがない物は考えても仕方がないと判断し一刀は適当なグループに潜り込んで行った。
『……こりゃいい話じゃないか?』『ああ、俺たちに戦争は関係ないし』『どうせ董卓なんて贅沢してるんだろ? だったら』
耳に入る不快な市民の会話に眉を顰めつつも輪の中心にいた紙を持った男の側に辿り着く。
「何が書いてあるんだ?」
「あ? 何ってゲッ!? 宦官様!! スミマセン何でもありません!!」
男は、いや集まっていた輪は一斉に逃げていった。
「嫌われてるなあ……」
まあ十常侍の横行が史実通りだったら当然の反応かもしれない。さして気にもせず男が落とした紙を拾って文面を読む。
「ッ!?……やられた!!」
紙を握り締め立ち尽くす。そこに痺れをきらした賈駆と董卓が駆け寄ってきた。
「何やってるのよもう! さっさとそれよこしなさい」
賈駆は一刀から紙を引ったくり文面に目を通し……
「!! ……まさかこんな手で」
一刀と同じく絶句した。
文面を要約すると
1つ、連合軍は暴虐な董卓の圧政から洛陽の民を救う為に来たこと
1つ、連合軍は洛陽の民を一切傷つけず、財産を守る意思があること
1つ、城門を開けば、衣食住の配給をする用意があること
「城に戻るわよ!」
逡巡は一瞬、董卓の正体が月である事を民は知らないが、早急に対策を考えるべしと賈駆は判断した。
「解った。俺は服買ってすぐ追いかける」
猶予は無い。賈駆は返事もせず月をつれてさっさと城へ戻り、一刀は先ほどの古着屋へ向かう。
「主人、この服何処で手に入れたんだ?」
「ゲッ! 宦官様、それはたしか北方四州辺りで商売する仲介屋から買ったものでして、珍しい生地だってんで
買ったはいいんですが奇抜過ぎて恥ずかしくてそんなの着れるかと、誰も買ってくれなかった品物です」
「……(恥ずかしいて)まあいいや、それいくら?」
「とんでもない、宦官様からお金は取れません。どうぞ持っていってください」
地に頭を付けんばかりに平伏する主人。その態度だけで洛陽がいかに腐っていたかが窺え一刀は怒りを覚えた。
そんな状態から救ってくれたのが董卓や賈駆じゃないのかよ!?
先ほどの住民達の無責任な発言を思い出し叫びたい気持ちを押さえ付ける。
「これ受け取っとけ!」
霞から預けられた財布ごと主人に渡し、奇抜過ぎて恥ずかしいから誰も買わない服を買い取る。
そう、聖フランチェスカ学園の制服を!
その場で着替え、サイズがピッタリである事にいぶかしみながらも急ぎ城へ戻る。
「……ちょとこんなに!?」
財布の中身を確認し、困惑する主人の声を聞き捨てながら。
俺以外にもフランチェスカ学園の生徒がこの世界にいる?
生地で解る。模倣品ではなく本物の制服。大変な事実だが今考えることはそれではない。
この状況を打開する為の方策を、一刀は走りながら持てる(原作)知識をフル稼働させて必死に思考を続けていた。
ちなみにこの後、『ウチの小遣い全部入った財布渡した!? ふざけんな!!』と霞に折檻されたがそれは別の話。
5
洛陽の城で緊急の軍議が開かれていた。
議題は当然洛陽へ大量に送られた連合軍からの矢文の文面について。
その時間帯、守備隊長として奮戦していた張遼は曹操にまんまと嵌められた事に歯軋りしていた。
正門からの今まで以上の怒涛の攻撃。そちらに意識を集中しすぎて裏門から弓兵による民向けの大量の矢文に
対応できなかったのだ。そしてその文面が張遼の怒りを更に増大させていた。
何進将軍の部下であった張遼は洛陽の実態を知っていた。董卓の暴政? 冗談やない!
洛陽は何進と十常侍の権力争いで最悪の状態やった。お互い相手を貶める事しか考えておらず、民の事など
放置され、それを笠にきて民を守るはずの兵達が暴虐の限りをつくしていた。
そこにきて何進が暗殺され、報復として十常侍の数名が殺された。
その時点で都を制御する者がいなくなり、洛陽は終わった筈だった。そこに現れたのが董卓と賈駆であった。
本来は何進の要請で洛陽に来たらしいが、賈駆の巧みな権謀術数によって被害は最小限に抑えられた。
荒みきった都を建て直す為身を粉にして働き、ようやく復興の兆しが見え始めた所に反董卓連合軍の結成である。
恐らくではあるが、この反董卓連合を結成させたのはその時生き残っていた十常侍。権力の中枢から外されかかり、
焦った張譲が嘘偽りの洛陽の実情を大々的に世間へ流し、渡りに船と手を出したのが袁紹であると張遼は考えている。
しかし最後の一人だった張譲の首も刎ねた為、真相は全て闇の中である。
たとえ真実がそうであったとしても、今洛陽の民は疲弊しており、追い討ちをかけるように連合軍の昼夜を問わない攻撃に
見舞われ疲れ果てており、新たな生贄である董卓を差し出す事で安楽を得ようと考えるであろう事は容易に想像できた。
重苦しい雰囲気の中、賈駆が静かにそう発言した。
「決戦……しかないわね」
そう、他に手はない。一刀の耳栓作戦のおかげで兵の消耗は減り、最大の都である洛陽の特性をいかした篭城によって
長期戦に持ち込めば飽きやすい袁紹辺りが撤退するであろうという目論見があり、勝てないまでも負けない戦になる可能性は
かなり高かったのだ。
しかし民は違う。そんな発想とは別にただ日々の安定と、過去の洛陽の民という栄達を再び得る為に恩など関係なく、
今はただ董卓は必要ないのだ。城に襲い掛かることは流石にないが、いつ城門を内側からこじ開けられるかと考えると、
もはや内と外両方に敵を抱えた状態と同じであった。
「せやなぁ……。こっちの力が残っとるうちに、仕掛けるか……」
裏切られる前に外の敵を排除する。それ以外生き残る道はないと一刀以外の人間はそう覚悟した。
「ちょっといいかな?」
「なによ!」
「決戦に持ち込んだとして、勝てる可能性はあるのか?」
2割あるかどうか。それが張遼が考えていた勝率であり、賈駆もほぼ同数と考えていただろう。不安を煽るだけの
一刀の発言に怒りを隠そうともせず噛み付いた。
「うっさいわね! 決戦が最も生き残る可能性が高いのよ! 何か他に策があるっていうなら言ってみなさいよ!!」
「洛陽を放棄し、長安に遷都する」
「「なっ!?」」
張遼と陳宮があまりの発言に絶句し、一刀を見つめる。 ちなみに呂布はおやつを食べていた。
「あんた何言ってるのよ! そんなことできるわけないでしょ!」
「何で?」
「何でって……洛陽の民を見捨てる気?」
「見捨てるも何も、連合軍の目的はありもしない月の暴虐から民を救うだぞ? 救ってもらえばいいじゃん」
「なっ……でも洛陽は包囲されてるのよ、脱出できるわけない!」
「包囲たって24時間攻撃で実際脱出時に包囲してるのは1軍だけだから多くても2~3万だ。そして恋と霞の突破力は
大陸最強だ。袁紹、曹操、孫策、袁術軍を真正面からぶち抜いて10万の大群突き抜けたぞ? こっちは死ぬかと思ったし……」
誰もが考え付かなかった洛陽放棄、長安遷都。不可能と思われるその策に対する疑念を賈駆がぶつけ、それを
さも簡単に説明してのける一刀。
賈駆は他にも追撃されたらどうするのか? こちらの出方が読まれたらどうするのか?
様々な事例を挙げるがどれも論破された。
ああ、もういいやろ賈駆っち。この策はいける! あとはいつ決行するか決めるだけや。
張遼がそう考えている間も賈駆は何故か必死に反論を続けていた。流石に何故? と疑問を持ったとき、賈駆が反対する
理由に気付き、嘆息した。
この策はあかん……月が逃げられん。
その結論に行き当たった。
賈駆はその事実にいち早く気付き、しかしそれを言ってしまえば月の性格から『みんなが助かるなら』と長安遷都を推奨する
であろうことを察して、あえてそれ以外の理由からこの策を諦めさせようとしていたのだ。
ええい一刀はよ気付かんかい! 賈駆っち必死やないか!! ねねも『ち●こ人間にしては良い策なのです』とか珍しく
褒めとらんと気付け、軍師やろ!!
霞が一人悶々とする間、ついに賈駆は反論を出しつくし一度発言を止めた。
「まだ納得いってないみたいだけど、とりあえず具体的にどうするか説明するぞ? まず虎牢関の時と同じで恋が正門から
長安へ向かって突き抜ける。ねねは軍師として的確な指示を出すこと」
恋がおやつのあんまんをモグモグ、ごっくんと飲み込んだ後、コクッと頷き、ねねが『任せるのです』と無い胸をはる。
「霞はその後追撃してくる連中を追い払いながら恋に追従する。詠は同じく軍師として霞に指示をだす」
そこまではええ。でも問題は次や。気付いとんのか一刀!
「それで俺と月は洛陽に残る。以上だ」
一瞬場が静まり返った後……「「はあああああああ!?」」 全員の叫び声がこだました。
(あとがき)
最初に補足。耳栓は綿とか使って適当に作った物。遷都じゃないけどまあいいやと。
ゲーム本編の洛陽の情勢がどうも意味不明だったので自分なりに解釈してみたらこうなりました。
もしかしてドラマCDとかで真相でてんのかな?
霞の部分はもう言葉が統一せず、気にしないで下さいとしか……いいわけばっかりや。
董卓を差し出せでなく城門を開けるに留めたのは華琳様としてはそこが
限界なんじゃないかなー?と。
バランスを取ろうと意識してみたのですがエロスが足りないです。
ウチの黄金比 エロス2:ギャグ3:ストーリ1:キャラ3:伏線:1 あくまで理想(エロ高すぎだろ!?)