1国LVの戦略や政治となれば、確かに劉備は孔明が頼りでした。しかし、実戦指揮官としては、百戦錬磨と言って良かったでしょう。「戦ベタ」というイメージには、最後の最後で陸遜に大敗した事の減点がひびいています。実は、それ以前で負けていたのは、曹操と呂布ぐらいでした。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の50『孫呉爆発』~「正史」は引き戻そうとする~「これは~まさかとは思いますけど「伏竜鳳雛」がお留守だと~こんなこともあるんですかあ」蜀の本拠地、益州の唯一の出入り口と言って良い三峡渓谷。その渓谷に沿って、蜀側の縦深陣地が続いている。一見、鉄壁の布陣。しかし、穏はその弱点を見抜いていた。・ ・ ・ ・ ・夷陵の戦い劉備玄徳、生涯の不覚とすら言えるこの戦いを、まるで再現するような蜀軍の陣形。しかし、ここには桃香はいない。なのに、再現されていた。そう「天の御遣い」が、今度こそ最後と思いながら語った「お告げ」にしたがって、あえて再現したのだ。敵将が穏、すなわち陸遜であることを確認して。・ ・ ・ ・ ・「おそらく~火攻で~勝てるはずです~でも本当に~竜鳳の他にはぁ軍師らしい人いませんかぁ」――― ――― ――― 「法正さえ生きていれば」夷陵の敗報を聞いて、孔明はこう嘆いたという。しかし「この」歴史では、狭霧は健在で、三峡での軍師を担当していた。・ ・ ・ ・ ・法正がその軍師としての実績を示した戦いでは、老練な黄忠を使いこなし、魏の勇将、夏侯淵すら倒している。… … … … … 北郷一刀は、曹仲徳が江陵へ出発する前のあわただしい中で、ある文章について打ち合わせた。そして、一刀と桃香は狭霧あての詳しい手紙を持たせて、紫苑と璃々、それに桔梗を急ぎ、三峡の益州側の出口である巴郡まで帰らせていた。――― ――― ――― 荊州江陵の城外。「そうか。火攻か。流石は穏だ」冥琳は、愛弟子による赤壁の再現を期待すらした。その時まで現状を維持できれば、勝機は見えてくる。――― ――― ――― 孫呉の拠点、建業。魯粛とて、今さら主君である蓮華に説くのは、冥琳への裏切り以前にだまし討ちである事ぐらい理解している。しかし、この賭けに失敗したら?本当にこのまま勝利できるのか?赤壁でも、あれほど強気だったが、今は迷っていた。――― ――― ――― 明命は暗躍していた。実戦指揮官なら、有名無名あるいは男女を問わず、冥琳や穏の作戦の下で戦う中級LVの武将は何人でもいる。しかし、明命にしか出来ない任務もあった。シャオの救出である。いくら冥琳が錯乱していても、人質に取られた場合は見捨ててもなどとは、蓮華に向って言える筈が無かった。――― ――― ――― 長江の吹き渡る季節風が三峡渓谷に吹き込み、下流から上流へ吹き上げる、そんな夜を待って、穏は総攻撃に出た。長江と山脈に挟(はさ)まれて、延々と並ぶ蜀軍の陣地のうちの、まず、呉軍に近い下流側の陣地が燃え上がった。そして、上流側へ順次、延焼していく。ついには、長江に沿って、夜目にも明々と火炎の帯が連なった。その火に追い立てられ、益州の拠点の方へ逃げて行く蜀兵を追撃し、そのまま益州を侵掠すべく、呉軍は襲い掛かった。だが、まるで空の袋を叩いている様な手応えだった。… … … … … ついに、蜀軍の本営に迫った時、火攻にあって総崩れになった味方に巻き込まれて混乱している筈が、蜀軍お得意の「八陣図」を布陣して待ちかまえていた。… … … … … この状況で、致命傷を追わずに撤退できただけでも、流石は穏だったろう。しかし、三峡からは撃退されるしかなかった。――― ――― ――― 蜀の拠点、成都留守中の治安をあずかっていた霧花(黄権)は、内心ひそかに感情を持て余していた。「今回」の戦いに霧花を出さなかった事が、主君たち、特に「天の御遣い」の温情である事は理解も出来れば、感謝もしていた。それだけに、内心では余計に感情を持て余していた。――― ――― ――― 信じたくは無い。冥琳にとっては孫呉から「天命」の飛び去る事を意味しているのだから。「まだだ。この江陵を確保できれば、ここを足がかりにして、もう1度、三峡を攻略できる」いや。そうするしか、成功させるしかない。冥琳は強襲を決断した。城攻めなどは下策で、やむを得ないからするものだ。(「孫子」謀攻篇)まして、後方に敵の急援軍がいて、戦線が膠着している状態でだ。冥琳は兵士たちを集めた。収容した「第2師団」の兵を含めた全員に、全てを隠さずに演説し精神的に「死地」に追い込んだ上で、総攻撃を開始した。… … … … … 文字通り、味方の犠牲者を乗り越えて、城壁に取り付こうとする呉の兵。当然ながら、江陵城の城内から守備兵が反撃するだけではなく、救援軍の側も攻城軍の後方から反撃するが、呉軍の後曲が反転して、救援軍と正面衝突する。冥琳はその陣頭で戦っていた。――― ――― ――― 「何て事を?!」仲徳には、冥琳の決断が予想できなかった、という事は無かった。彼女の心境については、ある程度「天のお告げ」があったのだから。だからこそ、今の彼女との戦いには余計に閉口していた。「こうなったら…連弩、1点集中。周瑜個人を狙え」(…やっぱり、こうなったか…)風を切る発射音。そして飛翔音。呉軍の陣頭に掲げられていた「周」の旗が倒れた。… … … … … 仲徳の指揮する、江陵救援軍の陣容は、中級の武将は「旧」魏の「3人娘」。華琳を「人質」に取ってあるのだから問題は無い。軍師は蛍。蜀軍を離脱した直後に「旧」魏軍が降伏したため、すんなり復帰できていた。その沙和、凪、真桜や蛍を前にして、仲徳は語っていた。「もし、赤壁での「歴史の改変」で、俺たちの「天のお告げ」が無効になっていなかったら」明日、周瑜は今日の矢傷にもかまわず、もう1度、陣頭に立とうとする。その結果、その矢傷が破れて…………それで、自殺する結果になっても、孫策との「断金の誓い」をつらぬく覚悟だろう。そんな相手と戦うのは、例え偽善でも気が進まないな。「やっぱり、華佗先生でも呼んでおこうか」――― ――― ――― 明命は洛陽の城内にまでは潜入していた。そして「北宮」へと潜入する機会をうかがっていた。だが、微妙に違和感があった。1見、形式通りに警備されている。しかし、宮殿自体が修復中だけではない、何らかの手薄さが感じられた。もっとも現状では前線ではない以上、手薄になる理由は無いでもない。――― ――― ――― 再び、激突する、仲徳と冥琳が指揮する両軍。しかし、仲徳の方は、もっぱら応戦と戦線維持を優先していた。そうして、いわばダラダラと戦っている間に……「う?…!」冥琳は、前日の矢を受けた場所から出血し、落馬した。――― ――― ――― 明命は、ついに「北宮」の内部に潜り込んだ。しかし「後宮」としての修復が進んで来ているため「ダンジョン」に戻りつつあった。目指すシャオを探し回っている間に、奇妙な事に気が付いた。この「後宮の主」である筈の「天の御遣い」も劉備も、蜀の雄将、軍師のそれぞれ双璧である4者も見かけない?・ ・ ・ ・ ・とりあえず、シャオを見付けるまで、1時の潜伏に使用するつもりだった酒蔵で、「人質」のはずの曹操に出くわしてしまった。――― ――― ――― 「医者として、せっかく助けた患者に自殺されるほど、むなしい事はありません。いつかもいいましたな」華佗から雪蓮のときの事を持ち出されては、冥琳もとりあえずは「応」と答えるしかない。しかし、穏と亞莎に指揮権を移譲すると、何としてでも目的を達成するよう命令、いや厳命していた。――― ――― ――― 「残念ね。呉の姫も、一刀も桃香も、愛紗たちもいないわよ」「まさか」明命にも想像のななめ上を飛び去る話だ。「そうね。あの6人はこの「北宮」を動けない。それも「人質」の私や麗羽たちを置いてなんて」そう思っていたわね。貴女も。確かに、バレ無い様に出かけないと、ややこしくなったかもね。だからコッソリ出かけたわ。それに、私だって、今さら留守を狙って妙な事をするつもりなら、「華容道で「女」を差し出したりしなかったわよ」「……。…」「どこへ行ったか?かしら」――― ――― ――― 成都や許昌よりも、洛陽が有利な点の重要な1つ。洛陽の近郊を流れる洛水である。この時代の水運の地位は高い。洛水は黄河に合流し、黄河からは官渡水などの運河を経由して、長江へ物流が通じる。・ ・ ・ ・ ・その「水運ルート」を用いて、少数の大型船とその護衛船からなる船団が、洛陽から江東へ、密かに直行していた。孫呉水軍が総出撃していたこともあり、その船団は正体を知られる事も無く、長江下流まで来ていた。それはそれで、治安上の問題があるかもしれないが、長江周辺の海賊は、孫呉3代がかりで全滅させられていた。だからこそ、水軍の総出撃も可能だったのであり、こんな怪しい船団がやって来れたとも言えた。この時点で、洛陽では「北宮」の「お忍び」がバレてはいなかった。――― ――― ――― 孫呉の拠点、建業。その公邸の奥にある御殿。蓮華が見詰めるその御殿では、長姉、雪蓮がいまだ植物状態のまま、喬姉妹の看護と介護を受け続けていた。「お姉さま」私にこんな決断を押し付けて夢を見続けているとは、無責任ではないのですか?何分の1かは、本気で愚痴っていただろうか。この時、蓮華に決断が近付こうとしていた。いま1人の姉妹とともに。--------------------------------------------------------------------------------「三国志」から「恋姫」への分かれ道で、ウロウロしている感じだと思いますが、あと少しだけお願いいたします。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の51『長江悠久』~江東に夢目覚めたり~の予定です。