某青年漫画誌上で連載中の「演義」が原作になっている劇画の登場人物がいます。劉備の「義」曹操の「覇」といった、「光」の「影」にある「闇」を担当しているような、人間の中にある、ある種の悪を表現している感じのキャラクターで、董卓の悪逆非道の相当部分とか、曹操の大義名分を落とした徐州虐殺とかの裏で暗躍したりします。名前とかまでそのまま使っては盗作かもしれませんが、「恋姫」設定では、月ちゃんの罪をかぶってもらうキャラは必要なので、インスパイアはさせて頂くことにしました。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の7『黄巾は滅ぶも蒼天すでに死す 皇宮は迷走して帝都は乱れる』皇帝はもう死んでいる―シャレではない。大将軍何進に呼び出された華琳が、帝都洛陽に到着して最初に「内緒」で知らされた事。後漢帝国の第12代、まもなく霊帝の諡号(おくりな)をおくられるであろうその人は、皇宮の奥深くで、すでに絶息していた。なぜ、これほどの重大事が、いや重大事だからこそかも知れないが、伏せられているのか。黄巾の乱が、完全に鎮圧されたとは言い切れないから、首領、張3姉妹は、南陽で焼け死んだ(と言う事になっている。実は華琳が監禁している)、だが、各地の「賊」は尚も右往左往し、官軍が追い回している。だからというなら、まだましだったが。次の皇帝が、決まっていない。一応、霊帝には2人の皇子がいる。そのどちらも、こうした事態になったとき、次の皇帝となるべき皇太子に正式に立っていなかった。そのため、自分の担ぎ出した皇子を「まだ生きていた霊帝の意志」という事で皇太子にした後で、その新皇帝の元で栄華を得る。その思惑のためだった。珍しいことではない、残念ながらこの後漢王朝では。霊帝自身、先君桓帝からは、かなり縁の遠い地方王族だったのを担ぎ出されたのだ。その功績が、今、宮廷を跋扈している「十常侍」の出世始めだった。さらに、今の何進の立場では、新帝担ぎ出しに失敗すれば、身の破滅だった。元々、大将軍などという、家柄ではない。政敵からは「豚殺し」などと揶揄(やゆ)される様に、食肉を扱う商人の子である。たまたま、宮廷に仕えていた妹が美貌で霊帝の目に留(と)まり、皇帝の最初の子の母として皇后に立てられた。その縁で出世したのだ。ところが、宦官と外戚の権力争いも、後漢王朝の慢性疾患といっていい。元々、代々の政府高官を出すような「名家」に外戚になって欲しくない十常侍とかが、何進の妹、何皇后を押し上げたのだが、兄の何進が大将軍まで成り上がり、外戚らしく振舞いだすと、今度は目障りにしだしたのである。今度は、何皇后の次に、霊帝が目を留めた美人の産んだ別の皇子を担ぎ出すべく、暗躍しているのだ。ここで、決然と皇太子を決定できるだけの帝王らしい政治力と決断力があれば、黄巾の乱は起きたかどうか。結果として、暴走したのが「アイドル親衛隊」だっただけで、誰かが暴走すべくして、乱は起きた。ともあれ、宮廷内での暗躍となれば、十常侍の方に経験値があり過ぎる。何進としては、大将軍として動かせる「軍」たとえば「西園八校尉」に取り立てた、華琳や麗羽たちや、大将軍の地位の権威が効(き)きそうな地方軍閥とかを呼び寄せて、その力で押し切りたいところだったのだろう。「だからと言って、いったい、何時(いつ)まで待つつもりなのよ」日数的な問題に限れば、足手まといかも知れない軍勢を引きずって来るのよ。華琳も、一緒に呼び出された、袁紹(真名麗羽)には、言い切った。わざわざ、十常侍に「先手を打つなら今のうちだ」と警告するようなものだ。そもそも、麗羽のような「名家」や、王朝本来のエリート官僚たちから憎悪(ぞうお)されるのも、十常侍のほとんどは、霊帝個人の盲信だけで権勢をふるっていた、宦官や侍女に過ぎないからだ。その霊帝はもういない。代わりの皇帝を担ぎ出す手柄はまだ立てていない。何進がその気になれば、大将軍の職権で、担当の役人に命令すればいい。十常侍などは、牢屋に放り込んで、それで片がつく。「うちの軍師の誰かさんと、似た様な事をおっしゃるのね。華琳さんも」それぐらいの献策をするものぐらい居るだろう。元々「四代三公」つまり、祖父母の祖父から現在の叔父まで、代々三公に就任してきた名家である。譜代の人材は、むしろ、あり過ぎる。華琳の見るところ、麗羽にしろ、妹の美羽(袁術)にしろ、「船頭が多くして船が山に上がる」状態だ。なまじそれぞれに意見のある人材を抱え過ぎているため、華琳並みの統率力と決断力がなければ、持て余すだろう。少なくとも、本拠地の留守番をさせる人材には、黄巾の残党を追い回す仕事も含めて、不足はしていない。そういう事なので、十常侍の掌握している、皇宮警護の兵ぐらいには対抗できる兵力だけ連れて、急行して来ていた。華琳も、少数ながら精鋭を、許昌から連れて来ている。大将軍何進が、十常侍相手にクーデターでも起こすつもりなら、麗羽と華琳だけで、兵力は必要にして十分だ。少なくとも、華琳に指揮を取らせてもらえるなら。・・・残念ながら、何進の決断力は、麗羽より未満だった。… … … … … それでも、遂に西園八校尉の兵を率いて、皇宮に乗り込んだ、八校尉の筆頭でもある十常侍の1人の首を取って。その上で、自らの甥を、後漢帝国の第13代皇帝に押し立てた。歴史上、少帝と呼ばれる少年皇帝である。ところが、十常侍の残りが後宮に逃げ込み、何大后(この時点で「先帝」の皇后)に泣き付くと、あっさり、そこで止(や)めてしまった。妹のお陰でなれた大将軍であり、大后は後宮の人として、十常侍の様な存在を結局、頼っている。だから、こうなるのだろうが、しかし、「(甘い。権力が絡んだら、「水に落ちた犬を棒で叩く」位までやるしかない場合があるのに)」だが、何進自身は、妹を通じて命乞いをしてきた。それだけで、十常侍の生き残りを舐めてしまった。これは、文字通りの「命取り」になる。――― ――― ――― 黄砂を巻き上げながら、行軍する軍列。後漢の平均的な「軍」としては、騎兵の割合が高く、そもそも、兵士たちの雰囲気が、中原の農民から徴兵された兵と、どこか異質だ。――― ――― ――― 後漢王朝の慢性疾患といっていい、権力争い。何故か、この王朝歴代の皇帝は、まだ年端のいかぬ幼君のうちに即位し、成人して後、為政者としての経験を積む時間も、次代の皇帝が成長する余裕も無しに、若死にしていった。勢い、皇帝の母である大后が実権を握り、後宮に権力が移っていった。そうなれば、後宮に出入りでき、大后に接触できる者がその実権を振るう。大后の元々の親族である外戚や、元々、後宮に仕えていた宦官や女官が権勢を次第に握り、本来のエリート官僚やその出身母体である名家を巻き込んでの権力争いが、繰り返され、帝国は迷走し続けていった。※保守的な知識人は「女禍」(本来、権力を持たない女とその取り巻きのわざわい)などと嘆いていたが、しかし、麗羽や華琳には、女が動乱の時代の英雄ともなれる時代でもあった。※しかし、権力者が迷走し、腐敗すれば、5000万の人民にとって、それは悪。時代の恩恵を、おそらくは、麗羽や美羽姉妹に次いで受けながら、いやそれ故もあったのだろう、誰かが、いやこの曹操孟徳がこの「時代」を破壊すべきだと、華琳の中の「乱世の姦雄」は、密かに咆哮(ほうこう)していた。――― ――― ――― 妹である、大后を通じて、十常侍の生き残りが命乞いして来た。それだけで勝ったつもりになっていた。口では「面倒だ」などと言いながら。もっとも、実際問題として面倒でもある。妹とはいえ、相手は後宮に居るのだ。十常侍以外の女官か宦官の使者を通じての、手紙や伝言のやり取りでは、微妙過ぎる問題でもあって、自分から出向く事にした。… … … … … 華琳は、止(と)めなかった。ただし、麗羽には、兵を動員して置くようには言った。「(今日で終わりにしてやる。宦官だの、外戚だのなどが権力という玩具(おもちゃ)を取り合う時代なんか)」代わって、英雄たちの時代が来る。などと、密かに決意していたのだ、と過大評価する後世の歴史家もいる。結果としては、そうなったのだが。・ ・ ・ ・ ・皇宮の門前で待つ、麗羽と華琳たちの前に、門内から投げ返されたもの、たった今までの上官の首。麗羽は、ものの見事にキレた。元々、麗羽と華琳がそれぞれの拠点から連れてきた兵力で、十分だったのだ。ただ、皇宮に突入するという決断だけが、必要だったのである。十常侍にとっては、自分の首まで落としたのも同然の結果になった。虐殺。遂に、後漢帝国の皇宮は、虐殺の場になった。宦官は体質上、髭が生えないと言われる。髭が薄い官吏が「ズボン」を脱いで、命拾(いのちびろ)いしたなどといった、笑えない「実話」が残っていたりする。・ ・ ・ ・ ・虐殺の中で、華琳の方は麗羽よりは冷静であり、いち早く何大后を保護していた。そう、所詮「帝国」では、皇帝を手中にしたほうが、正義。だが、十常侍の内の、まだ数人が生き残り、少帝と皇弟の幼い兄弟を拉致して、城外に走り出ていた。後宮の中しか知らない筈の、宦官と侍女が、皇宮どころか帝都の外へ、それも幼君を連れ出すなどとは、華琳をしても、想像の斜め上だった。しかも、その斜め上をさらに飛び去った結末が待っていた。「天のお告げ」でもなければ、予測不可能な。――― ――― ――― 予州潁川郡の郡城「許昌」太守である、姉華琳の代理として留守を預かる、曹仲徳は、ジダンダを踏む思いだった。今さら、北郷一刀を真似(まね)て「天の御遣い」をしても、相手が姉では末路が見えている。それでも、このままでは「董卓」が危険すぎる。どうやって、警告すべきか。華琳が「孫氏(用間篇)」に準じて用意しつつある、スパイ網からは、すでに涼州軍の動向を報(しら)せて来ている。――― ――― ――― 幽州北平郡軍閥、公孫賛(白蓮)が朝廷から得ている名目は、この郡の太守である。現在「天の御遣い」北郷一刀は、趙雲子竜(真名星)が再び、浪々の旅に出ようとするのを、今しばらく、公孫軍の客将でいるよう、説得していた。その代わりというか「天の国」での、メンマの食し方、つまり「ラーメン」を伝授する事になっていた。一刀には「天のお告げ」でわかっている。これはこの一時の平和に過ぎないと。――― ――― ――― 帝国の各地で、租税として徴収された穀物は、帝都近郊にある「備蓄基地」に一旦、蓄(たくわ)えられ、その後、順次、帝都に搬入されて、この「百万都市」を養う。その「基地」に接近しつつある、涼州軍。中原の民とは、価値観の異なるハイブリッド騎兵を統率するため、最初に、巨大な食料を見せる必要があると考えたためだ。そう考え、主君の同意を得て、実行に移した軍師は、兵士の統率に悩んでいた。古参の兵士、中級以上の幹部は、あの「らしからぬ」主君への忠誠心において問題ない。問題は、黄巾を追い回し始めてから加わった、新しい兵士だ。特に済成(成(な)り済(す)ます)などと、ふざけた、見え透いた偽名を名乗っているやつなど、信用なるか。どうせ、黄巾崩れに決まっている。たかが、平の兵士1人に神経を尖(とが)らすのも大げさのようだが、何かが気に障(さわ)る。だが、それどころではない、一大事が起こった。実は「それどころ」が一大事に結びついて、大いに後悔するなどとは、知る術(すべ)も無かった。… … … … … 涼州軍が目を付けた「備蓄基地」は帝都本体にこそ及ばずとも、それなりの城壁に守られ、帝都と結ぶ搬入路も、しっかり防御された「かくれ道」になっていた。そのため逃亡者に利用されたのである。逃亡者たちは、予期しなかった「狼」の群れに、自分から飛び込む結果になった。あっさりと、十常侍の最後の生き残りは、涼州兵に惨殺され、幼帝兄弟は、董卓軍に保護された。もっとも「董卓」を見て、幼い兄弟は、ホッとしたのだったが。その場の、誰もが軽視していた。彼女たちの視界の外から、ギラつく欲望を、向けられている事に。--------------------------------------------------------------------------------次回までは、帝都篇になります。そのため、申し訳ありませんが、今回、出番の無かった人には、もう少し待ってもらいたいのですが。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の8『帝都蹂躙』~優しき魔王~の予定です。