「正史」の劉備は“赤壁”までは流浪の傭兵隊長でしたし、曹操もまた、潁川郡許昌の地方軍閥となるまでには、下積みというべき時代がありました。この、いわば1番その達成すべき目的から遠かった時代を「スルー」出来たという事で、この「外史」は加速して行きました。当然ながら「正史」を“正義”とすれば、許しがたき“暴走”となるでしょう。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の55『真相暴露』~真実とは常に?1つだけ?~まるで無差別爆撃のように、帝都「北宮」に降って来たアヤしい白装束たちは、当初は出くわす相手、相手に襲い掛かっていた。そのため、戦闘力の無い侍女や使用人には災厄に他ならなかったが、逆に戦闘力のあるものの、ほぼ全員が戦闘に参加する結果になっていた。「不本意で無いとは言えないですね」干吉はそんな、左慈に言わせればノンキとすら言えるセリフを口にした。「魏軍や呉軍が、蜀軍並みに戦う理由はあるでしょうかね。我々の目的を知ったら」しかし目指す「諸悪の根源」が、このややこしい後宮のどこに、この瞬間にいるかまでは、いくら我々でも感知できませんからね。… … … … … 「北宮」のあらゆる場所で戦闘が起こっていたが、突然、すべての白装束が1点を目指して移動しようとし始めた。その動きを軍師たちが見破った。正直、戦闘となれば武将たちに援護される形だったが、しかし、その状況でも、敵全体の動きを目と頭脳で追っていた。振って来ては、襲い掛かるばかりだった敵が、1つのまとまった動きを見せた。その動きを見逃さなかったのだ。「あの白装束たちの狙いは「ご主人様」です!」ここである疑念が生まれた。「旧」蜀の乙女たちからすれば、である。「旧」他陣営のものたちまでが、自分たち同様に“ご主人様”のために戦ってくれるのか?むしろ、彼女たちの、本来の主を解放する好機と思うのではないか。実のところ、動き始めて以降の白装束どもは、追撃してくる相手への応戦はしても、目標への移動よりも優先してまで、目の前の相手に襲い掛かろうとしなくなっていた。見事な統制である。最初の無差別攻撃は、狙う標的を探すまでのものだったのだ。朱里たちの警告を受けた愛紗たちは、余計にあせりながら、一刀の居場所を目指したのだが。・ ・ ・ ・ ・北郷一刀もあせっていた。彼もまた、突然、降ってわいた白装束に遭遇したのだが、最初のうちだけは手近な標的に襲い掛かっていた白装束の中のどれかが、たまたま、近くにいた一刀を襲った途端、次々と周りの白装束までが、標的を変更しだしたのだ。この時、一刀のそばには、確率論的な問題だったのだが、桃香しかいなかった。それでも、建物内で1度に襲って来る人数が限られるという事もあって、何とか持ちこたえていた。――― ――― ――― 「ほうほう、中々やりますな。関羽や張飛の後ろで、大事に守られていたはずなのに」干吉にして、誤解していたようだ。いつものおっとり振りに加えて、関羽や孔明の引き立て役にすらなっていた「演義」での劉備のイメージから。「正史」の劉備とて、並み居る強敵たちを相手に“赤壁”まで生き延びた、それも孔明無しでも、負けたのは呂布や曹操ぐらいだった、百戦錬磨の傭兵隊長である。個人的な武勇とて「伝家」の名剣が、“宝の持ち腐れ”にならない程度はあった。北郷一刀の方も「天の国」にいたころの、アマチュア剣道家のままではない。戦場の場数も踏めば、愛紗や鈴々を初めとする無双の雄将たちの鍛錬も受けて来た。彼女たちならともかく、今、襲って来る白装束たちよりは強くなっていたのである。――― ――― ――― しかも、干吉たちにとっては、もっと大きな誤算が起きていた。「諸悪の根源」を発見した後は無差別攻撃を中断していたのだが、蜀軍以外の乙女たちも負けず熱心に追撃してくるのだ。彼女たちの中には「いっそ、ち○こを見殺しにすれば自由になれます」などと「旧」主を扇動するものすらいたが、肝腎の「旧」主の方が陣頭に立って、一刀の援護に駆けつけようとするのだから、後に続くしか無かった。「おい!話がちがうぞ」左慈の指先では、華琳が「絶」を振り回し、何人かの白装束が消失した後に、数枚の紙人形が空中を舞っていた。「そうですね。曹操も孫姉妹も完全にたぶらかされていましたな。これでは、あの傀儡たちでは力不足かも」――― ――― ――― 次々に、押し寄せてきていた白装束たちが急に引くと、その向こうから白装束をけちらしながら近付いてくる。ついに、愛紗たちが駆け付けたのだ。流石に、1瞬だけホッとした途端、はるかに危険な敵が自ら襲い掛かってきた。「諸悪の根源め。もう、まどろっこしい事はやめだ。直接、殺してやる」「お前は?!あの鏡泥棒」「消え失せろ。貴様が捻じ曲げた「外史」とともに」強い。危険だ。しかし、一刀も以前に殺されかけた時の学生のままではない。そして、桃香が一緒だった。「乳虎」そう、桃香が一緒ならば一刀は最大の力を振り絞れた。そして、桃香だって守られるだけではない。さらには、2対1の戦いは2×2対1にも、1対1が2つにもなりうる。その意味では正しく“比翼連理”。その連携攻撃は、左慈の攻撃を「カウンター」で1度は跳ね返していた。「くそ生意気な。“イレギュラー”と人形の分際で。こうなったら、本気で殺してやる」そこへついに、白装束を突破した愛紗と鈴々が乱入した。愛紗と鈴々が得意の得物で斬りかかり、しかも後ろからは朱里と雛里が助言している。この状況で立ち向かえるのは、これまでは恋だけだったろう。だが、「気を抜くな。下手をすれば恋以上だ」「ふん。あんな呂布“らしきもの”と一緒にするな」さらに、愛紗たちが来た方向とは、別の方向の白装束が蹴散らされた。乱入してくる華琳。別方向からは雪連。それぞれの後ろからそれぞれの雄将たちが乱入してくる。逆に、建物内では戦場が狭く成りだした。「いよいよ、ややこしくなりましたよ」干吉も乱入するが、この状況では、すでに一刀に近寄れなくなっていた。「出直しましょう。少なくとも最後の最後には、1つの手段だけは残っています」いきなり、ドス黒い煙霧が立ち込めた。「この霧!そうよ、アイツは」華琳が左慈に気付いていた。・ ・ ・ ・ ・「それじゃ、あの鏡泥棒…いや、あの危険人物が先輩を?それに「左慈」だって?」「それだけじゃないわよ」「ああ、もう1人は「干吉」だって言うんだろ」一刀も「演義」での「左慈」「干吉」の「エピソード」は知っている。華琳や雪蓮が遭遇したのも、ほぼその通りだった。その通り過ぎた。「北宮」のあちらこちらにアヤしい紙人形が散らばっている。倒した白装束の後にそれが残っていた。幸い、命まで落とした犠牲者は最小限だった。ケガ人は非戦闘員を主体に相当出ていたが。「何者なんだ」「諸悪の根源なんて「ご主人様」の事を」「もしかして……」「もしかしたら、俺が「天の御遣い」なんて気取って、“歴史”を変えたからか」「そうよん。あのヤボたちには、それだけが正義なのねん」「お前は??」何度か出現した、謎の美女。「今度こそ聞かせてもらうぞ。知っている限りの事を」… … … … … 北郷一刀と、ある時は「貂蝉」またある時は「南華老師」を名乗って来た謎の美女、そして「北宮」襲撃を聞いて駆けつけてきた曹仲徳。この3人が、まだ襲撃の後も生々しい「北宮」の庭の真ん中にたたずんでいた。・ ・ ・ ・ ・「全ては、あのひと言から始まったのよん」―こんな時代はさっさと終わるべきだったのよ―「そのひと言が切欠になって「歴史」というか「世界」を改変する力が働いたの」「神」とか「可能性」とか、名前はどうであれ、おそろしく都合の良過ぎる力がねん。その結果が「この」世界。貴方たちも知っている“あの「野望の時代」”をこんなに早く終わらせる方法なんて、他に無かったわよね。あの子たちが、みんな女の子になってしまって、しかも、貴方自身がそれを1つにしてしまうくらいしか。「そんな…バカな」「でも、もともとハチャメチャでしょう。この世界。“元の「歴史」”を知っていれば」「でも……」「まあ、待て。北郷。先に聞いておきたい。奴らは何者だ」「正しい歴史は1つしかない。その正義にしがみつく何者かが、こんな風にして出来た「世界」を消そうとしたのよ」その何者かにはね、世界をつくった力に比べれば、いくつかの限界はあるんだけれど、ある程度は「世界」に介入する力があったわ。だだし、直接には「世界」に介入できないから。「人間の姿をした、いわばシステムの端末みたいなものをつくったの」「それでは、お前は」「アイツらからすれば、裏切り者。でもね、アタシにはアタシの意思があるわ。あの子たちのようにねん…」…ねえ…一刀ちゃん。貴方にとって、そう例えば、桃香ちゃんはなあに。ある意味、貴方が作り出した「この」世界で、劉備の役を振り当てられた可愛いお人形かしら。「今までの恩義はあるからな。今のは聞かなかった事にしてやる。もう1度なんか言わせないぞ」「あらあらこわい。だけど、本当の事でもあるのよ。なんで、そんなに怒るの」「もし、もしも、貴様の言う通りだとしても、みんな生きているんだ」桃香も、愛紗や鈴々たちも、朱里や雛里たちも、華琳たちや、雪蓮たちだって、劉備や曹操とかの、役割を押し付けられているだけじゃないんだ。たとえ誰がつくった、どんな世界だって、この世界で一生懸命生きているんだ。この世界が、俺たちが前にいた世界とどう変わっていたって、それは、この世界で生きている、桃香や華琳たちが自分でつくった世界なんだ。俺や先輩がやった「天の御遣い」なんて、その手伝いでしかない。「この世界は、この世界に生きている桃香たちのものなんだ」「賛成」「へ?!」あっさりと貂蝉に、そう答えられて、むしろ空振りした一刀だった。「だから、アタシは裏切ってやったのよん」真実はたった1つしかない、なんてのは「探偵ものミステリー」の世界よね。世界そのものがいくつ出来てるかすら、わかんないんだから、誰もみんな、自己責任で自分の真実を追いかけて行くしかないの。そして、他人に迷惑をかけるのも、挫折して泣くのも自分。「他人に決めてもらう事は出来ないの」――― ――― ――― 遠巻きに見守る乙女たちには、まだるっこしくすらあった。無双の英雄でもある彼女たちですら、話が終わるのを、そして、彼女たちに「天の御遣い」が語りかけるのを待っているしかなかった。――― ――― ――― 「少なくとも、さっきのが貴方の決心なら、もう前へ進むしかないわ」アイツらは、泰山よ。そこで、最後の手段になる儀式を行うつもりのはずよ。貴方は1人じゃないでしょう。この世界をつくるのがあの子たちなら、これは、あの子たちの戦いでもあるのよ。むしろ、貴方が、あの子たちと一緒に戦うの。そうよねん。--------------------------------------------------------------------------------「恋姫」世界の設定はこうだった?という疑問やツッコミは、おありだと思いますが、これは、あくまで作者の解釈です。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の56『無双のつわもの十字の旗に会し 泰山の決戦に天命を賭ける』の予定です。