あらためて、もう1度だけ申し上げます。『中漢演義』とか、そういった題名で「三国志演義」が原作の架空戦記を書きたいと妄想し、思い付いては、ボツにする事を繰り返してきました。『中漢』とは前漢・中漢・後漢と言う意味です。“この時代”を対象にした「架空戦記」でよくあるように、蜀陣営の漢王朝復興が成功した場合の歴史には、3つの「漢」王朝が存在する事になる。したがって、彼らの立てた王朝が例えば後漢と呼ばれ、我々の歴史における「後漢」は『中漢』とかいうように呼ばれるのではないか、つまり「中漢」王朝末期を舞台とする物語になるという発想でした。しかし、どこで歴史を改変するかを思い付いては、ボツにする繰り返しだった時、「恋姫」シリーズの事を知って、途端にキャラクターが動き始めました。そのため、この作品のストーリーは基本的に「三国志演義」それも、史実とは異なる結末になる「演義」です。同時に「恋姫†無双」並びに「真・恋姫†無双」のキャラクターがあって、ここまで成立してきた物語です。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の44『天命選択』~決断す「外史」の分かれ道~蜀軍の本営。その中央の天幕。当然のように、桃香と一刀が一緒に寝ていたり、阿斗の「ベビーベット」があったりするが、それだけに、入り口には「五虎大将」の誰かが交代で頑張っている。それなのに、何者かが北郷一刀をそっと、隣りの桃香を起こさない様に起こした。「お前」見覚えのある謎の美女。「2人切りでお話しするには、こうでもするしかないわよね」「そいつは理解できるが、何の話なんだ」… … … … … 「貴方ならお分かりでしょう。もうすぐ大きな分かれ道が来るよねん」「確かに「赤壁」は、劉備軍が曹操を倒す唯一のチャンスだったろうな。「正史」通りだったならな」「そうねん。でも「正史」ではそうならなかったわねん」「ああ、孔明とかが、なぜ見逃したと色々言われているが、結局、あの時の劉備軍では力不足だったんだろう」「でも「今」はどうかしら」「そうだな。“蜀”の一番充実した時点での勢力になってしまっているな」「貴方がそうしたのよん。「天の御遣い」様が」「つまり、この「赤壁」で曹操を倒す事が出来ると」「そう、そのまま天下を取る事すら可能性があるわねん。それとも、こうなると思わずにやったのん」一刀は思わず考え込み、そして口を開いた。「いや、思わなかったわけじゃない。でも、俺は「天の御遣い」をやる決心をしてから心のどこかで思っていた」俺は「三国志」で、劉備たちの悲劇を知っている。でも、桃香たちをそうしたくないから、だから、先輩…曹仲徳には暴走といわれようと、“歴史”に介入して来た。「だったら、このチャンスを見逃す事は、今までの俺がやって来た事を否定するだけだ」「そうよねん。そして、それは今、思い付いた事じゃないわよねん」「そうだな」俺は、変な言い方だけど、ある意味でタカをくくっていたかもな。あの先輩が曹操の側に付いている限り、曹操の方だって、俺の知っている通りの失敗をするとは限らないと思っていた。しかし、その先輩が……「そうねん。仲徳ちゃんの側からすると最悪のタイミングで、1時的にしろ戦線離脱。これで貴方は…」「そうだ。本当に「天の御遣い」の様に大きな力を持っている。このタイミングなら俺は…」「その力をどう使うかは、貴方にしか決められないわよん。本当の意味でね。だから、後悔しないで欲しいの」「責任がどうとかは言わないのか」「それも含めてよん。それも分からないほど、おバカでは無いわねん」それでも、一番大事なことは、貴方が後悔しない事よん。結局、それしか貴方には出来ないんだから。・ ・ ・ ・ ・その翌日、一刀は蜀の軍師たちに確認した。呉軍の動きについてである。「苦肉の策」の際の一刀の態度も手伝って、彼女たちは呉軍の特に、祭の周囲に注目していた。ただし、魏側の間者の注目を引かないよう慎重に、だった。その結果、祭が魏に投降しようとしている可能性をつかんでいたが、一刀は黙殺させていた。「おそらく、今夜にも黄蓋さんが脱走します」「ところが、周泰さんが周瑜さんにその事を報告した形跡があるのに、止めようとする動きがありません」「しかし、呉軍全体の動きは急にあわただしく成り始めました」「いよいよだな」一刀は同志たちを見回すと、語り始めた。「まず、朱里や雛里は、どんなふうに結論付けているんだ?」「おそらく、全てが周瑜さんの計略だった。それでつじつまが合います」「おそらく、黄蓋さんは脱走と見せかけて、魏軍を奇襲するつもりでしょう」「その通りだ。これは、呉軍が勝負を賭けた「苦肉の策」だったんだよ」「ご主人様はご存知でしたか?」何人かがそう言ったが、桃香はそのつぶらな瞳でじっと見詰めていた。「この策が魏にばれたら、蜀のためにもならない。だから俺も口に出さなかった。しかし」ここでもう1度、同志たちを見回す。「それだけではないんだ」「もしも、俺の知っている通りになったら」この戦いで曹操は、最大のピンチ、いや、危機におちいる。逆に言えば、曹操を倒す最大の好機になる。それが何を意味するか……「三顧の礼」の時に言ったよな。「もし、この時代において人々を救いたいなら、自分がその1人になるしかないでしょう。」幾つもの小王国をたてる群雄の中の1人。おそらく、それらの「王国」が3つ程にも淘汰されれば、一時は天下も安定するでしょう。その「三分」のうちの1人。そして「三分」もいつかは、ただ1人によって統一されるでしょう。その最後の1人。「その1人となる「英雄」にしか、結局は多くの人々は救えません」その最後の1人の英雄が曹操となるか、それとも劉備玄徳となるか、その「歴史」の分かれ道なんだ。だから、そのつもりで選択して欲しい。とりあえず「天下三分」で安定させればいいのなら、呉軍から文句が出ない程度に協力して、曹操を見逃してやればいい。だが曹操を追撃するなら、桃香を後漢王朝に取って代わる新しい帝王にする覚悟で、曹操を倒すまで追撃するべきだ。その唯一の好機かもしれないんだ。――― ――― ――― 人は知らない「名山」「貴女は本当に確信犯ですね」「まったくだ。これでは俺たちまでが道化だ」「そうですね。あのイレギュラーが、この「外史」を改変するためのお手伝いをした結果になっていますね」「いいじゃないの。何が正義で、何が悪なんて「正史」でも決められない事よん」「ほう、面白い見解ですね」「だから、誰も、自分が後悔しないようにやっていくしかないでしょうん」「だから、私たちが後悔するのは「正史」を改変された時です。貴女はそれを引き起こそうとしている」「あらあら、殺気満々で物騒ね」――― ――― ――― 数瞬の沈黙。その中から愛紗が立ち上がり、まず桃香に膝をつき、そして北郷一刀に深々と礼をした。「ご主人様。いえ「天の御遣い」様」貴方さまが私どもの前に落ちて来られたのは、間ちがいなく、私どもの天命でした。まさしく、“この”「天のお告げ」をお待ちしておりました。同志たちが次々に、愛紗に続いた。「みんな…」桃香は、ほとんど涙目になりながら仲間たちを見回すと、一刀の手を握り返した。「これからも一緒ですね。“私たち”がどうなっても、いつまでも」――― ――― ――― 呉軍は出撃を急いだ。先陣は、もちろん、降伏を偽装した祭の火攻船団。その後方から、奇襲を覚(さと)られない程度に離れて、孫呉水軍の主力が追走する。総帥である冥琳が陣頭に立ち、全軍での出撃である。軍師や文官である穏や亞莎、あるいは魯粛たちのみを本営に残し、明命や瑪瑙etc.…ほとんどの武将が出陣する。さらに主君である蓮華も思春らとともに、来援の要請に応えていた。その出撃準備で大騒ぎ、あくまで対岸の魏軍に知られないように静かに大騒ぎの最中に、シャオが現れた。・ ・ ・ ・ ・「シャオを解放してあげて」そう桃香が言い出した。「貴女は、孫呉の姫として、自分が後悔しないように選択すればいいのよ」貴女のお姉さんに天下を取らせたくても、それは貴女にとっては当たり前の事なんだから。・ ・ ・ ・ ・「何と?この火攻めを利用して、曹操の首を横取りするつもりですと」(…そのつもりなら、なぜ小蓮様を解放した?あの「伏竜鳳雛」が…)何のウラがある?まさか、こちらがこの情報にあわてて、今さら作戦をやり直す事を狙って何かを企(たくら)んで?いや、ならば、このまま押し切ってやる。このままでも、こちらが首を取れる好機はあるはずだ。「疑(うたが)いの心は、見えない筈の幽霊を生み出す」竜鳳の軍師はともかく、桃香や一刀は本当に「お人好し」なのだけど。――― ――― ――― 「ここは、呉軍の火攻が成功する事を前提として、追撃戦を実行します」「追撃部隊の1番手は、星さんが指揮してください」魏軍が火攻から抜け出した直後に、一撃を加えてください。それで退却する敵軍のしんがりは粉砕できるはずです。「承知」「2番手は鈴々ちゃんです」これだけ大規模な火攻が成功すれば、必ず雨が降ります。夜が明け、その雨が上がった時、敗走する軍はどうしても休憩を取るでしょう。その好機を狙えば、大打撃を与えられます。「お任せなのだ―!」「3番手ですが…」「愛紗はダメだ」北郷一刀は初めて「伏竜鳳雛」の作戦に口を出した。「愛紗は義理人情に厚く、強い者には強い分、弱い者には弱い」ボロボロになって敗走して来た曹操に泣き付かれて「千里行」の時の義理を持ち出されたら、愛紗だから弱い。「何を情け無き事を。わが心底をお疑いなら……」「誓約するからというなら、なおさらダメだ」朱里たちは軍規にはきびしいんだぞ。愛紗を斬らなきゃならなくなるじゃないか………桃香に天下を取らせるためだ。ここは翠とかに譲(ゆず)ってくれないか?「ご主人様?翠ちゃんは……」桃香ですら一刀の意図に気付いて、目を見張った。「アタシなら、曹操に恨みこそあれ、義理はないからな」「あわ…分かりました。翠さんと蒲公英ちゃんは、華容道に先回りしてください」「はぅ…おそらく、曹操さんは江陵へ退却しようとするでしょう。そうなれば、この近くを通る可能性が高いです」しかし、ここでは2本の道しかありません。華容山を越える細道に崖崩(がけくず)れでも起こしておけば、その華容山と雲夢沢に挟(はさ)まれた1本道しかなくなります。尚もスネる愛紗を、桃香と鈴々がなだめていた。(…そうだ)「愛紗にも大事な役目を頼みたいんだが」適当にごまかしてはいないよ。この作戦は、呉の火攻が成功する事を前提にしている。呉の黄蓋にとって、成功した場合ですら危険な任務だ。(「正史」の黄蓋も成功と引き換えに、自分は返り討ちに成りかけたしな)その黄蓋の支援だよ。「火攻が成功しなければ、追撃戦そのものが成立しないんだから」やっと納得したようだった。(…やってしまったな…)「歴史」を本当に変えちまった。劉備いや桃香に天下を取らせて、この「天の御遣い」はその後で、どう責任を取って行く事になるんだ。いったい?「天の御遣い」が「天下」を取って、どう責任を取るのか?その意味を思い知るのは、この戦いの後になる。--------------------------------------------------------------------------------果たして、この「歴史」は、いったい誰を次の「皇帝」に選ぶのでしょうか?それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の45『赤壁水火(前編)』~百勝して不覚あり~の予定です。