1
「…」
『ん…う~ん…』
…あっれぇ? どこだここ?
『ん…』
さしあたって一番目の前にある…のはとりあえず大変な気がするからおいておいて、他に目に映るのは
変な色のベッドに、壁の色。
いや変っていうか天蓋付きのベッドにラーメンのドンブリについてる模様みたいな彫刻がしてあるし、
なんだこれ? 龍の掛け軸??
『ん~…』
「……」なんかもう…いかにも中国っぽいですみたいな部屋は?
「昨日…部屋で寝てたよな、俺 どうなってんだ?」
『むにゃ、む~…』
「………(くッ)」
無理!、もうなんか自分を誤魔化せない。
同じベッドで寝てるこの女の子誰!?
フトモモが凄くまぶし…ではなく、赤いリボンでポニーテールにしても膝近くまで伸びる栗色のサラサラ
とした美しい髪、長い睫毛の上に意志の強そうな太い眉が特徴的な、くびれた腰がたまらな…
もとい同い年位の女の子だ。
「凄い美少女だな」
思わず呟いてしまった。 ええいもう覚悟を決めるしかない!!
彼女を起こそうとした右腕が動かない…ってなんで紐で縛られてるんだ俺??
よく見ると彼女と一緒に縛られている…SMプレイ?
「えー」
まさかまさかの自分の隠された性癖を知り愕然とした(いやないよ!?)
『たんぽぽ?』
「は?」
少女の目がパカリと開く。大きな、深い紫色の瞳が俺の姿を映していた。
『☆□※@▽○∀っ!?』
大きな瞳がくわっと更に大きく開き、言葉にならない声が続く。たんぽぽ? 何? 何で花? 暗号?
なんかプルプルと震えている? これはヤバイ、こうなったら…
「お、おはよう」
俺は賭けに出た。別段おかしくなく、そう自然に、笑顔で…
『うわああああぁぁあああああっ!?』
2
「東京の浅草? たんぽぽ知ってるか?」
「ん~ん、たんぽぽも聞いたことないよ」
気がついたら床に正座させられていたのでどうやら賭けに失敗したらしい。
どうやらというのはなんか記憶がないから。代わりに頭頂部にズキズキと自己主張する痛みが怖かった。
というか顔も痛いしよく見ると全身にまるで地面に転げまわされたかのような擦り傷だらけだった。
そして先ほどのたんぽぽというのは現在部屋に追加された少女の事らしい。
で、ここは涼州の武威だそうだ。どこの県ですかそれは?
「で? お前はどうして荒野で寝てたんだ?」
…俺荒野で寝てたんですか。部屋で寝てたよなあ? 夢遊病?
「解らない。ただもしかしたら…なんだけど」
目を見つめたままコクリと頷かれる。続きを促されたみたいなので俺は言葉を続けることにする。
「体中が小さい傷だらけであとおもいっきり顔を殴られたみたいなんだ。だから部屋で寝てた時強盗に
襲われて外に捨てられたんじゃないかと…」
「それはない」
…ないですか。何故かきっぱりと断言された。
「あ、でも記憶というか感触というか、何か凄くやわらかくて気持ちいいものを触ったような…」
「それは忘れろッ!!」
え~…唯一の手がかりかもしれないのに。
「あらあら? 翠が夜に男の子を部屋に連れ込んだって聞いたから楽しみにしてたのに」
もはや八方塞な状況下、部屋に第3の美少女が入ってきた。
「なッ…ななな、何言ってんだ! あた、あたしが男なんて部屋に連れ込むわけないだろ!!」
「でもお姉様一緒のベッドで寝てたよね。たんぽぽ見たもん♪」
「見たんじゃなくて、たんぽぽが気絶してたあたしとこのエロエロ魔人を紐も解かずにベッドに放り込んで
放置したんだろッ!」
とりあえず朝の謎は解かれたが新たな謎のキーワードが出現した。エロエロ魔人て俺の事ですか?(涙)
「ひっど~い! 気絶したお姉様をお城まで運んだたんぽぽの苦労も知らないで怒るなんて」
「あ、ああそうか苦労かけたよな。でもそういえばどうやって運んでくれたんだ」
「商隊がたまたま通りかかったから運んでもらっちゃった♪」
「お前苦労してないじゃないか!」
仲いいなあ…それにしてもお姉様と呼ばれてる子は表情豊とゆーか、素直なんだなあ。からかってる
たんぽぽって子は小悪魔系だな。
「どっちが好みかしら?」
「え? うーん…いやいや、本気で考えてる場合とかじゃなくてですね」
そう言うこの子もまた可愛い…というより美人? 先ほど翠と呼んでいた子が数年成長した、女子大生位
の感じだろうか?
二人の中間、ちょうど腰あたりまで伸ばした栗色の艶やかな髪と深い紫の瞳が同じだった。
大人の落ち着き成分を足しました。という表現がしっくりくる。
「3人姉妹なんですか?」
「あらあら、 お上手ねえ。そういえば自己紹介もまだだったわね。私は西涼太守、そこで顔を真っ赤にしてる
翠の母で馬騰。字は寿成」
「あ、俺は聖フランチェスカ学園2年、北郷一刀。馬騰さんですか、変わった名前…んん?」
あの子の母親!? どうみても20代そこそこ…いやまて、西涼の馬騰? 三国志にそんな人が…
「翠、たんぽぽちゃんも」
「あたしの名前は馬超。字は孟起。…そこにいる西涼太守馬騰の娘で部隊の隊長をやってる。で、こいつは
あたしの従妹馬岱」
「よっろしくー♪」
・・・
「…………は?」
「なんだよ? 聞こえなかったのか? あたしの名前は馬超!」
相手の紹介に会釈もせず呆けてしまったものだから馬超が唇を尖らせた。いや馬超て…
「お姉様、さっき殴った後遺症で頭が可哀想な事になっちゃったんじゃ?」
「うええ!? そうなのか?」
馬岱がすこぶる酷い事を言っているが考えがまとまらず言葉がでない。いや馬岱て…
「うう…確かに悪いのはたんぽぽだったしな。殴って悪かったよ。たんこぶは…凄い事になってるな」
あちゃーといった顔で馬超が俺の頭を掴み脳天を触った。服の上からでも解る形の良い胸が目の前に広がり、
長い髪がフワリと俺の頬を擽る。いい匂いがするし!!
「…夢だ」
「は?」
「三国志のキャラを女性化する時点で俺の性癖ってなんなの!? とか思うけどアリだ」
「お、おい?」
「おお、困った顔も可愛いな!」
「かか、可愛いって、なな、何を言って…」
「何って、そのままだ。馬超が凄い美少女だなと」
「☆□※@▽○∀っ!?」
言葉にならない悲鳴をあげる口もいとおしく感じ、軽く指で触れる。
「やわらかいな」
「―――っ!?」
馬騰と馬岱が『おおっ!』と一声あげて目を大きくしてるが気にしない。夢だし
「なっ…ななっ…なっ…」
あれ? 夢…だよね?
「ああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
どすっ!!!
「ぐはっ!?」
馬超の拳が腹に減り込み、正座したまま後ろに倒れるという器用な事をした…らしい(ゴチンと後頭部に痛みが走ったから)
「お姉様、これ3回目なんだけど…」
声のニュアンス的には『またこのオチ?』と『そろそろ死んじゃうかも?』が含まれていたと思う。
「知るかっ! このエロエロ魔人っ!!」
一話つかってまるで評価が変わっていない進展の遅さに驚愕しつつ、俺は意識を失った。
(あとがき)
話が進んでません(汗)西涼編は4話でひと段落つくので
見限るのはもう少しまって頂けると…