1
首都洛陽
やばい……到着してしまった。
馬騰軍軍師、現在董卓軍捕虜の北郷一刀は震えていた。
その圧倒的な高さの城壁、大陸一の都の巨大さに圧倒されたわけではない。いや十分凄いのだが今それ所ではなく、
数時間前から全く無言になった張遼に対して怯えていたのである。
最初は偶然だった。
恋との出会いの話をしてから何故か機嫌の良くなった張遼は軽快に馬を飛ばした為、ちょっとした段差でも馬が大きく
揺れた。その際馬に乗りなれない一刀は何度も落ちかけ、摑まっていた手が偶然霞の胸に当たってしまったのである。
勿論すぐさま謝罪したのだがその度に『こらやめぃ!』とか『全く、気ぃつけや?』等そんなに嫌がってない感じだったので
つい調子にのり、後半は馬が揺れる度に『あ、ゴメン』と言いながら胸を触っていたのだが気付いた時には霞は無言で
一切口を聞いてくれなくなっていた。
誤解の無いように言っておくが俺は本来こういったムッツリスケベな人間では断じてない。ただ何故かこのルートだと
女の子と仲良くなったりすると翠に見つかって折檻されるという家庭用向け仕様なのか? と疑いたくなるほど鉄壁の
謎ガードが入り、まあ色々なものが溜まってしまったのが原因なんじゃないかと説明しておく。
例えて言うなら体が勝手に動き出してお風呂を覗いてしまう大神さんのように……
まあルートとか家庭用向けとかそもそも誰に説明してるのか俺にも解らないが。
城門をくぐり、広場まで馬を進めた後、ゲシッと肘打ちを食らわされ俺は馬から転げ落ち、尻餅をついた格好になった。
その股の間にサクッと飛龍偃月刀が突き刺さっていた……ここ石畳だよね?
「……次やったら八つ裂きにする言うたよな?」
張遼は一刀を害虫を見るような目で、氷のような声でそう言った。
「スミマセン、偶然なんです!」
「ああん!? 何回触った思ってんねん!!」
「3回です、スミマセン」
「……なんやと?」
「スミマセン6回でした」
倍に増えた。
「……ホンマに死にたいらしいな?」
「9回でした!! これ以上はホントに偶然です!!」
当初の3倍になり、三分の二は誤魔化そうとしていた計算になる。恐るべし策士一刀!!
「せやったら9分割やな」
「何がですか!?」
張遼は飛龍偃月刀を片手で軽々と持ち上げ、そして!!
『ぎゃああああッ! 翠助けてくれ~!!』
2
「ご主人様~ッ!!!!」
翠はガバリと布団を跳ね除け、飛び起きていた。
「……ゆ、夢か」
ここは反董卓連合軍馬騰軍陣地。
翌日の洛陽進行にそなえ馬超は天幕にて休んでいた。
ハアと息を吐く。服が汗でグッショリと濡れ、冷たさで体が小さく震えていた。
「ん~……お姉様どうしたの?」
隣で寝ていた馬岱が目を覚ます。
「ああ、いやゴメンたんぽぽ。起こしちゃったか」
「いいけど……またご主人様の夢? だいじょぶだって、ご主人様しぶといんだから。お姉様昨日もあんまり寝てないし、
ご飯も食べてないんだから……せめてちゃんと休まないと駄目だよ」
「ああ、ただ夢の内容があんまりにもご主人様らしくって……少し風にあたってくる」
そう言って天幕を出る。満天の星空の下、洛陽方面へ視線を向ける。
「ご主人様……正夢じゃ、ないよな?」
3
当然正夢でした。
時系列的に言えば既に起こっていた事ではあるが、一刀は服を9分割され、裸で張遼の馬に乗って
首都洛陽の大通りを歩いていた。
一刀のおいたが過ぎたのも事実だが、張遼としては最初からこの程度の仕返しをするつもりでいたので、
後ろに乗せてシクシクと泣いている一刀に満足し、実に愉快そうに笑っていた。
「どや? ウチの苦しみちょとは解ったか?」
「……オニ」
「なんや? 聞こえんかったけど?」
「いえホントスミマセンでした」
「せやで? ま、これで反省しぃ」
町人の視線が痛い……ああ、アイツらなんかヒソヒソ話してるし!
恋達も酷いよなあ……うう、思い出したらまた泣けてきた。
服を9分割された際、見ていた呂布が『……ご主人様のカワイイ』と言った一言はトラウマになるだろう。
『カワイイって何が!?』と聞き返さなかったのは決してトドメを刺されるのが怖かったからではない。ち●この
事とは限らないし、ち●この事だとしても恋のことだ、馬と比べたらとかそんな理由に違いない! きっとそうだ。
それより許せないのはねねの方だ!
アイツ『これではち●こ人間と言ったらち●こに失礼だったです』とか言いやがった。
愚か者め! 赤面してチラ見しただけなのは知っているのだ。いつか巨大化したの見せて
『スミマセン、一刀様は間違いなくち●こ人間だったのです』と泣いて謝らせてやる。
この時点で色々間違っているしち●こ人間扱いでいいのか? という気もするが羞恥の為思考が鈍っていた
のであろう。
また、この行為が虎牢関ストリップ事件とあいまって張遼将軍はガチだ! と噂が広まり、後に
『戦場の痴女』『痴女傑』『裸族将軍』等さまざまな異名が生まれる事になる。
一刀と関わったばかりに不幸な話である。
それだけにとどまらず、伝聞によって罪の無い市民を裸にして市中を引き回したと改変され、後に董卓の悪行の一つ
として歴史に残る事になる。
「ついたで」
色々アホな事を考えていたがどうやら目的地についたらしい。
「でかッ!?」
目的地であった呂布の屋敷は洛陽の大通りに面した巨大な庭を抱えた豪邸であった。
「じゃあウチは董卓んとこ挨拶に行くから、恋が来るまで屋敷でおとなしく待っとき」
洛陽到着後、呂布と陳宮は兵に指示を与える為広場に残り、張遼は急ぎ董卓と賈駆の元へ行くことになった。
捕虜の一刀は『……ご主人様は恋が面倒をみる』の鶴の一声でとりあえず恋の屋敷に幽閉する事に決まり、軍編成を
見せるわけにはいかないので張遼が城に行く途中、呂布の屋敷まで連れて行く事になっていた。
「いやちょっと! いきなり裸で恋の家行っても入れてもらえないんじゃ?」
「あーそら多分大丈夫や。誰も住んでおらんし、犬達に餌やる為にお手伝いさんがおるかもしらんけど今飯時じゃないから
おらんやろ。ま、おとなしくしとき、裸じゃ歩かれへんやろけどな」
そう言い残して張遼は城へ馬を走らせて行った。
そういえば腹減ったなあ……と思いつつ9分割された服を持って屋敷に入った。直せるかなこれ?
呂布の屋敷は建物も立派だがとにかく庭が広かった。奥の方などこれ森じゃないか? と疑いたくなる程に木々が生茂って
いた。好奇心に駆られ庭に進む。すると木々の方からキャンキャンと犬が吠えながら一刀に近づいてきた。
「おお! セキトか、もしかして俺の事覚えてるのか?」
自分の周りを嬉しそうに飛び回るセキト。麒麟といいこの世界の動物は頭がいいなあ等と思っているとセキトがやってきた
木々の先から『セキトどうしたの?』と可愛らしい声で動物に呼びかけながら美しい少女が一刀の前に姿を現した。
少女は一刀を見ると一度大きく目を見開き、『……あ、あ』と小さく呟きながら、ジリジリと後ずさりした。
「人いるし!? あ、ちょっと、俺怪しいものでは……」
そういいながら後ずさる少女に近づこうとする全裸の一刀……怪しさ全開だった。
「ひっ! きゃあああッ!」
と叫び庭の奥へ逃げようとする少女!
「わああッ! 叫ばないでくれ! 今人に見つかったら不審人物過ぎる!?」
少女の足は想像以上に遅く、一刀は逃げる少女を難なく捕まえた。とりあえず叫ばれないように手で少女の口を押さえ、
後ろから羽交い絞めにする。
声の出せない少女はムームーと唸りながら必死に抵抗しようとする為一刀は益々体を密着せざる終えなくなり、
傍から見れば全裸の変態がいたいけな少女に痴漢行為を働いているようにしか見えなかった。
……あれ? 何でこんな事に??
ヤバイ、いつものパターンだとここで霞とか恋とかに見られて半殺しになるパターンなんじゃ?
悲しい学習能力を身に着けた一刀はキョロキョロと辺りを見回し、誰もいないことに安堵した。
一方安堵できないのは少女の方である。怪しいものではないと言いながら羽交い絞めにされたあげく庭の奥に
連れ込まれ、連れ込んだ相手は辺りに人がいないか確認した後安堵しているのだ。
酷い目にあわされた後殺される!?
あまりの恐怖に少女は涙を流す。すると摑まれていた手がパッと離された。
「えっ!?」
一刀は土下座していた。
「ゴメン、泣かせるつもりは無くて、ホントに色々誤解なんで話を聞いてもらえないだろうか?」
「……」
流石に判断がつかない、すると側に来ていたセキトが土下座している一刀の側で不思議そうにしていた。
「……あの、とりあえず事情を話して貰えますか?」
4
「なるほど、至急帰還せえって理由はこーゆーことかい!」
董卓の私室の前で好色そうな笑みを浮かべて扉をドンドンと叩いていたヒヒジジイ共を蹴り飛ばす。
手や袖の下から怪しげな器具をバラバラと落としながら張遼の姿を見てヒヒジジイこと十常侍は腰を抜かしていた。
「ちょ、張遼、虎牢関にいる筈じゃ?」
そんな言葉に返す必要も認めず、コ●シをかたどった器具をバキリと踏み潰し飛龍偃月刀を振り上げる。
「ヒィィ! やめッ……」
ビシャリ……と鮮血が舞った。
「月無事かッ!?」
扉を蹴破り董卓の部屋に入る張遼。
「霞! 良かった、来てくれたのね」
部屋の隅で歯を食い縛って震えていた少女が安堵の表情を浮かべ立ち上がった。
「おお賈駆っちもおったんか?」
「ここはボクしかいないよ。月は安全な所に隠してる」
「そうか、何があったんや?……まあだいたい解るけどな」
「月に泣きついてきた十常侍の連中が恩知らずにも月に欲情して、霞達がいない今を見計らって迫ってきたのよ!
病気って事にして出廷を拒否してたら家にまで押しかけてきて……」
「今にいたっとるわけやな。生き残りは3人やったから今2人斬って……たしか張譲とかおったけど?」
「霞達が来てくれたからもうなにもできないわ。でも虎牢関は……」
「ああ、放棄した。洛陽が決戦の場になる。んで月はどこに隠したんや?」
「恋の家よ。飛将軍の家ならたとえ留守でも怖くて近づかないと思って」
「流石策士やな。あそこなら安全…………安全ちゃうわッ!!!!」
「はあ? どういうことよ?」
「あかん……無害に見えて獰猛な種馬を恋の屋敷に放ってしもうた!」
「ちょ、ちょと!?」
「急いで恋の屋敷に行くで!!月の貞操が危ない!」
「なんですって!?」
5
―――呂布邸
「あはは、それでご主人様なんですか」
「うんそう。まあそれで仲良くなれたからいいけど饅頭500個は辛かったなあ……」
とりあえず色々事情説明して納得して貰った。少女の真名は月。名前は事情があって言えないそうな。
普通逆の気もするが『恋さんやねねちゃんが真名を許してるなら信用できるから』と言ってくれた。
ねねのはある意味許してないような気もするがまあいいや。
とりあえず気を許してくれたので縁側に移って話を続けた。なかなかの聞き上手でつい話続けていたら腹がグゥと鳴る。
「あの、お茶菓子位ならだせますがいかがですか?」
「是非いただきます」
即答で答えると『ちょと待ってて下さいね』とニコニコしながら月は厨房へ向かった。
「今回は平穏にすみそうだ。セキトのおかげだな」
そういって膝の上で寝ているセキトを撫でる。しかし……食べ物より先に服を何とかしてもらうべきだったなあ。
そんな事を考えていると厨房の方から『きゃああああッ!』と月の悲鳴が屋敷に響いた。
膝の上のセキトがガバリと起きだし走り出すので追いかける。
厨房では謎のヒヒジジイが月を押し倒してハアハアと荒い息をしていた。
……な、な、な?
いきなりすぎて目が点になる。
ヒヒジジイは『こんな所に隠れおって』とか『誰も助けにこないぞ』とか『これを使って~w』等といって謎のコ●シを……
「何してんだこのヒヒジジイ!!」
セキトがヒヒジジイの尻に噛み付き、飛び上がった所を思いっきり陳宮キックを炸裂させてやった。
ヒヒジジイは断末魔の悲鳴をあげながら庭に吹っ飛んだ。おお、陳宮キック凄い威力だ!
「ってそれより月大丈夫か!?」
「……あ、私、こ、怖かったです~」
月は一刀に抱き付き泣いた。
「そっか、もう大丈夫だからな」
そういって頭を撫でたと同時
「月無事なの!?」 「一刀! へんな事しとらんやろな!!」
謎の眼鏡少女と張遼が馬に乗って現れた。
「「……」」
何故か二人は無言だった。
「丁度いい所に! 実はへんなヒヒジジイが来て……」
「このち●こ人間がああああああッ!!」
「ぎゃああああああッ!!」
張遼に思いっきり蹴り飛ばされた。何故!?
「そんな奴やないとは思いたかったが……ホンマにち●こ人間だったとは」
「ちょっと待て! 物凄い誤解なんじゃないか!?」
「素っ裸の男! 服はだけさせて泣きじゃくる月!! 床に落ち取るコ●シ!!! 言い訳きくかあッ!!」
「まて~! 裸にしたのは張遼! そのコ●シはへんなヒヒジジイが持ってて、いや月に聞いてくれ! 無実だッ」
当の月はもう一人の少女に介抱され未だ泣き続けていた。
「う……ヒック、お腹が空いたって言うから厨房に行ったら、うう……いきなり押し倒されて……
服を脱がされそうになって……そ、それで……ヒック、詠ちゃん、私、私……」
うんそうだね、そうだけど……肝心な所省略されてませんか?
何も悪い事をしていないのに冷や汗が止まらない。
「大丈夫よ月、アンタは汚されてない、汚れてるのはあのち●こよ!!」
なぜ俺を指差しするのでしょうか? というか初対面でち●こて……人間ですらないし。
「虎牢関で処刑しとったらこんな事にならんかったのに……」
物騒な事言わないで欲しい。いや飛龍偃月刀がギラリと光るのは何の演出ですか?
「待て! 庭にヒヒジジイ……がッ!!」
「逃げるなッ!」
庭で気絶してるヒヒジジイを見せようと庭に向かおうとしたら飛龍偃月刀が足元に突き刺さる。
「ちょッ……違う! 庭に真犯人がいるんだ! 頼むこれが最後だから俺を信じてくれ!!」
「……」
張遼が無言で俺が指差した方向へ目を向ける。
「……誰もおらんで」
逃げられたー!!
証人兼被害者の月は泣いている為証言できず、証拠兼真犯人は現場から逃走。仲間のセキトは……いないし!?
何故だろう? 何も悪い事してない筈なのに絶対絶命というかもう終わっているというか……
もはや何も話すことはないとばかり、張遼は無言で飛龍偃月刀を片手で軽々と持ち上げ、そして!!
『ぎゃああああッ! 翠助けてくれ~!!』
6
「ご主人様~ッ!!!!」
翠はガバリと布団を跳ね除け、飛び起きていた。
「……ゆ、夢か」
ここは反董卓連合軍馬騰軍陣地。
翌日の洛陽進行にそなえ馬超は天幕にて休んでいた。
ハアと息を吐く。服が汗でグッショリと濡れ、冷たさで体が小さく震えていた。
「ん~……お姉様、また~?」
隣で寝ていた馬岱が目を覚ます。
「ああ、いやゴメンたんぽぽ。また起こしちゃったか」
「いいけど……またご主人様の夢? だいじょぶだって、ご主人様しぶといんだから。お姉様今日もあんまり寝てないし、
ご飯も食べてないんだから……せめてちゃんと休まないと駄目だよ」
「ああ、ただ夢の内容があんまりにもご主人様らしくって……少し風にあたってくる」
そう言って天幕を出る。満天の星空の下、再び洛陽方面へ視線を向ける。
「ご主人様……正夢じゃ、ないよな?」
(あとがき)
東のエデンが面白かったんですよ。あのオシャレなアニメを自分流にアレンジしたらこうなりました(え~)
共通点主人公が全裸でしかねェジャンとか言わなくていいです解ってるので(最悪だ)
ええ、はいそうですよね、やらなきゃよかった(涙)
なんだこの伏字だらけのSSは? 禁則事項ですか? きっとあのモザイクが文章化されるとこうなるんだよ(なりません)
う~ん、駄目だ、もとに戻らない……自分は文章とかすぐ影響されてしまって。面白いSS読んでつい……
違和感ありましたらそれが原因です。なんとか来週までには元に戻さないと……展開も遅いし。