『魏志倭人伝』正式な名称は「正史」三国志の中の、魏書・東夷伝・倭人条。日本史が神話の形で伝えられている時代でもある「三国」時代のころの、おそらく日本について、第3者の視点で記述されている、と評価されています。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の48『倭人之条』~名家は出戻りする~「あれが碣石(けっせき)山だ」幽州の出身で各地を旅した星は、この名山を初めて見るわけではない。その星と風と3人で見聞の旅を続けていた稟は、しかし、碣石山を見るのは初めてだった。風は見ている。その時には、稟は黄河に近い魏城で療養していた。そして、風とともに碣石山を見た「詩人」の歌った「歩出夏門行」を、星がメンマを片手に口ずさむと、稟と風に睨(にら)まれた。その時、風は物見遊山で旅していたのではない。華琳に従軍して、袁紹勢力の残党を追って遠征していた。この周辺までが、その時、曹魏軍が平定した勢力圏であり、現在の星は蜀の「五虎大将」の1人として、その勢力圏の接収に来たのであり、稟と風は「旧」魏から接収に立ち会いに来たのである。・ ・ ・ ・ ・ここから先は、遼東公孫氏という地方軍閥の勢力圏になっている。前回の華琳は遼東までは深入りと考えて、そう進言したのは稟でもあったが、遼東の手前で引き返した。今回の星たちはどうするか?洛陽の「主君」の決断を仰ぐ間、待機していたのである。――― ――― ――― 洛陽「北宮」「なあ?華琳はこれでいいと思うかい」「今の時点で、私が余計な口出しをしたら、その方がややこしくなるわよ」確かにその通りではある。その意味では、微妙な時期ではあった。結局、竜鳳の軍師にも相談して、最後は北郷一刀と桃香の2人で決断した。「華琳さんはいいですね。小さくて」華琳は一刀の膝に乗っていた。そんな事を言う桃香は、一刀に寄り添って微笑んでいた。――― ――― ――― 基本。遼東よりも、長城に注意せよ。前回の華琳も決断の根拠にした、基本条件は変化するものではなかった。具体的な処置としては、白蓮が幽州州牧に任命されて返り咲いた。・ ・ ・ ・ ・「白馬長史」公孫賛の手強さは、遼東公孫も、長城の向こう側の騎馬の民も経験済みだ。その強敵を、袁紹が滅ぼしてくれたとも言える。華琳に追われた袁姉妹が遼東に逃げ込んだのも、そこを恩着せがましく振る舞っての事だった。その白蓮が、袁紹よりも、曹操よりも巨大化した政権の後ろ盾で復帰すれば、抑止力には成る筈だった。… … … … … 結果としては、成り過ぎてしまった。脅威を感じ過ぎた遼東公孫氏は(現代ならば中国・ロシア国境あたりのウスリー地方の)あたりの、森林の狩猟民族を引き込んで幽州を襲撃させる、という暴挙に出た。・ ・ ・ ・ ・これで、手を焼く辺境とでも思ってくれれば、手を引いてくれるとでも思ったか。しかし、白蓮に加えて星、稟、風がそろっていては、地方の弱小軍閥には自殺行為だった。たちまち、拠点の襄平城に追い込まれていた。――― ――― ――― 「こうなると計算していたの?」「はわわ…過大評価ですう」「あうぅ…可能性があるとは思っていましたけどぉ」しかし、また1つ、竜鳳の軍師の伝説が後世に残った。――― ――― ――― 襄平を包囲中の白蓮たちの陣に、倭国からの使節が出くわした。倭国などの「東夷」にとっては「窓口」になっている「中国」は遼東だったのだから、突発事態とも言い切れない。むしろ、倭国側が上手な「タイミング」で来たというべきだろう。稟と風が、洛陽に倭の使節を連れて行くべきだと進め、星も同意して説得した。これからは、白蓮が、幽州州牧として「窓口」になるのだから。――― ――― ――― 現在の、あるいは当面の人事は、原則として「旧」蜀と「旧」魏の出身を適当に混成していたが、権力の移動を認識させるためには、ゆずってもらう必要のある「ポスト」はあった。たとえば「帝都」と皇帝を警備し、かつ見た目も華やかに権力を見せ付ける執金吾を、曹操の弟にそのまま続けさせる事は出来ない。洛陽と許昌に離れていればなおさら。そのため、執金吾は焔耶(魏延)と交代になった。曹仲徳はといえば、その前から療養中だったので、そのまま療養という建前になった。もっとも、一刀には、この方がありがたかったかもしれない。同性の、しかも「天の国」の話し相手というのは、今の北郷一刀の立場ではいよいよ貴重だった。・ ・ ・ ・ ・「史実の劉備は、桃香みたいな「お人好し」じゃなかった、なんて解釈をする作家や歴史家もいましたね」「そういう解釈をすればするほど、劉邦そっくりに成っていくんだよな。不思議なくらい」「本当にご先祖だったんでしょうね。やっぱり」こういった「正史」がらみの話は、当人は論外としても、他に出来るのも華佗くらいだろう。また、同性の友人だからできる話があったりする。「北郷の趣味が分からんな」「先輩?どういう意味です」――― ――― ――― 幽州州牧として白蓮は政務とか、長城の向こう側の騎馬の民の相手とかに、しっかり復帰し、星、稟、風は、倭国の使節たちをともなって、洛陽へ戻って来つつあった。………。……。…洛陽「北宮」倭の大使、難升米の1行は、真珠・青玉をはじめとする倭国の特産品を献上していた。これまでは、つまり“黄巾の乱”から以後は遼東公孫氏が受け取って「帝都」には送っていなかったが、一刀や桃香たちは、許昌の皇帝の元に今回の献上品を送り届け、そのかわり、“倭の女王”卑弥呼に対して、皇帝の名で「金印」を贈る約束をした。この行為、すなわち周辺国の承認が行われるという事は、乱世が収束しつつある事を外にも中にも示す事になる。・ ・ ・ ・ ・これに対して、倭の大使難升米は、“皇帝”とは別に、この「北宮」の「主」にも献上品を差し出すつもりになった。二本足の献上品、つまり「生口」をである。「天の国」では、奴隷の存在は否定されている。(…受け取っておいて、解放してやってもいいか…)「この生口どもは、歌舞音曲が、中華のもの並にしっかり仕込まれております」巫女王であられる卑弥呼さまが「まつりごと」(国事行為としての神道儀式)を行う際に、大いに役立ちました。それをあえて献上いたします事を、卑弥呼さまからの好意とお思いください。大使がこう口上して「実演」を始めた、いわば“五人囃子(ごにんばやし)”を見てみると、同席する何人かには見覚えがあった。… … … … … 「お笑いなさい、お笑いなさい。華琳さん」「そのつもりは無いわ。それに、麗羽たちの今の「ご主人様」は、私で無くて「天の御遣い」よ」――― ――― ――― 「旧」袁紹勢力圏、冀州・青州・并州・幽州の4州は、曹魏に降伏したばかりで、今度は蜀軍の接収を受けていた。どうしても「忠誠心」が中途半端な状態だったところへ、「旧主」袁姉妹が、蜀の劉備、魏の曹操同様に「天の御遣い」の「後宮」に入れられた、との知らせが届いた。この情報は、黄河から長城にかけての、人心と治安を安定させる効果は確かにあった。――― ――― ――― 邪馬台国。女王卑弥呼はまだ若い、というより幼いとすら見えた。後漢帝国の迷走に誘われるように、30余の小国が何とか「バランス」を取っていた倭国は大乱となった。その乱を、しずめる知恵を誰かが思いついた。このまだ幼い、しかし「カリスマ」をそなえた巫女を女王にいただき、平和と共存の象徴とする事を。その女王に、個人としての魅力や、巫女としての神秘性以外にも権威を付けたい。この平和を続かせたいものは、そう思っていた。その意味からも、中華の乱世は収束してくれる事を、ここ倭国でも願っていたのである。――― ――― ――― 「しかしなあ、いよいよ趣味が分からんな」張飛もとい鈴々ちゃんに、朱里ちゃん、雛里ちゃん。そして、聞こえたら怖いが、華琳姉さんに、今度は美羽ちゃんだろ。「先輩。何を指折り数えているんですか?」「いや、そういう趣味で一貫しているなら、まだ理解できるんだがなあ」例えば、鈴々ちゃんと愛紗さんとか、美羽ちゃんと麗羽さんとか、姉妹丼で喰ってしまうし、おまけに、1番最初に孕ませた、そして今でも1番らしいのが桃香さんだからなあ。北郷の趣味は分裂してすらいるぞ。「だから、俺は「ロリ」なんかじゃ。実際、ああいうのを見れば…」思わず指差してしまったのは、お約束か。「ほう、お館様。何の御用じゃな」桔梗だった。「いや、コホン。桔梗の方こそ、何か用かい」「呉から使者じゃ」・ ・ ・ ・ ・蓮華の名で来た使者は、穏だった。軍師クラスの文官だから、使者になったこと自体は問題ではない。ただ、シャオとの「密談」の許可を求めた。(…魯粛とか、朱里のお兄さんとかじゃないのは、女の子同士の話があるのかな?…)・ ・ ・ ・ ・「もう~小蓮様は~「天の御遣い」様のご寵愛を受けられたのですか~?」「(…赤…)」「そうですね~そうかもしれませんね~」「何が言いたいんだよ―」「いえ~いま呉の国主は蓮華様ですから~。蓮華様でないと~曹操さんや~袁紹さんのようにはいかないです~」「?!?!」「華容道で~曹操さんが~こういう侵掠の仕方もあり~と示してしまいましたから~」それでなくとも~あの「天の御使い」様には~残しているのはわが孫呉だけ~ですから~大変なんですよ~冥琳さんなんか~呉の国とか~蓮華様がそんな事になったら~自分で首をはねても雪蓮様に合わす顔がないとか~「いっそ~錯乱とかでも出来た方が~気が楽になりそうで~そばで見ているのも気の毒なくらいで~」… … … … … 深夜、穏は「北宮」から洛陽城内の宿舎に引き取った後。シャオは1人、南の空を見上げていた。シャオには分かんないよ。冥琳はどうしたいの?--------------------------------------------------------------------------------「恋姫」ファンの中でも「呉」ファン。特に冥琳のファンの方には申し訳ありません。確かに、少しいじめ過ぎているでしょうか。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の49『美周錯乱』~断金の誓(ちか)いは未(いま)だ果たせず~の予定です。