あらかじめ、注意いたします。この作品は一応R15指定作品ですが、今回は最悪の場合、R18とかR21とかと、紙一重の作品になる危険性があります。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の43『苦肉之策』~赤壁へのCountDown~長江の北岸、烏林。曹魏軍は着々と陣地を建設していた。軍中に病兵が続出して、これ以上の進撃が困難になっているとは、そのために労働力が不足しているとは、思えないほどの強固な陣地だ。流石は、官渡では「孫氏」よりも「墨子」の如く戦った華琳だけはある。もっとも「孫氏の兵法」も「軍形篇」では、こうも言う。勝機でなければ守備。勝機ならば攻撃せよ。余裕がなければ守備。余裕があれば攻撃せよ。名将は守備ならば、まるで地底に隠れるようであり、攻撃ならば、天上を動くように動く。・ ・ ・ ・ ・水上に関しても手抜きは無い。ただし、華琳たち曹魏軍の主力には、水軍がこれまで無かった。接収した荊州水軍を信任するしかないのだが、なる程、蔡瑁・張允たちは旧劉表軍閥の実力者だけあって、水軍の指揮では有能だった。ただし、水軍とか軍船を守備に利用した場合の常套(じょうとう)手段とはいえ、大型艦船を鉄の鎖でつないで、烏林の岸辺を封鎖した事が、実は災厄を招待するのだが……――― ――― ――― これが「演義」だと、鳳統が「連環の計」で暗躍するのだが、やはり創作だったようだ。「雛里にわざわざ、間者の真似をしてもらうまでもなかったな」北郷一刀は心中で思った。なまじ大軍だと、しかも降伏させたばかりの軍が混じっていると、隠しきれない情報もある。曹魏軍が烏林で停止している事、そしてその原因は、呉蜀連合軍に結局は突き止められた。しかし「真相」がこんなものだったとは。確かに、予防注射やらワクチンやらを子供のころから接種させられて育っていては、かえって気付かなかっただろう。「だけど「この」世界には、華佗先生がいるはずなんだがな?」――― ――― ――― もち論、華佗個人では出来る事、変えられる事にも限界がある。まして、医学と方術が分離もしていない時代なのだから。そうなると「五斗米道」という組織機関を「バック」にしている事で、より多くの患者を救えるという事になる。未分離の時代なら、むしろ教団であることが有利だった。実際「五斗米道」では、華佗の指導の下、青カビを培養して“ぺにしりん”を生産しようとすらしていた。――― ――― ――― ほぼ、蔡・張の水上陣地が出来上がったころ、朝霧にまぎれて接近する小規模な船団があった。偵察や遊撃、大型艦船の護衛などに多用される快速船、後年いうところの駆逐艦か、が20隻ほど。まさか、孫呉水軍の総帥が自ら敵状を、自分の目で確かめに来るとまでは見抜けなかっただろうが、防御にはぬかりも油断も無かった。20隻の「駆逐艦」はまるで海栗(うに)のようになるまで、矢を浴びせられた。… … … … … 無論、冥琳とて、水上陣地の防御力をなめてなどしていたら、そもそも偵察にもやって来ない。20隻それぞれの両舷側には、ワラ人形をズラリと並べて乗せて来た。そうして置いて矢を受け止めたが、その人形も20隻の「駆逐艦」全体も海栗になっていた。――― ――― ――― 許昌に足止めされていた曹仲徳は、ほとんど華佗に泣きつかんばかりだった。「先生が医師に徹底して、“歴史”に干渉しないようにしている事は分かっています」しかし、先生も分かっているでしょう。このままでは「赤壁」です。魏の兵士にとっては、虐殺です。「病人が居れば、医者は行くよ」元々、学生の経験しかない一刀と異なり、成人で医者だった華佗には「赤壁の真相」について心当たりがあった。「“五斗米道”医師団」を引率して出発して行った。無論、仲徳は華佗だけを頼るつもりは無い。執金吾の職権で、何騎もの使者を派遣していた。「呉の降伏。あえて個人名を上げれば、この人物の降伏は絶対信じるな。罠だ」とかいった密書を持たせて。ところが、その行く手には白装束の謎の襲撃者が待ちかまえていた。――― ――― ――― 「使い物になりそうな矢だけでも、10万本は進呈してもらった」などと冗句を飛ばしながら冥琳は帰還してきたが、しかし、心中には決意するものがあった。… … … … … その冥琳を密かに訪問するものがいた。孫呉の先々代、水蓮以来の譜代の宿将、黄蓋(真名祭)である。「冥琳どの。心中で決心している事があるであろう。儂(わし)では、打ち明けられんか?」「祭どの程の宿将ならお分かりであろう。あの敵陣には1つの手しかない」火砲が発明されていないこの時代、戦艦の艦砲射撃で敵艦を撃沈する、という形式の艦隊決戦などは存在しない。したがって、冥琳や祭も思い付きもしない。この時代の水上戦といえば、敵船に乗り込んで切り合い、占領する。あるいは船そのもので体当たりする。そのどちらかだ。どちらにせよ、接近する事が前提であり、接近する前に海栗では水戦自体が成立しない。「火攻めしかない」幸い、この時代なら当然だが、木造船であり、しかもそれならば、わざわざ密集するだけではなく、互いに逃げられない様にしてくれている。「だが、それでもある程度は、敵をあざむいて近付かなければ成功しない」だます相手があの曹操だからな。何か策は無いか。それを思っていた。「では、何故みなに、特に軍師である穏や亞莎に相談しない?」「実は1つ策はあるのだが、余りに汚い手なのだ。誰なら泥を被ってもらえるか……」「ならば、なぜ儂には“ここ”まで打ち明けた?」むしろ、慈母のような微笑だった。… … … … … その夜、孫呉水軍および来援した蜀軍も招待して、軍議が開催された。だが、冥琳の偵察した結果が報告され、従来の水戦の攻撃法が成立しないと言われて座がざわめき始めた。「話がちがうであろう。蓮華様の御前では、いったい何を大言した」「ちがわん。必ず敵は撃滅する。ただし、いささか策が必要になった。それゆえの軍議だ」「何を今さら。これではまるで、張子布どのの方に理があった様ではないか。お主は主君をたばかったのか」「聞き逃せん。祭どのこそお分かりであろう。今の発言が軍規に抵触する事を」「ほう、軍規をたてに、相手の口を封じるか?えらくなったものだな」「今は私が、蓮華様からこの軍を預かっているのだ。それゆえの軍規ではないか。撤回なされないなら…穏。亞莎」「ふぁい」「は…はっ」「この場合、軍規ではどうなっている」ガチガチに適用すれば、晒(さら)し首である。しかし、どう見ても、ただの、いや、くだらないケンカでしかない。孫呉軍の同席者たちは、もはや軍議より仲裁に必死になった。しかし、当事者同士が聞く耳を持たない。「斬れるものならやってみろ」の態度の祭もなら、あくまで総帥の権威を振り回す冥琳も冥琳だった。… … … … … 「いいだろう。晒し首は許してやる。だか、ここまできては、兵士どもに示しがつかん。ムチ撃ち200の判決を下す」本営の近くの兵士を集合させて演説を行うための広場に、少し離して2本の柱というか杭(くい)が立てられ、その中間に両手、両足を広げるようにして祭が拘束された。その衣装が破り捨てられる。そして、ためらう係の兵士に癇癪(かんしゃく)でも起こしたか、冥琳がムチを取り上げて自分で祭の背中に回った。…以下自粛。R15指定作品が、R18とかR21とかと、紙一重の作品になる危険性があります。… … … … … 「…199…200…ふぅっ……これで、1昼夜、軍規の通りに晒(さら)す。手当ても休息もその後だ。これが軍規だ」――― ――― ――― この間、蜀軍の面々はどうしていたか?まず、愛紗が憤慨して冥琳に抗議しようとしたが、まず一刀が、続いて桃香、さらには朱里と雛里が加勢して、結局は説得されてしまった。しかし、もう軍議にもならないという事で、自軍へ引き揚げてしまった。… … … … … 「いったい、何をお考えか」こんどは、一刀たちに憤慨する愛紗だったが、「はわわ…もう大丈夫ですよね」「何が大丈夫なのだ」「呉のみなさんに、私たちのしゃべっている事が、聞かれないという意味です」「桃香様は、何かにお気付きでしたか?」「私はご主人様に加勢しただけなの。でも、ご主人様は、何かを決心していた事だけは分かったけど」「俺は確かにある事を知っている」ただし、それはこの戦の勝利。いや、それだけでなく「三国」の運命にかかわる秘密なんだ。決して、大げさでも、勿体(もったい)をつけている訳でもないよ。――― ――― ――― 深夜、冥琳はある1人だけと密談した。「明命。私は呉のため、蓮華様のために、そのご主君や戦友までも、今回はだまさなければならない」それでも、この策を成功させねば、祭どのの忠誠を、それこそ無駄にする。そのためには、私は、祭どのと、このまま憎み合っている事にしなければならない。直接に連絡を取って、策を進めることが出来ないだけでなく、明命が両方に出入りしている事も隠さねばならない。「困難な役目だが、他に頼めるものがいない」明命の「忍者もどき」の活躍ないしは、暗躍の開始である。――― ――― ――― この騒動は孫呉内部に動揺をもたらし、元々、曹魏側とすでに連絡を取っていた、降伏派の1部が祭に接近するとともに、この「内情」を曹魏側に通報する結果をもたらした。・ ・ ・ ・ ・あれほど「人を致して人に致され」なかった、華琳と側近たちがこの「苦肉の策」にかかったのは、それほど、曹魏軍の「病状」が深刻だったのか。それとも「戦わずして…善の善」の好機と思ったか。いずれにせよ、具体的な「脱出方法」のうち合わせに入ってしまい、祭の回復を追いかけるように、具体化されていった。――― ――― ――― 華佗が引率する「“五斗米道”医師団」の周辺には、謎の紙人形が散らばっていた。謎の白装束の1隊に襲われたと思えば、どこかで見覚えのある謎の美女が現れ、舞うように白装束を蹴散らすと、後は、この光景だった。「まあ、礼は言わないといけないだろうが」「それよりも、火傷の手当ての準備でもしておいた方が良いわよん。感染症よりもねん」そう、すでに「赤壁」は時間的に目前だった。――― ――― ――― 祭は曹魏軍とのうち合わせ通りに「脱出」の準備を整えた。実は、冥琳と明命とのうち合わせ通りの準備を整えた。・ ・ ・ ・ ・この段階になって初めて、冥琳は孫呉軍に「真相」を明かした。具体的な出撃命令とともに。正確には、作戦計画を立案し、具体化して準備を整える軍師の穏や亞莎はその時間だけ前に打ち明けた。その他の、実際に出撃する武将には穏や亞莎の立てた作戦と同時だった。もはや、出撃直前である。「すまない。だが、これで曹操も気が付く時間が無いはずだ」「蜀軍にも通報」そう、冥琳からはこのとき通報された。“戦後”の荊州占領について、出し抜くつもりも確かにあったが、しかし、この時、蜀軍も同時に軍議を開いていた。――― ――― ――― 長江の北岸、烏林。荊州水軍の守る岸辺から陸地に入った、曹魏軍の本営。その本営の中央にそびえる楼閣上に、華琳の姿があった。天才詩人でもある彼女は歌っていた。後年「魏武」の代表作とされる「短歌行」と題する即興詩である。華琳は歌う。その姿は「人間五十年」を舞う、織田信長を連想するかもしれない。華琳は歌う。酒盃を手に、高ぶる感情を。おのれの覇道を。そう、彼女の最大の「叙事詩」は「クライマックス」へ向けて、“カウントダウン”を続けていた。――― ――― ――― 呉軍の出撃に合わせて、蜀軍も軍議を持った。その席上、北郷一刀は「天の御遣い」だけが知る事のできる「決断」を迫られていた。この時「歴史」が動こうとしていた。--------------------------------------------------------------------------------近付いてくる「赤壁」ですが、それを前にして、ある「決断」がされます。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の44『天命選択』~決断す「外史」の分かれ道~の予定です。