大砲の『砲』という漢字に、石ヘンが入っているのは、火薬発明以前では、投石器を意味したからです。古代中国では、最大で50人引きの投石器で、訓練次第では(50人の呼吸と力が合わされば)数十kgの石を数十メートル飛ばせたらしく、立派に大砲の威力がありました。次回の講釈は攻城戦なので、この「砲」とか、「雲梯」(早い話がはしご車)とかが活躍することになります。もちろん、恋姫たちが活躍するはずです。… … … … … 『南華老仙』「演義」では張角に「太平要術の書」を授けて、曰く「この書にある術を用いて、民を救い世のためになれ。この道を外れれば天罰が下るであろう」最初は、この教え通り、医療や相互扶助を行う、民間団体だったのです。いかにも、宗教らしく。それが、王朝の迷走に付け込もうとして、結果は老仙の警告通りになりました。尚、最終的には、元の民間宗教団体に戻った「五斗米道」は、存続して、中国道教のルーツの1つとなりました。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の6『本道を失い黄天はまさに死すべし 義軍は功を誇らず北へ還る』轟音と爆煙。砲弾、そう言い切ってかまわないだけの威力の大石が、見事に城壁にめり込んだ。「う~~また外れたのだ~」そう、実は狙ったのである、城門を。本来、50人の兵士を訓練して操作させる「石砲」(投石器)を、1人で使いこなす勇士が、公孫・劉軍には「3人」もいた。つまり、50人では、力と呼吸を合わせて引くのがいくら訓練しても精一杯だろうが、こうなると、1人が微調整して、着弾を修正しつつ狙い撃ち出来る。期待通り、愛紗と鈴々、そして趙雲の操る石砲の砲弾は、1撃ごとに、城門に近付いていた。――― ――― ――― 「味なまねを」西門での攻撃ぶりを察して、北門から攻撃中の曹操軍でも、そんな声が上がった。「どうします。こちらも季衣か流琉にでも」「無用よ。今回はそれぞれの隊を掌握させるほうが先決よ」こちらでも、定石通り50人引きの石砲が、それぞれの指揮官の号令で、次第に呼吸を合わせて飛びつつあった。さらに、雲梯(はしご車)が石砲や弩(ボ―ガン)の援護のもとで、城壁に取り付こうとしていた。華琳自身、4頭立ての戦車を8本の手綱で操縦して、疾走させるような指揮を続けている。このいわば「曲芸」を今回限りにするのが、今回の参戦の目的の1つなのだ。当然、弟の仲徳も、伝令や督戦で駆け回り続けている。しかし、その間にも、ふと、心をよぎる。「あの「天の御遣い」はもしかして」そう、あの光り輝く「天の衣」にもデジャヴがある、そして「天のお告げ」といわれる知識にも、仲徳には心当たりがある。だが、そういった、もの思いをするには、いささか前線に近付き過ぎたようだ。城壁上で何人かを叩き落して跳ね返ってきた「デンジヨーヨー」をあわてて避ける。「何してる―」雲梯の上で流琉が「ヨーヨー」を巻き上げて、また何人か城壁から叩き落した。――― ――― ――― 今度の愛紗の砲撃は、城門のわずか左の城壁に着弾した。「負けないのだ~」今度は、楼門の屋根に落ちて、瓦をバラまく。次あたりは、ピンポイントでヒットしそうだ。――― ――― ――― 「母上…」どうやら、後に「小覇王」と呼ばれるだけあって、戦場ではかなりテンションが上がる性格だったらしい。もっとも、小さい頃から戦場に連れ出されていた影響もあるかも知れないが。しかし、連れ回していた母親の方は、流石に経験の分だけ冷静だった。「このままでは、北門か西門の方が先に破れますぞ」元々、劉備軍が公孫軍に合流してしまうと、4軍の中では、孫呉軍の人数が少ない。それに本来、長江の水上船で鍛えられた軍だ。陸上戦や攻城戦の経験は少ない。「雪蓮。同時にこの南門に増援する余裕も無いということよ。それに出遅れなければいいのよ。最後の最後にね」そう、目的は城門ではない。城内に潜んでいる、賊の首領だ。黄巾「討伐」での孫呉軍にとっては、ほとんど最初の戦いが、最大の手柄を立てる好機になり、したがって、最後の決戦になるかもしれない1戦になっていた。それだけに、テンションが上がっているのは雪蓮だけではない。その兵の状態まで、水蓮や祭は、見切っていた。――― ――― ――― 「こんな事があるか!」東門から攻撃していた、官軍を叱咤する将軍朱儁には、受け入れ易い現実ともいえなかった。それでも、賊に敗れるなどという、本物の悪夢よりはましだろう。結局、北、西、南の3門はほぼ前後して、突破された。一番数の多い、それも正規の官軍が出遅れたのである。しかし、それは、城内側に余裕がもはやないという事。何歩か遅れて東門も破れた。・ ・ ・ ・ ・東西南北の全ての門から、官軍が雪崩れ込む。もはや逃げ場はない。城内にいた黄巾賊は外側から順に殺されながら、内側に追い込まれて行く。しかし、首領である張姉妹の首を取るまで、戦いは終わらない。・ ・ ・ ・ ・夜明けと同時に始まった戦闘も、いつしか太陽は中天を過ぎて、西の空の半ばまで来ていた。このまま、夜になれば、闇に紛れて大物に逃げられるか?流石に軍の指揮官はそんなことを考え始めた。… … … … … 郡城の太守公邸となれば、帝都の皇宮を小規模にしろ見習っていて、その前面は、それなりの広場になっている。「本当にアイドルだったんだなあ」北郷一刀には「天の国」でデジャヴのあるコンサート会場の跡がそこにあった。… … … … … 作戦開始の前、当然ながら唯一ともいえる目標である、張姉妹の情報が全軍に配られた。ここで初めて、一刀は自分の誤解を知った。とはいえ、劉備たちや曹操が、桃香たちや華琳だったのだから、これもありだろう。張角(真名天和)張宝(地和)張梁(人和)が『数え役萬☆しすたぁず』でも。それに、一刀にも「天の国」での記憶がある。アイドルとその「親衛隊」というのは、とんでもないエネルギーを持っている。潜んでいるどころか、爆発させている。むしろ、信じないものには理解できない、宗教関係より理解し易かった。それだけにここからが、やっかいだった。この先、公邸の内部に群がっているのは『しすたぁず』がただのアイドルだったころからの「親衛隊」。自らの「偶像」のためなら死ねる、本物の黄巾党が密集している。こうなると、知略とか、戦術とかより、個々の兵の戦闘力で力押しするしかない。おまけに、四方から押し寄せる「味方」との競争にもなっていた。こうなると、あてになるのは、愛紗・鈴々もとい関羽・張飛・趙雲というところだが、「(曹操のところにどれだけの面子が集まっているかだな)」――― ――― ――― 夏侯惇(春蘭)夏侯淵(秋蘭)許緒(季衣)楽進(凪)李典(真桜)于禁(沙和)典韋(流琉)といった面子が揃っているだけのことはあった。公邸の奥にある迎賓閣、その軒先まで、押し込むことが出来た。太守以上に高位の賓客が訪れたときのためのみに建てられた高楼形式の御殿。この郡城を占拠していた、黄巾党の考えなら、彼らにとっての最上位者にあてがうだろう建物。そして、ここまでには、張姉妹はいなかった。いまも尚その周囲を取り囲む「親衛隊」いるならここだ。とはいえ、他の官軍も数歩遅れで、押し寄せてきた。こうなると、首取りの競争、ほとんどがそう思った瞬間、迎賓閣の1階付近から、突然、火炎が吹き出した。包囲したままの官軍が、唖然とする中で、楼閣は焼け落ちた。・ ・ ・ ・ ・その夜、まだ燻(くすぶ)る焼け跡を掘り返す、凪・真桜・沙和の3人娘。そして、焼けぼっ杭の下から、石蓋を掘り出すと力任せに跳ね上げる。「曲者」3人娘を見守る位置から、鋭い声を3人の後方に投げたのは、華琳だった。「関羽に孔明。貴女達も来たのね」流石と言いたいけど、ここに本人が居るかどうか、ここと断定して行動に移せるかが、私との差よ。貴女達の様な部下に相応(ふさわ)しいのは、あんな…。「そこまでにしていただこう。それ以上は、貴女を許せなくなる」「いよいよもったいないわね」・ ・ ・ ・ ・南陽城内の焼け残った屋敷を接収した、今は曹操軍の本営。「それで、姉さんどうするつもり」「そうね、取り合えず、護送していくことになるわね」「それからどうされます」「風のいうとおり、それからよ。幸い、ここから帝都に行くには、許昌は順路よ」迎賓閣の地下の隠し部屋から、張3姉妹を引きずり出したことで、結果、最大の手柄を独占した形の曹操軍だが、ただ単純に首を撥ねて帝都に送るだけで満足していない。ここが、「治世の能臣」と「乱世の姦雄」の分かれ目だった。もっとも、朝廷の現状を読み切った上での賭けではあったが。――― ――― ――― 孫呉軍が接収した屋敷。「今回はそもそも出陣で出遅れたわね。でも、これで乱世が収まるとも思えない」――― ――― ――― 公孫軍が接収した屋敷。劉備軍にあてがわれた、屋敷内の建物。冷静に報告しているのは、もっぱら朱里で、愛紗などは曹操の態度に憤慨していた。桃香の方は、曹操軍とのトラブルにならなかった事をまず喜んでいた。それに、張3姉妹をここで逃がしたのでは元も子もなかった。おそらく、これで黄巾の乱は収束に向かう。しかし、乱世がこれで収まるとは思えない。伏竜鳳雛の予測もそう見切っていた。「三顧の礼」の時、すでにそう予測していた様に、これからさらに内乱、外からの侵掠が続く。そのなかから、劉備軍が伸し上がる好機をつかむ。今後の方針をそう決めた上で、今回は公孫軍と帰還するしかないだろう。どうせ、唯一の大手柄を曹操軍にさらわれたのでは、ほかの手柄をいくら言い立てても「五十歩百歩」だった。その時、意外な客が来た。愛紗などは青龍偃月刀を取り掛けて、桃香にたしなめられた程、意外な客。――― ――― ――― やはり、確認しておく必要があった。おそらく、仲徳だけが考えることが出来る。あの「天の御遣い」の「正体」そして、アイツを放置する事の危険性を。昨夜は、華琳姉さんが何か余計な事を言う前に、孫母娘が闖入(ちんにゅう)したおかげで、あの時は余計な警戒感を持たれずに済んだが、どうやら、先刻の遭遇でそれも台無しらしい。まあ、アイツの正体が、俺の推測通りなら、いや、あの「天の衣」それにあの軍師コンビが居るだけでも、向こうにも「補正」が掛かっている。間違いなく、アイツは。それなら、曹操と言うだけで、警戒されている筈だ。そうなると、やっぱり確かめないと。しかし、警戒されている上に、アイツは「天の御遣い」なんていう立場で、劉備一党の中で1人にならないだろうし、劉備軍全体が公孫軍と一緒だ。曹操軍での俺の立場だって軽くない。となると・・・こっそりアイツを呼び出して、2人だけしか知らずに会うというのは不可能だな。正攻法しかないか。「姉さん、俺も劉備軍について、確かめたい事があるんだ」――― ――― ――― 「なぜ、曹操の弟が今頃ノコノコ来る?」「まさか、先刻の話を蒸し返しに?」「はあ。それが」門前で衛兵に出ていて、取次ぎに来た、公孫軍の兵士も今1つ、先方の用件が飲み込めていない感じだ。「それが、こう「天の御遣い」様にお伝えしてくれとばかり」「俺?」「はっ、『これは“めいる”とかで、間に合う話しではないので』…」「何だって――っ!!」「いいえ、ですから『直接お話ししたい』と」「そうじゃなくって、その前に『何で間に合う話しじゃない』って」「はっ、“めいる”と」「どうされたのです」「何かヘンなのだ」「い、いや。会う。確かにこれは俺で無いと分からない話だ。2人だけで会いたい」――― ――― ――― 屋敷の庭先にある亭(屋根と柱だけで壁の無い休憩所)立ち聞きするには、隠れ場所が無く、密談に適している。「『メールで間に合う話しじゃない』なんて言う事は、やはり君も」「ああ、やっぱり、そうか。それはどこの制服なんだ」「聖フランチェスカ学園だ。君も学生?どこの?」「いやその前に確かめたいが、君はその聖フランチェスカ学園とかから、いきなりタイムスリップとかで、来たのか?」「君は違うのか」「俺は生まれ変わりなんだよ。前世は確かに日本人なんだがな。時代を逆行して、曹操の弟に生まれ変わったのさ」「え?じゃあ、その見かけ通りで日本に居たのじゃなくて」「ああ、大学生の時、事故にあってな」「そうだったんですか、先輩」「おい、いきなり先輩か」「でも、中身は俺より先輩でしょう」「北郷は元の世界に帰りたくないか」「帰れれば、正直帰りたいですよ。でも、当面帰る方法も分からないし」それに、俺は俺の意思で、この世界で「天の御遣い」をやる事にしたんです。「だが、三国の歴史を知っていて、それでも劉備たちに加担するつもりか」俺は、元の世界ではどうせ幽霊だし、この世界で曹孟徳の弟、仲徳として生まれ育った。だから、曹操、華琳姉さんに歴史通り天下を取らせる。だから、北郷が「天の御遣い」としてその歴史を改変するつもりなら、俺はそれを阻む。「先輩の立場なら当然でしょう」でも、力の無い人たちを出来るだけ巻き込まない様に出来ませんか。その理想は、劉備、桃香たちも、曹操、先輩のお姉さんもそんなに変わらない筈です。――― ――― ――― 「何を話しているのだ~?」「何かあの態度は」「まるで、同門の友だちか何かみたいです」――― ――― ――― 「そうだな。今晩はお互いの立場を確かめただけにするか」「そうですね。とりあえず、お互いの仲間に対してどこまでうち明けるか。その口裏だけ合わせて置きますか」「そうだな、しかし、北郷はすっかり「蜀」の連中に仲間入りしているみたいだな。あんなに心配そうにして」「そういう娘たちなんですよ」「それだけでもないんじゃないか。劉備とでもできたか」「な……(昨晩の孫策といい、何だよ)まだ、そんな事」「まだ?構わないだろう。可愛いし、いい娘じゃないか。華琳姉さんのライバルには違いないけど」・ ・ ・ ・ ・曹仲徳が帰った後で、当然、北郷一刀は同志たちに釈明しなければならなかった。「俺が本当に「天の御遣い」かどうか、確かめに来ただけみたいだったな。ただ、曹操にはいよいよ警戒されそうだ」――― ――― ――― 「華琳姉さん。あの「天の御遣い」は、これまで姉さんが取り締まってきた、淫祠邪教みたいな単純な代物とは違うよ」劉備たちを軽視しない方がいい。本物の「天」がついているぐらいに思っていてもいい相手かもしれないよ。――― ――― ――― 荊州南陽郡城を後に「官軍」の各軍はそれぞれ引き上げ始めた。劉備軍は、公孫賛軍とともに、懐かしい北東へ。孫呉軍は呉へ帰る前に、朝廷にコネを繋(つな)ぐために、一旦、将軍朱儁に同行して、帝都へ。そして、曹魏軍は今や自らの「拠点」となった予州潁川郡の許昌へ。その許昌に、帝都から呼び出しがあった。今はただの元アイドルとなった『数え役萬☆しすたぁず』を太守公邸の地下に監禁していたが、それすら黙殺して、ただ上京しろと、大将軍何進から急(せ)かしてきた。「いったい?」華琳ですら、また桂花ら軍師たちですら、何が起こっているのか多少戸惑ったが、仲徳だけは、何が起こり始めているかを知っていた。「もう1人アイツもな」『涼州』長城の北からチベット高地の西にかけて、草原の遊牧民族が、中原の農耕民を脅かす騎馬の民の国。涼州はすでに、その草原の1角を後漢帝国の版図に組み入れた場所。それゆえ、そこに住むのは、単にDNAとかの問題だけでなく、精神文化で、日常の生活で、すでに騎馬の民と漢民族の交じり合ったハイブリッドだ。そのハイブリッドの騎兵を従えた、軍閥の1つが、やはり帝都に呼び寄せられようとしていた。帝都の迷走を暴走に変えるとは「天の国」の者のみしか知らずに。--------------------------------------------------------------------------------確かに「恋姫」設定を拝借すると、展開が早送りになります。したがって「黄巾の乱」が終わった途端に「董卓の乱」となります。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の7『黄巾は滅ぶも蒼天すでに死す 皇宮は迷走して帝都は乱れる』の予定です。