今回は、どちらかといえば日常編に近くなると思います。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の29『人物交差』~人とは出会うもの~連合軍は撤収した。撤退ではない。目的を達成しての撤収である。袁術陣営はもはや再起不能だろう。淮南の領土は連合軍の分け取りになる。その分配も含めての協議は、朝廷を大義名分とした曹操の主導で1段落した。――― ――― ――― 「やむを得ないな」元々、現在の勢力圏の実効支配を正当化する「名分」の確保が優先目的だった。その点に関しては曹操に確約させた。雪蓮には、漢朝廷から任命された正規の将軍職と楊州会稽郡太守。冥琳にも、隣の郡太守職が用意された。他の長江以南、荊州長沙郡の隣より東の各郡の太守も、孫呉からの推薦とされた。雪蓮や冥琳としては、これで満足するしかない。さらに、長江下流の北岸での占領地は既成事実として認めさせた。恋もまた(音々音が代弁して)徐州州牧を要求したが、将軍職でとりあえず引き下がった。州牧については継続交渉となった。――― ――― ――― 蜀軍にいたっては、現在の拠点から遠い淮南での「飛び地」など欲しくない。そもそも「官命」で引っ張り出された戦いである。さっさと、成都に帰りたかったが、「益州州牧および荊州での太守代行について、朝廷に報告されたし」という「官命」を持ち出されては、許昌まで付いて行くしかなかった。「ところで、袁術はどうなったんだろう?」――― ――― ――― 「あ…貴女様は、綾羽(あやは)さま」袁一族の1人で、袁紹(麗羽)の推薦で青州州牧になった人物だった。「では、ここは青州なのですか」――― ――― ――― 曹魏軍とともに許昌に到着した蜀軍の兵士には兵営が、主だった面々には邸宅が提供された。どう見ても、長期滞在を前提としているように見える、というのは深読みだろうか。――― ――― ――― 「ふぎゃあ~~ん」麗羽は自分の手が真っ赤になるまで、妹のお尻を叩き続けた。私室などではない。袁家の部下だけではなく、許昌からの使者までがそろった公式の場である。その上で「芝居」でも何でもない美羽の大泣き顔を、使者に突き付けた。「お分かりになりまして?華琳さんには、しっかり伝えて下さいましね」――― ――― ――― 桃香が皇帝に拝謁している間、北郷一刀は曹仲徳と密会していた。・ ・ ・ ・ ・「まったく、こういう機会でもないと、この「バカップル」どもは単独行動してくれないからな」「先輩、真面目な話じゃなかったんですか?」「真面目な話だよ。蜀には今、主君が2人いる」本来なら、そこに付け込んで分断を狙うのが、乱世の常識だがな。「バカップル」では、付け込む隙がない。「先輩。本気でそんな話だけですか?」「ああ、そういえば、河北からの使者の件は聞いただろうな」古来、中国人は家族主義である。姉妹には変わりない以上、麗羽が美羽の首なり、身柄なりを引き渡しても不人情の評判が立つだけだろう。だから「船頭が多くして船が山に上がる」ほども居る部下たちも、今回は主君の感情のままにさせた訳だ。「桂花などは一応、麗羽さんに仕えている妹を通じて、ウラを取ったがな」「ウラもヒネリもないでしょう。この場合」「華琳姉さんの結論もそうだった。それに、これ自体は脅威とはならないとも、読んだ」警戒していたのは、淮南に拠点を持つ袁術陣営が、河北の最大勢力と連携する事だったからな。淮南の拠点も勢力も壊滅した現在、1人や2人の亡命者が逃げ込んでも、大して変わりがない。「袁紹陣営が最大の脅威だという点も含めてだがな」「俺なんかに、そんな事をペラペラしゃべるんですか」「状況を理解して欲しいからさ。北郷なら知っているだろう。今が劉備と姉さんとの関係で、微妙な時期だって事は」「知っています。曹操と劉備が一番接近していた時期」しかし、今の桃香の立場は、俺たちの知っていた「この」時期の劉備とは違う。「暴走したからな。どこかの「天の御遣い」が。おかげで、余計、微妙な問題になっているじゃないか」「それで、具体的にはどうしろと?」「とりあえず、陳登には近付くな」陳登徐州州牧、陶謙の部下の中ではエリート官吏であり「名士」陳老人こと陳珪の子。「正史」の陳親子は、陶謙の遺言で傭兵隊長だった劉備を領主に迎(むか)えようとするが、残念ながら「孔明なしの劉備」では、呂布や曹操には勝てなかった。それでも呂布に対しては、何とか劉備を「徐州領主」に復帰させようと、あれこれと親子で暗躍する。こんな陳登を曹操への使者に送って、徐州州牧に就任しようとした辺りが、戦争以外での呂布の限界だったろう。「そうか。今の時期ですからね。陳登が許昌に来ているんですか。それで、どちらです?」「まあ「この」世界だから、当然の疑問だろうが、劉備がいるだろう。それとも、昔の中国だから、後宮でもつくるのか?」…冗談はさておいて「先輩の心配は、桃香と陳登が出会ったら、徐州を狙われるという事ですか?」今の桃香は「当時」の劉備の立場と大違いですよ。淮南での「飛び地」だっていらないんです。徐州なんて、もっと蜀から遠いじゃないですか。「徐州での骨折り損を“スルー”して蜀の「国づくり」が出来て、せっかく、うまくいったと思っているのに」… … … … … しかし、この件に関する限り、この密会は手遅れだった。そして、華琳の策謀力は、流石に曹操というべきLVだったのである。――― ――― ――― 現在、商談中。片や、初期の「義軍」に投資して大当りした張世平。商談の相手は徐州の糜竺。糜竺子仲徐州でも有数の豪商であり「名士」でもある。陳親子らとともに、劉備を徐州に迎えるが、結果として、曹操に徐州から追い出された劉備に蜀まで付いて行く。劉備の「妻子」が呂布に殺された時には、自分の妹と結婚させたほど深入りしている。「弟」の糜芳の方はこの「深入り」には、不満だったらしく、後に悲劇の原因となる。――― ――― ――― 拝謁を終えた桃香と一刀は、許昌の街中に出ていた。正直、成都だと、政務と書類が追いかけて来る。しかし、この許昌では「お客さん」だ。おかげで“でえと”の時間と余裕がつくれる。それで、何で?幼女(と言うと怒る)とトラとパンダが付いて来るんだ。そりゃ、確かに、劉備に孫尚香が懐くのはあるだろうけど、「この」劉備は桃香なんだぞ。おまけに、何故かこちら、つまり一刀にも懐いていた。それでも、にぎやかな街中を、女の子連れで歩くのは楽しい。ただ、ときたま「この」時代にあると想像していた、というより「天の国」で見覚えのある商品に出会うが、その度に「あの先輩」の「やれやれ」が聞こえる気がするのは、多分、気のせいだろう。… … … … … しかし、最も呆れるのは、もはや堂々と“こんさあと”を開いている事だろう。『数え役萬☆しすたぁず』――― ――― ――― 華琳は、南陽郡城で捕らえた役萬姉妹の首を、当時の帝都だった洛陽には送らず、すでに拠点としていた、ここ許昌に監禁していた。それを咎(とが)めるべき朝廷は、その後、それどころではなくなってしまったが危なくなかった筈がない。そうまでして彼女たちを手中にしておいた理由は、今や明らかだ。元々「正史」でも、曹魏軍は「青州兵」すなわち、元黄巾の降参兵で兵数を増強、いや膨張させている。その目的のためなら、彼らの「アイドル」を利用した方が効率がいい。現に、今日も「青州兵」で「満員御礼」である。しかし、こうなってみると『しすたぁず』は、やはりただの「アイドル」でしかない。そうなると「あの」黄巾の乱の主謀者と言うか、黒幕が他に居そうだが。実際、南陽郡城の戦いの後も、兵数なら「主力」といえる賊軍が皇甫嵩将軍とかと戦い続けた後、壊滅している。その時に、主謀者らしきものの首が何人か上がっているが、行方不明になった者もいる。どうやら、その行方不明の主謀者らしきものの1人が、“あの”済成みたいだという情報もある。まあ、いくら、あの「成り済まし」でも「あれだけ」念入りに呂布に殺されているなら、もう暗躍も出来まい。――― ――― ――― ともあれ、女の子アイドルのコンサートは、他の女の子を連れた「デートコース」には不適当だろう。もっと「デートコース」らしきものを探して、とある飯店に入ろうとしたが。「おや、主どの」何故か、卓上に山盛りになったメンマと、相席している「太陽の塔」を乗っけた「お昼寝娘」と、なぜか鼻を押さえている「メガネっ娘」を見て、別の店にするつもりになった。いや、別に悪いものを見たわけでもない。公孫軍の客将になる前というか、曹操に仕える事になる2人が「潁川名士グループ」に呼び戻されるまでは、3人で見聞の旅をしていたとは聞いていた。だから別に、同席してもかまわなかったのだが、なんとなく、これ以上に女の子が増えるのが、気恥ずかしいような気がしただけだったが。――― ――― ――― 「お帰り。子瑜(しゆ)」諸葛瑾は「呉」に帰り着いていた。主筋のシャオを置いて戻る事になってしまったが、出発時の宣言通りに戻って報告しなければならなかった。流石に分かれる際には、妹と名残を惜しんだ。――― ――― ――― 「おや?そちらも「両手に花」ですかな」新たに入った飯店で隣の卓に来たのは、確かに男1人に女の子2人だった。ただし「デート」らしくは、どうも見ても見えないが。おまけに、もう1人やって来た。しかし「ダブルデート」とかには、いよいよ見えない。それに、やってきたのは張世平だった。当然、張世平がお互いを紹介する。しかし、(…陳登に糜竺に孫乾だって。orz…)孫乾公祐糜竺とほぼ同時期に劉備に仕えた。外交官として有能。孔明が来るまでは糜竺、孫乾、簡擁が劉備陣営における文官トリオだった。(…先輩。ご忠告ありがとう。そして無駄でした…)--------------------------------------------------------------------------------すみません。出来れば「拠点イベント」を書きたかったのですが、そういった「甘~いプロセス」を書くには、自分の文章が乾燥している事を思い知りました。無念!です。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の30『兵詭道也(へいはきどうなり)』~戦争とは騙(だま)し合い~の予定です。