美周朗原典「演義」における周瑜は、こう呼ばれるほどの今日でいう“イケメン”であり、極めて「“カッコイィ”キャラクター」として描かれます。そして、それゆえに、その悲劇がより悲劇的に描かれます。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の49『美周錯乱』~断金の誓いは未だ果たせず~呉から陸遜が使者に来て以来のシャオの態度について、北郷一刀や曹仲徳には心当たりがあった。“赤壁”で歴史が改変されても、まだ「天の御遣い」の知識がすべて無価値に成ったわけでもない。むしろ、この「改変」で「正史」以上に追い込まれているであろう、その人物の心当たりがあったのだ。「やっぱり、周瑜でしょうね。先輩」「北郷もそう考えるか」――― ――― ――― 呉の建業。冥琳と魯粛は、主君である蓮華の御前で論戦になっていた。――― ――― ――― 洛陽「北宮」「周瑜と孫策の間に結ばれた断金の絆。「演義」では、桃園の誓いとか、三顧の礼とかの陰に隠れがちですけどね」「この「天の御遣い」まで、そう言うか。確かに、絆の強さでは決して劣らなかっただろうな」「けれども、その絆の強さが周瑜の悲劇の始まりですね」「そうだ。周瑜はどこまでも、断金の誓いのままに、孫策の「弟」である孫権に、天下を取らせようとした」「そのためには魏も蜀も最終的には倒すべき障害だったでしょう。でも、その主君である孫権も」「それに、自分自身に何かあれば、代わって孫権を補佐して欲しいとまで期待した同志である魯粛もだな」「江東の地方政権を維持する事を優先とし、維持した上での着実な勢力拡大を目指していたのでしたね」「そうだ。そのためには、孔明の「天下三分」の策をすら、利用しようとした」「それに対して、周瑜は“三分”ではなく、“二分”を主張しましたね」“当時はまだ”蜀に手が届いていなかった劉備を出し抜いて、呉と魏で天下を二分する。次いで、今度こそ天下を賭けて、呉と魏が決戦する。「それが、周瑜の主張であり、孫権や魯粛に対しても引こうとしなかったはずです」――― ――― ――― 呉の建業。冥琳は断言していた。「今ならば好機です。しかし、この好機を見逃せば、孫呉の安泰すらありえなくなりましょう」――― ――― ――― 洛陽「北宮」「そして周瑜は」前面の敵だけでなく、後方の味方からまで孤立してでも、蜀を、そして魏を倒すべく出陣する、その直前に倒れた。憤慨しつつの死だった。当面、天下三分で、それぞれの主君を補佐する戦略を一致させていた魯粛と孔明が、密約するか、結託して死に追いやったなどという、そんな説を唱える歴史家までいるが、「この世界の朱里が、まさか、そこまで黒くないでしょう」「それはそうだろうがな」それだけ、周瑜が追い詰められていて、死んだのは「史実」だ。通説通り、戦場の傷が元での病死でも、そこまで無理をして戦っていたのは間ちがい無いし、解釈によっては、自殺も同然、「あるいは孔明と魯粛と孫権に裏切られて、死なされたのも同然とも解釈できる死に方だったな」――― ――― ――― 呉の建業。ついに、冥琳は蓮華を説き伏せていた。「分かった。全軍の指揮を預ける。だが、孫呉の命運がかかっている事は忘れるな」――― ――― ――― 洛陽「北宮」「“この”世界の周瑜が「正史」以上に追い込まれた心境になる理由は、ありうるでしょう」まだ「正史」では、魏も蜀も、実は「三分」を完成するまでは到達していなかったから、つけ込むすきもあったでしょう。「しかし今や、江東の呉をほとんど1つ残して、ほぼ天下を制圧されつつある、大き過ぎる敵が相手ですからね」「それだけでもないだろうな。個人的には」何せ、真の敵は、今や劉備でも“曹操”でもなく「天の御遣い」だからな。この「天の御遣い」たるや、例えば、孫権の首を取るかわりに、たとえシャオちゃんがロリだろうが、姉妹丼で喰ってしまうような「鬼畜」だからな。周瑜にしてみれば想像するだけで、自分の首をはねて孫策に謝りたいところだろう………………おいおい。落ち込んでいる余裕もないかも知れんぞ。マジな話で、“そういう結果”になるか、それとも北郷と、この「北宮」の女の子たちが首になるか、「2択の勝負を挑んでくるつもりじゃないのか。向こうさんは」――― ――― ――― 出撃軍の編成を急ぐ。実は、その編成に秘策が潜んでいた。建業を出撃する時点では、全軍の陣頭に冥琳が立っているとも見せる。だが、実際の編成は……――― ――― ――― 「俺を荊州へ派遣してくれないか」「先輩をですか?」「あくまで、魏から蜀へ降参した武将、曹仲徳の待遇で良い」しかし、北郷と俺とが「歴史」を改変して来たんだ。その決着を見届ける責任はあるんじゃないかな。・ ・ ・ ・ ・たとえ「天のお告げ」が無くとも、この乱世を勝ち上がって来た軍師たちが、情報や情勢に不注意なわけがなかった。現時点で「北宮」に残留していた軍師、武将が集まっての軍議が開催されていた。その席上、流石に竜鳳の軍師は、ほぼ孫呉軍の戦略をかなりの正確度で読み取っていた。現在の情勢、そして、あくまで孫呉の天下をあきらめていないという、その目的。それらを兵法に当てはめる。この場合、敵将が優秀であるだけに最良の選択をする確率が高い。だから、ある意味では、その戦略を読み取る事自体は可能だ。こうして、敵の戦略が読み取れれば、その延長で、こちらの対応策、および、おそらくは敵が目を付けているであろう、こちらの問題点も浮かび上がる。浮かんで来た問題は、派遣する人材だった。現に、この軍議の場にも欠席が目立つ。各地方の接収。その後の「安定化」のための任務で出払っている。そして、安定するまでは、最も中枢となる面々である一刀と桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里や、最重要の「人質」である華琳、麗羽、美羽は、この洛陽「北宮」から動かせない。こうなると、派遣できる武将、軍師は陣容的にギリギリだった。したがって、曹仲徳の参戦志願は、実のところ都合が良かった。姉の華琳は「人質」に取ってあるのだし。この軍議の場にいる者たちは、仲徳が「天の御遣い」である事をすでに知っている。その“2人”の御遣いは、心中で思っていた。(…この戦略(予想)からすると「正史」の方へまた、近付けようとしているみたいだ…)確か「正史」でも、周瑜の最後の戦いの相手は、曹の姓を持つ魏の将だった。周瑜は「正史」通りの悲劇をたどってしまうのか?この、もうすでに改変されている「この」歴史の中で。――― ――― ――― 孫呉の拠点、建業。冥琳が陣頭に立ち、孫呉水軍は出撃した。赤壁以来の全力出撃である。… … … … … 荊州江陵城。「旧」劉表政権以来の荊州水軍の「基地」であり、孫呉が江東から勢力を拡大する場合、最初に確保すべき要地。したがって、冥琳も江陵を攻撃せざるを得ないのだが、孫呉軍が包囲するのと前後して、洛陽からの急援軍が到着して戦線はとりあえず膠着した。しかし、孫呉軍は、実は「2個師団」に分割されていた。穏と亞莎が預かる「第2師団」は、一気に長江をさかのぼり、益州、そしてその唯一といっていい出入り口である、三峡渓谷を目指していた。これが冥琳の秘策だった。現在の敵は、江東を除く天下の大部分を得た形だが、荊州より北は曹魏の降伏にしたがって接収したばかり、黄河以北にいたっては、その曹魏に対しても袁家勢力から降伏したばかりで、またも降伏したのだ。“赤壁”以前の従来の勢力圏と同様の信頼度で統治できているには、早過ぎる。この状態で、本来の蜀の拠点である益州を失う、最低でも、洛陽との連絡を切断してしまえば、根を断ち切られた花も同然だろう。だが、そのためには、最低でも江陵と三峡の2ケ所を占領する必要があった。逆に言えば、今ならこの2ケ所を占領するだけでも十分に大打撃を与えられる。そして、余りに急膨張した勢力圏の接収のため、この弱点を守る兵力や人材が空洞化している事も計算していた。まさに、今が好機だった。孫呉が尚も天下を狙うなら。今しかないとも冥琳には思えていた。・ ・ ・ ・ ・偶然なのか、必然だったのか?冥琳が穏を三峡に向わせたのは。「正史」で「天下三分の策」を挫折させ、劉備本人にもトドメをさす大敗をしたのが、この三峡周辺。その相手が陸遜だった。だが「今」の穏の前に待っている相手は、“正史”の蜀とはさまざまな条件が改変され過ぎていた。・ ・ ・ ・ ・孫呉の拠点、建業。所属する陣営に関わらず切れることの無い、それゆえに外交官としての価値もあるのだが、“名士”同士の「ネットワーク」を通じて、魯粛に通報がされていた。… … … … … 「天の御遣い」を2人まで存在させ、しかも互いに協力させている向こう側では、今回の出兵すら待ち受けている?やはり、これが「天命」なのか?「美周朗よ。貴女の断金の誓いは、同日に死す盟約だった方が、幸福だったかも知れん」私は私の信念で、現在の主君への忠誠を貫くしかない。――― ――― ――― 荊州江陵の城外。攻囲する冥琳の孫呉軍を牽制するように布陣した、曹仲徳の救援軍。その本営。(…これが「正史」の報復なら、俺や北郷ではなく、貴女にかぶってもらうのは不条理だろうが…)しかし、いまさら「正史」より早く終わってくれるはずの、乱世に戻ってもらうわけにはいかない。野望の時代は、もう終わりだ。--------------------------------------------------------------------------------最後における周瑜の無念。おそらく「正史」では“五丈原”での孔明が誰より理解できていたでしょう。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の50『孫呉爆発』~「正史」は引き戻そうとする~の予定です。