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No.8232の一覧
[0] 【完結】††恋姫無双演義††(部分修正のみUP 三国志演義+真・恋姫キャラ オリキャラ(転生)付)[きらら](2009/07/17 21:46)
[1] 前ふり『聖フランチェスカ学園』[きらら](2009/05/12 21:17)
[2] 講釈の1『桃園起義』~「天の御遣い」は光り輝いて落ちて来る~[きらら](2009/05/09 16:09)
[3] 講釈の2『三顧之礼』~「伏竜鳳雛」を求めて魚は水を得る~[きらら](2009/05/09 16:18)
[4] 講釈の3『黄巾の乱賊蒼天を殺し 同志おのおの決意を新たに出陣す』[きらら](2009/05/09 16:22)
[5] 講釈の4『治世の能臣官命を受け 乱世の姦雄野望に焼ける』[きらら](2009/05/09 16:31)
[6] 講釈の5『役萬姉妹は大吉を歌い 英雄達は賊の城を前に集う』[きらら](2009/05/09 16:33)
[7] 講釈の6『本道を失い黄天はまさに死すべし 義軍は功を誇らず北へ還る』[きらら](2009/05/09 16:34)
[8] 講釈の7『黄巾は滅ぶも蒼天すでに死す 皇宮は迷走して帝都は乱れる』[きらら](2009/05/09 16:36)
[9] 講釈の8『帝都蹂躙』~優しき魔王~[きらら](2009/05/09 16:37)
[10] 講釈の9『天下に諸侯もはや乱立し 連合に合同するも混戦す』[きらら](2009/05/09 16:42)
[11] 講釈の10『汗血を駆るは人中の雄将 今こそ義軍は関を破って名を示す』[きらら](2009/05/09 16:45)
[12] こぼれ話(その1)『オリキャラ(転生系)の独白』(クロス有)[きらら](2009/05/27 23:03)
[13] こぼれ話(その2)『花嫁泥棒』[きらら](2009/05/21 21:53)
[14] 講釈の11『帝都落月』~洛陽は燃えているか~(前編)[きらら](2009/05/09 16:50)
[15] 講釈の12『帝都落月』~洛陽は燃えているか~(後編)[きらら](2009/05/09 16:53)
[16] 講釈の13『魔王は消えて思惑が交叉し はるか蜀の天地に希望を抱く』[きらら](2009/05/09 23:40)
[17] こぼれ話(その3)『凶馬転じて縁結び』[きらら](2009/05/21 21:52)
[18] 講釈の14『西南には希望を求めて出立し 東北には故郷に知己を送る』[きらら](2009/05/10 12:50)
[19] 講釈の15『益州侵掠(その1)』~豪天砲VS八陣図~[きらら](2009/05/12 21:51)
[20] 講釈の16『益州侵掠(その2)』~蛮王は貪り食らう~[きらら](2009/05/12 22:10)
[21] 講釈の17『益州侵掠(その3)』~七たびとらえて七たびはなつ~[きらら](2009/05/13 21:06)
[22] 講釈の18『益州侵掠(その4)』~百戦百勝は善の善ならず~[きらら](2009/05/14 21:47)
[23] 講釈の19『益州侵掠(その5)』~いざ成都~[きらら](2009/05/15 21:26)
[24] 講釈の20『曹魏は名分を得て躍進し 孫呉は断金の交わりにて再興す』[きらら](2009/05/16 18:40)
[25] 講釈の21『江東に飛翔するは小覇王 都の花は許昌に流れつきて咲く』[きらら](2009/05/17 14:01)
[26] 講釈の22『天の医は仁術で勇士を救い 許昌では名分もって策をめぐらす』[きらら](2009/05/17 23:18)
[27] 講釈の23『荊州侵掠』~天下三分の野望~[きらら](2009/05/18 23:59)
[28] 講釈の24『子を思う弓は偃月刀に挑み 呉を思うゆえに蜀の侵掠をおそる』[きらら](2009/05/19 21:15)
[29] 講釈の25『はるか涼州の草原に燃ゆる心 錦の驃騎は謀に破れて亡命す』[きらら](2009/05/20 21:16)
[30] 講釈の26『蜀には五虎と竜鳳が集結し 比翼連理の王に誠をささぐ』[きらら](2009/05/21 21:37)
[31] 講釈の27『虚々実々』~人を致して人に致されず~[きらら](2009/05/22 21:07)
[32] 講釈の28『僭帝憤慨』~ただ1杯の蜜水を求む~[きらら](2009/05/23 13:02)
[33] 講釈の29『人物交差』~人とは出会うもの~[きらら](2009/05/23 20:07)
[34] 講釈の30『兵詭道也』~戦争とは騙し合い~[きらら](2009/05/24 10:13)
[35] 講釈の31『雄将無情』~正義なき力は正しいか~[きらら](2009/05/24 16:53)
[36] 講釈の32『白馬有情』~英雄を論じて肴にする~[きらら](2009/07/17 22:37)
[37] 講釈の33『汗血流転』~駆け抜ける千里の道~[きらら](2009/05/24 23:52)
[38] 講釈の34『江東急転』~壮士の仇討ちと道士の呪い~[きらら](2009/05/25 22:32)
[39] 講釈の35『許昌震撼』~陰謀は軽挙するべからず~[きらら](2009/05/26 22:41)
[40] 講釈の36『官渡逆襲』~燃える烏巣の夜~[きらら](2009/05/26 22:42)
[41] 講釈の37『倭使渡来』~姦雄と名家の決着~[きらら](2009/05/27 23:10)
[42] 講釈の38『成都爛漫』~阿斗ちゃんは天の落とし子~[きらら](2009/05/27 23:18)
[43] 講釈の39『天下三分』~新たなる動乱へのいざない~[きらら](2009/05/28 23:51)
[44] 講釈の40『覇王襲来』~赤壁へと続く道(その1)~[きらら](2009/05/28 23:58)
[45] 講釈の41『長坂虎豹』~赤壁へと続く道(その2)~[きらら](2009/05/29 23:46)
[46] 講釈の42『争論斬卓』~赤壁へと続く道(その3)~[きらら](2009/05/30 00:03)
[47] 講釈の43『苦肉之策』~赤壁へのCountDown~[きらら](2009/05/30 12:58)
[48] 講釈の44『天命選択』~決断す「外史」の分かれ道~[きらら](2009/05/30 23:34)
[49] 講釈の45『赤壁水火(前編)』~百勝して不覚あり~[きらら](2009/05/31 11:30)
[50] 講釈の46『赤壁水火(後編)』~華容道に夢見果てたり~[きらら](2009/05/31 23:51)
[51] 閑話『翡翠めぐり会い』[きらら](2009/05/31 23:51)
[52] 講釈の47『華林酔夢』~後宮の小ばなし(その1)~[きらら](2009/06/01 23:30)
[53] 講釈の48『倭人之条』~名家は出戻りする~[きらら](2009/06/01 23:43)
[54] 講釈の49『美周錯乱』~断金の誓いは未だ果たせず~[きらら](2009/06/02 23:35)
[55] 講釈の50『孫呉爆発』~「正史」は引き戻そうとする[きらら](2009/06/02 23:40)
[56] 講釈の51『長江悠久』~江東に夢目覚めたり~[きらら](2009/06/03 23:20)
[57] 講釈の52『帝都好好』~後宮の小ばなし(その2)~[きらら](2009/06/03 23:24)
[58] 講釈の53『皇帝決断』~天道に太陽2つ無し~[きらら](2009/06/04 23:31)
[59] 講釈の54『白鬼暗躍』~正しい歴史とは正義なのか~[きらら](2009/06/04 23:36)
[60] 講釈の55『真相暴露』~真実とは常に?1つだけ?~[きらら](2009/06/05 23:30)
[61] 講釈の56『無双のつわもの十字の旗に会し 泰山の決戦に天命を賭ける』[きらら](2009/06/05 23:33)
[62] 講釈の57『恋姫無双』~乙女たちのLastBattle~[きらら](2009/06/06 23:20)
[63] 講釈の終『英雄は後宮の恋姫となり 天下は太平にして大団円』[きらら](2009/06/06 23:23)
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[8232] 講釈の8『帝都蹂躙』~優しき魔王~
Name: きらら◆729e20ad ID:c5df10ff 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/09 16:37
「後漢の地方制度」
「州」・「郡」・「県」の3段階制。
「正史」によれば、州の数は13。郡は百余と記録され、
黄巾の乱以前なら、1郡の人口は、数万から数十万、多いところで百万以上でした。
幽州涿郡が、六十三万余人、予洲潁川郡が百四十万余人、荊州南陽郡が、二百四十万余人
といった記録が残っていますが、これはあくまで、戦乱以前でした。
「三国」の中で最大の筈の「魏」が、この頃の南陽郡程度の人口になってしまった、
そう嘆いたと「正史」は記述します。

…  …  …  …  …  

「涼州」または「西涼」
後漢帝国の13州のうち、もっとも北西の1州。
北は長城の向こう側へ、西はユーラシアの中央へと続く「草原」の中国側から見ての始まり。
そこに住むのは、戸籍上は後漢帝国の臣民でも、草原の騎馬の民と言い切ってもいいかも知れません。
それゆえ「涼州兵」は騎兵としては優秀でも、中国本土の農民や都市民とは、異質の民であり、兵だった筈です。
彼らを統率し、それを自らの強みとしてきた、西涼出身の武将たち、
董卓・呂布・張遼そして馬超といった面々もまた、
名前こそ中国風(記録したのが中国の史書)だけれども、彼ら自身、草原の騎馬の民だった可能性が高く、
中国本土の豪族出身の支配階級、名士出身の知識人などとは、
価値観も発想も異なっていて当然だったかもしれません。

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††恋姫無双演義††講釈の8『帝都蹂躙(じゅうりん)』~優しき魔王~


幽州北平郡の太守公邸。
先日、帝都の文官職を引退して来た、高名の儒学者、盧植を上座に迎えて、宴会が催(もよお)されていた。
太守でこの地方の軍閥である、公孫賛(真名白蓮)は、かつて盧植の門下だったので、
引退して、故郷に返ってきた恩師を、早速、礼をつくして招待したのだ。
この北平を中心に、1地方を実効支配する軍閥でも、今回は弟子らしく、下座で姉妹弟子の桃香と並んでいた。

問題は「引退」の事情である。直近の帝都の有様に憤慨したという。
元々、白蓮たちを教えていた当時も、十常侍たちの跋扈する皇宮で、媚(こび)を振れず、田舎に引っ込まされていたのだ。
その盧植を憤慨させた事情。恩師から聞いている、白蓮や桃香を仰天(ぎょうてん)させていた。
もっとも「天の御遣い」だけは「来るものが来た」と心中、思ったのだが。

――― ――― ――― 

華琳と麗羽はようやく、連れ出された皇帝を追うべく、帝都の門外まで来たが、向こうから近付いて来る、1軍がある。
「涼」に「董」の旗を立てた、何か異質の雰囲気を伴った軍。しかも、皇帝行幸の「プラカード」を押し立てている。
「(絶句)」「(絶句)」流石に華琳をしても、これは想像の斜め上をさらに飛び去っていた。

――― ――― ――― 

盧植は、皇帝を追っていった曹操から、保護した大后の警護と、皇宮の消火を依頼されていた。が、
皇帝を「保護」して乗り込んで来た、董卓軍に追い出されてしまった。
そもそも、2度も宦官の横暴で失脚するくらいである。早速、抗議に向かった。それも、儒学者らしく「礼」は完璧にして。

その時点では、特に問題は無かった。しかし、そのまま涼州軍は居座ってしまったのである。

間もなく、盧植のみならず、帝都を仰天させる発表があった。なんと、少帝と生母の何大后が、2人とも急死したのだ。
当然、裏が疑われた。特に、董卓軍によって占拠され、封鎖されたのも同然の皇宮の現状では。

しかし、董卓というか、董卓軍の軍師は、強引に朝廷を取りまとめた。
こうなっては、残った弟皇子を新皇帝に押し立てるしかないと。
この、いまや唯一となった、この少年皇帝を盛り立てるのが、臣下の道であろうと。
このこと自体は、他にしょうがないことである。しかし、その前に疑惑は、疑惑だ。
先頭に立って、疑惑を言い立てたのが外戚、何一族とその取り巻きの生き残りだったが、
その結果、新帝の即位に反対したとされ、一網打尽に捕らえられた。

この結果、外戚勢力と宦官勢力が共倒れして、両者とも消えた結果になったのである。
後漢王朝の慢性疾患は、誰も予想しなかった荒療法という結末を迎えたのだ。

…  …  …  …  …  

ここまでは盧植も受け入れらなくもなかった。元々、正統的なエリート官僚であり、知識人だ。
外戚や宦官が権勢を奪い合い、もてあそぶ朝廷から、1度は追い出されたくらいなのだから。

だが、2点だけは、見過ごせなかった。
まずは、董卓自身が「相国」という地位に就いたことである。
前漢においても、創業の功臣2名のみがついた人臣最高位、以後は臣下の分を超える者が嫌われたため、
その次席ともいう「丞相」までしか、しかも、後漢では、丞相ですらなく、三公までしか就任せず、
空席が伝統だったのだ。

同時に、少帝と何大后に対し、皇帝と皇后に相応しい「大葬」を、死後に格下げしてまで行わなかったこと。
中国人にとっての伝統的思想では、子孫によって正式に祭られない死者は「キョンシー」になる。
この思想は、19世紀まで残ったのである。
だからこそ、祭る子孫を断絶するのは、本人1人の死刑以上の極刑となっていた。

「礼」を論ずる儒学者としては、見逃せない。
しかし、董卓軍の軍師は、盧植の抗議に対し、別の返答をした。
外戚や宦官の権勢の下で、公正な人事を受けられなかった人材を、抜擢する。それは異論ない。
その中に盧植自身を入れた事で、地位で釣るつもりかと、いわばカチンときたのである。

実のところ、董卓の与党を朝廷に作る狙いでもあることは、隠してもいなかった。

――― ――― ――― 

帰郷した盧植が、弟子たちに「報告」したのはここまでである。しかし、帝都ではこれでは終わらなかった。

――― ――― ――― 

董卓軍の軍師は、皇宮で“クーデター”を実行した袁紹と妹の袁術には、
いまだ、黄巾の乱に便乗した変なやつらがウロウロしている地方の、太守職をあてがって帝都から送り出した。
さらに、現在、袁家の長老格の叔父には、三公より格だけは高い名誉職をあてがい、帝都に留(とど)めた。

一方、曹操に対しては、空洞化した「西園八校尉」より将軍に昇進させて、帝都に留めようとした。
ただし、彼女の母親は、霊帝の生前に十常侍から「買った」三公が、
少帝の即位のドタバタで「ご破算」になった時点で、沛国に呼び戻されていた。
流石に沛国に居る、曹家の当主は大ムジナだった。

――― ――― ――― 

麗羽と美羽姉妹は、出立の挨拶のため、華琳を訪問した。
この人事を、好機としか思っていない。まあ、確かにそうだろう。
華琳が潁川でした様に、拠点を手に入れられる。
「四代三公」の間に蓄えた底力をもってすれは、難しいとは限らない。黄巾も残党に成り果てているのだし。

「(でも、その後は)」
天下を争う、ライバル同士になる。そこまで考えて、今日の挨拶に来たのだろうか?

華琳の方は、校尉からの昇進を、謝絶し続けている。
董卓一党に監視され続けている帝都で、潁川の拠点から引き離されるような、ミエミエの小細工に掛かるつもりもない。

…結局、逃げ出すタイミングだけね……

――― ――― ――― 

董卓軍の軍師、賈駆(真名詠)は、自軍の武将たち、
張遼(霞)、華雄、そして呂布(恋)とその参謀、陳宮(音々音)と言った面々に、詰め寄られていた。
もっとも、普段から無口な恋は、もっぱら、音々音に代弁させていたが。

一言で言えば「兵隊の統制がつかんのや!」
元々、涼州兵は、帝都のような中原の「土の都」とは、価値観も、行動原理も異なる、草原の騎馬の民である。
それを「土の都」に連れてきた以上、統制は細かく眼を届かせなければならない。
それを怠(おこた)って「草原の掟」のままに行動させれば、どうなるか。「狼」を「羊」の群の中に放置するようなものだ。

略奪される物を持っている者からは、略奪する。
富裕階級でなくとも、帝都なら一般庶民でも、草原の素朴な生活からすれば、奪うものがあった。
また、身1つでも女だったら…霞たちには吐き気すらするが。
霞たちも、放置しているわけではない。しかし、兵たちの方が、いう事を聞かない。
むしろ、霞や音々音みたいに五月蝿(うるさ)いことを言わない、
むしろ、先頭に立って「草原の掟」を実践している、李傕(りかく)とか郭汜(かくし)とかの連中の方へ脱走していく始末だ。

「それも誰かが、兵を扇動してまわっている可能性もあるのです」
いつもなら、音々音より先に、詠がそんなものを放置しない。
「それに、盧先生が疑うのも、もっともなのです。というより、詠さんはきちんと釈明していないです」

元々、音々音は中原の知識人だったが、恋との個人的な縁(えにし)で涼州まで来た。
だから、盧植の名声を知っている。詠の態度の方がおかしいことも分かる。

「(ボソ)月はどうしてる」
恋だけではない。ここにいる面々ですら、彼女たちの主君(真名月)に会うことも出来ない。
そもそも、兵達の乱暴も、月の顔を見れば、少なくとも、もっと前だったら、収まっている筈だった。

「大体、月があんな事をする筈がないんや」

…  …  …  …  …  

あんな事。
あるとき、相国、董卓の一行が、城外に遊びに出た。
そこに行き会ったのが、日々の労働の中で、1日の休みを村祭りにすごして帰る、普通の人々だった。
それを、カンにでも触(さわ)ったか、捕らえさせた。
相国の行列を遮(さえぎ)った。税を納めるべきものが怠けた。
たったそれだけの罪で、裁判も無しに罰した。それも「車裂(くるまざ)き」「腰斬(こしぎ)り」などという、残刑酷罰で。

しかも、そんな事を隠そうともしていない。
李・郭といった連中は「これで「調達」がしやすくなった」などと、言いふらしている始末だ。

…  …  …  …  …  

本当に、そこに月がいたのか。
それすら、今の霞たちには分からない。
「そもそも前の陛下は本当にどうなったんや。「あれ」からおかしくなり始めたんやないか」
「・・・」

空気の密度が増したような、沈黙がしばらく、
そこに急使が駆け込んできた。「校尉曹操、脱走」

一瞬だけ、詠は軍師に戻った。
「虎牢関と汜(し)水関を固めて。貴女たちの信頼する兵を率いて」

・  ・  ・  ・  ・

相国府。帝都の「独裁者」董卓の公邸。
その奥の一室で、詠はただ2人、大多数が一目見て「人形の様だ」と言うであろう少女を抱き締めていた。
「(月は、ボクが守る。どんな事をしても。この手を汚しても)」

董卓を天下の主にする。その野望は確かに持った。幼い皇帝兄弟というかたちで、好機が飛び込んだ時。
だから、皇帝を盾にして、皇宮を占拠していた“クーデター”軍を追い払い、涼州軍を居座らせた。
なかなか、いう事を聞きそうもない何大后と実子の少帝を軟禁しもした。そこまでは、確かにやった。だが、
その軟禁していた楼閣から、何者かが、母子を突き落として殺害したのた。

月は無論、詠ですら、この事だけは、関与していない。だが、そんな弁明が通るだろうか。
皇宮の状況から「董卓軍」の何者かのしわざなのは、詠も認めざるを得なかった。
それどころか、あきらかな他殺死体を「大葬」などにして、人目にさらせば、
たちまち「大逆」の大義名分を、権力を狙うものに与えてしまう。
もはや、強引に事を進めるしかない。

新しい皇帝、歴史上献帝とよばれる、幼君を押し立て、相国「董卓」を実現させる。そして、その権力を固める。
その一連の「陰謀」に熱中している間に、兵の統制が甘くなっていたのは確かだった。
元々、詠や音々音のような、中原の知識人とは、行動も価値観も違うのが、草原の民である涼州兵だ。
今までは、その事を知っていて、手綱を放したりはしなかったのに。
それが、目を放している間に、一般兵のみか、李・郭のような幹部までが、何者かの扇動に乗ってしまった。

もはや“魔王董卓”の名で行われた、悪行の数々が中原に、知れ渡るだろう。
そして、それを「大義名分」として、あの曹操のような、野望を抱(いだ)いた姦雄が押し寄せて来る。それでも、
「(月だけは、守ってみせる)」

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今回の講釈に出てきた「丞相」といえば、「三国志」では曹操か孔明ですが、
これも董卓が「相国」として先例をつくったから、復活した官職とも言えます。
やっぱり、時代を切り開く結果にはなったのですね。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は講釈の9『天下に諸侯もはや乱立し 連合に合同するも混戦す』
の予定です。


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