††恋姫無双演義††講釈の終『英雄は後宮の恋姫となり 天下は太平にして大団円』何も起こっていないかの様だった。白光が1瞬、爆発した後は1見して。北郷一刀と桃香は、雌雄一対の名剣を構えたまま「間抜け面」とすらいいたい顔を見合わせていた。いや、2人だけではない。愛紗も鈴々も、朱里、雛里も、星、紫苑、翠も神殿のそれぞれの場所で、同じ顔をそれぞれに向け合っていた。「五虎竜鳳」と名高い無双の雄将、知略の軍師がこんな顔をする事自体珍しいだろう。そして、ついさっきまで、彼女たちと激突していた2人組も似たり寄ったりの顔をしていた。ただし、いつの間にか、首や足がチャッカリとつながっているが。ただ、貂蝉だけがニコニコしていた。「もう「外史」も「正史」も無くなったわ」「お前には何が起こったか分かるのか?」やっと一刀は貂蝉に問いかけたが。「アタシにも全部は分からないわん。ただ「この」歴史の外からの干渉が無くなったとしか。」だから「この」世界の事は、この世界でやっていくしかないわねん。今の「この時代」に居るみんなが、いまから歴史をつくっていくしか、もう誰にも何も出来ないわん。冷笑的な態度を半分取り戻した感じの干吉に、感情を持て余しているような左慈。「その2人ならもう無害よん。せいぜい「正史」の「左慈」「干吉」程度の目くらましが使える程度のただの道士」取り付いていたものでも落ちた様な、しかし、それでも憎々しげな態度を残した「左慈」が一刀に憎まれ口をきいた。「貴様。後悔していないな」「何を後悔するんだ。この「世界」を、桃香たちの世界を守れたんだろう。何も起こっていないみたいに見えるって事は」「しかし、貴方からすれば『聖フランチェスカ学園』のあった、あの「世界」を消したのも同然ですよ」「まさか、本当にフランチェスカが無くなったのか」かすかに動揺する一刀だったが。「向こう側の「世界」は世界で存在しているでしょうねん」ニコニコし続ける貂蝉。「もしかしたら「この」世界の“後世”にも『聖フランチェスカ学園』が設立されるかもねん」……少しだけ迷って、しかし北郷一刀は言い切った。「それならいいさ」「あら、向こう側では、一刀ちゃんは失踪したまま戻って来れないのよ」「俺には戻れるところがある。桃香たちと一緒に戻れる。それでいい」… … … … … いつの間にか、神殿の前庭に乙女たちが集まって来ていた。「おい?いったいどう成った」神殿から出て来た一刀を、曹仲徳が小づいた。「突然、白装束が紙人形に成ったんだがな。こう言っちゃ何だが、みんな空振り気分に成ったぞ。」「勝ちましたよ。先輩。この「世界」は桃香や華琳姉さんたちのものです」この世界の彼女たちが、これからの歴史をつくって行くんです。その一刀の手を華琳が引っ張り、雪蓮が反対の腕をつかむ。つぶらな瞳を見張った桃香が追いかけた。いつの間にか、誰が教えていたのか、乙女たちが一刀を胴上げし始めていた。――― ――― ――― 司馬懿仲達北郷一刀が「天の国」で知っていた「彼」は「三国志」を終わらせる人物だった。「“三国志”演義」は「死せる孔明、生ける仲達を走らせる」で実質上は終わった。・ ・ ・ ・ ・「現状」の司馬仲達は「死せる孔明」ではなく、いや孔明ただ1人でもなく、身重の孔明「たち」のために、逃げ場をすら失おうとしていた。「三国」の王を筆頭に、文官・武将の大半が「産休」・・・最高責任者のはずの「皇帝」までが、実質「育児休暇」状態では、“生き残り”の重臣の惨状たるや、国とか権力を乗っ取ろうなんて野望をあきらめさせるほどの惨状だった。書類の山脈に包囲されて、仲達はどこへ走る事すら出来なかった。さらに、仲達にとっては不条理なのは、これで仲達たちのように仕事を押し付けられている者以外には、国内にも国境にも問題が無いという事である。現時点での問題は解決済み。予想可能な近未来についても、対策は用意されている。だから、皇帝が「育児休暇」を取れたり、文武の重臣の大半が「産休」を取れたりするのである。天下は、すでに太平だった……… … … … … … … … … … …………………時は移り、人の諸行は「歴史」に成って行く。・ ・ ・ ・ ・中国の古都。かつての後漢王朝、そしてそれに取って代わった次の王朝の時代の、中華帝国の帝都であった洛陽の郊外。歴代の皇帝たちの陵墓の並ぶ中で、現代でいうところの「観光スポット」に古くからなっていた陵墓がある。その「観光スポット」でもある「歴史遺産」を案内する「ガイド」の口上に曰く、「ここは本来、後漢王朝に変わる新たな王朝を開いたその初代皇帝の陵墓です」後漢末期いわゆる「無双演義」の時代として知られるこの時代は、群雄割拠の動乱の時代であるのみならず、女性、それも乙女といってよい若き「天才少女」たちが何十人も「武将」「軍師」さらにはそれらの上に立つ「君主」として活躍したという点でも、中国史上でも特徴ある時代です。この時「天の御遣い」として、突如歴史上に現れたこの陵墓の主は、その時代を動かす『英雄』でもあった「天才少女」たちのほとんどを、自分の後宮の妃に迎えました。その結果として、最悪の場合は何十年かに渡ったかも知れず、さらに最悪の場合は、当時の中国の人口を1桁少なくするほどの犠牲を伴ったかも知れなかった乱世を、結果としては数年で収束しました。そして、天下太平の名君として、後半生を全うした後、この陵墓に葬られました。その際、見ての通り、陵墓の前面に「天の御遣い」の後宮の「恋姫」でもあり、時代を動かした『英雄』でもある「天才少女」だった彼女たちの『英雄』時代の姿の像を祭った「祠(ほこら)」を並べたのです。その後、彼女たちの物語が「無双演義」の題名で「講釈」や「演劇」として広く普及するにつれて、「この通り「恋姫祠」は中国における代表的な観光スポットとなりました」・ ・ ・ ・ ・「歴史」は「伝説」と成り『演義』と題された「伝説」は、かつて倭国と呼ばれた国まで伝わった……――― ――― ――― ……ふと、そよ風が吹いた、奥の陵墓の方から。「何かこう…そうや、アイツが近くにいる様な気がしてならんのや」『聖フランチェスカ学園』から修学旅行で訪問していた「恋姫祠」の1番奥、無双の英雄たちでもある乙女たちの像がまつられている、その奥の「前方後円墳」らしきもの。その方向から吹いてくるそよ風が、なぜか優しかった。††恋姫無双演義†† 「完」--------------------------------------------------------------------------------ここまで読み続けて来ていただいた皆様方には、あらためて厚くお礼を申し上げます。 作者 きらら