1
「あっ、お姉様、流れ星」
「ん? 本当だ。凄い近いな」
お姉様と言われた髪の長い少女が言われて見上げた満天の星空に、一際白く輝く星が流れていた。
「近いっていうか…こっちに落ちてきてるよお姉様!?」
「に、逃げるぞたんぽぽ!!」
どこまでも広がる荒野で馬に跨る少女二人、隠れる場所はない。ただ馬を走らせるしかなかった。
ピカリ…と辺り一面に閃光が走った。
「きゃあああああっ」
「くっ、たんぽぽ!」
更に2度、3度と閃光が走る。再び目をあける為に少女達は数秒を要した。
「たんぽぽ無事か!!」
「う、うん。でもいまのなんだったんだろう?」
キョロキョロと辺りを見回すが、人が一人倒れている以外、別段変わった事はなかった。
「…って人が倒れてるよ!!」
「お、おい…ってゆうか、さっき人なんかいたか?」
倒れている人に駆け寄るたんぽぽの後に少女が続いた。
「お、お姉様、この人…」
助け起こそうとしたたんぽぽが深刻な表情を見せて呟く。
「死んでるのか?」
「寝てるよ」
思わず馬からずり落ちる。
「紛らわしい言い方するなッ!!」
「え~、でもあれだけ眩しかったのにこんな気持ちよさそうに寝てるなんてある意味凄いよ」
「…凄いっていうか神経が太いとゆーか…ん? それって凄いっていうのか?」
「そんなことよりお姉様、この男の人なんか変かも? 服もなんだか見た事ない感じだし」
「そんな事ってお前な………ッ!!」
少女は顔を覗き込み、思わず息を止める。白地に何故かキラキラ光る服は珍しい。しかしそんな事より
倒れている男の顔を見て何故か自分の心臓が高鳴るのを感じた。
(ななな…なんだ? べ、別に平凡な顔したアタシと同じ年くらいの普通の奴じゃないか? なな、なんでこんな
ドキドキするんだ????)
「う~ん…起きないなあ、ねえお姉様どうする?」
「…」
「お姉様!!」
「ッ!? なな、なんだたんぽぽ?」
「なんだって、この人どうしようって…あれ~~お姉様もしかして一目ぼれ?」
妙にうろたえた少女をみてたんぽぽと呼ばれた少女は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ばッばばば、バカ言うな!! ぜ、全然そんなんじゃないからなッ」
「ふう~ん、それじゃお城につれてこっか? こんな所で寝てたら五胡の連中に殺されちゃうかも?」
「そうだな。しかしホント起きないな。どうやって連れて行くか?」
「たんぽぽにいい考えがあるよ」
2
たんぽぽのいい考え(少女と少年を紐で縛り、少年をおぶさるような形で馬に乗る)を行い、二人は城に向かった。
「んん…」
ダカダカと上下に揺れる震動で少年は目を覚ました。
「なんだ? 地震か、っておお! 動けないぞ!?」
「わああッ! こらバカ! いきなり動くなッ!!」
すぐ側から少女の叫び声が聞こえた。
「え? 何だ? 動くなって俺のことか?」
「だああッだから動くなって! 馬から落ちちゃうだろ。しっかり掴まってろ」
「わ、解った」
どうやら自分が叱られていると気づいた少年はとりあえず言われた通り目の前の何かにギュッとしがみついた。
手のひらにムニュリとなにかやわらかい、たまらなくつかみ心地の良い感触が広がる。
「☆□※@▽○∀っ!?」
声にならない少女の悲鳴が耳元で響く。…が
「おお、何だこれ、凄く気持ちいいぞ!」
ムニュムニュと、更に何度も、何か、そう少女の胸をモミしだいた。
「い、いい加減にしろッこのエロエロ魔人がッ!!」
グシャリ…と、少年の顔面に思い切り肘打ちを食らわせ…
「うわッ」
その少年と紐で結ばれ、かつしっかりと抱きつかれていた少女が共に馬から落ち、ゴロゴロと荒野を転がった。
「…何やってるのお姉様」
たんぽぽが心底、本当に哀れそうに目を回して気絶している二人を馬上から見下ろしてそう呟いた。
この時はまだ、互いの名前を知らないどころか、乳を揉んだ男と揉まれた少女という、
ただの痴漢と被害者というだけの関係だった二人は
後に西涼の義姫、錦馬超と大陸全土で謳われる少女翠、そして天の御遣いとして戦乱を収めた北郷一刀。
最悪の出会いだった。