原典『三国志演義』は、例えば「赤壁」あるいは「周瑜の挫折」または「五丈原」の後も続きます。その最後の方の「エピソード」を、今さらですが今回、紹介します。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の51『長江悠久』~江東に夢目覚めたり~「私が使者の役を断(ことわ)ったりすれば、かえって妹との密約について、心無い噂が立つでしょう」諸葛子瑜がこう切り出した時点で、使者の内容は、冥琳たちにも見当がついていた。・ ・ ・ ・ ・揚州州牧、劉馥(りゅうふく)は合肥城に兵と物資を集めていた。当然、孫呉が警戒して当たり前なのだが、あえて冥琳は黙殺した。「旧」魏が「旧」蜀に接収された段階で、兵は解散し物資は没収されるのが、やはり当然と考えたからである。接収の段階で劉馥が解任されなかったのも行政官として優秀であり、また、逆に呉を警戒して混乱を避けたと見た。結局のところ、華琳が自ら「人質」になった効果は、華琳に抜擢された劉馥のような人材に関しては、冥琳の想像のななめ上だった。あるいは、冥琳にして、自分の見たいと思う現実を見てしまったか。… … … … … 劉馥は接収を受け入れた後も、黙々として揚州州牧の職務を果たし、その結果、合肥に集められた兵と物資は、当然ながら、呉に備えて集めたものだが、新たな主君から信頼される各級指揮官に把握されていた。後は、率いる武将と軍師を派遣すれば良い状態になっていたのである。――― ――― ――― 北郷一刀と桃香、そして愛紗、鈴々、朱里、雛里たちは黄河から運河をたどって、長江下流の、江東からは目前まで来ていた。その存在を明らかにしたのは、一旦、長江北岸の合肥に上陸した時である。劉馥から兵と物資を受け取ると同時に、長江の上流から蜀水軍を呼び寄せた。三峡から呉の「第2師団」を撃退した段階で、この方面の主将である紫苑や軍師の狭霧はともかく、副将の桔梗は行動の自由を取り戻しており、巴郡や洞庭湖から蜀の水軍を集め長江を下った。そして、江陵の呉軍主力はその妨害をする余裕すら、冥琳が倒れた時点で失っていた。… … … … … 「劉」と「十」の旗を今や堂々と立てて、長江を渡渉する軍が孫呉の拠点、建業を包囲していく。これに対して包囲される側では、抵抗するどころではなかった。元々、城内の治安を維持するだけの警備部隊しか残さずに、総出撃していたのだ。思春1人ではどうにもならない。・ ・ ・ ・ ・蜀軍の本営。「強襲するまでもありません。もはや、時間すらこちらの味方です」その通りだろう。このまま包囲し続けても、こちらか有利にこそなれ、不利になる予想は出来ない。ただし、油断は大敵であるが。「……。…」当然ながら、シャオには呉を裏切る気などない。しかし、すべてを見届ける義務はあると思っていた。「降伏勧告はいたしましょう」――― ――― ――― 建業の城内、公邸の会議室は、激論以上「パニック」未満の状態だった。「赤壁」前夜ですら想像上のものだった破局が、いまや眼前の現実なのである。あの時ですら、魯粛と冥琳が、いわば主君の蓮華を引きずって決戦に持って行ったのだ。その魯粛は沈黙。冥琳にいたっては、ほとんど全軍を率いて行ったまま生死不明。これでは、降伏論の声が大きくもなるだろう。だが、前回は机を叩き斬って、決戦を宣言した主君である。蓮華に降伏を強要できる者まではいなかった。流石に、主家を売って城門を開く者までもいなかったが。・ ・ ・ ・ ・「子敬。前回は、曹操に降伏したら、私はどう待遇されるか分からないと言ったな」今回は、はっきりしている。曹操や袁紹と同じ事になるのだろう。良い。女の身で国主をしていたのだ。いずれは、跡継ぎは自分で生まねばならなかっただろう。政略結婚もありえたろうな。だが……――― ――― ――― 本来、洛陽の「北宮」に居るべき、蜀の「トップ」集団がその出撃を明らかにした時点では、その留守の事実に対して、妙な誤解をされない処置がされていた。・ ・ ・ ・ ・「草原が懐かしい」この人手不足で、恋と音々音は「メイド」から武将と軍師に戻っていた。倭国の使節を幽州まで送り届けた後、星たちは再び、長城の向こう側の騎馬の民を牽制する任務についていた。その星が、恋と音々音に長城での任務を交代して洛陽に戻った。確かに、元が涼州軍閥の恋の強さは、草原という場所で騎馬の民を相手にしてこそ発揮されるだろう。一方「“蜀”の「五虎大将」がうち、三の剣」である星をおいて、洛陽の留守役は居ないだろう。ただし、華琳と曹魏の軍師「3人組」だった桂花、稟、風が1ケ所にそろっては、変な誤解をする者がいるかもしれないので、稟と風には途中で別の任務が与えられ、星に付く軍師は、白眉こと胡蝶と交代になった。… … … … … 当然ながら、合肥に蜀軍が出現した時点で、星と胡蝶は洛陽に帰還していた。・ ・ ・ ・ ・「うむ。これは至高の酒というべきでござろう。まさに」いっそ、この酒につり合う、究極のメンマがないことが、逆に残念なほどですな。――― ――― ――― 建業の4つの城門の内、北門は長江に面した水門になっている。いわば水城だった。その水門の上にある楼門から、蓮華は1人長江を眺め続けていた。彼女の決断をともにしてくれるものは居なかった。――― ――― ――― 同じ流れは、建業を包囲する蜀軍の陣内からも見えた。一刀と桃香は寄り添って長江を見詰めていた。「天の御遣い」が「桃園の誓い」を引き合わせてくれて以来、2人はともにいた。比翼連理のように。・ ・ ・ ・ ・とうとう、降伏勧告のため、一刀と桃香は旗艦に乗って水門上の楼門に立つ蓮華に相対した。… … … … … 旗艦の上から呼び掛けられる言葉は、華容道で華琳に向けられたのと同じ。その言葉を代わる代わる呼び掛ける2人の寄り添う姿を見て、蓮華は敗北感のみならず孤独感を感じていた。そして理解した。あの「覇王」曹操が、なぜ剣を落としたかを。むしろ、蓮華の決断を重くしたのは、自分だけの孫呉では無いとの思い。その意味では曹魏は華琳ただ1人。しかし、蓮華は母、水蓮と姉、雪蓮への裏切りに苦しんでいた。――― ――― ――― 諸葛子瑜が江陵の冥琳の元へ、蓮華の名で使者に出された。その面会の際、穏たちは華佗を立ち合わせていた。やはり、冥琳は憤慨し、そして気絶して華佗の手当てを受けて蘇生し、そして号泣した。「許せ!許してくれ!雪蓮…お許しを…水蓮さま!」号泣しながら剣を抜くと、岩に斬りつけた。その折れた剣を敵将、曹仲徳に届けるように泣きながら命じた。祭、穏、亞莎、洛陽から駆けつけた明命、そして瑪瑙ら、居並ぶ諸将たちが冥琳に習って岩を斬った。――― ――― ――― なぜか「天の御遣い」が、孫策を見舞いたいと、言い出した。… … … … … その前夜、となりで眠っている桃香や、同じ天幕の中の阿斗が目を覚まさないようにするためにも、ヒソヒソ話をする一刀と謎の美女がいた。「眠り姫の呪いを解くのは、王子さまよん」「俺は、普通の人間だよ。そろそろ「天の御遣い」のタネも付きかけている、な」お前だろう。何かが出来るなら。お前は「この」世界に関係した何者かなんだろう。「確かにねん。この「外史」そのものについて、他の人が知らない事を知ってるわん」でもね、孫策ちゃんが目覚めるのは、貴方のお陰よん。あの子を眠らせていたのは、この「外史」を「正史」の方へ、引き戻そうとする力につながった力だったの。でも、その力はどんどん弱くなって、おそらくあの子からは消えかかっているわ。それがなぜか、貴方が何をしたかは、分かるわよね。「だから、孫策ちゃんのところへ行って御覧なさい」… … … … … 北郷一刀が雪蓮の枕元に近付いた時、それは起こった。――― ――― ――― 曹仲徳たちと冥琳たちは、建業へ向けて長江を下っていた。その間、冥琳は仲徳に対して、何か探りを入れるような態度に出ていた。いや何かではなく、仲徳には思い当たる事があった。(…この歴史が、今までで改変されているなら、起きない筈のエピソードなんだがな…)「俺が知っている話だと、こんな話があるんだ」ある国が他国に攻め滅ばされた。国境の要塞を守っていた将軍は負けなかったが、敵の別働隊に都が開城し、王が降伏してしまった。その将軍も当面の敵に降伏して、一緒に都へ向ったが、その途中で気が付いてしまった。敵の将軍は、自分の国で、必ずしも政治的に安定した地位にいるわけでもない。むしろ、今、攻め取った国を拠点にして、自立する野望が無いとも言えない。なら、その反逆をそそのかしてやる。そのすきに、滅びた国を再興する機会を狙ってやるとね。しかし、その陰謀は結局露見して、両方の将軍とも処刑されたよ。まあ、そのあきらめの悪かった方の将軍を忠臣などと持ち上げる、そんな意見もあるがね。「しかし、俺はそそのかされた方の将軍みたいに、後世から間抜け扱いされたくないな」そこまで言って、仲徳は長江に目を向けた。国家の興亡も、こうした陰謀も、しかし流れ去って行く様な悠久の大河へと。(…蜀の姜維は、おそらく「この」歴史の表面に出てくることは無いだろうな…)・ ・ ・ ・ ・もはや、自分の正気を疑いたい冥琳だった。雪連が目覚めて、自分の目前で微笑んでいる。それ自体は絶望の中の光明だった。しかしなぜ「天の御遣い」を、劉備との間に挟んで、寄り添っているのか?自分は雪蓮の事を思う余り、やはり狂ったのか?… … … … … 目覚めた雪蓮は、自分が意識を失っていた間に起こっていた事を、しっかりと理解した。理解するまでは周囲を、呉側だけではなく、蜀側のものまで質問攻めにしていたが。そして完全に理解した上で、蓮華や冥琳を許容した。孫呉の興亡までを受け入れたのである。ただし、洛陽への「人質」は自分が行くと言い出した。「貴方を始めてみた時「天の落とし子」の事を口に出したけど、その時は冗談のつもりだったわ」でも本物だったようね。この「天の御遣い」は。・ ・ ・ ・ ・北郷一刀と桃香。そして雪蓮、蓮華、シャオの孫姉妹を乗せた旗艦に率いられた船団が、洛陽への凱旋のため、呉の拠点「だった」建業を離れた。長江は今日も変わらぬように、悠久の流れを見せていた。--------------------------------------------------------------------------------つじつま合わせのためか、ご都合主義な展開にしてしまったかもしれません。しかし「恋姫」はハッピーエンドになるから、という事で、お目こぼし下さい。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の52『帝都好好』~後宮の小ばなし(その2)~の予定です。